【実施例1】
【0030】
ここでは、例えば半導体ウェハを吸着保持できる静電チャックを例に挙げる。
a)まず、本実施例の静電チャックの構造について説明する。
図1に示す様に、本実施例の静電チャック1は、
図1の上方の吸着面(チャック面)3側にて半導体ウェハ5を吸着するものであり、(例えば直径300mm×厚み3mmの)円盤状の絶縁体(誘電体)であるセラミック体7と、(例えば直径340mm×厚み20mmの)円盤状の金属ベース9とを、例えばインジウムからなる接合層(図示せず)を介して接合したものである。
【0031】
前記セラミック体7は、その表面に前記チャック面3を有し、アルミナを主成分とするアルミナ質焼結体である。また、前記金属ベース9は、例えばアルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属製である。
【0032】
前記静電チャック1には、セラミック体7のチャック面3から金属ベース9の裏面(ベース面)11に到るトンネルである冷却用ガス孔13が設けられている。
また、
図2に示す様に、前記セラミック体7の内部には、一対の内部電極27、29が配置されており、各内部電極27、29は電源31に接続されている。
【0033】
そして、上述した構成の静電チャック1を使用する場合には、電源31を用いて、両内部電極27、29の間に、直流高電圧を印加し、これにより、半導体ウェハ5を吸着する静電引力(吸着力)を発生させ、この吸着力を用いて半導体ウェハ5を吸着して固定する。
【0034】
b)次に、本実施例の静電チャック1の製造方法について、
図3に基づいて説明する。
(1)原料としては、主成分であるAl
2O
3:93重量%、CaO:1.5重量%、SiO
2:5.5重量%の各粉末を混合して、ボールミルで、50〜80時間湿式粉砕した後、脱水乾燥する。
【0035】
(2)次に、この粉末に、メタクリル酸イソブチルエステル:3重量%、ブチルエステル:3重量%、ニトロセルロース:1重量%、ジオクチルフタレート:0.5重量%を加え、更に溶剤として、トリクロール−エチレン、n−ブタノールを加え、ボールミルで混合して、流動性のあるスラリーとする。
【0036】
(3)次に、このスラリーを、減圧脱泡後平板状に流し出して徐冷し、溶剤を発散させて、第1〜第6アルミナグリーンシート33〜43を形成する。この第1〜第6アルミナグリーンシート33〜43には、セラミック体側ガス孔23(
図1参照)を形成するための貫通孔45〜55を6箇所に開ける。
【0037】
(4)そして、前記第2アルミナグリーンシート35上に、公知のメタライズインクを用いて、通常のスクリーン印刷法により、両内部電極27、29の(図の斜線で示す)パターン57、59を印刷する。
【0038】
(5)次に、前記第1〜第6アルミナグリーンシート33〜43を、各貫通孔45〜55により冷却用ガス孔23が形成されるように位置合わせして、熱圧着し、全体の厚みを約5mmとした積層シートを形成する。
【0039】
尚、内部電極27、29に関しては、図示しないが、スルーホールにより最下層の第6アルミナグリーンシート43の裏面に引き出して端子を設ける。
(6)次に、熱圧着した積層シートを、所定の円板形状(例えば8インチサイズの円板形状)にカットする。
【0040】
(7)次に、カットしたシートを、還元雰囲気にて、1550℃程度で5時間焼成(本焼成)し、アルミナ質焼結体であるセラミック体7を作製する。この焼成より、寸法が約20%小さくなるため、焼成後のセラミック体7の厚みは、約4mmとなる。
【0041】
(8)次に、本焼成を行ったセラミック体7に対して後加熱処理を行う。この後加熱処理としては、例えば1250℃にて2時間加熱する処理を採用した。この後加熱処理によって、セラミック体7全体に均一にアノーサイト結晶相が形成される。
【0042】
(9)そして、後加熱処理後に、チャック面3及びチャック面3と対向する面を研磨加工することによって、セラミック体7の全厚みを3mmとする。
(10)次に、端子にニッケルメッキを施し、更に、このニッケルメッキを施した端子をロー付け又は半田付けする。
【0043】
(11)次に、セラミック体7のチャック面3に対してサンドブラスト加工(処理)を行い、セラミック体7を完成する。このサンドブラスト加工は、チャック面の表面粗さを目標とする値(例えばRa0.6〜1.0)にするために行う。
【0044】
(12)次に、セラミック体7と(金属側ガス孔21(
図1参照)を有する)金属ベース9とを、例えばインジウムを用いて接合して一体化する。
これにより、静電チャック1が完成する。
【0045】
c)次に、本実施例の効果について説明する。
