特許第6018023号(P6018023)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018023
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】燃料電池スタック
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/247 20160101AFI20161020BHJP
   H01M 8/24 20160101ALI20161020BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20161020BHJP
【FI】
   H01M8/24 T
   H01M8/24 R
   !H01M8/10
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-133022(P2013-133022)
(22)【出願日】2013年6月25日
(65)【公開番号】特開2015-8086(P2015-8086A)
(43)【公開日】2015年1月15日
【審査請求日】2015年7月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】武山 誠
(72)【発明者】
【氏名】中垣 信彦
(72)【発明者】
【氏名】宮永 斎庸
【審査官】 高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/001603(WO,A1)
【文献】 特開2011−198538(JP,A)
【文献】 特開2004−164969(JP,A)
【文献】 特開2009−129580(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/247
H01M 8/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池セル積層体と、該燃料電池セル積層体の端部に配置されたエンドプレートと、を有する燃料電池スタックであって、
前記エンドプレートは金属からなり、
該エンドプレートの前記燃料電池セル積層体側の表面には、該燃料電池セル積層体に対して供給され、または該燃料電池セル積層体から排出される冷却水および反応ガスの流路が溝状に形成されていることを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項2】
前記エンドプレートは、略長方形であり、前記エンドプレートの長手方向における中央領域は、該中央領域の長手方向外側に位置する外側領域よりも金属が厚く形成されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池スタック。
【請求項3】
前記エンドプレートの前記燃料電池セル積層体側の面に形成された流路における、流体と接する面は樹脂層が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池スタック。
【請求項4】
前記流体と接する面の樹脂層はエラストマー成分を有することを特徴とする請求項3に記載の燃料電池スタック。
【請求項5】
前記エンドプレートの流体と接する面の樹脂層は強化ガラス繊維を含有しており、該強化ガラス繊維は、所定の方向に配向していることを特徴とする請求項3または4に記載の燃料電池スタック。
【請求項6】
前記強化ガラス繊維は、金属が厚い領域と薄い領域の境界をまたぐ方向に配向していることを特徴とする請求項5に記載の燃料電池スタック。
【請求項7】
前記燃料電池セル積層体のうち前記エンドプレートと接触する側には、溝状に形成された前記流路の当該溝形状に対応して互いに一部が嵌り込む溝が加工されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の燃料電池スタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池スタックに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池セル積層体(燃料電池スタック)のさらにセル積層方向外側には、該燃料電池スタックの圧縮力を保持するエンドプレートが設けられている。また、当該エンドプレートの強度を向上させるため、エンドプレートのセル積層方向外側に補強リブが形成されている場合がある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−165286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このようにエンドプレートの外側に補強リブが形成されていると、当該エンドプレートのさらに外側に配置される水素ポンプ等の補機さらには配管等の配置や接続が煩雑になる。また、配管のスペースを確保しなければならないため、燃料電池システム、特にスタックケースのW方向(車両に搭載された状態での左右方向)の寸法(以下、本明細書ではW寸ともいう)が大きくなりがちである。
