特許第6017810号(P6017810)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6017810
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】樹脂含浸コイル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/32 20060101AFI20161020BHJP
   H01F 41/12 20060101ALI20161020BHJP
   H01F 5/06 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   H01F27/32 A
   H01F41/12 E
   H01F41/12 A
   H01F5/06 Q
   H01F5/06 T
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-71473(P2012-71473)
(22)【出願日】2012年3月27日
(65)【公開番号】特開2013-206943(P2013-206943A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2014年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】特許業務法人 サトー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水谷 雄二
(72)【発明者】
【氏名】市川 貴則
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 勇人
(72)【発明者】
【氏名】逵村 祐介
【審査官】 井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】 実開平03−110818(JP,U)
【文献】 特開昭60−053007(JP,A)
【文献】 特開昭61−160920(JP,A)
【文献】 特開昭57−052107(JP,A)
【文献】 特開昭52−049459(JP,A)
【文献】 特開平02−142013(JP,A)
【文献】 特開平09−011430(JP,A)
【文献】 特開昭58−042211(JP,A)
【文献】 特開平11−335535(JP,A)
【文献】 特開昭56−158409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/32
H01F 41/12
H01F 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルと、
樹脂含浸性を有し、少なくとも前記コイルの外周を覆うように設けられ、前記コイルと共にコイル素体を構成する絶縁材と、
前記コイル素体に含浸して硬化した含浸樹脂とを備え、
前記絶縁材は、有機繊維と無機繊維を含む複数種類の繊維系材料で構成されると共に、硬化促進剤が添加剤として添加されていて、
前記無機繊維の繊維径は、前記有機繊維の繊維径と同じ又は当該有機繊維の繊維径に比して小さく設定され、前記硬化促進剤の濃度は0.1phr〜2phrに設定されていることを特徴とする樹脂含浸コイル。
【請求項2】
前記絶縁材は、前記有機繊維としてのポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリアミド繊維、ポリイミド繊維のうちの1種と、前記無機繊維としてのガラス繊維とを含むことを特徴とする請求項1記載の樹脂含浸コイル。
【請求項3】
前記絶縁材のかさ密度が0.2g/cm〜2g/cmであることを特徴とする請求項1または2記載の樹脂含浸コイル。
【請求項4】
前記絶縁材は、エポキシシランで表面処理された前記無機繊維としてのガラス繊維を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載の樹脂含浸コイル。
【請求項5】
前記絶縁材は、前記有機繊維の繊維径が6μm〜15μmであり、前記無機繊維の繊維径が1μm〜6μmであることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載の樹脂含浸コイル。
【請求項6】
導体を巻回してコイルを形成する工程と、
予め硬化促進剤を付着させた樹脂含浸性を有する絶縁材を、前記コイルの外周絶縁物及び/又は内周絶縁物として巻回する工程と、
前記コイルと前記絶縁材とで構成されるコイル素体を、樹脂含浸槽内に収納して含浸樹脂を含浸する工程とを含み、
