特許第6017959号(P6017959)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6017959トリテルペン含有オレオゲルの創傷治癒剤としての使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6017959
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】トリテルペン含有オレオゲルの創傷治癒剤としての使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/047 20060101AFI20161020BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20161020BHJP
   A61K 31/045 20060101ALI20161020BHJP
   A61K 31/19 20060101ALI20161020BHJP
   A61K 47/44 20060101ALI20161020BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   A61K31/047
   A61K9/06
   A61K31/045
   A61K31/19
   A61K47/44
   A61P17/02
【請求項の数】14
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-540422(P2012-540422)
(86)(22)【出願日】2010年11月24日
(65)【公表番号】特表2013-511568(P2013-511568A)
(43)【公表日】2013年4月4日
(86)【国際出願番号】EP2010068157
(87)【国際公開番号】WO2011064271
(87)【国際公開日】20110603
【審査請求日】2012年6月4日
【審判番号】不服2014-20036(P2014-20036/J1)
【審判請求日】2014年10月3日
(31)【優先権主張番号】102009047092.1
(32)【優先日】2009年11月24日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】502354292
【氏名又は名称】ビルケン アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】特許業務法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】シェフラー アルミン
【合議体】
【審判長】 村上 騎見高
【審判官】 前田 佳与子
【審判官】 山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−503530(JP,A)
【文献】 米国特許第5750578(US,A)
【文献】 特表2004−519411(JP,A)
【文献】 特表2009−506981(JP,A)
【文献】 特開平9−235293(JP,A)
【文献】 B.G.Harish et al.,Phytomedicine,2008,Vol.58,p.763−767
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-31/327
A61K9/00-9/72
A61K47/00-47/48
A61P17/02
CAplus/Medline/BIOSIS/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(J−DreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非極性液体とオレオゲルを形成する剤としてのトリテルペン含有粉体とを含有するオレオゲルの使用であって、
前記トリテルペン含有粉体はベツリン、ルペオールを有し、
前記オレオゲルを形成する剤としてのトリテルペン含有粉体を100重量パーセントとした場合に、前記トリテルペン含有粉体中のベツリンとルペオールとの合計割合は80重量パーセントより大きい、創傷治癒剤の製造のためのオレオゲルの使用
【請求項2】
前記トリテルペン含有粉体中のベツリンとルペオールとの合計割合は85重量パーセントより大きい、請求項1に記載の創傷治癒剤の製造のためのオレオゲルの使用