【0005】
そこで、本発明は、スタックケースのW寸(車両に搭載された状態での左右方向の寸法)を十分に低減しうる構造とした燃料電池スタックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するべく本発明者は種々の検討を行った。例えば燃料電池車(FCHV;Fuel Cell Hybrid Vehicle)に搭載される車載発電システムにおいては、車両衝突時に燃料電池スタックへの入力を軽減するという観点からも燃料電池スタックのW寸を低減することが望ましい。すなわち、燃料電池システムが大型であると、車両衝突時にボデーとの干渉が強くなり燃料電池スタックが破損するおそれが生じる。具体的には、車両衝突時、ロッカー等のボデー部位が燃料電池スタックに強く干渉する結果、該燃料電池スタックがダメージを受けるおそれがある。ところが、従来の燃料電池スタックは、一般的に、W寸が(他の寸法よりも)大きくなるように設計されており、このように燃料電池スタックのW寸が大きいと、エンドプレート外側に配置される補機や配管等に関し、配置用のスペース確保が難しくなったり、エンドプレート外側で配管の曲げによる位置調整を要したりするという点でも不利である。こういった問題点に着目してさらに検討を重ねた本発明者は、かかる課題の解決に結び付く知見を得るに至った。
【0007】
本発明はかかる知見に基づくもので、燃料電池セル積層体と、該燃料電池セル積層体の端部に配置されたエンドプレートと、を有する燃料電池スタックであって、
エンドプレートは金属からなり、
該エンドプレートの燃料電池セル積層体側の表面には、該燃料電池セル積層体に対して供給され、または該燃料電池セル積層体から排出される冷却水および反応ガスの流路が溝状に形成されていることを特徴としている。
【0008】
このような構造の燃料電池スタックにおいては、溝状に形成された各流路の間における部分(エンドプレートの金属部分)が補強リブの役割を果たすことから、エンドプレートの補強リブをW方向内側へ設けたのと同様となり、当該エンドプレートのセル積層方向外側に従来のような補強リブを形成する必要がなくなる。このため、エンドプレート外側における補機、配管等の配置が簡易になり、尚かつこれら補機、配管等の接続を補強リブが妨げるようなことがなくなり、これらの接続部分の構成を簡易にすることが可能となる。
【0009】
また、このように各溝状流体流路を形成することにより、エンドプレート外側の配管を省スペース化できる。そうすると、溝状に形成された流体流路から、エンドプレートの内部を通って、エンドプレート外側の所望の位置(タンク、エアコンプレッサ、ラジエータ、燃料電池等に接続するための最適な位置等)に各流体出入口を配置することが可能となる。こうした場合、従来のようにエンドプレート外側で配管の曲げによる位置調整をすることは不要である。また、スペースが必要である配管の曲げを廃止することにより、燃料電池システム全体のW方向の寸法を低減することが可能となる。
【0010】
しかも、本発明に係る燃料電池スタックにおいては、エンドプレートの表面に流体(冷却水および反応ガス)の流路が溝状に形成されることから、当該エンドプレートの加工は比較的容易なものとなる。また、流路が溝状であるということは、強度を確保しながらも重量増を抑えやすいことからエンドプレートの軽量化を図りやすくもある。
【0011】
このような燃料電池スタックにおいて、エンドプレートの長手方向における中央領域は、該中央領域の長手方向外側に位置する外側領域よりも金属が厚く形成されていることが好ましい。こうした場合、エンドプレートの長手方向における外側領域はフラットな形状のまま、エンドプレート全体として、締結荷重に耐えるための強度をさらに向上させることができる。
【0012】
