特許第6017870号(P6017870)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6017870
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】車載電子機器の取り付け構造
(51)【国際特許分類】
   B60R 16/02 20060101AFI20161020BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20161020BHJP
   H05K 5/02 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   B60R16/02 620Z
   B60R16/02 650Y
   H05K9/00 K
   H05K5/02 E
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-160609(P2012-160609)
(22)【出願日】2012年7月19日
(65)【公開番号】特開2014-19325(P2014-19325A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年5月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社日本自動車部品総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木田 喜啓
(72)【発明者】
【氏名】服部 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】深川 康弘
(72)【発明者】
【氏名】杉田 昌行
【審査官】 加藤 信秀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−260992(JP,A)
【文献】 特開平03−214797(JP,A)
【文献】 特開2007−227111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 16/02
H05K 5/02
H05K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子機器を収容している筐体をボデーに取り付ける構造であり、
筐体とボデーの近接箇所を取り囲む包囲壁と、
その包囲壁で包囲されている空間に充填されている粒子群を備えており、
個々の粒子の表面が導電性であり、
個々の粒子が自然形状よりも圧縮されており、粒子が自然形状に復帰しようとする復帰力によって、前記空間に充填されている粒子が筐体とボデーの双方に密着しており、粒子どうしが密着していることを特徴とする取り付け構造。
【請求項2】
前記空間内に、ボデーと筐体を固定するブラケットが収容されていることを特徴とする請求項1に記載の取り付け構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、電子機器を収容している筐体(以下では単に筐体ということがある)を自動車のボデーに取り付ける構造を開示する。
【背景技術】
【0002】
筐体をボデーに取り付ける際に、筐体とボデー間のインピーダンスが高いと筐体と負荷を接続するケーブル等から強いノイズが放射されるのに対し、筐体とボデー間のインピーダンスを低下させると放射ノイズの強度が低下するという現象が生じることがある。筐体とボデー間のインピーダンスを低下させる技術が必要とされている。
【0003】
特許文献1に、組み合わせることで筐体を構成する2つの金属部品間の隙間を、導電性弾性材で塞ぐ技術が開示されている。特許文献1では、連続気泡が形成されているプラスチック発泡体の表面に導電性の膜を形成した導電性弾性材(発泡体の外表面のみならず、発泡体の内部に存在する気泡を取り囲む壁の表面にまで導電膜が形成されている)を用いる技術を記載している。特許文献2にも、導電性ゴムを利用して、金属部材間のインピーダンスを低下させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−88500号公報
【特許文献2】特開2004−506399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1と2に記載されている導電性弾性材を利用して筐体とボデー間の間隙を塞ぐようにすれば、筐体とボデー間のインピーダンスを低下させることできるであろう。しかしながら、弾性材を圧縮することによって、弾性材と筐体を密着させ、弾性材とボデーを密着させるためには、弾性材の形状が問題となる。自動車は種類が多く、筐体の形状も様々であれば、ボデーの形状も様々である。すなわち、筐体とボデー間の間隙の形状が様々である。そのために、様々な形状の導電性弾性材を用意しておく必要がある。
また筐体のボデー側の面と、ボデーの筐体側の面が、複雑な3次元形状を備えていることがある。この場合、導電性弾性材と筐体間、あるいは、導電性弾性材とボデー間に間隙が残り、導電性弾性材の密着面積が意図したものよりも小さくなってしまうこともある。
さらに導電性ゴムを用いた場合、材料自体のインピーダンスが十分に低いとはいえず、筐体とボデー間のインピーダンスを必要なレベルにまで低下させることができないことがある。
【0006】
