特許第6017895号(P6017895)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6017895アルミナ質焼結体の製造方法、真空チャックの製造方法、及び静電チャックの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6017895
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】アルミナ質焼結体の製造方法、真空チャックの製造方法、及び静電チャックの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/10 20060101AFI20161020BHJP
   C04B 41/80 20060101ALI20161020BHJP
   C04B 41/91 20060101ALI20161020BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20161020BHJP
   B25J 15/06 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   C04B35/10 E
   C04B41/80 A
   C04B41/91 D
   H01L21/68 P
   H01L21/68 R
   B25J15/06 F
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-193302(P2012-193302)
(22)【出願日】2012年9月3日
(65)【公開番号】特開2014-47119(P2014-47119A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年9月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀史
(72)【発明者】
【氏名】駒津 貴久
【審査官】 國方 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/095719(WO,A1)
【文献】 特開2004−099413(JP,A)
【文献】 特開平10−167859(JP,A)
【文献】 特開2004−009165(JP,A)
【文献】 米国特許第04248637(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/22,41/80
B25J 1/00−21/02
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナを主成分とするアルミナ質焼結体の製造方法において、
焼成によって前記アルミナ質焼結体を製造した後に、アノーサイト結晶相が生成する温度にて、前記アルミナ質焼結体の後加熱処理を行うことを特徴とするアルミナ質焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記後加熱処理として、1200〜1550℃の温度の範囲で加熱を行うことを特徴とする請求項に記載のアルミナ質焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記後加熱処理として、2時間以上の加熱を行うことを特徴とする請求項又はに記載のアルミナ質焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記後加熱処理によって、アノーサイト結晶相を焼結体全体に均一に分布させてなるアルミナ質焼結体を製造することを特徴とする請求項のいずれか1項に記載のアルミナ質焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記後加熱処理の後に、前記アルミナ質焼結体の表面にサンドブラスト加工を行うことを特徴とする請求項のいずれか1項に記載のアルミナ質焼結体の製造方法。
【請求項6】
アルミナ質焼結体に対して、前記請求項に記載の後加熱処理及びサンドブラスト加工を行うことによって、真空チャックを製造することを特徴とする真空チャックの製造方法。
【請求項7】
アルミナ質焼結体に対して、前記請求項に記載の後加熱処理及びサンドブラスト加工を行うことによって、静電チャックを製造することを特徴とする静電チャックの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体産業において使用されるアルミナ質焼結体の製造方法、そのアルミナ質焼結体の製造方法を用いた真空チャックの製造方法及び静電チャックの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造においては、真空チャックは、半導体ウェハ(例えばシリコンウェハ)の化学機械研磨工程、スピンコート、検査工程等で、半導体ウェハを固定保持するために使用されている。また、静電チャックは、半導体ウェハのエッチング工程、スパッタリング工程、ドーピング工程等で、半導体ウェハを固定保持するために使用されている。
