(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
軌道回路等の地上設備を必要としない、或いは、最低限に抑える車両位置の計測は、例えば閑散線区などにおいて要望が高い。軌道回路に代わってGPSによる測位情報を利用する場合には、計測誤差をいかに小さくするかが重要とされる。GPSの計測誤差の一つとして「マルチパス(多重反射)」が知られる。マルチパスは、地表面や樹木、建物などから反射された信号が、GPS衛星からの直線経路外から届き、直線経路で到達した信号に干渉することで生じる誤差である。なお、GPS衛星以外の衛星測位システムを利用する場合にもマルチパスの問題がある。また、自動車等の列車以外の車両にもこの問題がある。
【0005】
本発明がなされた目的は、衛星測位システムを利用して車両位置を計測する場合に、マルチパスの影響を低減させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するための第1の発明は、衛星から受信した衛星信号に基づいて車両の位置を計測する車両位置計測方法であって、各候補衛星の衛星信号を捕捉する捕捉ステップ(例えば、
図7のステップS2)と、
前記捕捉した衛星信号に係る擬似距離を算出する擬似距離算出ステップ(例えば、
図7のステップS8)と、
前記捕捉した衛星信号に係るドップラシフト周波数を算出するドップラシフト周波数算出ステップ(例えば、
図7のステップS10)と、
前記候補衛星それぞれについて、前記算出した擬似距離に基づく擬似距離変化量と、前記算出したドップラシフト周波数に基づく当該候補衛星と当該車両との相対移動量との乖離量を算出する乖離量算出ステップ(例えば、
図7のステップS24)と、
前記算出した乖離量を用いて、前記候補衛星の中から測位に使用する衛星を選択する衛星選択ステップ(例えば、
図7のステップS40)と、
前記選択した衛星の衛星信号に基づいて測位する測位ステップ(例えば、
図7のステップS46)と、を含む車両位置計測方法である。
【0007】
また別形態として、衛星から受信した衛星信号に基づいて車両の位置を測位する車両位置計測システムであって、各候補衛星の衛星信号を捕捉する捕捉部(例えば、
図3のCPU24、ベースバンド処理部30、捕捉部301、
図7のステップS2)と、
前記捕捉した衛星信号に係る擬似距離を算出する擬似距離算出部(例えば、
図3のCPU24、ベースバンド処理部30、擬似距離算出部303、
図7のステップS8)と、
前記捕捉した衛星信号に係るドップラシフト周波数を算出するドップラシフト周波数算出部(例えば、
図3のCPU24、ベースバンド処理部30、ドップラシフト周波数算出部305、
図7のステップS10)と、
前記候補衛星それぞれについて、前記算出した擬似距離に基づく擬似距離変化量と、前記算出したドップラシフト周波数に基づく当該候補衛星と当該車両との相対移動量との乖離量を算出する乖離量算出部(例えば、
図3のCPU24、乖離量算出部32、
図7のステップS24)と、
前記算出した乖離量を用いて、前記候補衛星の中から測位に使用する衛星を選択する衛星選択部(例えば、
図3のCPU24、衛星選択部36、
図7のステップS40)と、
前記選択した衛星の衛星信号に基づいて測位する測位部(例えば、
図3のCPU24、測位演算部38、
図7のステップS46))と、を備えた車両位置計測システムを構成できる。
【0008】
第1の発明等によれば、衛星信号を用いて車両の位置を計測することができる。そして、位置計測に当たっては、候補衛星それぞれについて、擬似距離に基づく擬似距離変化量と、ドップラシフト周波数に基づく当該候補衛星と車両との相対移動量との乖離量を算出できる。擬似距離変化量は原理的にマルチパスの影響を受け易いが、ドップラシフト周波数はマルチパスの影響を受け難い。よって、これら両者の差である乖離量は、マルチパスの影響度合を示す指数と言える。従って、算出した乖離量を用いて候補衛星の中から測位に使用する衛星を選択することで、マルチパスの影響を低減することができる。