本明細書では、筐体とボデー間の間隙の形状に依らないで、筐体とボデー間のインピーダンスを必要なレベルにまで低下させられる技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書では、電子機器を収容している筐体をボデーに取り付ける構造を開示する。その取り付け構造は、筐体とボデーの近接箇所を取り囲む包囲壁を備えており、その包囲壁で包囲されている空間に粒子群が充填されている。個々の粒子の表面は導電性である。
上記の構造では、筐体とボデー間の間隙の周囲が包囲壁で包囲されている。その包囲壁で包囲される空間に粒子群が充填されていることから、筐体と粒子、粒子同士、粒子とボデーが密着している。その粒子の表面が導電性であることから、筐体とボデー間の電気的導通が確保され、筐体とボデー間のインピーダンスを必要に応じて低下させることができる。しかも、粒子は様々な形状の空間に充填することができる。導電性弾性材を利用する場合には、筐体とボデー間の間隙の形状に適合した導電性弾性材を用意しておく必要があるのに対し、本構造によると、筐体とボデー間の間隙の形状が変化しても、同じ粒子を使用することができる。多品種生産に適した取り付け構造となっている。
【0008】
包囲壁で包囲される空間内に、ボデーと筐体を固定するブラケットを収容してもよい。この場合、包囲壁の設計自由度が向上し、インピーダンスの調整範囲が広げられる。これに代えて、包囲壁がブラケットを兼用する構造であってもよい。あるいは、包囲壁の外側にブラケットが配置されていてもよい。
【0009】
粒子群が加圧充填されていることが好ましい。すなわち、個々の粒子が自然形状よりも圧縮されており、粒子が自然形状に復帰しようとする復帰力によって、粒子が筐体とボデーの双方に密着し、粒子どうしが密着していることが好ましい。
圧縮度の調整によって、筐体とボデー間のインピーダンスを必要に応じて低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】筐体をボデーに取り付ける第1実施例を示す。
図2図1の取り付け構造と等価回路を示す。
図3】筐体をボデーに取り付ける第2実施例を示す。
図4】筐体をボデーに取り付ける第3実施例を示す。
図5】筐体をボデーに取り付ける第4実施例を示す。
図6】粒子の断面図を示す。
図7】導電性の細線を丸めた粒子を示す。
図8】粒子の表面に導電性皮膜を形成する方法を示す。
図9】筐体をボデーに取り付ける第5実施例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
下記に示す実施例の主要な特徴を列記する。
(特徴1)包囲壁で包囲される空間と大気の間に、粒子の流入を許容するサイズの充填口と、粒子の流出を許容しないサイズの気体放出口が形成されている。
(特徴2)包囲壁が網目状の材質で形成されており、各々の網目のサイズが粒子よりも小さい。
(特徴3)包囲壁は、樹脂製または金属製である。
(特徴4)ブラケットは、樹脂製、ゴム製、または金属製である。
(特徴5)ブラケットは、筐体とボデーに嵌めることで、筐体とボデーを位置決めする。
(特徴6)粒子自体は、樹脂製である。
(特徴7)粒子の表面に導電性塗料が付着している。
(特徴8)粒子の表面に金属メッキ膜が付着している。
(特徴9)粒子の表面に導電性ゲルまたは導電性液体が付着している。
(特徴8)粒子の表面に形成されている導電性物質が繊維質である。
(特徴9)粒子は、中空、多孔質または中実である。
(特徴10)粒子自体が、金属または導電性高分子である。
(特徴11)粒子は、加圧されると弾性変形する。
(特徴12)粒子の直径は、9mm以下であり、好ましくは5mm以下である。
(特徴13)電子機器は、インバータである。
【実施例】
【0012】
図1は、第1実施例の取り付け構造を示している。参照番号4はインバータを示し、図示しない直流電源から供給される直流を3相交流に変換して負荷(走行用モータ)16に加える電子機器である。配線14には3相交流が印加される。モータ16は、配線18によってボデー12に接地されている。参照番号2は、インバータ(電子機器)4を収容している筐体であり、金属製である。インバータを構成する回路には、筐体2と同電位に保たれる部位4aが確保されている。筐体2とボデー12は、後記するようにして電気的に接続されている。
【0013】
図2図1の等価回路を示している。インバータ4と配線14とモータ16と配線18とボデー12によって、閉ループが形成されている。配線14に3相交流が通電されると周囲に電磁ノイズを放射する。そのノイズの大きさは、閉ループに生じる直列共振の影響を強く受ける。直列共振の共振周波数には、配線14の寄生インダクタンス22の大きさと、筐体2とボデー12間の寄生インダクタンス20の大きさが影響する。筐体2とボデー12間のインピーダンスを低下させると、周囲に放射する電磁ノイズを低下することができる。金属製の筐体2を金属製のボルトで金属製のボデー12に固定すれば、筐体2とボデー12間の導通が確保されるが、ノイズ強度を低下させるためには、さらにインピーダンスを低下させる必要がある。
【0014】
図1の参照番号8は、筐体2をボデー12に固定するブラケットである。本実施例では後記する粒子群によって、筐体2とボデー12間を接続する。ブラケット自体は、非導電性であってもよい。例えば樹脂成形品であってもよいし、ゴム製であってもよい。もちろん導電性であってもよい。筐体2とブラケット8の間に嵌まりあって固定する構造を設けてもよいし、ボデー12とブラケット8の間に嵌まりあって固定する構造を設けてもよい。ボルト等を用いて、筐体2とブラケット8を固定し、ブラケット8とボデー12を固定してもよい。
