(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6017932
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】セラミック製包丁
(51)【国際特許分類】
B26B 3/00 20060101AFI20161020BHJP
B25G 1/00 20060101ALI20161020BHJP
B25G 3/02 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
B26B3/00 C
B25G1/00 F
B25G3/02 G
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-252440(P2012-252440)
(22)【出願日】2012年11月16日
(65)【公開番号】特開2014-100178(P2014-100178A)
(43)【公開日】2014年6月5日
【審査請求日】2015年4月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西原 孝典
(72)【発明者】
【氏名】石坂 外美
(72)【発明者】
【氏名】河澄 善之
【審査官】
須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭61−106181(JP,U)
【文献】
登録実用新案第3146589(JP,U)
【文献】
実開平01−127568(JP,U)
【文献】
実開昭62−159854(JP,U)
【文献】
特開昭62−157787(JP,A)
【文献】
特開平05−103880(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0263218(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26B1/00−11/00
B26B23/00−29/06
B25G1/00−3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
後端部に中子を有するセラミックスからなる刀身と、前記中子を覆うハンドル部とを備えたセラミック製包丁であって、
前記ハンドル部は樹脂からなり、前記ハンドル部の内部において金属板が前記中子の一部を挟んでおり、
前記金属板は、前記中子に接触している接触部と、側面視において前記中子から突出している突出部とを有し、フッ素樹脂またはナイロン樹脂でコーティングされていることを特徴とするセラミック製包丁。
【請求項2】
前記ハンドル部の内部において2つの金属板が前記中子の一部を挟んでいることを特徴とする、請求項1に記載のセラミック製包丁。
【請求項3】
前記突出部は、少なくとも前記刀身の長さ方向に突出していることを特徴とする、請求項1または2に記載のセラミック製包丁。
【請求項4】
前記2つの金属板の突出部は所定の間隔を有して配置されていることを特徴とする、請求項2または3に記載のセラミック製包丁。
【請求項5】
前記突出部は、前記接触部よりも前記刀身の長さ方向に長いことを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載のセラミック製包丁。
【請求項6】
2つの前記金属板の前記突出部同士は、少なくとも一部が接触していることを特徴とする請求項2に記載のセラミック製包丁。
【請求項7】
前記ハンドル部は、ポリプロピレン樹脂またはエラストマー熱可塑性樹脂からなることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のセラミック製包丁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック製包丁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の金属製包丁は硬度が低いため、切れ味の劣化が早く、頻繁な砥ぎ直しが必要である。また、錆び易い、切断した食物に金属の味や臭いがつく、酸・アルカリにより腐食し易いといった問題点がある。
【0003】
このような問題点を解決するために、ジルコニアセラミックに代表されるセラミック製包丁が実用化されている(特許文献1および2参照)。
【0004】
セラミック製包丁は、一般には、切刃を有するセラミック製の刀身と、ハンドル部とから構成されている。そして、ハンドル部には、一般に木材または樹脂が用いられているが、近年、成形の容易性、デザインの観点から樹脂が多用されている。
【0005】