また、エンドプレートの内側の面に形成された流路における、流体と接する面は樹脂層が形成されていてもよい。こうした場合、当該流体と接する面における絶縁性能、防食性能を向上させることができる。
【0013】
このような燃料電池スタックにおいて、流体と接する面の樹脂層はエラストマー成分を有するものであってもよい。一般に、金属と樹脂との複合材料においては、金属と樹脂の熱膨張差により、特に低温時に樹脂の割れが発生するおそれがあるのに対し、本発明によれば樹脂部分の伸び率を向上させることによってこのような樹脂割れを抑えやすくすることができる。
【0014】
さらに、燃料電池スタックにおいて、エンドプレートの流体と接する面の樹脂層は強化ガラス繊維を含有しており、該強化ガラス繊維は、金属が厚い領域と薄い領域の境界をまたぐ方向に配向していることも好ましい。このような構成とした場合には、樹脂の割れをさらに抑えやすくすることができる。
【0015】
この場合の樹脂層は、当該樹脂層に含有される強化ガラス繊維が所定の方向に配向されるように配置された樹脂成型用のゲートを利用して成型されたものであることが好ましい。
【0016】
また、燃料電池セル積層体のうちエンドプレートと接触する側には、溝状に形成された流路の当該溝形状に対応して互いに一部が嵌り込む溝が加工されていることが好ましい。このような燃料電池スタックにおいては、エンドプレートの厚さをさらに低減するが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、スタックケースのW寸(車両に搭載された状態での左右方向の寸法)を十分に低減しうる構造とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態における燃料電池システムの構成例を示す図である。
図2】本発明の一実施形態における、樹脂層が一体成型されたエンドプレートの側面図である。
図3図2に示したエンドプレートをW方向外側から見た図である。
図4図3のIV−IV線におけるエンドプレートの断面図である。
図5図3のV−V線におけるエンドプレートの断面図である。
図6図3のVI−VI線におけるエンドプレートの断面図である。
図7】エンドプレートをW方向内側から見た図である。
図8図7のVIII−VIII線における断面構造を示す図である。
図9】エラストマー成分を添加した樹脂材の機械特性の一例を示すグラフである。
図10】通常のナイロン系樹脂材の機械特性の一例を比較例として示すグラフである。
図11】従来の燃料電池スタックの構造例を参考として示す図である。
図12】従来の燃料電池スタックにおけるアンカー構造の一部を参考として示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。以下では、一例として、燃料電池車に搭載されることが予定された燃料電池またはこれを含む燃料電池システムに本発明を適用した場合を例示して説明するが、適用範囲がこのような例に限られることはない。
【0020】
燃料電池システム100は、燃料ガスと酸化ガスを電気化学反応させて発電するセル(図示省略)と、該セルを積層してなるセルスタック(図示省略)と、燃料ガスおよび酸化ガスの供給流量を制御する制御手段としての制御装置700と、を備えたシステムとして構成されている。以下においては、まず燃料電池システム100の全体構成について説明し、その後、燃料電池1のスタックケース(図11において符号3で示す)のW寸(車両に搭載された状態での左右方向の寸法)を十分に低減させるための構成例を説明する(図2等参照)。
【0021】
図1に本実施形態における燃料電池システム100の概略構成を示す。図示するように、燃料電池システム100は、燃料電池1と、酸化ガスとしての空気(酸素)を燃料電池1に供給する酸化ガス給排系(以下、酸化ガス配管系ともいう)300と、燃料ガスとしての水素を燃料電池1に供給する燃料ガス給排系(以下、燃料ガス配管系ともいう)400と、燃料電池1に冷媒を供給して燃料電池1を冷却する冷媒配管系500と、システムの電力を充放電する電力系600と、システム全体を統括制御する制御装置700と、を備えている。
【0022】
燃料電池1は、例えば固体高分子電解質型で構成され、多数のセル(単セル)を積層したスタック構造となっている。各セルは、イオン交換膜からなる電解質の一方の面に空気極を有し、他方の面に燃料極を有し、さらに空気極および燃料極を両側から挟みこむように一対のセパレータ20を有している。一方のセパレータ20の燃料ガス流路に燃料ガスが供給され、他方のセパレータ20の酸化ガス流路に酸化ガスが供給され、このガス供給により燃料電池1は電力を発生する。
