特許第6017793号(P6017793)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6017793
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】マイクロチップ
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/00 20060101AFI20161020BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   G01N35/00 D
   G01N37/00 101
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-26005(P2012-26005)
(22)【出願日】2012年2月9日
(65)【公開番号】特開2013-164268(P2013-164268A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2015年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 俊
【審査官】 長谷 潮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−208183(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/123242(WO,A1)
【文献】 特表2007−502218(JP,A)
【文献】 特表2003−524145(JP,A)
【文献】 特表2008−501947(JP,A)
【文献】 特開2005−331410(JP,A)
【文献】 特開2003−230829(JP,A)
【文献】 特開2009−121892(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00−37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に形成された空間からなる流体回路を備えており、遠心力の印加により前記流体回路内に存在する液体を前記流体回路内において移動させるマイクロチップであって、
前記流体回路の内表面が、凹凸パターンからなる表面領域であって、前記液体の移動経路を制御する移動経路制御領域を含み、
前記液体は水を含み、
前記移動経路制御領域を含む前記内表面は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリブタジエン樹脂およびシクロオレフィンポリマーから選択される熱可塑性樹脂で構成されており、
前記移動経路制御領域を構成する凹凸パターンは、離間して平行に配列される複数のライン状突起からなり、
前記複数のライン状突起は、幅が50〜200μmであり、ライン状突起間の間隔が50〜200μmであり、
前記遠心力の方向と前記ライン状突起の長手方向とがなす角度は、0度超90度未満であるマイクロチップ。
【請求項2】
遠心力の印加により前記液体を前記流体回路内の領域Aから領域Bに移動させる場合において、前記領域Aと前記領域Bとの間に介在する領域の少なくとも一部を含むように前記移動経路制御領域が設けられる請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項3】
前記移動経路制御領域は、前記流体回路の底面に設けられる請求項1または2に記載のマイクロチップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA、タンパク質、細胞、免疫もしくは血液等の生化学検査、化学合成または環境分析などに好適に使用されるμ−TAS(Micro Total Analysis System)などとして有用なマイクロチップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療や健康、食品、創薬などの分野で、DNA、酵素、抗原、抗体、タンパク質、ウィルスもしくは細胞などの生体物質、または化学物質を検知、検出あるいは定量する重要性が増してきており、それらを簡便に測定できる様々なバイオチップおよびマイクロ化学チップ(以下、これらを総称してマイクロチップと称する。)が提案されている。
【0003】
マイクロチップは、実験室で従来行なっている一連の検査・分析操作を、小さなチップ内で行なえることから、検体および液体試薬が微量で済み、コストが低く、反応速度が速く、ハイスループットな検査・分析ができ、検体を採取した現場で直ちに検査・分析結果を得ることができるなど多くの利点を有している。
【0004】
マイクロチップとしては、流体回路(あるいはマイクロ流体回路)と呼ばれる、該回路内に存在する検体や液体試薬等の液体に対して特定の処理を行なうための複数種類の部位(室)とこれらの部位を適切に接続する微細な流路とから構成される流路網をその内部に備えたものが従来公知である(たとえば特許文献1)。このような流体回路を内部に備えるマイクロチップを用いた検体の検査または分析などにおいては、その流体回路を利用して、流体回路内に導入された検体(または検体中の特定成分)やこれと混合される液体試薬の計量(すなわち、計量を行なうための部位である計量部への移動)、検体(または検体中の特定成分)と液体試薬との混合(すなわち、これらを混合するための部位である混合部への移動)、ある部位から他の部位への移動などの種々の処理が行なわれる。
【0005】