【請求項3】
前記オレオゲルは、
前記ゲルの総重量に対して80重量パーセントから99重量パーセントの間の割合を有する非極性液体と、
前記ゲルの総重量に対して1重量パーセントから20重量パーセントの間の割合を有する前記オレオゲルを形成する剤としてのトリテルペン含有粉体と
を有する、請求項1または2に記載の創傷治癒剤の製造のためのオレオゲルの使用
【請求項4】
前記非極性液体の割合は88重量パーセントから94重量パーセントの間であり、前記オレオゲル形成剤の割合は6重量パーセントから12重量パーセントの間である、請求項3に記載の創傷治癒剤の製造のためのオレオゲルの使用
【請求項5】
前記非極性液体は植物油、動物油、鉱油、または合成油である、請求項1〜4の何れか1項に記載の創傷治癒剤の製造のためのオレオゲルの使用
【請求項6】
前記油は、ヒマワリ油、オリーブ油、アボカド油、アーモンド油の1つから選ばれる植物油である、請求項5に記載の創傷治癒剤の製造のためのオレオゲルの使用
【請求項7】
前記トリテルペン含有粉体は、80重量パーセントより大きなトリテルペン割合を有する、請求項1〜6の何れか1項に記載の創傷治癒剤の製造のためのオレオゲルの使用
【請求項8】
前記トリテルペン含有粉体は、90重量パーセントより大きなトリテルペン割合を有する、請求項1〜7の何れか1項に記載の創傷治癒剤の製造のためのオレオゲルの使用
【請求項9】
前記トリテルペン割合中のベツリンの割合は50重量パーセントより大きい、請求項8に記載の創傷治癒剤の製造のためのオレオゲルの使用
【請求項10】
前記トリテルペン含有粉体の平均粒子サイズは20nmから50μmの間である、請求項1〜9の何れか1項に記載の創傷治癒剤の製造のためのオレオゲルの使用
【請求項11】
前記トリテルペン含有粉体の平均粒径は10μm未満である、請求項10に記載の創傷治癒剤の製造のためのオレオゲルの使用
【請求項12】
前記オレオゲルは追加の創傷治癒物質を含む、請求項1〜11の何れか1項に記載の創傷治癒剤の製造のためのオレオゲルの使用
【請求項13】
前記トリテルペン含有粉体はベツリン酸、オレアノール酸、エリスロジオールも含む、請求項1に記載の創傷治癒剤の製造のためのオレオゲルの使用
【請求項14】
前記トリテルペン割合中のベツリンの割合は60重量パーセントより大きい、請求項8に記載の創傷治癒剤の製造のためのオレオゲルの使用
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリテルペン含有オレオゲルの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲルは、液相と固相とでできている微分散系である。固相は強固に結び付いた3次元骨格を形成し、二相は完全に貫入し合っている。基本的に親水性ゲルと疎水性ゲルとの別があり、後者はオレオゲルとも呼ばれる。オレオゲルは非極性液体、たとえば油、ワックスまたはパラフィンを基材とし、所望の物理的性質を達成するためにこれにゲル形成剤が加えられる。
【0003】
そのようなオレオゲルは、組成に応じて非常に多様な目的に使用することができる。
【0004】
特に医薬品分野においてオレオゲルは局所適用に使用される。これらの医薬用オレオゲルにおいて薬学的に活性な物質に加えてゲル形成剤がゲル中に提供される。医薬用オレオゲルに頻用されるゲル形成剤は、商品名アエロジル(Aerosil)(登録商標)で入手可能な高分散二酸化ケイ素である。オレオゲルは目立ったチキソトロピーを示す。すなわちオレオゲルは機械的作用を受けると液化し、その後再び固化する。他のゲル、たとえばゲル形成剤としてペクチンを有するゲルは、酸の影響を受けると架橋し、さらに別のゲルたとえばゼラチンは温度に応じてゲル化する。
【0005】
オレオゲル形成剤としての高分散トリテルペンの使用と、オレオゲル形成剤として高分散トリテルペンを有するオレオゲルとが独国特許出願公開第10 2004 030 044号に記載されている。
【0006】
