特許第6017893号(P6017893)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6017893ガラス板の製造方法、および、ガラス板の製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6017893
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】ガラス板の製造方法、および、ガラス板の製造装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 17/06 20060101AFI20161020BHJP
   G02F 1/1333 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   C03B17/06
   G02F1/1333 500
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-189578(P2012-189578)
(22)【出願日】2012年8月30日
(65)【公開番号】特開2014-47088(P2014-47088A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2014年6月17日
【審判番号】不服2015-16823(P2015-16823/J1)
【審判請求日】2015年9月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】598055910
【氏名又は名称】AvanStrate株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111187
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 秀忠
(72)【発明者】
【氏名】前田 伸広
【合議体】
【審判長】 大橋 賢一
【審判官】 瀧口 博史
【審判官】 中澤 登
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭46−34437(JP,B1)
【文献】 特開2004−284843(JP,A)
【文献】 結晶工学ハンドブック、初版、共立出版株式会社、1971年5月10日、第1385〜1386頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 17/00-17/06
C03B 5/00- 5/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熔融ガラスを成形体の上端面から溢れさせて分流させ、前記成形体の下端で合流させてガラス板を連続して成形する、低温ポリシリコン・TFTまたは酸化物半導体が表面に形成されるガラス板の製造方法であって、
前記成形体は、前記成形体と接触する支持部材、および、前記成形体と接触せず前記支持部材と接触する断熱部材を介して、前記成形体の長手方向の両端面に前記長手方向の力が加えられている状態で設置され、
前記断熱部材は、前記支持部材より小さい熱伝導率を有し、かつ、50MPa以上の圧縮強度を有し、かつ、雲母を含み、
前記断熱部材は、2W/(m・K)以下の熱伝導率を有する、
ガラス板の製造方法。
【請求項2】
前記断熱部材は、550℃以上の耐熱温度を有する、
請求項1に記載のガラス板の製造方法。
【請求項3】
前記ガラス板は、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板である、
請求項1または2に記載のガラス板の製造方法。
【請求項4】
熔融ガラスを溢れさせて分流させ、下方において合流させて、低温ポリシリコン・TFTまたは酸化物半導体が表面に形成されるガラス板を連続して成形するための成形体と、
前記成形体と接触する支持部材と、
前記成形体と接触せず前記支持部材と接触する断熱部材と、
を備え、
前記成形体は、前記支持部材および前記断熱部材を介して、前記成形体の長手方向の両端面に前記長手方向の力が加えられている状態で設置され、
前記断熱部材は、前記支持部材より小さい熱伝導率を有し、かつ、50MPa以上の圧縮強度を有し、かつ、雲母を含み、
前記断熱部材は、2W/(m・K)以下の熱伝導率を有する、
