特許第6017877号(P6017877)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6017877InGa廃材からガリウムを回収する方法
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  • 特許6017877-InGa廃材からガリウムを回収する方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6017877
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】InGa廃材からガリウムを回収する方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 58/00 20060101AFI20161020BHJP
   C22B 19/32 20060101ALI20161020BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20161020BHJP
   C22B 3/12 20060101ALI20161020BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20161020BHJP
   C22B 3/46 20060101ALI20161020BHJP
   C25C 1/22 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   C22B58/00
   C22B19/32
   C22B7/00 G
   C22B3/12
   C22B3/44 101A
   C22B3/44 101B
   C22B3/46
   C25C1/22
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-168948(P2012-168948)
(22)【出願日】2012年7月30日
(65)【公開番号】特開2014-25141(P2014-25141A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2015年7月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】511195035
【氏名又は名称】マテリアルエコリファイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】安田 紀彦
(72)【発明者】
【氏名】岡田 智
(72)【発明者】
【氏名】宮川 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】鴨下 時男
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−056337(JP,A)
【文献】 特開昭59−193230(JP,A)
【文献】 特開昭63−045334(JP,A)
【文献】 特開2007−270262(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジウムとガリウムと亜鉛を主成分とするInGaZn廃材を5mm角以下に粉砕し、該InGaZn廃材に含まれるガリウムモル量と亜鉛モル量の2倍の合計量に対して1〜2.5倍モル量の水酸化アルカリを添加し、または上記モル量の水酸化アルカリ水溶液を添加するか上記モル量の水酸アルカリと共に水を添加してスラリーにした後に、250℃以上に加熱してガリウムと亜鉛のアルカリ塩を生成させ、さらに水を加えてガリウムと亜鉛を浸出させ後に、酸を加えてpH12〜13に調整して液中の亜鉛と液中に残留するインジウムを水酸化物沈澱にし、これを固液分離してガリウム含有液を回収し、このガリウム含有液に硫化剤を加えて液中の亜鉛を硫化物として沈澱させ、これを固液分離して高純度のガリウム液を回収することを特徴とするガリウムの回収方法。
【請求項2】
