特許第6017846号(P6017846)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6017846
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】クレーンの巻取装置
(51)【国際特許分類】
   B66D 1/54 20060101AFI20161020BHJP
   B66C 23/88 20060101ALI20161020BHJP
   B66C 15/00 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   B66D1/54 E
   B66C23/88 Q
   B66C15/00 G
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-132950(P2012-132950)
(22)【出願日】2012年6月12日
(65)【公開番号】特開2013-256356(P2013-256356A)
(43)【公開日】2013年12月26日
【審査請求日】2015年5月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000148759
【氏名又は名称】株式会社タダノ
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人 エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三好 正人
【審査官】 大塚 多佳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−091772(JP,A)
【文献】 特開平08−259182(JP,A)
【文献】 特開平09−175777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66D 1/54
B66C 15/00
B66C 23/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーンにおいてワイヤを巻き取る巻取装置であって、
前記ワイヤの巻き過ぎを検出する巻過検出部と、
前記巻過検出部の巻過検出に基づいて前記ワイヤの巻き過ぎを防止する制御を実行する制御部と、
前記制御部による巻過防止制御を解除するために操作される操作部と、
を有し、
前記制御部は、
前記操作部の操作により巻過防止制御を解除した状態では、前記ワイヤの巻取速度を、所定速度以下で且つ最低速度がゼロを超えるように制限すると共に、巻過防止制御を解除した状態の継続期間にわたって巻過防止制御の解除が長く継続されるほど前記ワイヤの巻取速度または前記クレーンの動作速度を段階的に前記最低速度まで制限する
クレーンの巻取装置。
【請求項2】
前記制御部が前記クレーンの動作を制御する請求項1記載のクレーンの巻取装置であって、
前記制御部は、
前記操作部の操作により巻過防止制御を解除した状態では、前記クレーンの動作速度を、微動動作に制限する、
クレーンの巻取装置。
【請求項3】
前記制御部が前記クレーンの動作を制御する請求項1記載のクレーンの巻取装置であって、
前記制御部は、
前記操作部の操作により巻過防止制御を解除した状態では、前記ワイヤが巻き過ぎとなる方向での前記クレーンの動作速度を微動動作に制限し、前記ワイヤが巻き過ぎとなる方向以外の方向での前記クレーンの動作速度を前記微動動作より速くする、
クレーンの巻取装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンにおいてワイヤを巻き取るクレーンの巻取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クレーンでは、たとえば、荷物を持ち上げたり、ブームまたはジブを起伏したりするために、巻取装置が用いられる。巻取装置は、荷物用のフック、ブームまたはジブに接続されたワイヤをウィンチで巻き取る。巻取装置のウィンチによるワイヤの巻き過ぎを防止するために、巻過防止装置が用いられる。特許文献1では、巻過警報解除スイッチの操作により、シーブブラケットから吊下げたフック用のワイヤについての巻過防止装置を解除する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平08−091772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そして、特許文献1では、巻過防止装置を解除する場合、ウィンチを駆動するためのオイルを吐出するメインポンプの吐出量および吐出圧を低減する。