ガラス板の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板の製造方法、および、ガラス板の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイおよびプラズマディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)に用いられるガラス板は、表面に高い平坦度が要求される。通常、このようなガラス板は、オーバーフローダウンドロー法によって製造される。オーバーフローダウンドロー法では、特許文献1(米国特許第3,338,696号)に記載されているように、成形体に流し込まれて溢れ出た熔融ガラスが、成形体の外表面を伝って流れ落ち、成形体の下端で合流して、下方に引き伸ばされながらリボン状のガラスに成形される。
【0003】
オーバーフローダウンドロー法において、成形体は、成形炉内の高温の雰囲気下に設置されている。また、成形体には、自重およびガラスの重量による荷重がかかっている。従って、成形体の長手方向の中央部は、熱クリープ特性によって、下方に垂れ下がり易い。特に、近年、ガラスの大型化が進み、成形体は、長手方向に長くなる傾向にあるので、熱クリープ特性による垂れ下がりがより顕著となる。
【0004】
この問題を解決するために、特許文献2(特昭46−34437号公報)に記載されているように、成形体の長手方向の両端から、長手方向の力を成形体に加えた状態で、成形体を支持する方法が用いられる。この方法では、成形体は、支持ブロックおよび耐火絶縁レンガによって支持された状態で、長手方向の圧縮力が付与されているので、熱クリープ特性に起因する変形が抑制される。
【0005】
また、オーバーフローダウンドロー法において、成形体の温度分布は、成形体の下端から連続して成形されるガラス板の品質に大きな影響を与える。成形体は、特に、その長手方向において高い温度差を有しないことが好ましい。ここで、成形体に長手方向の圧縮力を加えて成形体を支持する上述の方法において、成形体の支持部材を介して炉外に放出される成形体の熱量が大きいと、成形体の長手方向の温度差が拡大し、ガラスの品質に影響を及ぼす。具体的には、成形体の温度差は、成形体の表面を流下する熔融ガラスの温度差を生じさせ、熔融ガラスの温度差は、成形されるガラス板の肉厚差を生じさせる。すなわち、成形体の温度差は、ガラス板の板厚偏差に影響を及ぼす。また、成形体の温度分布は、成形炉内の雰囲気の温度分布にも影響を及ぼす。成形炉内の温度分布も、成形体の温度差と同様に、ガラス板の板厚偏差に影響を及ぼす。また、炉外に放出された成形体の熱量を補うため、成形炉の外部から成形体に熱を供給する必要がある。この問題を解決するため、特許文献2では、成形体は、耐火絶縁レンガによって支持されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、長手方向の圧縮力を加えて成形体を支持するために用いられる部材は、充分な圧縮強度を有している必要がある。しかし、一般的に、高い圧縮強度を有するレンガは、熱伝導率が大きいので、炉内の熱が放出されやすい。逆に、特許文献2に記載されている耐火絶縁レンガは、熱伝導率が小さいが、充分な圧縮強度を有さないので、成形体に対して充分な圧縮力を加えることができない。成形体に対して必要充分な圧縮力を加えた場合、耐火絶縁レンガが破壊されてしまう高いリスクが生じる。
【0007】
本発明の目的は、成形体の支持部材を介して放出される成形体の熱量を抑制し、かつ、成形体の熱クリープ特性による変形を抑制することができるガラス板の製造方法、および、ガラス板の製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るガラス板の製造方法は、熔融ガラスを成形体の上端面から溢れさせて分流させ、成形体の下端で合流させてガラス板を連続して成形するガラス板の製造方法である。成形体は、支持部材および断熱部材を介して、成形体の長手方向の両端面に長手方向の力が加えられている状態で設置される。支持部材は、成形体と接触する。断熱部材は、成形体と接触せず、支持部材と接触する。断熱部材は、支持部材より小さい熱伝導率を有し、かつ、50MPa以上の圧縮強度を有する。
【0009】
本発明に係るガラス板の製造方法では、オーバーフローダウンドロー法に用いられる成形体が、成形体の長手方向の両端から、長手方向の力が加えられている状態で、成形炉内に設置されている。成形体の長手方向の中央部は、熱クリープ特性に起因して、下方に垂れ下がり易い傾向がある。そのため、成形体に長手方向の圧縮力を加えることによって、成形体の変形が抑制される。また、成形体は、支持部材および断熱部材を介して、成形炉内に設置されている。具体的には、成形体は、一対の支持部材によって、長手方向の両端において挟まれている。一対の支持部材は、さらに、一対の断熱部材によって、長手方向の両端において挟まれている。