【実施例1】
【0018】
以下、本発明を適用したリアサスペンション装置の実施例1について説明する。
図1は、実施例1のリアサスペンション装置を備えた車両の模式的平面図である。
車両は、例えば4輪の乗用車等の自動車であって、操舵輪である左右前輪W
FL、W
FR、及び、左右後輪W
RL、W
RRを備えている。
【0019】
リアサスペンション装置は、リアサブフレーム10、フロントマウント20、リアマウント30、ハウジング40、サスペンションアーム50のほか、図示しないスプリング、ダンパ、スタビライザ等を有して構成されている。
なお、以下の説明において、左右対称に設けられる部材については、その左側、右側に、それぞれ符号L,Rを付して図示、説明する。
【0020】
リアサブフレーム10は、例えばスチールやアルミニウム合金等の金属材料によって、車両上方から見た形状がほぼ矩形の枠状に形成されている。
リアサブフレーム10は、車体に対して弾性体マウントであるフロントマウント20、及び、リアマウント30を介してフローティング状態で装着されている。
【0021】
フロントマウント20(20L,20R)は、リアサブフレーム10の前端部を支持し、車幅方向に離間して1対が設けられている。
フロントマウント20は、リアサブフレーム10に固定される円筒状の図示しない外筒、及び、この外筒の内径側にほぼ同心に挿入され、ボルト等によって車体側に締結される円筒状の図示しない内筒とを備えている。また、外筒の内周面と内筒の外周面との間には、図示しないゴム部が設けられている。ゴム部は、外筒及び内筒と加硫接着によって接合されている。
フロントマウント20は、外筒の中心軸を鉛直方向にほぼ沿わせた状態でリアサブフレーム10に固定されている。
【0022】
フロントマウント20(20L,20R)は、車幅方向外側の半部21(21L,21R:
図1において黒く図示した部分)における車幅方向の荷重に沿った圧縮剛性を、左右独立して変化可能な可変剛性マウントとなっている。
このような剛性の変化は、例えば、フロントマウント20L,20Rを液封マウントとして、作動液圧力や作動液流路を切り替えたり、作動液を磁場の強弱に応じて粘性が変化する磁性流体とすること等の公知技術によって実現が可能である。
【0023】
リアマウント30(30L,30R)は、リアサブフレーム10の後端部を支持し、車幅方向に離間して1対が設けられている。
リアマウント30は、リアサブフレーム10に固定される円筒状の図示しない外筒、及び、この外筒の内径側にほぼ同心に挿入され、ボルト等によって車体側に締結される円筒状の図示しない内筒とを備えている。また、外筒の内周面と内筒の外周面との間には、図示しないゴム部が設けられている。ゴム部は、外筒及び内筒と加硫接着によって接合されている。
リアマウント30は、外筒の中心軸を鉛直方向にほぼ沿わせた状態でリアサブフレーム10に固定されている。
【0024】
ハウジング40は、後輪W
RL、W
RRが固定されるハブを回転可能に支持するハブベアリングを収容する部材(ハブベアリングハウジング)である。
【0025】
サスペンションアーム50はハウジング40を所定の軌跡で車体に対して揺動可能に支持するリンク群である。
サスペンションアーム50は、フロントラテラルアーム51、リアラテラルアーム52、トレーリングアーム53の他、図示しないアッパアームを有して構成されている。
【0026】
フロントラテラルアーム51、リアラテラルアーム52は、車幅方向にほぼ沿って延在するとともに、前後方向に離間して配置されている。
フロントラテラルアーム51、リアラテラルアーム52の車幅方向外側の端部はハウジング40に対して揺動可能に接続されている。
フロントラテラルアーム51、リアラテラルアーム52の車幅方向内側の端部は、リアサブフレーム10の側部に揺動可能に配置されている。
【0027】
トレーリングアーム53は、リアサブフレーム10の前端部とハウジング40の前端部とにそれぞれ揺動可能に接続されている。
トレーリングアーム53はハウジング40の主に前後方向の位置決めを行なうものである。
また、アッパアームは、フロントラテラルアーム51及びリアラテラルアーム52よりも上方でハウジング40とリアサブフレーム10とにそれぞれ揺動可能に連結され、主に後輪のキャンバー角を位置決めするものである。
これらの各アームは、両端部にゴムブッシュ等の弾性体ブッシュを有し、この弾性体ブッシュを介してリアサブフレーム10及びハウジング40にそれぞれ接続されている。
【0028】
図2は、実施例1におけるリアサブフレームマウントの剛性制御システムの構成を示すブロック図である。
リアサブフレームマウントの剛性制御システム100は、リアサブフレームマウント制御ユニット110、ステアリング舵角センサ120等を有して構成されている。
リアサブフレームマウント制御ユニット110は、ステアリング舵角センサ120の出力等に基いて、リアサブフレーム10の左右のフロントマウント20L、20Rの剛性(硬度)を個別に変化させるものである。
リアサブフレームマウント制御ユニット110は、CPU等の情報処理装置、RAMやROM等の記憶装置、入出力装置及びこれらを接続するバス等を有して構成されている。
【0029】
