(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6017915
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】着霜予測装置、及び、着霜予測システム
(51)【国際特許分類】
G01W 1/10 20060101AFI20161020BHJP
B60M 1/12 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
G01W1/10 A
B60M1/12 J
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-225936(P2012-225936)
(22)【出願日】2012年10月11日
(65)【公開番号】特開2014-77721(P2014-77721A)
(43)【公開日】2014年5月1日
【審査請求日】2015年10月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】沖本 文男
(72)【発明者】
【氏名】飯島 誠
(72)【発明者】
【氏名】高木 良章
【審査官】
田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−292381(JP,A)
【文献】
特開昭63−191991(JP,A)
【文献】
特開2006−189403(JP,A)
【文献】
特開2011−060076(JP,A)
【文献】
近藤純正,5.2 地表面の熱収支式,地表面に近い大気の科学,2000年 9月10日,P.140−153
【文献】
鎌田慈、他,架線着霜発生予測手法の提案,鉄道と電気技術,2009年 8月31日,9月号,P.35−39
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01W 1/10
B60M 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着霜予測の対象となる区間に設置される測定器(10)にて測定される気温に基づき、前夜の初期温度に対しトロリ線の熱収支を所定時間間隔で積算することにより、翌朝の予測時におけるトロリ線温度を推定する温度推定手段(21a)と、
前記温度推定手段にて推定された前記トロリ線温度を用い、当該トロリ線温度での飽和水蒸気圧を算出し、トロリ線周囲の飽和水蒸気量を算出する第1算出手段(21b)と、
前記予測時における気温での飽和水蒸気圧を算出し、当該気温及び前記予測時における湿度から前記予測時の水蒸気量を算出する第2算出手段(21c)と、
前記トロリ線温度が0℃を下回り、かつ、前記予測時の水蒸気量が前記トロリ線周囲の飽和水蒸気量を上回る場合に、着霜ありと判定する着霜判定手段(21d)と、
を備えていることを特徴とする着霜予測装置(20)。
【請求項2】
請求項1に記載の着霜予測装置において、
前記温度推定手段は、前記気温と共に前記測定器にて測定される風速に基づき算出される熱伝達率を用い、前記トロリ線の熱収支を所定時間間隔で積算すること(S120,S130,S140)
を特徴とする着霜予測装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の着霜予測装置において、
前記第1算出手段は、前記トロリ線温度での飽和水蒸気圧を算出する際、氷表面における飽和水蒸気圧として算出すること(S210)
を特徴とする着霜予測装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の着霜予測装置において、
前記第2算出手段は、前記予測時における気温及び湿度として、前記測定器にて測定される実測値を用いること(S230)
を特徴とする着霜予測装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の着霜予測装置において、
前記着霜判定手段は、前記着霜ありと判定した場合、着霜による制限区間を示す制限区間情報を出力すること(S280)
を特徴とする着霜予測装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の着霜予測装置において、
前記測定器は、着霜予測の対象となる区間にある各駅又は当該各駅に加え駅間内に設置されること
を特徴とする着霜予測装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の着霜予測装置(20)と、
着霜予測の対象となる区間に設置される測定器(10)と、
