特許第6017830号(P6017830)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6017830
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/17 20160101AFI20161020BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20161020BHJP
   B60K 6/485 20071001ALI20161020BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20161020BHJP
   F02N 11/08 20060101ALI20161020BHJP
   B60L 11/14 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   B60W20/17
   B60W10/08 900
   B60K6/485
   B60L15/20 J
   F02N11/08 H
   B60L11/14
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-109172(P2012-109172)
(22)【出願日】2012年5月11日
(65)【公開番号】特開2013-233910(P2013-233910A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2015年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社日本自動車部品総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099645
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100104765
【弁理士】
【氏名又は名称】江上 達夫
(74)【代理人】
【識別番号】100107331
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 聡延
(72)【発明者】
【氏名】前川 仁之
(72)【発明者】
【氏名】武並 進
(72)【発明者】
【氏名】山口 卓也
【審査官】 ▲高▼木 真顕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−067216(JP,A)
【文献】 特開2010−014492(JP,A)
【文献】 特開2003−301731(JP,A)
【文献】 特開2011−230707(JP,A)
【文献】 特開2003−284207(JP,A)
【文献】 特開2009−029212(JP,A)
【文献】 特開2010−125993(JP,A)
【文献】 特開2013−169953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 − 20/50
B60K 6/20 − 6/547
B60L 11/00 − 11/18
B60L 15/00 − 15/42
F02D 29/00 − 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、電動機と、前記内燃機関と前記電動機との間の動力伝達経路に設けられ、弾性的な捩れを許容する弾性緩衝機構と備えたハイブリッド車両に適用され、前記電動機が出力するトルクを利用して前記内燃機関を始動させるハイブリッド車両の制御装置であって、
前記電動機と前記弾性緩衝機構との間のトルクに基づいて前記弾性緩衝機構の捩れ角を算出する捩れ角算出手段と、前記捩れ角算出手段の算出結果に基づいて前記弾性緩衝機構の捩れ角の時間的変動を特定し、特定された前記時間的変動と逆位相でかつ前記時間的変動に対応する大きさのトルクが前記電動機から出力されるように、前記電動機に与えるべき指令トルクを補正するトルク補正手段と、前記トルク補正手段にて補正された前記指令トルクに基づいて前記電動機を制御する電動機制御手段と、を備え、
