【実施例】
【0054】
[実施例1]
ENU単回経口投与ラットを用いた末梢血網状赤血球のPig-aアッセイ
サンプル準備の流れを
図1に示した。雄性ラット(日本チャールス・リバー株式会社より入手、7週齢)にN-Nitroso-N-Ethylurea(ENU) 40mg/kgを単回経口投与し、1週間後および2週間後におけるPig-a変異頻度を評価した。陰性対照群にはPBSを投与した。
【0055】
その後、ラットより血液を30μL以上採取し、採取した血液の1/10量の抗凝固剤(12 mg/mLのEDTA 2K溶液)と混合した。この血液をリン酸バッファー200μLに添加し、丁寧に混和した後、全量をLympholyte-Mammal(Cedarlane Laboratories社)3mLの液面へ静かに添加して室温、1,166×gで20分間遠心分離し、上清を廃棄することで白血球画分を除去した。赤血球のペレット表面をリン酸バッファーで2回洗浄し、上清を除いた後、100μLのリン酸バッファーをペレットに添加してよく混和した。
【0056】
1μgのPE標識した抗rat CD71抗体を血球分離した100μLのサンプルに添加し、ピペッティングにてよく混和した後、4℃で15分間反応させた。反応後、サンプルに、純水で希釈したIMag Buffer(BD Biosciences)を2mL添加し、室温、1,680×gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。サンプルペレットにPE Particles Plus DM(BD Biosciences)を50μL添加して混合し、6〜12℃で15分間反応させることでCD71陽性細胞を磁気ビーズで標識した。
【0057】
反応後、IMag Bufferを1mL添加し、BD IMagnet(BD Biosciences)にサンプルをセットし、室温で6分間静置することで磁気ビーズ標識されたCD71陽性細胞を磁石に引き寄せた。パスツールピペットで、磁石に引き寄せられなかった細胞を含んだ液を取り除いた後、磁石側の壁面に付着した細胞の、IMag Bufferでの洗浄を2回繰り返し(1mL添加、2分静置)、CD71陽性細胞を濃縮した。濃縮した細胞は最終的にリン酸バッファー200μLに懸濁させ、細胞懸濁液を得た。
【0058】
1μgのFITC標識した抗rat CD59抗体(BD Biosciences)と0.25μgのBiotin標識した抗rat erythroid marker(HIS49)抗体(BD Biosciences)を細胞懸濁液に添加し、室温で30分間反応させた。室温、1,680×gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した後、0.25μgのStreptavidin-APC(BD Biosciences)を含むPBS溶液(200μL)を添加し、室温で15分間反応させた。室温、1,680×gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した後、リン酸バッファー500μLを添加してこれを測定用サンプルとした。
【0059】
フローサイトメーターによる測定ではFACSCanto II(BD Bioscience)を使用した。CD59陰性となる変異細胞の検出をするためのサイトグラム中におけるリージョン設定および蛍光補正は、解析ソフトであるFACSDiva ver. 5.0上で抗体染色を行っていない血液サンプルあるいは1種類の蛍光標識抗体のみを反応させた血液サンプルを用いて行った。
【0060】
解析に用いたサイトグラムと測定手順を
図2に示す。まず、前方散乱光および側方散乱光サイトグラム上のプロットから細胞集団をリージョンで囲み(
図2−1)、このゲート中の細胞について前方散乱光のH(Height:最大値)およびW(Width:幅)サイトグラム上のプロットからシングルセルの細胞集団をリージョンで囲んだ(
図2−2)。シングルセルについて、PE(CD71)およびAPC(HIS49)サイトグラム上からCD71陽性HIS49陽性となる細胞集団を4分割リージョンの右上Q2部分で囲んだ(
図2−3)。これらCD71とHIS49双方を発現している網状赤血球を測定対象として、FITC(CD59)および前方散乱光サイトグラム上のリージョン内にプロットされるCD59陰性細胞(Pig-a変異細胞)の数をカウントした(
図2−4)。
【0061】
血液サンプル測定結果を表1に示す。表1中の数値は、100万細胞カウントしたときのCD59陰性細胞数(×10
-6)を示す。ENU投与1週間後におけるCD59陰性の網状赤血球の出現頻度は(124.8±20.7)×10
-6であり、投与2週間後では(191.3±49.0)×10
-6であった。陰性対照群におけるCD59陰性の網状赤血球の出現頻度は(1.2±1.7)×10
