【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の処理方法は、上記課題を解決する手段として以下の構成を有するガリウムの回収方法である。
〔1〕インジウムとガリウムと亜鉛を主成分とするInGaZn廃材を5mm角以下に粉砕し、該InGaZn廃材に含まれるガリウムモル量と亜鉛モル量の2倍の合計量に対して1〜2.5倍
モル量の水酸化アルカリを添加し、
または上記モル量の水酸化アルカリ水溶液を添加するか上記モル量の水酸アルカリと共に水を添加してスラリーにした後に、250℃以上に加熱してガリウムと亜鉛のアルカリ塩を生成させ、さらに水を加えてガリウムと亜鉛を浸出させ後に、酸を加えてpH12〜13に調整して液中の亜鉛と液中に残留するインジウムを水酸化物沈澱
にし、これを固液分離してガリウム含有液を回収し、このガリウム含有液に硫化剤を加えて液中の亜鉛を硫化物として沈澱させ、これを固液分離して高純度のガリウム液を回収することを特徴とするガリウムの回収方法。
〔2〕InGaZn廃材を0.001mm角〜0.5mm角に粉砕し、該InGaZn廃材に含まれるガリウムモル量と亜鉛モル量の2倍の合計量に対して1.5〜2.0倍
モル量の水酸化ナトリウムと水酸化ナトリウム重量の1〜5倍の水を添加してスラリーにし、該スラリーを大気下または酸化雰囲気下で280℃〜400℃に加熱してガリウムおよび亜鉛のナトリウム塩を生成させ、さらに水を加えてガリウムおよび亜鉛を浸出させる上記[1]に記載するガリウムの回収方法。
〔3〕ガリウムと亜鉛が浸出した水浸出液、または該水浸出液からインジウム残渣を固液分離して回収したガリウム亜鉛含有液に、酸を加えてpH12〜13に調整して液中の亜鉛と液中に残留するインジウムを水酸化物沈澱にし、
これを固液分離してガリウム含有液を回収する上記[1]または上記[2]に記載するガリウムの回収方法。
〔4〕pH調整してインジウムと亜鉛の水酸化物を固液分離したガリウム含有液に、液中の亜鉛量に対して2倍〜5倍
モル量の硫化剤を加えて硫化亜鉛を沈澱させる上記[1]〜上記[3]の何れかに記載するガリウムの回収方法。
〔5〕硫化処理して回収した高純度ガリウム液を電解処理して金属ガリウムを回収する上記[1]〜上記[4]の何れかに記載するガリウムの回収方法。
〔6〕水浸出後に固液分離したインジウム残渣を塩酸に溶解し、この溶解液に亜鉛またはアルミニウムを添加して金属インジウムを析出させて回収する上記[1]〜上記[5]の何れかに記載するガリウムの回収方法。
【0011】
〔具体的な説明〕
本発明の処理工程の一例を
図1に示す。InGaZn廃材を5mm角以下に粉砕する(粉砕工程)。好ましくは、0.001mm角〜0.5mm角に粉砕する。InGaZn廃材が5mm角より大きいと、水酸化アルカリとの接触面積が小さくなり、溶解反応が遅いので、ガリウムの浸出率が低下し、ガリウム浸出率を高くするには多量の水酸化アルカリを必要とし、また処理時間を長くする必要がある。なお、InGaZn廃材を0.001mmより小さく粉砕すると、次工程での濾過性が低下する。粉砕手段は限定されず、ボールミル、ロッドミル等を使用することができる。
【0012】
InGaZn廃材は、例えば、IGZO半導体の製造工程やIGZO廃棄物処理工程などにおいて生じたインジウムおよびガリウムおよび亜鉛を主成分とした廃棄物などである。
具体的には、例えば、ガリウム含有量が概ね20質量%〜26質量%のIn−Ga−Zn複合酸化物(IGZO)廃材などを原料に用いることができる。