【0015】
参照番号6は、筐体2とボデー12間に形成されている間隙を包囲する包囲壁である。包囲壁6は、筐体2とボデー12が近接している範囲を取り囲んでいる。包囲壁6は、少なくとも筐体2とブラケット8の一方に固定されている。筐体2と包囲壁6の間に嵌まりあって固定する構造を設けてもよいし、ボデー12と包囲壁6の間に嵌まりあって固定する構造を設けてもよい。あるいはボルト等を用いて、筐体2と包囲壁6を固定し、包囲壁6とボデー12を固定してもよい。
参照番号10は、包囲壁6によって取り囲まれている空間に充填されている粒子群を示している。
【0016】
本実施例で用いる粒子本体は、発泡性樹脂で製造された多孔質粒子であり、加圧されると圧縮されて変形し、自然形状に復帰する弾性を備えている。粒子本体は非導電性であるが、表面に導電性の膜が形成されている。
包囲壁6によって取り囲まれている空間に充填されている粒子群10は、加圧状態にあり、個々の粒子が自然形状から変形しており、個々の粒子に自然形状に復帰しようとする復帰力が作用している。その復帰力によって、粒子群10は筐体2とボデー12の双方に密着しており、粒子どうしが密着している。粒子表面に形成されている導電性の膜によって、筐体2とボデー12間のインピーダンスが非常に小さなレベルに抑えられている。そのために、配線14に3相交流を通電したときに放射される電磁ノイズの強度が低く抑えられる。
【0017】
図3は、包囲壁6aが網目状の材質で形成されている実施例を示している。各々の網目のサイズは粒子よりも小さく、包囲壁6aから粒子が漏れ出すことはない。
【0018】
図4は、包囲壁6bに、粒子の流入を許容するサイズの充填口6dと、粒子の流出を許容しないサイズの気体放出口6cが形成されている実施例を示している。充填口6dから圧縮空気の流れを利用して粒子群10を包囲壁6bに内側に送り込むと、圧縮充填された粒子群10を得ることができる。充填後に充填口6dに蓋を被せて閉じる。
図5に示すように、ボデー12に充填口12bを設けてもよい。充填口は、包囲壁とボデーのどちらに設けてもよい。同様に、気体放出口も、包囲壁とボデーのどちらに設けてもよい。
【0019】
図6は、粒子の一例を示している。この場合、内部に空間34を形成する薄皮32によって粒子が形成されている。発泡性の樹脂粉末から中空粒子を得ることかできる。表面には、導電性塗料の膜30が形成されている。塗膜30は、塗料を吹付けて形成してもよいし、液体塗料中に中空粒子を浸漬して形成してもよい。図8は、ノズル42から噴射される導電性塗料を、薄皮32の表面に吹付けることで塗膜30を形成する様子を示している。塗料を吹付けるあいだ、薄皮32が回転するようにすることで、全表面に均一な厚みの塗膜30を形成する。塗膜30に代えて金属メッキ膜を形成してもよい。粒子は多孔質であってもよいし、中実であってもよい。中実であっても圧縮すると変形をする弾性をもつことができる。粒子自身が導電性を持っていてもよい。この場合、表面の導電膜は必要とされない。導電性粒子の表面を導電膜で覆ってもよい。
【0020】
図7は、金属細線38を球状に丸めた粒子40を例示している。ここでいう粒子は、内外が明確に分けられるものに限られず、全体として球状になっていればよい。長尺な繊維を丸めて形成した粒子を用いると、筐体2とボデー12間のインピーダンスを顕著に低下させることができる。
【0021】
電子機器がインバータの場合、直径が9mm以下の粒子を用いると、筐体2とボデー12間のインピーダンスを低下させることができる。特に、直径が5mm以下の粒子を用いると、筐体2とボデー12間のインピーダンスを顕著に低下させることができる。
【0022】
図9は、包囲壁6が筐体2とボデー12の位置決め機能を備えている例を示している。ブラケットは利用しない。包囲壁6には、ボデー12に形成されている凹所12gに係合する張り出し6gと、凹所12iに係合する張り出し6iと、筐体2の鍔2fに係合する張り出し6fと、筐体2の鍔2hに係合する張り出し6hを備えている。包囲壁6が内側から押されて張り出し6g,6iが外側に広がると包囲壁6はボデー12から外れない。筐体2が下方から押されると、筐体2は張り出し6f、6hに当接して固定される。
包囲壁6の内側には粒子群10が加圧充填されており、粒子群10は包囲壁6を内側から押し、筐体2を下方から押し上げている。加圧充填されている粒子群10によって、ボデ−12に対して包囲壁6が固定され、包囲壁6に対して筐体2が固定されている。すなわち、加圧充填されている粒子群10によって、筐体2がボデー12に固定されている。包囲壁6は、粒子群10を包囲する機能と、筐体2とボデー12の位置関係を固定する機能を兼用している。粒子群10は、筐体2とボデー12の位置関係を固定する機能と、両者間のインピーダンスを低減する機能を兼用している。
【0023】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0024】
2:筐体
4:電子機器
6:包囲壁
8:ブラケット
10:粒子群
12:ボデー
30:導電性の膜
36:粒子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9