前記絶縁材は、有機繊維と無機繊維を含む複数種類の繊維系材料を用いて形成されていて、前記無機繊維の繊維径は、前記有機繊維の繊維径と同じ又は当該有機繊維の繊維径に比して小さく設定され、前記硬化促進剤の濃度は0.1phr〜2phrに設定されていることを特徴とする樹脂含浸コイルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、樹脂含浸コイル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、変圧器やリアクトル等の電気機器用のコイルを、絶縁性を有する樹脂でモールドしたものが供されている。この種の電気機器(例えば乾式変圧器)では、予めそのコイルを配置したモールド型内に樹脂を注入(注型)して成形される樹脂モールドコイルとして、或はコイル全体を含浸槽内の樹脂に浸してコイル内部まで樹脂を含浸させた樹脂含浸コイルとして構成したものがある。
【0003】
含浸法による樹脂含浸コイルは、注型法による樹脂モールドコイル特有のクラックが発生しにくい。しかしながら、樹脂含浸コイルは前記含浸槽から取り出した後、乾燥炉内で乾燥させる際に、ゲル化中あるいは硬化前の樹脂が流出し、コイルの絶縁特性や機械的特性が低下する虞がある。このように、含浸法ではゲル化時点の管理が難しく、粘度が高い樹脂を用いて含浸すると、含浸槽内における含浸時間を長くしても未含浸となり、所望の絶縁特性を得ることができない事態が生じうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭57−132312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、含浸した樹脂の流出を防止することができると共に生産性を向上させることができる絶縁特性、機械的特性に優れた樹脂含浸コイル及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態の樹脂含浸コイルは、コイルと、樹脂含浸性を有し、少なくとも前記コイルの外周を覆うように設けられ、前記コイルと共にコイル素体を構成する絶縁材と、前記コイル素体に含浸して硬化した含浸樹脂とを備え、前記絶縁材は、有機繊維と無機繊維を含む複数種類の繊維系材料で構成されるとともに、硬化促進剤が添加剤として添加されていて、前記無機繊維の繊維径は、前記有機繊維の繊維径と同じ又は当該有機繊維の繊維径に比して小さく設定され、前記硬化促進剤の濃度は0.1phr〜2phrに設定されていることを特徴とする。
【0007】
また、本実施形態の樹脂含浸コイルの製造方法は、導体を巻回してコイルを形成する工程と、予め硬化促進剤を付着させた樹脂含浸性を有する絶縁材を、前記コイルの外周絶縁物及び/又は内周絶縁物として巻回する工程と、前記コイルと前記絶縁体とで構成されるコイル素体を、樹脂含浸槽内に収納して含浸樹脂を含浸する工程とを含み、前記絶縁材は、有機繊維と無機繊維を含む複数種類の繊維系材料を用いて形成されていて、前記無機繊維の繊維径は、前記有機繊維の繊維径と同じ又は当該有機繊維の繊維径に比して小さく設定され、前記硬化促進剤の濃度は0.1phr〜2phrに設定されていることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態の樹脂含浸コイルの平面図
図2】樹脂含浸コイルを一部破断して示す側面図
図3】コイル素体を含浸する工程を説明するための模式図
図4】絶縁テープのかさ密度とガラス転移点(Tg)の関係を示す図
図5】樹脂の示差走査熱量測定(DSC測定)による測定結果を示す図
図6】触媒量と硬化開始温度(℃)との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、電気機器用のコイルとして変圧器に用いられる樹脂含浸コイルに適用した一実施形態について、図1から図6を参照して説明する。
図1図2に示すように、樹脂含浸コイル1は全体として略円筒状に形成され、同心状をなす二次コイル3と一次コイル5を備える。前記二次コイル3は、円筒状の巻枠2の外周に二次導体3aを巻回することにより形成された低圧コイルであり、その外周に絶縁材6aが巻回されている。絶縁材6aの外周には、軸方向から見て波形状をなすダクト材4が配置されている。前記ダクト材4は、冷却用空気がコイル3,5間を通ることで樹脂含浸コイル1の冷却上の要求を満たすように形成されている。前記一次コイル5は、一次導体5aが層間絶縁物7を介して多層に巻回されることにより形成した高圧コイルであり、その内周側(ダクト材4外周)に絶縁材6bが巻回されると共に、当該コイル5の外周に絶縁材6cが巻回されている。