前記トルク補正手段は、前記捩れ角の前記時間的変動に基づいて補正トルクを算出し、補正前の基礎となる基本トルクに前記補正トルクを加えることにより前記指令トルクを補正することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記電動機の角加速度に基づいて前記電動機の慣性トルクを算出し、前記電動機の出力トルクから当該慣性トルクを差し引くことによって、前記電動機と前記弾性緩衝機構との間のトルクを算出するトルク算出手段を更に備えた請求項1に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行用動力源として内燃機関と電動機とが設けられたハイブリッド車両に適用される制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両の制御装置として、内燃機関の始動要求から始動完了までの間に電動機に与えるトルク指令値を、トーショナルダンパから駆動輪までの振動系で発生する捩り振動の周期と一致する長さの所定期間にその捩り振動の励起を抑制可能な所定量だけ増加又は減少するように設定するものが知られている(特許文献1)。その他、本発明に関連する先行技術文献として特許文献2が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−137823号公報
【特許文献2】特開2010−14492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の制御装置は、トーショナルダンパから駆動輪までの振動系で発生する捩り振動の励起を抑制可能なようにトルク指令値を設定しているが、トーショナルダンパ等の弾性緩衝機構の捩れ変動に対する対策が十分でない。すなわち、ハイブリッド車両の振動やショックへの影響が高い捩り振動は、内燃機関のクランキング時の様々な要因により多数存在する可能性があり、これらを全て抽出するのは困難である。また、トーショナルダンパの特性の経時変化などにより、トーショナルダンパから駆動輪までの振動系全体のロールとトーショナルダンパの捩れとに起因した捩り振動の周期が変化する可能性がある。そのため特許文献1の制御装置では、こうした捩り振動を抑制できないおそれがある。
【0005】
捩り振動の内燃機関のクランクシャフトのトルク脈動とその捩れ変動は周期が異なるため、特許文献1の装置のように、クランクシャフトのトルク脈動に対応して電動機のトルク制御を行っても、タイミングによっては弾性緩衝機構の捩れを増幅させ振動を励起する可能性もある。
【0006】
そこで、本発明は、弾性緩衝機構の捩れ変動を原因とした振動の励起を抑制することによって内燃機関の始動時の振動を低減できるハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のハイブリッド車両の制御装置は、内燃機関と、電動機と、前記内燃機関と前記電動機との間の動力伝達経路に設けられ、弾性的な捩れを許容する弾性緩衝機構と備えたハイブリッド車両に適用され、前記電動機が出力するトルクを利用して前記内燃機関を始動させるハイブリッド車両の制御装置であって、前記電動機と前記弾性緩衝機構との間のトルクに基づいて前記弾性緩衝機構の捩れ角を算出する捩れ角算出手段と、前記捩れ角算出手段の算出結果に基づいて前記弾性緩衝機構の捩れ角の時間的変動を特定し、特定された前記時間的変動と逆位相でかつ前記時間的変動に対応する大きさのトルクが前記電動機から出力されるように、前記電動機に与えるべき指令トルクを補正するトルク補正手段と、前記トルク補正手段にて補正された前記指令トルクに基づいて前記電動機を制御する電動機制御手段と、を備え、前記トルク補正手段は、前記捩れ角の前記時間的変動に基づいて補正トルクを算出し、補正前の基礎となる基本トルクに前記補正トルクを加えることにより前記指令トルクを補正するものである(請求項1)。
【0008】
この制御装置によれば、内燃機関の始動時において、弾性緩衝機構の捩れ角の時間的変動を特定し、その時間的変動と逆位相のトルクが電動機から出力されるように指令トルクを補正する。そのため、電動機によって内燃機関を始動する際に、弾性緩衝機構の捩れ変動を打ち消す方向に電動機からトルクが出力される。これにより、弾性緩衝機構の捩れ変動を原因とした振動の励起を抑制することができるから、内燃機関の始動時の振動を低減できる。
【0009】
本発明の制御装置の一態様において、前記電動機の角加速度に基づいて前記電動機の慣性トルクを算出し、前記電動機の出力トルクから当該慣性トルクを差し引くことによって、前記電動機と前記弾性緩衝機構との間のトルクを算出するトルク算出手段を更に備えてもよい(請求項2)。この態様によれば、電動機の出力トルクから、電動機の角加速度に基づいて算出された電動機の慣性トルクを差し引くことによって、電動機と弾性緩衝機構との間のトルクを算出できる。そのため、当該トルクを測定する装置を設ける必要がないので部品点数を削減できる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明の制御装置によれば、弾性緩衝機構の捩れ角の時間的変動と逆位相のトルクが電動機から出力されるように指令トルクを補正するため、弾性緩衝機構の捩れ変動を原因とした振動の励起を抑制することができるから、内燃機関の始動時の振動を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一形態に係るハイブリッド車両の全体構成を示した図。
