(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記保持材の前記ケーシングへの挿入が完了した時点から24時間以上の時間が経過した時点における前記保持力の、前記挿入が完了した時点から5分以内の時間が経過した時点における前記保持力に対する割合が120%以上である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の気体処理装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は、本実施形態に限られるものではない。
【0017】
まず、本実施形態の概要について説明する。
図1は、本実施形態に係る気体処理装置(以下、「本装置1」という。)の一例を示す説明図である。
図1に示すように、本装置1は、処理構造体20と、当該処理構造体20を収容する金属製のケーシング30と、当該処理構造体20と当該ケーシング30との間に配置される保持材10とを備えている。なお、
図1においては、説明の便宜のため、ケーシング30の一部を省略して、当該ケーシング30に収容されている処理構造体20及び保持材10を露出させて示している。
【0018】
図2は、本装置1を長手方向(
図1及び
図2に示す矢印Xの指す方向)に切断した断面の一例を示す説明図である。なお、
図1及び
図2において矢印Xは、本装置1内を、処理の対象とする気体が流通する方向を示す。
【0019】
本装置1は、気体の浄化等、気体を処理するために使用される。すなわち、本装置1は、例えば、気体に含まれる有害物質及び/又は粒子を除去するために使用される。具体的に、本装置1は、例えば、排気ガスを浄化する排気ガス処理装置である。この場合、本装置1は、例えば、内燃機関(ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等)から排出される排気ガスに含まれる有害物質及び/又は粒子を除去するために、自動車等の車両に設けられる。
【0020】
すなわち、本装置1は、例えば、自動車等の車両において排気ガスに含まれる有害物質を除去するために使用される触媒コンバータである。また、本装置1は、例えば、ディールエンジンの排気ガスに含まれる粒子を除去するために使用されるDPFである。
【0021】
処理構造体20は、気体を処理する機能を有する構造体である。すなわち、本装置1が触媒コンバータである場合、処理構造体20は、気体を浄化するための触媒と、当該触媒を担持する担体とを有する触媒担持体である。触媒は、例えば、排気ガス等の気体に含まれる有害物質(一酸化炭素、炭化水素、窒素酸化物等)を除去するための触媒である。より具体的に、触媒は、例えば、貴金属触媒(例えば、白金触媒)等の金属触媒である。触媒を担持する担体は、例えば、無機材料(例えば、コージェライト等のセラミックス)製の筒状成形体(例えば、円筒状のハニカム状成形体)である。
【0022】
また、本装置1が、DPF等の気体に含まれる粒子を除去するための装置である場合には、処理構造体20は、当該気体中の当該粒子を捕捉する多孔質体(例えば、フィルター)を有する構造体である。この場合、処理構造体20は、触媒をさらに含むこととしてもよいし、触媒を含まないこととしてもよい。
【0023】
ケーシング30は、内部に処理構造体20を収容可能な空間が形成された金属製の筒状体である。ケーシング30を構成する金属は、特に限られないが、例えば、ステンレス、鉄及びアルミニウムからなる群より選択されることとしてもよい。
【0024】
ケーシング30は、例えば、本装置1の長手方向に沿って2つに分割可能な筒状体であることとしてもよく、分割されない一体型の筒状体であることとしてもよい。本実施形態で示す例において、ケーシング30は、一体型の筒状体である。
【0025】
保持材10は、処理構造体20をケーシング30内に保持するために使用される。すなわち、保持材10は、ケーシング30と処理構造体20との間隙に圧入されることにより、当該処理構造体20を当該ケーシング30内に安定して保持する。
【0026】
