(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
[全体構造]
グランドピアノの全体構造について説明する。
【0014】
ここで
図1は、本実施形態のグランドピアノが備えるアクション及びハンマーの正面図である。
尚、以下の説明では、左右方向、前後方向という用語を用いることがあるが、これらはそれぞれグランドピアノを演奏する演奏者からみた左右方向(
図1の紙面に垂直な方向)、及び、この演奏者の前後方向(
図1の紙面の左右方向:図中、矢印で示す方向)を意味する。
【0015】
グランドピアノは、演奏者から見て左右方向に並べられ多数の鍵からなる鍵盤を備えている。
各鍵は、演奏者の前後方向に沿って長尺に形成されており、その長手方向の略中央で棚板上の筬に立設されたバランスピンを中心として、揺動可能に支持されている。
【0016】
そして、
図1に示すように、各鍵1の揺動中心よりも前方側の上方には、アクション2が配置され、さらに上方にはハンマー3が配置され、このハンマー3の上方に弦Sが張られている。
[アクション2]
アクション2は、ウイッペン20、ジャック21およびレペティションレバー22を主に備えている。
【0017】
ウイッペン20は、前後方向に沿って延設され、前方側の端部がウイッペンフレンジ20aに回動可能に支持されている。
このウイッペンフレンジ20aは、上下方向に沿って延設され、左右方向に間隔を隔てて配置された複数のブラケット10(
図1では1つのみ図示)に渡されたウイッペンレール11にねじ止めされている。
【0018】
また、このウイッペンフレンジ20aには、その上端部に、二股状の左右2つの腕部20b(
図1では左側のもののみ図示)が設けられている。
ウイッペン20は、その前端部を両腕部20b間に挿入し、これらウイッペン20の前端部と両腕部20bにセンターピン20cを左右方向に沿って水平に通すことで、このセンターピン20cを中心として、ウイッペンフレンジ20aに対し揺動可能に支持される。この際、センターピン20cはウイッペン20に対しては固定されるが、両腕部20bには、センターピン20cを通すピン孔20aaが形成されるとともに、このピン孔20aaには円筒状に形成された軸受部材20abが取り付けられ、センターピン20cは、この軸受部材20abに対して回動可能に支持された状態でピン孔20aaに通される。
【0019】
また、ウイッペン20は、前後方向の中央部に、下方に突出するヒール部20dを備えている。ウイッペン20は、このヒール部20d、及び、鍵1の後部に設けられたキャプスタンスクリュー1aを介して、鍵1上に載置されている。
【0020】
また、ウイッペン20は、後端部に、ジャック21が接続されている。
ジャック21は、上下方向に延びるハンマー突上げ部21aと、その下端部から前方にほぼ直角に延びるレギュレーティングボタン当接部21bとにより、側面形状がL字状に形成されている。
【0021】
ウイッペン20の後端部には、二股状の左右2つの腕部20f(
図1では左側のもののみ図示)が設けられ、これらの両腕部20f間にジャック21の角部が配置され、これら両腕部20f及びジャック21の角部にセンターピン21cが左右方向に沿って水平に通されている。これにより、ジャック21は、センターピン21cを中心として、ウイッペン20の後端部に回動自在に支持されている。この際、センターピン21cはジャック21に対しては固定されるが、腕部20fには、センターピン21cを通すピン孔20faが形成されるとともに、このピン孔20faには円筒状に形成された軸受部材20fbが取り付けられ、センターピン21cは、この軸受部材20fbに対して回動可能に支持された状態でピン孔20faに通される。
【0022】
また、ハンマー突上げ部21aの上端部は、レペティションレバー22の後述するジャック案内孔22bに挿入されるとともに、レペティションレバー22上に載置された後述するシャンクローラ36と若干の間隔を存して対向するように配置される。
【0023】
さらに、ジャック21は、後述するレペティションスプリング24によって、復帰方向(
図1の反時計方向)に付勢されている。
レペティションレバー22は、斜め後ろ上がりに前後方向に延び、ウイッペン20の前後方向の中央部から上方に向かって突設されたレバーフレンジ部20eに支持されている。
【0024】
このレバーフレンジ部20eの上端部には、二股状の左右2つの腕部20g(
図1では左側のもののみ図示)が設けられている。
これらの両腕部20gの間には、レペティションレバー22の略中央部が配置され、これら両腕部20g及びレペティションレバー22にセンターピン22aが左右方向に沿って水平に通されている。
【0025】