【0010】
上記した絶縁材6a,6b,6c(以下、これらの総称を絶縁材6とする)のうち、絶縁材6aは、二次コイル3の外周絶縁物として、絶縁材6bは、一次コイル5の内周絶縁物として、絶縁材6cは、一次コイル5の外周絶縁物として夫々構成されている。絶縁材6は、例えば、無機繊維としてのガラス繊維と、有機繊維としてのポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート)繊維とを含む繊維系材料からテープ状に形成されている。尚、これら繊維系材料は、ガラス繊維やポリエチレンテレフタレート(PET)繊維に限らず、有機繊維として、他のポリエステル繊維や、アラミド繊維、ポリアミド繊維、ポリイミド繊維のうちの1種を用いて構成してもよい。
【0011】
前記ガラス繊維の繊維径は例えば5μmφ、ポリエチレンテレフタレート繊維の繊維径は例えば10μmφであり、ガラス繊維は、図示しないエポキシシランで表面処理されている。これらガラス繊維とポリエチレンテレフタレート繊維とを混抄し、バインダとしてのエポキシ接着剤により両繊維を互いに結合して不織布が形成される。この場合、絶縁材6は、前記不織布がテープ状に形成されると共に、その厚さが例えば約0.5mmに設定された不織布テープとして構成される。
【0012】
前記不織布テープは、例えば坪量が200g/m、かさ密度が0.5g/cmとなるように加工されている。この不織布テープには、予めエポキシ樹脂の硬化促進剤が付着される。具体的には例えば、硬化促進剤である1ベンジル2メチルイミダゾール(以下、1B2MZと略す)をエチルアルコールに10重量%溶解させた液を、不織布テープに対して、図示しないロール回転式塗布装置を用いて塗布する。当該溶液を、不織布テープに対して含浸させるようにしてもよい。こうして、絶縁材6は、当該溶液を塗布(含浸でもよい)させた後、例えば100℃の乾燥炉で1時間乾燥させることにより、硬化促進剤が付着される。
【0013】
絶縁材6a,6b,6cは、上記したように二次コイル3や一次コイル5の内周絶縁物或は外周絶縁物として、例えば当該テープの幅方向に1/2ずつ重ねるようにして3層の巻回層たる絶縁層を夫々形成する。この場合、各絶縁材6a,6b,6cは、耐熱性と機械的特性に優れたガラス繊維(高強度繊維)を含むことから、絶縁や機械的に必要な厚さの分だけ巻回すればよい。こうして、一次コイル5及び二次コイル3は、絶縁材6と共にコイル素体8を構成する。
【0014】
図3は、コイル素体8に樹脂10を含浸させる工程を説明するための模式図である。同図に示すように、真空加圧タンク11内には樹脂含浸槽12が設けられ、真空加圧タンク11の外部には、樹脂含浸槽12へ樹脂10を流し込む樹脂注入装置13が設けられている。
【0015】
先ず、真空加圧タンク11を85℃に保温しておき、90℃に予熱したコイル素体8を、真空加圧タンク11へ搬入して樹脂含浸槽12内に配置する。樹脂10は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂に酸無水物硬化剤を化学当量反応させたものである。この樹脂10を90℃に予熱し、樹脂注入装置13により樹脂含浸槽12内に流し込む。このとき、樹脂注入装置13は、樹脂含浸槽12における樹脂10液面が非常に小さい速度(例えば5mm/minの液面上昇速度)で上昇するように樹脂10を流入させる。コイル素体8全体が樹脂10に浸漬されると樹脂10の注入を止め、真空加圧タンク11内の空気を例えば0.5MPaに加圧し、その加圧状態を2時間保持する。
【0016】
樹脂含浸槽12内の樹脂10は、各コイル3,5における上下の端面、ダクト材4の内周及び外周に位置する絶縁材6a,6b、並びにコイル5外周の絶縁材6cを通して含浸する。詳しくは後述するように、絶縁材6は、かさ密度が前記の値に設定されているため、樹脂10が比較的速やかに含浸すると共に、樹脂10の未含浸部分が生じないようになっている。また、絶縁材6に含まれるガラス繊維はエポキシシランで表面処理されているため、絶縁材6に含浸した樹脂10との密着性が大きくなる。そして、絶縁材6に硬化促進剤が付与されているため、前述した真空加圧タンク11内の温度(或はコイル素体8や樹脂10の予熱温度)と相俟ってゲル化を始める。
【0017】
その後、樹脂含浸槽12内の樹脂10は、当該含浸槽12底部の図示しないバルブから排出され、樹脂10を含浸保持したコイル素体8が取り出される。上記のようにゲル化した樹脂10は、自身の粘度が高まることでコイル素体8(絶縁材6)に保持されるため、含浸した樹脂10のコイル素体8からの流出が防止される。このコイル素体8は、例えば160℃に加熱した図示しない乾燥炉に収納して10時間加熱する。これにより、コイル素体8に含浸した未硬化の樹脂10も完全に硬化することで、樹脂含浸コイル1が得られる。