保持材10には、例えば、本装置1において振動等により処理構造体20がケーシング30に衝突して破損することを回避するよう当該処理構造体20を安全に保持する機能と、未だ浄化されていない気体が当該処理構造体20とケーシング30との間隙から下流側に漏出しないよう当該間隙を封止する機能と、を兼ね備えることが要求される。また、本装置1内に排気ガス等の高温(例えば、200〜900℃)の気体が流通する場合、保持材10には、耐熱性及び断熱性を備えることが要求される。
【0027】
このため、保持材10は、無機繊維製の成形体である。すなわち、保持材10は、無機繊維を主成分として含む。具体的に、保持材10は、例えば、無機繊維を90質量%以上含む。なお、無機繊維は、予め加熱処理(焼成処理)されたものを使用することとしてもよい。無機繊維を予め加熱処理しておくことによって、当該無機繊維の耐熱性を向上させることができる。保持材10は、無機繊維に加えて、バインダー(有機バインダー及び/又は無機バインダー)を含むこととしてもよく、バインダー及び/又は充填材を含むこととしてもよい。
【0028】
保持材10の形状は、処理構造体20をケーシング30内に保持できれば特に限られない。すなわち、保持材10は、例えば、板状体(フィルム、シート、ブランケット、マット等)であることとしてもよく、筒状体であることとしてもよい。
【0029】
なお、板状の保持材10の一方端と他方端とは嵌合可能な対応する形状に形成されることとしてもよい。すなわち、
図1に示す例において、保持材10の一方端及び他方端は、対応する凸状及び凹状にそれぞれ形成されて、処理構造体20の外周に配置された当該保持材10の一方端と他方端とは嵌合されている。
【0030】
保持材10を構成する無機繊維製の成形体を製造する方法は、特に限られず、湿式法及び乾式法のいずれを使用することもできる。すなわち、この成形体は、例えば、脱水成形により製造される。この場合、まず、所定の形状を有する脱水成形用型内に、保持材10を構成するための無機繊維と、有機バインダー(例えば、ゴム、水溶性有機高分子化合物、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等)とを含む水性スラリーを流し込む。そして、脱水成形を行うことにより、型の形状に対応する形状の無機繊維製の成形体(湿式成形体)が得られる。さらに、この湿式成形体を、その嵩密度及び/又は坪量等の特性が所望の範囲となるように圧縮し、乾燥することにより、最終的に無機繊維製の成形体が得られる。
【0031】
また、保持材10を構成する無機繊維製の成形体は、例えば、集綿された無機繊維をニードル加工する乾式法により製造されることとしてもよい。すなわち、この場合、無機繊維製の成形体は、例えば、いわゆるブランケット、ニードルマット又は縫製マットとして製造される。
【0032】
そして、湿式法又は乾式法で製造された無機繊維製の成形体をそのまま保持材10として使用することとしてもよい。また、この無機繊維製の成形体を基部材として使用し、当該基部材に繊維シート(有機繊維及び/又は無機繊維から構成される織布又は不織布)を積層することにより、その外表面11の全部又は一部が当該繊維シートで覆われた保持材10を製造してもよい。
【0033】
本装置1は、処理構造体20及び保持材10をケーシング30内に配置することにより組み立てられる。すなわち、例えば、まず、処理構造体20の外周に保持材10を配置して、当該処理構造体20及び保持材10を含む組立体を作製する。具体的に、保持材10が板状である場合には、当該保持材10を処理構造体20の外周に巻き付けることにより、組立体を作製する。また、保持材10が筒状である場合には、当該保持材10の内空に処理構造体20を挿入することにより、組立体を作製する。
【0034】
次いで、この組立体をケーシング30内に配置する。すなわち、ケーシング30が、分割可能でない一体型である場合には、当該ケーシング30の長手方向の一方端の開口部分から、当該ケーシング30内に組立体を圧入する(いわゆるスタッフィング方式)。一方、ケーシング30が分割可能である場合、分割された当該ケーシング30の一部と他の一部とで組立体を挟み込み、次いで、当該ケーシング30を一体化する(いわゆるクラムシェル方式)。この一体化は、例えば、ボルト及びナット等の締付け部材の使用及び/又は溶接により行われる。
【0035】