【0009】
より具体的には、第2の発明として、前記乖離量算出ステップは、第1のエポックで算出した擬似距離と第2のエポックで算出した擬似距離の差から前記擬似距離変化量を算出するステップ(例えば
図7のステップS12)と、
前記第1のエポックで算出したドップラシフト周波数と前記第2のエポックで算出したドップラシフト周波数の平均周波数、及び、前記第1のエポックと前記第2のエポック間の時間間隔を用いて前記相対移動量を算出するステップ(例えば、
図7のステップS20)と、を含む第1の発明の車両位置計測方法を構成することができる。
【0010】
そして、第1の発明及び第2の発明を、鉄道に適用するならば、第3の発明として、前記車両を、軌道を走行する列車とし、前記軌道に沿った区域別に定めた前記乖離量を判定するための判定基準値の中から、前記測位の結果に対応する判定基準値を選択する判定基準値選択ステップ(例えば、
図7のステップS26)を更に含み、前記衛星選択ステップを、前記選択した判定基準値と、前記算出した乖離量とを比較し、当該比較結果に基づいて、測位に使用する衛星を選択するステップとした第1又は第2の発明の車両位置計測方法を構成すると良い。
【0011】
第3の発明によれば、第1又は第2の発明と同様の効果が得られるとともに、軌道沿いの区域別の判定基準値を用いることで、場所によってマルチパスの影響が変化するような軌道であっても、マルチパスの影響を適切に低減できる。例えば、比較的マルチパスの影響が高くなる区域では、他の区域よりも判定基準値を大きめに設定するならば、判定基準を厳しくし過ぎた結果、測位に使用できる衛星数が限られてしまい測位できなくなることを避けつつ、マルチパスの影響が大きい衛星の使用を避けることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔第1実施形態〕
本発明を適用した車両位置計測システムについて説明する。尚、本実施形態ではGPSを利用するものとして説明するが、他の衛星測位システムに適宜置き換えることができる。また、車両位置の計測タイミングを以降では「エポック」と呼ぶこととする。
【0014】
[システム構成の説明]
図1は、本実施形態における車両位置計測システムの構成例を示す図である。尚、車両位置計測システム2へ電力を供給する回路等についての説明は省略している。
【0015】
本実施形態の車両位置計測システム2は、軌道3を走行する車両である列車4の位置を計測するシステムであって列車4に搭載される。
車両位置計測システム2は、GPS衛星6から送信される衛星信号7を受信するGPSアンテナ21と、RF(Radio Frequency)受信部22と、CPU(Central Processing Unit)24と、ICメモリ26と、RTC(Real Time Clock)27と、通信I/F(Interface)28とを有する。RF受信部22、CPU24、ICメモリ26、RTC27および通信I/F28は、バス29によりデータ送受可能に接続されている。
【0016】
GPSアンテナ21は、GPS衛星6から発信される電波を電気信号に変換してRF受信部22へ出力する。
RF受信部22は、GPSアンテナ21から入力した信号を中間周波数に変換し、デジタル信号に変換してデジタルIF信号として出力する。RF受信部22は、例えば、各種フィルタ回路や低雑音増幅器(LNA:Low Noise Amplifier)の他、中間周波数のIF信号(IF:Intermediate Frequency)へ変換するダウンコンバータ、ダウンコンバートされたIF信号をデジタル信号に変換するA/D変換器、等を有する。尚、RF受信部22は、公知のGPS用のフロントエンドアナログ回路や、フロントエンドICを流用可能である。
【0017】
CPU24は、(1)RF受信部22から入力されるデジタルIF信号をもとに衛星信号の捕捉や追尾、擬似距離の算出、アルマナック(Almanac)やエフェメリス(Ephemeris)等の航法メッセージのデコードなどを含む所謂ベースバンド処理、(2)測位演算処理、(3)測位結果である位置座標を通信I/F28へ出力する外部出力制御処理、を実行することができる。