InGaZn廃材を0.001mm角〜0.5mm角に粉砕し、該InGaZn廃材に含まれるガリウムモル量と亜鉛モル量の2倍の合計量に対して1.5〜2.0倍モル量の水酸化ナトリウムと水酸化ナトリウム重量の1〜5倍の水を添加してスラリーにし、該スラリーを大気下または酸化雰囲気下で280℃〜400℃に加熱してガリウムおよび亜鉛のナトリウム塩を生成させ、さらに水を加えてガリウムおよび亜鉛を浸出させる請求項1に記載するガリウムの回収方法。
【請求項3】
ガリウムと亜鉛が浸出した水浸出液、または該水浸出液からインジウム残渣を固液分離して回収したガリウム亜鉛含有液に、酸を加えてpH12〜13に調整して液中の亜鉛と液中に残留するインジウムを水酸化物沈澱にし、これを固液分離してガリウム含有液を回収する請求項1または請求項2に記載するガリウムの回収方法。
【請求項4】
pH調整してインジウムと亜鉛の水酸化物を固液分離したガリウム含有液に、液中の亜鉛量に対して2倍〜5倍モル量の硫化剤を加えて硫化亜鉛を沈澱させる請求項1〜請求項3の何れかに記載するガリウムの回収方法。
【請求項5】
硫化処理して回収した高純度ガリウム液を電解処理して金属ガリウムを回収する請求項1〜請求項4の何れかに記載するガリウムの回収方法。
【請求項6】
水浸出後に固液分離したインジウム残渣を塩酸に溶解し、この溶解液に亜鉛またはアルミニウムを添加して金属インジウムを析出させて回収する請求項1〜請求項5の何れかに記載するガリウムの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガリウムとインジウムを主成分とする廃材(InGa廃材と云う)からガリウムを効率よく回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
In、Ga、およびZnを含む複合酸化物半導体(In−Ga−Zn複合酸化物半導体、IGZO半導体)は、アモルファスシリコンを使用した液晶モニターに比べ、明るく、消費電力が低く、高精細化(高解像度化)が見込まれるなどの利点を有することから、近年、開発が活発化しており、これに伴い、IGZO半導体の製造工程や使用済みIGZO廃材などからインジウムおよびガリウムを効率よく回収することが求められている。
【0003】
IGZO廃材からインジウムやガリウムを回収する方法として、例えば、IGZO廃材を酸に溶解した後に、水酸化アルカリまたはアンモニア水を添加し、pHを11〜14に調整してインジウムおよび亜鉛を水酸化物として沈殿させ、これを固液分離してガリウム含有液を回収する酸溶解法が従来から知られている。得られたガリウム含有液をそのまま電解して金属ガリウムを得ることができる。一方、残渣に含まれるインジウムや亜鉛の水酸化物は塩酸などに溶解し、亜鉛を用いたセメンテーションなどによって金属インジウムを回収することができる。
【0004】
しかし、従来の酸溶解法は、溶液のpHを11〜14に調整する際に大量の水酸化アルカリを使用する必要があり、また生成する水酸化インジウム沈澱、水酸化亜鉛沈澱は微細であるため固液分離性に劣り、操業上問題になる場合がある。
【0005】
インジウムおよびガリウムを含有する原料(InGa原料と云う)を酸溶解してから溶媒抽出(特許文献1)や樹脂吸着(特許文献2)によってインジウム、ガリウムを回収する方法も知られている。しかし、従来の溶媒抽出法、樹脂吸着法は特殊な溶媒や樹脂を必要としたり防爆設備にする必要があることから薬品費高、設備費高になる問題がある。
【0006】
一方、InGa原料を水酸化アルカリと混合して加熱し、水を加えてガリウムを選択的に溶出し、インジウムを分離濃縮するアルカリ溶解法も知られている(特許文献3)。この方法は、上記酸溶解法とは違い、中和工程を必要としないため、薬液コストを削減できる可能性がある。なお、インジウム残渣は例えば塩酸などに溶解し、亜鉛やアルミニウムなどを用いたセメンテーションにて金属インジウムを回収することができる(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−63882号公報
【特許文献2】特開2010−179205号公報
【特許文献3】特開2007−56337号公報