-6であり、投与2週間後では(1.7±1.5)×10
-6であった。
【0062】
【表1】
【0063】
[比較例1]
ENU単回経口投与ラットにおける末梢血中の全赤血球のPig-aアッセイ
ラットにENU 40mg/kgを単回経口投与し、1週間後および2週間後におけるPig-a変異頻度を評価した。陰性対照群にはPBSを投与した。網状赤血球を対象とした測定法の有用性を評価するために、Dobrovolskyらが報告する全赤血球を対象とした測定法を比較のために同時に実施した。すなわち、ラットより血液を9μL採取し、採取した血液の1/10量の抗凝固剤(EDTA 2K)と混合した。この血液3μLをリン酸バッファー200μLに添加し、丁寧に混和した後、Lypholyte-Mammalや抗CD71などの濃縮工程を経ることなく直接、1μgのFITC標識した抗rat CD59抗体(BD Biosciences)と0.25μgのBiotin標識した抗rat erythroid marker(HIS49)抗体(BD Biosciences)を細胞懸濁液に添加し、室温で1時間反応させた。室温、1,680×gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した後、0.25μgのStreptavidin-APC(BD Biosciences)を含むPBS溶液(200μL)を添加し、室温で15分間反応させた。室温、1,680×gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した後、リン酸バッファー1,000μLを添加してこれを測定用サンプルとした。測定結果を表1および
図3に示す。
【0064】
ENU投与1週間後におけるCD59陰性の全赤血球の出現頻度は、(13.2±3.8)×10
-6であり、投与2週間後では(48.7±9.1)×10
-6であった。
陰性対照群におけるCD59陰性の全赤血球の出現頻度は(3.0±2.2)×10
-6であり、投与2週間後では(7.0±5.0)×10
-6であった。
図2は、ENU投与後1週目(
図3−A))および2週目(
図3−B))における、末梢血全赤血球(RBCs)と網状赤血球(RETs)中のCD59陰性となるGPIアンカータンパク質欠損細胞数を比較したものである。RBCsは比較例1で測定し、control投与群を●、ENU投与群を○とした。RETsは実施例1で測定し、control投与群を▲、ENU投与群を△とした。
【0065】
実施例1と比較例1の結果から、遺伝毒性物質であるENUを投与したラットでは、網状赤血球に限定した測定法において、1週目より明らかなCD59陰性細胞の増加が認められ、全赤血球を対象とした測定法に比べてより早期から化学物質の遺伝子突然変異誘発性を評価できることが示された。
【0066】
[実施例2]
遺伝毒性物質単回経口投与ラットを用いた末梢血網状赤血球のPig-aアッセイ
サンプル準備の流れを
図1に示した。雄性ラット(日本チャールス・リバー株式会社より入手、7週齢)にN-Nitroso-N-Ethylurea(ENU) 40mg/kgまたは4-Nitroquinoline-1-Oxide(4-NQO) 25、50または100mg/kgを単回経口投与し、1週間後、2週間後および4週間後におけるPig-a変異頻度を評価した。陰性対照群には0.5 w/v% メチルセルロース溶液を投与した。
【0067】
その後、ラットより血液を80μL以上採取し、採取した血液の1/10量の抗凝固剤(12 mg/mLのEDTA 2K溶液)と混合した。この血液をリン酸バッファー200μLに添加し、丁寧に混和した後、全量をLympholyte-Mammal(Cedarlane Laboratories社)3mLの液面へ静かに添加して室温、1,166×gで20分間遠心分離し、上清を廃棄することで白血球画分を除去した。赤血球のペレット表面をリン酸バッファーで2回洗浄し、上清を除いた後、100μLのリン酸バッファーをペレットに添加してよく混和した。
【0068】
1μgのPE標識した抗rat CD71抗体を血球分離した100μLのサンプルに添加し、ピペッティングにてよく混和した後、4℃で15分間反応させた。反応後、サンプルに、純水で希釈したIMag Buffer(BD Biosciences)を2mL添加し、室温、1,680×gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。サンプルペレットにPE Particles Plus DM(BD Biosciences)を50μL添加して混合し、6〜12℃で15分間反応させることでCD71陽性細胞を磁気ビーズで標識した。
【0069】