なお、マイクロチップ内でなされる、各種液体(検体、検体中の特定成分、液体試薬、またはこれらのうちの2種以上の混合物など)に対してなされる処理を、以下では「流体処理」ともいう。これら種々の流体処理は、マイクロチップに対して、適切な方向の遠心力を印加することにより行なうことができる。
【0006】
マイクロチップ内での流体処理を制御良く行なうためには、所定方向の遠心力を印加したときに、流体回路内の液体が、確実に意図したとおりの(設計どおりの)経路に沿ってある部位から他の部位へ移動されることが肝要である。液体の少なくとも一部が、意図したとおりの経路から逸脱して所定の部位に移動されず、流体回路内の他の箇所に移動するような場合には、所定の流体処理が適切になされない結果、検体の検査・分析などの精度が低下したり、検査・分析自体が実施できなかったりするおそれがある。
【0007】
遠心力印加時に流体回路内の液体が意図したとおりの経路から逸脱して移動してしまう大きな要因の1つが、流体回路の内表面に対する液体の高い濡れ性である。流体回路内の液体が流体回路の内表面に対して高い濡れ性を有している場合には、所定の経路に沿って液体を移動させることを意図して所定方向の遠心力を印加したときであっても、その高い濡れ性に基づいて流体回路の側面に沿って移動しようとする力が働くなどにより、意図しない経路を通って液体が移動することがある。
【0008】
上記のような問題を解決し得る方法として、流体回路の内表面に撥水コートを施すことにより流体回路の内表面に対する液体の濡れ性を低下させる技術が知られている(たとえば特許文献2および3)。しかし、この方法はマイクロチップの製造工程を煩雑化させ、製造効率を大きく低下させる。また、流体回路の一部分のみについて内表面に対する液体の濡れ性を制御することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−285792号公報
【特許文献2】特開2005−103423号公報
【特許文献3】特開2005−164242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、遠心力を印加したときに、流体回路内の液体を確実に意図したとおりの経路に沿って移動させることができるとともに、製造容易性に優れたマイクロチップの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、内部に形成された空間からなる流体回路を備えており、遠心力の印加により流体回路内に存在する液体を流体回路内において移動させるマイクロチップであって、流体回路の内表面が、凹凸パターンからなる表面領域であって、液体の移動経路を制御する移動経路制御領域を含むマイクロチップを提供する。
【0012】
遠心力の印加により液体を流体回路内の領域Aから領域Bに移動させる場合において、好ましくは、領域Aと領域Bとの間に介在する領域の少なくとも一部を含むように移動経路制御領域が設けられる。また、移動経路制御領域は、流体回路の底面に設けられることが好ましい。
【0013】
1つの好ましい実施形態において移動経路制御領域を構成する凹凸パターンは、離間して平行に配列される複数のライン状突起からなる。この場合、液体を移動させるために印加される遠心力の方向とライン状突起の長手方向とがなす角度は、好ましくは0度超90度未満である。
【0014】
他の好ましい実施形態において移動経路制御領域を構成する凹凸パターンは、離間して縦横に配列される複数の柱状突起からなる。さらに他の好ましい実施形態において移動経路制御領域を構成する凹凸パターンは、流体回路の内表面の一部の領域を取り囲むように形成される溝の複数を、離間して縦横に配列してなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のマイクロチップによれば、流体回路の内表面に移動経路制御領域を設け、この移動経路制御領域上を通るように液体を、遠心力を利用して移動させることにより、意図しない経路を通って液体が移動することを防止し、所望の経路に沿って液体が移動するよう適切に液体移動経路を制御することができるため、流体回路内の意図しない箇所に液体が移動するといった不具合を防止することができる。このことは、マイクロチップによる検査・分析などの精度および信頼性を向上させる。
【0016】
また、移動経路制御領域を構成する凹凸パターンは、金型を用いた射出成形などにより、流体回路を構成する溝を基板に形成するのと同時に付与することができるため、本発明のマイクロチップは、製造工程の煩雑化を伴うことなく簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態Iに係るマイクロチップを第1の基板側からみたときの上面図である。
図2】実施形態Iに係るマイクロチップを構成する第2の基板における第1の基板側表面を示す上面図である。
図3】実施形態Iに係るマイクロチップを構成する第2の基板における第3の基板側表面を示す上面図である。
図4】実施形態Iに係るマイクロチップを構成する第3の基板の外表面を示す上面図である。
図5図3に示される部分Aを拡大して示す上面図である。
図6】親水性試薬の液滴を、凹凸パターンを有しない平坦な基板の上に置いたときの状態を示す写真である。
図7】親水性試薬の液滴を、凹凸パターンを有する基板の上に置いたときの状態を示す写真である。
図8】貫通穴を介して第2の流体回路にある特定の領域に検体を導入する工程の様子を示した上面図である。
図9】実施形態Iに係るマイクロチップにおいて、第2の流体回路にある特定の領域から分離部に検体を移動させる工程の様子を示した上面図である。
図10】移動経路制御領域を有しない従来のマイクロチップにおいて、第2の流体回路にある特定の領域から分離部に検体を移動させる工程の様子を示した上面図である。
