(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6017916
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】光検出器
(51)【国際特許分類】
G01J 1/42 20060101AFI20161020BHJP
G01J 1/44 20060101ALI20161020BHJP
G01S 7/487 20060101ALI20161020BHJP
G01S 17/10 20060101ALI20161020BHJP
H01L 31/107 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
G01J1/42 H
G01J1/44 N
G01S7/487
G01S17/10
H01L31/10 B
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-228619(P2012-228619)
(22)【出願日】2012年10月16日
(65)【公開番号】特開2014-81253(P2014-81253A)
(43)【公開日】2014年5月8日
【審査請求日】2014年2月7日
【審判番号】不服2015-9442(P2015-9442/J1)
【審判請求日】2015年5月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】曽我 峰樹
(72)【発明者】
【氏名】二クラス クリスチアーノ
【合議体】
【審判長】
尾崎 淳史
【審判官】
藤田 年彦
【審判官】
▲高▼橋 祐介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−144734(JP,A)
【文献】
特開平04−036682(JP,A)
【文献】
特開2011−097581(JP,A)
【文献】
特開2012−060012(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 1/00-1/60, 11/00
G01S 7/48-7/481, 17/00-17/95
H01L 31/10-21/111
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の入射を受けて、フォトン入射の有無を示すパルス幅が一定であり2値のパルスを出力するフォトンカウント型の受光素子を含む受光手段と、
測定期間に亘って前記パルスのパルス幅の合計値を積分又は累積加算した出力値を求める累積手段と、
を備えることを特徴とする光検出器。
【請求項2】
請求項1に記載の光検出器であって、
前記受光手段は、前記受光素子を複数配置したアレイ型であり、
複数の前記受光素子から出力されたパルスを加算する加算手段を備え、
前記累積手段は、加算手段の出力を測定時間に亘って積分又は累積加算する、
ことを特徴とする光検出器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光検出器であって、
前記パルスのパルス幅の半分以下の間隔で前記パルスをサンプリングするサンプリング手段を備え、
前記累積手段は、前記サンプリング手段でのサンプリング値を前記測定期間に亘って計数する計数手段と、
を備えることを特徴とする光検出器。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の光検出器であって、
前記加算手段は、複数の前記受光素子毎に前記パルスを電流パルスに変換する電圧電流変換部を備え、前記電圧電流変換部からの出力を結線して前記電流パルスを加算して出力し、
前記累積手段は、前記加算手段からの出力を積分する積分回路を備えることを特徴とする光検出器。
【請求項5】
請求項2に記載の光検出器であって、
前記加算手段は、複数の前記受光素子からの前記パルスの出力をクロック信号に同期して保持する第1サンプリング回路と、前記第1サンプリング回路からの出力を加算する加算手段と、前記加算手段からの出力を前記クロック信号に同期して保持する第2サンプリング回路と、を備え、
前記累積手段は、前記第2サンプリング回路からの出力を所定の測定時間に亘って累積加算して出力する累積器を備えることを特徴とする光検出器。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の光検出器であって、
前記出力値が入射光量に比例するように補正を行う補正手段を備えることを特徴とする光検出器。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の光検出器であって、
前記受光素子は、ガイガーモードのアバランシェフォトダイオードを含むことを特徴とする光検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