しかしながら、メインポンプの吐出量および吐出圧を低減しても、たとえばワイヤの巻取速度が多段階に操作可能である場合、作業者は、作業効率を意識して、操作量を増やし、ワイヤの巻取速度を上げる。巻取速度をたとえば通常速度まで上げた状態で作業する。
その結果、特許文献1のようにメインポンプの吐出量および吐出圧を低減したとしても、ワイヤの実質的な巻取速度を制限できない。フックは、その実質的な巻取速度においてシーブブラケットに当たる。巻過防止装置を解除した状態にあることを忘れた作業者などは、ワイヤに接続されたフックをシーブブラケットに強く当ててしまう可能性がある。また、ワイヤに接続されたフックがシーブブラケットに当たることにより、ワイヤが引っ張られて傷み易くなる。このような二次的課題が生じ得る。
ブームまたはジブと、荷物用のフックとの間でも同様の課題が生じ得る。
【0005】
このようにクレーンの巻取装置では、巻過防止装置を解除した状態での二次的課題の発生を抑制することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るクレーンの巻取装置は、クレーンにおいてワイヤを巻き取る巻取装置であって、前記ワイヤの巻き過ぎを検出する巻過検出部と、前記巻過検出部の巻過検出に基づいて前記ワイヤの巻き過ぎを防止する制御を実行する制御部と、前記制御部による巻過防止制御を解除するために操作される操作部と、を有し、前記制御部は、前記操作部の操作により巻過防止制御を解除した状態では、前記ワイヤの巻取速度を、所定速度以下で且つ最低速度がゼロを超えるように制限すると共に、巻過防止制御を解除した状態の継続期間にわたって巻過防止制御の解除が長く継続されるほど前記ワイヤの巻取速度または前記クレーンの動作速度を段階的に前記最低速度まで制限する
【0007】
好適には、前記制御部は、前記操作部の操作により巻過防止制御を解除した状態では、前記クレーンの動作速度を、微動動作に制限する、とよい。
【0008】
好適には、前記制御部は、前記操作部の操作により巻過防止制御を解除した状態では、前記ワイヤが巻き過ぎとなる方向での前記クレーンの動作速度を微動動作に制限し、前記ワイヤが巻き過ぎとなる方向以外の方向での前記クレーンの動作速度を前記微動動作より速くする、とよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、操作部の操作により巻過防止装置を解除した状態では、ワイヤの巻取速度を、所定速度以下に制限する。よって、ワイヤの巻き取りにより、たとえばフックとジブとが当たることがあったとしても、所定速度以下で当たる。ワイヤが強く引っ張られ難くなり、ワイヤが傷み難くなる。操作部により巻過防止機能が解除できることによる利便性を確保しつつも、巻過防止装置の解除状態での二次的課題の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1実施形態に係るクレーン作業車両の全体構成図である。
図2図1の旋回部に設けられる操作室のレイアウトの説明図である。
図3図1のクレーン作業車両の巻取装置の概略構成図である。
図4】非常巻過スイッチを操作状態に保持している状態の説明図である。
図5】第1実施形態での、クレーン作業車両の動作制御のフローチャートである。
図6】第2実施形態での、クレーン作業車両の動作制御のフローチャートである。
図7】第3実施形態での、クレーン作業車両の動作速度の制御内容の説明図である。
図8】第3実施形態での、クレーン作業車両の動作制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係る作業車両を、図面に基づいて説明する。
【0013】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係るクレーン作業車両1の全体構成図である。