【0003】
この種の真空チャックや静電チャックを構成する主要な部材として、耐久性等の点から、例えばアルミナからなるセラミック焼結体が使用されており、近年では、その性能を向上するために、各種の技術が開発されている。
【0004】
例えば下記特許文献1には、アルミナ質焼結体を静電チャックに使用する場合において、マイクロ波を印加する際に、ヒートショックによってセラミックにクラックが発生することを防止するために、α−アルミナ結晶の最大ピーク強度に対するα−アルミナ結晶を除く最大のピーク強度比を所定値に設定する技術が開示されている。
【0005】
更に、従来においては、真空チャックや静電チャック用のセラミック焼結体に対して、半導体ウェハを吸着する吸着面にメサ形状(即ち微少な凸の形状)を形成するためや、吸着面を所定の表面粗さにするために、サンドブラスト加工が行われていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−56501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した従来の技術では、真空チャック用や静電チャック用のアルミナ質のセラミック焼結体には、通常、図13(左図)に示すように、アノーサイト結晶相P1が偏在しているので、セラミック焼結体P2の表面に対してサンドブラスト加工を行うと、アノーサイト結晶相P1とその他の部分の被切削性の違いにより、図13(右図)に示すように、アノーサイト結晶相P1の分布と一致する箇所(アノーサイト結晶相P1の形成領域)に、例えば円形や円弧状の凹部P4が発生し、サンドブラス加工面に不要な段差P3が生じるという問題があった。
【0008】
この様な段差P3が発生すると、外観上の問題や平面度悪化いう問題が生じる他に、例えば静電チャックでは、静電吸着力、温度分布、加工レートの面内バラツキが生じるため、好ましくない。
【0009】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、サンドブラスト加工などを行った場合でも、その表面に不要な段差が生じにくいアルミナ質焼結体の製造方法、そのアルミナ質焼結体の製造方法を用いた真空チャックの製造方法及び静電チャックの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
)本発明(アルミナ質焼結体の製造方法)は、第態様として、アルミナを主成分とするアルミナ質焼結体の製造方法において、焼成によって前記アルミナ質焼結体を製造した後に、アノーサイト結晶相が生成する温度にて、前記アルミナ質焼結体の後加熱処理を行うことを特徴とする。
なお、前記アノーサイト結晶相とは、CaAlSiで表される結晶相である。
【0017】
本第態様では、焼成によってアルミナ質焼結体を製造した後に、アノーサイト結晶相が生成する温度にて、アルミナ質焼結体の後加熱処理(アニール処理)を行うので、アルミナ質焼結体において、従来より広い範囲にわたりアノーサイト結晶相を生成させることができる。
【0018】
よって、従来に比べて、アルミナ質焼結体においてより均一にアノーサイト結晶相を分布させることができるので、後加熱処理後のアルミナ質焼結体にサンドブラスト加工を行った場合には、不要な段差が生じない良好な加工面を得ることができる。
なお、後加熱処理は、焼結後のアルミナをアノーサイト結晶相が生成する温度域で処理してアノーサイトを全面的に均一化発生させることが目的であるため、必ずしも焼成工程と後加熱処理工程を別々の作業として行う必要はなく、焼結体焼成の降温時、アノーサイト結晶相が生成する温度域を通過する際に、一定温度にて一定時間保持したり、一定の温度範囲を緩やかに降温させたりして組み込むことも可能である。
【0019】
)本発明(アルミナ質焼結体の製造方法)は、第態様として、前記後加熱処理として、1200〜1550℃の温度の範囲で加熱を行うことを特徴とする。
本発明者等の実験では、アノーサイト結晶は、1200℃を下回る温度では形成されず、1550℃を上回ると溶融した。よって、後述する実験例等に示す様に、1200〜1550℃の温度の範囲で後加熱処理を行うことにより、アルミナ質焼結体においてより均一にアノーサイト結晶相を分布させることができる。
【0020】
そのため、この後加熱処理後のアルミナ質焼結体にサンドブラスト加工を行った場合には、不要な段差が生じない良好な加工面を得ることができる。