図11】移動経路制御領域を構成する凹凸パターンの他の一例を示す上面図である。
図12】移動経路制御領域を構成する凹凸パターンのさらに他の一例を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<マイクロチップの概要>
本発明のマイクロチップは、各種化学合成、検査または分析等を、それが内部に有する流体回路(内部に形成された空間)を用いて行なうチップであり、流体回路内の液体(検体、検体中の特定成分、液体試薬等の試薬、および、これらのうちの2種以上の混合物など)を遠心力の印加により流体回路内の所定の位置(部位)に移動させることにより、該液体に対して適切な流体処理を行なうことができるものである。このために流体回路は、適切な位置に配置された種々の部位(室)を備えており、これらの部位は微細な流路を介して適切に接続されている。
【0019】
流体回路が有する上記部位(室)としては、検査または分析などの対象となる検体と混合(または反応)させるための液体試薬を収容する試薬保持部;流体回路内に導入された検体から特定成分を取り出すための分離部;検体(検体中の特定成分である場合を含む。以下同じ。)を計量するための検体計量部;液体試薬を計量するための試薬計量部;検体と液体試薬とを混合するための混合部;得られた混合液についての検査または分析(たとえば、混合液中の特定成分の検出または定量)を行なうための検出部;廃液(たとえば、計量時に検体計量部や試薬計量部からオーバーフローした検体や液体試薬)を収容する廃液溜め部;その他、特定の液体を一時的に収容しておくための収容部などを挙げることができる。
【0020】
マイクロチップは通常、その一方の表面に、試薬保持部内に液体試薬を注入するための、試薬保持部まで貫通する貫通口である試薬注入口を有する。試薬注入口は、液体試薬が注入された後、たとえば封止用ラベル(シール)などの封止層をマイクロチップ表面に貼着することにより封止される。また、マイクロチップは、その表面に、検査または分析などの対象となる検体を注入するための、流体回路まで貫通する(流体回路に接続される)貫通口である検体注入口を有する。
【0021】
検出部に導入された混合液を検査または分析するための方法は特に制限されず、たとえば、混合液を収容する検出部に光を照射して透過する光の強度(透過率)を検出する方法、検出部に保持された混合液についての吸収スペクトルを測定する方法等の光学測定を挙げることができる。
【0022】
本発明のマイクロチップは、上述の例示された部位(室)のすべてを有していてもよく、いずれか1以上を有していなくてもよい。また、これら例示された部位以外の部位を有していてもよい。各部位の数についても特に制限はなく、1または2以上であることができる。
【0023】
検体からの特定成分の抽出(不要成分の分離)、検体および液体試薬の計量、検体と液体試薬との混合、得られた混合液の検出部への導入などのような流体回路内における種々の流体処理は、マイクロチップに対して適切な方向の遠心力を順次印加して、対象の液体を所定位置に配置された所定の部位に順次移動させることにより行なうことができる。たとえば、計量部による検体および液体試薬の計量はそれぞれ、所定の容量(計量すべき量と同じ量)を有する検体計量部または試薬計量部へ、遠心力の印加により計量されるべき検体または液体試薬を導入し、過剰分の検体または液体試薬を検体計量部または試薬計量部からオーバーフローさせることにより実施することができる。オーバーフローした検体または液体試薬は、流路を介して検体計量部または試薬計量部に接続された廃液溜め部に収容させることができる。
【0024】
マイクロチップへの遠心力の印加は、遠心力を印加可能な装置(遠心装置)にマイクロチップを載置して行なうことができる。遠心装置は、回転自在なローター(回転子)と、該ローター上に配置された回転自在なステージとを備えることができる。該ステージ上にマイクロチップを載置し、該ステージを回転させてローターに対するマイクロチップの角度を任意に設定したうえでローターを回転させることにより、マイクロチップに対して任意の方向の遠心力を印加することができる。
【0025】
本発明のマイクロチップは、第1の基板と、該第1の基板上に積層、貼合された第2の基板とから構成することができ、より具体的には、第1の基板上に、表面に溝を備える第2の基板を、当該第2の基板の溝形成側表面が第1の基板に対向するように貼り合わせて構成することができる。かかる2枚の基板からなるマイクロチップは、第2の基板表面に設けられた溝と第1の基板における第2の基板に対向する側の表面とから構成される内部空間からなる流体回路を備える。
【0026】
また、本発明のマイクロチップは、第1の基板と、基板の両表面に設けられた溝を備える第2の基板と、第3の基板とをこの順で積層、貼合したものであってもよい。かかる3枚の基板からなるマイクロチップは、第1の基板における第2の基板に対向する側の表面および第2の基板における第1の基板に対向する側の表面に設けられた溝から構成される内部空間からなる第1の流体回路と、第3の基板における第2の基板に対向する側の表面および第2の基板における第3の基板に対向する側の表面に設けられた溝から構成される内部空間からなる第2の流体回路と、の2層の流体回路を備える。「2層」とは、マイクロチップの厚み方向に関して異なる2つの位置に流体回路が設けられていることを意味する。かかる2層の流体回路は、第2の基板を厚み方向に貫通する1または2以上の貫通穴によって接続することができる。
【0027】