図1のクレーン作業車両1は、車体2の前後の左右両側にアウトリガ3を有する。アウトリガ3は、車体2の左右方向へ伸び、車体2を地面からジャッキアップした状態で固定する。車体2の荷台には、旋回部4が旋回可能に設けられる。旋回部4には、クレーン機構として、たとえば、伸縮ブーム5、起伏シリンダ6、クレーンウィンチ7が設けられる。伸縮ブーム5は、多段のブームが伸縮可能に連結されたものである。伸縮ブーム5の先端には、ブームヘッド8が取り付けられる。伸縮ブーム5の他端は、旋回部4に起伏可能に設けられる。起伏シリンダ6は、伸縮ブーム5と旋回部4との間に設けられる。起伏シリンダ6は、油圧により伸縮する。起伏シリンダ6が伸びることで、伸縮ブーム5が立つ。図1の伸縮ブーム5は、立ち上がった作業姿勢にある。起伏シリンダ6が縮まることで、伸縮ブーム5は倒れる。伸縮ブーム5を起伏できる。
【0014】
クレーンウィンチ7には、クレーンワイヤ9が巻き付けられる。クレーンワイヤ9の先端は、ブームヘッド8に固定される。クレーンワイヤ9はブームヘッド8から垂れ下がる。垂れ下がるクレーンワイヤ9は、フック部材などの作業工具10のシーブ11に通される。クレーンウィンチ7がクレーンワイヤ9を送り出し又は巻き取ることにより、作業工具10は図1の上下に移動する。またはこれに吊下げた荷物は、上下動する。
ブームヘッド8には、クレーンワイヤ9の巻き過ぎを検出するための巻過検出部21が設けられる。巻過検出部21は、荷重センサ22と、クレーンワイヤ9が通されるリング形状の検出ウェイト23と、検出ウェイト23を荷重センサ22に接続する検出ワイヤ24と、を有する。検出ウェイト23の荷重が抜けると、荷重センサ22は巻過検出信号を出力する。
【0015】
図2は、旋回部4に設けられる操作室12のレイアウトの説明図である。
図2の操作室12には、シート31の前方に、ハンドル32、アクセル33等の走行用操作部材が配置される。シート31の左右両側には、伸縮ブーム5の起伏動作および伸縮動作、クレーンウィンチ7の巻取動作などを制御するための作業用操作部材として、複数の操作レバー34が配置される。ハンドル32の左側には、作業パネル35が配置される。
【0016】
作業パネル35は、クレーン作業の際に使用される。作業パネル35には、表示部44が設けられる。図2の作業パネル35の中央部には、非常巻過スイッチ36を含む複数のスイッチ37と、複数のキーボックス38とが一列に配列されている。
非常巻過スイッチ36は、たとえば押下状態を保持できないプッシュスイッチであり、押下中に操作信号を出力する。
【0017】
図3は、図1のクレーン作業車両1の巻取装置13の概略構成図である。
図3には、制御系のうち、過負荷防止装置41、操作部42、警報部43、表示部44を図示している。
また、図3には、油圧系として、ポンプ51、コントロールバルブ52、起伏シリンダ6、クレーンウィンチ7の制動部53、クレーンウィンチ7を駆動する油圧モータ54、が図示されている。オイルは、ポンプ51により加圧圧送されて、油圧系を循環する。コントロールバルブ52は、オイルの供給を切り替える。起伏シリンダ6、制動部53およびクレーンウィンチ7は、オイルが供給されることにより動作する。オイルの供給方向をコントロールバルブ52で切り替えることにより、起伏シリンダ6の起伏動作方向、クレーンウィンチ7の巻取動作および送出動作を切り替える。コントロールバルブ52の開度を過負荷防止装置41により制御することにより、クレーン作業車両1の各部の動作速度を制御できる。
【0018】
操作部42は、たとえば図2に示すように、作業者により操作される操作レバー34、非常巻過スイッチ36などのスイッチ37を有する。操作部42は、操作レバー34およびスイッチ37の操作に応じた信号を過負荷防止装置41へ出力する。たとえば操作レバー34の操作方向および操作量に応じた信号を出力する。過負荷防止装置41は、操作レバー34の操作量に応じた開度で、操作レバー34の操作方向に応じたコントロールバルブ52を開く。たとえばクレーンウィンチ7または起伏シリンダ6は、該開度でコントロールバルブ52から供給されるオイルの流量に応じた速度で動作する。
【0019】
警報部43は、たとえば音を発する警報ブザー、光を発する警報ランプを有する。警報部43は、過負荷防止装置41に接続される。過負荷防止装置41から信号が入力されると、警報音を出力し、ランプを点灯する。
表示部44は、たとえば液晶ディスプレイデバイスである。表示部44は、過負荷防止装置41に接続される。過負荷防止機能の解除状態、クレーンウィンチ7の動作速度、起伏シリンダ6の動作速度などを表示する。
