特許第6017813号(P6017813)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6017813
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】リアサスペンション装置
(51)【国際特許分類】
   B60G 17/016 20060101AFI20161020BHJP
   B60G 17/015 20060101ALI20161020BHJP
   B60G 7/02 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   B60G17/016
   B60G17/015 Z
   B60G7/02
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-76562(P2012-76562)
(22)【出願日】2012年3月29日
(65)【公開番号】特開2013-203318(P2013-203318A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年1月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】富士重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123696
【弁理士】
【氏名又は名称】稲田 弘明
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】塚崎 裕一郎
【審査官】 倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−154421(JP,A)
【文献】 特開平08−310213(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 1/00 − 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に対してリアサブフレームの左右側部にそれぞれ配置される前側弾性体マウント及び後側弾性体マウントを介して装着されたリアサブフレームと、
車両の後輪を回転可能に支持するハブベアリングハウジングと、
前記ハブベアリングハウジング及び前記リアサブフレームとそれぞれ揺動可能に接続され、前記ハブベアリングハウジングと前記リアサブフレームとの間で横方向荷重の伝達を行うサスペンションアームと
を有するリアサスペンション装置であって、
車両の旋回開始を検出する旋回開始検出手段と、
前記旋回開始の検出に応じて、前記前側弾性体マウントの剛性を向上させる剛性可変手段と
を備え、
前記剛性可変手段は、旋回内輪側のみの前記前側弾性体マウントの剛性を向上させること
を特徴とするリアサスペンション装置。
【請求項2】
前記剛性可変手段は、旋回開始後予め設定された所定時間の経過後に前記弾性体マウントの剛性を復帰させること
を特徴とする請求項1に記載のリアサスペンション装置。
【請求項3】
ドライバによる舵角切り増しを検出する舵角切り増し検出手段を備え、
前記剛性可変手段は、前記舵角切り増しが検出された場合には、前記所定時間が経過した場合であっても前記弾性体マウントの剛性を向上させた状態に維持すること
を特徴とする請求項2に記載の車両のリアサスペンション装置。
【請求項4】
車両の後輪を回転可能に支持するハブベアリングハウジングと、
前記ハブベアリングハウジング及び車体に設けられた車体側部材とそれぞれ揺動可能に接続され、前記ハブベアリングハウジングと、前後方向に離間して複数配置され、前記車体側部材との間で横方向荷重の伝達を行うサスペンションアームと、
前記サスペンションアームの少なくとも一方の端部に設けられた弾性体ブッシュと
を有するリアサスペンション装置であって、
車両の旋回開始を検出する旋回開始検出手段と、
回内輪側かつ前側のみの前記サスペンションアームの前記弾性体ブッシュの剛性を前記旋回開始の検出に応じて向上させる剛性可変手段とを備えること
を特徴とするリアサスペンション装置。
【請求項5】
前記剛性可変手段は、旋回開始後予め設定された所定時間の経過後に前記弾性体ブッシュの剛性を復帰させること
を特徴とする請求項4に記載のリアサスペンション装置。
【請求項6】
ドライバによる舵角切り増しを検出する舵角切り増し検出手段を備え、
前記剛性可変手段は、前記舵角切り増しが検出された場合には、前記所定時間が経過した場合であっても前記弾性体ブッシュの剛性を向上させた状態に維持すること
を特徴とする請求項5に記載のリアサスペンション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両のリアサスペンション装置に関し、特に旋回初期の応答性を向上したものに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等のリアサスペンション装置は、後輪を回転可能に支持するハブベアリングハウジングを、スプリング及びダンパからなるバネ系を介して車体に対してストローク可能に位置決めするものである。