)本発明(アルミナ質焼結体の製造方法)は、第態様として、前記後加熱処理として、2時間以上の加熱を行うことを特徴とする。
【0021】
後述する実験例等に示す様に、2時間以上の後加熱処理を行うことにより、アルミナ質焼結体においてより一層均一にアノーサイト結晶相を分布させることができるので、この後加熱処理後のアルミナ質焼結体にサンドブラスト加工を行った場合には、より一層不要な段差が生じない良好な加工面を得ることができる。
【0022】
)本発明(アルミナ質焼結体の製造方法)は、第態様として、前記後加熱処理によって、アノーサイト結晶相を焼結体全体に均一に分布させてなるアルミナ質焼結体を製造することを特徴とする。
ここでは、後加熱処理によって、アノーサイト結晶相が焼結体全体に均一に分布したアルミナ質焼結体を製造することを示している。
ここで、「均一」とは、「アルミナ質焼結体に対して、アノーサイト結晶相の有無を検出するX線回折(XRD)による測定機器を用いて測定を行った場合、どの測定地点においても、アノーサイト結晶相が検出できる程度の均一さ、即ち、どの測定地点においても、X線回折によるアノーサート結晶相のピークが検出できる程度の均一さ」を示している。
【0023】
)本発明(アルミナ質焼結体の製造方法)は、第態様として、前記後加熱処理の後に、前記アルミナ質焼結体の表面にサンドブラスト加工を行うことを特徴とする。
ここでは、後加熱処理後にサンドブラスト加工を行うことを示している。このサンドブラスト加工により、アルミナ質焼結体の表面のメサ形状の形成や、表面粗さの調節を行うことができる。
【0024】
)本発明(真空チャックの製造方法)は、第態様として、アルミナ質焼結体に対して、前記第5態様の後加熱処理及びサンドブラスト加工を行うことによって、真空チャックを製造することを特徴とする。
【0025】
本第態様では、上述した後加熱処理及びサンドブラスト加工を行うことによって、真空チャックを製造すること示している。これにより、不要な段差の発生を抑制するとともに、所望のメサ形状を有する真空チャックを容易に製造することができる。
【0026】
)本発明(静電チャックの製造方法)は、第態様として、アルミナ質焼結体に対して、前記第5態様の後加熱処理及びサンドブラスト加工を行うことによって、静電チャックを製造することを特徴とする。
【0027】
本第態様では、上述した後加熱処理及びサンドブラスト加工を行うことによって、静電チャックを製造すること示している。これにより、不要な段差の発生を抑制するとともに、所望のメサ形状や表面粗さを有する静電チャックを容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】実施例1の静電チャックを一部破断して示す斜視図である。
図2】実施例1の静電チャックの図1におけるA−A断面を示す説明図である。
図3】実施例1の静電チャックを分解し、その製造工程を示す説明図である。
図4】実施例2の真空チャックが半導体ウェハを吸着した状態を示す斜視図である。
図5】実施例2の真空チャックの吸着面側を示す平面図である。
図6】実験例1のサンドブラスト加工後の表面状態を示し、(a)は従来品の平面図、(b)は本発明例1の平面図、(c)は本発明例2の平面図である。
図7】実験例1の表面形状の測定結果等を示し、(a)は表面の凹凸の測定箇所を示す説明図、(b)は測定箇所Aにおける表面の凹凸を示すグラフ、(c)は測定箇所Bにおける表面の凹凸を示すグラフ、(d)は測定箇所Cにおける表面の凹凸を示すグラフである。
図8】実験例2の比較例におけるアノーサイト結晶相の分布の測定結果等を示し、(a)は測定箇所を示す説明図、(b)は凸部1におけるXRDの結果を示すグラフ、(c)は凹部2におけるXRDの結果を示すグラフである。
図9】実験例2の本発明例1におけるアノーサイト結晶相の分布の測定結果等を示し、(a)は本発明例1(本発明例2も同様)における測定箇所を示す説明図、(b)は測定箇所1におけるXRDの結果を示すグラフ、(c)は測定箇所2におけるXRDの結果を示すグラフである。
図10】実験例2の本発明例1におけるアノーサイト結晶相の分布の測定結果を示し、(a)は測定箇所3におけるXRDの結果を示すグラフ、(b)は測定箇所4におけるXRDの結果を示すグラフ、(c)は測定箇所5におけるXRDの結果を示すグラフである。
図11】実験例2の本発明例2におけるアノーサイト結晶相の分布の測定結果を示し、(a)は測定箇所1におけるXRDの結果を示すグラフ、(b)は測定箇所2におけるXRDの結果を示すグラフである。
図12】実験例2の本発明例2におけるアノーサイト結晶相の分布の測定結果を示し、(a)は測定箇所3におけるXRDの結果を示すグラフ、(b)は測定箇所4におけるXRDの結果を示すグラフ、(c)は測定箇所5におけるXRDの結果を示すグラフである。
