(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
軌道回路等の地上設備を必要としない、或いは、最低限に抑える車両位置の計測は、例えば閑散線区などにおいて要望が高い。軌道回路に代わってGPSによる測位情報を利用する場合には、計測誤差をいかに小さくするかが重要とされる。GPSの計測誤差の一つとして「マルチパス(多重反射)」が知られる。マルチパスは、地表面や樹木、建物などから反射された信号がGPS衛星からの直線経路外から届き、直線経路で到達した信号に干渉することで生じる誤差である。なお、GPS衛星以外の衛星測位システムを利用する場合にもマルチパスの問題がある。
【0005】
本発明がなされた目的は、衛星測位システムを利用して車両位置を計測する場合に、マルチパスの影響を低減させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するための第1の発明は、鉄道車両の屋根部に所定の位置関係で設置された複数のアンテナ(例えば、
図1の第1GPSアンテナ101、第2GPSアンテナ102)によって受信された衛星信号を利用して前記鉄道車両の位置を計測する車両位置計測方法であって、
各候補衛星について、前記複数のアンテナそれぞれが同一計測タイミングで受信した当該候補衛星の衛星信号に基づいて擬似距離(例えば、
図1の第1擬似距離L1、第2擬似距離L2)を算出する擬似距離算出ステップ(例えば、
図3のステップS6)と、
前記擬似距離算出ステップで算出された擬似距離の距離差(例えば、
図1の擬似距離差△L)と、前記位置関係とを用いて、当該候補衛星を測位に使用するか否かの指標値を算出する指標値算出ステップ(例えば、
図3のステップS10)と、
前記指標値に基づいて、前記候補衛星のうち、測位に使用する衛星を選択する衛星選択ステップ(例えば、
図3のステップS12〜S16、ステップS42)と、
前記衛星選択ステップで選択された衛星の衛星信号に基づいて測位する測位ステップと(例えば、
図3のステップS50)、を含む車両位置計測方法である。
【0007】
また別形態として、鉄道車両の屋根部に所定の位置関係で設置された複数のアンテナ(例えば、
図1の第1GPSアンテナ101、第2GPSアンテナ102)と、各候補衛星について、前記複数のアンテナそれぞれが同一計測タイミングで受信した当該候補衛星の衛星信号に基づいて擬似距離を算出する擬似距離算出部(例えば、
図2の第1GPS受信機103、第2GPS受信機104)と、
前記擬似距離算出部で算出された擬似距離の距離差と、前記位置関係とを用いて、当該候補衛星を測位に使用するか否かの指標値を算出する指標値算出部(例えば、
図2の演算部120、指標値算出部124)と、
前記指標値に基づいて、前記候補衛星のうち、測位に使用する衛星を選択する衛星選択部(例えば、
図2の演算部120、衛星選択部126)と、
前記衛星選択部で選択された衛星の衛星信号に基づいて測位する測位部(例えば、
図2の演算部120、測位部128)と、を備えた車両位置計測システムを構成できる。
【0008】
第1の発明等によれば、複数のアンテナで同時に受信した衛星信号別に擬似距離を算出し、擬似距離の距離差と当該複数のアンテナの設置位置関係とに基づいて指標値を算出することができる。
もし、ある衛星からの衛星信号が、マルチパスの影響を受けていないならば、複数のアンテナそれぞれについて算出した擬似距離の距離差は、アンテナの設置位置関係に基づいて幾何的に求められる値と一致する。つまり、衛星別に求めることができる指標値は、その衛星の衛星信号が受けているマルチパスの影響等の程度を示すと考えられる。
よって、指標値に基づいて測位に使用する衛星を選択することで、衛星測位システムを利用して車両位置を計測する際のマルチパスの影響を低減させることが可能になる。
【0009】
指標値の扱いに関して具体的には、第2の発明として、前記指標値算出ステップが、前記擬似距離の距離差と当該擬似距離に係るアンテナの設置間隔との差が、所定の閾値条件(例えば、
図1のアンテナ設置間隔D)を満たすか否かを示す前記指標値を算出するステップである、第1の発明の車両位置計測方法を構成することができる。
【0010】
また、第3の発明として、前記候補衛星の天空位置を算出する天空位置算出ステップ(例えば、
