(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本願の開示する音響発生器、音響発生装置および電子機器の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0011】
まず、実施形態に係る音響発生器1の構成について説明する。
図1Aは、実施形態に係る音響発生器の構成を示す模式的な平面図であり、
図1Bは、
図1AのA−A’線断面図である。また、
図2は、
図1Bに示すH部の模式的な拡大図であり、
図3は、比較例に係る音響発生器の模式的な拡大図である。
【0012】
なお、説明を分かりやすくするために、
図1Aおよび
図1Bには、鉛直上向きを正方向とし、鉛直下向きを負方向とするZ軸を含む3次元の直交座標系を図示している。かかる直交座標系は、後述の説明に用いる他の図面でも示す場合がある。また、
図1Aにおいては、樹脂層7の図示を省略している。
【0013】
また、同じく説明を分かりやすくするために、
図1Bは、音響発生器1を厚み方向(Z軸方向)に大きく誇張して示している。
【0014】
図1Aに示すように、音響発生器1は、枠体2と、振動板3と、圧電素子5とを備える。なお、
図1Aに示すように、以下の説明では、圧電素子5が1個である場合を例示するが、圧電素子5の個数を限定するものではない。
【0015】
枠体2は、
図1Bに示すように上枠部材21と下枠部材22とで構成されており、振動板3の周縁部を挟み込んで振動板3を支持する。振動板3は、板状やフィルム状の形状を有しており、その周縁部が枠体2に挟まれて固定されている。すなわち、振動板3は、枠体2の枠内に張った状態で枠体2に支持されている。
【0016】
なお、振動板3のうち枠体2よりも内側に位置する部分、すなわち、振動板3のうち枠体2に挟まれておらず自由に振動することができる部分を振動体3aとする。したがって、振動体3aは、枠体2の枠内において略矩形状をなす部分である。
【0017】
また、振動板3は、樹脂や金属等の種々の材料を用いて形成することができる。例えば、厚さ10〜200μm程度のポリエチレン、ポリイミド等の樹脂フィルムで振動板3を構成することができる。
【0018】
枠体2の厚みや材質などは、特に限定されるものではない。金属や樹脂など種々の材料を用いて枠体2を形成することができる。例えば、機械的強度および耐食性に優れるという理由から、厚さ100〜1000μm程度のステンレス製のものなどを枠体2として好適に用いることができる。
【0019】
なお、
図1Aには、その内側の領域の形状が略矩形状である枠体2を示しているが、平行四辺形、台形および正n角形といった多角形であってもよい。本実施形態では、
図1Aに示すように、略矩形状である例を示している。
【0020】
圧電素子5は、振動体3aの表面に貼り付けられるなどして設けられ、電圧の印加を受けて振動することによって振動体3aを励振する励振器である。
【0021】
かかる圧電素子5は、
図1Bに示すように、たとえば、4層のセラミックスからなる圧電体層5a、5b、5c、5dと、3層の内部電極層5eが交互に積層された積層体と、かかる積層体の上面および下面に形成された表面電極層5f、5gと、内部電極層5eが露出した側面に形成された外部電極5h、5jとを備える。
【0022】
なお、圧電素子5は板状であり、上面側および下面側の主面が長方形状または正方形状といった多角形をなしている。また、圧電体層5a、5b、5c、5dは、
図1Bに矢印で示すように分極されている。すなわち、ある瞬間に加えられる電界の向きに対する分極の向きが厚み方向(図のZ軸方向)における一方側と他方側とで逆転するように分極されている。
【0023】
そして、リード端子6a、6bを介して圧電素子5に電圧が印加されると、たとえば、ある瞬間において、振動体3aに接着された側の圧電体層5c、5dは縮み、圧電素子5の上面側の圧電体層5a、5bは延びるように変形する。よって、圧電素子5に交流信号を与えることにより、圧電素子5が屈曲振動し、振動体3aに屈曲振動を与えることができる。
【0024】
また、圧電素子5は、その主面が、振動体3aの主面と、エポキシ系樹脂等の接着剤により接合されている。
【0025】