こうしたリアサスペンション装置は、防振等のため、ハウジング及び車体側にそれぞれ揺動可能に接続されたサスペンションアーム(リンク)の一方又は双方の端部に、ゴムブッシュ等の弾性体を設けている。
また、サスペンションアームの車体側の端部を、サブフレームに接続するとともに、サブフレームと車体との間に弾性体マウントを設ける場合もある。
【0003】
また、近年ではこのような防振用弾性体の剛性を可変としたり、防振用弾性体にアクチュエータを内蔵することが提案されている。
例えば、特許文献1には、サスペンションブッシュとして用いられる弾性体を液封ブッシュとするとともに、制動時に作動液の液圧を制御することによって、後輪をトーイン傾向とする技術が記載されている。
また、特許文献2には、エンジンを支持するエンジンマウントにアクチュエータを内蔵するとともに、エンジンの振動状態に基いてアクチュエータを制御することによって、防振効果を高めることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−126810号公報
【特許文献2】特開2005− 3050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両の旋回内側の後輪サスペンションには、定常旋回時においては、車両を旋回中心側へ引く方向の荷重が作用するが、ドライバが転舵操作をした直後の旋回初期においては、前輪のコーナリングフォースによって車体は向きを変え始めるが、後輪は直進を続けようとすることから、サスペンションアームに対して圧縮方向の横荷重が一時的に作用する。
このような荷重によって、リアサスペンションのサブフレームマウントやブッシュ等が弾性変形すると、後輪に対して車体後部が旋回内側に相対変位して後輪タイヤの横力発生が遅れ、転舵操作に対する後輪の追従性が悪化して車体挙動の応答性が低下してしまう。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、旋回初期の転舵操作に対する車体挙動の応答性を向上したリアサスペンション装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1に係る発明は、車体に対してリアサブフレームの左右側部にそれぞれ配置される前側弾性体マウント及び後側弾性体マウントを介して装着されたリアサブフレームと、車両の後輪を回転可能に支持するハブベアリングハウジングと、前記ハブベアリングハウジング及び前記リアサブフレームとそれぞれ揺動可能に接続され、前記ハブベアリングハウジングと前記リアサブフレームとの間で横方向荷重の伝達を行うサスペンションアームとを有するリアサスペンション装置であって、車両の旋回開始を検出する旋回開始検出手段と、前記旋回開始の検出に応じて、前記前側弾性体マウントの剛性を向上させる剛性可変手段とを備え、前記剛性可変手段は、旋回内輪側のみの前記前側弾性体マウントの剛性を向上させることを特徴とするリアサスペンション装置である。
これによれば、車体後部に遠心力が発生する前の旋回初期において、車体の後部が後輪に対して旋回内側へ相対移動することを抑制し、後輪タイヤの横力発生を早めて後輪まわりの操舵応答遅れを改善することができる。
【0008】
さらに、後側よりも横力が発生するタイミングが早く、上述した効果を得やすい前側の弾性体マウントを旋回初期に剛性向上することによって、さらに効果的に上述した効果を得ることができる。
【0009】
請求項に係る発明は、前記剛性可変手段は、旋回開始後予め設定された所定時間の経過後に前記弾性体マウントの剛性を復帰させることを特徴とする請求項1に記載のリアサスペンション装置である。
これによれば、弾性体マウントの剛性を向上させた後における剛性復帰制御を適切に行なうことができる。
【0010】
請求項に係る発明は、ドライバによる舵角切り増しを検出する舵角切り増し検出手段を備え、前記剛性可変手段は、前記舵角切り増しが検出された場合には、前記所定時間が経過した場合であっても前記弾性体マウントの剛性を向上させた状態に維持することを特徴とする請求項に記載の車両のリアサスペンション装置である。
これによれば、ドライバが切り増し操作を行った場合には、弾性体マウントの剛性を向上させた状態に維持することによって、切り増し操作に対する応答性を向上することができる。
【0011】
請求項4に係る発明は、車両の後輪を回転可能に支持するハブベアリングハウジングと、前記ハブベアリングハウジング及び車体に設けられた車体側部材とそれぞれ揺動可能に接続され、前記ハブベアリングハウジングと、前後方向に離間して複数配置され、前記車体側部材との間で横方向荷重の伝達を行うサスペンションアームと、前記サスペンションアームの少なくとも一方の端部に設けられた弾性体ブッシュとを有するリアサスペンション装置であって、車両の旋回開始を検出する旋回開始検出手段と、回内輪側かつ前側のみの前記サスペンションアームの前記弾性体ブッシュの剛性を前記旋回開始の検出に応じて向上させる剛性可変手段とを備えることを特徴とするリアサスペンション装置である。