成形体は、一対の支持部材および一対の断熱部材を介して、成形炉外に設置される圧縮機構によって、長手方向の圧縮力が加えられる。断熱部材の熱伝導率は小さいので、成形炉内の雰囲気の熱、および、成形体の熱は、断熱部材を伝って成形炉の外部に放出されにくい。従って、断熱部材によって、成形体および成形炉内の雰囲気の温度分布は良好に保たれる。また、成形炉の内部から放出される熱によって成形体の圧縮機構の温度が上がり過ぎて圧縮機構の耐熱温度を超え、圧縮機構が破損することが、断熱部材によって回避される。また、断熱部材は、50MPa以上の圧縮強度を有し、成形体に加えられる長手方向の圧縮力に充分に耐えることができる。従って、熱クリープ特性に起因する成形体の変形が、充分に抑制される。なお、断熱部材は、雲母を含むことが好ましい。
【0010】
また、本発明に係るガラス板の製造方法では、断熱部材は、2W/(m・K)以下の熱伝導率を有することが好ましい。この場合、断熱部材は、充分に低い熱伝導率を有するので、成形体および成形炉内の熱が炉外に放出されることを、より効率的に抑制することができる。
【0011】
また、本発明に係るガラス板の製造方法では、断熱部材は、550℃(JIS C 2116:1982)以上の耐熱温度を有することが好ましい。断熱部材の耐熱温度が高いほど、断熱部材の設置場所の制約が少なくなるので、より高温の支持部材に断熱部材を接触させて設置することができる。これにより、成形体に近い高温側の断熱部材の厚みを増加させること等によって、断熱性能を向上させることができる。
【0012】
断熱部材は、支持部材と異なる種類の材料から成形される。断熱部材の圧縮強度が50MPa〜1000MPaである場合、断熱部材は、成形体に加えられる長手方向の圧縮力に充分に耐えることができるので、熱クリープ特性に起因する成形体の変形が充分に抑制される。断熱部材の圧縮強度は、より好ましくは、100MPa〜1000MPaであり、さらに好ましくは、200MPa〜1000MPaである。断熱部材の圧縮強度の測定方法は、JIS K 6911:2006である。
【0013】
また、断熱部材の熱伝導率は、0W/(m・K)〜2W/(m・K)であることが好ましい。この場合、断熱部材は、充分に低い熱伝導率を有するので、成形体および成形炉内の熱が炉外に放出されることが、より効果的に抑制される。断熱部材の熱伝導率は、より好ましくは、0W/(m・K)〜1W/(m・K)であり、さらに好ましくは、0W/(m・K)〜0.5W/(m・K)である。断熱部材の熱伝導率の測定方法は、常温におけるレーザフラッシュ法である。
【0014】
一方、支持部材は、高い耐火性能と大きな圧縮強度を有するレンガブロックであることが好ましい。支持部材として使用されるレンガブロックの圧縮強度は、300MPa程度(JIS R 2206−1:2007)であり、レンガブロックの熱伝導率は、4.0W/(m・K)程度(JIS R 2616:2001)である。また、高い断熱性を有する断熱レンガの圧縮強度は、4MPa程度(JIS R 2206−1:2007)であり、断熱レンガの熱伝導率は、0.35W/(m・K)程度(JIS R 2616:2001)である。すなわち、断熱部材は、支持部材よりも小さい熱伝導率を有する。また、断熱部材は、断熱レンガよりも大きい圧縮強度を有する。
【0015】
なお、断熱部材は、その耐熱温度を超えない場所に設置される必要がある。例えば、支持部材の厚みを増したり、支持部材を厚み方向に複数に分割してその間にセラミックファイバーペーパーを挟んだりすることで、各接触面での熱伝導を阻害し、それを実現することができる。
【0016】
本発明に係るガラス板の製造方法は、熔融ガラスを成形体の上端面から溢れさせて分流させ、成形体の下端で合流させてガラス板を連続して成形するガラス板の製造方法である。成形体は、支持部材および断熱部材を介して、成形体の長手方向の両端面に長手方向の力が加えられている状態で設置される。支持部材は、成形体と接触する。断熱部材は、成形体と接触せず、支持部材と接触する。断熱部材は、雲母を含む。
【0017】
本発明に係るガラス板の製造方法では、成形体および成形炉内の熱を炉外に放出されにくくするために使用される断熱部材が、雲母を含んでいる。例えば、雲母を含むセラミックスは、高い耐熱性、低い熱伝導率および高い圧縮強度を有し、断熱部材として優れた性質を有している。従って、雲母を含む断熱部材を使用することで、成形炉内の熱を炉外に放出されにくくする効果、および、熱クリープ特性に起因する成形体の変形を抑制する効果を、より効果的に達成することができる。
【0018】
本発明に係るガラス板の製造方法では、ガラス板は、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板であることが好ましく、また、低温ポリシリコン用ガラス基板であることが好ましい。
