(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車両が走行中に走行車線から逸脱しそうな場合に、運転者の操作とは別ルートで、アクチュエータを駆動して車両のステアリング装置を自動操作することにより車両が走行車線から逸脱しないようにした車線逸脱防止システムであって、
右方向へのステアリング操作と、左方向へのステアリング操作と、の間における実際のタイヤの切れ角の相異を無くすように、前記アクチュエータに対する駆動量を制御するものにおいて、
ヨーレートセンサにより検出されたヨーレートに基づいて取得した実際のタイヤの切れ角と、ステアリングセンサにより検出されたステアリング操舵角と、に基づいて設定されたマップを参照して、目標ステアリング操舵量を補正し、該補正後の目標ステアリング操舵量を前記アクチュエータに対する駆動量として与えると共に、
前記車両のステアリング装置が、ステアリングホイールの回転をドラッグリンクの直線運動に変換し、該ドラッグリンクの直線運動により、当該ドラッグリンクに連結されるナックルアームと、該ナックルアームにタイロッドを介して連結される反対側のナックルアームと、を連動させつつ操舵する構成を有する
ことを特徴とする車線逸脱防止システム。
【背景技術】
【0002】
運転者の意思とは無関係に車両が走行中に走行車線から逸脱しないように、自動的に車両の操舵装置を制御するような技術が提案されている。例えば、そのような車線逸脱の原因は、運転者の不注意、油断、又は眠気、更には、路面のうねりなども想定される。
【0003】
例えば、特許文献1には、車両が車線からずれそうになった時に操舵力を補助することにより、運転者の操舵感を改善するようにした車線維持補助装置が記載されている。
このものは、補助トルク決定手段において、車両の位置、車線中央位置決め手段、中央に対する望ましい位置からの横方向のずれを計算するための計算手段、並びに、補助トルクを供給する電源を用いて、電源からの補助トルクが決定する。運転者の操舵操作によって横方向のずれが減少してくると、補助トルク決定手段は補助トルクを減少させるように構成されている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、車両の車線維持補助のための運転制御方法及びシステムに関し、車両関連情報を供給するステップと、環境関連情報を供給するステップと、車両関連情報と環境関連情報とを統合するステップと、車両関連情報及び環境関連情報に基づいて車両の今後の軌道を予測するステップと、車両の望ましい車線位置及び/又は案内力を推測するステップと、今後の軌道と望ましい車線位置とを比較するステップと、操舵装置に案内力を供給すべきかどうかを判定するステップと、案内力を操舵装置に供給する場合には、車両の所定の運転挙動を記述した階層的順序集合に基づいて前記案内力の大きさを決定するステップと、車両が移動しようとしている方向に合わせて前記案内力の大きさを調節するステップと、大きさが調節された前記案内力を前記操舵装置に供給するための1つ以上のアクチュエータを起動するステップとを含むようにした技術が記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の一実施の形態について、添付の図面を参照しつつ説明する。なお、以下で説明する実施の形態により、本発明が限定されるものではない。
【0014】
ここで、上述したように、ステアリング装置(操舵装置)を、モータ等のアクチュエータにより自動操作する技術において、左右のステアリング操作(ハンドル操作)で、タイヤの切れ角に相違が生じ、ヨーレート(自動車の旋回方向への回転角の変化する速度)が左右操舵間で相違し、安全面や、運転者等に違和感を与えるなど円滑な制御を行なうことができないおそれがある。
【0015】
左右で操舵のバラツキが生じる原因としては、トラック、バスなどの大型車両では、ステアリング機構の剛性が不足していること、リンク機構の各リンク長が長いことなどが考えられる。
【0016】
更には、
図1に示すようなステアリング装置(操舵装置)においては、ステアリングホイール10の回転を、ドラッグリンク(drag link:引き棒)30の往復直線運動に変換するステアリングギヤボックス20と、右側のタイヤを操舵するナックルアーム40Aと、左側のタイヤを操舵するナックルアーム40Bと、これらを連動させるために連結するタイロッド50と、が備えられ、前記ドラッグリンク30によりナックルアーム40Aを揺動駆動することで、左右のタイヤ60A、60Bを連動させて操舵するように構成されているが、このドラッグリンク30には、車両への搭載レイアウトなどの関係上、オフセット部分30Aが存在し、当該オフセット部分30Aが、左右で操舵特性にバラツキを生じさせているものと考えられる。
【0017】