【特許文献4】特開2008−56999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のアルカリ溶融法(特許文献3)は、ガリウムの浸出率を上げるために大量のアルカリを使用している。具体的にはInGa原料の等倍質量以上の水酸化ナトリウムを添加している。この水酸化ナトリウムの添加量はモル量に換算すると約8.9倍モル量であり、このように大量の水酸化アルカリを添加すると、コスト的に不利なうえに、ガリウム以外の不純物も原料から溶出するので不純物の除去処理に手間取る問題がある。例えば、ガリウムを浸出させた液に硫化剤を添加して不純物を沈殿させる場合、液が強アルカリ性では不純物が硫化物として沈殿し難いため、適切なpH域になるように、酸を添加して過剰なアルカリを中和する必要がある。
【0009】
本発明は、InGaZn廃材からガリウムを回収するアルカリ溶融法において、大量の水酸化アルカリを使用せず、最小限の水酸化アルカリ量によって、低コストで効率よくガリウムを回収する処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の処理方法は、上記課題を解決する手段として以下の構成を有するガリウムの回収方法である。
〔1〕インジウムとガリウムと亜鉛を主成分とするInGaZn廃材を5mm角以下に粉砕し、該InGaZn廃材に含まれるガリウムモル量と亜鉛モル量の2倍の合計量に対して1〜2.5倍モル量の水酸化アルカリを添加し、または上記モル量の水酸化アルカリ水溶液を添加するか上記モル量の水酸アルカリと共に水を添加してスラリーにした後に、250℃以上に加熱してガリウムと亜鉛のアルカリ塩を生成させ、さらに水を加えてガリウムと亜鉛を浸出させ後に、酸を加えてpH12〜13に調整して液中の亜鉛と液中に残留するインジウムを水酸化物沈澱にし、これを固液分離してガリウム含有液を回収し、このガリウム含有液に硫化剤を加えて液中の亜鉛を硫化物として沈澱させ、これを固液分離して高純度のガリウム液を回収することを特徴とするガリウムの回収方法。
〔2〕InGaZn廃材を0.001mm角〜0.5mm角に粉砕し、該InGaZn廃材に含まれるガリウムモル量と亜鉛モル量の2倍の合計量に対して1.5〜2.0倍モル量の水酸化ナトリウムと水酸化ナトリウム重量の1〜5倍の水を添加してスラリーにし、該スラリーを大気下または酸化雰囲気下で280℃〜400℃に加熱してガリウムおよび亜鉛のナトリウム塩を生成させ、さらに水を加えてガリウムおよび亜鉛を浸出させる上記[1]に記載するガリウムの回収方法。
〔3〕ガリウムと亜鉛が浸出した水浸出液、または該水浸出液からインジウム残渣を固液分離して回収したガリウム亜鉛含有液に、酸を加えてpH12〜13に調整して液中の亜鉛と液中に残留するインジウムを水酸化物沈澱にし、これを固液分離してガリウム含有液を回収する上記[1]または上記[2]に記載するガリウムの回収方法。
〔4〕pH調整してインジウムと亜鉛の水酸化物を固液分離したガリウム含有液に、液中の亜鉛量に対して2倍〜5倍モル量の硫化剤を加えて硫化亜鉛を沈澱させる上記[1]〜上記[3]の何れかに記載するガリウムの回収方法。
〔5〕硫化処理して回収した高純度ガリウム液を電解処理して金属ガリウムを回収する上記[1]〜上記[4]の何れかに記載するガリウムの回収方法。
〔6〕水浸出後に固液分離したインジウム残渣を塩酸に溶解し、この溶解液に亜鉛またはアルミニウムを添加して金属インジウムを析出させて回収する上記[1]〜上記[5]の何れかに記載するガリウムの回収方法。
【0011】
〔具体的な説明〕
本発明の処理工程の一例を図1に示す。InGaZn廃材を5mm角以下に粉砕する(粉砕工程)。好ましくは、0.001mm角〜0.5mm角に粉砕する。InGaZn廃材が5mm角より大きいと、水酸化アルカリとの接触面積が小さくなり、溶解反応が遅いので、ガリウムの浸出率が低下し、ガリウム浸出率を高くするには多量の水酸化アルカリを必要とし、また処理時間を長くする必要がある。なお、InGaZn廃材を0.001mmより小さく粉砕すると、次工程での濾過性が低下する。粉砕手段は限定されず、ボールミル、ロッドミル等を使用することができる。