基板同士を貼り合わせる方法は特に限定されず、たとえば、貼り合わせる基板のうち、少なくとも一方の基板の貼り合わせ面を融解させて溶着する方法(溶着法)、接着剤を用いて接着する方法などを挙げることができる。溶着法としては、基板を加熱して溶着する方法;レーザー等の光を照射して、光吸収時に発生する熱により溶着する方法(レーザー溶着);超音波を用いて溶着する方法などを挙げることができる。なかでもレーザー溶着法が好ましく用いられる。
【0028】
本発明のマイクロチップの大きさは特に限定されず、たとえば縦横数cm程度、厚さ数mm〜1cm程度とすることができる。
【0029】
本発明のマイクロチップを構成する上記各基板の材質は特に制限されず、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアリレート樹脂(PAR)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリメチルペンテン樹脂(PMP)、ポリブタジエン樹脂(PBD)、生分解性ポリマー(BP)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などの熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0030】
マイクロチップが第1の基板と、基板表面に溝を備える第2の基板とから構成される場合、検出光を利用する光学測定のための検出部を構築するために、第2の基板は透明基板とすることが好ましい。第1の基板は、透明基板であっても不透明基板であってもよいが、レーザー溶着を行なう場合には、光吸収率を増大できることから、不透明基板とすることが好ましく、基板を上記熱可塑性樹脂から構成し、該熱可塑性樹脂中にカーボンブラック等の黒色顔料を添加することにより黒色基板とすることがより好ましい。
【0031】
マイクロチップが第1の基板と、基板の両表面に溝を備える第2の基板と、第3の基板とから構成される場合、レーザー溶着の効率性の観点から、第2の基板を不透明基板とすることが好ましく、黒色基板とすることがより好ましい。一方、第1および第3の基板は、検出光を利用する光学測定のための検出部を構築するために、透明基板とすることが好ましい。第1および第3の基板を透明基板とすると、第2の基板に設けられた貫通穴と、透明な第1および第3の基板とから光学測定のための検出部を形成でき、マイクロチップ表面と略垂直な方向から検出部に検出光を照射して、透過する光の強度(透過率)を検出するなどの光学測定を行なうことが可能となる。
【0032】
第2の基板表面に、流体回路を構成する溝(パターン溝)を形成する方法としては、特に制限されず、転写構造を有する金型を用いた射出成形法、インプリント法、切削加工法などを挙げることができる。第2の基板表面に形成される溝の形状およびパターンは、内部空間の構造が、所望される適切な流体回路構造となるように決定される。なお、第2の基板以外の基板(第1および/または第3の基板)にも、流体回路を構成する溝、外側表面に形成される溝や凹部、または貫通穴などを適宜設けることができる。
【0033】
本発明のマイクロチップは、以上に示したような構成を有するマイクロチップにおいて、流体回路の内表面が、凹凸パターンからなる表面領域であって、遠心力の印加により流体回路内を移動する液体(検体、検体中の特定成分、液体試薬等の試薬またはこれらのうちの2種以上の混合物など)の移動経路を制御する移動経路制御領域を含むことを特徴としている。遠心力の印加により液体を移動させる場合において、意図する(設計上想定する)経路とは異なる経路をも採り得るような流体回路内の領域、とりわけ、各部位(室)間を接続する流路内の領域における内表面に移動経路制御領域を設け、この移動経路制御領域上を通るように液体を、遠心力を利用して移動させることにより、意図しない(設計上想定しない)経路を通って液体が移動することを防止し、所望の経路に沿って液体が移動するよう適切に液体移動経路を制御することができる。
【0034】
マイクロチップの流体回路は、マイクロチップの小型化を実現するために高集積化が図られており、よって流体回路を構成する流路は一般的に、複雑に入り組んでいる。したがって、ある流路のごく近傍にあるいは該流路に接続されて、他の部位(室)へ導くための他の流路が配置されていることがある。たとえば、流体回路内のある領域Aから領域Bに液体を移動させるための流路aに、領域AおよびBとは異なる他の領域Cに液体を誘導する流路bが接続されているような場合には、領域Aから領域Bに液体を移動させることを意図して所定方向の遠心力を印加したにもかかわらず、少なくとも一部の液体が流路aから逸脱して流路bに入り込み、領域Cに誘導されてしまうという不具合が生じることがある。
【0035】
このような場合に本発明を適用し、領域Aと領域Bとの間に介在する領域の少なくとも一部(すなわち、流路aの内表面の少なくとも一部)を含むように移動経路制御領域を設け、この移動経路制御領域上を通る液体の移動経路を制御(修正)することによって、上記のような不具合が生じる場合と同じ方向の遠心力を印加する場合であっても、液体を流路a内における所定の経路に沿って移動させ、流路bに入り込むことを防止できる。
【0036】
以下、実施の形態を示して本発明のマイクロチップについてより詳細に説明する。
本発明に係るマイクロチップの一実施形態(以下、実施形態Iともいう。)およびこれを構成する基板を図1図4に示す。これらの図面によって示されるマイクロチップ100aは、透明基板である第1の基板1、流体回路を形成する溝を両表面に有する黒色基板である第2の基板2、および、透明基板である第3の基板3をこの順で積層、貼合してなる。
【0037】