なお、圧電体層5a、5b、5c、5dを構成する材料としては、PZT(lead zirconate titanate)、Bi層状化合物、タングステンブロンズ構造化合物等の非鉛系圧電体材料等、従来から用いられている圧電セラミックスを用いることができる。
【0026】
また、内部電極層5eの材料としては、種々の金属材料を用いることができる。例えば、銀とパラジウムとからなる金属成分と、圧電体層5a、5b、5c、5dを構成するセラミック成分とを含有した場合、圧電体層5a、5b、5c、5dと内部電極層5eとの熱膨張差による応力を低減することができるので、積層不良のない圧電素子5を得ることができる。
【0027】
また、リード端子6a、6bは、種々の金属材料を用いて形成することができる。例えば、銅またはアルミニウムなどの金属箔を樹脂フィルムで挟んだフレキシブル配線を用いてリード端子6a、6bを構成すると、圧電素子5の低背化を図ることができる。
【0028】
また、
図1Bに示すように、音響発生器1は、樹脂層7をさらに備える。樹脂層7は、振動体3aの圧電素子5が設けられる側の面と枠体2の内周面とによって形成される空間S(以下、「内部空間S」と記載する)において、圧電素子5および振動板3の表面に被せるように配置されて、振動体3aおよび圧電素子5と一体化される。
【0029】
樹脂層7は、たとえば、アクリル系樹脂を用いてヤング率が1MPa〜1GPaの範囲程度となるように形成されることが好ましい。かかる樹脂層7によって圧電素子5を埋設することで、適度なダンピング効果を誘発させることができるので、共振現象を抑制して、音圧の周波数特性におけるピークやディップを小さく抑えることができる。
【0030】
なお、
図1Bでは、圧電素子5として、バイモルフ型の積層型圧電素子を例に挙げたが、これに限られるものではない。例えば、伸縮する圧電素子を振動体3aに貼り付けたユニモルフ型であっても構わない。
【0031】
ところで、従来の音響発生器において、枠体よりも樹脂層が低い場合、枠体の内周面にメニスカスが発生し、このメニスカスによって振動板の自由長が短くなる結果、良好な音質を得ることが困難となるという問題があった。
【0032】
そこで、本実施形態では、枠体2(上枠部材21)の内周側の縁部に段差を設けることとした。具体的には、
図2に示すように、上枠部材21は、樹脂層7が充填される第1の内周面211と、第1の内周面211よりも内部空間Sの開口部側に設けられ、第1の内周面211に比して大きい内径を有する第2の内周面212とを少なくとも有する。
【0033】
図3に示すように、比較例に係る音響発生器1’は、断面視矩形状の枠体2’を有している。つまり、枠体2’の内周面211’は、断面視した場合に直線状である。このため、樹脂層7’が枠体2’よりも低い場合、振動板の自由長を決定付ける枠体2’の内周面211’にメニスカスMが発生し、このメニスカスMによって振動板の自由長が本来の自由長Lよりも短いL’となってしまう。
【0034】
これに対し、本実施形態に係る音響発生器1では、
図2に示すように、枠体2が、振動板3の自由長を決定付ける第1の内周面211と、この第1の内周面211よりも内径の大きい第2の内周面212とを有し、少なくとも第1の内周面211まで樹脂層7が充填される。したがって、樹脂層7が枠体2よりも低い場合であっても、メニスカスMは第2の内周面212に形成される。つまり、第1の内周面211にメニスカスMが形成されることがない。
【0035】
このように、本実施形態に係る音響発生器1によれば、振動板3の自由長を決定付ける第1の内周面211にメニスカスMが形成されることを防止することができるため、メニスカスMによって振動板3の自由長が短くなることを防止することができ、これによる音質の低下を防止することができる。つまり、良質な音質を得ることができる。
【0036】
なお、ここでは、凹型のメニスカスMを例示したが、仮に、凸型のメニスカスMが形成された場合であっても同様の効果を得られる。
【0037】
また、本実施形態において、第1の内周面211と第2の内周面212とは、いずれも振動体3a(
図1B参照)に対して垂直な垂直面であり、かつ、振動体3aに対して水平な水平面213を介して連続している。すなわち、本実施形態では、上枠部材21の内周側縁部が、段差状に形成されている。このような形状とすることにより、プレス等による上枠部材21の加工を比較的容易に行うことができる。