【0012】
InGaZn廃材は、例えば、IGZO半導体の製造工程やIGZO廃棄物処理工程などにおいて生じたインジウムおよびガリウムおよび亜鉛を主成分とした廃棄物などである。
具体的には、例えば、ガリウム含有量が概ね20質量%〜26質量%のIn−Ga−Zn複合酸化物(IGZO)廃材などを原料に用いることができる。
なお、従来知られているアルカリ溶融法(特許文献3)では、インジウム含有量とガリウム含有量がほぼ同程度のものを原料としているが、本発明の処理方法によれば、ガリウム含有量がインジウム含有量よりも少ない原料、例えば、IGZO廃材(In量約37〜42wt%、Ga量約20〜26wt%、Zn量約12〜21wt%、O量約20〜21wt%)についても、低コストで効率よく高純度のガリウムを回収することができる。
【0013】
粉砕したInGaZn廃材にNaOH、KOHなどの水酸化アルカリを混合し熱処理を行う(アルカリ溶融工程)。NaOHを用いればコスト的に有利である。水酸化アルカリに水酸化ナトリウム重量の1〜5倍の水を加え水酸化アルカリ水溶液にして、あるいは水酸化アルカリと共に水をInGaZn廃材に加えて混合しスラリーにすると、ガリウムおよび亜鉛が均一に水酸化アルカリと反応してガリウムと亜鉛の浸出率が向上するので好ましい。
【0014】
例えば、水酸化アルカリとしてNaOHを用い、InGaZn廃材に混合して加熱すると次式(1)〜(3)に示すようにインジウム、ガリウム、亜鉛は酸化物になり、次式(4)(5)に示すように、酸化ガリウムと酸化亜鉛はNaOHと反応してアルカリ塩を生成する。さらに、水浸出時には、次式(6)(7)に示すように、このアルカリ塩が水に溶解する。一方、酸化インジウムはNaOHとほとんど反応しないので、インジウムの大部分は固形物中に残留する。
【0015】
2In + 1.5O → InO (1)
2Ga + 1.5O → GaO (2)
Zn + 0.5O → ZnO (3)
GaO + 2NaOH → 2NaGaO + HO (4)
ZnO + 2NaOH → 2NaZnO + HO (5)
NaGaO + 2HO → NaGa(OH) (6)
NaZnO + 2HO → NaZn(OH) (7)
【0016】
本発明の処理方法では、水酸化アルカリをInGaZn廃材に含まれるガリウムモル量と亜鉛モル量の2倍の合計量に対して1〜2.5倍モル量、好ましくは1.5〜2.0倍モル量の水酸化ナトリウム水溶液を添加する。アルカリ溶融反応において、式(4)(5)に示すように、ガリウム1モルに対してNaOHは1モル反応し、亜鉛1モルに対してNaOHは2モル反応する。従って、InGaZn廃材中のガリウムのモル量[Ga]亜鉛のモル量[Zn]の2倍の合計量([Ga]+2[Zn])の1〜2.5倍モル量の水酸化ナトリウム水溶液を添加する。
【0017】
水酸化アルカリ添加量が上記合計量の1倍モル量より少ないとガリウムの浸出率が低下する。一方、水酸化アルカリ添加量が2.5倍モル量より多いと、ガリウム浸出率は横ばいであり、コスト的に不利であるうえ、高pHのためにインジウムの溶解量が増え、インジウムを除去する手間が増える。しかも水酸化アルカリ量が多くpHが高い液性下では、硫化剤を加えて亜鉛を硫化物として沈澱させるときに、硫化亜鉛が沈澱し難い。硫化亜鉛が沈澱しやすいpH域まで下げるには大量の酸を必要とし、コスト的に不利になる。さらに、水酸化アルカリ量が多いと、ガリウム亜鉛含有液の粘性が高くなり次工程の濾過性が悪化する。
【0018】
InGaZn廃材に含まれるインジウム、ガリウム、亜鉛が金属状態や合金状態であるときには、式(1)〜(5)に示すように、これらを酸化してアルカリと反応させるため、大気下または酸素を含む酸化雰囲気下で熱処理を行う。熱処理は250℃以上にて行う。熱処理が250℃より低いとガリウムが十分に反応しないので、ガリウム浸出率が低下する。熱処理温度は280〜400℃が好ましい。400℃以上ではガリウム浸出率が横ばいであり熱量のコストが不利である。加熱時間は概ね0.5〜2時間が適当である。0.5時間より短いと反応が不十分であり、2時間を超えるとガリウム浸出率が横ばいである。