図13】従来技術を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明を実施するための形態(実施例)について説明する。
【実施例1】
【0030】
ここでは、例えば半導体ウェハを吸着保持できる静電チャックを例に挙げる。
a)まず、本実施例の静電チャックの構造について説明する。
図1に示す様に、本実施例の静電チャック1は、図1の上方の吸着面(チャック面)3側にて半導体ウェハ5を吸着するものであり、(例えば直径300mm×厚み3mmの)円盤状の絶縁体(誘電体)であるセラミック体7と、(例えば直径340mm×厚み20mmの)円盤状の金属ベース9とを、例えばインジウムからなる接合層(図示せず)を介して接合したものである。
【0031】
前記セラミック体7は、その表面に前記チャック面3を有し、アルミナを主成分とするアルミナ質焼結体である。また、前記金属ベース9は、例えばアルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属製である。
【0032】
前記静電チャック1には、セラミック体7のチャック面3から金属ベース9の裏面(ベース面)11に到るトンネルである冷却用ガス孔13が設けられている。
また、図2に示す様に、前記セラミック体7の内部には、一対の内部電極27、29が配置されており、各内部電極27、29は電源31に接続されている。
【0033】
そして、上述した構成の静電チャック1を使用する場合には、電源31を用いて、両内部電極27、29の間に、直流高電圧を印加し、これにより、半導体ウェハ5を吸着する静電引力(吸着力)を発生させ、この吸着力を用いて半導体ウェハ5を吸着して固定する。
【0034】
b)次に、本実施例の静電チャック1の製造方法について、図3に基づいて説明する。
(1)原料としては、主成分であるAl23:93重量%、CaO:1.5重量%、SiO2:5.5重量%の各粉末を混合して、ボールミルで、50〜80時間湿式粉砕した後、脱水乾燥する。
【0035】
(2)次に、この粉末に、メタクリル酸イソブチルエステル:3重量%、ブチルエステル:3重量%、ニトロセルロース:1重量%、ジオクチルフタレート:0.5重量%を加え、更に溶剤として、トリクロール−エチレン、n−ブタノールを加え、ボールミルで混合して、流動性のあるスラリーとする。
【0036】
(3)次に、このスラリーを、減圧脱泡後平板状に流し出して徐冷し、溶剤を発散させて、第1〜第6アルミナグリーンシート33〜43を形成する。この第1〜第6アルミナグリーンシート33〜43には、セラミック体側ガス孔23(図1参照)を形成するための貫通孔45〜55を6箇所に開ける。
【0037】
(4)そして、前記第2アルミナグリーンシート35上に、公知のメタライズインクを用いて、通常のスクリーン印刷法により、両内部電極27、29の(図の斜線で示す)パターン57、59を印刷する。
【0038】
(5)次に、前記第1〜第6アルミナグリーンシート33〜43を、各貫通孔45〜55により冷却用ガス孔23が形成されるように位置合わせして、熱圧着し、全体の厚みを約5mmとした積層シートを形成する。
【0039】
尚、内部電極27、29に関しては、図示しないが、スルーホールにより最下層の第6アルミナグリーンシート43の裏面に引き出して端子を設ける。
(6)次に、熱圧着した積層シートを、所定の円板形状(例えば8インチサイズの円板形状)にカットする。
【0040】
(7)次に、カットしたシートを、還元雰囲気にて、1550℃程度で5時間焼成(本焼成)し、アルミナ質焼結体であるセラミック体7を作製する。この焼成より、寸法が約20%小さくなるため、焼成後のセラミック体7の厚みは、約4mmとなる。
【0041】
(8)次に、本焼成を行ったセラミック体7に対して後加熱処理を行う。この後加熱処理としては、例えば1250℃にて2時間加熱する処理を採用した。この後加熱処理によって、セラミック体7全体に均一にアノーサイト結晶相が形成される。
【0042】
(9)そして、後加熱処理後に、チャック面3及びチャック面3と対向する面を研磨加工することによって、セラミック体7の全厚みを3mmとする。
(10)次に、端子にニッケルメッキを施し、更に、このニッケルメッキを施した端子をロー付け又は半田付けする。
【0043】
(11)次に、セラミック体7のチャック面3に対してサンドブラスト加工(処理)を行い、セラミック体7を完成する。このサンドブラスト加工は、チャック面の表面粗さを目標とする値(例えばRa0.6〜1.0)にするために行う。
【0044】
(12)次に、セラミック体7と(金属側ガス孔21(図1参照)を有する)金属ベース9とを、例えばインジウムを用いて接合して一体化する。
これにより、静電チャック1が完成する。
【0045】
c)次に、本実施例の効果について説明する。