図6のステップS22)を更に含み、前記指標値算出ステップは、前記鉄道車両の方位と、前記天空位置と、前記位置関係とに基づいて、前記擬似距離の理想的な距離差である理想擬似距離差を算出する理想擬似距離差算出ステップ(例えば、
図6のステップS24)を含み、前記擬似距離の距離差と、当該理想擬似距離差との差に基づいて前記指標値を算出するステップ(例えば、
図6のステップS30)である、第1の発明の車両位置計測方法を構成することができる。
【0011】
また、アンテナに関しては、第4の発明として、前記複数のアンテナには3以上のアンテナ(例えば、
図7の前GPSアンテナ107f,右前GPSアンテナ107fr,…)が含まれ、前記複数のアンテナのうち、アンテナ同士の設置位置を結ぶ延長線方向と、当該候補衛星への視線方向とが最も近い一対のアンテナを選択するアンテナ選択ステップ(例えば、
図10のステップS5a〜S5b)を更に含み、前記指標値算出ステップは、前記アンテナ選択ステップで選択された一対のアンテナに係る前記擬似距離の距離差と、当該一対のアンテナの位置関係とを用いて、当該候補衛星の前記指標値を算出するステップである、第1又は第2の発明の車両位置計測方法を構成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔第1実施形態〕
本発明を適用した車両位置計測システムの実施形態について説明する。なお、本実施形態では全地球位置測位システム(GNSS:Global Navigation Satellite Systems)としてGPSを利用するものとして説明するが、他の全地球位置測位システムに適宜置き換えることができる。また、車両位置の計測タイミングを以降では「エポック」と呼ぶこととする。
【0014】
[システム構成および原理の説明]
図1は、本実施形態における車両位置計測システムの構成例、およびマルチパスの影響を低減する原理を説明するための図である。
図1(1)は、車両側面から見た図、
図1(2)は俯瞰した図に相当する。なお、車両位置計測システムへ電力を供給する回路等についての説明は省略している。
【0015】
本実施形態の車両位置計測システム100は、軌道3を走行する車両である列車4の位置を計測するシステムであって列車4に搭載され、列車4の現在位置を計測する。
車両位置計測システム100は、GPS衛星6から送信される衛星信号7を受信する第1GPSアンテナ101と、第2GPSアンテナ102とを備える。なお、
図1において、理解を容易にするために、第1GPSアンテナ101と第2GPSアンテナ102の大きさを実物より大きく図示している。これらは、例えば公知のアクティブタイプのGPSアンテナにより実現され、受信した衛星信号7(電波)を電気信号に変換して出力することができる。そして、第1GPSアンテナ101と第2GPSアンテナ102は、列車4の車体上部、例えば屋根部に、所定の位置関係で設置されている。本実施形態では、二つのアンテナは所定のアンテナ設置間隔Dだけ離され、且つ、両者を結ぶ直線が列車4の長手方向すなわち車両の前後方向と略平行となるように設置されている。また、
図1の列車4は1両編成であるが、複数車両の編成であってもよい。その場合には、第1GPSアンテナ101と第2GPSアンテナ102とは、同一の車両に設置される。アンテナの位置関係を固定とするためである。
【0016】
車両位置計測システム100は、複数のGPS衛星6それぞれの衛星信号7を、第1GPSアンテナ101と第2GPSアンテナ102で受信し捕捉・追尾することができる。そして、捕捉・追尾できた複数のGPS衛星6を候補衛星とし、候補衛星の中から測位に使用する衛星を選択し、選択した衛星の衛星信号7に基づいて列車4の位置座標を算出する。本実施形態では、衛星別にマルチパスの影響度合を判定し、マルチパスの影響が大きいと考えられる衛星を測位に使用しないようにすることができる。
【0017】
マルチパスの影響度合の判定は次のように行う。
車両位置計測システム100は、GPS衛星6から送信された衛星信号7を同エポック(同一計測タイミング)で、第1GPSアンテナ101と第2GPSアンテナ102とで受信し、各アンテナが受信したそれぞれの衛星信号7に基づいてGPS衛星6から各アンテナまでの第1擬似距離L1、第2擬似距離L2を算出する。