図2】制御ルーチンの一例を示したフローチャート。
図3】インプットシャフトトルクとトーショナルダンパの捩れ角との対応関係を特定したマップを説明する図。
図4】補正トルクと捩れ角変動量との対応関係を特定したマップを説明する図。
図5】電動機の指令トルク、トーショナルダンパの捩れ角及び車両振動の時間的変化を示したタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に示したように、本発明の一形態に係るハイブリッド車両1は、走行用動力源として内燃機関2と電動機3とを備えている。内燃機関2は図示しない複数の気筒を有したレシプロ式の多気筒内燃機関として構成されている。内燃機関2と電動機3とは弾性緩衝機構としてのトーショナルダンパ4を介して連結されている。具体的には、内燃機関2のクランクシャフト5がトーショナルダンパ4の入力側に、電動機3のインプットシャフト6がトーショナルダンパ4の出力側にそれぞれ連結されることにより、内燃機関2と電動機3とが連結されている。内燃機関2と電動機3との間の動力伝達経路に配置されたトーショナルダンパ4は弾性的な捩れを許容する周知の構造を持っている。
【0013】
インプットシャフト6は電動機3を貫くように両側に延びている。インプットシャフト6には不図示のロータが固定されており、そのロータの外周に不図示のステータが配置されている。インプットシャフト6の一方の側(図の右側)にはその角加速度に応じた信号を出力する角加速度検出装置7が設けられている。インプットシャフト6の他方の側(図の左側)は減速機8に連結されている。減速機8は複数のギアを有するギア列8aを有し、そのギア列8aによってインプットシャフト6の回転速度を減速する。減速機8から出力されたトルクはディファレンシャル機構9に伝達される。ディファレンシャル機構9は左右の駆動輪Dwが連結された車軸10に配置され、ディファレンシャル機構9に入力されたトルクを左右の駆動輪Dwに分配する。
【0014】
内燃機関2及び電動機3のそれぞれの動作は電子制御装置(ECU)20にて制御される。ECU20はコンピュータとして構成されており、主演算装置としてのマイクロプロセッサ及びその動作に必要なRAM、ROM等の記憶装置を含む周辺機器を備えている。ECU20は、例えばハイブリッド車両1の走行モードを電動機3のみを走行用動力源とするEVモードや内燃機関2及び電動機3の両者を走行用動力源とするハイブリッドモードに切り替えるように内燃機関2及び電動機3のそれぞれの動作を制御する。ECU20には、上述した角加速度検出装置7の信号が入力される他、ハイブリッド車両1の制御に必要な各種の情報、例えばハイブリッド車両1の車速、内燃機関2の回転速度、並びに電動機3の回転速度及びトルク等が様々なセンサ類の出力信号として入力される。
【0015】
本形態は、EVモードでの走行中又は停車中に内燃機関2を電動機3の動力を利用して始動させる際に実施する始動制御に特徴がある。図2の制御ルーチンのプログラムはECU20が記憶しており適時に読み出されて所定間隔で繰り返し実行される。
【0016】
ステップS101において、ECU20は内燃機関2の始動要求の有無を判定する。この始動要求はドライバによるイグニッションスイッチの操作等の始動操作を検知した場合やEV走行モード中に要求駆動力の大きさが所定の閾値を超えた場合等の始動開始条件が成立した場合に発生する。始動要求が有った場合はステップS102に進み、そうでない場合は以後の処理をスキップしてルーチンを終了する。
【0017】
ステップS102において、ECU20は電動機3から出力させるべき指令トルクの補正前の基礎となる基本トルクTbを設定する。基本トルクTbは電動機3によって内燃機関2のクランキング速度が始動可能になる値であり始動条件に応じて適宜設定される。
【0018】
ステップS103において、ECU20は角加速度検出装置7の信号を参照して、インプットシャフト6、即ち電動機3の角加速度αを取得する。
【0019】
ステップS104において、ECU20はステップS103で取得した角加速度αに基づいてインプットシャフト6のトルク、即ちインプットシャフトトルクTiを算出する。インプットシャフトトルクTiは、式(1)に示すように、電動機3の出力トルクTeから電動機3の慣性トルクTidを差し引いたものである。電動機3の慣性トルクTidは式(2)により算出される。なお、式(2)のIは電動機3の慣性モーメントである。このように、電動機3の出力トルクTeから、電動機3の角加速度αに基づいて算出された電動機3の慣性トルクTidを差し引くことによって、電動機3とトーショナルダンパ4との間のトルクであるインプットシャフトトルクTiを算出できる。そのため、当該トルクTiを測定する装置を設ける必要がないので部品点数を削減できる。