そして、本実施形態に係る気体処理方法(以下、「本方法」という。)においては、上述したような本装置1を使用して、気体を処理する。すなわち、処理の対象となる気体を、本装置1の処理構造体20の内部に流通させることにより、当該気体を処理する。
【0036】
具体的に、
図1及び
図2に示す本装置1においては、矢印Xで示す方向に、排気ガス等の気体がケーシング30の一方端から流入し、当該気体は処理構造体20の内部を流通する間に浄化され、浄化された気体は当該ケーシング30の他方端から本装置1外に流出する。
【0037】
なお、自動車等の車両に配置された本装置1の一方端及び他方端には、排気ガス等の気体を上流側から本装置1に導く配管、及び浄化された気体を本装置1から下流側に導く配管がそれぞれ接続される。
【0038】
次に、本実施形態の詳細について説明する。気体処理装置において、ケーシング30内に処理構造体20を保持する力(保持力)を増大させる技術的手段としては、当該ケーシング30と保持材10との間の摩擦抵抗を増大させる技術的手段、及び/又は当該保持材10の径方向への膨張による押圧力(垂直抗力)を増大させる技術的手段が考えられる。
【0039】
この点、本発明の発明者らは、保持材10による押圧力に着目した。すなわち、ケーシング30内に保持材10を挿入するキャニング時において、当該保持材10は、圧縮された状態で当該ケーシング30内に挿入される。このため、保持材10のケーシングへの挿入が完了した後(キャニング完了後)、当該保持材10は、当該ケーシング30内で膨張する。その結果、保持材10は、ケーシング30内において、処理構造体20を径方向内側へ、当該ケーシング30を径方向外側へ、それぞれ押圧することとなる。したがって、この保持材10による押圧力を増大させることができれば、気体処理装置における保持力を増大させることができる。
【0040】
そこで、本発明の発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、キャニング時においては、保持材10が圧縮され、且つその外表面11がケーシング30の内表面31と接触した状態で、当該ケーシング30と処理構造体20との間に挿入されることにより、当該保持材10を構成する無機繊維が損傷を受け、当該損傷によって、キャニング後の当該保持材10の膨張が低減され、その結果、当該保持材10による押圧力も低減されてしまうという独自の知見を得た。
【0041】
そして、発明者らは、保持材10を構成する無機繊維のキャニング時における損傷を低減することにより、キャニング後の当該保持材10による押圧力を効果的に増加させ、その結果、気体処理装置における保持力を効果的に増加させることができることを独自に見出した。
【0042】
このような発明者ら独自の知見に基づく本装置1は、例えば、保持材10のケーシング30への挿入が完了した時点から24時間以上の時間が経過した時点における当該保持材10の単位面積あたりの保持力の、当該完了した時点から5分以内の時間が経過した時点における当該保持力に対する割合(以下、「保持力回復率」という。)が120%以上である。
【0043】
すなわち、本装置1の製造において、キャニングが完了した時点から5分以内の時間が経過した時点で保持力F1を測定し、その後、当該キャニング完了時点から24時間以上の時間が経過した時点で保持力F2を測定した場合に、前者の保持力F1に対する後者の保持力F2の割合(F2/F1×100)である保持力回復率が120%以上となる。
【0044】
本装置1において、保持力回復率は、例えば、125%以上であることとしてもよく、130%以上であることとしてもよい。保持力回復率の上限値は特に限られないが、当該保持力回復率は、例えば、300%以下であることとしてもよい。
【0045】
なお、キャニングが完了した時点は、例えば、本装置1において最終的に保持材10が配置されるべきケーシング30内の所定の位置に、当該保持材10が配置された時点である。
【0046】
また、キャニング完了時点から5分以内の時間が経過した時点は、当該キャニング完了時点から0〜5分の範囲内の時間が経過した時点であれば特に限られず、例えば、当該キャニング完了時点から1〜5分の範囲内の時間が経過した時点であることとしてもよい。
【0047】