本実施例では、焼成によってアルミナ質焼結体であるセラミック体7を製造した後に、アノーサイト結晶相が生成する温度(1200〜1550℃)にて2時間にわたり、セラミック体7の後加熱処理を行うので、セラミック体7において均一にアノーサイト結晶相を分布させることができる。
【0046】
つまり、上述した方法で製造されたセラミック体7は、アノーサイト結晶相が焼結体全体に均一に分布されているので、焼結体表面における被切削性のムラが少なく、どの位置においても被切削性がほぼ一定である。
【0047】
従って、このセラミック体7に対してサンドブラスト加工を行った場合には、従来の様な不要な段差が生じにくい。よって、目的とした寸法精度を容易に実現することができ、静電チャック1の高い性能(静電吸着力、温度分布、加工レートの面内バラツキ小)を実現することができる。
【実施例2】
【0048】
次に、実施例2について説明するが、前記実施例1と同様な箇所の説明は省略する。
ここでは、例えば半導体ウェハを吸着保持できる真空チャックを例に挙げる。
a)まず、本実施例の真空チャックの構造について説明する。
【0049】
図4に示す様に、本実施例の真空チャック61は、図示しない真空吸引装置の先端の吸引口側に取り付けられた円盤状の吸着プレートであり、アルミナ質焼結体(セラミック体)から構成されている。
【0050】
この真空チャック61の上下の表面のうち、図の上方の表面が半導体ウェハ63を吸着保持する吸着面K(基板表面)であり、吸着面Kと反対側の図の下方の表面が非吸着面H(基板裏面)である。尚、
図4では、半導体ウェハ63を吸着した状態を示している(但し半分のみを図示)。
【0051】
図5に示す様に、真空チャック61は、直径φ200mm×厚み20mmの円盤状の基板部65を有し、その基板部65の吸着面K側に多数の突起部(メサ)67が格子状(格子の交点)に配置され、その突起部(メサ)67の周囲を囲む様に環状に突出した土手であるシール部69が形成されている。
【0052】
尚、基板部65には、半導体ウェハ63を真空吸引して吸着するために、吸着孔71が複数箇所に形成されている。
b)次に、本実施例の真空チャック61の製造方法について説明する。
【0053】
まず、アルミナを主成分とするセラミック粉末に、焼結助剤、成形助剤(バインダー)等を添加し、粉砕混合した後、噴霧乾燥を行い、成形粉末を作製する。なお、このセラミック粉末としては、例えば前記実施例1と同様な組成を採用できる。
【0054】
この成形粉末を、ラバープレス法、金型プレス法等により、(真空チャック61の形状に対応した)円盤の形状に成形する。更に、必要に応じて、成形後に生加工を行う。
次に、この成形体を焼成し、アルミナ質焼結体を作製する。
【0055】
次に、このアルミナ質焼結体に対して、前記実施例1と同様な条件にて後加熱処理を行い、アノーサイト結晶相が均一に分散されたアルミナ質焼結体を製造する。
次に、このアルミナ質焼結体に対し、ダイヤ砥粒による研磨を行い、所要の精度に仕上げる。
【0056】
次に、吸着面K側に、突起部67及びシール部69の形成位置を覆うマスキングを行ってから、前記実施例1と同様な(但し加工時間等は異なる)サンドブラスト加工により、突起部67及びシール部69の形成部分以外を所定の深さ(つまり前記高さ)となるまで除去し、突起部67及びシール部69を形成する。
【0057】
これにより、真空チャック61を完成する。
c)次に、本実施例の効果を説明する。
本実施例においても、前記実施例1と同様に、焼成によってアルミナ質焼結体を製造した後に、アノーサイト結晶相が生成する温度にて所定時間にわたり後加熱処理を行うので、アルミナ質焼結体において均一にアノーサイト結晶相を分布させることができる。
【0058】
従って、このアルミナ質焼結体に対してサンドブラスト加工を行った場合には、従来の様な不要な段差が生じにくく、目的とした寸法精度を容易に実現することができる。
<実験例>
次に、本発明の効果を確認した実験例について説明する。
(実験例1)
本実験例1では、3種(比較例、本発明例1、2)のアルミナ質焼結体のサンドブラスト加工面の凹凸形状を調べた。
【0059】
そのため、下記の条件にて、原料粉末のプレス成形、本焼成、後加熱処理、平面研磨、サンドブラスト加工の製造工程によって、実験に使用する3種(比較例、本発明例1、2)のアルミナ質焼結体を作製した。
具体的には、まず、Al
2O
3:95.1重量%、SiO
2:3.6重量%、CaO:0.7重量%、MgO:0.6重量%含むセラミック粉末に適切なバインダー等を添加し、粉砕混合した後、噴霧乾燥を行い、成形粉末を作製する。
【0060】
この成形粉末を、ラバープレス法及び生加工により、φ200mm×厚み10mmの円盤の形状に成形する。