【0020】
Ti=Te−Tid (1)
Tid=I・α (2)
【0021】
ステップS105において、ECU20はトーショナルダンパ4の捩れ角θを算出する。この捩れ角θはインプットシャフトトルクTiの大きさと相関する。そこで、図3に示したように、捩れ角θとインプットシャフトトルクTiとの対応関係を測定した実験値Daを基礎として作成され、インプットシャフトトルクTiを変数として捩れ角θを与える破線のマップMp1を予めECU20に記憶させておく。そして、ECU20はステップS104で算出したインプットシャフトトルクTiに対応する捩れ角θをマップMpに基づいて特定することにより、捩れ角θを算出する。ECU20は、ステップS105を実行することによって本発明に係る捩れ角算出手段として機能する。
【0022】
ステップS106において、ECU20は、基準時間Δt当たりの捩れ角θの時間的な変動として定義された捩れ角変動量Δθ/Δtを算出する。基準時間Δtは図2の制御ルーチンの演算間隔に相当する。したがって、この捩れ角変動量Δθ/Δtは、図2の制御ルーチンの前回の演算で得た捩れ角θと今回の演算で得た捩れ角θとの差分を意味する。捩れ角変動量Δθ/Δtは、捩れ角θが増加した場合に正の値となり、捩れ角θが減少した場合に負の値となる。
【0023】
ステップS107において、ECU20はステップS106で算出した捩れ角変動量Δθ/Δtに基づいて補正トルクTmを算出する。補正トルクTmは予め実験やシミュレーション結果に基づいて作成され、補正トルクTmと捩れ角変動量Δθ/Δtとの対応関係を特定した図4のマップMp2によって算出される。すなわち、ECU20はマップMp2を参照し、ステップS106で算出した捩れ角変動量Δθ/Δtに対応する補正トルクTmを特定することによって、補正トルクTmを設定する。
【0024】
ステップS108において、ECU20は指令トルクTを式(3)にて算出する。ECU20は上記ステップS107及びステップS108を実行することにより本発明に係るトルク補正手段として機能する。
【0025】
T=Tb+Tm (3)
【0026】
ステップS109において、ECU20はステップS108で算出した指令トルクTを電動機3に与えることによって電動機3を制御する。ECU20はステップS108を実行することにより本発明に係る電動機制御手段として機能する。
【0027】
ステップS110において、ECU20は内燃機関2が完爆に至ったか否かを判定する。完爆に至ったか否かは内燃機関2の回転速度が自律運転可能となる回転速度の閾値を超えたか否かに基づいて判定される。内燃機関2が完爆に至った場合はルーチンを終了し、そうでない場合は処理をステップS102に戻す。
【0028】
図4のマップMp2を参照すると理解できるように、捩れ角変動量Δθ/Δtが正の場合は補正トルクTmが負の値となり、捩れ角変動量Δθ/Δtが負の場合は補正トルクTmが正の値となる。したがって、電動機3に与える指令トルクTは、トーショナルダンパ4の捩れ角θが増加する場合に減少方向に補正され、トーショナルダンパ4の捩れ角θが減少する場合に増加方向に補正される。つまり、図2の制御ルーチンのステップS102〜ステップS109の処理を実行して指令トルクTを算出することにより、トーショナルダンパ4の捩れ角θの時間的変動と逆位相のトルクが電動機3から出力される(図5参照)。
【0029】
図5に示したように、ハイブリッド車両1によれば、内燃機関2の始動時においてトーショナルダンパ4の捩れ角θの時間的変動と逆位相のトルクが電動機3から出力されるように制御される。そのため、トーショナルダンパ4の捩れ変動を打ち消す方向に電動機3からトルクが出力される。これにより、トーショナルダンパ4の捩れ変動を原因とした振動の励起を抑制することができるから、図5に破線で示した従来例と比べて車両振動を低減することができる。
【0030】
本発明は上記の形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内において種々の形態にて実施できる。図1の形態は、内燃機関と電動機とがトーショナルダンパを介して機械的に連結されているものであるが、電動機が出力するトルクを利用して内燃機関を始動できる限りにおいて、トーショナルダンパと電動機との間に遊星歯車機構等の伝達機構が介在する形態で本発明を実施することもできる。
【符号の説明】
【0031】
1 ハイブリッド車両
2 内燃機関
3 電動機
4 トーショナルダンパ(弾性緩衝機構)
20 ECU(捩れ角算出手段、トルク補正手段、電動機制御手段)
図1
図2
図3
図4
図5