また、キャニング完了時点から24時間以上の時間が経過した時点は、当該キャニング完了時点から24時間以上の時間が経過した時点であれば特に限られず、例えば、当該キャニング完了時点から24〜200時間の範囲内の時間が経過した時点であることとしてもよく、当該キャニング完了時点から24〜100時間の範囲内の時間が経過した時点であることとしてもよく、当該キャニング完了時点から50〜100時間の範囲内の時間が経過した時点であることとしてもよい。
【0048】
保持材10の単位面積あたりの保持力(N/cm
2)は、保持材10の外表面11の単位面積あたりの保持力である。すなわち、この保持力は、本装置1において、処理構造体20を長手方向に押した場合に、当該処理構造体20をケーシング30から脱落させるために要する力の最大値(N)を、保持材10の外表面11の面積(cm
2)で除することにより算出される。
【0049】
処理構造体20をケーシング30から脱落させるために要する力の最大値は、本装置1において、当該処理構造体20を長手方向に押した場合に、当該ケーシング30内で当該処理構造体20が当該長手方向に動き始めるまでの間に測定された、当該処理構造体20を押す力の最大値である。
【0050】
本装置1における保持材10の嵩密度は、例えば、0.15〜0.7g/cm
3であることとしてもよく、0.20〜0.50g/cm
3であることとしてもよく、0.25〜0.50g/cm
3であることとしてもよい。
【0051】
また、保持材10の嵩密度は、比較的高い所定の範囲であることとしてもよい。すなわち、保持材10の嵩密度は、例えば、0.35g/cm
3以上、0.45g/cm
3以下(0.35〜0.45g/cm
3)であることとしてもよい。この場合、保持材10の嵩密度は、例えば、0.37g/cm
3以上であることとしてもよく、0.39g/cm
3以上であることとしてもよく、0.40g/cm
3以上であることとしてもよい。
【0052】
ここで、保持材10の嵩密度が増加するほど、保持力も増加する傾向がある。しかしながら、保持材10の嵩密度が大きすぎると、例えば、当該保持材10のケーシング30への挿入が困難となる、気体処理装置の重量が大きくなりすぎる、当該保持材10の製造に必要な無機繊維の量が増大する、さらに、当該保持材10を構成する無機繊維のキャニング時における損傷の程度が大きくなるといった不都合が生じる。
【0053】
この点、保持材10の嵩密度が上述の範囲であることによって、本装置1においては、上記のような不都合を効果的に回避しつつ、十分な保持力を発揮することができる。
【0054】
また、保持材10を構成する無機繊維は、特に限られないが、例えば、シリカ繊維又はアルミナ繊維であることとしてもよい。すなわち、本装置1は、シリカ繊維製の保持材10又はアルミナ繊維製の保持材10を備えることとしてもよい。
【0055】
シリカ繊維は、シリカ(SiO
2)を主成分とする非晶質繊維又は多結晶質繊維である。シリカ繊維は、例えば、シリカを90質量%以上含む無機繊維であることとしてもよい。シリカ繊維におけるシリカの含有量は、例えば、93質量%以上であることとしてもよく、96質量%以上であることとしてもよく、97質量%以上であることとしてもよい。シリカ繊維は、予め加熱処理(焼成処理)されたものであることとしてもよい。シリカ繊維を予め加熱処理しておくことによって、当該シリカ繊維の耐熱性を向上させることができる。すなわち、例えば、シリカ繊維が、ガラス繊維に酸処理を施すことによりアルカリ成分を取り除き、シリカ成分を高めたものである場合、当該シリカ繊維を加熱処理することによって、上記酸処理により生成された微細な空隙が、当該シリカ繊維の熱収縮により埋められ、その耐熱性を向上させることができる。
【0056】
保持材10がシリカ繊維製である場合、本装置1においては、例えば、当該保持材10の嵩密度が0.35g/cm
3以上であって、保持力回復率が125%以上であることとしてもよく、当該保持材10の嵩密度が0.40g/cm
3以上であって、保持力回復率が130%以上であることとしてもよい。
【0057】
アルミナ繊維は、アルミナ(Al
2O