を備えた着霜予測システム(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロリ線の温度推定技術、及び、当該温度推定技術を用いたトロリ線の着霜予測技術に関する。
【背景技術】
【0002】
気温が低く湿度が高い冬季の晴れた夜間にあっては、トロリ線に霜が付き成長することが知られている。トロリ線はパンタグラフを介して電力を供給する鉄道の架線であり、トロリ線に霜が付いた区間を列車が運行すると、パンタグラフとトロリ線との間に介在する霜により離線等の不具合が発生する。例えば離線に伴うアーク放電等が生じると、パンタグラフの損傷やトロリ線の溶断を招く虞がある。
【0003】
そのため、従来、このようなトロリ線への着霜を予測する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この技術では、夕刻の水蒸気量と予測される翌朝のトロリ線周囲の飽和水蒸気量との差を過飽和水蒸気量として算出し、予想最低気温が0.5℃以下であり、かつ、予想風速が1m/s以下である場合に着霜があると予測する。これにより、在来線では、無集電のパンタグラフによりトロリ線についた霜を削り落とす霜取り列車を、始発列車の運行前に走行させていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4879822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術では、予測される翌朝のトロリ線周囲の飽和水蒸気量を、予想最低気温から3℃を減じた温度での飽和水蒸気量としている。すなわち、トロリ線の温度を予想最低気温から3℃を減じた温度としている。この場合、翌朝に到るまでのトロリ線に対する風等による熱の収受の影響が考慮されないため、着霜予測精度が低下することは否めない。
【0006】
なお、トロリ線の温度を直接的に赤外線温度計で測定することも考えられるが、多くの観測点に配備することはコストアップに繋がり現実的でない。
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的は、トロリ線の温度を精度よく推定することにより、トロリ線への着霜の判定精度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するためになされた着霜予測装置(20)は、翌朝の予測時におけるトロリ線温度を推定する温度推定手段(21a)を備えている。温度推定手段は、着霜予測の対象となる区間に設置される測定器(10)にて測定される気温に基づき、前夜の初期温度に対しトロリ線の熱収支を所定時間間隔で積算することにより、翌朝の予測時におけるトロリ線温度を推定する。
【0008】
なお、本発明では、主として始発列車の運行前にノッチ制限区間を特定することを目的とする。したがって、前夜の初期温度は前夜営業終了後の深夜0時前後であり、翌朝予測時は始発列車運行前の午前5時前後であることが考えられる。
【0009】
また、第1算出手段(21b)は、温度推定手段にて推定されたトロリ線温度を用い、当該トロリ線温度での飽和水蒸気圧を算出し、トロリ線周囲の飽和水蒸気量を算出する。第2算出手段(21c)は、予測時における気温での飽和水蒸気圧を算出し、当該気温及び予測時における湿度から予測時のトロリ線周囲の水蒸気量を算出する。
【0010】
着霜判定手段(21d)は、トロリ線温度が0℃を下回り、かつ、予測時の水蒸気量がトロリ線周囲の飽和水蒸気量を上回る場合に、着霜ありと判定する。
トロリ線への着霜を予測するためには、トロリ線温度が必要となる。このとき、着霜判定にトロリ線温度を用いる他、トロリ線周囲の飽和水蒸気圧及び飽和水蒸気量を算出するため、トロリ線周囲の温度をトロリ線温度で代用する。
【0011】
本発明では、測定される気温に基づきトロリ線の熱収支を所定時間間隔で積算することでトロリ線温度を推定する。このようにすれば、トロリ線の温度を精度よく推定することができるため、トロリ線への着霜の判定精度を向上させることができる。
【0012】
ところで、トロリ線の熱収支を積算する際、熱伝達率を用いる。この熱伝達率は、風速やトロリ線の寸法などから算出可能である。そこで、測定器が風速を測定可能な構成とし、請求項2に示すように、温度推定手段は、気温と共に測定器にて測定される風速に基づき算出される熱伝達率を用い、トロリ線の熱収支を所定時間間隔で積算することとしてもよい。このようにすれば、より正確な熱伝達率を用いてトロリ線の熱収支が積算されるため、トロリ線の温度を精度よく推定することができる。
【0013】