交通事故等の低減を目指して衝突防止システム等を搭載した移動体(車両等)が開発されている。このようなシステムでは外部環境を観測するためにカメラやミリ波レーダ等を備えた環境用センサが用いられている。
【0003】
ステレオカメラは、比較的広角で空間解像度も高いが、その反面、遠方での距離精度が著しく低下する。一方、ミリ波レーダは、200m程度の遠方の対象物を検知することができるが、視野が狭く、角度分解能も低い。
【0004】
これに対して、飛行時間法(TOF:Time Of Flight)に基づく光学的測距センサは、高空間解像度(角度分解能)を有すると共に、広角及び遠距離の測距が可能である。このため、走路や障害物の検出精度とロバスト性を高められ、安全システムの機能の拡張が期待できる。例えば、より遠方の障害物を高い位置精度で検知できれば、早期の警報が可能となる。また、駐車車両の形状等の周囲環境を高精度に検知できれば衝突やすり抜けを高い信頼度で判定できる。
【0005】
このようなTOFによる光学式測距装置において、受光素子としてアバランシェフォトダイオード(APD)やPINフォトダイオードが用いられることが多い。APDにフォトンが入射すると、電子・正孔対が生成され、電子と正孔が各々高電界で加速され、次々と雪崩のように衝突電離を引き起こして新たな電子・正孔対が生成される。この内部増幅作用により感度が高められるため、特に長距離検出が求められる場合にAPDが用いられることが多い。APDの動作モードには、逆バイアス電圧を降伏電圧(ブレークダウン電圧)未満で動作させるリニアモードと、降伏電圧以上で動作させるガイガーモードとがある。リニアモードでは、生成される電子・正孔対の割合よりも消滅する(高電解領域から出る)電子・正孔対の割合が大きく、アバランシェは自然に止まる。出力電流は、入射光量にほぼ比例し、入射光量の測定に用いられる。ガイガーモードでは、単一フォトンの入射でもアバランシェ現象を起こすことができるので、シングルフォトンアバランシェダイオード(SPAD:Single Photon Avalanche Diode)とも呼ばれる。
【0006】
図6は、対象物に照射した光が対象物によって反射して戻ってくるまでの時間を求めるTOF測定方法を示す。このとき、自ら対象物に照射した光以外はノイズであるので、太陽光等の外乱光の影響を除去する必要がある。入射光量にほぼ比例した出力を得る受光素子を用いる場合、受光素子の直流成分を除去した後に閾値処理をすることにより、外乱光の影響を低減して反射光の到来タイミングを抽出できる。一方、SPADのように、フォトン入射に対して電圧パルスを出力するフォトンカウント型の受光素子を用いる場合、電圧パルスの到来時刻を繰り返し測定してヒストグラムを作成し、その極大値を抽出する。これにより、外乱光が存在しても正しいTOF測定をすることができる。
【0007】
TOFのヒストグラムの極大値を高精度に抽出するには、多数回のTOF測定が必要となり、測定時間が長くなる。測定時間が長くなると、対象物が動くときに対象物までの距離の変化が生じ、測定誤差を生ずる。短い測定時間で外乱光の影響を除去して正しくTOFを求める方法として、シリコンフォトマルチプライヤ(SiPM:Silicon Photo Multipliers)を用いた方法が開示されている(特許文献1、非特許文献1)。SiPMは、複数のSPADをアレイ状に行列配置し、全体として大きな光検出器を構成する。SiPMを用いたTOF検出回路の例を
図7に示す。SiPMの出力にコンパレータを設け、所定数以上のSPADから同時にパルス出力された場合、すなわち同時に多数(
図2では、閾値Th個以上)のフォトンが到来した場合のみTOFを測定する。これにより、外乱光のフォトンに対する応答を低減できるので、少ない測定回数で反射光のTOFを正しく抽出できるようになる。これは、自ら照射した光の反射光は多数のフォトンが同時に到来するのに対し、外乱光のフォトンはランダムなタイミングで到来するため同時に到来する確率は小さい、という性質に基づく処理である。
【0008】
TOFに基づく光学的測距装置は、距離情報に加えて明るさ情報も出力できる。受光素子が受光する光は、照射光の対象物上での反射光、環境光(太陽やその他の照明)の対象物上での反射光、及び対象物が発光する光、がすべて加算された光である。入射光量にほぼ比例する値を出力する受光素子の場合、受光量の極大値を反射光と見なすことができ、反射光をその他の光と分離して抽出することができる。受光量の極大値を距離値で補正することにより、対象物の反射率も求められる。逆に、レーザ休止期間の受光素子出力から、反射光以外の光、すなわち外乱光を抽出することもできる(特許文献2)。
【0009】
一方、フォトンカウント型の受光素子の場合、TOFのヒストグラムから明るさ情報を抽出できる。ヒストグラム値の合計値が全受光量であり、極大値が照射光の反射光である。また、レーザ休止期間の受光素子の出力から外乱光の情報を得ることもできる(特許文献3)。
【0010】