しかし、ハンドル部に樹脂を用いる場合、条件によっては成形時に樹脂内に小さな空隙が入ることがあり、この場合、所望の耐久性が得られない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭62−159854号公報
【特許文献2】特開2004−358069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、耐久性に優れたセラミック製包丁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施態様におけるセラミック製包丁は、後端部に中子を有するセラミックスからなる刀身と、前記中子を覆うハンドル部とを備えたセラミック製包丁であって、前記ハンドル部は樹脂からなり、前記ハンドル部の内部において金属板が前記中子の一部を挟んでおり、前記金属板は、前記中子に接触している接触部と、側面視において前記中子から突出している突出部とを有し
、フッ素樹脂またはナイロン樹脂でコーティングされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のセラミック製包丁によれば、樹脂製のハンドル部の内部において、刀身(中子)よりも大きな突出部を有する金属板が中子を挟んで設けられているため、ハンドル部の加熱成形時において、熱伝導がよく、従来の金属板を設けないセラミック製ナイフに比べて、樹脂製のハンドル部に巣が入らない(空隙を生じない)。、また、2枚に分断した金属板の方が1枚の金属板に比べて熱容量が小さくなり、実質的な熱伝導が高くなり、独立して温度上昇することが可能であるため、よりハンドル部に巣が入り難くなる(空隙が生じ難くなる)。そのため、耐久性に優れたセラミック製包丁を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態におけるセラミック製包丁の側面図である。
【
図2】本発明の一実施形態におけるセラミック製包丁の上面図である。
【
図3】本発明の一実施形態におけるセラミック製包丁の先端視図である。
【
図4】本発明の一実施形態におけるセラミック製包丁の後端視図である。
【
図5】(a)は
図1のA−A線における断面図であり、(b)は
図2のB−B線における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、
図1〜
図5を用いて、本発明の一実施形態であるセラミック製包丁について説明する。
【0012】
<セラミック製包丁>
本発明の一実施形態であるセラミック製包丁Nは、
図1〜
図4に示すように、セラミックスからなる刀身1と、ハンドル部2とを備えている。セラミック製包丁Nの大きさは特に制限されない。例えば、全長が8cm〜40cm程度のものまで種々提供される。包丁の種類としても、三徳包丁、ペティナイフ、フルーツナイフ、子供用包丁などに種々用いることができる。
【0013】
刀身1は、
図5に示すように、ジルコニア焼結体からなり、先端部に切刃稜線を有する刃部11と、後端部にハンドル部2に覆われる中子12とを有している。刀身1の大きさおよび厚みは用いるセラミック製包丁の用途に応じて適宜設定すればよい。刀身1の最も広い部分の幅(身幅)は、30mm〜50mm程度であり、刀身1の厚みは、最も厚みのある部分で1.3mm〜2.5mm程度である。
【0014】
刀身1(刃部11)は、さらに、切刃稜辺13と、切刃稜辺13に連続した2つの側面部14と、2つの側面部14に接続した上面部15とを有している。具体的には、刃部11は、側面部14を研磨して刃付けされ、切刃稜線13を形成する。したがって、刀身1は、断面視において略三角形状(いわゆるハマグリ形状、本刃付け形状、または片刃形状)あるいは略五角形状(いわゆる段付形状)となる。他方、中子12は、切刃稜線13の代わりに下面部16を形成するため、断面視において略四角形状となる。
【0015】
刃部11は、刀身1においてハンドル部2に覆われていない部分のことをいう。刀身1の大きさは、用途に応じて適宜設定される。例えば、刃渡り(刃のついている部分の長さ)は、例えば、5cm〜20cm程度である。
【0016】
中子12は、刀身1においてハンドル部2に入っている部分のことをいい、刀身1とハンドル部2との接触部分である。
【0017】
中子12は、側面視において、切刃稜辺13(下面部16)側および上面部15側の少なくとも一方に切欠部17を有していてもよい。このような切欠部を有することによって、刀身1がハンドル部2から抜け難くなる。切欠部17は複数有していてもよい。特に、切刃稜辺13(下面部16)側および上面部15側にそれぞれ切欠部17を有することが、刀身1がハンドル部2から抜け難くなる点でより好ましい。
【0018】