図1は、マイクロチップ100aを第1の基板1側からみたときの上面図である。図2は、第2の基板2における第1の基板1側表面を示す上面図であり、図3は、第2の基板2における第3の基板3側表面を示す上面図である。図4は、第3の基板3の外表面(第2の基板2側とは反対側の表面)を示す上面図である。なお、図1および図4において点線は、その点線で囲まれた領域が凹部を構成していることを意味している。
【0038】
まず第1の基板1について説明すると、図1を参照して、第1の基板1には試薬注入口103aを含む、合計11個の試薬注入口が設けられている。これらの試薬注入口は、第1の基板1を厚み方向に貫通する貫通穴であり、流体回路に含まれる11個の試薬保持部のそれぞれの直上に設けられ、これらにそれぞれ繋がっている。また、第1の基板1には、検体(たとえば全血)を流体回路内に導入するための、第1の基板1を厚み方向に貫通する貫通穴である検体導入口105が設けられている。試薬注入口は、液体試薬が注入された後、封止層をマイクロチップ表面に貼着することにより封止される。封止層は、一方の面に粘着剤層を有するプラスチックフィルム(ラベル、シール等)などであることができる。
【0039】
本実施形態のマイクロチップ100aの流体回路について説明すると、図2および図3を参照して、第2の基板2は、その両面に形成された溝および厚み方向に貫通する複数の貫通穴を有しており、これに第1の基板1および第3の基板3を貼り合わせることによって、マイクロチップ内部に2層の流体回路が形成されている。なお、以下では、第1の基板1における第2の基板2側表面および第2の基板2における第1の基板1側表面に設けられた溝から構成される流体回路を「第1の流体回路」、第3の基板3における第2の基板2側表面および第2の基板2における第3の基板3側表面に設けられた溝から構成される流体回路を「第2の流体回路」とも称する。これら2つの流体回路は、第2の基板2に形成された厚み方向に貫通するいくつかの貫通穴によって連結している。
【0040】
図2から第1の流体回路の構造を、図3から第2の流体回路の構造を把握することができる。本実施形態のマイクロチップ100aは、1つの検体について6項目の検査・分析を行なうことができる多項目チップであり、その流体回路は、6項目の検査・分析を行なうことができるよう、6つのセクション〔図2(第1の流体回路)におけるセクション1〜6。図3(第2の流体回路)においても同様。〕に分けられている。ただし、検体計量部設置領域(図3に示される第2の流体回路の上部領域)においてこれらは互いに接続されている。上記各セクションは、およそ同様の構成を有しており、流体処理も同様であるため、以下では、主に「セクション4」を採り上げて説明する。
【0041】
セクション4には、第1の流体回路内において、液体試薬が内蔵された試薬保持部が2つ設けられている(図2における試薬保持部201a、211a)。上記のように各試薬保持部には、第1の基板1を厚み方向に貫通する貫通穴である試薬注入口が設けられている(図1における試薬注入口103aとその下の試薬注入口)。また、各試薬保持部の下端には、試薬保持部内の液体試薬を排出するための試薬排出路202a、212aがそれぞれ連結されている(図2参照)。試薬排出路202a、212aは、第2の基板2の厚み方向に延びる貫通穴であり、裏側の第2の流体回路に繋がっている。図2における下向き(ここでいう下向きとは、マイクロチップ中心に加わる遠心力の向きが下向きであることを意味する。また、図2における下向きとは、図2に記載のマイクロチップにおける検出部601などが配置されている側の長手端面が下、これに対向する長手端面が上となるように図を置いたときの下向きを意味する。図3についても同様であり、下向き以外の他の方向に関しても同様である。)の遠心力により試薬保持部201a、211aから排出された液体試薬は、第2の流体回路内の試薬計量部301a、311aにそれぞれ導入され、計量される(図3参照)。
【0042】
セクション4には、第2の流体回路内において、検体中の特定成分を計量するための検体計量部401が設けられている。このような検体計量部は各セクションに設けられており、これらの検体計量部は、流路によって直列的に接続されている(図3参照)。
【0043】
また、マイクロチップ100aは、マイクロチップ内に導入された検体から特定成分(液体試薬と混合される成分)を取り出す(たとえば全血から血球成分を分離し、血漿成分を取り出す)ための分離部501を備えている(図3参照)。分離操作は遠心分離によりなされる。
【0044】
検体導入口105から導入された検体は、図2における下向きの遠心力の印加により、領域10を通って収容部801に導入され(図2参照)、続く図2における左向きの遠心力の印加により、貫通穴40を通って第2の流体回路の領域12に導入される(図3参照)。ついで、図3における下向きの遠心力の印加により、検体は分離部501に導入され、遠心分離される(図3参照)。
【0045】
分離部501にて分離された検体中の特定成分は、各セクションに分配されるとともに検体計量部(たとえばセクション4においては検体計量部401)にて計量されると、別途計量された各セクション内の1種または2種の液体試薬と混合されて、それぞれ検出部(たとえばセクション4においては検出部601)に導入される(図2および図3参照)。検出部に導入された混合液は、たとえば、マイクロチップ表面と略垂直な方向から検出部に検出光を照射し、その透過光の透過率を測定する等の光学測定に供され、該混合液中の特定成分の検出等がなされる。
【0046】