従来技術では、翌朝のトロリ線周囲の飽和水蒸気圧を求めるにあたり、氷表面での算出式でなく水表面での算出式を用いているため、トロリ線周囲の実際の飽和水蒸気圧との間に誤差が生じることが懸念される。そこで、請求項3に示すように、第1算出手段は、トロリ線温度での飽和水蒸気圧を算出する際、氷表面における飽和水蒸気圧として算出するようにするとよい。このようにすれば、トロリ線周囲の実際の飽和水蒸気圧との間の誤差が小さくなり、より正確な飽和水蒸気圧が得られる。
【0014】
なお、第2算出手段は、上述したように、予測時における気温及び湿度を利用して、当該気温での飽和水蒸気圧を求めて、水蒸気量を求めている。このときの気温や湿度は、例えば天気予報に基づく予想気温や予想湿度などとすることも考えられる。しかしながら、少なくとも気温については測定器で測定されることを考えると、湿度についても測定器で測定されるようにするとよい。すなわち、請求項4に示すように、第2算出手段は、予測時における気温及び湿度として、測定器にて測定される実測値を用いることとするとよい。このようにすれば、予測時における気温及び湿度が実測値となるため、当該気温での飽和水蒸気圧や水蒸気量がより正確なものとなる。
【0015】
請求項5では、着霜判定手段は、着霜ありと判定した場合、着霜による制限区間を示す制限区間情報を出力する。このようにすれば、出力される制限区間情報に基づいてノッチ制限などを迅速に行うことができる。
【0016】
ところで、測定器については、請求項6に示すように、着霜予測の対象となる区間にある各駅に設置することが考えられる。このようにすれば、着霜の判定区間を、ある駅からその隣の駅までの区間として細分化することができる。もちろん、駅と駅との間にも測定器を設置するようにすれば、さらに着霜の判定区間を細分化することができる。ノッチ制限を行うとその区間の列車は速度が低くなり、列車の遅れにつながる。したがって、ノッチ制限区間を局限化することで列車の遅れを極小にできる。
【0017】
なお、以上は着霜予測装置の発明として説明してきたが、測定器を備えた着霜予測システムの発明として実現することも可能である。すなわち、請求項7に示すような、上記着霜予測装置(20)と、着霜予測の対象となる区間に設置される測定器(10)と、を備えた着霜予測システム(1)である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】着霜予測システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図4】外部の放射の熱を受け取らない表面積の算出を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示す着霜予測システム1は、複数台の測定器10と、着霜予測装置20とを備えている。
【0020】
測定器10は、鉄道沿線に設置されるものであり、着霜予測の対象となる区間における各駅および駅間内に設置される。測定器10は、それぞれ受け持ち区間を持ち、設置場所における気温、湿度、風速を測定データとして取得する。これらの測定データは、着霜予測装置20へ入力される。具体的には、測定器10に付属するデータ送信部11から測定データが送信される。測定器10と着霜予測装置20とは、有線によるデータ通信方式を採用してもよいし、無線によるデータ通信方式を採用してもよい。
【0021】
着霜予測装置20は、制御部21、記憶部22、及び、通信部23を有している。着霜予測装置20は、指令所の電力指令と呼ばれるセクションに設置される。電力指令は、変電所の動作監視や、架線などの鉄道関係設備・施設への給電状況の監視を行うセクションである。
【0022】
ここで制御部21は、いわゆるコンピュータシステムとして構成されており、CPU、ROM、RAM、I/O及びこれらを接続するバスラインを備えている。制御部21は、後述する温度推定処理及び着霜予測処理を実行する。この制御部21に、記憶部22及び通信部23が接続されている。
【0023】
記憶部22は、例えばハードディスクドライブ装置(HDD)などとして具現化される。この記憶部22には、各測定器10から送信された測定データおよび、制御部21による温度推定処理で算出されたトロリ線の温度などが記憶される。つまり、複数台の測定器10は、上述したデータ送信部11を介し、記憶部22へ測定データを送信する。
【0024】
通信部23は、制御部21による着霜予測処理によって着霜予測に基づく制限区間情報が出力されると、当該制限区間情報を輸送指令と呼ばれるセクションへ送信するための構成である。輸送指令は、列車がダイヤ通りに運行されているか否かを監視するセクションであり、列車の遅れなど異常事態が発生した際には、運転士への臨時の速度規制やノッチ制限などの指示を行う。
【0025】
次に、着霜予測装置20の制御部21にて実行される温度推定処理を、
図2のフローチャートに基づいて説明する。温度推定処理は、複数の測定器10ごとに行われるものである。
