【文献】
セラチップ 切削工具 総合カタログ 2003年版,日本,京セラ株式会社機械工具統括事業部,2003年,438頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2のダイヤモンド焼結体やcBN焼結体からなる刃部をロウ付けした切削工具では、難削材を加工することが多く、切削加工によって発生する熱が高いために、刃部の温度が上がってクレータ摩耗が進行しやすくなるという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、難削材の内径加工等においても放熱性を改善できるインサートおよび切削工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のインサートは、略棒状で、先端視すると略円形状からなるシャンク部と、該シャンク部の先端に設けられた切刃部とを備え、
該切刃部は、基部と、該基部にロウ付けされた刃部とを具備し、該刃部は、前切刃と横切刃とを具備する切刃と、すくい面とを具備し、
前記基部の前記前切刃側の長さL
bと前記刃部の前記前切刃の長さL
fとの比(L
f/L
b)が0.4〜1であるとともに、前記前切刃の長さL
fと前記横切刃の長さL
sとの比(L
f/L
s)が2以下であり、かつ前記前切刃と前記横切刃とのなす角である刃先角θが
70〜
80°からな
り、
前記シャンク部の先端には、前記切刃部の前記刃部に続いて設けられる前記基部の後方に続いて立ち上がり部が設けられており、前記基部と前記立ち上がり部との間に段差が設け
られて、前記基部が前記立ち上がり部よりも低い高さとなっているものである。
【0008】
また、本発明の切削工具は、ホルダの先端側に設けられた長尺の挿入孔内に、上記インサートを挿入して固定されているものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のインサートおよびこれを装着した切削工具によれば、難削材の内径加工等によ
って発生する切削熱を、効率よく刃部全体に拡散させて刃部の温度上昇を小さくすることができるので、刃部に発生するクレータ摩耗の進行を抑制できて、刃部の切削性能が維持される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のインサート1の実施態様である
図1、2、およびこれをホルダ20に装着して使用する内径加工用の切削工具30についての一実施態様である
図3を用いて説明する。
【0012】
図1において、インサート1は、略棒状で先端視すると略円形状からなるシャンク部2と、シャンク部2の先端に続く切刃部3とが設けられている。切刃部3は、基部4と、基部4にロウ付けされた刃部5とを具備し、刃部5は、前切刃6aと横切刃6bとを具備する切刃6と、すくい面7とを具備している。本実施態様では、基部4は超硬合金または高速度鋼からなり、刃部5はダイヤモンド焼結体やcBN(立方晶窒化ホウ素)焼結体等の高硬度焼結体からなる。刃部5は難削材を加工する頻度が高いcBN焼結体からなることがより好適である。
図1では、刃部5が後方ロウ付け部8aと下方ロウ付け部8bとの2箇所のロウ付け部8で基部4にロウ付けされている。なお、
図1の刃部5、および
図2の刃部15はわかりやすくするために便宜上灰色で示した。
【0013】
本実施態様によれば、基部4の前切刃6a側の長さL
bと刃部5の前切刃6aの長さL
fとの比(L
f/L
b)が0.4〜1であるとともに、前切刃6aの長さL
fと横切刃6bの長さL
sとの比(L
f/L
s)が2以下であり、かつ前切刃6aと横切刃6bとのなす角である刃先角θが60〜83°からなる。これによって、難削材の内径加工等によって発生する切削熱を、効率よく刃部からすくい面に拡散させて刃部の温度上昇を少なくすることができるので、刃部5に発生するクレータ摩耗の進行を抑制できて、刃部の切削性能が維持される。
【0014】
すなわち、比(L
f/L
b)が0.4よりも小さいと、刃部5の放熱性が低下して切刃6の温度が上昇するとともに、切削加工時の切込みを大きくできず切削条件が制限されてしまう。比(L