また、ステアリングホイール10を右回り(右切り)に操作する場合、ドラッグリンク30には、操舵力とタイヤ反力によって、引張力が作用するため比較的変形(伸び)が大きくなる一方、ステアリングホイール10を左回り(左切り)に操作する場合、ドラッグリンク30には圧縮力が作用するため比較的変形(縮み)が小さいことなどにより、左右で操舵特性にバラツキを生じさせているものと考えられる。
【0018】
このような左右間の操舵特性の相違を、リンク機構の構造変更などにより解消することも考えられるが、車両への搭載レイアウトの関係上、リンク機構の構造変更などは簡単ではないといった実情がある。
【0019】
このため、本実施の形態に係る車線逸脱防止システムでは、以下のような方法により、ステアリング操作において左右間でステアリング特性(操舵特性)に相異があっても、適切に操舵させることができるようにした。
【0020】
すなわち、本実施の形態に係る車線逸脱防止システムは、
(1)現在車両に搭載されているヨーレートセンサ(車両の旋回方向への回転角の変化する速度を検出するセンサ)100と、車速センサ200と、ステアリングセンサ(操舵量(角)センサ)300と、を利用する。
図4に示すように、車線逸脱防止システムの制御を司る電子制御装置(ECU)400には、それぞれの検出出力(センサにより取得される取得情報)が入力されている。
【0021】
(2)車速センサ200の検出出力から実際の車速(車両の走行速度)と、ホイールベースの距離(車両の仕様によって設定)と、ヨーレートセンサ100により検出されたヨーレートと、により、実際の操舵車輪の切れ角度(実操舵角)を演算処理により取得する。
【0022】
(3)ステアリングセンサ300の検出出力に基づいて、ステアリング(ハンドル)操作によるステアリング操舵角を取得する。
【0023】
(4)上記(2)と上記(3)は、左右方向への操舵のそれぞれについて通常走行時に演算処理を行い、左右でのバラツキ(相違)を取得すると共に、実操舵角と、ステアリング操舵角と、の比を取得し、ステアリング操舵角毎にマップ化する。例えば、
図3に示すようなマップを作成する。
【0024】
(5)車線逸脱のおそれが生じた場合、車両が車線を逸脱しないように、運転者のステアリング操作とは別ルートで、
図1に示すような電動モータ等のアクチュエータ70を駆動して、ステアリングギヤボックス20を駆動(補助)して車両の進行方向(タイヤ切れ角)を自動的に制御(操舵)する自動操舵制御を実行するが、その際に、右方向への操舵と、左方向への操舵と、の間における操舵特性のバラツキを解消することができるように、アクチュエータ70に与える駆動量(操舵量)を補正する。
【0025】
すなわち、上記(4)で取得したマップ(
図3等参照)を参照して、実操舵角(実際のタイヤの切れ角)が左右間で略同一となるように、自動操舵制御において車線からのズレ度合い等に応じて設定される「アクチュエータ70に与える操舵量(駆動量)」を補正したうえで、その補正後の操舵量に応じた駆動信号をアクチュエータ70に与えるような制御を行なう。
【0026】
なお、車線逸脱のおそれがあるか否かの判定は、例えばCCDカメラなどから取得される画像情報に基づいて行なって、目標進路との横方向のズレ量(横偏差)を解消するように、自動操舵しつつ車両を走行させる操舵制御を行なうことができる。
【0027】
ここで、本実施の形態に係る車線逸脱防止システムが行なう制御を、
図2の制御フローチャートに従って、より具体的に説明する。なお、
図2の制御フローチャートは所定時間毎に実行される。
【0028】
図2に示すように、
ステップ(図では、Sと記す。以下、同様)1では、車線逸脱のおそれがあるか否かの判定を、CCDカメラから取得される画像情報などに基づいて行なう。車線逸脱のおそれがなく通常の走行が行なわれている場合には、OKとして、ステップ10へ進み、本制御をOFFして終了する。
車線逸脱のおそれがある場合には、NGとして、ステップ2へ進む。
【0029】
ステップ2では、運転者(ドライバ)の操作(ステアリング操作、アクセルペダル操作、ブレーキペダル操作、その他の各種スイッチの操作など)の有無を確認する。
運転者が何らかの操作を行なっている場合には、YES判定して、ステップ11へ進み、各種の運転情報及びその履歴などを分析して、運転者の不注意、油断、眠気などに関連する特徴量などに基づいて、運転者(ドライバ)の状態を推定(判定)する。
【0030】
通常の状態である場合には、OK判定して、ステップ12へ進み、本制御をOFFして終了する。
【0031】
一方、運転者に不注意、油断、眠気などが生じているおそれがあると判定された場合には、NG判定して、ステップ3へ進む。
【0032】
ステップ3では、操舵制御モードへ移行する処理を行なう。すなわち、車両が車線を逸脱しないように、運転者のステアリング操作とは別ルートで、
図1に示したように電動モータ等のアクチュエータ70を駆動してステアリングギヤボックス20を制御して車両の操舵を自動操作する操舵制御モードへ移行する処理を行なう。
【0033】