【0023】
酸化ガス配管系300は、燃料電池1に供給される酸化ガスが流れる供給路111と、燃料電池1から排出された酸化オフガスが流れる排出路112と、を有している。供給路111には、フィルタ113を介して酸化ガスを取り込むコンプレッサ114と、コンプレッサ114により圧送される酸化ガスを加湿する加湿器115と、が設けられている。排出路112を流れる酸化オフガスは、背圧調整弁116を通って加湿器115で水分交換に供された後、最終的に排ガスとしてシステム外の大気中に排気される。コンプレッサ114は、モータ114aの駆動により大気中の酸化ガスを取り込む。
【0024】
燃料ガス配管系400は、水素供給源121と、水素供給源121から燃料電池1に供給される水素ガスが流れる供給路122と、燃料電池1から排出された水素オフガス(燃料オフガス)を供給路122の合流点Aに戻すための循環路123と、循環路123内の水素オフガスを供給路122に圧送するポンプ124と、循環路123に分岐接続された排出路125と、を有している。
【0025】
水素供給源121は、例えば高圧タンクや水素吸蔵合金などで構成され、例えば35MPa又は70MPaの水素ガスを貯留可能に構成されている。水素供給源121の元弁126を開くと、供給路122に水素ガスが流出する。水素ガスは、調圧弁127その他の減圧弁により、最終的に例えば200kPa程度まで減圧されて、燃料電池1に供給される。
【0026】
供給路122の合流点Aの上流側には、遮断弁128、および供給路122内の水素ガスの圧力を検出する圧力センサ129が設けられている。水素ガスの循環系は、供給路122の合流点Aの下流側流路と、燃料電池1のセパレータに形成される燃料ガス流路と、循環路123とを順番に連通することで構成されている。水素ポンプ124は、モータ124aの駆動により、循環系内の水素ガスを燃料電池1に循環供給する。符号130は、燃料電池1あるいは水素ガスの温度を検出する温度センサである。
【0027】
循環路123には、水素オフガス(燃料オフガス)の圧力を検出する圧力センサ132が設けられている。また、排出路125には、遮断弁であるパージ弁133が設けられている。パージ弁133が燃料電池システム100の稼動時に適宜開弁することで、水素オフガス中の不純物が水素オフガスと共に図示省略した水素希釈器に排出される。パージ弁133の開弁により、循環路123内の水素オフガス中の不純物の濃度が下がり、循環供給される水素オフガス中の水素濃度が上がる。
【0028】
冷媒配管系500は、燃料電池1内の冷却流路に連通する冷媒循環流路141と、冷媒循環流路141に設けられた冷却ポンプ142と、燃料電池1から排出される冷媒を冷却するラジエータ143と、ラジエータ143をバイパスするバイパス流路144と、ラジエータ143及びバイパス流路144への冷却水の通流を設定する三方弁(切替え弁)145と、を有している。冷却ポンプ142は、モータ142aの駆動により、冷媒循環流路141内の冷媒を燃料電池1に循環供給する。
【0029】
電力系600は、高圧DC/DCコンバータ161、バッテリー(蓄電手段)162、トラクションインバータ163、トラクションモータ164、及び各種の補機インバータ165,166,167を備えている。高圧DC/DCコンバータ161は、直流の電圧変換器であり、バッテリー162から入力された直流電圧を調整してトラクションインバータ163側に出力する機能と、燃料電池1又はトラクションモータ164から入力された直流電圧を調整してバッテリー162に出力する機能と、を有する。高圧DC/DCコンバータ161のこれらの機能により、バッテリー162の充放電が実現される。また、高圧DC/DCコンバータ161により、燃料電池1の出力電圧が制御される。
【0030】
バッテリー162は、バッテリーセルが積層されて一定の高電圧を端子電圧とし、図示しないバッテリーコンピュータの制御によって余剰電力を充電したり補助的に電力を供給したりすることが可能になっている。トラクションインバータ163は、直流電流を三相交流に変換し、トラクションモータ164に供給する。トラクションモータ164は、例えば三相交流モータであり、燃料電池システム100が搭載される例えば車両の主動力源を構成する。
【0031】