反応後、IMag Bufferを1mL添加し、BD IMagnet(BD Biosciences)にサンプルをセットし、室温で6分間静置することで磁気ビーズ標識されたCD71陽性細胞を磁石に引き寄せた。パスツールピペットで、磁石に引き寄せられなかった細胞を含んだ液を取り除いた後、磁石側の壁面に付着した細胞の、IMag Bufferでの洗浄を2回繰り返し(1mL添加、2分静置)、CD71陽性細胞を濃縮した。濃縮した細胞は最終的にリン酸バッファー200μLに懸濁させ、細胞懸濁液を得た。
【0070】
1μgのFITC標識した抗rat CD59抗体(BD Biosciences)と0.25μgのBiotin標識した抗rat erythroid marker(HIS49)抗体(BD Biosciences)を細胞懸濁液に添加し、室温で30分間反応させた。室温、1,680×gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した後、0.25μgのStreptavidin-APC(BD Biosciences)を含むPBS溶液(200μL)を添加し、室温で15分間反応させた。室温、1,680×gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した後、リン酸バッファー500μLを添加してこれを測定用サンプルとした。
【0071】
フローサイトメーターによる測定ではFACSCanto II(BD Bioscience)を使用した。CD59陰性となる変異細胞の検出をするためのサイトグラム中におけるリージョン設定および蛍光補正は、解析ソフトであるFACSDiva ver. 6.0上で抗体染色を行っていない血液サンプルあるいは1種類の蛍光標識抗体のみを反応させた血液サンプルを用いて行った。
【0072】
解析に用いたサイトグラムと測定手順を
図2に示す。まず、前方散乱光および側方散乱光サイトグラム上のプロットから細胞集団をリージョンで囲み(
図2−1)、このゲート中の細胞について前方散乱光のH(Height:最大値)およびW(Width:幅)サイトグラム上のプロットからシングルセルの細胞集団をリージョンで囲んだ(
図2−2)。シングルセルについて、PE(CD71)およびAPC(HIS49)サイトグラム上からCD71陽性HIS49陽性となる細胞集団を4分割リージョンの右上Q2部分で囲んだ(
図2−3)。これらCD71とHIS49双方を発現している網状赤血球を測定対象として、FITC(CD59)および前方散乱光サイトグラム上のリージョン内にプロットされるCD59陰性細胞(Pig-a変異細胞)の数をカウントした(
図2−4)。
【0073】
遺伝毒性物質投与ラットの血液サンプル測定結果を表2および
図5に示す。表2中の数値は、100万細胞カウントしたときのCD59陰性細胞数(×10
-6)を示す。ENU 40mg/kg投与1週間後におけるCD59陰性の網状赤血球の出現頻度は(241.0±43.5)×10
-6であった。投与2週間後では(236.6±47.7)×10
-6であった。投与4週間後では(280.0±59.2)×10
-6であった。4-NQO投与1週間後におけるCD59陰性の網状赤血球の出現頻度は25mg/kg投与群で(13.2±6.6)×10
-6、50mg/kg投与群で(17.6±9.3)×10
-6、100mg/kg投与群で(43.2±8.7)×10
-6であった。投与2週間後では25mg/kg投与群で(7.4±2.7)×10
-6、50mg/kg投与群で(12.0±5.9)×10
-6、100mg/kg投与群で(36.6±12.1)×10
-6であった。投与4週間後では25mg/kg投与群で(3.8±1.5)×10
-6、50mg/kg投与群で(9.0±4.7)×10
-6、100mg/kg投与群で(36.6±9.0)×10
-6であった。陰性対照群におけるCD59陰性の網状赤血球の出現頻度は投与1週間後では(1.8±0.8)×10
-6、投与2週間後では(0.7±1.0)×10
-6、投与4週間後では(0.8±1.3)×10
-6であった。
【0074】
【表2】
【0075】
[比較例2]
遺伝毒性物質単回経口投与ラットにおける末梢血中の全赤血球のPig-aアッセイ
ラットにENU 40mg/kgまたは4-NQO 25、50、100mg/kgを単回経口投与し、投与前、1週間後、2週間後および4週間後におけるPig-a変異頻度を評価した。陰性対照群には0.5 w/v% メチルセルロース溶液を投与した。網状赤血球を対象とした測定法の有用性を評価するために、Dobrovolskyらが報告する全赤血球を対象とした測定法を比較のために同時に実施した。すなわち、ラットより血液を9μL採取し、採取した血液の1/10量の抗凝固剤(EDTA 2K)と混合した。この血液3μLをリン酸バッファー200μLに添加し、丁寧に混和した後、Lypholyte-Mammalや抗CD71などの濃縮工程を経ることなく直接、1μgのFITC標識した抗rat CD59抗体(BD Biosciences)と0.25μgのBiotin標識した抗rat erythroid marker(HIS49)抗体(BD Biosciences)を細胞懸濁液に添加し、室温で1時間反応させた。