f/L
b)のより好適な範囲は、放熱性およびコストの点で0.5〜0.7である。比(L
f/L
s)が2より大きいか、または刃先角θが60°より小さいと、切削時に発生する切削熱を刃部5内に効率よく拡散させることができず、刃部5の温度が高くなる傾向にある。すなわち、切刃6およびすくい面7の切屑が接触する部位に発生する熱は、刃部5内を比較的速く拡散する。しかし、ロウ付け部8および基部4では熱伝搬が悪いために、刃部5の外への放熱性は低下する。そのために、刃部5の形状は、熱が効率的に拡散するように、被削材と接触する部位に対して縦横とも長い形状であることが、刃部5の放熱性を高める点で有効である。さらに、刃先角θが83°を超えると、切刃6付近に切屑が詰まって切刃6に噛み込みやすくなる。比(L
f/L
s)のより好適な範囲は、放熱性およびコストの点で0.8〜1.5であり、刃先角θのより好適な範囲は、放熱性および切屑の排出性の点で70〜80°である。
【0015】
刃部5は主面が
図1のように三角形からなるか、または
図2のように四角形の平板状からなる。
図1の実施態様では、刃部5の厚みt
1は0.5〜1.5mm、基部4の下方ロ
ウ付け部8bの下の厚みt
2は0.5〜2.0mmからなる。この下方ロウ付け部8bの
下の基部4は、切削時の負荷を受け止めて、ロウ付け部8に切削時の負荷が集中することを緩和し、刃部5の脱落を抑制する。また、
図2に示す他の実施態様では、刃部15の下方に基部4がなく、ロウ付け部18は後方ロウ付け部18aと側方ロウ付け部18cとからなる。刃部15の主面を四角形とすることによって、後方ロウ付け部18aに側方ロウ付け部18cを加えてロウ付け面積を増し、ロウ付け強度を高めている。この構成は、例えば、基部4の前切刃6a側の長さL
bに相当する加工径が3mm以下の切削時の負荷が小さい加工に好適である。
【0016】
また、
図1によれば、シャンク部2は、切刃部3の基部4に隣接する立ち上がり部10と、立ち上がり部10に隣接する移行部11と、移行部11に隣接するとともに先端視で移行部11よりもよりもコーナー6c側に突出した棒状部12とからなる。切刃6の前切刃6aと横切刃6bとの間のコーナー6cは、先端視で、移行部11の外周よりも外側に突出している。また、コーナー6cは、先端視で、棒状部12の外周よりも内側に位置している。
【0017】
切刃部3の基部4とシャンク2の立ち上がり部10は、切削時に発生する切屑を一時的に収容する切屑ポケットの働きをする。本実施態様では、基部4と立ち上がり部10との間に段差14が設けられて、基部4が立ち上がり部10よりも低い高さとなっている。なお、刃部5は基部4と同じ高さになっている。この構成によれば、切削時に切削液を供給する場合に、切削液が確実かつ効率的に基部4に流れて、基部4に続く刃部5に確実かつ効率的に切削液を供給することができる。本実施態様では、段差14の高さ△tが0.01〜0.5mmからなる。この段差14を作製する際に刃部5の上面が研磨されるが、刃部5の上面にロウ付けの際に発生したクラックが存在していても、研磨によってクラックを薄くするかまたは消失させることができ、切削時に刃部5に被削材が溶着することを抑制して、クレータ摩耗の進行を抑制できる。
【0018】
一方、ホルダ20については、
図3に示されるように、長尺状のホルダ20の先端からインサート1を差し込む長尺の挿入孔21が設けられ、挿入孔21内には、インサート1の傾斜面13に当接される位置決め部材22が設けられている。
【0019】
また、
図1〜3によれば、切刃部3が設けられた端部の反対端に傾斜面13が設けられており、ホルダ20の挿入孔21内に傾斜面13側からインサート1を挿入して、ホルダ20に設けられた位置決め部材22にて傾斜面13が線当たりとなるように当接して固定している。この構成によれば、インサート1の切刃の長手方向および回転方向の位置決めが容易で精度が高くなる。
【0020】
そして、