【0013】
請求項に係る発明は、前記剛性可変手段は、旋回開始後予め設定された所定時間の経過後に前記弾性体ブッシュの剛性を復帰させることを特徴とする請求項に記載のリアサスペンション装置である。
【0014】
請求項に係る発明は、ドライバによる舵角切り増しを検出する舵角切り増し検出手段を備え、前記剛性可変手段は、前記舵角切り増しが検出された場合には、前記所定時間が経過した場合であっても前記弾性体ブッシュの剛性を向上させた状態に維持することを特徴とする請求項に記載のリアサスペンション装置である。
以上説明した請求項乃至請求項に係る各発明においても、上述した請求項1乃至請求項に係る各発明と実質的に同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、旋回初期の転舵操作に対する車体挙動の応答性を向上したリアサスペンション装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のリアサスペンション装置の実施例1を備えた車両の模式的平面図である。
図2】実施例1のリアサスペンション装置におけるリアサブフレームマウントの剛性制御システムの構成を示すブロック図である。
図3】実施例1のリアサスペンション装置におけるリアサブフレームマウントの剛性制御を示すフローチャートである。
図4】実施例1及び比較例のリアサスペンションを有する車両における旋回初期の車体ヨーレート及びリアサスペンションアーム荷重の推移の一例を模式的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、旋回初期の転舵操作に対する車体挙動の応答性を向上したリアサスペンション装置を提供する課題を、サスペンションアームの車体側端部が連結されるリアサブフレームと車体との間に設けられる弾性体マウントのうち、旋回内輪側のものを、旋回開始から所定期間にわたって剛性を向上させることによって解決した。
【実施例1】
【0018】
以下、本発明を適用したリアサスペンション装置の実施例1について説明する。
図1は、実施例1のリアサスペンション装置を備えた車両の模式的平面図である。
車両は、例えば4輪の乗用車等の自動車であって、操舵輪である左右前輪WFL、WFR、及び、左右後輪WRL、WRRを備えている。
【0019】
リアサスペンション装置は、リアサブフレーム10、フロントマウント20、リアマウント30、ハウジング40、サスペンションアーム50のほか、図示しないスプリング、ダンパ、スタビライザ等を有して構成されている。
なお、以下の説明において、左右対称に設けられる部材については、その左側、右側に、それぞれ符号L,Rを付して図示、説明する。
【0020】
リアサブフレーム10は、例えばスチールやアルミニウム合金等の金属材料によって、車両上方から見た形状がほぼ矩形の枠状に形成されている。
リアサブフレーム10は、車体に対して弾性体マウントであるフロントマウント20、及び、リアマウント30を介してフローティング状態で装着されている。
【0021】
フロントマウント20(20L,20R)は、リアサブフレーム10の前端部を支持し、車幅方向に離間して1対が設けられている。
フロントマウント20は、リアサブフレーム10に固定される円筒状の図示しない外筒、及び、この外筒の内径側にほぼ同心に挿入され、ボルト等によって車体側に締結される円筒状の図示しない内筒とを備えている。また、外筒の内周面と内筒の外周面との間には、図示しないゴム部が設けられている。ゴム部は、外筒及び内筒と加硫接着によって接合されている。
フロントマウント20は、外筒の中心軸を鉛直方向にほぼ沿わせた状態でリアサブフレーム10に固定されている。
【0022】
フロントマウント20(20L,20R)は、車幅方向外側の半部21(21L,21R:図1において黒く図示した部分)における車幅方向の荷重に沿った圧縮剛性を、左右独立して変化可能な可変剛性マウントとなっている。
このような剛性の変化は、例えば、フロントマウント20L,20Rを液封マウントとして、作動液圧力や作動液流路を切り替えたり、作動液を磁場の強弱に応じて粘性が変化する磁性流体とすること等の公知技術によって実現が可能である。
【0023】
リアマウント30(30L,30R)は、リアサブフレーム10の後端部を支持し、車幅方向に離間して1対が設けられている。
リアマウント30は、リアサブフレーム10に固定される円筒状の図示しない外筒、及び、この外筒の内径側にほぼ同心に挿入され、ボルト等によって車体側に締結される円筒状の図示しない内筒とを備えている。また、外筒の内周面と内筒の外周面との間には、図示しないゴム部が設けられている。ゴム部は、外筒及び内筒と加硫接着によって接合されている。