ここで、マイクロチップ100aは、図3および、図3に示される部分Aを拡大して示す図5を参照して、領域12に収容された検体を分離部501に導く流路の内表面の一部に、検体が移動する際の経路を制御(修正)する移動経路制御領域5を有している。本実施形態において移動経路制御領域5は、上記流路の底面(ここでいう底面とは、検査・分析時に遠心力を印加する際にマイクロチップが置かれる状態において底面であることを意味し、本実施形態では第1の基板1を上にして遠心装置のステージに載置される。)、すなわち、第2の基板2における第1の基板1側表面に形成された溝の底面に設けられた凹凸パターンからなる表面領域である。
【0047】
本実施形態において移動経路制御領域5を構成する凹凸パターンは、上記流路の内表面上に離間して平行に配列された複数のライン状の突起5aからなる。ライン状突起5aの幅、高さおよび突起間の間隔はそれぞれ、100μm、50μm、100μmとしている。
【0048】
このような移動経路制御領域5を設けることにより、本実施形態のマイクロチップ100aにおいては、遠心力を印加して検体を領域12から分離部501に移動させる際に、検体が領域12と分離部501とを接続する流路内を通るときの経路を適切に制御して、上記流路に接続されている貫通穴40に検体が逆流することを防止している。すなわち上述のように、検体を領域12から分離部501に移動させる際には、マイクロチップ100aに対して図3における下向きの遠心力(これは、部分Aにおいて左下向きの遠心力に相当する。)の印加するが、後で詳述するように移動経路制御領域5を設けない場合においては、この遠心力を印加したとき、検体の一部が貫通穴40に逆流する場合があった。移動経路制御領域5はこのような問題を解決し、確実に検体の全量が分離部501に導入されることを保証する。
【0049】
凹凸パターンからなる移動経路制御領域5が示す液体の移動経路を制御(修正)する機能は、液体の接触角が、突起表面の平坦部と比べて突起の角部において大きくなるという原理に基づいている(たとえば、ドゥジェンヌ,ブロシャール−ヴィアール,ケレ共著、奥村 剛訳、「表面張力の物理学」、2003年9月発行、第223頁参照)。突起表面の平坦部における接触角をθ度、角部の内角をx度とすると、突起の角部における接触角は、θからθ+(180−x)の範囲内のいかなる値もとり得る。
【0050】
図6および図7は、凹凸パターンの上記機能を立証する実験結果を示す写真である。図6は、親水性試薬(界面活性剤Tween20を含む水系試薬)の液滴をPMP(ポリメチルペンテン)からなる凹凸パターンを有しない平坦な基板の上に置いたときの状態を示す写真であり、図6(a)上面図、図6(b)が側面図である。図7は、親水性試薬(界面活性剤Tween20を含む水系試薬)の液滴をPMP(ポリメチルペンテン)からなる凹凸パターンを有する基板の上に置いたときの状態を示す写真であり、図7(a)上面図、図7(b)が側面図である。図7において凹凸パターンは、断面(底面)が1辺800μmの正方形である四角柱状の突起の複数を縦横に離間して配列したものである。突起の角部の内角はすべてについて90度である。図6(b)および図7(b)にそれぞれの接触角を示しており、凹凸パターンを有しない場合には58度(図6(b))、凹凸パターンを有する場合には137度であった(図7(b))。
【0051】
上記の図6および図7に示される実験結果からも立証されるように、凹凸パターン上に置かれた液滴は、その接触角が大きくなることがわかる。このような凹凸パターンの機能は、凹凸パターンが図7に示されるような柱状突起の複数を縦横に離間して配列してなるものである場合に限定されず、実施形態Iのようなライン状の突起5aを離間して配列したものである場合にも発現され、実施形態Iのマイクロチップ100aにおいて移動経路制御領域5上を通過する検体は、その接触角が大きい状態となっている。
【0052】
実施形態Iのマイクロチップ100aにおける移動経路制御領域5による検体の移動経路の制御についてより具体的に説明する。図8は、図3における右向き(図2における左向きの遠心力の印加)により、貫通穴40を介して第2の流体回路の領域12に検体を導入する工程(第1工程)の様子を示した上面図である(なお、図8は移動経路制御領域5を有しない場合を示しているが、実施形態Iのマイクロチップ100aは、図9などに示されるとおり、移動経路制御領域5を有している。)。図9は、実施形態Iのマイクロチップ100aにおいて、図3における下向きの遠心力の印加により、領域12から分離部501に検体を移動させる工程(第2工程)の様子を示した上面図である。図10は、移動経路制御領域5を有しない従来のマイクロチップにおいて、図3における下向きの遠心力の印加により、領域12から分離部501に検体を移動させる工程(第2工程)の様子を示した上面図である。
【0053】
図8図10はいずれも図3に示される部分Aに相当する領域を拡大して示すものである。図8図10において「CF」とは遠心力を意味し、その矢印は遠心力の方向を指している。図8を参照して、マイクロチップの中心において右向きの遠心力を印加した場合、部分Aにおいては、略右上向きの遠心力が印加されることなる。また、図9および図10を参照して、マイクロチップの中心において下向きの遠心力を印加した場合、部分Aにおいては、略左下向きの遠心力が印加されることなる。図8図10におけるもう一つの矢印は、検体の移動経路を示している。
【0054】