【0018】
ICメモリ26は、CPU24による演算処理に必要なプログラムやデータを一時的或いは不揮発に記憶する情報記憶媒体である。RAMやROMにより実現される。また、代替の記憶部として、ハードディスクを備えることとしてもよい。
【0019】
RTC27は、車両位置計測システム2における基準時刻を出力する。適宜、図示されないバッテリーに接続された構成とすると良い。
【0020】
通信I/F28は、当該計測システム外の装置とのデータ通信を実現する。いわゆるインタフェースIC、通信端子、無線装置等を適宜流用可能である。例えば、車両位置情報(本実施形態では、GPS座標値)等を、当該計測システム外へ出力することができる。
【0021】
尚、CPU24とICメモリ26は、1チップのシステムLSIとして実現されるとしても良い。また、GPSアンテナ21やRF受信部22を更に含めた一つのモジュールとして実現される構成でも良い。
【0022】
[原理の説明]
図2は、車両位置計測システム2がマルチパスの影響を低減する原理を説明するための図である。車両位置計測システム2は、エポックt1においてGPSアンテナ21でGPS衛星6(6a)から衛星信号7(7a)を受信する。このとき、受信した衛星信号7(7a)に基づいて、GPS衛星星6(6a)から列車4(4a)までの擬似距離L1と、両者の相対移動に係るドップラシフト周波数fd1とを求めることができる。
【0023】
同様に、時間間隔△t後のエポックt2において、車両位置計測システム2は、時間間隔△tの間に移動したGPS衛星6(6b)から衛星信号7(7b)を受信する。そして、この時受信した衛星信号に基づいて、GPS衛星6(6b)から列車4(4b)までの擬似距離L2と、両者の相対移動速度に基づくドップラシフト周波数fd2とを求めることができる。
【0024】
ここで、時間間隔△tの間に移動した列車4の移動距離に関連して二つのパラメータを考える。1)擬似距離変化量△Lと、2)GPS衛星6と列車4との相対移動量△Dである。
【0025】
擬似距離変化量△Lは、最新のエポックt2(第2のエポック)における擬似距離L2と、最も時間的に近い過去のエポックt1(第1のエポック)における擬似距離L1との差から求められる(
図2中の数式A)。
【0026】
相対移動距離△Dは、a)最新のエポックt2(第2のエポック)におけるドップラシフト周波数fd2と最も時間的に近い過去のエポックt1(第1のエポック)におけるドップラシフト周波数fd1との平均値と、b)衛星信号の搬送波波長λと、c)最新のエポックt2から最も時間的に近い過去のエポックt1までのエポックの時間間隔△tとの積を求め、その正負符合を逆転することで得られる(
図2中の数式B)。
【0027】
そして、ドップラシフト周波数fdi(i=1,2,…)が原理的に擬似距離Li(i=1,2,…)よりもマルチパスの影響を受け難い点に着目すると、もしマルチパスの影響が皆無で且つその他の誤差要因を考慮しないと仮定すると、擬似距離変化量△Lと相対移動量△Dとが一致するはずである。反対に、マルチパスの影響を受けていれば擬似距離変化量△Lと相対移動量△Dとの乖離が大きくなる。
【0028】
位置座標を算出するためには少なくとも4機のGPS衛星が必要であり、数が多ければそれだけ高精度且つ高速に位置座標を算出できる。天空には4機を超えるGPS衛星が常に配置されているため、測位に用いるGPS衛星を選択することが可能である。
そこで、本実施形態では擬似距離変化量△Lと相対移動量△Dの差すなわち両者の乖離量Qe(
図2中の数式C)を、候補となるGPS衛星(候補衛星)別に求め、それぞれの乖離量Qeを用いて測位に使用する衛星を選択することでマルチパスの影響を低減する。具体的には、本実施形態では、マルチパス誤差を含む許容できる誤差の上限として「判定基準値k」を設定し、乖離量Qeが当該判定基準値kより大きければマルチパスの影響を強く受けていると見なし、測位に使用する衛星の候補から除外することとする。