【0019】
本発明に係るガラス板の製造装置は、成形体と、支持部材と、断熱部材とを備える。成形体は、熔融ガラスを溢れさせて分流させ、下方において合流させてガラス板を連続して成形するための部材である。支持部材は、成形体と接触する。断熱部材は、成形体と接触せず、支持部材と接触する。成形体は、支持部材および断熱部材を介して、成形体の長手方向の両端面に長手方向の力が加えられている状態で設置される。断熱部材は、支持部材より小さい熱伝導率を有し、かつ、50MPa以上の圧縮強度を有する。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るガラス板の製造方法、および、ガラス板の製造装置は、成形体の支持部材を介して放出される成形体の熱量を抑制し、かつ、成形体の熱クリープ特性による変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施形態に係るガラス板製造装置の全体構成図である。
図2】成形炉内に設置される成形体を表す図である。
図3】成形体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(1)ガラス板製造装置の全体構成
本発明に係るガラス板の製造方法、および、ガラス板の製造装置の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係るガラス板製造装置200の構成の一例を示す模式図である。ガラス板製造装置200は、熔解槽40と、清澄槽41と、攪拌装置100と、成形装置42と、導管43a,43b,43cとを備える。導管43aは、熔解槽40と清澄槽41とを接続する。導管43bは、清澄槽41と攪拌装置100とを接続する。導管43cは、攪拌装置100と成形装置42とを接続する。
【0023】
熔解槽40で生成された熔融ガラスは、導管43aを通過して清澄槽41に流入する。清澄槽41で清澄された熔融ガラスは、導管43bを通過して攪拌装置100に流入する。攪拌装置100で攪拌された熔融ガラスは、導管43cを通過して成形装置42に流入する。成形装置42では、オーバーフローダウンドロー法によって熔融ガラスからガラスリボンが成形される。ガラスリボンは、後の工程で所定の大きさに切断されて、ガラス板が製造される。ガラス板の幅方向の寸法は、例えば、500mm〜3500mmである。ガラス板の長さ方向の寸法は、例えば、500mm〜3500mmである。
【0024】
本発明に係るガラス板の製造方法、および、ガラス板の製造装置によって製造されるガラス板は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)用のガラス基板として、特に適している。FPD用のガラス基板としては、無アルカリガラス、または、アルカリ微量含有ガラスが用いられる。FPD用のガラス基板は、高温粘性が高い。具体的には、102.5ポアズの粘性を有する熔融ガラスの温度は、1500℃以上である。高温粘性が高いガラスは、成形時の温度を高くする必要があるので、後述する熱クリープ特性による変形がより顕著になる。
【0025】
熔解槽40は、図示されていないが、バーナー等の加熱手段を備えている。熔解槽40では、加熱手段によりガラス原料が熔解され、熔融ガラスが生成される。ガラス原料は、所望の組成のガラスを実質的に得ることができるように調製される。ガラスの組成の一例として、FPD用のガラス基板として好適な無アルカリガラスは、SiO2:50質量%〜70質量%、Al23:0質量%〜25質量%、B23:1質量%〜15質量%、MgO:0質量%〜10質量%、CaO:0質量%〜20質量%、SrO:0質量%〜20質量%、BaO:0質量%〜10質量%を含有する。ここで、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計の含有量は、5質量%〜30質量%である。
【0026】
また、FPD用のガラス基板として、アルカリ金属を微量含むアルカリ微量含有ガラスを用いてもよい。アルカリ微量含有ガラスは、成分として、0.1質量%〜0.5質量%のR’2Oを含み、好ましくは、0.2質量%〜0.5質量%のR’2Oを含む。ここで、R’は、Li、NaおよびKから選択される少なくとも1種である。なお、R’2Oの含有量の合計は、0.1質量%未満であってもよい。
【0027】
また、本発明によって製造されるガラスは、上記成分に加えて、SnO2:0.01質量%〜1質量%(好ましくは、0.01質量%〜0.5質量%)、Fe23:0質量%〜0.2質量%(好ましくは、0.01質量%〜0.08質量%)をさらに含有してもよく、環境負荷を考慮して、As23、Sb23およびPbOを実質的に含有しなくてもよい。