室温、1,680×gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した後、0.25μgのStreptavidin-APC(BD Biosciences)を含むPBS溶液(200μL)を添加し、室温で15分間反応させた。室温、1,680×gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した後、リン酸バッファー1,000μLを添加してこれを測定用サンプルとした。測定結果を表3および
図6に示す。
【0076】
投与前におけるCD59陰性の全赤血球の出現頻度は、(1.2±1.1)×10
-6から(3.0±2.7)×10
-6であった。ENU投与1週間後におけるCD59陰性の全赤血球の出現頻度は、(29.2±9.1)×10
-6であった。投与2週間後では(92.0±15.1)×10
-6、投与4週間後では(148.8±23.0)×10
-6であった。
陰性対照群におけるCD59陰性の全赤血球の出現頻度は投与1週間後では(3.6±1.8)×10
-6、投与2週間後では(1.0±1.2)×10
-6、投与4週間後では(1.6±0.9)×10
-6であった。4-NQO投与1週間後におけるCD59陰性の網状赤血球の出現頻度は25mg/kg投与群で(2.6±3.1)×10
-6、50mg/kg投与群で(3.8±3.1)×10
-6、100mg/kg投与群で(7.6±5.1)×10
-6であった。投与2週間後では25mg/kg投与群で(3.4±2.9)×10
-6、50mg/kg投与群で(4.8±4.1)×10
-6、100mg/kg投与群で(18.0±3.1)×10
-6であった。投与4週間後では25mg/kg投与群で(3.6±2.9)×10
-6、50mg/kg投与群で(6.4±2.3)×10
-6、100mg/kg投与群で(18.4±5.4)×10
-6であった。
【0077】
実施例1と比較例1の結果から、遺伝毒性物質であるENU(アルキル化剤)または4-NQO(DNA損傷誘発剤)を投与したラットでは、網状赤血球に限定した測定法において、1週目より明らかなCD59陰性細胞の増加が認められ、全赤血球を対象とした測定法に比べてより早期から化学物質の遺伝子突然変異誘発性を評価できることが示された。
【0078】
【表3】
【0079】
[比較例3]
第三の試薬(抗HIS49抗体)を用いた場合と用いなかった場合のGPIアンカータンパク質陰
性細胞の出現率比較
実施例1でデータ取得済みの陰性対照群サンプルを再解析して、HIS49を用いた場合と用いなかった場合のGPIアンカータンパク質CD59陰性細胞の出現率を比較し、抗HIS49抗体の使用効果を検討した。比較結果を
図4に示す。
図4-1)散乱光解析によってシングルセルとした細胞について、PE(CD71)およびAPC(HIS49)サイトグラム上で4分割リージョンまたはPE(CD71)陽性集団をリージョンで囲み、CD71陽性HIS49陽性の細胞と、CD71陽性の細胞をそれぞれ解析可能にした。
図4-2)
図4-1)で分けたCD71陽性HIS49陽性の領域(4分割リージョンの右上Q2部分)に含まれる網状赤血球について、FITC(CD59)および前方散乱光サイトグラム上のリージョン内にプロットされるCD59陰性細胞(Pig-a変異細胞)の数をカウントした。
図4-3)
図4-1)で分けたCD71陽性の領域(サイトグラム上点線部分)に含まれる細胞集団(網状赤血球、他)について、FITC(CD59)および前方散乱光サイトグラム上のリージョン内にプロットされるCD59陰性細胞(Pig-a変異細胞)の数をカウントした。
図4-4)解析時のポピュレーションを表示したものである。CD71陽性HIS49陽性細胞集団におけるCD59陰性細胞(図中ではPig-a mutants)は、100万370細胞中で0個であったのに対して、CD71陽性細胞集団におけるCD59陰性細胞(図中ではCD59-)は103万2931細胞中で147個であった。Pig-a変異頻度に換算すると、それぞれ0×10
-6と143×10
-6であった。
【0080】
以上の比較検討結果から、Erythroid markerである抗HIS49抗体を用いた場合、より精製された網状赤血球を解析対象とすることができ、陰性対照群におけるCD59陰性細胞の出現率を低く抑えることが可能であった。一方で抗HIS49抗体を用いなかった場合、CD71陽性となる細胞の中には白血球分離のステップや抗体染色のステップで充分に精製できなかった網状赤血球以外の細胞も含んでおり、結果としてCD59陰性細胞が増加した。陰性対照群のバックグラウンドを低くすることでより効率よく遺伝毒性物質の検出が可能となる。