【0018】
ここで、GPS衛星6と、第1GPSアンテナ101と、第2GPSアンテナ102との幾何的な位置関係に着目すると、第1擬似距離L1と第2擬似距離L2との差の絶対値である擬似距離差△Lは、アンテナ設置間隔DとGPS衛星6の仰角θalに基づいて算出できる。擬似距離差△Lは、GPS衛星6が第1GPSアンテナ101と第2GPSアンテナ102を結ぶ直線方向にあり、且つ仰角θalが「0°」の時に最大値となる。この最大値は、衛星とアンテナの幾何的関係からアンテナ設置間隔Dと同じになる。
【0019】
マルチパスの影響を受けた場合の擬似距離は、影響を受けなかった場合よりも「長く」なる。そこで、本実施形態では、擬似距離差△Lとアンテナ設置間隔Dとの差をマルチパスの影響を受けている指標値(マルチパス影響指標値M)として算出し、当該指標値が所定の閾値以上の場合には測位に好ましくない程のマルチパスの影響を受けていると判定する。具体的には、マルチパス影響指標値M(擬似距離差△Lとアンテナ設置間隔Dとの差)が「0」以上の場合には、好ましくない程のマルチパスの影響を受けていると判定する。そして、当該衛星を測位に使用しないことでマルチパスの影響を低減する。
【0020】
[機能構成の説明]
図2は、本実施形態における車両位置計測システム100の機能構成例を示す機能ブロック図である。
車両位置計測システム100は、
a)第1GPSアンテナ101で受信した衛星信号に基づいて第1擬似距離L1を算出する第1GPS受信機103と、
b)第2GPSアンテナ102で受信した衛星信号に基づいて第2擬似距離L2を算出する第2GPS受信機104と、
c)測位に関する各種演算等を実行する演算部120と、
d)プログラムや各種データを記憶する記憶部150と、
e)通信I/F(Interface)180と、
f)エポック(計測タイミング、測位タイミング)を計時する受信機時計182と、
を有する。これらは、バス190によりデータ送受可能に接続されている。車両位置計測システム100は、一種のコンピュータシステムとも言える。
【0021】
第1GPS受信機103と第2GPS受信機104は、公知のGPS受信機の応用により実現できる。従って、これらのGPS受信機は、それぞれRF受信部110と、衛星捕捉追尾部112と、擬似距離算出部114と、航法メッセージ復調部116とを含む。
【0022】
RF受信部110は、第1GPSアンテナ101や第2GPSアンテナ102から入力した電気信号を中間周波数に変換し、デジタル信号に変換してデジタルIF(Intermediate Frequency)信号として出力する。RF受信部110は、例えば、各種フィルタ回路や低雑音増幅器(LNA:Low Noise Amplifier)の他、中間周波数のIF信号へ変換するダウンコンバータ、ダウンコンバートされたIF信号をデジタル信号に変換するA/D変換器、等を有する。
【0023】
衛星捕捉追尾部112は、RF受信部110から入力されるデジタルIF信号を元にして、各GPS衛星の信号の捕捉と追尾を行う。例えば、取得済の航法メッセージ154に基づいて各GPS衛星の天空位置を計算し、可視範囲内のGPS衛星のC/Aコード(レプリカコード)を生成し、デジタルIF信号との相関値がピークとなるようにC/Aコードの位相制御をする。
【0024】
擬似距離算出部114は、捕捉・追尾しているGPS衛星別の擬似距離Lを算出する。第1GPS受信機103であれば、算出した第1擬似距離L1を衛星ID(例えば、GPS衛星6の衛星番号)と対応づけて第1擬似距離リスト160へ格納する。第2GPS受信機104であれば、算出した第2擬似距離L2を衛星IDと対応づけて第2擬似距離リスト162へ格納する。第1擬似距離リスト160及び第2擬似距離リスト162は、それぞれ第1GPS受信機103及び第2GPS受信機104内のメモリに記憶させることとしてもよい。本実施形態では、第1GPS受信機103及び第2GPS受信機104からGPS衛星別に擬似距離Lが出力され、記憶部150に記憶されることとする。
【0025】