創傷を治癒するための、すなわちヒトおよび哺乳類の皮膚創傷を治癒するための公知の物質は、たとえばデクスパンテノールまたはカモミールエキスである。しかし、これらの物質を適用可能な薬剤に加工するには補助材料、例えば乳化剤、溶媒、または防腐剤が必要である。しかし、これらの補助材料は創傷の治癒を妨害するような影響を及ぼすことがあり、それだけでなく一部の患者においてはアレルギー反応を引き起こすこともある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、製造するのが簡単であるとともにアレルギーの許容度が高い、皮膚の創傷、特に慢性創傷を治癒するのに有効な調製物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は、請求項1に記載の使用によって達成される。実施態様および改良点が従属請求項の主題である。
【0009】
本発明によれば、非極性液体とオレオゲル形成剤としての少なくとも1つのトリテルペン含有粉体とを含有するオレオゲルが皮膚の創傷を治癒するために使用される。あるいは、創傷を治癒するための薬物を製造するためにそのようなオレオゲルが使用される。
【0010】
基本的に、そのようなオレオゲルはすべての種類の創傷の治癒、たとえば事故などの外的影響によって誘発される創傷の治癒に適し、創傷、特に皮膚病が原因となる慢性創傷の治癒にも適している。そのような皮膚病は、たとえば遺伝関連皮膚病の表皮水泡症(EB:epidermolysis bullosa)である。この病気にかかっているヒトの場合、さまざまな皮膚層の間の機械的な結合が不適切に形成され、そのためわずかな機械的応力だけで水膨れおよび創傷が生じることがある。
【0011】
トリテルペン、例えばベツリン、ルペオール、ベツリン酸、オレアノール酸、および類似の化合物は、シラカバの樹皮中に比較的高濃度で存在するが他の植物または植物成分、たとえばローズマリーの葉、ヤドリギ、またはリンゴの皮の中にも存在する再生可能な原料である。ベツリン、ベツリン酸、ルペオール、およびオレアノール酸は5環トリテルペンであり、最初に挙げた3つはルパン骨格を有し、オレアノール酸はオレアネン骨格を有する。ルパン類の特徴は、5環系内の5つの炭素原子を有する環であり、この環はC−19位にα−イソペンテニル基を有する。
【0012】
粉体の形で提供され、オレオゲル形成剤として作用するのに十分に細かく粉砕されていればどのようなトリテルペンでもどのようなトリテルペン組成物でも本オレオゲルのオレオゲル形成剤として適している。トリテルペン組成物は2つ以上の異なるトリテルペンを含む。1つの実施例によれば、オレオゲル形成剤中の少なくとも1つのトリテルペンの平均粒子サイズは、好ましくは20nmから50μmの間、特に好ましくは10μm未満である。
【0013】
さらに、均一な粒子サイズ分布が提供されると有利である。これは、以後、高度に分散したトリテルペン含有粉体中の二次凝集体の割合が20重量パーセント未満であることを意味すると理解されるものとする。
【0014】
微粉化されたトリテルペン含有粉体の形で提供される本オレオゲル形成剤は、トリテルペン、たとえばベツリン、ベツリン酸、ルペオール、またはアロベツリンに加えて、少量の他の材料、たとえば、トリテルペンを抽出することができるトリテルペン含有植物成分、たとえばシラカバの樹皮中に特定の割合で自然に存在することがある材料も含んでよい。本発明によるオレオゲル形成剤中のトリテルペンの割合は、オレオゲル形成剤の重量に対して好ましくは80重量パーセントより大きく、特に好ましくは90重量パーセントより大きい。トリテルペンの割合に対するベツリンの割合は、60重量パーセントより大きいと有利であり、80重量パーセントより大きいと特に有利である。
【0015】
オレオゲル形成剤として使用される少なくとも1つのトリテルペンは、通常の非連続抽出法(バッチ法)または通常の連続法を用いて植物または植物成分、たとえばシラカバの樹皮、ローズマリー、ヤドリギ、またはリンゴの皮から抽出することができる。これで、この点に関してこれ以上の言及なしで済ませることができる。たとえば、国際公開第2001/72315号または国際公開第2004/016336号に植物成分からトリテルペン、特にシラカバの樹皮からベツリンを得るための連続法が記載されている。
【0016】