【0020】
過負荷防止装置41は、たとえばマイクロコンピュータである。マイクロコンピュータのCPU(Central Processing Unit)は、マイクロコンピュータのメモリに記憶されるプログラムを実行する。これにより、過負荷防止装置41に、制御部61が実現される。また、図3の過負荷防止装置41は、タイマ62を有する。タイマ62は、時刻、経過時間などを計測する。
【0021】
次に、過負荷防止装置41の制御部61によるクレーンウィンチ7の巻過停止制御を説明する。
フック部材などの作業工具10を上げる場合、作業者は、たとえば操作レバー34を巻き取り方向へ操作する。これにより、コントロールバルブ52が切り替えられ、油圧モータ54が動作を開始し、クレーンウィンチ7がクレーンワイヤ9を巻き取る。これにより、作業工具10およびそれに吊下げられた荷物は、コントロールバルブ52の開度に応じた動作速度で上がる。また、巻き取りが進むと、作業工具10の上に検出ウェイト23が乗る。作業工具10は、検出ウェイト23を乗せたまま、クレーンワイヤ9の巻き取りに応じて上昇する。検出ウェイト23の荷重が抜けると、荷重センサ22は巻過検出信号を出力する。
荷重センサ22から巻過検出信号が入力すると、制御部61は、巻き過ぎであると判断し、クレーンウィンチ7によるクレーンワイヤ9の巻き取りを停止する。制御部61は、コントロールバルブ52へ制御信号を出力する。コントロールバルブ52は、たとえば制動部53へオイルを供給する。クレーンウィンチ7は、制動部53のたとえばブレーキシューにより制動され、回転を停止する。また、コントロールバルブ52は、クレーンウィンチ7へのオイル供給を停止する。
これにより、たとえばフック部材などの作業工具10がブームヘッド8に当たる前に、作業工具10の上昇を停止できる。作業工具10がブームヘッド8に当たり難くなる。
【0022】
ところで、このように巻過防止機能を備えるクレーン作業車両1により建物などの閉鎖空間で作業する場合、揚程が不足することがある。作業工具10がブームヘッド8に当たる前に巻過防止制御により巻き取りを停止する必要があることから、作業工具10をブームヘッド8に到達するまで上げることができない。作業工具10は、ブームヘッド8から検出ワイヤ24の長さ分下がったところまでしか上げることができない。伸縮ブーム5およびブームヘッド8の本来の能力からすれば持ち上げることができる揚程であるにもかかわらず、その揚程まで荷物を持ち上げることができないことがある。
このような揚程不足を補うため、クレーン作業車両1では、非常の手段として、巻過防止機能を解除するための非常巻過スイッチ36を設ける。作業者が非常巻過スイッチ36を操作している間、作業工具10をブームヘッド8に到達するまで持ち上げることができる。作業工具10がブームヘッド8に近接した状態での作業が可能になる。
しかしながら、このようにクレーン作業車両1に巻過防止機能を解除する非常巻過スイッチ36を設けた場合、図4に示すように、作業者が針金などを曲げて自作した金具71などを用いて非常巻過スイッチ36を操作状態に保持して作業をしようとする可能性がある。図4は、金具71を用いて非常巻過スイッチ36を操作状態に保持している状態の説明図である。図4では、キーボックス38に挿入されたキー72の手持部の孔に、針金などの金属線を折り曲げて形成した金具71を固定し、この金具71により非常巻過スイッチ36を操作状態に保持している。
また、非常巻過スイッチ36がたとえばトグルスイッチなどのように解除状態に保持できるものである場合、作業者が非常巻過スイッチ36を解除状態に操作したことを忘れて作業を継続してしまう可能性がある。
このようにクレーン作業車両1では、非常巻過スイッチ36の操作により巻過防止機能が解除された状態に保持される可能性があり、その結果として、巻過防止制御が機能せず、作業工具10がブームヘッド8に強く当たってしまう可能性がある。
そこで、本実施形態では、操作部42の非常巻過スイッチ36の押下操作により巻過防止機能が解除された状態では、クレーンワイヤ9の巻取速度を、所定速度以下の微動速度に制限する。これにより、巻過防止機能を解除した状態での作業効率が低下するので、非常巻過スイッチ36を解除状態に保持することによる作業性の向上を相殺できる。作業者は、非常巻過スイッチ36を解除状態に保持しようとしなくなる。断念する。また、作業者は、動作速度の低下により巻過防止装置が解除された状態にあることに気づくことができ、巻過防止装置の解除を戻す。