3)を主成分とする多結晶質繊維である。アルミナ繊維は、例えば、アルミナを70質量%以上含むこととしてもよい。アルミナ繊維におけるアルミナの含有量は、例えば、80質量%以上であることとしてもよく、90質量%以上であることとしてもよく、95質量%以上であることとしてもよく、96質量%以上であることとしてもよい。
【0058】
保持材10がアルミナ繊維製である場合、本装置1においては、例えば、当該保持材10の嵩密度が0.35g/cm
3以上又は0.40g/cm
3以上であって、保持力回復率が125%以上であることとしてもよい。
【0059】
シリカ繊維は、剛性が比較的高いため、保持力を増大させることが期待される一方で、キャニング時に損傷を受けやすいと考えられる。このため、従来、保持材10がシリカ繊維製である場合、当該保持材10の嵩密度を増大させても、必ずしも効果的に保持力を増大させることはできなかった。保持材10がアルミナ繊維製である場合にも同様の傾向が見られた。
【0060】
この点、本発明の発明者らは、上述のとおり、保持材10を構成する無機繊維のキャニング時における損傷を低減することにより、キャニング完了後の当該保持材10による押圧力を効果的に増加させ、その結果、気体処理装置における保持力を効果的に増加させることができることを独自に見出した。
【0061】
なお、保持材10を構成する無機繊維のキャニング時における損傷の低減は、例えば、キャニング時における保持材10とケーシング30との摩擦抵抗を低減させることにより行う。すなわち、例えば、潤滑剤を使用してキャニングを行う。具体的に、例えば、保持材10の外表面11及び/又はケーシング30の内表面31に潤滑剤を塗布して、キャニングを行う。潤滑剤は、特に限られないが、例えば、液状の潤滑剤(例えば、水、界面活性剤を含む水溶液等)であることとしてもよい。この場合、キャニング後は、液状の潤滑剤を乾燥させ及び/又は固化させる。なお、キャニング時における保持材10とケーシング30との摩擦抵抗を低減させる方法は、当該摩擦抵抗を低減できるものであれば、潤滑剤の使用に限られず、例えば、上述した無機繊維製の成形体からなる基部材に積層する繊維シートとして、当該摩擦抵抗を低減するもの(例えば、好ましくは有機繊維から構成される織布又は不織布)を使用する方法や、保持材10の外表面11に、当該摩擦抵抗を低減するフッ素コーティングを施す方法が挙げられる。
【0062】
また、本装置1は、上述のような保持力回復率を示すか否かにかかわらず、例えば、保持材10は、シリカ繊維製であり、当該保持材10の嵩密度は、0.35g/cm
3以上、0.45g/cm
3以下であり、当該保持材10の単位面積あたりの保持力は、6.00N/cm
2以上であることとしてもよい。この場合、保持力は、例えば、6.10N/cm
2以上であることとしてもよい。
【0063】
また、本装置1は、上述のような保持力回復率を示すか否かにかかわらず、例えば、保持材10は、アルミナ繊維製であり、当該保持材10の嵩密度は、0.35g/cm
3以上、0.45g/cm
3以下であり、当該保持材10の単位面積あたりの保持力は、4.15N/cm
2以上であることとしてもよい。この場合、保持力は、例えば、4.20N/cm
2以上であることとしてもよい。
【0064】
すなわち、本願発明の発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、特に、保持材10の嵩密度が上記のように比較的高い範囲である場合において、保持材10を構成する無機繊維のキャニング時における損傷を低減することにより、キャニング後の当該保持材10による押圧力を効果的に増加させ、その結果、気体処理装置における保持力を効果的に増加させることができることを独自に見出した。
【0065】
これらの場合もまた、保持材10の嵩密度は、例えば、0.37g/cm
3以上であることとしてもよく、0.39g/cm
3以上であることとしてもよく、0.40g/cm
3以上であることとしてもよい。
【0066】
すなわち、本装置1においては、例えば、シリカ繊維製の保持材10の嵩密度が0.40g/cm
3以上であり、保持力が6.10N/cm
2以上であることとしてもよい。また、本装置1においては、例えば、アルミナ繊維製の保持材10の嵩密度が0.40g/cm
3以上であり、保持力が4.15N/cm
2以上であることとしてもよい。
【0067】