これにより、レペティションレバー22は、センターピン22aを中心として、レバーフレンジ部20eの上端部に回動可能に支持されている。この際、センターピン22aはレペティションレバー22に対しては固定されるが、両腕部20gには、センターピン22aを通すピン孔20gaが形成されるとともに、このピン孔20gaには円筒状に形成された軸受部材20gbが取り付けられ、センターピン22aは、この軸受部材20gbに対して回動可能に支持された状態でピン孔20gaに通される。
【0026】
また、レペティションレバー22は、レバーフレンジ部20eに取り付けられたレペティションスプリング24によって、復帰方向(
図1の反時計方向)に付勢されている。
さらに、レペティションレバー22には、その後部に、上下方向に貫通するジャック案内孔22bが形成され、上面のジャック案内孔22b付近に当接するシャンクローラ36を介して、ハンマー3が載置されている。
[ハンマー3]
ハンマー3は、シャンクフレンジ30、ハンマーシャンク31、ハンマーヘッド32を主に備えている。
【0027】
ここで、
図2は、ハンマー3の斜視図、
図3は、ハンマーシャンク31をシャンクフレンジ30に揺動可能に取り付けるための構造を示す分解斜視図である。
シャンクフレンジ30は、合成樹脂で構成されており、
図1に示すように、複数のブラケット10の間に渡されたハンマーシャンクレール12の上面にねじ止めされている。
【0028】
このシャンクフレンジ30は、
図2に示すように、前後方向に長尺な形状に形成されており、断面が矩形状に形成されている。
シャンクフレンジ30の前端部には、後述するハンマーシャンク31の両腕部31c間の寸法よりも左右方向に若干狭い幅を有する配置部30aが形成されている。
【0029】
この配置部30aには、
図3に示すように、左右方向に貫通するピン取付孔30bが形成されている。また、この配置部30aの前方側の下面には、ボタン30cが設けられている。
【0030】
次に、ハンマーシャンク31は、
図2に示すように、細長い棒状の木材で構成されており、その後端部は、左右方向の幅が後述する腕部31cの並び方向に他の部分よりも厚く構成されている。この幅が厚い部分をフレンジ部31b、その他の部分をシャンク棒部31aと以下呼ぶ。
【0031】
フレンジ部31bは、シャンクフレンジ30に取り付けられる後端部側が、二股状に形成されており、この二股を形成する部分を、以下、それぞれ腕部31cと呼ぶ。
そして、各腕部31cの後端には、左右方向に貫通したピン孔31fが形成されており、各ピン孔31fには、円筒状に形成された軸受部材31eが取り付けられている。
【0032】
また、フレンジ部31bのシャンク棒部31a寄りの下面には、シャンクローラ36が取り付けられている。
次に、ハンマーヘッド32は、
図2に示すように、シャンク棒部31aの前方側先端に固定して取り付けられている。
【0033】
このハンマーヘッド32は、ハンマーウッド32aとハンマーフェルト32bとを備えており、このうちハンマーウッド32aは、シャンク棒部31aに直接取り付けられ、シャンク棒部31aに対して垂直でかつ上下方向に長尺な形状に形成されている。
【0034】
ハンマーフェルト32bは、ハンマーウッド32aの上方側に取り付けられている。
以上のように構成されたハンマー3は、次のようにして組み立てられる。
まず、ハンマーシャンク31の両腕部31c間に、シャンクフレンジ30の配置部30aが位置するようにハンマーシャンク31を配置し、センターピン31dを、軸受部材31eの通し孔31eaおよびピン取付孔30b(
図3参照)に通す。
【0035】
すると、センターピン31dは、ピン取付孔30bに対して固定されるとともに、両端部が軸受部材31eに対し回動可能に固定される。
これにより、ハンマーシャンク31は、センターピン31dを介して、シャンクフレンジ30に回動可能に支持される。
【0036】
尚、このハンマーシャンクレール12の下方には、レギュレーティングボタン4が取り付けられている。
[動作]
以上の構成を備えるグランドピアノでは、鍵1が押鍵されると、ウイッペン20が、キャプスタンスクリュー1aを介して突き上げられることにより、センターピン20cを中心として上方に回動するとともに、ジャック21およびレペティションレバー22も回動し、レペティションレバー22を介してシャンクローラ36を押し上げる。
【0037】
さらに回転すると、レペティションレバー22の前方側の端部がボタン30cに当って押し下げられ、レペティションレバー22がセンターピン22aを中心に回動し、ジャック21の上端がシャンクローラ36に当たって、ジャック21がシャンクローラ36をさらに押し上げる。
【0038】
そして、ジャック21のレギュレーティングボタン当接部21bがレギュレーティングボタン4に当接し、ジャック21がセンターピン21cを中心に回転すると、ジャック21の先端に当接しているシャンクローラ36との当接が解かれる。
【0039】
すると、このジャック21とシャンクローラ36との当接が解かれるまでに勢いがつけられたハンマー3はさらに上昇を続け、ピアノ線からなる弦Sを打弦し、それによりピアノ音が発生する。