また、光検出器が屋外で使用される場合、広い明るさダイナミックレンジが求められる。屋外環境の明るさ変動範囲は大きく、晴天の昼間の照度は10万ルクスを超え、一方で夜間の街灯下での照度は数十ルクス程度である。さらに、対象物の反射率まで考慮すると、6桁程度のダイナミックレンジが必要とされる。フォトンカウントで光量検出する場合、光量が少ない時のカウント数は光量にほぼ比例する。光量が増加して出力電圧パルス幅よりも短い周期でフォトンが入射するようになると、複数の電圧パルスが結合することがあり、これによりカウント数が減少する。したがって、
図8に示すように、光量とカウント数とが単調増加の関係にならないので、光量が増加すると正しく光量を計測できなくなる。
【0011】
そこで、リセット手段により受光素子を繰り返しリセットし、このリセットパルス間に入射するフォトンの入射個数ではなく入射するフォトンがあったか否かを検出し、この検出パルスを所定の期間計数する。これにより、カウントに必要なビット数が少なくなるのでダイナミックレンジを拡大できる(特許文献4)。また、フォトンカウント型光検出器の検出信号をA/D変換し、予め設定した閾値以上の場合には、そのまま後段の光子数算出回路に検出信号を送り、閾値以下の場合には予め定められた基準値を後段に送る処理を行う方法が開示されている。光子数算出回路では、光量測定が終了するまで、取得した検出信号波形の面積から光量を算出する(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2012−60012号公報
【特許文献2】特開2011−247872号公報
【特許文献3】特開2010−91378号公報
【特許文献4】特開平07−067043号公報
【特許文献5】特開2012−037267号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】C.Niclass, M.Soga, H.Matsubara, S.Kato, "A 100m-range 10-frames/s 340x96-pixel time-of-flight depth sensor in 0.18μm CMOS", Proceeding of the ESSCIRC, pp.107-110, September, 2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
受光素子をリセットする方法では、リセットに要する時間が考慮されていないが、実際にはリセットには時間を要する。これは、フォトダイオードの寄生容量に電荷をリチャージして所定電圧にバイアスするのに要する時間である。リセット期間中はフォトンを検出できないデッドタイムとなり、
図9に示すように、サンプリング時間が短くなるとフォトンを検出できる時間の割合、すなわち検出時間の効率が低下する。逆に、サンプリング間隔を長くすると、フォトン検出ができる時間の割合が大きくなるが、検出が飽和状態となり、ダイナミックレンジが低下する。
【0015】
また、光量に応じて光子数算出回路を調整する方法では、光検出器の検出感度に温度変動がある場合に出力波形面積も変動するため、正しく光量を検出できなくなる。さらに、ノイズレベルも温度変動するため、閾値処理の閾値を適切に設定できなくなる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の1つの態様は、光の入射を受けて、フォトン入射の有無を示す2値のパルスを出力するフォトンカウント型の受光素子を含む受光手段と、測定期間に亘って前記パルスのパルス幅の合計値を積分又は累算加算した出力値を求める累算手段と、を備える光検出器である。
【0017】
ここで、前記パルスのパルス幅以下の間隔で前記パルスをサンプリングするサンプリング手段を備え、前記累積手段は、前記サンプリング手段でのサンプリング値を前記測定期間に亘って計数する計数手段と、を備えるものとしてもよい。
【0018】
また、前記受光手段は、前記受光素子を複数配置したアレイ型であり、複数の前記受光素子から出力されたパルスを加算する加算手段を備え、前記累積手段は、加算手段の出力を測定時間に亘って積分又は累積加算する、ものとしてもよい。
【0019】
また、前記出力値が入射光量に比例するように補正を行う補正手段を備えるものとしてもよい。
【0020】
また、前記受光素子は、ガイガーモードのアバランシェフォトダイオードを含むものとしてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、光検出器の明るさのダイナミックレンジを適切に広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施の形態における光検出器の構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態における受光手段のレイアウト例を示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態における光検出器の作用を説明する図である。