【0029】
尚、第1のエポックと第2のエポックとは、1エポック差とすると最も精度良くマルチパスの影響を低減できる。
【0030】
[機能構成の説明]
図3は、本実施形態における車両位置計測システム2の機能構成例を示すブロック図である。車両位置計測システム2のCPU24は、ベースバンド処理部30と、乖離量算出部32と、判定基準値選択部34と、衛星選択部36と、測位演算部38と、を有する。
【0031】
ベースバンド処理部30は、衛星信号の捕捉や追跡、航法メッセージのデコードを行う。また、ベースバンド処理部30は、捕捉部301と、擬似距離算出部303と、ドップラシフト周波数算出部305とを有する。尚、デコードされた航法メッセージは、ICメモリ26に記憶される(航法メッセージ44)。
【0032】
捕捉部301は、測位に使用する候補となるGPS衛星(候補衛星)の衛星信号を捕捉する。例えば、取得済の航法メッセージ44に基づいて各GPS衛星の位置を予測計算し、可視範囲内のGPS衛星のC/Aコード(レプリカコード)を生成し、デジタルIF信号との相関値がピークとなるようにC/Aコード位相制御する。
【0033】
擬似距離算出部303は、捕捉できたGPS衛星別に擬似距離Li(i=1,2,…)を算出する。擬似距離の算出方法は従来公知の方法と同様である。例えば、受信したGPS衛星信号に示されている発信時刻と、RTC27の計時時刻に基づく受信時刻との差から擬似距離を求めてもよい。算出された擬似距離Li(i=1,2,…)は、ICメモリ26の擬似距離履歴データ48に衛星IDと、エポックID(例えば、エポックの示す時刻、又は起動から連番付与される識別情報)と対応づけて格納される。
【0034】
ドップラシフト周波数算出部305は、捕捉できたGPS衛星別にドップラシフト周波数fdi(i=1,2,…)を算出する。ドップラシフト周波数の算出方法は従来公知の方法と同様である。例えば、捕捉した衛星信号の受信周波数から搬送波周波数(1.57542[GHz])を減算して求めても良い。算出されたドップラシフト周波数fdi(i=1,2,…)は、ICメモリ26のドップラシフト周波数履歴データ50に衛星IDと、エポックIDと対応づけて格納される。
【0035】
尚、本実施形態ではベースバンド処理部30をCPU24の演算処理によって実現する構成としたが、公知のベースバンド処理ICなどのハードウェアを流用し、ベースバンド処理部30をCPU24とは独立したプロセッサで実現することもできる。
【0036】
乖離量算出部32は、捕捉されたGPS衛星別に、(1)算出された擬似距離Li(i=1,2,…)に基づく擬似距離変化量△Lと、(2)算出されたドップラシフト周波数fdi(i=1,2,…)に基づく当該GPS衛星と車両との相対移動量△Dと、(3)擬似距離変化量△Lと相対移動量△Dとの差である乖離量Qeと、を算出する。
【0037】
判定基準値選択部34は、乖離量Qeを判定するための判定基準値の中から、判定基準値を選択する。本実施形態では、車両の例として軌道3を走行する列車4を挙げている。そこで、軌道3に沿って予め「区域」を定めておき、その区域別の判定基準値kを定義する判定基準値設定データ42をICメモリ26に記憶させておく。そして、判定基準値選択部34は、最後に算出した列車4の位置座標に該当する区域の判定基準値kを判定基準値設定データ42から選択する。
【0038】
衛星選択部36は、乖離量Qeを用いて、捕捉できるGPS衛星(候補衛星)の中から測位に使用する衛星を選択する。具体的には、候補衛星毎に得られた乖離量Qeと、判定基準値選択部34で選択した判定基準値kとを比較し、乖離量Qeが判定基準値k以上の候補衛星を選択しない。
より具体的には、本実施形態では、乖離量Qeが判定基準値k以上となる候補衛星の衛星IDを除外衛星リスト60に登録する。一方、乖離量Qeが判定基準値k未満の候補衛星の衛星IDが除外衛星リスト60に登録されていた場合には登録を抹消する。衛星選択部36は、この除外衛星リスト60に登録されている候補衛星を除いて測位に使用する衛星を選択する。