リアマウント30は、外筒の中心軸を鉛直方向にほぼ沿わせた状態でリアサブフレーム10に固定されている。
【0024】
ハウジング40は、後輪WRL、WRRが固定されるハブを回転可能に支持するハブベアリングを収容する部材(ハブベアリングハウジング)である。
【0025】
サスペンションアーム50はハウジング40を所定の軌跡で車体に対して揺動可能に支持するリンク群である。
サスペンションアーム50は、フロントラテラルアーム51、リアラテラルアーム52、トレーリングアーム53の他、図示しないアッパアームを有して構成されている。
【0026】
フロントラテラルアーム51、リアラテラルアーム52は、車幅方向にほぼ沿って延在するとともに、前後方向に離間して配置されている。
フロントラテラルアーム51、リアラテラルアーム52の車幅方向外側の端部はハウジング40に対して揺動可能に接続されている。
フロントラテラルアーム51、リアラテラルアーム52の車幅方向内側の端部は、リアサブフレーム10の側部に揺動可能に配置されている。
【0027】
トレーリングアーム53は、リアサブフレーム10の前端部とハウジング40の前端部とにそれぞれ揺動可能に接続されている。
トレーリングアーム53はハウジング40の主に前後方向の位置決めを行なうものである。
また、アッパアームは、フロントラテラルアーム51及びリアラテラルアーム52よりも上方でハウジング40とリアサブフレーム10とにそれぞれ揺動可能に連結され、主に後輪のキャンバー角を位置決めするものである。
これらの各アームは、両端部にゴムブッシュ等の弾性体ブッシュを有し、この弾性体ブッシュを介してリアサブフレーム10及びハウジング40にそれぞれ接続されている。
【0028】
図2は、実施例1におけるリアサブフレームマウントの剛性制御システムの構成を示すブロック図である。
リアサブフレームマウントの剛性制御システム100は、リアサブフレームマウント制御ユニット110、ステアリング舵角センサ120等を有して構成されている。
リアサブフレームマウント制御ユニット110は、ステアリング舵角センサ120の出力等に基いて、リアサブフレーム10の左右のフロントマウント20L、20Rの剛性(硬度)を個別に変化させるものである。
リアサブフレームマウント制御ユニット110は、CPU等の情報処理装置、RAMやROM等の記憶装置、入出力装置及びこれらを接続するバス等を有して構成されている。
【0029】
ステアリング舵角センサ120は、ドライバが操舵操作を行うステアリングホイールから、ステアリングギヤボックスに回転を伝達する回転軸であるステアリングシャフトに設けられ、ステアリング系の舵角を逐次検出するエンコーダを備えている。
【0030】
図3は、実施例1におけるリアサブフレームマウントの剛性制御を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
<ステップS01:旋回判定成立判断>
リアサブフレームマウント制御ユニット110は、ステアリング舵角センサ120の出力に基いて、車両が直進状態から旋回状態に推移したか否かを判定する。
例えば、リアサブフレームマウント制御ユニット110は、ステアリング舵角センサ120が検出した舵角が所定値以上であり、かつ、ステアリング舵角を時間微分した角速度が所定値以上である場合に、旋回判定を成立させることができる。
旋回判定が成立した場合はステップS02に進む。
一方、旋回判定が成立しない場合は、リターンし、再びステップS01に戻って以降の処理を繰り返す。
【0031】
<ステップS02:操舵方向判定>
リアサブフレームマウント制御ユニット110は、ステアリング舵角センサ120の出力に基いて、操舵方向(旋回方向)の左右を判別する。
その後、ステップS03に進む。
【0032】
<ステップS03:旋回内側マウント硬化>
リアサブフレームマウント制御ユニット110は、旋回方向に対して内側(右旋回であれば右側、左旋回であれば左側)となる側のフロントマウント20の剛性(硬度)を向上させる制御信号を出力する。
当該フロントマウント20は、制御信号に応じて、直ちに剛性(硬度)を向上させる。
例えば、図1に示すような左旋回の場合、左側のフロントマウント20Lを硬化させる。
その後、ステップS04に進む。
【0033】
<ステップS04:操舵検知後経過時間判断>
リアサブフレームマウント制御ユニット100は、ステップS01において操舵操作を検知し、旋回判定を成立させてからの経過時間が、予め設定された所定値(閾値)であるtを経過したか否かを判別する。
経過時間がtを経過している場合には、ステップS05に進み、経過していない場合には、ステップS04を繰り返す。
【0034】
<ステップS05:操舵切り増し判定>
リアサブフレームマウント制御ユニット100は、ステアリング舵角センサ120の出力に基いて、ドライバによるステアリング切り増し操作が行なわれたか否かを判別する。