図10に示されるように、従来のマイクロチップにおいては、第2工程にて下向きの遠心力(部分Aにおいては略左下向きの遠心力)を印加すると、遠心力の方向と平行に検体が移動するのではなく、それより貫通穴40寄りの経路(図10に示される経路2)を通って移動することが明らかとなっている。これは、基板表面(流体回路内表面)に対する検体の濡れ性が高い(接触角が小さい)ために、流体回路の底面と側面との交線に沿って検体が流れようとするためである。このような経路をとるために、従来のマイクロチップでは、第2工程において検体の一部が貫通穴40に逆流する場合があった。
【0055】
これに対して実施形態Iのマイクロチップ100aでは、移動経路制御領域5を設けていることにより、図9に示されるように、第2工程にて下向きの遠心力(部分Aにおいては略左下向きの遠心力)を印加すると、遠心力の方向と平行な方向よりも貫通穴40から離れるような経路(図9に示される経路2)を通って検体が移動することが実証された。このような検体の移動経路の改善は、上述した凹凸パターンの機能によるものであり、より具体的には、接触角の増大によって検体の濡れ性(表面張力)に基づく移動が抑制されることで、遠心力に基づく検体の移動が支配的になるためである。
【0056】
ここで、移動経路制御領域が、とりわけ実施形態Iのようなライン状突起の配列構造からなる場合には、遠心力印加時、ライン状突起の長手方向に沿って液体が流れやすくなる。実施形態Iのマイクロチップ100aにおいて、第2工程にて図9に示される経路2のように、遠心力方向と平行な方向よりも図9における左寄りの経路をとるのはこのためである。遠心力方向と平行な方向からの経路のずれの程度は、遠心力方向に対するライン状突起の長手方向の角度を調整することにより制御できる。このように、液体が遠心力方向と平行な方向とは異なる経路を通るように移動経路を制御したい場合には、遠心力方向とライン状突起の長手方向とがなす角度αを0度超90度未満とすればよい(角度αは最小で0度、最大で90度をとり得るものとする。)。
【0057】
一方、液体が遠心力方向と平行な方向の経路を通るように移動経路を制御したい場合には、遠心力方向とライン状突起の長手方向とがなす角度αを0度(すなわち平行)にすることができる。
【0058】
移動経路制御領域が、実施形態Iのようなライン状突起の配列構造からなる場合において、液体の接触角を増大させる機能を発現させるためには、ライン状突起の幅は10〜1000μmとすることが好ましく、50〜200μmとすることがより好ましい。また、ライン状突起間の間隔は、10〜1000μmとすることが好ましく、50〜200μmとすることがより好ましい。ライン状突起の高さは液体の接触角にあまり影響を及ぼさないため任意であるが、通常50〜300μmとすることができる。
【0059】
接触角増大効果は、ライン状突起の角部(突起上面と側面とから形成される角部)のRを小さくするほど大きくなる。したがって当該角部のRは50μm以下とすることが好ましく、10μm以下とすることがより好ましい。この点は、他の凹凸パターンにおいても同様である。
【0060】
本発明において移動経路制御領域は、流体回路内表面のいずれの位置に形成することもできるが、通常は実施形態Iのように、各部位(室)間を接続する流路の内表面であり、とりわけ液体が意図しない経路を通って移動すると、所定の流体処理に不具合が生じるような流路の内表面である。このような内表面の部分にどの程度の範囲にわたって移動経路制御領域を形成するかは液体の移動経路をどのように変動させるかどうかに依存する。実施形態Iにおいては、図10に示される経路2を図9に示される経路2に修正するために、流路を形成する領域12側の側面から、少なくとも図9に示される経路2に至る領域にわたってライン状突起を設けている。遠心力の印加により流体回路内の液体を領域Aから領域Bに移動させる場合において、移動経路制御領域は通常、領域Aと領域Bとの間に介在する領域(流路)の少なくとも一部を含むように設けられる。
【0061】
移動経路制御領域は、良好な移動経路制御性が得られることから、流体回路の内表面のなかでも、底面またはこれに対向する上面(天井面)に設けられることが好ましく、さらに基板成形時に流体回路を構成する溝(流路)と同時に形成され、該溝との間に位置ずれが生じないことから、底面に設けられることがより好ましい。
【0062】
本発明において移動経路制御領域を構成する凹凸パターンはライン状突起からなるものに限定されず、種々のパターンであることができる。図11および図12は、移動経路制御領域を構成する凹凸パターンの他の例を示す上面図である。図11および図12において斜線部分は、斜線を付していない部分よりも突出していることを意味する。
【0063】
図11に示される移動経路制御領域5は、離間して縦横に配列される複数の柱状の突起5aからなる。突起5aの断面(底面)形状は図11に例示されるような正方形に限定されず、長方形、菱形等の他の四角形状、四角形状以外の多角形状、円形状、楕円形状などであることができる。
【0064】
移動経路制御領域が、図11のように、離間して縦横に配列される複数の柱状突起からなる場合において、液体の接触角を増大させる機能を発現させるためには、柱状突起の断面径(多角形状においては、ある辺から対向する辺までの距離の最大値、楕円形状においては長径。以下同様。)は10〜2000μmとすることが好ましく、100〜1000μmとすることがより好ましい。また、柱状突起間の間隔は、10〜1000μmとすることが好ましく、100〜500μmとすることがより好ましい。柱状突起の高さは液体の接触角にあまり影響を及ぼさないため任意であるが、通常10〜200μmとすることができる。
【0065】