【0039】
測位演算部38は、衛星選択部36により測位に使用する衛星として選択されたGPS衛星の衛星信号から位置座標を算出し、ICメモリ26に位置座標62を記憶する。
【0040】
ICメモリ26は、揮発性及び不揮発性のICメモリで実現できる。本実施形態のICメモリ26は、測位プログラム40と、判定基準値設定データ42と、航法メッセージ44と、擬似距離履歴データ48と、ドップラシフト周波数履歴データ50と、除外衛星リスト60と、位置座標62とを記憶する。
【0041】
測位プログラム40は、CPU24が読み出して実行することにより、ベースバンド処理部30、乖離量算出部32、判定基準値選択部34、衛星選択部36、測位演算部38としての機能を実現させるためのプログラムである。尚、ベースバンド処理部30をハードウェア回路として実現する構成の場合には、測位プログラム40を、乖離量算出部32、判定基準値選択部34、衛星選択部36、測位演算部38としての機能を実現させるためのプログラムとしたり、専用回路として実現することができる。
【0042】
判定基準値設定データ42は、乖離量Qeを判定する判定基準値を定義する。例えば、
図4に示すように、区域421別に、衛星方位条件423と判定基準値425とを対応付けて格納する。区域421は、例えば、ある駅(α駅)からの距離や位置座標の範囲を定義する。衛星方位条件423は、車両の進行方向を基準とする方位範囲(例えば、−30°〜+30°)として定義してもよいし、東西南北を基準として定義してもよい。
【0043】
航法メッセージ44は、受信したGPS衛星信号をデコードすることで得られるデータであり、各GPS衛星の衛星軌道情報を含む。なお、測位を開始する前の当初の航法メッセージ44、或いは、それに含まれる衛星軌道情報のみを、通信I/F28を介して外部から取得することとしてもよい。
【0044】
擬似距離履歴データ48は、GPS衛星別の擬似距離Lの履歴を格納する。例えば
図5に示すように、衛星ID481と、エポックID483に対応付けられた擬似距離値485とを格納する。エポックID483には、例えば計測時刻を利用できる。
【0045】
ドップラシフト周波数履歴データ50は、GPS衛星別のドップラシフト周波数fdの履歴を格納する。例えば
図6に示すように、衛星ID501と、エポックID503に対応づけられたドップラシフト周波数値505とを格納する。
【0046】
除外衛星リスト60は、測位に使用するのに不適と判断された衛星IDを登録する。
本実施形態では、GPS衛星別に乖離量Qeと判定基準値kとが比較され、判定基準値k以上であれば当該GPS衛星の衛星IDが登録される。判定基準値k未満であれば登録抹消される。なお、判定基準値kを超える場合に衛星IDを登録し、判定基準値k以下の場合に衛星IDの登録を抹消することとしてもよい。要は、判定基準値kが閾値となるということである。
【0047】
位置座標62は、車両(本実施形態では列車4)の位置座標である。
その他、ICメモリ26にはベースバンド処理に必要な各種情報を格納することができるものとする。
【0048】
[動作の説明]
次に、本実施形態における車両位置計測システム2の動作説明として、CPU24における測位関連の処理の流れに付いて説明する。尚、航法メッセージ44のデコード・更新についてはGPSを用いた公知の測位技術と同様に実現できるのでここでの説明は省略する。また、電源投入直後の、航法メッセージ44の再取得と、可視可能なGPS衛星6の位置の予測計算と、当該衛星からの衛星信号を探すサーチを行うが、それらも公知の測位技術と同様に実現できるので説明は省略する。
【0049】
図7は、CPU24における一回の測位を行うための処理の流れを説明するためのフローチャートであって、車両位置計測システム2が起動している間、エポックの時間差と同じ周期で繰返し実行される。
【0050】