例えば、従前の状態に対して、ステアリング舵角が増加し、ステアリング舵角速度が所定値以上である場合に、切り増し判定を成立させることができる。
そして、切り増し判定が成立しない場合はステップS07に進み、成立した場合はステップS06に進む。
【0035】
<ステップS06:切り増し判定後経過時間判断>
リアサブフレームマウント制御ユニット100は、ステップS05において切り増し操作を検知し、切り増し判定を成立させてからの経過時間が、予め設定された所定値(閾値)であるt’を経過したか否かを判別する。
経過時間がt’を経過している場合には、ステップS07に進み、経過していない場合には、ステップS06を繰り返す。
【0036】
<ステップS07:旋回内側マウント硬化戻し(軟化)>
リアサブフレームマウント制御ユニット100は、ステップS03において硬化させた側のフロントマウント20の剛性(硬度)を従前の状態に戻し(軟化させ)一連の処理を終了(リターン)する。
【0037】
以下、上述した実施例1の効果を、以下説明する本発明の比較例と対比して説明する。
なお、以下説明する比較例及び実施例2において、実施例1と実質的に同様の箇所については同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
比較例1のリアサスペンション装置は、フロントマウント20に剛性可変機構を設けていないものである。
【0038】
図4は、実施例1及び比較例のリアサスペンション装置を有する車両における旋回初期の車体ヨーレート及びリアサスペンションアーム荷重の推移の一例を模式的に示すグラフである。
図4において、ステアリング舵角(実施例1、比較例共通)、実施例1の車体ヨーレート(車体挙動)、フロントラテラルアーム51の荷重、比較例の車体ヨーレート、フロントラテラルアーム51の荷重を、それぞれ実線、破線、一点鎖線、二点鎖線、三点鎖線で図示している。
なお、フロントラテラルアームの荷重は、図中上方が引張荷重であり、下方が圧縮荷重である。
【0039】
比較例においては、旋回初期に前輪のコーナリングフォースによって車体が向きを変え始めた後、車体後部が車体前部に追従して旋回方向内側へ変位しようとすることから、フロントラテラルアームには一旦圧縮荷重が作用し、その後後輪タイヤの横力が発生し、荷重が反転して引張荷重に転じ、定常旋回状態に入っている。
【0040】
これに対し、実施例1によれば、旋回初期に旋回内側のフロントマウント20の車幅方向外側の半部21の剛性を向上することによって、リアサブフレーム10の車体に対する支持剛性を強固とし、車体後部の旋回内側への変位を抑制することによって、比較例に対して早期に後輪タイヤの横力を発生させて、荷重が引張側へ反転するタイミングを早くして転舵操作に対する車体挙動の応答性を向上することができる。
【実施例2】
【0041】
次に、本発明を適用したリアサスペンション装置の実施例2について説明する。
実施例2のリアサスペンション装置は、リアサブフレーム10のフロントマウント20に代えて、フロントラテラルアーム51とリアサブフレーム10との連結部に設けられる図示しない弾性体ブッシュを剛性可変とし、実施例1におけるフロントマウント20と同様の剛性可変制御を行なうものである。
以上説明した実施例2においても、上述した実施例1の効果と実質的に同様の効果を得ることができる。
【0042】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)旋回開始を検出する手段は、各実施例のようなステアリング舵角及び角速度を用いたものに限定されない。例えば、ステアリング舵角の角加速度を用いてもよい。
また、車体のヨーレートや、横加速度に基いて、旋回開始を検出してもよい。
また、例えばカーナビゲーション装置等の測位装置や、ステレオカメラ等の外界認識装置の出力から、直進状態から旋回状態への推移を予測して、弾性体マウント、弾性体ブッシュの剛性を向上してもよい。
)実施例2のリアサスペンション装置のサスペンションアームは、車体側の端部が車体に弾性体マウントを介して装着されたリアサブフレームに取り付けられているが、車体に対して弾性部材を介さずに取り付けられたサブフレーム、クロスメンバや、モノコック車体に直接設けられたブラケットに取り付けるようにしてもよい。また、サスペンション形式も特に限定されない。
【符号の説明】
【0043】
FL,WFR 前輪
RL,WRR 後輪
10 リアサブフレーム
20(20L,20R) フロントマウント
30(30L,30R) リアマウント
40(40L,40R) ハウジング
50 サスペンションアーム
51(51L,51R) フロントラテラルアーム
52(52L,52R) リアラテラルアーム
53(53L,53R) トレーリングアーム
100 剛性制御システム
110 リアサブフレームマウント制御ユニット
120 ステアリング舵角センサ
図1
図2
図3
図4