特許第6017796号(P6017796)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6017796
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】電子ビーム蒸着装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/30 20060101AFI20161020BHJP
【FI】
   C23C14/30 B
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-33076(P2012-33076)
(22)【出願日】2012年2月17日
(65)【公開番号】特開2013-170272(P2013-170272A)
(43)【公開日】2013年9月2日
【審査請求日】2015年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089462
【弁理士】
【氏名又は名称】溝上 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100116344
【弁理士】
【氏名又は名称】岩原 義則
(74)【代理人】
【識別番号】100129827
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 進
(72)【発明者】
【氏名】山田 実
【審査官】 今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−214529(JP,A)
【文献】 実開平04−081960(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の下方に水平に配置された坩堝と、当該坩堝の下方に配置した電子銃から照射される加速した電子を坩堝内に導く偏向用磁石と、当該偏向用磁石に導かれて坩堝に入射した電子ビームにより発生する反射電子の軌道を含む坩堝近傍の電子の軌道を制御するポールピースと、前記基板と坩堝間に、前記基板と平行な位置に磁場を形成して反射電子による基板へのダメージを防止する反射電子遮蔽用磁場を形成する磁石を有し、前記坩堝内に導かれた電子により前記坩堝内に装入した材料を加熱して蒸発させ、前記基板の表面に付着させて薄膜を形成する電子ビーム蒸着装置において、
なくとも前記坩堝内の材料に照射する電子を所定の電圧で加速する電子銃と、この電子銃より照射された電子ビームを前記坩堝内に導く偏向用磁石を、この偏向用磁石が基板から離反するように前記水平状態の坩堝に対して傾斜配置し、斜め上方から坩堝内の材料に電子を照射すべく構成したことを特徴とする電子ビーム蒸着装置。
【請求項2】
前記電子銃と、前記偏向用磁石は、坩堝への電子ビームの入射角が30〜45°の範囲内となるように傾斜させることを特徴とする請求項1に記載の電子ビーム蒸着装置。
【請求項3】
前記基板が、坩堝内の材料面に対して傾斜保持されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電子ビーム蒸着装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の電子ビーム蒸着装置を、基板の蒸着範囲の中心から降ろした鉛直線に対して線対称の位置に2台配置したことを特徴とする電子ビーム蒸着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビームをるつぼ内の材料に照射して、加熱蒸発させる電子ビーム蒸着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子ビームを用いた蒸着装置は、所定の電圧で加速された電子を、真空容器内に配置した坩堝内の材料に上方から垂直に照射し加熱することで蒸発させ、この蒸発した材料を真空容器内に配置した基板の表面に付着させて薄膜を形成するものである。
【0003】
この蒸着装置を構成する蒸発部1は、従来は、電子銃2、偏向用磁石3、ポールピース4、坩堝5等の構成要素を、図6に示すように水平に設置し、坩堝5内の材料6を上方向に蒸発させていた。一方、蒸発部1の上方に配置する基板7は、表面を下方に向けた状態で水平方向に保持していた。以下、表面を下方に向けた状態をフェイスダウンの状態という。なお、図6中の6aは坩堝5から蒸発した蒸発材料を示す。
【0004】
この電子ビーム蒸着装置は、多種類の材料に対して高速度の成膜が行えるので、多用途で使用されている。
【0005】
ところで、近年、さらなる高速の成膜ニーズが高まっており、電子ビーム蒸着においても抵抗加熱蒸着と同様に、基板と坩堝との距離(T/S)を短縮させた近接蒸着の必要性が出てきた。
【0006】