以下、詳しく説明する。
【0023】
図5は、第1実施形態での、クレーン作業車両1の動作制御のフローチャートである。
過負荷防止装置41の制御部61は、図5の動作制御を繰り返し実行し、クレーン作業車両1の動作を制御する。
【0024】
図5のクレーン作業車両1の動作制御において、過負荷防止装置41の制御部61は、まず、新たな動作制御の要否を判断する(ステップST1)。制御部61は、たとえば操作部42からの新たな操作信号の入力の有無に基づいて、新たな動作制御の要否を判断する。
新たな動作制御が必要であると判断した場合、制御部61は、クレーンワイヤ9についての巻過停止解除状態であるか否かを判断する(ステップST2)。制御部61は、非常巻過スイッチ36の押下操作による操作信号が入力されている場合、巻過停止解除状態であると判断する。それ以外の場合は、巻過停止解除状態でないと判断する。
【0025】
巻過停止解除状態でない場合、制御部61は、たとえば操作部42からの操作入力に応じた通常の速度で、クレーン作業車両1の動作を制御する(ステップST3)。制御部61は、たとえば操作レバー34の操作量に応じた開度で、操作レバー34の操作方向に応じたコントロールバルブ52を開く。クレーンウィンチ7または起伏シリンダ6は、操作量に応じた開度でコントロールバルブ52から供給されるオイルの流量に応じた速度で動作する。クレーン作業車両1は、通常の速度で動作する。
【0026】
これに対し、巻過停止解除状態である場合、制御部61は、操作部42からの操作入力に関係なく、所定の制限速度内の微動速度で、クレーン作業車両1の動作を制御する(ステップST4)。制御部61は、たとえば操作レバー34の操作量に無関係に予め設定された小さな開度で、操作レバー34の操作方向に応じたコントロールバルブ52を開く。クレーンウィンチ7または起伏シリンダ6は、該小さな所定の開度でコントロールバルブ52から供給されるオイルの流量に応じた速度で動作する。クレーン作業車両1の動作は、微動動作に制限される。
【0027】
以上のように、本実施形態では、操作部42の操作により巻過防止機能を解除した状態では、たとえばクレーンワイヤ9の巻取速度が、所定速度以下の微動速度に制限される。よって、巻き取られるクレーンワイヤ9に接続された作業工具10がブームヘッド8に当たることがあったとしても、所定速度以下で当たる。クレーンワイヤ9が強く引っ張られ難くなり、傷み難くなる。巻過防止機能を解除した状態での二次的課題の発生を抑制できる。巻過防止機能が解除できることによる利便性を確保しつつも、巻過防止機能が解除された状態での作業工具10とブームヘッド8との当たり防止の目的を、高いレベルで達成できる。これに対し、巻過防止機能を解除した状態で微動動作に制限しない場合、作業工具10がブームヘッド8に強く当たってしまう可能性がある。
また、クレーンワイヤ9の巻取速度が所定速度以下の微動速度に制限されるので、巻過防止機能を解除した状態での作業効率が低下する。クレーンワイヤ9に接続された作業工具10がブームヘッド8に当たるまでの期間が長くなり、当たる前に動作を停止できる機会が増える。作業者は、多少の手間がかかっても、微動動作による作業効率の低下を嫌い、めんどうがらずに巻過防止機能の解除操作および戻し操作を実施する。また、操作量によらない微動動作により、巻過防止機能の解除を戻し忘れていることを認識でき、解除を戻すことができる。
特に、本実施形態では、クレーン作業車両1のすべての動作速度を微動動作に制限するので、作業者は、巻過防止機能の解除を戻し忘れていることを確実に認識できる。クレーンワイヤ9の巻き取り以外の操作中において、戻し忘れを認識できる。微動動作による作業効率の低下を嫌い、多少の手間がかかってもめんどうがらずに巻過防止機能の解除操作および戻し操作を確実に実施するようになる。
【0028】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係るクレーン作業車両1を説明する。
第2実施形態では、過負荷防止装置41の制御部61による制御内容が第1実施形態と異なる。