ハンドル部2は、樹脂からなり、刀身1の後端部に位置する中子12を覆って設けられている。ハンドル部2に用いられる樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルなどの合成樹脂、エラストマー熱可塑性樹脂、あるいは合成ゴムを適当な硬さに加硫したものなどが挙げられる。好ましくはポリプロピレン樹脂またはエラストマー熱可塑性樹脂である。樹脂中に必要に応じて抗菌剤を添加してもよい。ハンドル部2が樹脂の場合、曲げ弾性係数が400〜4000kg/cm2、圧縮弾性係数が520〜3300kg/cm2程度のものを用いることが好ましい。ハンドル部2として樹脂材料を用いる場合は、抗菌剤、顔料などを適宜用いてもよい。
【0019】
さらに、ハンドル部2と刀身1とは、具体的には、ハンドル部2の内部において2つの金属板3が中子12の一部を挟んで設けられている。このように熱伝導率のよい2つの金属板3で刀身1を挟みこんで設けることにより、樹脂製のハンドル部2を加熱成形する場合に、樹脂に熱が均一に伝わり、樹脂内に空隙(巣)が生じにくくなる。そのため、優れた耐久性を有する。
【0020】
金属板3は、熱伝導率のよいものであればよく、特に制限されない。例えば、鉄、鋼板(例えば、珪素鋼板、ステンレス鋼)、アルミニウム合金、ニッケル合金(パーマロイ)、アモルファス合金箔などが用いられる。鉄、珪素鋼板、ステンレス鋼などの磁性材料は、磁気、X線等に検知可能であるため、セキュリティの観点から用いられる。
【0021】
この金属板3は、腐食抑制の観点から、中子12が断熱されない程度に、例えば、フッ素樹脂、ナイロン樹脂等でコーティングしてもよい。
【0022】
金属板3の大きさおよび形状は、ハンドル部2の内部に収まるものであればよく、例えば、
図5に示すように、矩形状のものが通常用いられる。金属板の大きさは、例えば、幅が10mm〜20mm、長さが70mm〜100mm、および厚みが0.1mm〜1mm程度である。ハンドル部全体に熱を伝える観点から、ハンドル部2の外表面に近い形状となることが好ましい。また一部がテーパー状になっていてもよい。本実施形態においては、
図5に示すように、矩形の一方の端部をテーパー状にした略六角形状である。
【0023】
板材3は中子12に対して、1枚で挟んでもよいし、少なくとも2つの板材で挟んでもよい。本実施形態においては、2枚の板材3が中子12の両側面部にそれぞれ配置され、前記中子12の一部を挟んでいる。このように、中子を2枚の板材で挟む構成であればよく、中子を挟む2枚の板材に加えて、一方の側面部に複数の板材が配置される構成であってもよい。また、本実施形態においては、また、本実施形態においては、同じ形状の2つの板材が用いられているが、2つの板材は同じ形状であってもよいし、異なる形状であってもよい。
【0024】
さらに板材3が複数配置される場合、これらの板材の材質は異なっていてもよい。例えば、中子の両側面部をそれぞれ2枚の木製の板材で挟み、さらに木製の板材の外側を2枚の金属板で挟む構成であってもよい。
【0025】
金属板3は、
図5(a)および(b)に示すように、刀身1に固定されている。具体的には2つの金属板3で中子12の一部を挟んで固定する。中子12と接触する接触部31と、中子12から突出する突出部32とを有している。樹脂製のハンドル部2に熱を均一に伝える観点から、突出部32が刀身1の長さ方向(ハンドル部2の長さ方向)に突出している。また、突出部32の面積が接触部31の面積よりも大きいことが好ましい。
【0026】
接触部31は、金属板3が刀身1(中子12)と接触する部分である。金属板3と刀身1との間に接着剤を介して接触していてもよい。刀身1と板材3との接触位置は特に制限されない。例えば、刀身1の上面から下面に向かう高さ方向において、上面側で接触してもよいし、下面側で接触してもよいし、あるいは上記高さ方向における上面と下面との中間部で接触していてもよい。また刀身1に切欠部17がある場合、側面視において、この切欠部17の一部または全体と重なるように接触してもよいし、あるいは切欠部17に重ならないように接触してもよい。本実施形態においては、板材3は、刀身1の側面部14の上面側の稜線に沿って配置されており、かつ切刃稜辺側(下面側)に位置する切欠部の一部と重なるように配置されている。
【0027】
本実施形態においては、2つの金属板3の突出部32同士が対向しており、隙間が形成
されている。熱伝導性の観点からこの隙間を例えば樹脂などで埋めておくことが好ましい。例えばハンドル部を樹脂成形する際に、これらの樹脂がこの隙間に充填される。さらに、図示しないが、これらの突出部32の一部が接触している場合、隙間に配置される樹脂と突出部32同士の接触部分とにより、ハンドル部2から刀身1が抜け難くなるという効果も有し得る。