【0028】
上記のように調製されたガラス原料は、熔解槽40に投入される。熔解槽40では、ガラス原料は、その組成等に応じた温度で熔解される。これにより、熔解槽40では、例えば、1500℃〜1600℃の高温の熔融ガラスが得られる。
【0029】
熔解槽40で得られた熔融ガラスは、熔解槽40から導管43aを通過して清澄槽41に流入する。清澄槽41には、図示されていないが、熔解槽40と同様に加熱手段が設置されている。清澄槽41では、熔融ガラスがさらに昇温させられることで清澄される。例えば、清澄槽41において、熔融ガラスの温度は、1550℃以上、さらには1600℃以上に上昇させられる。熔融ガラスは、昇温されることで清澄されて、熔融ガラスに含まれる微小な泡が除去される。
【0030】
清澄槽41において清澄された熔融ガラスは、清澄槽41から導管43bを通過して攪拌装置100に流入する。熔融ガラスは、導管43bを通過する際に冷却される。攪拌装置100では、清澄槽41における温度よりも低い温度で、熔融ガラスが攪拌される。例えば、攪拌装置100において、熔融ガラスの温度は、1250℃〜1450℃までに冷却される。なお、攪拌装置100において、熔融ガラスの粘度は、例えば、500ポアズ〜1300ポアズである。熔融ガラスは、攪拌装置100において攪拌されて均質化される。
【0031】
攪拌装置100において均質化された熔融ガラスは、攪拌装置100から導管43cを通過して成形装置42に流入する。熔融ガラスは導管43cを通過する際にさらに冷却され、成形に適した粘度まで冷却される。熔融ガラスは、例えば、1200℃付近まで冷却される。成形装置42では、オーバーフローダウンドロー法により熔融ガラスが成形される。具体的には、成形装置42に流入した熔融ガラスは、成形炉50内に設置されている成形体52に供給される。成形体52は、耐火レンガによって成形され、楔状の断面形状を有する。成形体52の上面には、成形体52の長手方向に沿って溝が形成されている。熔融ガラスは、成形体52の上面の溝に供給される。溝から溢れた熔融ガラスは、成形体52の一対の側面を伝って下方へ流下する。成形体52の側面を流下した一対の熔融ガラスは、成形体52の下端で合流して、ガラスリボンが連続的に成形される。ガラスリボンは下方へ向かうに従って徐々に冷却され、その後、所望の大きさのガラス板に切断される。
【0032】
(2)成形体の構成
図2は、成形炉50内に設置されている成形体52を表す概略図である。図2において、成形体52の長手方向は、左右方向である。以下、「長手方向」は、成形体52の長手方向を意味する。成形体52は、本体52aと、熔融ガラスが供給される上面溝52bと、成形体52の長手方向の端面52cとを有している。図3は、図2のIII−III線における成形体52の断面図である。図3には、成形体52の上面溝52bから溢れて流下した一対の熔融ガラスが、成形体52の下端で合流して、ガラスリボンが成形される状況が示されている。
【0033】
成形体52は、図2に示されるように、一対の支持部材54a、54b、および、一対の断熱部材56a,56bを介して、成形炉50の炉壁50aに固定されている。以下、図2において左側に示される支持部材を、左支持部材54aと呼び、図2において右側に示される支持部材を、右支持部材54bと呼ぶ。また、図2において左側に示される断熱部材を、左断熱部材56aと呼び、図2において右側に示される断熱部材を、右断熱部材56bと呼ぶ。
【0034】
左支持部材54aは、成形体52および左断熱部材56aと接触している。左断熱部材56aは、左支持部材54aと接触しているが、成形体52と接触していない。左支持部材54aは、成形体52の端面52cにおいて、成形体52と接触している。左支持部材54aは、成形体52の端面52cと接触している面と対向する面において、左断熱部材56aと接触している。以上の説明は、右支持部材54bおよび右断熱部材56bにも同様に適用される。
【0035】
成形体52は、長手方向の両側の端面52cに、長手方向の力が加えられている状態で、成形炉50内に設置されている。すなわち、図2に示されるように、成形体52には、長手方向に成形体52を圧縮する圧縮力Fが加えられている。
【0036】
右支持部材54bおよび右断熱部材56bは、右端板58bによって、長手方向に固定されている。右断熱部材56bは、右支持部材54bと接触している面と対向する面において、右端板58bと接触している。右端板58bは、位置調節機構60に連結されている。位置調節機構60は、成形体52および成形炉50の寸法の微小な変化に応じて、右端板58bの位置を長手方向に微調整することができる。右支持部材54b、右断熱部材56bおよび右端板58bは、成形炉50の炉壁50aによって支持されている。右支持部材54bは、炉壁50aに形成される孔に挿入されている。