第2実施形態に係るクレーン作業車両1の全体構成図および制御系は、第1実施形態と同様であり、同名の構成要素名および符号を用いて説明を省略する。
【0029】
図6は、第2実施形態での、クレーン作業車両1の動作制御のフローチャートである。
過負荷防止装置41の制御部61は、図6の動作制御を繰り返し実行し、クレーン作業車両1の動作を制御する。
【0030】
図6のクレーン作業車両1の動作制御において、過負荷防止装置41の制御部61は、まず、新たな動作制御の要否を判断する(ステップST11)。
新たな動作制御が必要である場合、制御部61は、まず、巻過検出状態であるか否かを判断する(ステップST12)。制御部61は、巻過検出部21の荷重センサ22から巻過検出信号が入力されている場合、巻過検出状態であると判断する。それ以外の場合は、巻過検出状態でないと判断する。
巻過検出状態である場合、制御部61は、更に、非常巻過スイッチ36の押下操作に基づいて、クレーンワイヤ9についての巻過停止解除状態であるか否かを判断する(ステップST13)。
巻過停止解除状態である場合、制御部61は、更に、作業工具10をブームヘッド8に近づける巻過方向への動作であるか否かを判断する(ステップST14)。制御部61は、操作部42から入力される操作レバー34の操作方向に基づいて巻過方向への動作であるか否かを判断する。たとえば、クレーンウィンチ7によりクレーンワイヤ9を巻き取る場合、巻過方向への動作であると判断する。起伏シリンダ6を縮めて伸縮ブーム5を倒す場合、巻過方向への動作であると判断する。伸縮ブーム5を伸ばす場合、巻過方向への動作であると判断する。
【0031】
そして、巻過検出状態であり、巻過停止解除状態であり、かつ、巻過方向への動作である場合、制御部61は、操作部42からの操作入力に関係なく、所定の制限速度内の微動速度で、クレーン作業車両1の動作を制御する(ステップST15)。
これに対し、いずれかの状態が異なる場合、制御部61は、たとえば操作部42からの操作入力に応じた通常の速度で、クレーン作業車両1の動作を制御する(ステップST16)。
【0032】
以上のように、本実施形態では、操作部42の非常巻過スイッチ36の操作により巻過防止機能を解除した状態では、巻過方向でのクレーン作業車両1の動作速度を、微動動作に制限する。それ以外の安全方向でのクレーンの動作速度は、通常の速度に維持される。よって、巻過防止機能を解除した状態での二次的課題の発生を抑制しつつ、作業効率の低下を抑制できる。巻過方向でクレーン作業車両1を動作させた直後に、巻過防止機能の解除を戻さなくても、通常の速度で作業ができる。このため、たとえば安全方向への作業後に、巻過防止機能の解除を戻すことができる。作業者の操作手順が厳密にならない。また、クレーン作業車両1の動作の一部が微速動作となることで、クレーン作業車両1のすべての動作が微動動作となる場合と比べて、クレーン作業車両1の不具合との区別がつきやすい。
【0033】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態に係るクレーン作業車両1を説明する。
第3実施形態では、過負荷防止装置41の制御部61による制御内容が第1実施形態と異なる。
第3実施形態に係るクレーン作業車両1の全体構成図および制御系は、第1実施形態と同様であり、同名の構成要素名および符号を用いて説明を省略する。
【0034】
図7は、第3実施形態での、クレーン作業車両1の動作速度の制御内容の説明図である。
図7において、横軸は、巻過停止解除状態の経過時間であり、縦軸は、巻過停止解除状態でのクレーン作業車両1の制限速度である。
図7の制御内容は、たとえばメモリにテーブルまたはプログラムモジュールとして記憶されて、制御部61による制御に利用される。
【0035】
そして、図7に示すように、巻過停止解除状態の経過時間が長くなると、クレーン作業車両1の制限速度は、低下する。すなわち、経過時間が長くなるほど、クレーン作業車両1の速度制限が厳しくなる。
図7では、制限速度は、3段階で制限される。経過時間がたとえば数分から十分程度と短い場合、たとえば制限解除状態にしていることを忘れた人を考慮し、制限速度を、たとえば違和感を生じる程度の通常速度の75%に制限する。次に、経過時間がたとえば数十分から1時間程度である場合、制限速度を、たとえば作業性が低下する通常速度の50%に制限する。更に、経過時間がたとえば数時間程度である場合、制限速度を、たとえば作業性が明らかに低下する通常速度の25%に制限する。