同処理において、CPU24は先ず、GPS衛星6の捕捉処理を実行する(ステップS2)。例えば、RF受信部22から入力されたデジタルIF信号(受信信号)とレプリカコードとの相関演算を、GPS衛星別に定められたレプリカコードを変更しながら行い、相関が取れた場合に、該当するGPS衛星の信号を捕捉したと判定する。
【0051】
次に、CPU24は、捕捉した各GPS衛星6それぞれについてループAを実行する(ステップS4〜S36)。
ループAでは、先ず処理対象としているGPS衛星6の今回のエポックにおける擬似距離Lを算出し、擬似距離履歴データ48に格納する(ステップS8;
図5参照)。次いで、処理対象のGPS衛星6の今回のエポックにおけるドップラシフト周波数fdを算出し、ドップラシフト周波数履歴データ50に格納する(ステップS10;
図6参照)。
【0052】
次に、擬似距離変化量△Lを算出する(ステップS12)。
図2の数式Aを参照して述べるならば、ステップS8で新たに算出した擬似距離Lを第2のエポックにおける「擬似距離L2」とし、擬似距離履歴データ48に登録されている「時間的に最も近い過去のエポック」における擬似距離値485を第1のエポックにおける「擬似距離L1」として、擬似距離変化量△Lを算出する。
【0053】
もし、一つ前のエポックにおいて擬似距離が算出できていれば、実質的に直前のエポックにおける擬似距離に基づいて擬似距離変化量△Lが算出される。仮に、一つ前のエポックにおいて跨線橋をくぐり抜けた時など、一時的に当該GPS衛星を捕捉できていなかったとしても、更にそれより過去のエポックにおいて擬似距離を算出できていれば、擬似距離変化量△Lを算出できる。しかし、コールドスタート時や長いトンネル通過などGPS衛星6を長時間に渡って捕捉できない状況から抜けた直後などでは、「時間的に最も近い過去のエポック」に該当する擬似距離485が無いケースがある。その場合はステップS12で擬似距離変化量△Lは算出できないことになる。そこで、擬似距離変化量△Lが算出できなければ(ステップS14のNO)、当該処理対象のGPS衛星6の衛星IDを除外衛星リスト60に登録し(ステップS16)、ループAを終了する(ステップS36)。
【0054】
もし、ステップS12で擬似距離変化量△Lを算出できたならば(ステップS14のYES)、CPU24は次に相対移動量△Dを算出する(ステップS20)。
図2の数式Bを参照して述べるならば、ステップS10で新たに算出したドップラシフト周波数fdを第2のエポックにおける「ドップラシフト周波数fd2」とし、ドップラシフト周波数履歴データ50に登録されている「時間的に最も近い過去のエポック」におけるドップラシフト周波数値505を第1のエポックにおける「ドップラシフト周波数fd1」として、エポック時間差△tを今エポックと時間的に最も近い過去のエポックとの時間差として、相対移動距離△Dを算出する。
【0055】
先ほどの擬似距離変化量△Lの算出と同様の理由で相対移動距離△Dが算出できなければ(ステップS22のNO)、CPU24は当該処理対象のGPS衛星6の衛星IDを除外衛星リスト60に登録し(ステップS16)、ループAを終了する(ステップS36)。
【0056】
もし、相対移動距離△Dが算出できたならば(ステップS22のYES)、CPU24は、次に処理対象のGPS衛星6についての乖離量Qeを算出する(ステップS24;
図2の数式C参照)。
【0057】
次いで、判定基準値設定データ42を参照して、最後に算出した位置座標62から該当する区域421を割り出すとともに、航法メッセージ44に含まれる衛星軌道情報に基づいて処理対象のGPS衛星6の方位に該当する衛星方位条件423を選択する。そして、選択した判定基準値425を、今回の判定に使用する判定基準値kとする(ステップS26;
図4参照)。
そして、この判定基準値kと乖離量Qeとを比較し、乖離量Qeが判定基準値k以上であれば(ステップS28のYES)、CPU24は当該処理対象のGPS衛星6の衛星IDを除外衛星リスト60に登録し(ステップS16)、ループAを終了する(ステップS36)。もし、乖離量Qeが判定基準値k未満であれば(ステップS28のNO)、CPU24は当該処理対象のGPS衛星6の衛星IDを除外衛星リスト60から登録抹消し(ステップS30)、ループAを終了する(ステップS36)。