【0019】
熱処理後、冷却した後に水を添加してガリウムおよび亜鉛を浸出させる(水浸出工程)。水の添加量はInGaZn廃材体積の2〜10倍が好ましい。ガリウムおよび亜鉛が十分に浸出するように、水を添加して30分〜1時間撹拌するとよい。
式(6)(7)に示すように、アルカリ溶融で生じたガリウムと亜鉛のアルカリ塩は水と反応して水酸化物になり、これが水に溶解してガリウムと亜鉛が浸出した水浸出液を生じる。一方、インジウムの大部分はアルカリ溶解せずに酸化インジウムとして固形分に含まれるので、上記水浸出液からインジウム残渣を固液分離してガリウム亜鉛含有液を回収する。
【0020】
なお、アルカリ溶融の際に、式(4)(5)の反応性の相違に基き、Ga23はZnOより多く浸出され、ZnOの一部はインジウム残渣中に残留する。また、インジウム残渣には浸出されなかったガリウムが微量含まれるので、必要に応じて、このインジウム残渣をアルカリ溶融工程に戻し、再び水酸化アルカリと混合して加熱処理することによってガリウム回収率を上げることができる。
【0021】
また、インジウム残渣は塩酸などに溶解し、その溶解液に亜鉛やアルミニウムなどを添加してセメンテーションによって金属インジウムを回収することができる。
【0022】
上記ガリウム亜鉛含有液は概ねpH13〜14の強アルカリ性であり、ガリウムと共に亜鉛が溶解しており、また少量のインジウムが含まれている。具体的には、例えば、亜鉛を0.5〜20g/L、インジウムを5〜10mg/L程度含んでいる。このガリウム亜鉛含有液をそのまま電解処理するとインジウムと亜鉛を含んだ低純度の金属ガリウムが析出する。
【0023】
そこで、上記ガリウム亜鉛含有液に塩酸や硫酸を加えてpHを12〜13に調整して液中の亜鉛とインジウムを水酸化物沈澱にする。pH12〜13で水酸化亜鉛および水酸化インジウムは沈澱するが、ガリウムは水酸化物の沈澱を形成せずに液中に残る。これを固液分離し、亜鉛とインジウムを除去したガリウム含有液を回収する(水酸化処理工程)。
ガリウム亜鉛含有液のpHが12未満になると水酸化ガリウムが沈澱するようになり、pHが13より高いと、インジウムおよび亜鉛の水酸化物が十分に沈澱しないので好ましくない。なお、上記水浸出後にインジウム残渣を固液分離せずに、そのままスラリーのpHを12〜13に調整して水酸化亜鉛および水酸化インジウムを沈澱させた後に、固液分離してガリウム含有液を回収してもよい。
【0024】
回収したガリウム含有液にはまだ亜鉛が微量(1〜10mg/L)含まれているので、硫化剤を加えて液中の亜鉛を硫化物として沈澱させ、これを固液分離して高純度のガリウム液を回収する(硫化処理工程)。硫化剤は水硫化ソーダ(NaHS)、硫化ソーダ(NaS)などが低コストで有利である。硫化剤の添加量はガリウム含有液に残留する亜鉛の2倍〜5倍モル量が好ましい。硫化剤が2倍モル量より少ないと硫化亜鉛の生成が不十分であるため亜鉛の除去効果が低く、5倍モル量より多くても亜鉛の除去効果は横ばいである。
【0025】
上記硫化処理後に硫化銅沈澱を固液分離し、銅含有量の少ない高純度ガリウム液を回収する。この高純度ガリウム液の電解処理によって、ガリウム純度99.999%以上の金属ガリウムを得ることができる(電解工程)。
【発明の効果】
【0026】
本発明のガリウム回収方法は、従来の溶媒抽出法や樹脂吸着法のような特殊な溶媒や樹脂を用いたり、防爆設備にする必要がなく、また、従来のアルカリ溶融法に比較して水酸化アルカリ量が格段に少なく、従って、共存する亜鉛やインジウムをガリウムと分離するのが容易であり、低コストで効率よく高純度のガリウムを回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一例を示す処理工程図
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。なお、Ga、In、Znの浸出率、In、Znの除去率はおのおの原料(InGaZn廃材)に含まれるGa量、In量、Zn量に対する割合である。
【0029】
〔実施例1〕