補機インバータ165,166,167は、それぞれ、対応するモータ114a,124a,142aの駆動を制御する電動機制御装置である。補機インバータ165,166,167は、直流電流を三相交流に変換して、それぞれ、モータ114a,124a,142aに供給する。補機インバータ165,166,167は、例えばパルス幅変調方式のPWMインバータであり、制御装置700からの制御指令に従って燃料電池1又はバッテリー162から出力される直流電圧を三相交流電圧に変換して、各モータ114a,124a,142aで発生する回転トルクを制御する。
【0032】
制御装置700は、内部にCPU,ROM,RAMを備えたマイクロコンピュータとして構成される。CPUは、制御プラグラムに従って所望の演算を実行して、ポンプ124の解凍制御など、種々の処理や制御を行う。ROMは、CPUで処理する制御プログラムや制御データを記憶する。RAMは、主として制御処理のための各種作業領域として使用される。制御装置700は、ガス系統(300,400)や冷媒配管系500に用いられる各種の圧力センサや温度センサ、外気温センサなどの検出信号を入力し、各構成要素に制御信号を出力する。
【0033】
セルモニタ800は、セルにおける電圧(セル電圧)を測定して発電状況(例えば発電中におけるセル電圧の変動など)を測定するために用いられる電圧センサである(図1参照)。セルモニタ800による測定結果に基づけば、当該燃料電池1のセル電圧を監視することができる。
【0034】
続いて、燃料電池1のスタックケース3のW寸(車両に搭載された状態での左右方向の寸法)を十分に低減しうるようにするための構成例を説明する(図2等参照)。なお、以下においては、燃料電池車における車両前方方向をFR方向、左右方向をW方向という。さらに、以下においては、エンドプレート22からみてセル積層体(図11において符号21で示す)のある側をW方向内側、その反対側をW方向外側という(図2参照)。
【0035】
まず、従来の構成を挙げつつ、この構成の概略を説明する。一般に、燃料電池車の衝突時などにおいて、ロッカー等のボデー部位が燃料電池スタック2(図11参照)に当たってしまうと当該燃料電池スタック2がダメージを受けるおそれがある。このようなおそれがあることの理由としては、従来構造のスタックケースは、一般にW寸が(他の寸法よりも)大きくなるように設計されており、エンドプレート22のW方向外側に配置される補機や配管等に関し、配置用のスペース確保が難しかったり、エンドプレート22のW方向外側で配管の曲げによる位置調整を要したりしていたことが挙げられる。また、W寸が大きいことの理由としては、燃料電池セル積層体を圧縮保持するためにエンドプレート22のW方向外側に補強用のリブが設けられており、その分のスペースを要していたことが挙げられる(図11参照)。
【0036】
これに対し、本実施形態では、樹脂製のスタックマニホールド(セル積層体21に形成される、燃料ガス、酸化ガスあるいは冷却水用のマニホールド)と金属製のエンドプレート22とを一体にした上で、従来はエンドプレート22のW方向外側に設定してある当該エンドプレート22用の補強リブを、W方向内側に設定し、尚かつ、当該補強リブ(図8において符号23で示す)で流体の流路(図8等において符号25で示す)を構成するようにしている。こうした場合、スタックケース3のW寸(車両に搭載された状態での左右方向の寸法)を十分に低減することが可能となる。
【0037】
また、上述のように樹脂製のスタックマニホールド(図8において符号27で示す)と金属製のエンドプレート22とを一体成形することで、寸法精度を向上させることも可能となる。ただし、その一方で、金属(例えばアルミニウム合金)と樹脂の複合構造とすると、低温時における各材料の熱膨張差で、特に形状が屈曲した部分(図中において符号Wで示す)に大きな応力が発生して応力集中部位となり、曲がりや折れ、場合によっては割れに至るおそれが生じる。このようなおそれに対する対策としては、後述するように、後述するように、(1)樹脂にエラストマー成分を添加する、(2)屈曲部Wに平行に強化ガラス繊維が配向するように成型時のゲート24の位置を決定する、といった手段を採り得る。
【0038】
以下、この構造についてより詳細に説明する(図2等参照)。
【0039】
燃料電池システム100(または該燃料電池システム100を構成する燃料電池1)は、セル積層体21(図11参照)の端部にエンドプレート22を配置してなる燃料電池スタック2、該燃料電池スタック2を収容するスタックケース3等を有している。エンドプレート22のW方向外側(別言すれば、エンドプレート22を挟んで燃料電池スタック2の反対側またはセル積層体21の反対側)には、補機類(図示省略)が設けられている。