【0026】
最初のS110では、初期設定処理を行う。なお、S110の初期設定処理については後述する。
S120では、測定データを取得する。この処理は、測定器10からデータ送信部11を介して記憶部22に蓄積された気温及び風速を取得するものである。記憶部22には時系列に測定データが蓄積されている。ここで、取得される気温をT
C(℃)とし、風速をW(m/s)とする。
【0027】
続くS130では、熱伝達率を算出する。この処理は、S120にて取得した風速Wに基づき、熱伝達率hを算出するものである。
なお、熱伝達率hの算出には風速に加えトロリ線寸法等を用いるが、ライスの実験式、マックアダムスの実験式など、いずれの円柱表面の算出式で計算してもよい。
【0028】
次のS140では、トロリ線温度を算出する。この処理は、次の式1によって時刻t(t=nΔt)におけるトロリ線の温度T(t)を算出するものである。温度T(t)は絶対温度で示される。
【0030】
式1におけるHは、次の式2で示すごとくである。
【0032】
ここで、温度T(0)は、時刻「0」(測定開始直後)でのトロリ線温度推定値であり、絶対温度で示される。Cはトロリ線比熱、Dはトロリ線断面積、Eは熱の仕事当量、ρはトロリ線密度である。また、Sは長さ1mあたりのトロリ線表面積、σはステファン・ボルツマン係数、ηはトロリ線の放射率である。Aは外部の放射の熱を受け取らない表面積である。詳しくは、
図4に示すように、円柱表面とみなすことができるトロリ線と当該トロリ線に垂直な断面とが交わってできる円Cに沿ってトロリ線表面を一周する微小面ΔSを考える。このとき、微小面ΔSの垂線方向Pが天空を指す割合を上記トロリ線表面積Sに掛け合わせた値がAである。ここで「天空を指す」とは、大地や地上の建造物、山、及び樹木などを指さないことを意味する。具体的にAは、掘割のような区間では「0.3S」、それ以外では「0.5S」とする。
【0033】
続くS150では、S140にて算出されたトロリ線温度T(t)を記憶部22に記憶し、その後、温度推定処理を終了する。
S140の処理では、S120にて取得される時系列の測定データに対して処理が繰り返されることにより、時間Δt毎にトロリ線の熱収支が計算されて積算される。これにより、気温T
C及び風速Wの影響を考慮したトロリ線の温度推定が可能となる。
【0034】
なお、S110の初期設定処理は、式1におけるT(0)を設定するものである。具体的には、測定器10から取得される気温T
Cとすることが考えられる。あるいは、式2においてH=0のときの解TをT(0)としてもよい。
【0035】
後者の場合、P=σAη、Q=hS、R=T
Cとして、次の式3でαを表すと、Tは式4又は式5となる。ここで、式4又は式5のTのうち正の実数となるものを選択する。
【0039】
なお、この温度推定処理は、営業開始時刻に間に合うように早朝に実行される。
次に、着霜予測装置20の制御部21にて実行される着霜予測処理を、
図3のフローチャートに基づいて説明する。着霜予測処理も、温度推定処理と同様、複数の測定器10毎に行われる。この着霜予測処理は、着霜によるノッチ制限区間を特定するためのものであり、温度推定処理と同様、営業開始時刻に間に合うように早朝に実行される。
【0040】
最初のS200では、トロリ線温度を取得する。この処理は、
図2中のS150にて記憶されたトロリ線温度を記憶部22から取得するものである。トロリ線温度は、前日夜の営業終了後から翌朝までその熱収支を積算することで算出されて記憶されている。
【0041】
続くS210では、トロリ線周囲の飽和水蒸気圧を算出する。着霜が生じる場合、トロリ線は0℃以下となるため、ここでは、氷表面における飽和水蒸気圧を算出する。ここでS200にて取得したトロリ線温度をT
2(℃)とすると、氷表面における飽和水蒸気圧e
s2(Pa)は、次の式6で表される。
【0043】
次のS220では、トロリ線周囲の飽和水蒸気量を算出する。S210にて算出した飽和水蒸気圧e
s2を用い、トロリ線温度T
2とすると、飽和水蒸気量a
2(g/m
3)は、次の式7で算出される。
【0045】
続くS230では、測定データを取得する。この処理は、予測時点における実際の測定値を取得するものである。ここでは、実測気温T
1(℃)、実測湿度RH
1(%)を取得する。
【0046】
次のS240では、実測気温での飽和水蒸気圧を算出する。ここでは、水表面における飽和水蒸気圧を算出する。ここでS230にて取得した実測気温をT
1用いて、水表面における飽和水蒸気圧e
s1(Pa)は、次の式8で表される。
【0048】
続くS250では、水蒸気量を算出する。S240にて算出した飽和水蒸気圧e
s1を用いて、実測気温T
1、実測湿度RH
1である場合、水蒸気量a