図12に示される移動経路制御領域5は、流体回路の内表面の一部の領域(図12における突起5aの領域)を取り囲むように形成される溝の複数を、離間して縦横に配列してなる。より具体的には、図12に示される移動経路制御領域5は、枠状の溝の複数を離間して縦横に配列してなる。溝の形状(したがって突起5aの断面(底面)形状)は図12に例示されるような正方形に限定されず、長方形、菱形等の他の四角形状、四角形状以外の多角形状、円形状、楕円形状などであることができる。
【0066】
移動経路制御領域が、図12のように、流体回路の内表面の一部の領域を取り囲むように形成される溝の複数を、離間して縦横に配列してなる場合において、液体の接触角を増大させる機能を発現させるためには、溝によって取り囲まれる柱状突起の断面径は10〜2000μmとすることが好ましく、100〜1000μmとすることがより好ましい。溝の幅は、10〜1000μmとすることが好ましく、100〜500μmとすることがより好ましい。また、溝間の間隔は、10〜2000μmとすることが好ましく、100〜1000μmとすることがより好ましい。柱状突起の高さ(溝の深さ)は液体の接触角にあまり影響を及ぼさないため任意であるが、通常10〜200μmとすることができる。
【0067】
「セクション4」を主に採り上げて、実施形態Iのマイクロチップ100aによる検体(例として全血を採り上げる)の検査・分析方法(流体処理操作)を説明すると次のとおりである。
【0068】
(1)全血導入、液体試薬計量工程
第1の基板1の検体導入口105から全血を導入し、ついで図2における略下向きに遠心力を印加する。これにより全血は、領域10を通って収容部801に導入される(図2参照)。また、この略下向きの遠心力印加により、試薬保持部201a、211a内の液体試薬は、それぞれ試薬排出路202a、212aを通って試薬計量部301a、311aに至り、計量される(図3参照)。各試薬計量部から溢れた液体試薬は、それぞれ貫通穴20、30を通って、廃液溜め部701、710に収容される(図2参照)。
【0069】
(2)遠心分離工程
次に、図2における略左向きに遠心力を印加して、貫通穴40を介して全血を領域12に移動させる(図3参照)。続いて、図3における略下向きに遠心力を印加して、領域12内の全血を分離部501に導入する(図3参照)。そして引き続き略下向きに遠心力を印加することにより分離部501にて遠心分離を行ない、血漿成分(上層)と血球成分(下層)とに分離する。
【0070】
移動経路制御領域5を有する本実施形態のマイクロチップ100aの30個および移動経路制御領域5を有しないこと以外はマイクロチップ100aと同じ構造の従来のマイクロチップの30個について、略下向きの遠心力印加(回転数3000rpm)により領域12内の全血を分離部501に導入する工程を実施し、図10に示されるような貫通穴40への逆流の発生率を算出したところ、本実施形態のマイクロチップ100aでは0%、従来のマイクロチップでは43%(30個中13個)であった。
【0071】
(3)検体計量工程
次に、図3における略右向きの遠心力を印加する。これにより、分離部501において分離された血漿成分は、検体計量部401に導入され(同時に他の5つの検体計量部にも導入される)、計量される(図3参照)。検体計量部から溢れた血漿成分は、貫通穴50を通って第1の流体回路に移動する(図2参照)。この略右向きの遠心力により、試薬計量部301a内の液体試薬は、混合部900に移動し、試薬計量部311a内の液体試薬は、領域11に移動する。
【0072】
(4)第1混合工程
次に、図3における略下向きの遠心力を印加する。これにより、計量された液体試薬(試薬保持部201aに保持されていた液体試薬)と、検体計量部401にて計量された血漿成分とが、試薬計量部301aにおいて混合される(第1混合工程第1ステップ、図3参照)。次に、図3における略右向きの遠心力を印加することにより、混合液は、混合部900に残存していた液体試薬とさらに混合される(第1混合工程第2ステップ、図3参照)。これら第1ステップおよび第2ステップを必要に応じて複数回行ない、確実に混合を行なう。
【0073】
(5)第2混合工程
次に、図3における略上向きの遠心力を印加する。これにより、混合部900内の混合液は、貫通穴60を通って混合部910に至り、計量されたもう一方の液体試薬(試薬保持部211a内に保持されていた液体試薬)もまた、貫通穴60を通って混合部910に至り、これらが混合される(第2混合工程第1ステップ、図2および図3参照)。次に、図2における略右向きの遠心力を印加することにより、混合液を混合部910内で移動させ、混合を促進させる(第2混合工程第2ステップ、図2参照)。これら第1ステップおよび第2ステップを必要に応じて複数回行ない、確実に混合を行なう。
【0074】
(6)検出部導入工程
最後に、図2における略下向きの遠心力を印加する。これにより、混合部910内の混合液は検出部601に導入される。検出部601に充填された混合液は、光学測定に供され、検体(血漿成分)の検査・分析が行なわれる。たとえば、マイクロチップ表面に対して略垂直な方向から光を照射し、その透過光を測定することにより、混合液中の特定成分の検出等がなされる。他の検出部に導入された混合液についても同様である。
【符号の説明】
【0075】
1 第1の基板、2 第2の基板、3 第3の基板、5 移動経路制御領域、5a 突起、10,11,12 領域、20,30,40,50,60 貫通穴、100a マイクロチップ、103a 試薬注入口、105 検体導入口、201a,211a 試薬保持部、202a,212a 試薬排出路、301a,311a 試薬計量部、401 検体計量部、501 分離部、601 検出部、701,710 廃液溜め部、801 収容部、900,910 混合部。
図1
図2
図3
図4
図5
図8
図9
図10
図11
図12
図6
図7