抽出後、少なくとも1つのトリテルペンを含有する粉体にゲル形成特性のために必要な分散性、平均粒子サイズおよび均一粒子サイズ分布が備わっていなければ、所望の粒子サイズ、均一性および分散性を達成するために粉体をさまざまな方法に付すことができる。この目的のためにさまざまな方法が知られており、粉体中の粒子サイズが過度に大きければ、粒子を粉砕するために衝突法または重力法が適している。さらに、粉体を適当な溶媒、たとえばテトラヒドロフラン(THF:tetrahydrofuran)に溶解し、続いてそれを再結晶する可能性が存在する。この結晶化は、たとえばスプレー乾燥または飽和溶媒の冷却によって実行することができる。粒子サイズは、結晶化条件によって設定することができる。結晶化条件は、たとえばスプレー乾燥の場合にはトリテルペン−溶媒混合物がスプレーされるノズルの直径、ならびに混合物がスプレーされる先のチャンバの温度および圧力に依存する。飽和溶液の冷却による結晶化の場合には、結晶化条件は冷却時の時間に対する温度勾配および溶液中のトリテルペン濃度に依存する。最後に、所望のサイズ分布を有する粉体を得るために既存の粉体を選別する可能性も存在する。
【0017】
本オレオゲル中の非極性液体の割合は好ましくは88重量パーセントから94重量パーセントの間であり、トリテルペン含有粉体の割合は好ましくは6重量パーセントから12重量パーセントの間である。
【0018】
任意の非極性液体、たとえば植物油、動物油、または合成油、ワックス、およびパラフィンがオレオゲル用の非極性液体として適している。非極性液体は、たとえば以下すなわちヒマワリ油、オリーブ油、アボカド油、アーモンド油の1つから選ばれた植物油である。
【0019】
オレオゲルの形のこの半固体調製物の利点は、その調合の簡単さにある。トリテルペンは薬学的に活性な創傷治癒物質およびゲル形成剤として同時に機能し、追加のゲル形成剤を省略することができる。従って、本オレオゲルはアレルギーを起こしやすい皮膚用の創傷治癒剤として特に適している。
【0020】
しかし、ゲル形成剤中に存在するトリテルペンに加えて薬学的に活性な濃度の他の薬学的に活性な物質、例えばデクスパンテノールまたはカモミールエキスをオレオゲルに加える可能性ももちろん存在する。非極性液体とオレオゲル形成剤としてのトリテルペン含有粉体とを有するオレオゲルは親油性物質を吸収することができるので、そのような材料のための理想的な基材を表している。従って、トリテルペン含有粉体を加えることによってオレオゲルが製造される前であっても非極性液体に親油性の薬学的に活性な物質を添加済みである可能性も存在する。
【0021】
さらに、本オレオゲルを用いて水性抽出物を加工して安定な乳化液を形成させてもよい。
【0022】
以下、実施例にもとづき、特に添付の図を参照して本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】創傷を治癒するのに適しているオレオゲル中の高度に分散したオレオゲル形成剤の実施例の粒子サイズ分布を例示している。
図2】トリテルペン含有オレオゲルの影響下の「ブタエクスビボ創傷モデル」による創傷治癒の事例における創傷治癒の進行を例示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、創傷を治癒するのに適しているオレオゲル中の高度に分散したオレオゲル形成剤の実施例の粒子サイズ分布を例示している。本実施例において、粒子サイズが0.209μmから45.709μmの間であり、サイズ分布の最大値は3.802μm程度である。ガスクロマトグラフィー分析によるとこの粉体は85重量パーセントのベツリン、5重量パーセントのベツリン酸、3%のオレアノール酸、0.7重量パーセントのルペオール、および6.3重量パーセントの他のトリテルペン誘導体を含有する。
【0025】
この粉体をゲル形成剤として用いてオレオゲルが製造され、このとき粉体はオレオゲルの全重量に対して10重量パーセントでヒマワリ油と混合された。結果は、非常に目立つチキソトロピーを有する安定な半固体ゲル(オレオゲルS10)であった。このゲルは以後オレオゲルS10と呼ばれる。「S10」はオレオゲル中のトリテルペン含有粉体の10%の割合を示している。オレオゲルS10中に追加の創傷治癒物質は提供されない。
【0026】
高度に分散したトリテルペン含有粉体をオレオゲル形成剤として有するオレオゲルは、ヒトの身体の任意の皮膚創傷の治療のための創傷治癒剤として適している。そのような創傷は、事故によって引き起こされる創傷、例えば切り傷または擦り傷であってもよく、やけどの創傷であってもよい。しかし、そのような創傷は、治療を目的として意図的に必要とされる創傷、例えば分割皮膚移植除去後の創傷またはレーザー治療、例えばイレズミまたは皮膚成長物を除去するためのレーザー治療後の創傷であってもよい。高度に分散したトリテルペン含有粉体をオレオゲル形成剤として有するオレオゲルは、皮膚病、例えば表皮水泡症によって引き起こされる創傷の治療のための創傷治癒剤としても適している。