航法メッセージ復調部116は、受信した衛星信号に基づいて航法メッセージ154を復調する。尚、航法メッセージ154を別途通信回線を介してサーバから取得する構成の場合には適宜省略できる。航法メッセージ154についても同様に、それぞれ第1GPS受信機103及び第2GPS受信機104内のメモリに記憶することとしてもよい。
【0026】
演算部120は、CPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)などの各種マイクロプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などにより実現され、車両位置計測システム100の全体制御を司る。本実施形態では、指標値算出部124と、衛星選択部126と、測位部128とを有する。これらは、記憶部150に記憶されている測位プログラム152の実行またはハードウェア回路により実現される。
【0027】
指標値算出部124は、擬似距離差算出部125を有し、擬似距離差△LとGPSアンテナの設置位置関係とを用いてその衛星を測位に使用するか否かの指標値であるマルチパス影響指標値Mを算出する。
擬似距離差算出部125は、衛星別に第1擬似距離L1と第2擬似距離L2との擬似距離差△Lを算出し、衛星ID(例えば、GPS衛星6の衛星番号)と対応づけて、擬似距離差リスト164へ格納する。
そして、指標値算出部124は、本実施形態では擬似距離差△Lとアンテナ設置間隔Dとの差からマルチパス影響指標値値165を算出し、当該指標値が所定の閾値以上(本実施形態では「0」以上)である場合には当該衛星の識別情報(衛星ID、衛星番号)を除外衛星リスト156に登録し、閾値未満である場合には当該衛星の識別情報を除外衛星リスト156から登録末梢する。換言すると、指標値算出部124は、擬似距離差△Lとアンテナ設置間隔Dとを比較し、擬似距離差△Lがアンテナ設置間隔D未満であれば測位に使用する衛星とするが、アンテナ設置間隔D以上であればその衛星を除外することができる。
【0028】
衛星選択部126は、衛星別のマルチパス影響指標値Mに基づいて、測位に使用する衛星を選択する。本実施形態では、除外衛星リスト156に登録されいている衛星を除外して選択する。
【0029】
測位部128は、衛星選択部126で選択されたGPS衛星から受信した衛星信号7に基づいて測位に関する演算を実行し、列車4の位置座標を算出する。算出した位置座標は位置座標履歴166に時系列に登録される。また、測位演算は、空間座標系の3軸の座標値と受信機時計182の時刻誤差とを未知数として演算するため、受信機時計182の時刻誤差も算出する。時刻誤差演算部129は、この時刻誤差を算出する機能に相当する。算出された時刻誤差に基づいて、受信機時計182は校正される。
【0030】
記憶部150は、測位に必要な諸機能を実現するためのプログラムや各種データ等を記憶する。また、演算部120の作業領域として用いられ、演算部120が各種プログラムに従って実行した演算結果等を一時的に記憶する。また、第1GPS受信機103や第2GPS受信機104で算出されたデータを記憶することができる。こうした機能は、例えばRAMやROMなどのICメモリ、ハードディスク等の磁気ディスク、CD−ROMやDVDなどの光学ディスクなどによって実現される。
【0031】
本実施形態の記憶部150は、測位プログラム152と、航法メッセージ154と、除外衛星リスト156と、第1擬似距離リスト160と、第2擬似距離リスト162と、擬似距離差リスト164と、マルチパス影響指標値165と、位置座標履歴166とを記憶する。その他、測位に必要な各種データを適宜記憶することができる。
【0032】
測位プログラム152は、演算部120が読み出して実行することにより、指標値算出部124、衛星選択部126、測位部128として機能させるためのプログラムである。なお、これらの一部をハードウェア回路として実現する構成の場合には、当該プログラム部分は適宜省略される。
【0033】
航法メッセージ154は、受信した衛星信号7をデコードすることで得られるデータであり、各GPS衛星の衛星軌道情報を含む。なお、測位を開始する前の当初の航法メッセージ154、或いは、それに含まれる衛星軌道情報のみを、通信I/F180を介して外部から取得する構成としてもよい。
【0034】
除外衛星リスト156は、測位に使用するのに不適と判断された衛星ID(例えば、GPS衛星番号)を登録する。