【0038】
ところで、メニスカスMによって振動板3の自由長が短くなることを防止するような枠体2(上枠部材21)の形状は、
図2に示したものに限定されない。こうした枠体2(上枠部材21)の形状の変形例について
図4A〜
図4Hを参照して説明する。
図4A〜
図4Gは、枠体の変形例(その1〜7)を示す模式的な拡大図である。また、
図4Hは、
図4GのB−B’線断面図である。
【0039】
たとえば、
図4Aに示す上枠部材21Aのように、第1の内周面211aと第2の内周面212aとは、振動体3a(
図1B参照)に対して傾斜した傾斜面213aを介して連続していてもよい。
【0040】
特に、
図4Aでは、傾斜面213aが、第2の内周面212aに面するように傾斜している。これにより、メニスカスMによって振動板3の自由長が短くなることをより確実に防止することができる。さらに、樹脂層7の厚みを一定(つまり、第1の内周面211aの高さ)に揃えることができるため、音響発生器1ごとの樹脂層7の厚みのバラつきを抑えることができる。よって、音響発生器1ごとの音質のバラつきを抑えることができる。
【0041】
なお、
図4Bに示す上枠部材21Bのように、第1の内周面211bと第2の内周面212bとの間に設けられる傾斜面213bは、内部空間S(
図1B参照)側に面するように傾斜していても構わない。
【0042】
また、
図4Cに示す上枠部材21Cのように、第2の内周面212には、凸部214が設けられてもよい。このように、第2の内周面212に凸部214を設けることにより、枠体2の剛性を高めることができる。
【0043】
なお、凸部214は、第2の内周面212に取り付けられるものであってもよいし、予め第2の内周面212と一体的に形成されてもよい。また、
図4Cでは、
図2に示す上枠部材21の第2の内周面212に凸部214を設けた場合の例を示したが、これに限らず、
図4Aや
図4Bに示す上枠部材21A、21Bの第2の内周面212a、212bに凸部214を設けてもよい。
【0044】
また、
図4Dに示す上枠部材21Dのように、第1の内周面211dと第2の内周面212dとは連続していてもよい。
【0045】
また、
図4Dでは、第2の内周面212dが、断面視した場合に直線状であるものとしたが、第2の内周面212dは、直線状に限らず下(内部空間Sの開口部側)に凸の曲線状であってもよいし、上(振動体3a側)に凸の曲線状であってもよい。
【0046】
たとえば、
図4Eに示す上枠部材21Eは、第1の内周面211eと第2の内周面212eとが連続しており、かつ、第2の内周面212eは、断面視した場合に、下に凸の曲線状に形成されている。また、
図4Fに示す上枠部材21Fは、第1の内周面211fと第2の内周面212fとが連続しており、かつ、第2の内周面212fは、断面視した場合に、上に凸の曲線状に形成されている。
【0047】
また、
図4Gおよび
図4Hに示す上枠部材21Gのように、第2の内周面212gは、内径が第1の内周面211の内径と同一もしくは第1の内周面211よりも小さい部分215を有していてもよい。このような部分215を有することにより、振動体3aに、メニスカスMによって自由長が短くなる領域を部分的に形成することができる。これにより、振動体3a、圧電素子5および樹脂層7によって構成される複合振動体の対称性を低下させることができ、共振モードの縮退を解いて分散させることが可能となる。この結果、音圧の変動が小さい良好な音圧の周波数特性を有する音響発生器1Gを得ることができる。
【0048】
次に、これまで説明してきた実施形態に係る音響発生器1を搭載した音響発生装置および電子機器について、
図5Aおよび
図5Bを用いて説明する。
図5Aは、実施形態に係る音響発生装置20の構成を示す図であり、
図5Bは、実施形態に係る電子機器50の構成を示す図である。なお、両図には、説明に必要となる構成要素のみを示しており、一般的な構成要素についての記載を省略している。
【0049】
音響発生装置20は、いわゆるスピーカのような発音装置であり、
図5Aに示すように、たとえば、音響発生器1と、音響発生器1を収容する筐体30を備える。筐体30は、音響発生器1の発する音響を内部で共鳴させるとともに、筐体30に形成された図示せぬ開口から音響を外部へ放射する。このような筐体30を有することにより、例えば低周波数帯域における音圧を高めることができる。