ステアリング舵角センサ120は、ドライバが操舵操作を行うステアリングホイールから、ステアリングギヤボックスに回転を伝達する回転軸であるステアリングシャフトに設けられ、ステアリング系の舵角を逐次検出するエンコーダを備えている。
【0030】
図3は、実施例1におけるリアサブフレームマウントの剛性制御を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
<ステップS01:旋回判定成立判断>
リアサブフレームマウント制御ユニット110は、ステアリング舵角センサ120の出力に基いて、車両が直進状態から旋回状態に推移したか否かを判定する。
例えば、リアサブフレームマウント制御ユニット110は、ステアリング舵角センサ120が検出した舵角が所定値以上であり、かつ、ステアリング舵角を時間微分した角速度が所定値以上である場合に、旋回判定を成立させることができる。
旋回判定が成立した場合はステップS02に進む。
一方、旋回判定が成立しない場合は、リターンし、再びステップS01に戻って以降の処理を繰り返す。
【0031】
<ステップS02:操舵方向判定>
リアサブフレームマウント制御ユニット110は、ステアリング舵角センサ120の出力に基いて、操舵方向(旋回方向)の左右を判別する。
その後、ステップS03に進む。
【0032】
<ステップS03:旋回内側マウント硬化>
リアサブフレームマウント制御ユニット110は、旋回方向に対して内側(右旋回であれば右側、左旋回であれば左側)となる側のフロントマウント20の剛性(硬度)を向上させる制御信号を出力する。
当該フロントマウント20は、制御信号に応じて、直ちに剛性(硬度)を向上させる。
例えば、
図1に示すような左旋回の場合、左側のフロントマウント20Lを硬化させる。
その後、ステップS04に進む。
【0033】
<ステップS04:操舵検知後経過時間判断>
リアサブフレームマウント制御ユニット100は、ステップS01において操舵操作を検知し、旋回判定を成立させてからの経過時間が、予め設定された所定値(閾値)であるtを経過したか否かを判別する。
経過時間がtを経過している場合には、ステップS05に進み、経過していない場合には、ステップS04を繰り返す。
【0034】
<ステップS05:操舵切り増し判定>
リアサブフレームマウント制御ユニット100は、ステアリング舵角センサ120の出力に基いて、ドライバによるステアリング切り増し操作が行なわれたか否かを判別する。
例えば、従前の状態に対して、ステアリング舵角が増加し、ステアリング舵角速度が所定値以上である場合に、切り増し判定を成立させることができる。
そして、切り増し判定が成立しない場合はステップS07に進み、成立した場合はステップS06に進む。
【0035】
<ステップS06:切り増し判定後経過時間判断>
リアサブフレームマウント制御ユニット100は、ステップS05において切り増し操作を検知し、切り増し判定を成立させてからの経過時間が、予め設定された所定値(閾値)であるt’を経過したか否かを判別する。
経過時間がt’を経過している場合には、ステップS07に進み、経過していない場合には、ステップS06を繰り返す。
【0036】
<ステップS07:旋回内側マウント硬化戻し(軟化)>
リアサブフレームマウント制御ユニット100は、ステップS03において硬化させた側のフロントマウント20の剛性(硬度)を従前の状態に戻し(軟化させ)一連の処理を終了(リターン)する。
【0037】
以下、上述した実施例1の効果を、以下説明する本発明の比較例と対比して説明する。
なお、以下説明する比較例及び実施例2において、実施例1と実質的に同様の箇所については同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
比較例1のリアサスペンション装置は、フロントマウント20に剛性可変機構を設けていないものである。
【0038】
図4は、実施例1及び比較例のリアサスペンション装置を有する車両における旋回初期の車体ヨーレート及びリアサスペンションアーム荷重の推移の一例を模式的に示すグラフである。
図4において、ステアリング舵角(実施例1、比較例共通)、実施例1の車体ヨーレート(車体挙動)、フロントラテラルアーム51の荷重、比較例の車体ヨーレート、フロントラテラルアーム51の荷重を、それぞれ実線、破線、一点鎖線、二点鎖線、三点鎖線で図示している。
なお、フロントラテラルアームの荷重は、図中上方が引張荷重であり、下方が圧縮荷重である。
【0039】
比較例においては、旋回初期に前輪のコーナリングフォースによって車体が向きを変え始めた後、車体後部が車体前部に追従して旋回方向内側へ変位しようとすることから、フロントラテラルアームには一旦圧縮荷重が作用し、その後後輪タイヤの横力が発生し、荷重が反転して引張荷重に転じ、定常旋回状態に入っている。
【0040】
これに対し、実施例1によれば、旋回初期に旋回内側のフロントマウント20の車幅方向外側の半部21の剛性を向上することによって、リアサブフレーム10の車体に対する支持剛性を強固とし、車体後部の旋回内側への変位を抑制することによって、比較例に対して早期に後輪タイヤの横力を発生させて、荷重が引張側へ反転するタイミングを早くして転舵操作に対する車体挙動の応答性を向上することができる。