図3によれば、インサート1の脱落やがたつきを抑制するために、位置決め部材22以外に、位置決め部材22よりもホルダ20の先端(第1端)側で、ホルダ20の外周面から挿入孔21に貫通するネジ孔24を形成して、ネジ孔24にネジ部材25を螺合して、ネジ部材25の先端でインサート1のシャンク部2の外周面を押圧固定している。
【0021】
また、ホルダ20の側面には、棒状の位置決め部材22を挿入するための位置決め部材取付孔(図示せず)が多数個設けられている。そして、これら位置決め部材取付孔のうちの1つの位置決め部材取付孔内に棒状の位置決め部材22が挿通されている。なお、位置決め部材取付孔が多数個設けられている理由はインサート1の突き出し量を適宜調整することができる構成とするためである。位置決め部材22は、例えば、ピンやネジ材といったインサート1の傾斜面13と当接するものであればよく、棒状をなしており、円柱、三角柱等の多角柱等のいずれの形状であってもよく特に制限されない。ピンであれば容易に
抜き差しできるので、インサート1の突き出し量を容易に変更することが可能であり、本実施態様においては、位置決め部材22としてピンが用いられている。位置決め部材22はまた、挿入孔21の長手方向に対して、位置決め部材22の軸線が垂直となるように設けられている。
【0022】
また、位置決め部材22の固定方法は、円柱状のピンの両端をネジで挟み込んで固定する方法、円柱状のピンの片側端部にネジ切りをつけてこのネジ切り部分をホルダ20に設けたネジ切り部分に螺合する方法、円柱状のピンの片端を拡径したテーパ状としてこのテーパ部を位置決め部材取付孔の所定位置に当接して固定する方法、円柱状のピンを接着剤で固定する方法、円柱状のピンの側面からネジ部材を締めこんで固定する方法が挙げられる。
【0023】
位置決め部材22の挿入孔21内の位置は、インサート1の傾斜面13の挿入角度に応じて適宜調整されればよい。インサート1の傾斜面13と位置決め部材22とが線当たりになるように当接されるが、例えば、位置決め部材22が円柱状のピンである場合には、インサート1をホルダ20に装着する際に、傾斜面13の長手方向に垂直な方向と、位置決め部材22の外周面のホルダ20の長手方向に垂直な方向とが平行になるように構成される。これによって、安定して強固な拘束が可能である。
【0024】
また、
図3(b)(c)に示すように、ホルダ20は、クーラントを供給するクーラント孔28を内部に具備する。そして、
図5(c)の先端視図に示すように、インサート挿入孔21とは独立してクーラント孔28の噴射口29a、29bが少なくとも2つ設けられている。すなわち、噴射口29a、29bとインサート挿入孔21とは、ホルダ20の先端視では連結されていない。なお、本実施態様において、噴射口29a、29bとインサート挿入孔21との間の最短幅△tは0.005〜5mmである。また、2つの噴射口29a、29bの中心がインサート挿入孔21を先端視した円の中心よりも上側に位置している。これによって、2つの噴射口29a、29bから噴射されるクーラントの進行方向は、重力の関係で下方にずれるために、噴射されたクーラントが高い割合でインサートのシャンク部上に落下した後、シャンク部を伝って先端の切刃部側へ流れる。しかも、2つの噴射口から噴射されたクーラントの一部は合流して、進行方向が先端に向かう方向に曲げられるので、クーラントが切刃部3に供給される割合がより高まる。クーラント孔28の後方の一部はインサート挿入孔21の孔径が大きくなった部分につながっている。また、クーラント孔28の噴射口29がインサート挿入孔21とは独立して設けられているので、インサート1をインサート挿入孔21からホルダ20に挿入する際に、噴射口29が干渉してインサート1がインサート挿入孔21の内壁面に引っかかってしまうこともなく、インサート1の抜き差しがスムーズである。
【0025】
ここで、
図3(a)(b)によれば、ホルダ20の先端形状は、側面視で、外側に向かって凸状の凸曲線部26を有するとともに、凸曲線部26に噴射口29a、29bが設けられている。すなわち、ホルダ20の先端形状は、側面視で、後方に向かって幅広になるとともに、先端側が曲線であるかまたは直線から角部がなく続く曲線からなる。言い換えれば、ホルダ20の先端に角部がない構成となっている。これによって、ホルダ20からインサート1に向かってクーラント(切削液)を供給した際に、