【実施例1】
【0027】
独国特許第103 17 400号の主題である「ブタエクスビボ創傷モデル」にもとづいてトリテルペン含有オレオゲル(オレオゲルS10)の創傷治癒効果を試験した。ブタの耳の皮膚のサンプルから6mmの直径を有する小さな円形の部分の表皮および真皮上部を除去した。こうして得られた創傷に、第1群の10サンプルでは10μLのオレオゲルを48時間に1回投与し、第2群の6サンプルでは比較調製物として使用される10μLのワセリンを適用し、第3群の10サンプルは対照群として未処理のままとした。48時間後、皮膚サンプルを固定し、引き続き組織学的に検査した。
【0028】
検査によると、上皮化の進行から見てオレオゲルを用いて処理したサンプルにおいて他のサンプルと比較して改善された創傷治癒が示された。創傷治癒の進行は、図2において棒グラフの形でグラフ表示されている。左側の棒はワセリンの場合の創傷治癒の進行を示し、右側の棒は対照のサンプルの進行を示し、中央の棒はオレオゲルの場合の進行を示している。明らかに、オレオゲルを用いた処理からは、未処理およびワセリンを用いた処理のどちらの場合よりも速い創傷治癒の進行が得られた。
【0029】
さらに、オレオゲルは、未処理のサンプルの場合と同様に良好な創傷端の形態の維持を示した。オレオゲルの影響下で再生中の表皮中の増殖細胞の数は未処理のサンプルと比べて減少する傾向があったが、創傷端では同じであった。一方、ワセリンの場合の増殖細胞はここで統計学的に有意に少なかった。
【実施例2】
【0030】
患者(女性)、年齢3歳
診断:接合部型非Herlitz型表皮水泡症
− 治療前の創傷状態:
− 平面フィブリン被覆慢性創傷、右胸部
− 4週間を超える期間にわたって治癒傾向なし
− サイズ:13.63cm2
− それまでの治療:
− 毎日の包帯替え、メピテル(Mepitel)およびメピレックス(Mepilex)トランスファーによる創傷保護、オクテニセプト(Octenisept)による規則的な皮膚消毒
− 二次診断:
− 6つの部位でMRSAコロニー形成、治療部位からのスミア検査なし
− 鉄欠乏性貧血
− 消化性ジストロフィー
− 慢性疼痛
− 治療の開始7月15日:
− 毎日オレオゲルS10適用、メピレックストランスファー創傷包帯
− 同時治療:消毒浴
− 薬物治療:イブプロフェン3×80mg、タビジル(2×5mL)
− 7月17日の創傷所見:
− サイズ:9.58cm2(大体30%の創傷面積の減少)
− 平面非被覆創傷
− 創傷端の上皮化および上皮橋の形成
【実施例3】
【0031】
患者(男性)、年齢4歳
診断:単純型表皮水泡症
− 初回所見:
− 環状増殖水膨れおよびかさぶた
− 背中および両脇腹
− 5週間前からあり
− ひどいかゆみ
− それまでの治療:
− ベパンテン、フシジン、およびメピレックス、持続改善なし
− 治療の開始2008年12月12日:
− オクチセプト(Octisept)溶液を用いる治療
− 毎日2×オレオゲルS10、メピレックストランスファーで創傷を覆う
− 薬物治療:フェニステル(Fenistel)ドロップ、アエリアス(Aerius)シロップ、エクシピアル(Excipial)およびリポロシオ(Lipolotio)毎日2回、日中必要に応じてコールドクリーム中5%のテシット(Thesit)
− 2008年12月18日の所見:
− 水膨れおよびかさぶた減少
− かゆみ軽減
− 追加治療2009年5月2日 オレオゲル処置を継続
− 治癒し、かゆみなし
【実施例4】
【0032】
患者(女性)、年齢12歳
診断:劣性ジストロフィー表皮水泡症
− 治療の前の創傷状態:
− 左の内側くるぶし:平面、わずかに炎症を起こし、痛みがあり(目視アナログスケール0〜100:VAS50)、滲出のある(VAS50)創傷、2009年4月10日からあり
− 右膝前面:平面、わずかに炎症を起こした、わずかに痛みがあり(VAS15)、滲出のある(VAS40)創傷、2009年4月13日からあり
− それまでの治療:
ウルゴツール(Urgotul)、メピレックスライト
− 2009年4月16日からの治療;
− 両方の創傷:ウルゴツール、メピレックスライト、毎日の包帯替え
− 左の内側くるぶしにさらにオレオゲルS10