1(g/m
3)は、次の式9で算出される。
【0050】
次のS260では、着霜条件が成立したか否かを判断する。具体的には、トロリ線温度T
2が0℃を下回り、かつ、水蒸気量a
1が飽和水蒸気量a
2を上回っているか否かを判断する。ここでT
2<0かつa
1>a
2である場合(S260:YES)、S270にて着霜ありと判定し、S280にて制限区間情報を出力して、その後、着霜予測処理を終了する。この制限区間情報は、測定器10ごとの受け持ち区間である。一方、T
2≧0又はa
1≦a
2である場合(S260:NO)、S290にて着霜なしと判定し、その後、着霜予測処理を終了する。
【0051】
S280にて出力される制限区間情報は、上述したように、着霜予測装置20の通信部23を介して、輸送指令へ出力される。着霜ありと判定された測定器10の受け持ち区間の全体が制限区間となる。この情報により、制限区間のノッチ制限が行われる。
【0052】
以上詳述したように、本実施形態では、温度推定手段21aが、翌朝の予測時におけるトロリ線温度を推定する。温度推定手段21aは、着霜予測の対象となる区間に設置される測定器10にて測定され記憶部22に時系列に記憶された気温及び風速を取得し(
図2中のS120)、熱伝達率を算出し(S130)、トロリ線の熱収支を所定時間間隔で積算することにより翌朝の予測時においてトロリ線温度を推定する(S140)。
【0053】
また、第1算出手段21bは、温度推定手段21aにて推定されたトロリ線温度を用い、当該トロリ線温度での飽和水蒸気圧を算出し(
図3中のS210)、トロリ線周囲の飽和水蒸気量を算出する(S220)。第2算出手段21cは、予測時における気温での飽和水蒸気圧を算出し(S240)、当該気温及び予測時における湿度から予測時の水蒸気量を算出する(S250)。着霜判定手段21dは、トロリ線温度が0℃を下回り、かつ、水蒸気量が飽和水蒸気量を上回る場合に(S260:YES)、着霜ありと判定する(S270)。
【0054】
これにより、トロリ線の温度を精度よく推定することができるため、トロリ線への着霜の判定精度を向上させることができる。
また、本実施形態では、測定データとしての風速を取得し(
図2中のS120)、当該風速に基づく熱伝達率を算出し(S130)、トロリ線の温度を推定する(S140)。すなわち、温度推定手段21aは、気温と共に測定器にて測定される風速に基づく熱伝達率を用い、トロリ線の熱収支を所定時間間隔で積算する。これにより、より正確な熱伝達率を用いてトロリ線の熱収支が積算されるため、トロリ線の温度を精度よく推定することができる。
【0055】
さらにまた、本実施形態では、氷表面における飽和水蒸気圧の計算式を用いて、トロリ線周囲の飽和水蒸気圧を算出する(
図3中のS210)。すなわち、第1算出手段21bは、トロリ線温度での飽和水蒸気圧を算出する際、氷表面における飽和水蒸気圧として算出する。これにより、トロリ線周囲の実際の飽和水蒸気圧との間の誤差が小さくなり、より正確な飽和水蒸気圧が得られる。
【0056】
また、本実施形態では、測定器10から測定データとしての気温及び湿度を取得し(
図3中のS230)、当該気温における飽和水蒸気圧を算出し(S240)、また、水蒸気量を算出する(S250)。すなわち、第2算出手段21cは、予測時における気温及び湿度として、測定器10にて測定される実測値を用いる。これにより、予測時における気温及び湿度が実測値となるため、当該気温での飽和水蒸気圧や水蒸気量がより正確なものとなる。
【0057】
さらにまた、本実施形態では、着霜条件が成立すると着霜ありと判定し(
図3中のS260:YES,S270)、さらに、制限区間情報を出力する(S280)。すなわち、着霜判定手段21dは、着霜ありと判定した場合、着霜による制限区間を示す制限区間情報を出力する。これにより、出力される制限区間情報に基づいてノッチ制限などを迅速に行うことができる。
【0058】
また、本実施形態では、測定器10は、鉄道沿線に設置されるものであり、着霜予測の対象となる区間における各駅および駅間内に設置される。これにより、着霜の判定区間を、沿線を適切に分けた区間として細分化することができる。
【0059】
本発明は、上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、その技術的範囲を逸脱しない限り、種々なる形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0060】
1…着霜予測システム、10…測定器、11…データ送信部、20…着霜予測装置、21…制御部、21a…温度推定手段、21b…第1算出手段、21c…第2算出手段、21d…着霜判定手段、22…記憶部、23…通信部