【0050】
また、音響発生器1は、種々の電子機器50に搭載することができる。たとえば、次に示す
図5Bでは、電子機器50が、携帯電話やタブレット端末のような携帯端末装置であるものとする。
【0051】
図5Bに示すように、電子機器50は、電子回路60を備える。電子回路60は、たとえば、コントローラ50aと、送受信部50bと、キー入力部50cと、マイク入力部50dとから構成される。電子回路60は、音響発生器1に接続されており、音響発生器1へ音声信号を出力する機能を有している。音響発生器1は電子回路60から入力された音声信号に基づいて音響を発生させる。
【0052】
また、電子機器50は、表示部50eと、アンテナ50fと、音響発生器1とを備える。また、電子機器50は、これら各デバイスを収容する筐体40を備える。
【0053】
なお、
図5Bでは、1つの筐体40にコントローラ50aをはじめとする各デバイスがすべて収容されている状態をあらわしているが、各デバイスの収容形態を限定するものではない。本実施形態では、少なくとも電子回路60と音響発生器1とが、1つの筐体40に収容されていればよい。
【0054】
コントローラ50aは、電子機器50の制御部である。送受信部50bは、コントローラ50aの制御に基づき、アンテナ50fを介してデータの送受信などを行う。
【0055】
キー入力部50cは、電子機器50の入力デバイスであり、操作者によるキー入力操作を受け付ける。マイク入力部50dは、同じく電子機器50の入力デバイスであり、操作者による音声入力操作などを受け付ける。
【0056】
表示部50eは、電子機器50の表示出力デバイスであり、コントローラ50aの制御に基づき、表示情報の出力を行う。
【0057】
そして、音響発生器1は、電子機器50における音響出力デバイスとして動作する。なお、音響発生器1は、電子回路60のコントローラ50aに接続されており、コントローラ50aによって制御された電圧の印加を受けて音響を発することとなる。
【0058】
ところで、
図5Bでは、電子機器50が携帯用端末装置であるものとして説明を行ったが、電子機器50の種別を問うものではなく、音響を発する機能を有する様々な民生機器に適用されてよい。たとえば、薄型テレビやカーオーディオ機器は無論のこと、「話す」といった音響を発する機能を有する製品、例を挙げれば、掃除機や洗濯機、冷蔵庫、電子レンジなどといった種々の製品に用いられてよい。
【0059】
なお、上述した実施形態では、振動体の一方の主面に圧電素子を設けた場合を主に例示して説明を行ったが、これに限られるものではなく、振動体の両面に圧電素子が設けられてもよい。
【0060】
また、上述した実施形態では、枠体を上枠部材と下枠部材とによって構成し、かかる上枠部材と下枠部材とで振動板の周縁部を挟み込むことによって振動体を支持する場合を例に挙げたが、枠体および振動体の構成は上記の例に限定されない。たとえば、枠体を単一の枠部材で構成し、かかる単一の枠部材の内周面に振動体の外周部を接着して支持することとしてもよいし、単一の枠部材の上面または下面に振動板の周縁部を接着して支持することとしてもよい。
【0061】
また、上述した実施形態では、枠体の内側の領域の形状が略矩形状である場合を例に挙げ、多角形であればよいこととしたが、これに限られるものではなく、円形や楕円形であってもよい。
【0062】
また、上述した実施形態では、励振器が圧電素子である場合を例に挙げて説明したが、励振器としては、圧電素子に限定されるものではなく、電気信号が入力されて振動する機能を有しているものであれば良い。例えば、スピーカを振動させる励振器としてよく知られた、動電型の励振器や、静電型の励振器や、電磁型の励振器であっても構わない。なお、動電型の励振器は、永久磁石の磁極の間に配置されたコイルに電流を流してコイルを振動させるようなものであり、静電型の励振器は、向き合わせた2つの金属板にバイアスと電気信号とを流して金属板を振動させるようなものであり、電磁型の励振器は、電気信号をコイルに流して薄い鉄板を振動させるようなものである。
【0063】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。