【0035】
第1擬似距離リスト160は、GPS衛星別の衛星IDと対応づけて当該衛星の第1擬似距離L1を格納する。
第2擬似距離リスト162は、GPS衛星別の衛星IDと対応づけて当該衛星の第2擬似距離L2を格納する。
擬似距離差リスト164は、GPS衛星別の衛星IDと対応づけて当該衛星の擬似距離差△Lを格納する。
位置座標履歴166は、車両(本実施形態では列車4)の位置座標の履歴である。
【0036】
通信I/F180は、車両位置計測システム100外の装置とのデータ通信を実現する。いわゆるインタフェースIC、通信端子、無線装置等を適宜流用可能である。例えば、車両位置情報(本実施形態では、GPS座標値)等を、車両位置計測システム100外へ出力することができる。
【0037】
受信機時計182は、受信機内の基準時間を計時し、第1GPS受信機103と第2GPS受信機104と演算部120へ、エポック(計測タイミング)の同期信号を出力することができる。当該同期信号を受けることにより、第1GPS受信機103と第2GPS受信機104は、同エポックで第1擬似距離L1、第2擬似距離L2をそれぞれ算出することができる。
【0038】
[動作の説明]
次に、本実施形態における車両位置計測システム100の動作説明として、測位に関連する処理の流れについて説明する。尚、航法メッセージ154のデコード・更新についてはGPSを用いた公知の測位技術と同様に実現できるのでここでの説明は省略する。また、電源投入直後には、航法メッセージ154の再取得と、可視可能なGPS衛星6の天空位置の計算と、当該衛星からの衛星信号を探すサーチを行うが、それらも公知の測位技術と同様に実現できるので説明は省略する。
【0039】
図3は、本実施形態における一回の測位を行うための処理の流れを説明するためのフローチャートであって、車両位置計測システム100が起動している間、エポック毎に繰返し実行される。
【0040】
同処理において、車両位置計測システム100は先ず、GPS衛星6の捕捉追尾処理を実行する(ステップS2)。本実施形態の構成では、第1GPS受信機103及び第2GPS受信機104の衛星捕捉追尾部112が、RF受信部110で受信した信号とレプリカコードとの相関演算を、GPS衛星別に定められたレプリカコードを変更しながら行い、相関が取れた場合に該当するGPS衛星の信号を捕捉したと判定し、捕捉状態を維持する追尾を行う。
【0041】
次に、車両位置計測システム100は、捕捉・追尾されているGPS衛星それぞれについてループAを実行する(ステップS4〜S18)。
ループAでは、先ず処理対象としているGPS衛星について、受信機時計182からの同期信号に従った同一計測タイミングで、第1GPS受信機103が第1擬似距離L1を算出し、第2GPS受信機104が第2擬似距離L2を算出する(ステップS6)。
【0042】
次いで、車両位置計測システム100は、算出した第1擬似距離L1と第2擬似距離L2の擬似距離差△Lを算出し(ステップS8)、算出した擬似距離差△Lとアンテナ設置間隔Dの差を求め、これを当該GPS衛星のマルチパス影響指標値Mとする(ステップS10)。
【0043】
そして、算出したマルチパス影響指標値Mが、所定閾値以上、本実施形態では「0」以上であれば(ステップS12のYES)、ループAの処理対象としているGPS衛星を除外衛星リスト156に登録し(ステップS14)、ループAを終了する(ステップS18)。もし、マルチパス影響指標値Mが「0」未満であれば(ステップS12のNO)、当該GPS衛星を除外衛星リスト156から登録抹消して(ステップS16)、ループAを終了する(ステップS18)。
【0044】
捕捉・追尾されている全てのGPS衛星についてループAを実行したならば、車両位置計測システム100は、ステップS2で捕捉・追尾されているGPS衛星から除外衛星リスト156に登録されている衛星を除外した「候補衛星」の中から測位に使用する衛星を選択する(ステップS42)。
そして、選択された衛星を使用して測位演算を実行して今回のエポックにおける列車4の位置座標を算出して位置座標履歴166に登録する(ステップS50)。
【0045】
以上、本実施形態によれば、衛星測位システムを利用して車両位置を計測する場合に、マルチパスの影響を低減させることができる。