【0018】
さて、樹脂10の健全性はガラス転移点Tgの値から判断することができる。本実施形態の樹脂10では、ガラス転移点Tgを例えば90℃以上とすることで、電気機器用のコイル(樹脂含浸コイル1)として所期の物性が得られ、信頼性を高めることができる。そこで、発明者らは樹脂含浸コイル1、特には絶縁材6の構成の妥当性を検証すべく、不織布テープのかさ密度(g/cm)を異ならせた場合における樹脂のガラス転移点Tg(℃)を求める実験を行った。図4は、その実験結果を示している。尚、当該実験では、各不織布テープについて、絶縁材6と同様に硬化促進剤たる1B2MZを予め付与する等、かさ密度以外の条件は同じものとする。
【0019】
同図に示すように、ガラス転移点Tgは、不織布テープのかさ密度が高まるにつれ上昇し、かさ密度が1g/cm以降になるとその上昇度合いは小さくなり、2g/cm近傍では略横ばいとなる。また、不織布テープのかさ密度が0.2g/cm以上になるとガラス転移点Tgについて所定の値(90℃以上)が得られた。この結果から、不織布テープのかさ密度は、0.2g/cm〜2g/cmとなるような範囲に設定することが好ましく、0.2g/cm〜1g/cmとなる範囲がより好ましいことがわかる。また、不織布テープのかさ密度が0.2g/cm以上であれば、その絶縁材6(或は樹脂含浸コイル1)に含浸する樹脂に対して、ガラス転移点Tgが90℃以上となる硬化促進剤の所望の添加量になると考えられる。換言すれば、かさ密度が比較的低いと、エポキシ樹脂中の1B2MZの濃度が相対的に低くなる結果、ガラス転移点Tgを所定の値まで高めることができず、樹脂の硬化の度合いも不十分になるものと解せられる。
【0020】
そこで、このことを裏付けるために、前記樹脂:100部に対して前記1B2MZを0.1部〜2部、つまり0.1phr〜2phr(前記100部あたりの重量部:phr)まで添加した場合の硬化開始温度を求める実験を行った。この実験において、示差走査熱量計を用いて得られた硬化発熱特性を図6に示す。ここで、硬化開始温度は、示差走査熱量計を使用して昇温速度10℃/min(度/分)の条件で得られる値であり、以下のように定義される。即ち、図5に示すように、エポキシ樹脂に上記のような温度変化を与えて吸熱、発熱を観測して得られるDSC曲線において、低温側のベースラインを高温側に延長した線と、ピークの低温側の曲線に勾配が最大となる点で引いた接線(同図で1phrの当該接線を破線で示す)との交点の温度を硬化開始温度とする。
【0021】
この硬化開始温度は、図6に示すように1B2MZの添加量が増加するにつれ低下し、2phr近傍ではその低下度合いは小さくなり、2phr以降では略横ばいになるものと解せられる。また、同図に示すように、1B2MZが0.1phr以上の時、硬化開始温度は160℃以下となる。従って、上記したかさ密度ひいては1B2MZの濃度を適宜設定して、所定温度でゲル化を開始させることにより樹脂10の粘度が上昇し、当該樹脂10がコイル素体8(絶縁材6)に保持されるため、含浸した樹脂10のコイル素体8からの流出が防止される。
【0022】
一方、かさ密度が2g/cmを超えると樹脂10の含浸に長時間を要し、絶縁材6に樹脂10の未含浸部分(空洞たるボイド)が生じ、これが絶縁の欠陥になることが実験により判明した。このように絶縁材6中の樹脂10を安定にし、且つボイドのような絶縁欠陥の無い樹脂含浸コイル1を製造するためには、樹脂10中の触媒濃度と絶縁材6中の空間量(かさ密度)が特に重要であると言える。これらの要素は、樹脂10のゲル化開始温度と含浸速度に密接な関係があり、上記した所定の値に設定することで、含浸した樹脂10の流出を防止することができると共に生産性を向上させることができる。
【0023】
また、本実施形態とは異なり、絶縁材としての不織布テープの繊維系材料をガラス繊維のみで構成した場合、各繊維の剛性が比較的高いことから、当該テープにおける繊維間の空間(隙間)が比較的大きくなる。このため、前記樹脂の保持性に劣るだけでなく、予め硬化促進剤を付着させた不織布テープを樹脂に含浸させても、十分な触媒濃度が得られず、樹脂のガラス転移点Tgが低くなる結果、所望の物性が得られない。そこで、不織布テープを押さえつけるように圧力を加えて成形しても、ガラス繊維同士の絡み合い基づく反発力(弾性)により元の状態に戻り、当該テープにおける繊維間の空間を小さくすることができない。より高い圧力を不織布テープに加えると、ガラス繊維が破断し、その強度は著しく低下することになる。更には、ガラス繊維間の隙間を小さくするために、接着剤を少量含浸させて繊維間同士を接着により固定しても、その接着剤により当該テープにおける樹脂の含浸経路が遮られる。このため、含浸パスが不連続となり、樹脂の含浸性が低下する。