【0037】
左支持部材54aおよび左断熱部材56aは、左端板58aによって、長手方向に支持されている。左断熱部材56aは、左支持部材54aと接触している面と対向する面において、左端板58aと接触している。左端板58aは、成形体圧縮機構62に連結されている。左支持部材54a、左断熱部材56aおよび左端板58aは、成形炉50の炉壁50aによって支持されている。左支持部材54aは、炉壁50aに形成される孔に挿入されている。
【0038】
成形体圧縮機構62は、長手方向に沿って左端板58aを成形体52に向かって押すことで、成形体52に圧縮力Fを加えることができる。本実施形態において、成形体圧縮機構62は、成形炉50の外部に設置され、エアシリンダ62aとピストン62bとを有する。エアシリンダ62a内部の空気圧によって、ピストン62bは、成形体52に向かって長手方向に移動することができる。成形体圧縮機構62は、エアシリンダ62a内部の空気圧を変化させることによって、成形体52に加えられる圧縮力Fを調節することができる。
【0039】
支持部材54a、54bは、高い耐熱性と高い圧縮強度を有するレンガブロックである。断熱部材56a,56bは、支持部材54a、54bより低い熱伝導率を有し、かつ、高い圧縮強度および高い耐熱性を有する部材である。具体的には、断熱部材56a,56bは、2W/(m・K)以下の熱伝導率を有し、かつ、50MPa以上の圧縮強度を有し、かつ、550℃以上の耐熱温度を有している。
【0040】
断熱部材56a,56bの好適な例は、雲母を含む断熱材である。例えば、ダンマ550L(株式会社岡部マイカ工業所製)、ダンマ700L(株式会社岡部マイカ工業所製)、または、マイカセラミックTMC−110(日本特殊陶業株式会社製)によって成形されたブロックは、熱伝導率、耐熱性および圧縮強度の観点から、断熱部材56a,56bとして好適である。
【0041】
(3)特徴
(3−1)
本実施形態に係るガラス板製造装置200において、オーバーフローダウンドロー法によるガラスリボンの成形に用いられる成形体52は、図2に示されるように、長手方向の両側の端面52cに、長手方向の圧縮力Fが加えられている状態で、成形炉50の内部に設置されている。
【0042】
成形体52は、成形炉50内の高温の雰囲気下に設置され、かつ、成形体52には、自重およびガラスリボンの重量による荷重がかかっている。そのため、成形体52の長手方向の中央部は、熱クリープ特性によって、下方に垂れ下がり易い傾向がある。成形体52の下端は、ガラスリボンが連続的に成形されるポイントであるので、熱クリープ特性に起因する成形体52の変形は、製造されるガラス板の品質に影響を与える可能性がある。
【0043】
また、成形体52の温度分布は、成形体52の下端から連続して成形されるガラス板の品質に大きな影響を与える。具体的には、成形体52の長手方向の温度差は、成形体52の表面を流下する熔融ガラスの長手方向の温度差を生じさせる。熔融ガラスの長手方向の温度差は、成形されるガラス板の長手方向の肉厚差を生じさせる。すなわち、成形体52の長手方向の温度差は、ガラス板の板厚偏差に影響を及ぼす。また、成形体52の温度分布は、成形炉50内の雰囲気の温度分布にも影響を及ぼす。成形炉50内の雰囲気の長手方向の温度差も、成形体52の長手方向の温度差と同様に、ガラス板の板厚偏差に影響を及ぼす。
【0044】
本実施形態では、成形体52に長手方向の圧縮力Fを加えることによって、熱クリープ特性に起因する成形体52の変形が抑制される。圧縮力Fは、成形体52を長手方向に圧縮する力であり、成形体52の長手方向の中央部が下方に垂れ下がる変形を抑制することができる。
【0045】
また、成形体52は、支持部材54a、54bおよび断熱部材56a、56bを介して、成形炉50の内部において支持されている。図2に示されるように、成形体52は、長手方向の両側において、一対の支持部材54a、54bに挟まれ、さらに、一対の断熱部材56a、56bによって挟まれている。断熱部材56a、56bは、2W/(m・K)以下の低い熱伝導率を有するので、成形炉50内の雰囲気の熱、および、成形体50の熱は、断熱部材56a、56bを伝って成形炉50の外部に放出されにくい。従って、断熱部材56a、56bによって、成形体52および成形炉50内の温度分布の悪化を防止することが可能となる。具体的には、断熱部材56a、56bによって、成形体52の長手方向の温度差が低減され、これにより、成形炉50内の雰囲気の長手方向の温度差も低減される。従って、断熱部材56a、56bは、成形体52の下端から成形されるガラス板の長手方向の肉厚差を減少させる効果を有する。