なお、ステップS12でマルチパス影響指数値Mと比較した閾値は「0」に限らず、「1」や「−1」等、マルチパスの影響を判別可能な他の値に適宜設定することとしてもよいのは勿論である。
【0046】
〔第2実施形態〕
次に、本発明を適用した第2実施形態について説明する。本実施形態は、基本的には第1実施形態と同様に実現されるが、マルチパス影響指標値Mの算出方法が異なる。具体的には、アンテナ設置間隔Dと、GPS衛星6の仰角θalと、列車4の進行方向を基準としたGPS衛星6への視界方向(方位角θaz)とに基づいて理想擬似距離差Lideを算出し、この理想擬似距離差Lideと擬似距離差△Lとの差を本実施形態におけるマルチパス影響指標値Mとする。なお、以降では主に第1実施形態との差異について述べることとし、第1実施形態と同様の構成要素については同じ符号を付与して詳細な説明は省略する。
【0047】
図4は、理想擬似距離差Lideとマルチパス影響指標値Mの関係について説明するための図である。
図4(1)が車両(列車4)の俯瞰図に相当し、GPS衛星6の衛星信号7と第1GPSアンテナ101、第2GPSアンテナ102の幾何的関係を示している。また、
図4(2)は、車両側面から見たGPS衛星6の仰角を説明するための図である。
【0048】
理想擬似距離差Lideは、GPS衛星6の衛星信号7に全くマルチパス等の誤差要因が含まれず理想的に受信される場合に得られる擬似距離差の理想値である。GPS衛星6の仰角θalと、列車4の進行方向(車両の正面方向)を基準としたGPS衛星6の位置する方位角θazとから幾何的に得られる。すなわち、理想擬似距離差Lideは、GPS衛星6の天空位置と、アンテナの位置関係とに基づいて算出できる。
【0049】
ここで、マルチパスの影響を受けると擬似距離差△Lは、理想擬似距離差Lideから乖離することに着目すれば、実際に算出される擬似距離差△Lと理想擬似距離差Lideの差の絶対値を、マルチパスの影響を受けている程度と見なすことができる。本実施形態ではこれを「マルチパス影響指標値M」とする。このマルチパス影響指標値Mは、捕捉・追尾されているGPS衛星毎に算出され、測位に使用する衛星を選択する順番である選択優先順(小さいほど優先順位が高い)に用いられる。
なお、方位角θazが90°に至れば、第1GPSアンテナ101及び第2GPSアンテナ102から見て当該GPS衛星は同距離に位置することになる。つまり、理想擬似距離差Lideは理論的には「0」となる。。
【0050】
図5は、本実施形態における車両位置計測システム100の機能構成例を示すブロック図である。本実施形態の演算部120では、車体正面方位算出部130と、衛星天空位置算出部131と、衛星仰角算出部132と、衛星方位角算出部134とを有する。また本実施形態の指標値算出部124は、理想擬似距離差算出部136を有する。
【0051】
これに伴い、本実施形態の記憶部150は、車体正面方位170と、仰角リスト172と、方位角リスト174と、理想擬似距離差リスト176と、マルチパス影響指標値リスト178とを記憶する。
【0052】
車体正面方位算出部130は、衛星の方位角θazの基準となる車両(列車4)の正面の方位を示す車体正面方位170を算出する。例えば、位置座標履歴166に登録されている最近の位置座標の変化から進行方位を算出しても良い。
【0053】
衛星天空位置算出部131は、航法メッセージ154と、受信機時計182の示す時刻とに基づいてGPS衛星6の天空位置を算出する。
【0054】
衛星仰角算出部132及び衛星方位角算出部134は、測位の対象となる移動体(本実施形態では列車4)から見たGPS衛星6への視線方向の仰角及び方位をそれぞれ算出する。具体的には、位置座標履歴166に登録されている最後の位置座標を基準として、衛星天空位置算出部131が算出した天空位置に向かう方向を視線方向とし、その視線方向の仰角θal及び方位角θazを衛星仰角算出部132及び衛星方位角算出部134がそれぞれ算出する。そして、衛星IDと対応づけて仰角リスト172及び方位角リスト174へ格納する。なお、方位角θazは、車体正面方位170を「0°」とする。
【0055】