このように解除状態の経過時間に応じて段階的に制限を強めることにより、単に解除の戻しを忘れている人と、意図的に解除を戻さないようにしている人とを区別し、いずれの場合にも作業効率の低下を抑制しつつ解除を戻させるように動機づけを与えることができる。
【0036】
このような制御を実現するために、過負荷防止装置41の制御部61は、操作部42から、非常巻過スイッチ36の操作信号が入力されると、タイマ62により経過時間を計測させる。制御部61は、非常巻過スイッチ36からの操作信号の入力が無くなると、タイマ62による経過時間の計測を終了する。制御部61は、非常巻過スイッチ36が操作される度に、各操作において非常巻過スイッチ36が継続して操作されている時間をタイマ62により計測する。
【0037】
図8は、過負荷防止装置41の制御部61によるクレーン作業車両1の動作制御のフローチャートである。
過負荷防止装置41の制御部61は、図8の動作制御を繰り返し実行し、クレーン作業車両1の動作を制御する。
【0038】
図8のクレーン作業車両1の動作制御において、過負荷防止装置41の制御部61は、まず、動作の有無を判断する(ステップST21)。制御部61は、動作中の動作の有無と、新たな動作制御の要否とを判断する。
動作中または新たな動作制御が必要である場合、制御部61は、非常巻過スイッチ36の押下操作による信号の入力の有無に基づいて、クレーンワイヤ9についての巻過停止解除状態であるか否かを判断する(ステップST22)。
【0039】
巻過停止解除状態である場合、制御部61は、さらに、巻過停止解除状態の継続時間を、タイマ62から取得する(ステップST23)。制御部61は、取得した経過時間を用い、経過時間に対応する制限速度を取得する(ステップST24)。制御部61は、たとえばメモリに記憶されたテーブルを読み込み、経過時間に対応する制限速度を取得する。
制御部61は、操作部42からの操作入力に関係なく、取得した制限速度内の微動速度で、クレーン作業車両1の動作を制御する(ステップST25)。
これに対し、巻過停止解除状態でない場合、制御部61は、まず、タイマ62により計測されている経過時間を初期化する(ステップST26)。タイマ62により計測されている経過時間は、0秒に戻る。タイマ62は、初期化後に非常巻過スイッチ36が操作されると、経過時間の計測を新たに開始する。なお、経過時間を初期化するタイミングは、ステップST26のタイミングに限られない。たとえば、非常巻過スイッチ36の操作信号の入力がなくなったことに基づいて、経過時間を初期化してもよい。
経過時間を初期化した後、制御部61は、操作部42からの操作入力に応じた通常の速度で、クレーン作業車両1の動作を制御する(ステップST27)。
【0040】
この図8の制御が繰り返されることにより、クレーン作業車両1の動作中に、動作速度が段階的に厳しく制限される。
【0041】
以上のように、本実施形態では、たとえばクレーンワイヤ9の巻取速度などのクレーン作業車両1の動作速度は、非常巻過スイッチ36の押下された巻過防止機能の解除状態の継続時間が長くなるほど、大きく制限される。
よって、意図的に巻過防止機能を解除状態に維持して作業を継続している場合、その経過期間が長くなるほど作業効率が低下する。作業者は、作業効率が極端に低下することを嫌がり、巻過防止機能を解除状態から戻すようになる。
【0042】
以上の実施形態は、本発明の好適な実施形態の例であるが、本発明は、これに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形または変更が可能である。
【0043】
たとえば第3実施形態は、第1実施形態の制御においてクレーン作業車両1の動作速度を段階的に制限している。この他にもたとえば、第2実施形態の制御においてクレーン作業車両1の動作速度を段階的に制限してもよい。また、クレーン作業車両1の制限速度は、経過時間に対してリニアに変化してもよい。
【符号の説明】
【0044】
7 クレーンウィンチ、8 ブームヘッド、9 クレーンワイヤ、10 作業工具、13 巻取装置、21 巻過検出部、36 非常巻過スイッチ、42 操作部、61 制御部
図1
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図8