しかしながら、電子ビーム蒸着の場合、成膜速度を速くするために、坩堝を基板に近づけると、電子ビーム、または電子ビームから散乱する電子により成膜部にダメージが入り易くなる。散乱する電子が成膜部に至らないように、反射電子遮蔽用の磁石8を基板7と坩堝5の間に設置した場合は(図6参照)、この磁石8が電子ビームを坩堝5内に導く偏向用磁石3と干渉し、電子ビームを精度よく坩堝に導くことが難しいという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−211641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする問題点は、電子ビーム蒸着の場合、坩堝に基板を近づけると、電子ビーム、または電子ビームから散乱される電子により成膜部にダメージが入り易くなるという点である。また、反射電子遮蔽用の磁石を基板と坩堝の間に設置した場合、電子ビームを精度よく坩堝内に導くことが難しいという点である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電子ビーム蒸着装置は、
坩堝を基板に近づけても、成膜部にダメージが入り難く、また、反射電子遮蔽用の磁石を基板と坩堝の間に設置しても、この磁石が電子ビームを坩堝内に導く偏向用磁石と干渉して電子ビームを曲げることがないようにするために、
基板の下方に水平に配置された坩堝と、当該坩堝の下方に配置した電子銃から照射される加速した電子を坩堝内に導く偏向用磁石と、当該偏向用磁石に導かれて坩堝に入射した電子ビームにより発生する反射電子の軌道を含む坩堝近傍の電子の軌道を制御するポールピースと、前記基板と坩堝間に、前記基板と平行な位置に磁場を形成して反射電子による基板へのダメージを防止する反射電子遮蔽用磁場を形成する磁石を有し、前記坩堝内に導かれた電子により前記坩堝内に装入した材料を加熱して蒸発させ、前記基板の表面に付着させて薄膜を形成する電子ビーム蒸着装置において、
なくとも前記坩堝内の材料に照射する電子を所定の電圧で加速する電子銃と、この電子銃より照射された電子ビームを前記坩堝内に導く偏向用磁石を、この偏向用磁石が基板から離反するように前記水平状態の坩堝に対して傾斜配置し、斜め上方から坩堝内の材料に電子を照射すべく構成したことを最も主要な特徴としている。
【0010】
本発明の電子ビーム蒸着装置は、電子銃と偏向用磁石を、偏向用磁石が基板から離反するように、水平状態の坩堝に対して傾斜配置するので、近接蒸着の問題点が解決し、近接蒸着が可能になる。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、近接蒸着が可能となるので、さらなる高速の成膜ニーズに対応できるようになる。その際、巻き出しロールに巻き取られた基板を、ロールを介して巻き取りロールに巻き取ることにより移動させるようにすれば、より高速での成膜が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1の本発明の電子ビーム蒸着装置の概略構成を示した図である。
図2】第2の本発明の電子ビーム蒸着装置の例概略構成を示した図である。
図3】第3の本発明の電子ビーム蒸着装置の概略構成を示した図である。
図4】第4の本発明の電子ビーム蒸着装置の概略構成を示した図である。
図5】坩堝内の材料に照射された後の反射電子や軌道をそれた電子を遮蔽する磁場を形成する格子状に設置する複数の磁石の設置態様を説明する図である。
図6】従来の電子ビーム蒸着装置の概略構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明では、坩堝を基板に近づけても、成膜部にダメージが入り難く、また、反射電子遮蔽用の磁石を基板と坩堝の間に設置しても、この磁石が電子ビームを坩堝内に導く偏向用磁石と干渉し、電子ビームを曲げることがないようにするという課題を解決するものである。
【0014】
そして、前記課題を、少なくとも電子銃と電子ビームを坩堝内に導く偏向用磁石を、偏向用磁石が基板(反射電子遮蔽用磁石)から離反するように、水平状態の坩堝に対して傾斜配置し、斜め上方から坩堝内の材料に電子を照射することで実現した。
【実施例】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を用いて詳細に説明する。
本発明の電子ビーム蒸着装置は、溶融材料を使用する場合は、例えば図1或いは図2に示したような構成を有している。
【0016】
図1及び図2において、11は真空容器の内部下方に配置された材料12の蒸発部である。この蒸発部11は、電子ビーム源である電子銃13と、電子銃13より放出された電子の衝突により加熱蒸発する前記材料12を装入する坩堝14と、坩堝14近傍における電子軌道を制御(例えば、坩堝14への電子ビーム入射により発生する反射電子の飛散方向を制御する等)するための磁石を有するポールピース15と、電子銃13より放出された電子ビームの進路を曲げて、接地電位である坩堝14内に導くための偏向用磁石16とから構成されている。
【0017】
本発明では、少なくとも電子を放出して坩堝14に導くための、電子銃13、偏向用磁石16を、この偏向用磁石16が基板17から離反するように、水平状態の坩堝14に対して傾斜配置し、斜め上方から坩堝14内の材料12に電子を照射するようにしたことが特徴である。
【0018】
この場合、図1及び図2に示したように、坩堝14をポールピース15よりも上方に配置しておけば、蒸発材料12aのポールピース15への付着量を減少することができ、成膜歩留りが向上する。
【0019】
このような構成の本発明では、成膜に要する速度を速くするために、坩堝14を基板17に近づけても、電子ビームの軌道と基板17との相対距離は従来に比べて大きくなるので、電子ビーム、または電子ビームから散乱される電子により成膜部にダメージが入り難くなる。