理想擬似距離差算出部136は、GPS衛星別に、当該GPS衛星の仰角θalと方位角θazとに基づく理想擬似距離差Lideを算出し、衛星IDと対応づけて理想擬似距離差リスト176へ格納する。そして、本実施形態の指標値算出部124は、GPS衛星別に擬似距離差△Lと理想擬似距離差Lideとの差からマルチパス影響指標値Mを算出し、衛星IDと対応づけてマルチパス影響指標値リスト178へ格納する。更に、マルチパス影響指標値Mを所定の閾値(本実施形態では「0」)と比較し、閾値以上であればその衛星を除外衛星リスト156に登録し、閾値未満であれば除外衛星リスト156から登録抹消する。
【0056】
そして、本実施形態の衛星選択部126は、捕捉したGPS衛星6から除外衛星リスト156に登録されている衛星を除いて候補衛星を選び、マルチパス影響指標値Mが小さい候補衛星から順に測位に使用する衛星を選択する。なお、除外衛星リスト156に登録されている衛星を除かずに、マルチパス影響指標値Mが小さい候補衛星から順に、測位に使用する所定数の衛星を選択することとしてもよい。
【0057】
図6は、本実施形態における一回の測位を行うための処理の流れを説明するためのフローチャートである。車両位置計測システム100は先ず、GPS衛星6の捕捉追尾処理を実行し(ステップS2)、衛星の方位角θazの基準となる列車4の車体正面方位170を算出する(ステップS3)。そして、車両位置計測システム100は、捕捉・追尾したGPS衛星それぞれについてループBを実行する(ステップS20〜S38)。
【0058】
ループBでは、先ず処理対象としているGPS衛星について、天空位置を算出して、列車4からの仰角θalと、先に算出した車体正面方位を「0°」とした方位角θazとを算出する(ステップS22)。そして、仰角θal、方位角θaz、アンテナ設置間隔Dに基づいて理想擬似距離差Lideを算出する(ステップS24)。
【0059】
次に、受信機時計182からの測位タイミングの同期信号に従って同一エポックにおける第1擬似距離L1と第2擬似距離L2を算出し(ステップS26;第1実施形態のステップS6相当)、算出した第1擬似距離L1と第2擬似距離L2の擬似距離差△Lを算出する(ステップS28;第1実施形態のステップS8相当)。そして、処理対象としているGPS衛星のマルチパス影響指標値Mを算出する(ステップS30)。
【0060】
次いで、車両位置計測システム100は、マルチパス影響指標値Mが「0」以上である場合、すなわち擬似距離差△Lと理想擬似距離差Lideの差が閾値以上である場合には(ステップS32のYES)、処理対象としているGPS衛星の衛星IDを除外衛星リスト156に登録し(ステップS34)、ループBを終了する(ステップS38)。ここで言う「閾値」は、所定値を適宜設定するとしても良いし、理想擬似距離差Lideの所定割合(例えば、10%)のようにその都度算出するとしても良い。
一方、マルチパス影響指標値Mが閾値未満である場合には(ステップS32のNO)、処理対象としているGPS衛星の衛星IDを除外衛星リスト156から登録末梢し(ステップS36)、ループBを終了する(ステップS38)。
【0061】
ステップS2で捕捉・追尾されている全てのGPS衛星6についてループBを実行したならば、車両位置計測システム100は、捕捉・追尾されているGPS衛星6から除外衛星リスト156に登録されている衛星を除外して「候補衛星」を選択し(ステップS43)、更に選択した「候補衛星」の中から各候補衛星のマルチパス影響指標値Mの小さい順から優先的に測位に使用する衛星を選択する(ステップS45)。
そして、選択された衛星を使用して測位演算を実行して今回のエポックにおける列車4の位置座標を算出して位置座標履歴166に登録する(ステップS50)。
【0062】
尚、本実施形態において、除外衛星リスト156の生成と利用を省略した構成も可能である。その場合、ステップS32〜S36及びステップS43を省略することができる。そして、その場合のステップS45では、捕捉・追尾されている全てのGPS衛星6の中からマルチパス影響指標値Mに基づく順番で測位する衛星を選択するステップとすると良い。
【0063】
〔変形例〕
以上、本発明を適用した実施形態について説明したが、本発明の形態はこれらに限定されるものではなく、適宜構成要素の追加・省略・変更を施すことができる。
【0064】