【
図4】本発明の実施の形態における光検出器の変形例の構成を示す図である。
【
図5】本発明の実施の形態における光検出器の変形例の作用を説明する図である。
【
図9】従来の光検出器の問題点を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態における光検出器100は、
図1に示すように、受光手段102、電圧電流変換手段104及び積分手段106を含んで構成される。
【0024】
受光手段102は、フォトダイオード10、クエンチング抵抗12及びバッファー14を含んで構成される。
【0025】
フォトダイオード10は、ガイガーモードのシングルフォトンアバランシェフォトダイオード(SPAD)である。すなわち、フォトダイオード10は、降伏電圧以上のバイアス電圧の印加によって単一フォトンの入射に対してアバランシェ現象を引き起こし、フォトン入射に対して電圧パルスを出力する。
【0026】
クエンチング抵抗12は、SPADのアバランシェ現象を停止させるための抵抗素子である。本実施の形態では、クエンチング抵抗12は、トランジスタの抵抗成分を利用している。フォトダイオード10では、印加電圧を降伏電圧まで下げることによりアバランシェ現象を止めることができる。印加電圧を下げてアバランシェ現象を停止させることはクエンチングと呼ばれ、最も単純なクエンチング回路はフォトダイオード10と直列にクエンチング抵抗12を接続することで実現される。アバランシェ電流が生じるとクエンチング抵抗12の端子間の電圧の上昇によってフォトダイオード10のバイアス電圧が降下する。バイアス電圧が降伏電圧まで降下するとアバランシェ現象が停止する。アバランシェ電流が流れなくなると、クエンチング抵抗12の端子電圧が降下し、フォトダイオード10には再び降伏電圧以上の電圧が印加される。
【0027】
バッファー14は、フォトダイオード10とクエンチング抵抗12との間の電圧の昇降を取り出すために設けられる。これにより、フォトダイオード10へのフォトンの入射を電圧パルスとして出力することができる。
【0028】
なお、この電圧パルスのパルス幅に相当する時間は、SPADのバイアス電圧が低下しているため、新たなフォトンが入射しても新たにアバランシェ現象を誘発できず、フォトンを検出できないデッドタイムとなる。
【0029】
一組のフォトダイオード10、クエンチング抵抗12及びバッファー14が1つの受光素子102aを構成し、受光手段102は複数の受光素子102aを含んで構成される。すなわち、受光手段102は、シリコンフォトマルチプライヤ(SiPM:Silicon Photo Multipliers)で構成される。
図1では、受光手段102が3つの受光素子102aで構成された例を示すが、受光素子102aの数はこれに限定されない。例えば、
図2の平面模式図に示すように、縦4×横6のアレイ状に並べられた構成とすれば、合計の受光面積が大きくなり、より多くの光量を受光することができる。
【0030】
電圧電流変換手段104は、電流源16、インバータ18及びスイッチング素子20a,20bを含んで構成される。スイッチング素子20a,20bは、トランジスタで構成することができる。
【0031】
フォトダイオード10にフォトンが入射すると、バッファー14から電圧パルスが出力される。電圧パルスが”ハイ”である期間、スイッチング素子20aはオンとなり、スイッチチング素子20bはオフとなる。スイッチング素子20aがオンの間、電流源16により電流i
REFが積分手段106に入力される。
【0032】
一組の電流源16、インバータ18及びスイッチング素子20a,20bが1つの電圧電流変換部となる。各受光素子102a毎に1つの電圧電流変換部が設けられる。したがって、すべての受光素子102aからの電圧パルスは電圧電流変換部において電流パルスに変換され、加算されて積分手段106へ供給される。
【0033】
積分手段106は、比較器22、コンデンサ24及びリセットスイッチ26を含んで構成される。比較器22とコンデンサ24とは並列に接続され、電圧電流変換手段104から入力される電流を積分した値を出力して電圧V
outとして出力する積分回路を構成する。リセットスイッチ26は、オンされることによってコンデンサ24に蓄積された電荷をクリアし、積分手段106をリセットする。積分手段106は、リセットから所定の計測時間が経過するまでの積分値を電圧V
outとして出力する。なお、計測時間は、予め定められた一定値であってもよいし、測定結果に応じて変更してもよい。例えば、電圧V
outが高いほどリセットから次のリセットまでの計測時間を短くする等してもよい。
【0034】
ガイガーモードのSPADであるフォトダイオード10は、理論上のゲインは無限大であり、その増幅された電流値は情報を持たず、フォトンの入射によるアバランシェ現象の発生の有無が2値の情報(電圧パルス)として出力される。このため、温度等によるゲインの変動に対してロバストである。