[軸受部材31e]
次に、本実施形態の鍵盤楽器で用いられる軸受部材31eについて説明する。
【0040】
ここで、
図4は、軸受部材31eの斜視図である。
本実施形態の鍵盤楽器で用いられる軸受部材31eは、
図4に示すように、2層構造に構成されており、センターピン31d(
図3参照)を通す通し孔31ecを有する筒状に形成された内層部31eaと、この内層部31eaの外側に積層され、筒状に形成された外層部31ebとを有する構造となっている。
【0041】
内層部31eaはテフロンフェルトで形成され、外層部31ebはメタアラミド繊維で形成されている。
内層部31eaを構成するテフロンフェルトは、外層部31ebを構成するメタアラミド繊維に比べ、摩擦に対する耐性(耐摩擦性)が強く、しかも、クロスやメタアラミド繊維に比べ、周辺湿度に対して膨潤し難い特性(湿度安定性)を有している。
【0042】
外層部31ebを構成するメタアラミド繊維は、内層部31eaを構成するテフロンフェルトに比べ、弾力性を有する。
このように構成された軸受部材31eは次のように製造する。
【0043】
この軸受部材31eは、平板状に切り出されたテフロンフェルトとメタアラミド繊維からなる布を積層する。
そして、これらテフロンフェルトとメタアラミド繊維からなる布とを積層したものの表面に針を繰り返し突き刺して、いわゆるニードルパンチを行い、これらテフロンフェルトを構成する繊維とメタアラミド繊維とをからめて、テフロンフェルトとメタアラミド繊維からなる布とを貼り合わせる。
【0044】
次に、このテフロンフェルトとメタアラミド繊維からなる布と貼り合わせたものを筒状に丸めて接着剤を外層面に塗布し、この丸めたものの軸方向の一端をピン取付孔30bの一方の開口から挿入して他方の開口から引っ張り出し、ピン取付孔30bから飛び出た部分を切断することで、軸受部材31eがピン取付孔30bに取り付けられる。
[本実施形態のグランドピアノで用いられる軸受部材の特徴]
本実施形態の軸受部材31eは、通し孔31ecを形成する内層部31eaと、この内層部31eaの外側に形成された外層部31ebとを有し、内層部31eaが外層部31ebに比べて湿度安定性を有するテフロンフェルトで構成され、外層部31ebが内層部31eaに比べて弾力性を有するメタアラミド繊維で構成されている。
【0045】
そのため、通し孔31ecを形成する内層部31eaが外層部31ebに比べて湿度安定性を有するテフロンフェルトで構成されているので、グランドピアノが置かれた周囲の湿度が変化しても、内層部31eaが膨潤しない。そのため、この軸受部材31eを用いると、シャンクフレンジ30に対するハンマーシャンク31のトルクが変化し難くなる。
【0046】
また、本発明のよると、外層部31ebが内層部31eaに比べて弾力性を有するメタアラミド繊維で構成されているので、センターピン31dに衝撃が加えられても外層部31ebで衝撃が吸収されるので、内層部31eaが変更することが防止される。そのため、この軸受部材31eを用いると、内層部31eaが変形した部分にセンターピン31dが引っ掛かる、いわゆる「ガタ」が生じることを防止することができる。
【0047】
軸受部材20ab、20fb、20gbも同様である。
[対応関係]
特許請求の範囲に記載された軸部は、本実施形態のセンターピン31d、20c、21c、22aに対応し、動作部材に対する支持部材は、ハンマーシャンク31に対してはシャンクフレンジ30、ウイッペンフレンジ20aに対してはウイッペン20、ウイッペン20に対してはジャック21及びレペティションレバー22がそれぞれ対応する。
(その他の実施形態)特許請求の範囲に記載された第1材料は、上述の実施形態に示されたテフロンフェルトに限定されるものではなく、第2材料もメタアラミド繊維に限定されるものではない。
【0048】
また、上記実施形態では、軸受部材20ab、20fb、20gb、31eを、メタアラミド繊維からなる布にテフロンフェルトを積層した材料を用いて構成したが、テフロンフェルトを積層する構成に代えて、外層部31ebに天然ゴム、合成ゴム、シリコンゴム等のエラストマーとして、それにテフロンを植毛し内層部31eaを構成したものでも良い。
【0049】
また、内層部31eaをテフロンで構成したが、外層部31ebに比べ、湿度安定性を有する材料で構成されていればどのような材料で構成されていてもよい。
また、外層部31ebをメタアラミド繊維からなる布で構成したが、レーヨン、ポリエステル繊維、ポリウレタン繊維、アクリル繊維、その他、内層部31eaに比べ弾力性のある繊維からなる布で構成すればどのようなものでもよい。
【0050】
また、本発明は、特許請求の範囲に記載された発明の趣旨に合致するものであればよく、上述の実施形態に限定されるものではない。
尚、テフロンは登録商標である。