例えば、上記実施形態ではGPSアンテナとGPS受信機を2セット設ける構成としているが、3セット以上設ける構成も可能である。例えば、
図7に示すように、列車4の屋根部に、上記実施形態の第1GPSアンテナ101、第2GPSアンテナ102に代えて、8本のGPSアンテナ(前GPSアンテナ107f,右前GPSアンテナ107fr,右GPSアンテナ107r,右後GPSアンテナ107br,後GPSアンテナ107b,左後GPSアンテナbl,左GPSアンテナ107l,左前GSPアンテナ107fl)を備える。これら8本のGPSアンテナは、直径がアンテナ設置間隔Dの円周上に等間隔で設置される。
【0065】
また当該構成の機能構成は、例えば第1実施形態をベースとすれば
図8に示すようになる。すなわち、8本のGPSアンテナ107f,107fr,…には、それぞれ第1〜第2実施形態の第1GPS受信機103や第2GPS受信機104に相当するGPS受信機が設けられている。
図8の例では、右前GPSアンテナ107frに接続される右前用GPS受信機108frのみ図示しているが、他の7本のGPSアンテナについてもそれぞれGPS受信機が用意される。当該構成におけるGPSアンテナとGPS受信機の組み合わせをGPSモジュール109と呼ぶ。つまり、当該構成では8セットのGPSモジュール109が用意される。
【0066】
そして、演算部120は、第2実施形態と同様の車体正面方位演算部130、衛星天空位置算出部131、衛星方位角算出部134を有し、更にアンテナ選択部140を有する。
【0067】
アンテナ選択部140は、8本のGPSアンテナの中から、アンテナ同士の設置位置を結ぶ延長線方向と、GPS衛星6への視線方向とが最も近い一対のアンテナを選択する。
具体的には、
図7に示すように、列車4の車両正面方向を基準として、正面方向に方位範囲θn、右斜め前方に方位範囲θne、右方向に方位範囲θe、右斜め後方に方位範囲θse、後方に方位範囲θs、左斜め後方に方位範囲θsw、左方向に方位範囲θw、左斜め前方に方位範囲θnwを予め設定しておく。そして、
図9に示すような選択設定データ179で、こらら8つの方位に、GPS衛星6への視線方向が該当した場合に選択するべきGPSアンテナの組み合わせを対応付けておく。アンテナ選択部140は、選択設定データ179を参照して、GPS衛星6への視線方向すなわち方位角θazに応じた一対のアンテナを選択する。そして、当該構成における指標値算出部124の擬似距離差算出部125は、アンテナ選択部140で選択されたGPSアンテナを、上記実施形態の第1擬似距離L1、第2擬似距離L2の算出に使用する2本のGPSアンテナと見なして、それら選択されたGPSアンテナに対応するGPSモジュール109で算出された擬似距離から擬似距離差△Lを算出する。
【0068】
記憶部150には、第2実施形態と同様に、車体正面方位170と、方位角リスト174とを記憶する。
【0069】
一回の測位に係る処理の流れとしては、第1実施形態をベースとすれば、
図10に示すようになる。すなわち、ループAの開始直後に、処理対象としているGPS衛星の視線方向すなわち方位角θazを算出するステップ(ステップS5a)と、算出した方位角θazに基づいてアンテナ対を選択するステップ(ステップS5b)とを追加する。そして、第1実施形態のステップS6に代えて、選択されたGPSアンテナの対に対応するGPSモジュール109にて算出された第1擬似距離L1及び第2擬似距離L2に基づいて擬似距離差△Lを算出する(ステップS5c)。以降、第1実施形態と同様である。
【0070】
なお、当該構成ではGPSアンテナの数は8本に限らず適宜増減できる。例えば、前GPSアンテナ107f、右GPSアンテナ107r、後GPSアンテナ107b、左GPSアンテナ107lの4本とし、適宜選択設定データ179におけるGPSアンテナの組み合わせを変更することができる。
また、GPS衛星の方位角に応じて擬似距離算出に使用するGPSアンテナを選択する構成は第2実施形態にも適用可能である。その場合は、第2実施形態のステップS22とS24の間に(
図6参照)、方位角θazに基づいてアンテナ対を選択するステップを追加する。
【0071】
また、上記実施形態では車両の例として鉄道車両を例示したが、本発明は自動車や船舶などの位置計測においても適用可能である。