また、本装置1は、さらに上述した保持力回復率を有することとしてもよい。すなわち、本装置1は、例えば、保持材10は、シリカ繊維製であり、当該保持材10の嵩密度は、0.35g/cm
3以上、0.45g/cm
3以下であり、当該保持材10の単位面積あたりの保持力は、6.00N/cm
2以上であり、保持力回復率が120%以上であることとしてもよい。
【0068】
この場合、本装置1においては、例えば、シリカ繊維製の保持材10の嵩密度が0.35g/cm
3以上であって、保持力回復率が125%以上であることとしてもよく、当該保持材10の嵩密度が0.40g/cm
3以上であって、保持力回復率が130%以上であることとしてもよい。
【0069】
また、本装置1は、例えば、保持材10は、アルミナ繊維製であり、当該保持材10の嵩密度は、0.35g/cm
3以上、0.45g/cm
3以下であり、当該保持材10の単位面積あたりの保持力は、4.15N/cm
2以上であり、保持力回復率が120%以上であることとしてもよい。
【0070】
この場合、本装置1においては、例えば、アルミナ繊維製の保持材10の嵩密度が0.35g/cm
3以上又は0.40g/cm
3以上であって、保持力回復率が125%以上であることとしてもよい。
【0071】
なお、上述した本装置1の保持力回復率、保持材10の嵩密度及び保持力は、本装置1が90℃以上の温度に晒される前に測定される。すなわち、保持材10が有機バインダーを含んで製造された場合には、本装置1の保持力回復率、保持材10の嵩密度及び保持力は、例えば、当該当該保持材10が90℃以上の温度に晒される(例えば、90℃以上の温度又は150℃以上の温度に1分以上晒される前)ことにより当該有機バインダーが焼失する前に測定される。また、本装置1が90℃以上の温度の気体の処理に使用される場合には、本装置1の保持力回復率、保持材10の嵩密度及び保持力は、例えば、本装置1を使用した当該気体の処理を開始する前(本装置1に対する当該気体の流通を開始する前)に測定される。もちろん、本装置1は、その製造後、90℃以上の温度に晒されることとしてもよい。
【0072】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【実施例】
【0073】
[保持材の製造]
無機繊維製の保持材10を湿式法で製造した。無機繊維としては、シリカ繊維(シリカ 97質量%、アルミナ 3質量%)又はアルミナ繊維(アルミナ96質量%、シリカ4質量%)を使用した。
【0074】
すなわち、実施例1においては、シリカ繊維を主成分として含有し、有機バインダー(アクリル樹脂)及び無機バインダー(アルミナゾル、シリカゾル等)が添加された水性スラリーを調製し、当該水性スラリーを脱水成形することにより、当該シリカ繊維製の保持材10を製造した。
【0075】
なお、後述するようにキャニング後の保持材の嵩密度を変えるため、嵩密度の異なる複数のマット状の保持材(嵩密度:1100〜1600g/cm
3、サイズ:375mm×80mm、厚さ8〜10mm)を製造した。
【0076】
また、実施例2においては、無機繊維として、シリカ繊維に代えて、アルミナ繊維を使用したこと以外は上述の実施例1と同様にして、嵩密度が1682g/cm
3であるマット状のアルミナ繊維製の保持材10(サイズ:375mm×80mm、厚さ10.1mm)を製造した。
【0077】
[気体処理装置の製造]
外径110mmの円筒状であるセラミックス製の処理構造体20と、上述のようにして製造した保持材10と、内径118mmの円筒状であるステンレス製のケーシング30と、を備えた本装置1を製造した。
【0078】
すなわち、まず、処理構造体20の外周面にマット状の保持材10を巻き付けることにより組立体を作製した。次いで、保持材10の外表面11の全体に、界面活性剤を含む水溶液からなる潤滑剤を塗布した。そして、保持材10が圧縮された状態で組立体をケーシング30の長手方向一方端から挿入し、本装置1を製造した。なお、実施例1では、厚さの異なる保持材10を使用することにより、キャニング後の保持材10の嵩密度が異なる4種類の本装置1を製造した。
【0079】
[保持力及びその回復率の評価]
図3に示すような試験装置40を使用して、キャニング後の保持力を評価した。この試