IGZO廃材(In35wt%、Ga20wt%、Zn20wt%)100gを5mm角以下に粉砕した後、NaOHを57.5g(Gaのモル量[Ga]とZnのモル量[Zn]の2倍の合計[Ga]+2[Zn]の1.6倍モル量)混合し、大気中、400℃で2時間加熱した後、室温まで冷却してから、さらに水500ml添加して30分〜1時間時間経過した後に濾過し、GaZn含有液とIn残渣に分離した。回収したGaZn含有液のGa濃度は36.8g/L、Zn濃度は10g/L、In濃度は4mg/Lであり、従ってGaの浸出率は92%、Znの浸出率は25%、Inの浸出率は0.006%であった。
【0030】
〔実施例2〕
IGZO廃材(In35wt%、Ga20wt%、Zn20wt%)100gを0.001mm角〜0.5mm角に粉砕した後、NaOHを57.5g(Gaのモル量[Ga]とZnのモル量[Zn]の2倍の合計[Ga]+2[Zn]の1.6倍モル量)と、水50mlを混合してスラリーとした後、大気中、400℃で2時間加熱した後、室温まで冷却してから、さらに水500ml添加して30分〜1時間時間経過した後に濾過し、GaZn含有液とIn残渣に分離した。回収したGaZn含有液のGa濃度は38.4g/L、Zn濃度は14g/L、In濃度は5mg/Lであり、従ってGaの浸出率は96%、Znの浸出率は35%、Inの浸出率は0.007%であった。
【0031】
〔実施例3〕
実施例2で得たGaZn含有液のpHは13.5であったので、98%濃度の硫酸27mlを添加してpHを12.6に調整した。pH調整後、固液分離して高純度のガリウム液を得た。この高純度Ga液(530ml)のGa濃度は36.2g/Lであり、Zn濃度は20mg/L、In濃度は0.1mg/Lであり、GaZn含有液からのガリウム回収率は99.9%、In除去率、Zn除去率はそれぞれ97.9%、99.8%であった。
【0032】
〔実施例4〕
実施例3で得たGa含有液に、NaHSを18.2mg(Ga含有液中Znの2倍モル量)添加し、十分に攪拌した後、濾過して高純度Ga液を得た。高純度Ga液(530ml)中のIn濃度、Ga濃度、Zn濃度はそれぞれ0.1mg/L、36.2g/L、0.1mg/Lであり、Ga含有液からのGa回収率は100%、In除去率、Zn除去率はそれぞれ0%、99.5%であった。また、この高純度Ga液を電解して得た金属Gaの純度は99.999%以上であった。
【0033】
〔実施例5〕
実施例2で得たIn残渣を、35%濃度の塩酸を187mlと水105mlを加えた300mlに溶解した後、この溶解液にZn板とAl板を投入してセメンテーションを行い、金属Inを得た。得られた金属Inは35.4g(In99.1wt%、Zn0.9wt%)であり、In回収率は99.9%以上であった。
【0034】
〔実施例6〕
NaOHを35.9g(Gaのモル量[Ga]とZnのモル量[Zn]の2倍の合計[Ga]+2[Zn]の1モル量)添加し、大気下、250℃で8時間加熱した以外は実施例2と同じ処理を行ったところ、水浸出後に固液分離して回収したGaZn含有液のGa濃度は34g/L、Zn濃度は8g/Lであり、Ga浸出率は85%、Zn浸出率は20%であった。
【0035】
〔比較例1〕
IGZO廃材を5mm角〜10mm角に粉砕した原料を使用した以外は実施例2と同じ処理を行なったところ、In、Ga、Znの浸出率はそれぞれ0%、10%、5%であった。
【0036】
〔比較例2〕
NaOHを28.7g(Gaモル量[Ga]とZnモル量[Zn]の2倍の合計量〔[Ga]+2[Zn]〕に対して0.8倍モル量)を添加した以外は実施例2と同じ処理を行なったところ、In、Ga、Znの浸出率はそれぞれ0%、77%、2%であった。

【0037】
〔比較例3〕
NaOHを359g(Gaモル量[Ga]とZnモル量[Zn]の2倍の合計量〔[Ga]+2[Zn]〕に対して10倍モル量)を添加した以外は実施例2と同じ処理を行なったところIn、Ga、Znの浸出収率はそれぞれ0%、95%、95%であった。GaZn含有液をpH=12.6まで中和してZnとInを水酸化物として除去する際、使用した98%濃度の硫酸量は227mlであった。

図1