− 2009年5月22日の創傷所見:
− 両方の創傷治癒
− 左くるぶし(オレオゲルS10):上皮化(VAS100)、わずかに赤み(VAS8)、痛みもかゆみもなし(VAS0)
− 右膝(対照):上皮形成、かさぶた残り(VAS90);わずかに赤み(VAS8)、わずかに痛み(VAS10)およびかゆみ(VAS5)あり
【実施例5】
【0033】
患者(男性)、年齢57歳
診断:異型栄養障害性表皮水泡症
− 2008年11月18日の治療の前の創傷状態:
− 平面フィブリン被覆創傷
− サイズ 9.48cm2
− 左右の陰嚢
− 3ヵ月を超える期間にわたって治癒なし
− これまでの治療:
− 非常に多様な軟膏およびクリーム、改善なし
− 追加所見:
− 黄色ブドウ状球菌、プロテウスによる創傷コロニー形成
− 真正糖尿病、要インスリン
− 治療の開始、2008年11月18日:
− オレオゲルS10:1日2回
− 創傷包帯メピレックストランスファー
− 2008年11月24日の創傷状態;
− ほとんど完全に治癒、平面、フィブリン被覆創傷
− サイズ:0.65cm2
− 追加治療
− オレオゲルS10停止後悪化
− ミルフラン(Mirfulan)クリームによる治療の試み、有意な改善なし
− イムラン(Imlan)純クリーム(Creme Pur)による治療の試み、わずかな改善のみ
− オレオゲルS10による治療再開後、治癒
【0034】
オレオゲル形成剤としてトリテルペン含有粉体を含むオレオゲルを用いる創傷治療は、数日後に早くも有効な治癒プロセスおよび創傷のサイズの減少、したがって顕著な軽減をもたらした。処置を継続した場合、オレオゲルは創傷の完全な治癒、特にそれまで治癒プロセスが自発的に始まらなかった慢性創傷の治癒ももたらした。創傷治癒において、本オレオゲルは特に再上皮化を促進し、したがって特に再上皮化期にある創傷治癒の場合に用いることができる。
【0035】
実施例において示した外上皮に加えて、本オレオゲルは、内上皮(粘膜)、たとえば鼻、胃、または生殖器分野における創傷の治癒に適している。本オレオゲルは無害に経口投与することができる。
【0036】
図1を参照して説明したトリテルペン組成物(組成物I)は、オレオゲルの成分として、またはオレオゲル形成剤として創傷治癒効果を有するトリテルペン組成物の例にすぎない。トリテルペン含有オレオゲルの創傷治癒効果は、もちろんそのような特別なトリテルペン組成物を有するオレオゲルに限定されない。「ブタエクスビボ創傷モデル」にもとづいて創傷治癒効果が確かめられたオレオゲルを製造するために用いられた例として、3つのさらに別のトリテルペン組成物が以下に特定される。組成物II〜IVと呼ばれるこれらの組成物について、主な成分および重量パーセントの特定の割合が以下に特定される。
【0037】
組成物II:
ベツリン: 86.85重量パーセント
ルペオール: 3.94重量パーセント
ベツリン酸: 3.52重量パーセント
エリスロジオール: 0.77重量パーセント
オレアノール酸: 0.62重量パーセント
【0038】
組成物III:
ベツリン: 78.32重量パーセント
ルペオール: 7.18重量パーセント
ベツリン酸: 3.46重量パーセント
エリスロジオール: 0.77重量パーセント
オレアノール酸: 0.63重量パーセント
【0039】
組成物IV:
ベツリン: 60.50重量パーセント
ルペオール: 25.43重量パーセント
ベツリン酸: 1.68重量パーセント
エリスロジオール: 1.47重量パーセント
オレアノール酸: 0.48重量パーセント
【0040】
ベツリンの割合が比較的小さな組成物IIIの例が特に示しているように、良好な創傷治癒のために必ずしも高いベツリン割合が提供される必要はない。
【0041】
組成物I〜IV中のベツリンとルペオールとを合せた割合はそれぞれの場合に80重量パーセントより大きく、特に85重量パーセントより大きい。個々のトリテルペンが提供される割合は、特にトリテルペン含有粉体が得られた植物または植物の部分に依存する。しかし、良好な創傷治癒はトリテルペン含有粉体の特別な組成物に依存しない。むしろ、オレオゲル形成剤としてどのようなトリテルペンを有するオレオゲルも良好な創傷治癒特性を有するようである。
【0042】
もちろん、ヒマワリ油だけでなく、ヒトまたは哺乳類に非毒性であるかまたは医学的に適用可能であるどのような他の脂質または油もオレオゲルの製造に適している。
図1
図2