【0035】
本実施の形態における光検出器100では、すべてのフォトダイオード10の電圧パルス出力は電流パルスに変換され、加算されて、積分手段106において時間積分される。すなわち、フォトンの入射数が少ない(入射光量が小さい)場合、すべてのフォトダイオード10の電圧パルスのパルス幅の合計に比例する値が電圧V
outとして出力される。フォトンの入射数が多くなってくる(入射光量が増えてくる)と、フォトダイオード10の電圧パルスの出力頻度が高くなり、次第に複数の電圧パルスが結合する確率が高くなる。電圧パルスが結合し始めるとパルス数は減少するが、本実施の形態では、電圧パルスのパルス幅の累積値(合計時間)、すなわち積分手段106での積分値である電圧V
outは常に増加する。したがって、
図3に示すように、入射光量の増加に対して常に単調に増加するダイナミックレンジの広い出力が得られる。
【0036】
このように、本実施の形態の光検出器100では、フォトンの入射に対して2値の情報(電圧パルス)が出力され、温度等の変動に対してロバストである。したがって、電圧パルスのパルス幅の合計時間も内部増幅ゲイン等の変動の影響を受けず、温度に依らず安定な光検出ができる。
【0037】
また、複数の受光素子102aからの電圧パルスのパルス幅の合計時間を光量として出力するので、受光素子102aが1つの場合に比べて更にダイナミックレンジを広くすることができる。
【0038】
また、受光素子102aとしてガイガーモードのアバランシェフォトダイオードを用いているので、光電子増倍管等の他のフォトカウンタ型受光素子に比べて安価にコンパクトに装置に実装することができる。また、アバランシェフォトダイオードは半導体素子であるので、複数の受光素子102aを集積化することも容易である。さらに、CMOSプロセスによりアバランシェフォトダイオードを実現する技術も開発されているので、積分手段106等と同一のチップ上に実装が可能となる。これにより、製造工程の簡素化及び低製造コスト化が図れる。また、アバランシェフォトダイオードの寄生容量が小さくなるので、デッドタイムを短縮することができ、ダイナミックレンジをより広くすることができる。
【0039】
なお、受光手段102が複数の受光素子102aを含む構成としたが、受光素子102aが1つであっても同様にダイナミックレンジを広げる作用は得られる。この場合、積分手段106に1つの受光素子102a及び1つの電圧電流変換部104aが接続される構成となる。
【0040】
<変形例>
上記実施の形態では、受光手段102の出力を電流の積分値として出力する構成としたが、デジタル処理する構成としてもよい。
【0041】
本変形例における光検出器200は、
図4に示すように、受光手段202、第1サンプリング手段204、加算手段206、第2サンプリング手段208、累積手段210及びラッチ手段212を含んで構成される。
【0042】
受光手段202は、上記実施の形態と同様に、フォトダイオード10、クエンチング抵抗12及びバッファー14を含んで構成される。受光手段202は、受光手段102と同様の機能を有する。一組のフォトダイオード10、クエンチング抵抗12及びバッファー14が1つの受光素子202aを構成し、
図4では、3つの受光素子202aによって受光手段202が構成された例を示している。受光素子202aの数は、これに限定されるものではなく、単数でもよいし、複数の受光素子202aをアレイ状に構成してもよい。
【0043】
第1サンプリング手段204は、受光手段202からの出力を一時的に保持する回路を含んで構成される。第1サンプリング手段204は、例えば、Dフリップフロップ30により実現することができる。受光手段202が複数の受光素子202aを含む場合、各受光素子202a毎にDフリップフロップ30が設けられる。第1サンプリング手段204は、受光手段202に含まれる受光素子202aから出力される2値の出力信号(パルス電圧:N
SPAD)をクロックSCLKに同期してサンプリングし、保持した値を出力する。サンプリング周波数は、受光素子202aが出力する電圧パルスのナイキスト周波数以上とすることが好ましく、電圧パルス幅の逆数の2倍以上とすることが好適である。例えば、
図5に示すように、クロックSCLKのタイミングS0,S1,S2・・・において各受光素子202aからの電圧パルス(2値出力)がサンプリングされる。
【0044】
加算手段206は、第1サンプリング手段204からの出力を加算して、加算結果(ビット幅:N
ADD=[log
2(N
SPAD)])を出力する。加算手段206によって、複数の受光素子202aから同じタイミングで出力された電圧パルスが加算されることになる。例えば、受光手段202に含まれる複数の受光素子202aのうち2つの電圧パルスがハイレベルとなっていれば加算手段206からの出力はデジタル信号の“2(10進数)”=“10(2進数)”となる。第2サンプリング手段208は、加算手段206から出力された信号をクロックSCLKが入力される毎にサンプリングして保持した値を出力する。