験装置40は、処理構造体20の長手方向(気体が流通する方向)の一方側の端面に載置されたステンレス製の円板である押出用治具41と、当該押出用治具41を介して当該処理構造体20を当該長手方向の他方側(
図3における下方側)に押す棒状の押し棒42と、を備えていた。
【0080】
そして、上述した本装置1の製造において、キャニングが完了した時点から1分が経過した時点で、押出用治具41を介して押し棒42で処理構造体20を長手方向に押し始め、当該処理構造体20がケーシング30内で動き始めるまでの間に要した荷重の最大値を押出荷重(N)として測定した。さらに、測定された押出荷重(N)を、保持材10の外表面11の面積(cm
2)で除することにより、当該保持材10の単位面積あたりの保持力(N/cm
2)を算出した。
【0081】
その後、キャニングが完了した時点から50〜100時間が経過した時点でも、同様にして、押出荷重(N)を測定し、保持力(N/cm
2)を算出した。そして、キャニングが完了した時点から50〜100時間が経過した時点における保持力の、当該キャニングが完了した時点から1分が経過した時点における保持力に対する割合を、保持力回復率(%)として算出した。
【0082】
また、比較の対象として、キャニング時に潤滑剤を使用しないこと以外は同様にして、気体処理装置を製造し、当該気体処理装置の保持力及びその回復率を評価した。
【0083】
[結果]
図4及び
図5には、それぞれ実施例1及び比較例1において、保持材の嵩密度(g/cm
3)が異なる複数の気体処理装置の各々について、保持力回復率(%)及びキャニング完了から50〜100時間が経過した時点の保持力(N/cm
2)を評価した結果を示す。
図6には、実施例2及び比較例2において、保持力回復率(%)及びキャニング完了から50〜100時間が経過した時点の保持力(N/cm
2)を評価した結果を示す。
【0084】
図7及び
図8には、保持材の嵩密度と、保持力回復率及び保持力との相関関係をそれぞれ示す。
図7及び
図8の横軸は保持材の嵩密度(g/cm
3)を示し、
図7の縦軸は保持力回復率(%)を示し、
図8の縦軸はキャニング完了から50〜100時間が経過した時点の保持力(N/cm
2)を示す。また、
図7及び
図8において、黒塗り丸印は実施例1の結果を示し、白抜き丸印は比較例1の結果を示し、黒塗り三角印は実施例2の結果を示し、白抜き三角印は比較例2の結果を示す。
【0085】
図4、
図5及び
図7に示すように、保持材がシリカ繊維製の場合、当該保持材の嵩密度が0.27〜0.43g/cm
3の範囲において、比較例1の保持力回復率は111%以下であったのに対し、実施例1の保持力回復率は、比較例1のそれより顕著に大きく、121%以上であった。
【0086】
また、
図4、
図5及び
図8に示すように、比較例1においては、保持材の嵩密度が0.27〜0.43(g/cm
3)の範囲において、保持力は5.94N/cm
2以下であったのに対し、実施例1においては、保持材の嵩密度が0.30g/cm
3超(0.39g/cm
3以上)の場合の保持力は6.01N/cm
2以上であり、さらに、保持材の嵩密度が0.39g/cm
3超(0.43g/cm
3)の場合の保持力は8.22N/cm
2であり、顕著に高かった。
【0087】
ここで、
図8に示すように、実施例1及び比較例1のいずれにおいても、保持材の嵩密度が増加するにつれて、保持力も増加する傾向が見られるが、例えば、当該保持材の嵩密度が0.35〜0.45g/cm
3の範囲においては、実施例1でのみ、比較例1では到達できない大きな保持力が達成できた。この従来は達成されなかった大きな保持力は、実施例1において、キャニング時におけるシリカ繊維の損傷を低減したことによるものと考えられた。
【0088】
また、
図6及び
図7に示すように、保持材がアルミナ繊維製の場合においても、比較例2の保持力回復率は115%であったのに対し、実施例2の保持力回復率は、比較例2のそれより顕著に大きく、126%であった。また、
図6に示すように、比較例2における保持力は4.07N/cm
2であったのに対し、実施例2における保持力は4.27N/cm
2以上であった。この実施例2における大きな保持力も、キャニング時にアルミナ繊維の損傷が低減されたことによるものと考えられた。