まず、ステップ4では、車線逸脱のおそれを運転者に警告するために車線逸脱警報を発する(警告等を点灯、点滅させたり、警報音、警告アナウンスなどを発する)。
【0034】
ステップ5では、ステップ4での車線逸脱警報に反応して、運転者(ドライバ)が何らかの操作(ステアリング操作、アクセルペダル操作、ブレーキペダル操作、その他の各種スイッチの操作なお)を行なったか否かを確認する。
【0035】
YES(有り)の場合には、ステップ13へ進み、各種の運転情報及びその履歴などを分析して、運転者の不注意、油断、眠気などに関連する特徴量などに基づいて、運転者(ドライバ)の状態を推定(判定)する。
【0036】
そして、通常の状態に戻ったと判断できる場合には、OK判定して、ステップ14へ進み、本制御をOFFして終了する。
【0037】
一方、NO(無し)の場合には、運転者に不注意、油断、眠気などが生じているおそれがあるため、ステップ6へ進む。
【0038】
ステップ6では、目標進路との横方向のズレ量(横偏差)を取得する。
【0039】
ステップ7では、目標ヨーレートを設定する。目標ヨーレートは、通常走行時に重量推定や重心推定などから車両の状態(バスの場合には乗客の乗車位置や人数、トラックなどの場合には荷物の積載状態)を推定し、当該車両の状態に応じて適切な目標値に設定される構成とすることができる。
【0040】
ステップ8では、目標操舵角を設定する。横偏差の大きさと目標ヨーレートから、最適な操舵が実現されるように、目標操舵量(目標操舵角)を設定する。
【0041】
本実施の形態では、このとき、左右の操舵特性のバラツキ、右方向への操舵と、左方向への操舵と、の間に存在する操舵特性のバラツキを無くすように、アクチュエータ70に与える操舵量(駆動量)を補正する。
【0042】
具体的には、
図3に示すようなマップを参照して目標操舵量(目標操舵角)を設定する。
すなわち、右への操舵の場合、
図3のマップにおいて、右への操舵量(ステアリング操舵量)として「200」の目標操舵量(目標ステアリング操舵量)を与える場合、実操舵角(実際のタイヤの切れ角)が小さいため、実際に目標ヨーレートを得るためには、実際には、目標操舵量(目標ステアリング操舵量)の2.0倍程度の操舵量を与える必要がある。
【0043】
一方で、左への操舵の場合、
図3のマップにおいて、左への操舵量(ステアリング操舵量)として「200」の目標操舵量(目標ステアリング操舵量)を与える場合、実操舵角(実際のタイヤの切れ角)が大きいため、実際に目標ヨーレートを得るためには、実際には、目標操舵量の0.7倍程度の操舵量を与える必要がある。
【0044】
このため、本実施の形態では、目標ヨーレートから設定される目標操舵量(目標操舵角)に対して、
図3のマップ等を参照して、目標操舵量(目標操舵角)を補正して、補正後の値を、最終的な目標操舵量(目標操舵角)として設定する。
【0045】
ステップ9では、最終的な目標操舵量(目標操舵角)に基づいて、電動モータ等のアクチュエータ70を駆動して、ステアリングギヤボックス20を駆動し、車両を自動的に操舵する自動操舵制御を実行する。
なお、この際に、警告等を点灯、点滅させたり、警報音、警告アナウンスなどを発することで、運転者に自動操舵制御を実行している旨を警告する。
【0046】
以上のように、本実施の形態によれば、車線逸脱のおそれが生じた場合、車両が車線を逸脱しないように、運転者のステアリング操作とは別ルートで、電動モータ等のアクチュエータ70を駆動してステアリングギヤボックス20を駆動(補助)して車両の進行方向(タイヤ切れ角)を自動的に制御(操舵)する自動操舵制御を実行するが、その際に、右方向への操舵と、左方向への操舵と、の間における操舵特性のバラツキを解消することができるように、アクチュエータ70に与える駆動量(操舵量)を補正するようにしたので、左右の操舵におけるヨーレートをほぼ均一なものとすることができるので、自動操舵制御における急操舵或いは緩慢過ぎる操舵などが抑制され、違和感を無くすことができると共に、安全性などを高めることが可能となる。
【0047】
すなわち、本実施の形態によれば、簡単かつ低コストな構成でありながら、車両が走行中に走行車線から逸脱しそうな場合に、運転者の操作とは別ルートでアクチュエータを制御装置により駆動してステアリング装置(操舵装置)を自動操作することにより車両が走行車線から逸脱しないようにした車線逸脱防止システムにおいて、ステアリング操作の左右間でステアリング特性(操舵特性)に相異があっても、適切に操舵させることができる車線逸脱防止システムを提供することができる。
【0048】
なお、上述した本実施の形態では、バス、トラック等の大型車両の操舵装置を例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、普通自動車などにおいても、同様に適用することができるものである。
【0049】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々変更を加え得ることは勿論である。