次に、この成形体を1600℃で5時間焼成し、φ165mm×厚み8mm程度のアルミナ質焼結体を作製する。
【0061】
次に、このアルミナ質焼結体に対して、本発明の範囲外の比較例(従来品)は、後加熱処理を行わず、また、本発明例1(1250℃アニール品)は、1250℃にて2時間の後加熱処理を行い、本発明例2(1300℃アニール品)は1300℃にて2時間の後加熱処理を2回行う。
【0062】
次に、これらのアルミナ質焼結体に対し、平面研磨を行い、所要の精度に仕上げる。
次に、これらのアルミナ質焼結体の上面全体に対し、サンドブラスト加工(処理)を行い、3種(比較例、本発明例1、2)のアルミナ質焼結体は完成する。
【0063】
<評価>
(1)目視による評価1
上述した方法によって製造された比較例、本発明例1、2のアルミナ質焼結体に対して、そのサンドブラスト加工された表面(サンドブラスト加工面)を目視により観察した。
【0064】
その結果、
図6(a)に示す様に、比較例では、従来と同様に円状の凹部が分散して各所に発生した。それに対して、
図6(b)、(c)に示す様に、本発明例1、2では、円状の凹部が発生しなかった。
【0065】
(2)表面の凹凸の測定による評価2
また、
図7(a)に示す様に、比較例、本発明例1、2のアルミナ質焼結体のサンドブラスト加工面の測定箇所A〜Cに対して、表面形状測定装置(黒田精工製ナノメトロ750F)によって、表面の凹凸の状態を調べた。なお、測定箇所Aは中心を通るラインであり、測定箇所Bは測定箇所Aと15mm離れた平行なラインであり、測定箇所Cは測定箇所Bと20mm離れた平行なラインである。
【0066】
その結果を、
図7(b)〜(d)に示すが、比較例(従来品)では、表面の凹凸が大きく表面が滑らかではなかった。それに対して、本発明例1、2では、表面の凹凸が小さく表面が滑らかであった。
【0067】
(3)XRDによるアノーサイト結晶相の分布の評価3
更に、比較例(従来品)、本発明例1、2のアルミナ質焼結体のサンドブラスト加工面に対して、XRDによって、アノーサイト結晶の分布状態を調べた。
【0068】
なお、XRDの測定装置としては、リガク製MiniFlexを使用した。
図8(a)に比較例(従来品)を示すが、この比較例の(サンドブラスト加工によって凹んだ)凹部2とその周囲の凸部1において、XRDによる測定を行い、アノーサイト結晶相によるピークの有無を調べた。
【0069】
その結果を、
図8(b)、(c)に示すが、凸部1には、アノーサイト結晶相によるピークは見られなかったが、凹部2には、アノーサイト結晶相によるピークが見られた。このことから、凹部2がアノーサイト結晶相の形成領域であることが分かる。
【0070】
つまり、比較例である従来品には、アノーサイト結晶相が偏在しており、これによって、サンドブラスト加工面に円形や円弧状の凹部(従って段差)が発生していることが分かる。
【0071】
なお、前記
図8において、○はコランダム(Al
2O
3)のピークを示し、□はスピネル(MgAl
2O
3)のピークを示し、▽はアノーサイト(CaAl
2Si
2O
8)のピークを示している(以下同様)。
【0072】
一方、本発明例1、2に対しては、
図9(a)に示す様に、5箇所においてXRDによる測定を行った。具体的には、中心(測定箇所1)とその中心を通って垂直に交差する交線の外縁部(測定箇所2〜5)の5箇所である。
【0073】
本発明例1の測定結果を、
図9(b)、(c)、
図10(a)〜(c)に示すが、測定箇所1〜5のいずれの箇所からもアノーサイト結晶相を示すピークが見られた。よって、本発明例1では、サンドブラスト加工面において、アノーサイト結晶相が均一に分布していることが分かる。
【0074】
本発明例2の測定結果を、
図11(a)、(b)、
図12(a)〜(c)に示すが、測定箇所1〜5のいずれの箇所からもアノーサイト結晶相を示すピークが見られた。よって、本発明例2では、サンドブラスト加工面において、アノーサイト結晶相が均一に分布していることが分かる。
【0075】
尚、本発明は前記実施形態や実施例になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
(1)例えば、アルミナ質焼結体としては、静電チャックや真空チャックを構成するアルミナを主成分とする周知のアルミナ質焼結体の組成を採用できる。
【0076】
具体的には、Al
2O
3:90.5重量%、SiO
2:7.9重量%、CaO:1.6重量%の組成A、 Al
2O
3:83重量%、SiO
2:14重量%、CaO:3重量%の組成B、 Al
2O
3:99重量%、SiO
2:0.8重量%、CaO:0.2重量%の組成Cなど、製造過程にてアノーサイト結晶相が形成される各種の組成を採用できる。