【実施例】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を用いて詳細に説明する。
本発明の電子ビーム蒸着装置は、溶融材料を使用する場合は、例えば
図1或いは
図2に示したような構成を有している。
【0016】
図1及び
図2において、11は真空容器の内部下方に配置された材料12の蒸発部である。この蒸発部11は、電子ビーム源である電子銃13と、電子銃13より放出された電子の衝突により加熱蒸発する前記材料12を装入する坩堝14と、坩堝14近傍における電子軌道を制御(例えば、坩堝14への電子ビーム入射により発生する反射電子の飛散方向を制御する等)するための磁石を有するポールピース15と、電子銃13より放出された電子ビームの進路を曲げて、接地電位である坩堝14内に導くための偏向用磁石16とから構成されている。
【0017】
本発明では、少なくとも電子を放出して坩堝14に導くための、電子銃13、偏向用磁石16を、この偏向用磁石16が基板17から離反
するように
、水平状態の坩堝14に対して傾斜配置し、斜め上方から坩堝14内の材料12に電子を照射するようにしたことが特徴である。
【0018】
この場合、
図1及び
図2に示したように、坩堝14をポールピース15よりも上方に配置しておけば、蒸発材料12aのポールピース15への付着量を減少することができ、成膜歩留りが向上する。
【0019】
このような構成の本発明では、成膜に要する速度を速くするために、坩堝14を基板17に近づけても、電子ビームの軌道と基板17との相対距離は従来に比べて大きくなるので、電子ビーム、または電子ビームから散乱される電子により成膜部にダメージが入り難くなる。
【0020】
また、
図1や
図2に示したように、反射電子遮蔽用の磁石18を基板17と坩堝14の間に設置しても、同様の理由により、この磁石18が電子ビームを坩堝14内に導く、偏向用磁石16と干渉し、電子ビームを曲げることがない。
【0021】
前記反射電子遮蔽用の磁石18は、基板17と平行な位置に磁場を形成し、反射電子等による基板17へのダメージを防止するもので、基板17に近い位置で、成膜に支障のない位置に設置される。この反射電子遮蔽用の磁石18は、基板17に所定の間隔を存した格子状となるように複数設置すると、さらに坩堝14を基板17(反射電子遮蔽用の磁石18)側に近接して配置できる。
【0022】
これら格子状に複数設置する反射電子遮蔽用の磁石18は、基板17に近づけ、基板17と略平行に(
図3の例では冷却ロール24の曲面に沿うように)配置すれば、シャドウが少なくなり、蒸着速度が向上するので望ましい。
【0023】
また、坩堝14内の材料12に照射された後の反射電子や軌道をそれた電子が成膜範囲に入射することを抑制できる磁場を形成するためには、格子状に設置した複数の磁石18間の磁束密度としては6mT以上、10mT以下になるようにする。但し、かかる磁場を形成できるものであれば、永久磁石でも電磁石でも良い。また、材質は、フェライト、サマリウムコバルト、ネオジウム等、何れでも良い。
【0024】
上記構成の本発明の電子ビーム蒸着装置のように、格子状に設置した複数の磁石18によって坩堝14内の材料12に照射された後の反射電子や軌道をそれた電子を遮蔽する磁場を形成したときは、
図5に示すように、成膜範囲を広く(例えば350mm)した場合にも、格子状に設置した各々の磁石18の磁場強度を低減することができる。
【0025】
ところで、電子ビーム蒸着装置において、電子銃13、偏向用磁石16の、
水平状態の坩堝14と平行な基板17に対する傾斜角度θ1は、坩堝14への電子の入射角αが30〜45°の範囲内となるように傾斜させることが望ましい。
【0026】
なお、前記電子銃13からの坩堝14(材料12の表面)までの電子ビームの偏向角は特に限定されないが、電子銃13が蒸着材料や粉塵等の影響を受けず、かつ、電子ビームの偏向角の制御が可能な範囲として、225°〜315°が好ましい。
【0027】
坩堝14への電子の入射角αが30°未満の場合は、坩堝14内の材料12の加熱作用が弱くなって蒸発量が少なくなり、近接蒸着のメリットがなくなるからである。また、坩堝14への電子の入射角αが45°を超える場合は、反射電子遮蔽用の磁石18が電子ビームを坩堝14内に導く、偏向用磁石16と干渉するようになるからである。
【0028】
一方、例えば
図2に示したように、基板17を電子銃13と偏向用磁石16の傾斜と逆方向に、5〜15°傾斜させて保持しても良い。
【0029】
この基板17の傾斜角度θ2は5〜15°の範囲に限定されるものではないが、5°未満では、基板17の傾斜による、高速成膜の効果が得られず、15°を超えると膜厚分布が不均一となるので、5〜15°の範囲とすることが望ましい。
【0030】
このように、基板17を電子銃13と偏向用磁石16の傾斜と逆方向に、傾斜させる場合は、偏向用磁石16と反射電子遮蔽用の磁石18との距離がより大きくなるので、坩堝14をより基板17に近づけることができる。
【0031】
また、例えば
図3に示すように、基板17を巻き出しロール21に巻き取っておき、アイドルロール22、張力制御ロール23を経て冷却ロール24に巻き回した後、張力制御ロール23、アイドルロール22を経て巻き取りロール25に巻き取るようにすれば、より高速での成膜が可能になる。
【0032】
その際、
図4に示すように、
図3に示した電子ビーム蒸着装置を、冷却ロール24の中心から降ろした鉛直線に対して線対称の位置に2台配置すれば、更なる高速で成膜することが可能になる。
【0033】
ちなみに、
図1及び
図2に示した本発明の電子ビーム蒸着装置と、図
6に示した従来の電子ビーム蒸着装置を使用して、以下の条件で坩堝直上の蒸着速度を測定したところ、
図1の装置では40nm/秒、
図2の装置では80nm/秒、図
6の装置では10nm/秒であった。
【0034】
これにより、本発明によれば、近接蒸着が可能になって更なる高速での成膜が行えるようになることが分かった。
【0035】
(蒸着条件)
・加速電圧:2kV
・エミッション電流:300mA
・ビーム偏向角:270°
・坩堝と基板間の距離(T/S):
図1は200mm、
図2は150mm、図
6は400mm
【0036】
本発明は、前記の例に限るものではなく、各請求項に記載の技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0037】
例えば、
図1〜
図4では坩堝14をポールピース15より上方の位置に配置しているが、蒸発材料12aのポールピース15への付着量の成膜速度に与える影響が問題にならないのであれば、坩堝14をポールピース15より下方の位置に配置してもよい。
【0038】
また、蒸発部11(偏向用磁石16)は、
図1〜4のように紙面左右側への傾斜に限らず、例えば、紙面手前、奥側に傾斜するように配置してもよい。