【0046】
また、断熱部材56a、56bによって、成形炉50の内部から放出される熱によって、成形炉50の外部に設置される成形体圧縮機構62が破損することが回避される。具体的には、成形体圧縮機構62のエアシリンダ62aのパッキンが熱により劣化し、シール性能が維持できなくなることが回避される。
【0047】
また、断熱部材56a、56bは、50MPa以上の圧縮強度を有するので、成形体圧縮機構62によって成形体50に加えられる長手方向の圧縮力Fに、充分に耐えることができる。従って、断熱部材56a、56bを用いても、熱クリープ特性に起因する成形体50の変形は、充分に抑制される。
【0048】
(3−2)
FPD用のガラス基板の表面には、TFT等の半導体素子が形成される。近年、ディスプレイ装置のさらなる高精細化を実現するために、従来のα−Si・TFTに替わって、低温p−Si(ポリシリコン)・TFT、および、酸化物半導体をガラス基板の表面に形成する技術が求められている。
【0049】
しかし、低温p−Si・TFT、および、酸化物半導体をガラス基板の表面に形成する工程は、α−Si・TFTをガラス基板の表面に形成する工程と比べて、より高温の熱処理が必要である。そのため、低温p−Si・TFT、および、酸化物半導体が表面に形成されるガラス板には、熱収縮率が小さい性質が求められる。熱収縮率を小さくするためには、ガラスの歪点を高くすることが好ましい。しかし、歪点が高いガラスは、液相温度が高くなり、液相温度における粘度である液相粘度が低くなる傾向にある。また、ガラスの失透を防止するために、成形時における熔融ガラスの温度を、α−Si・TFT用ガラス基板の成形時における熔融ガラスの温度よりも高くする必要があるので、成形炉内部の雰囲気をより高温にする必要がある。従って、低温p−Si・TFT、および、酸化物半導体が表面に形成されるガラス基板の製造工程では、成形体の熱クリープ特性に起因する変形が、より顕著になる。
【0050】
本実施形態に係るガラス板製造装置200は、上述の特徴を有する断熱部材56a、56bを用いて成形体52を支持することにより、低温p−Si・TFTを採用したフラットパネルディスプレイ、および、酸化物半導体を採用したフラットパネルディスプレイ用のガラス基板の製造に、特に適している。具体的には、低温p−Si・TFTを採用した液晶ディスプレイ、および、酸化物半導体を採用した液晶ディスプレイ用のガラス基板の製造に、特に適している。
【0051】
低温p−Si・TFT、および、酸化物半導体が表面に形成されるガラス板は、例えば、655℃以上の歪点を有し、または、45000ポアズ以上の液相粘度を有している。また、このガラス板の組成は、SiO2:52質量%〜78質量%、Al23:3質量%〜25質量%、B23:1質量%〜15質量%、RO:3質量%〜20質量%であることが好ましい。ここで、Rは、ガラス板に含有され、Mg,Ca,SrおよびBaから選択される少なくとも1種の成分である。このガラス板は、(SiO2+Al23)/B23で表される質量比が7〜20である、無アルカリガラスまたはアルカリ微量含有ガラスであることが好ましい。
【0052】
低温p−Si・TFT、および、酸化物半導体が表面に形成されるガラス板は、高い歪点を有するために、(SiO2+Al23)/ROで表される質量比5以上であり、好ましくは6以上であり、さらに好ましくは7.5以上である。また、このガラス板は、β−OH値が小さすぎると高温領域での粘性が高くなり熔解性が低下し、また、特殊な雰囲気制御も必要となりコスト高になる。一方、このガラス板は、β−OH値が大きすぎると歪点が低くなる。そのため、このガラス板は、0.05/mm〜0.3/mmのβ−OH値を有することが好ましい。また、このガラス板は、高い歪点を有しつつ液相粘度の低下を防止するために、CaO/ROで表される質量比が0.3以上であり、好ましくは0.5以上であり、より好ましくは0.65以上である。また、このガラス板は、環境負荷を考慮して、As23、Sb23およびPbOを実質的に含有しないことが好ましい。
【符号の説明】
【0053】
52 成形体
54a 左支持部材(支持部材)
54b 右支持部材(支持部材)
56a 左断熱部材(断熱部材)
56b 右断熱部材(断熱部材)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0054】
【特許文献1】米国特許第3,338,696号
【特許文献2】特公昭46−34437号公報
図1
図2
図3