本実施例では、焼成によってアルミナ質焼結体であるセラミック体7を製造した後に、アノーサイト結晶相が生成する温度(1200〜1550℃)にて2時間にわたり、セラミック体7の後加熱処理を行うので、セラミック体7において均一にアノーサイト結晶相を分布させることができる。
【0046】
つまり、上述した方法で製造されたセラミック体7は、アノーサイト結晶相が焼結体全体に均一に分布されているので、焼結体表面における被切削性のムラが少なく、どの位置においても被切削性がほぼ一定である。
【0047】
従って、このセラミック体7に対してサンドブラスト加工を行った場合には、従来の様な不要な段差が生じにくい。よって、目的とした寸法精度を容易に実現することができ、静電チャック1の高い性能(静電吸着力、温度分布、加工レートの面内バラツキ小)を実現することができる。
【実施例2】
【0048】
次に、実施例2について説明するが、前記実施例1と同様な箇所の説明は省略する。
ここでは、例えば半導体ウェハを吸着保持できる真空チャックを例に挙げる。
a)まず、本実施例の真空チャックの構造について説明する。
【0049】
図4に示す様に、本実施例の真空チャック61は、図示しない真空吸引装置の先端の吸引口側に取り付けられた円盤状の吸着プレートであり、アルミナ質焼結体(セラミック体)から構成されている。
【0050】
この真空チャック61の上下の表面のうち、図の上方の表面が半導体ウェハ63を吸着保持する吸着面K(基板表面)であり、吸着面Kと反対側の図の下方の表面が非吸着面H(基板裏面)である。尚、図4では、半導体ウェハ63を吸着した状態を示している(但し半分のみを図示)。
【0051】
図5に示す様に、真空チャック61は、直径φ200mm×厚み20mmの円盤状の基板部65を有し、その基板部65の吸着面K側に多数の突起部(メサ)67が格子状(格子の交点)に配置され、その突起部(メサ)67の周囲を囲む様に環状に突出した土手であるシール部69が形成されている。
【0052】
尚、基板部65には、半導体ウェハ63を真空吸引して吸着するために、吸着孔71が複数箇所に形成されている。
b)次に、本実施例の真空チャック61の製造方法について説明する。
【0053】
まず、アルミナを主成分とするセラミック粉末に、焼結助剤、成形助剤(バインダー)等を添加し、粉砕混合した後、噴霧乾燥を行い、成形粉末を作製する。なお、このセラミック粉末としては、例えば前記実施例1と同様な組成を採用できる。
【0054】
この成形粉末を、ラバープレス法、金型プレス法等により、(真空チャック61の形状に対応した)円盤の形状に成形する。更に、必要に応じて、成形後に生加工を行う。
次に、この成形体を焼成し、アルミナ質焼結体を作製する。
【0055】
次に、このアルミナ質焼結体に対して、前記実施例1と同様な条件にて後加熱処理を行い、アノーサイト結晶相が均一に分散されたアルミナ質焼結体を製造する。
次に、このアルミナ質焼結体に対し、ダイヤ砥粒による研磨を行い、所要の精度に仕上げる。
【0056】
次に、吸着面K側に、突起部67及びシール部69の形成位置を覆うマスキングを行ってから、前記実施例1と同様な(但し加工時間等は異なる)サンドブラスト加工により、突起部67及びシール部69の形成部分以外を所定の深さ(つまり前記高さ)となるまで除去し、突起部67及びシール部69を形成する。
【0057】
これにより、真空チャック61を完成する。
c)次に、本実施例の効果を説明する。
本実施例においても、前記実施例1と同様に、焼成によってアルミナ質焼結体を製造した後に、アノーサイト結晶相が生成する温度にて所定時間にわたり後加熱処理を行うので、アルミナ質焼結体において均一にアノーサイト結晶相を分布させることができる。
【0058】
従って、このアルミナ質焼結体に対してサンドブラスト加工を行った場合には、従来の様な不要な段差が生じにくく、目的とした寸法精度を容易に実現することができる。
<実験例>
次に、本発明の効果を確認した実験例について説明する。
(実験例1)
本実験例1では、3種(比較例、本発明例1、2)のアルミナ質焼結体のサンドブラスト加工面の凹凸形状を調べた。
【0059】
そのため、下記の条件にて、原料粉末のプレス成形、本焼成、後加熱処理、平面研磨、サンドブラスト加工の製造工程によって、実験に使用する3種(比較例、本発明例1、2)のアルミナ質焼結体を作製した。
具体的には、まず、Al23:95.1重量%、SiO2:3.6重量%、CaO:0.7重量%、MgO:0.6重量%含むセラミック粉末に適切なバインダー等を添加し、粉砕混合した後、噴霧乾燥を行い、成形粉末を作製する。
【0060】
この成形粉末を、ラバープレス法及び生加工により、φ200mm×厚み10mmの円盤の形状に成形する。
次に、この成形体を1600℃で5時間焼成し、φ165mm×厚み8mm程度のアルミナ質焼結体を作製する。