【0024】
これに対し、上記した樹脂含浸コイル1の製造方法にあっては、導体3a,5aを巻回してコイル3,5を形成する工程と、予め硬化促進剤を付着させた樹脂含浸性を有する絶縁材6を、コイル3,5の外周絶縁物及び/又は内周絶縁物として巻回する工程と、コイル3,5と絶縁材6とで構成されるコイル素体8を、樹脂含浸槽12内に収納して樹脂10を含浸する工程とを含む。そして、絶縁材6は、有機繊維と無機繊維を含む複数種類の繊維系材料を用いて形成されている。
【0025】
この構成によれば、有機繊維は、ガラス繊維等のような無機繊維に比し弾性率が低く且つ延性が大きい(引張破断伸び大きい)ため、無機繊維となじむことで繊維間の空間を小さくすることができる。これにより、絶縁材6に含浸した樹脂10の触媒濃度(硬化促進剤の濃度)を向上させることが可能となり、所望の物性つまり規定のガラス転移点Tgを得ることができる。また、絶縁材6に含浸した樹脂10の硬化反応による粘度上昇速度を高めることができ、含浸した樹脂10のコイル素体8からの流出を防止することができる。従って、樹脂含浸コイル1として、良好な機械的強度と所望の物性を得ることができると共に、生産性を向上させることができる。
【0026】
前記絶縁材6は、前記有機繊維としてのポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリアミド繊維、ポリイミド繊維のうちの1種と、前記無機繊維としてのガラス繊維とを含む。これら有機繊維は、引張破断伸びがガラス繊維の10倍〜100倍と大きいため、絶縁材6における繊維間の空間をより小さくすることができると共に、ガラス繊維により機械的強度を高めることができる。また、有機繊維としてポリエステル繊維を用いることにより安価な構成とすることができる。
【0027】
前記絶縁材6のかさ密度が0.2g/cm〜2g/cmである。上記したように、かさ密度が0.2g/cm以上の場合に規定のガラス転移点Tgを得ることが可能となり、2g/cmを超えると樹脂10の含浸に長時間を要し、絶縁材6に樹脂10の未含浸部分が生じるおそれがある。従って、かさ密度を前記の範囲に設定することで、含浸した樹脂10について所期の物性を得ることができ、生産性を向上させることができる。
【0028】
前記絶縁材6は、エポキシシランで表面処理された前記無機繊維としてのガラス繊維を含む。これによれば、エポキシシランで表面処理されたガラス繊維は、絶縁材6に含浸した樹脂10との密着性が大きくなる。このため、樹脂含浸コイル1の耐湿絶縁特性を良好なものとすることができる。
【0029】
絶縁材6を構成する繊維系材料のかさ密度や繊維径は、上記した値に限定するものではない。実験によれば、繊維径が6μmφで重量比が60%のガラス繊維と、繊維径が15μmφ(又は6μmφ)で重量比が40%のポリエチレンテレフタレート繊維を用い、かさ密度を0.2g/cm〜2g/cmに設定した絶縁材6についても、上記した実施形態と同様の効果を得た。また、この場合、ガラス繊維の繊維径を1μmφ〜6μmφに設定し、ポリエチレンテレフタレート繊維の繊維径を6μmφ〜15μmφに設定した場合も、同様の効果を奏する。
【0030】
このように、絶縁材6について無機繊維の繊維径を1μm〜6μm、有機繊維の繊維径を6μm〜15μmに設定する。夫々の範囲に満たない小さい繊維径の場合、繊維の破断を招く等、機械的特性に劣り、夫々の範囲を超える大きい繊維径の場合、剛性が比較的高くなり繊維間の隙間も大きくなる。無機繊維と有機繊維の繊維径を前記の夫々の範囲に設定することで、樹脂含浸コイル1の機械的強度を確保しながらも、繊維間に所望の大きさの空間を形成することができ、好適な絶縁材6を構成することができる。
【0031】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略,置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
また、絶縁材6は、樹脂含浸性を有し、少なくとも前記コイルの外周を覆うように設けられる構成であればよく、二次コイル3の内周側に配設してもよい。
【符号の説明】
【0032】
図面中、3,5はコイル、6は絶縁材、8はコイル素体、10は含浸樹脂、12は樹脂含浸槽を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6