【0028】
突出部32は、上述のように、ハンドル部の加熱成形時に熱を均一に伝える役割を果たす。本実施形態においては、ハンドル部2の形状に応じて、後端部がテーパー状にしている。突出部32は、接触部31よりも刀身1の長さ方向に長いことが好ましい。このように、突出部32を長くすることでハンドル部の外表面との距離を短くすることができるので熱分布における密度差を低減できる。そのため、樹脂内の空隙(巣)を低減することができる。
【0029】
金属板3は貫通孔33を有していてもよい。この場合、例えば、ハンドル部2と金属板3との接合部において、ハンドル部2に貫通孔33に挿入される凸部21を設けることにより、さらに刀身1とハンドル部との固定力がさらに向上する。貫通孔33の大きさおよびその数は設計に応じて適宜設定され得る。貫通孔33は、接触部31および突出部32のいずれも設けられていてもよい。
【0030】
金属板3の表面は、表面積を増加させて、ハンドル部への熱伝導を向上させる観点から、凹凸面にしてもよい。
【0031】
本実施形態においては、図示しないが、2つの前記金属板3同士は、少なくとも一部が接触していてもよい。特にハンドル部2が樹脂であるため、樹脂材料が2つの板材の対向面の間に入り込み、刀身1とハンドル部との固定力がさらに向上する。金属板3同士の接触方法としては、例えば、金属板3のうちの少なくとも一方を曲げて接触させてもよいし、あるいは2つの板材が接触する中子12の接触部を予め研磨し、2つの板材同士が接触する構成としてもよい。なお、2つの金属板3の代わりに、断面視においてU字状の板材2を用いても上記効果と同様の効果を得ることができる。
【0032】
<セラミック製包丁の製造方法>
本発明の一実施態様におけるセラミック製包丁の製造方法は、セラミックスからなる刀身の後端部に位置する中子に対して、中子を挟むように2枚の板材を固定する固定工程、および板材が固定された中子を、ハンドル部の形状のキャビティを有する金型のキャビティ内に配置するとともに、キャビティに加熱した樹脂を注入し、注入した樹脂を冷却してハンドル部を形成するハンドル部形成工程を含む。具体的な工程を以下に説明する。
【0033】
まず、セラミックスからなる刀身を準備する。刀身は、例えば、1〜4モル%のイットリア粉末を含むジルコニア粉末に、アクリル系、ワックス系、またはPEG系バインダーを2〜10質量%となるように添加し、顆粒状にする。
【0034】
得られた顆粒を、金型を用いて成形圧力1000〜1500kg/cm2にて
図5に示す刀身1のように成形し、その後、焼成してジルコニア焼結体を得る。得られたジルコニア焼結体を通常の方法で刃付けし、セラミックスからなる刀身を得る。
【0035】
上記成形方法は、金型による成形方法以外にも、当業者が通常行なう方法によって成形することができる。例えば、鋳込み成形、可塑成形法(インジェクション法)、ラバープレス法、ホットプレス法など適宜用いることができる。
【0036】
焼成温度は材料に応じて適宜設定すればよい。ジルコニアの場合、1300〜1500
℃で行なわれる。焼成後、得られたジルコニア焼結体に対して、必要に応じて、圧力1500〜2500kg/cm2で2〜5時間保持するHIP処理を行なってもよい。
【0037】
次いで、セラミックスからなる刀身の後端部に位置する中子に対して、中子を挟むように2枚の板材を固定する。板材の固定は、上述のように接着材を用いて確実に固定してもよいし、ねじなどを用いて固定してもよい。テープなどの仮止め程度であってもよい。あるいは包丁の機能を損なわない範囲でクリップなどの補助具を用いて一時的に固定してもよい。
【0038】
さらに、板材が固定された中子を覆うようにハンドル部を形成する。本実施形態においては、樹脂製のハンドル部を用いる。なお、木材性のハンドル部を用いる場合は、予め板材が固定された中子を挿入できる挿入部を設けておくことが必要である。
【0039】
本実施形態のように、樹脂性のハンドル部を用いる場合は、具体的には、ハンド物の形状のキャビティを有する金型を準備しこのキャビティ内に上記板材が固定された中子を配置する。その後、このキャビティ−内に加熱した樹脂を注入する。樹脂の加熱温度は用いる樹脂に応じて設定すればよい。例えば、ポリプロピレン樹脂を用いる場合、160〜240℃に設定すればよい。
【0040】
さらに、注入した樹脂を冷却する。冷却条件は、ハンドル部の成形において、大きな空隙(巣)が多数できないような条件であればよい。
【符号の説明】
【0041】
N セラミック製包丁
1 刀身
11 刃部
12 中子
13 切刃稜辺
14 側面部
15 上面部
16 下面部
17 切欠部
2 ハンドル部
3 金属板
31 接着部
32 突出部
33 貫通孔