【0058】
ステップS2にて捕捉された全てのGPS衛星6についてループAを実行したならば、CPU24は、捕捉されたGPS衛星6のうち除外衛星リスト60に登録されている衛星を除外した中から、所定数の測位に使用する衛星を選択する(ステップS40)。もし、ここで測位に必要な所定数の衛星を選択できなければ(ステップS44のNO)、測位演算は行わずにステップS2に戻る。もし、所定数の衛星を選択できれば(ステップS44のYES)、それら選択した衛星を使用して測位演算を実行して今回のエポックにおける位置座標を算出して、ICメモリ26に位置座標62に記憶する(ステップS46)。
【0059】
以上、本実施形態によれば、原理的にマルチパスの影響を受け易い擬似距離変化量と、マルチパスの影響を受けにくいドップラシフト周波数に基づく相対移動量との乖離量から、マルチパスの影響を受けているかどうかを検定することが可能となる。
【0060】
また、本実施形態では、擬似距離とドップラシフト周波数の履歴データを保持するので、擬似距離変化量△Lを、最新のエポックにおける擬似距離と、当該エポックと最も時間的に近い過去のエポックにおける擬似距離から算出することができる。また、当該過去のエポックにおけるドップラシフト周波数を取得して相対移動量△Dを算出できる。
よって、常時は時間的に連続するエポック間での擬似距離及びドップラシフト周波数に基づいて精度良くマルチパスの影響を検定できる。仮に跨線橋をくぐり抜けた時など、一時的にGPS衛星からの電波が正しく受信できなかったエポックが単数回又は複数回連続して有ったとしても、それらよりも過去のエポックに遡って擬似距離やドップラシフト周波数を参照し、当該過去のエポックまでの時間差△tに基づいて相対移動距離△Dを算出できるので、マルチパスの影響の検定を継続的に実現することができる。
【0061】
〔変形例〕
以上、本発明を適用した実施形態について説明したが、本発明の形態はこれに限定されるものではなく、適宜構成要素の追加・省略・変更を施すことができる。
【0062】
[その1]
例えば、上記実施形態では、乖離量Qeと判定基準値kとを比較することで、測位演算に使用しない衛星をふるい落としているが、判定基準値kの設定を省略することもできる。例えば、乖離量算出部32が、ICメモリ26にGPS衛星別に算出した乖離量Qeを記憶する構成とし、記憶された乖離量Qeの小さいほうから順に測位演算に使用する衛星を選択する構成も可能である。
【0063】
具体的には、乖離量算算出部32は、
図8に示すように、衛星別の乖離量履歴データ64をICメモリ26に記憶する。乖離量履歴データ64は、衛星ID641別に、エポックID643と、当該エポックにおいて算出された乖離量値645とを対応付けて格納する。
【0064】
そして、
図9に示すように、ステップS16、ステップS26〜S30に代えて、(1)ステップS24で算出した乖離量QeをループAでの処理対象GPS衛星に対応する乖離量履歴データ64に記憶するステップS32と、(2)ステップS14で否定判定の場合、及びステップS22で否定判定の場合に、ループAでの処理対象GPS衛星に対応する乖離量履歴データ64に所定値(例えばNULL)を格納するステップS34と、を実行する。
【0065】
次いで、ループAの処理の後、最新(今回)のエポックにおける乖離量Qeが、小さい方から順に所定数(4個以上であり、例えば5個でもよいし、4個でもよい。)のGPS衛星を選択する(ステップS42)。そして、選択したGPS衛星の衛星信号を用いて位置座標を算出する(ステップS46)。
この場合、乖離量Qeは、GPS衛星を選択するか否かの指標値となる。
【0066】
[その2]
また、上述した実施形態では、衛星測位システムとしてGPSを例に挙げて説明したが、GPS以外の衛星測位システムに本発明を適用することも可能である。
また、車両を列車としたが、自動車に適用することも可能である。