なお、従来知られているアルカリ溶融法(特許文献3)では、インジウム含有量とガリウム含有量がほぼ同程度のものを原料としているが、本発明の処理方法によれば、ガリウム含有量がインジウム含有量よりも少ない原料、例えば、IGZO廃材(In量約37〜42wt%、Ga量約20〜26wt%、Zn量約12〜21wt%、O量約20〜21wt%)についても、低コストで効率よく高純度のガリウムを回収することができる。
【0013】
粉砕したInGaZn廃材にNaOH、KOHなどの水酸化アルカリを混合し熱処理を行う(アルカリ溶融工程)。NaOHを用いればコスト的に有利である。水酸化アルカリに水酸化ナトリウム重量の1〜5倍の水を加え水酸化アルカリ水溶液にして、あるいは水酸化アルカリと共に水をInGaZn廃材に加えて混合しスラリーにすると、ガリウムおよび亜鉛が均一に水酸化アルカリと反応してガリウムと亜鉛の浸出率が向上するので好ましい。
【0014】
例えば、水酸化アルカリとしてNaOHを用い、InGaZn廃材に混合して加熱すると次式(1)〜(3)に示すようにインジウム、ガリウム、亜鉛は酸化物になり、次式(4)(5)に示すように、酸化ガリウムと酸化亜鉛はNaOHと反応してアルカリ塩を生成する。さらに、水浸出時には、次式(6)(7)に示すように、このアルカリ塩が水に溶解する。一方、酸化インジウムはNaOHとほとんど反応しないので、インジウムの大部分は固形物中に残留する。
【0015】
2In + 1.5O
2 → In
2O
3 (1)
2Ga + 1.5O
2 → Ga
2O
3 (2)
Zn + 0.5O
2 → ZnO (3)
Ga
2O
3 + 2NaOH → 2NaGaO
2 + H
2O (4)
ZnO + 2NaOH → 2Na
2ZnO
2 + H
2O (5)
NaGaO
2 + 2H
2O → NaGa(OH)
4 (6)
Na
2ZnO
2 + 2H
2O → Na
2Zn(OH)
4 (7)
【0016】
本発明の処理方法では、水酸化アルカリをInGaZn廃材に含まれるガリウムモル量と亜鉛モル量の2倍の合計量に対して1〜2.5倍
モル量、好ましくは1.5〜2.0倍
モル量の水酸化ナトリウム水溶液を添加する。アルカリ溶融反応において、式(4)(5)に示すように、ガリウム1モルに対してNaOHは1
モル反応し、亜鉛1モルに対してNaOHは2
モル反応する。従って、InGaZn廃材中のガリウムのモル量[Ga]
と亜鉛のモル量[Zn]
の2倍の合計量([Ga]+2[Zn])の1〜2.5倍
モル量の水酸化ナトリウム水溶液を添加する。
【0017】
水酸化アルカリ添加量が上記合計量の1倍
モル量より少ないとガリウムの浸出率が低下する。一方、水酸化アルカリ添加量が2.5倍
モル量より多いと、ガリウム浸出率は横ばいであり、コスト的に不利であるうえ、高pHのためにインジウムの溶解量が増え、インジウムを除去する手間が増える。しかも水酸化アルカリ量が多くpHが高い液性下では、硫化剤を加えて亜鉛を硫化物として沈澱させるときに、硫化亜鉛が沈澱し難い。硫化亜鉛が沈澱しやすいpH域まで下げるには大量の酸を必要とし、コスト的に不利になる。さらに、水酸化アルカリ量が多いと、ガリウム亜鉛含有液の粘性が高くなり次工程の濾過性が悪化する。
【0018】
InGaZn廃材に含まれるインジウム、ガリウム、亜鉛が金属状態や合金状態であるときには、式(1)〜(5)に示すように、これらを酸化してアルカリと反応させるため、大気下または酸素を含む酸化雰囲気下で熱処理を行う。熱処理は250℃以上にて行う。熱処理が250℃より低いとガリウムが十分に反応しないので、ガリウム浸出率が低下する。熱処理温度は280〜400℃が好ましい。400℃以上ではガリウム浸出率が横ばいであり熱量のコストが不利である。加熱時間は概ね0.5〜2時間が適当である。0.5時間より短いと反応が不十分であり、2時間を超えるとガリウム浸出率が横ばいである。