図3(b)に示すように、噴射口29の位置は上側が後方で下側が前方とずれた形状となる。この形状によって、噴射口29から噴射されるクーラントの進行方向が上向きに修正されることから、重力によってクーラントの進行方向が下向きにずれるずれ量を低減することができる。
【0026】
また、内径加工をする際に、回転する被削材の加工する加工孔の奥が塞がっている止まり孔の加工である場合に、回転しないインサート1の上側から供給されたクーラントはインサート1の下側を通って被削材の加工孔外に排出されるので、クーラントの循環性が良
い。そのため、切削時に発生した切屑をスムーズに系外へ排出することができる。なお、クーラントは
図3に示すように、ホルダ20の内部にクーラント孔28を設けるものに限定されるものではなく、ホルダとは別体としてクーラントをインサート1の刃部5に供給するものであってもよい。
【0027】
また、
図1〜3では、切刃部3がシャンク部2の一方の端部のみに設けられたインサート1の構成について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、切刃部がシャンク部2の両端に設けられたインサートについても適用可能である。
【実施例1】
【0028】
基部の前切刃側の長さL
bが6.0mmで、表1に示す形状からなる
図1に示す形状のインサートを、
図3のホルダに装着した切削工具を用いて、以下の条件で切削加工を行い、切削性能を確認した。なお、各試料の段差の高さは0.1mmとした。
切削方法:内径加工
被削材 :SKD11
切削速度:200m/分
送り :0.02mm/rev
切り込み:0.07mm
切削状態:湿式
評価方法:切削時間30分経過後のインサートの切刃およびすくい面の状態を観察した。また、切りくず処理が悪化するまでの加工時間を確認した。
【0029】
【表1】
【0030】
表1に示すように、比(L
f/L
b)が0.4〜1である試料No.2〜5は、この範囲から外れる試料No.1に比べて、クレータ摩耗が少なく、切削時間が長くなった。
【実施例2】
【0031】
基部の前切刃側の長さL
bが6.0mm、段差の高さが0.1mmで、表2に示す形状を変更したインサートを、
図3のホルダに装着した切削工具を用いて、実施例1と同じ加工条件で切削加工を行い、切削性能を確認した。なお、試料No.9は、先行文献2に記載された、4頂角の内1頂角を鈍角のV字平板状の刃部を、刃先角が小さい鋭角部分を切刃として超硬合金からなる基材の上にロウ付けしたものである。
【0032】
【表2】
【0033】
表2に示すように、(L
f/L
s)が2以下である試料No.7〜8は、この範囲から
外れる試料No.6、9に比べて、クレータ摩耗が少なく、切削時間が長くなった。また、先行文献2に記載された、4頂角の内1頂角を鈍角のV字平板状の刃部を、刃先角が小さい鋭角部分を切刃として超硬合金からなる基材の上にロウ付けした試料No.9では、切刃の欠損も発生した。
【実施例3】
【0034】
基部の前切刃側の長さL
bが6.0mmで、表3に示す形状を変更したインサートを、
図3のホルダに装着した切削工具を用いて、実施例1の条件で切削加工を行い、切削性能を確認した。なお、試料No.10〜13については高さ0.1mmの段差を設け、試料No.14については、基部と立ち上がり部との間に段差を設けないものとした。
【0035】
【表3】
【0036】
表3に示すように、刃先角θが60°より小さい試料No.10は、クレータ摩耗の進行が早かった。また、刃先角θが83°より大きい試料No.13は、切刃の周りに切屑が詰まりやすく、切屑を噛み込んで切削不能となった。これに対して、刃先角θが60〜83°の試料No.11、12、14は、クレータ摩耗が少なく、切削時間が長くなった。なお、段差を設けなかった試料No.14は、実施例1の段差を設けた試料No.4よりも切削時間は短いものであった。