【0045】
累積手段210は、加算手段206から出力され、第2サンプリング手段208に保持された加算結果をさらに所定の測定時間Tに亘って累積して出力する。累積手段210は、アキュムレータにより構成することができる。累積手段210は、複数の受光素子202aの出力の加算値をさらに測定時間Tに亘って時間積分した累積値(ビット幅:N
REG=[log
2(N
SPAD・T・f
SCLK)]を出力する。累積値は、複数の受光素子202aの電圧パルスのパルス幅の増加に対して常に単調に増加する値となる。
図5では、クロックSCLKのタイミングS0〜S4が一回の測定時間とし、S4〜S0がリセット時間とし、それを繰り返した場合の処理について示している。
【0046】
すなわち、フォトンの入射数が少ない(入射光量が小さい)場合、すべてのフォトダイオード10の電圧パルスのパルス幅の合計に比例する累積値が累積手段210から出力される。フォトンの入射数が多くなってくる(入射光量が増えてくる)と、フォトダイオード10の電圧パルスの出力頻度が高くなり、次第に複数の電圧パルスが結合する確率が高くなる。電圧パルスが結合し始めるとパルス数は減少するが、累積手段210での電圧パルスのパルス幅の累積値(合計時間)は常に増加する。したがって、入射光量の増加に対して常に単調に増加するダイナミックレンジの広い出力が得られる。
【0047】
ラッチ手段212は、累積手段210の出力をクロックSCLKが入力される毎にサンプリングして保持した値を出力する。
【0048】
このように、本実施の形態の光検出器200では、フォトンの入射に対して2値の情報(電圧パルス)が出力され、温度等の変動に対してロバストである。したがって、電圧パルスのパルス幅の合計時間も内部増幅ゲイン等の変動の影響を受けず、温度に依らず安定な光検出ができる。
【0049】
また、複数の受光素子202aからの電圧パルスのパルス幅の合計時間を光量として出力するので、受光素子202aが1つの場合に比べて更にダイナミックレンジを広くすることができる。
【0050】
特に、電圧パルスを所定の測定時間に亘ってサンプリングして“ハイレベル(1)”となった回数をカウントする。このようにデジタル処理を行うので、あらゆるノイズに対してロバストな信号処理が可能である。また、複数の受光素子202aの出力をサンプリングした後に加算処理等を行うので、簡易なデジタル回路でダイナミックレンジを広げることができる。
【0051】
また、受光素子202aとしてガイガーモードのアバランシェフォトダイオードを用いているので、光電子増倍管等の他のフォトカウンタ型受光素子に比べて安価にコンパクトに装置に実装することができる。また、アバランシェフォトダイオードは半導体素子であるので、複数の受光素子202aを集積化することも容易である。さらに、CMOSプロセスによりアバランシェフォトダイオードを実現する技術も開発されているので、第1サンプリング手段204、加算手段206、第2サンプリング手段208、累積手段210及びラッチ手段212等と同一のチップ上に実装が可能となる。これにより、製造工程の簡素化及び低製造コスト化が図れる。また、アバランシェフォトダイオードの寄生容量が小さくなるので、デッドタイムを短縮することができ、ダイナミックレンジをより広くすることができる。
【0052】
なお、受光手段202が複数の受光素子202aを含む構成としたが、受光素子202aが1つであっても同様にダイナミックレンジを広げる作用は得られる。この場合、第2サンプリング手段208、累積手段210及びラッチ手段212に1つの受光素子202aが接続される構成となる。
【0053】
また、上記実施の形態の光検出器100及び変形例の光検出器200では、その出力は受光した光量の増加に伴って単調に増加する信号となるが光量に比例した値とならない。そこで、光検出器の出力を受光量に比例した値となるように補正する処理を行ってもよい。例えば、光検出器の出力を受光量に比例した値となるように関数処理してもよいし、ルックアップテーブルを用いて処理をしてもよい。関数又はルックアップテーブルは、受光量が正確に分かる状態において、受光量と光検出器の出力との相関関係を調査して予め求めておけばよい。
【符号の説明】
【0054】
10 フォトダイオード、12 クエンチング抵抗、14 バッファー、16 電流源、18 インバータ、20a,20b スイッチング素子、22 比較器、24 コンデンサ、26 リセットスイッチ、30 フリップフロップ、100 光検出器、102 受光手段、102a 受光素子、104 電圧電流変換手段、104a 電圧電流変換部、106 積分手段、200 光検出器、202 受光手段、202a 受光素子、204 第1サンプリング手段、206 加算手段、208 第2サンプリング手段、210 累積手段、212 ラッチ手段。