【0019】
熱処理後、冷却した後に水を添加してガリウムおよび亜鉛を浸出させる(水浸出工程)。水の添加量はInGaZn廃材体積の2〜10倍が好ましい。ガリウムおよび亜鉛が十分に浸出するように、水を添加して30分〜1時間撹拌するとよい。
式(6)(7)に示すように、アルカリ溶融で生じたガリウムと亜鉛のアルカリ塩は水と反応して水酸化物になり、これが水に溶解してガリウムと亜鉛が浸出した水浸出液を生じる。一方、インジウムの大部分はアルカリ溶解せずに酸化インジウムとして固形分に含まれるので、上記水浸出液からインジウム残渣を固液分離してガリウム亜鉛含有液を回収する。
【0020】
なお、アルカリ溶融の際に、式(4)(5)の反応性の相違に基き、Ga
2O
3はZnOより多く浸出され、ZnOの一部はインジウム残渣中に残留する。また、インジウム残渣には浸出されなかったガリウムが微量含まれるので、必要に応じて、このインジウム残渣をアルカリ溶融工程に戻し、再び水酸化アルカリと混合して加熱処理することによってガリウム回収率を上げることができる。
【0021】
また、インジウム残渣は塩酸などに溶解し、その溶解液に亜鉛やアルミニウムなどを添加してセメンテーションによって金属インジウムを回収することができる。
【0022】
上記ガリウム亜鉛含有液は概ねpH13〜14の強アルカリ性であり、ガリウムと共に亜鉛が溶解しており、また少量のインジウムが含まれている。具体的には、例えば、亜鉛を0.5〜20g/L、インジウムを5〜10mg/L程度含んでいる。このガリウム亜鉛含有液をそのまま電解処理するとインジウムと亜鉛を含んだ低純度の金属ガリウムが析出する。
【0023】
そこで、上記ガリウム亜鉛含有液に塩酸や硫酸を加えてpHを12〜13に調整して液中の亜鉛とインジウムを水酸化物沈澱にする。pH12〜13で水酸化亜鉛および水酸化インジウムは沈澱するが、ガリウムは水酸化物の沈澱を形成せずに液中に残る。これを固液分離し、亜鉛とインジウムを除去したガリウム含有液を回収する(水酸化処理工程)。
ガリウム亜鉛含有液のpHが12未満になると水酸化ガリウムが沈澱するようになり、pHが13より高いと、インジウムおよび亜鉛の水酸化物が十分に沈澱しないので好ましくない。なお、上記水浸出後にインジウム残渣を固液分離せずに、そのままスラリーのpHを12〜13に調整して水酸化亜鉛および水酸化インジウムを沈澱させた後に、固液分離してガリウム含有液を回収してもよい。
【0024】
回収したガリウム含有液にはまだ亜鉛が微量(1〜10mg/L)含まれているので、硫化剤を加えて液中の亜鉛を硫化物として沈澱させ、これを固液分離して高純度のガリウム液を回収する(硫化処理工程)。硫化剤は水硫化ソーダ(NaHS)、硫化ソーダ(Na
2S)などが低コストで有利である。硫化剤の添加量はガリウム含有液に残留する亜鉛の2倍〜5倍
モル量が好ましい。硫化剤が2倍
モル量より少ないと硫化亜鉛の生成が不十分であるため亜鉛の除去効果が低く、5倍
モル量より多くても亜鉛の除去効果は横ばいである。
【0025】
上記硫化処理後に硫化銅沈澱を固液分離し、銅含有量の少ない高純度ガリウム液を回収する。この高純度ガリウム液の電解処理によって、ガリウム純度99.999%以上の金属ガリウムを得ることができる(電解工程)。