【0020】
また、図1図2に示したように、反射電子遮蔽用の磁石18を基板17と坩堝14の間に設置しても、同様の理由により、この磁石18が電子ビームを坩堝14内に導く、偏向用磁石16と干渉し、電子ビームを曲げることがない。
【0021】
前記反射電子遮蔽用の磁石18は、基板17と平行な位置に磁場を形成し、反射電子等による基板17へのダメージを防止するもので、基板17に近い位置で、成膜に支障のない位置に設置される。この反射電子遮蔽用の磁石18は、基板17に所定の間隔を存した格子状となるように複数設置すると、さらに坩堝14を基板17(反射電子遮蔽用の磁石18)側に近接して配置できる。
【0022】
これら格子状に複数設置する反射電子遮蔽用の磁石18は、基板17に近づけ、基板17と略平行に(図3の例では冷却ロール24の曲面に沿うように)配置すれば、シャドウが少なくなり、蒸着速度が向上するので望ましい。
【0023】
また、坩堝14内の材料12に照射された後の反射電子や軌道をそれた電子が成膜範囲に入射することを抑制できる磁場を形成するためには、格子状に設置した複数の磁石18間の磁束密度としては6mT以上、10mT以下になるようにする。但し、かかる磁場を形成できるものであれば、永久磁石でも電磁石でも良い。また、材質は、フェライト、サマリウムコバルト、ネオジウム等、何れでも良い。
【0024】
上記構成の本発明の電子ビーム蒸着装置のように、格子状に設置した複数の磁石18によって坩堝14内の材料12に照射された後の反射電子や軌道をそれた電子を遮蔽する磁場を形成したときは、図5に示すように、成膜範囲を広く(例えば350mm)した場合にも、格子状に設置した各々の磁石18の磁場強度を低減することができる。
【0025】
ところで、電子ビーム蒸着装置において、電子銃13、偏向用磁石16の、水平状態の坩堝14と平行な基板17に対する傾斜角度θ1は、坩堝14への電子の入射角αが30〜45°の範囲内となるように傾斜させることが望ましい。
【0026】
なお、前記電子銃13からの坩堝14(材料12の表面)までの電子ビームの偏向角は特に限定されないが、電子銃13が蒸着材料や粉塵等の影響を受けず、かつ、電子ビームの偏向角の制御が可能な範囲として、225°〜315°が好ましい。
【0027】
坩堝14への電子の入射角αが30°未満の場合は、坩堝14内の材料12の加熱作用が弱くなって蒸発量が少なくなり、近接蒸着のメリットがなくなるからである。また、坩堝14への電子の入射角αが45°を超える場合は、反射電子遮蔽用の磁石18が電子ビームを坩堝14内に導く、偏向用磁石16と干渉するようになるからである。
【0028】
一方、例えば図2に示したように、基板17を電子銃13と偏向用磁石16の傾斜と逆方向に、5〜15°傾斜させて保持しても良い。
【0029】
この基板17の傾斜角度θ2は5〜15°の範囲に限定されるものではないが、5°未満では、基板17の傾斜による、高速成膜の効果が得られず、15°を超えると膜厚分布が不均一となるので、5〜15°の範囲とすることが望ましい。
【0030】
このように、基板17を電子銃13と偏向用磁石16の傾斜と逆方向に、傾斜させる場合は、偏向用磁石16と反射電子遮蔽用の磁石18との距離がより大きくなるので、坩堝14をより基板17に近づけることができる。
【0031】
また、例えば図3に示すように、基板17を巻き出しロール21に巻き取っておき、アイドルロール22、張力制御ロール23を経て冷却ロール24に巻き回した後、張力制御ロール23、アイドルロール22を経て巻き取りロール25に巻き取るようにすれば、より高速での成膜が可能になる。
【0032】
その際、図4に示すように、図3に示した電子ビーム蒸着装置を、冷却ロール24の中心から降ろした鉛直線に対して線対称の位置に2台配置すれば、更なる高速で成膜することが可能になる。
【0033】
ちなみに、図1及び図2に示した本発明の電子ビーム蒸着装置と、図に示した従来の電子ビーム蒸着装置を使用して、以下の条件で坩堝直上の蒸着速度を測定したところ、図1の装置では40nm/秒、図2の装置では80nm/秒、図の装置では10nm/秒であった。
【0034】
これにより、本発明によれば、近接蒸着が可能になって更なる高速での成膜が行えるようになることが分かった。
【0035】
(蒸着条件)
・加速電圧:2kV
・エミッション電流:300mA
・ビーム偏向角:270°
・坩堝と基板間の距離(T/S):図1は200mm、図2は150mm、図は400mm
【0036】
本発明は、前記の例に限るものではなく、各請求項に記載の技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0037】
例えば、図1図4では坩堝14をポールピース15より上方の位置に配置しているが、蒸発材料12aのポールピース15への付着量の成膜速度に与える影響が問題にならないのであれば、坩堝14をポールピース15より下方の位置に配置してもよい。
【0038】
また、蒸発部11(偏向用磁石16)は、図1〜4のように紙面左右側への傾斜に限らず、例えば、紙面手前、奥側に傾斜するように配置してもよい。
【符号の説明】
【0039】
11 蒸発部
12 材料
13 電子銃
14 坩堝
16 偏向用磁石
17 基板
18 磁石
21 巻き出しロール
24 冷却ロール
25 巻き取りロール
図1
図2
図3
図4
図5
図6