【0061】
次に、このアルミナ質焼結体に対して、本発明の範囲外の比較例(従来品)は、後加熱処理を行わず、また、本発明例1(1250℃アニール品)は、1250℃にて2時間の後加熱処理を行い、本発明例2(1300℃アニール品)は1300℃にて2時間の後加熱処理を2回行う。
【0062】
次に、これらのアルミナ質焼結体に対し、平面研磨を行い、所要の精度に仕上げる。
次に、これらのアルミナ質焼結体の上面全体に対し、サンドブラスト加工(処理)を行い、3種(比較例、本発明例1、2)のアルミナ質焼結体は完成する。
【0063】
<評価>
(1)目視による評価1
上述した方法によって製造された比較例、本発明例1、2のアルミナ質焼結体に対して、そのサンドブラスト加工された表面(サンドブラスト加工面)を目視により観察した。
【0064】
その結果、図6(a)に示す様に、比較例では、従来と同様に円状の凹部が分散して各所に発生した。それに対して、図6(b)、(c)に示す様に、本発明例1、2では、円状の凹部が発生しなかった。
【0065】
(2)表面の凹凸の測定による評価2
また、図7(a)に示す様に、比較例、本発明例1、2のアルミナ質焼結体のサンドブラスト加工面の測定箇所A〜Cに対して、表面形状測定装置(黒田精工製ナノメトロ750F)によって、表面の凹凸の状態を調べた。なお、測定箇所Aは中心を通るラインであり、測定箇所Bは測定箇所Aと15mm離れた平行なラインであり、測定箇所Cは測定箇所Bと20mm離れた平行なラインである。
【0066】
その結果を、図7(b)〜(d)に示すが、比較例(従来品)では、表面の凹凸が大きく表面が滑らかではなかった。それに対して、本発明例1、2では、表面の凹凸が小さく表面が滑らかであった。
【0067】
(3)XRDによるアノーサイト結晶相の分布の評価3
更に、比較例(従来品)、本発明例1、2のアルミナ質焼結体のサンドブラスト加工面に対して、XRDによって、アノーサイト結晶の分布状態を調べた。
【0068】
なお、XRDの測定装置としては、リガク製MiniFlexを使用した。
図8(a)に比較例(従来品)を示すが、この比較例の(サンドブラスト加工によって凹んだ)凹部2とその周囲の凸部1において、XRDによる測定を行い、アノーサイト結晶相によるピークの有無を調べた。
【0069】
その結果を、図8(b)、(c)に示すが、凸部1には、アノーサイト結晶相によるピークは見られなかったが、凹部2には、アノーサイト結晶相によるピークが見られた。このことから、凹部2がアノーサイト結晶相の形成領域であることが分かる。
【0070】
つまり、比較例である従来品には、アノーサイト結晶相が偏在しており、これによって、サンドブラスト加工面に円形や円弧状の凹部(従って段差)が発生していることが分かる。
【0071】
なお、前記図8において、○はコランダム(Al23)のピークを示し、□はスピネル(MgAl23)のピークを示し、▽はアノーサイト(CaAl2Si28)のピークを示している(以下同様)。
【0072】
一方、本発明例1、2に対しては、図9(a)に示す様に、5箇所においてXRDによる測定を行った。具体的には、中心(測定箇所1)とその中心を通って垂直に交差する交線の外縁部(測定箇所2〜5)の5箇所である。
【0073】
本発明例1の測定結果を、図9(b)、(c)、図10(a)〜(c)に示すが、測定箇所1〜5のいずれの箇所からもアノーサイト結晶相を示すピークが見られた。よって、本発明例1では、サンドブラスト加工面において、アノーサイト結晶相が均一に分布していることが分かる。
【0074】
本発明例2の測定結果を、図11(a)、(b)、図12(a)〜(c)に示すが、測定箇所1〜5のいずれの箇所からもアノーサイト結晶相を示すピークが見られた。よって、本発明例2では、サンドブラスト加工面において、アノーサイト結晶相が均一に分布していることが分かる。
【0075】
尚、本発明は前記実施形態や実施例になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
(1)例えば、アルミナ質焼結体としては、静電チャックや真空チャックを構成するアルミナを主成分とする周知のアルミナ質焼結体の組成を採用できる。
【0076】
具体的には、Al23:90.5重量%、SiO2:7.9重量%、CaO:1.6重量%の組成A、 Al23:83重量%、SiO2:14重量%、CaO:3重量%の組成B、 Al23:99重量%、SiO2:0.8重量%、CaO:0.2重量%の組成Cなど、製造過程にてアノーサイト結晶相が形成される各種の組成を採用できる。
【符号の説明】
【0077】
1…静電チャック
7…セラミック体
61…真空チャック
図1
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