【0040】
エンドプレート22は、セル積層体21の端部に配置される金属製の板状部材である。このエンドプレート22のW方向内側(エンドプレート22のセル積層体21側)には、溝状の流路25が形成されている。これら溝状の流路25は、酸化ガスとしての空気(酸素)、水素ガス(燃料ガス)さらには冷却水の流路として機能する。
【0041】
また、このようなエンドプレート22のW方向内側の溝は、当該エンドプレート22の補強リブ23を構成するように形成されている。本実施形態では、これら補強リブ23が、スタックマニホールド27の流路25を形成する縦壁部26に設定されている。別言すれば、エンドプレート22の表面から流路25の間に垂直方向に延びるように形成された縦壁部26が、補強リブ23としても機能するようになっている(図8参照)。
【0042】
なお、本実施形態では、一体的とされる樹脂製のスタックマニホールド27と金属製のエンドプレート22とを、これら縦壁部26の部分において機械的に固定する。その一方で、エンドプレート22の平坦部(エンドプレート22の表面に沿った平坦な部分であり、図8において符号Fで示す)においては、スタックマニホールド27を形成する樹脂とエンドプレート22の金属とを固定することなくフリーな状態としている(図8参照)。
【0043】
このように、エンドプレート22のW方向内側に溝状の流路25を形成し、尚かつ該溝状の流路25を補強リブ23として機能させることとすれば、W方向外側に形成されていた従来の補強リブは不要となり廃することが可能となる。したがって、W方向外側の補強リブを廃することによって生じたスペースを、水素ポンプ等の補機や配管等を配置するためのスペースとして利用することができるようになる。これによれば、燃料電池スタック2のW寸を低減することが可能となる。また、このようにして燃料電池スタック2のW寸を低減できれば、燃料電池車の衝突時、車両のボデー部位が燃料電池スタック2に強く干渉するのを抑え、当該燃料電池スタック2への入力を軽減させることが可能となる。
【0044】
また、本実施形態において、エンドプレート22の内側の面に形成された流路25のうち、流体(酸化ガスとしての空気、水素ガス。および冷却水)と接する面には樹脂の層(樹脂コート層)が形成されている(図4等参照)。これにより、本実施形態のエンドプレート22は、これら流体と接する面における絶縁性能、防食性能が向上したものとなっている。
【0045】
この場合、樹脂層の材質は特に限定されるものではないが、例えばエラストマー成分を有するものは好適な一例である。その背景としては以下がある。すなわち、一般に、金属と樹脂とを複合した材料でエンドプレート22を形成した場合、金属と樹脂の熱膨張差に起因して特に低温時に樹脂の割れが発生するおそれがある。特に、本実施形態のごとく、縦壁部26で金属(例えばアルミニウム合金)と樹脂とを機械的に固定し、平坦部Fではフリーとした構成の場合、低温時、金属が収縮する以上に線膨張係数の大きい樹脂部が収縮する結果、樹脂における平坦部Fが引っ張られて応力が発生する。さらに、補強リブ23があるが故に屈曲部Wができてしまい、この部位に応力が集中しやすいが、だからといって、補強リブ23は燃料電池スタック2の圧縮力を保持するために不可欠ともいえるものであるから、屈曲部Wが生じるのを回避することは難しい。この点、例えば材質のヤング率を低下させれば低温時の各部材の熱膨張差により発生する応力を低減することが可能ではあるが、低下させすぎると、燃料電池スタック2の圧縮力を保持できなかったり、大きなクリープを発生しまったりすることがある。また、応力集中を分散低減させる手段として、樹脂部と金属部(例えばアルミニウム合金部)との間にアンカーを設けたアンカー構造とすることが挙げられるが(図12参照)、それでも不十分な場合がある。
【0046】
以上のような背景や問題点に対しては、エラストマー成分を含有した樹脂材料を用いれば樹脂部分の伸び率が向上し、このような樹脂の割れが発生するのを抑えることが可能となる。具体例を挙げると、例えばアルミニウム合金と樹脂との複合材料の場合、各材質の熱膨張係数が異なるため、特に低温時にアルミニウムが収縮する以上に樹脂が収縮するため、樹脂に引っ張り応力が発生する。この点、樹脂(例えば通常のナイロン系樹脂)にエラストマー成分を添加して靱性を向上させた樹脂材料を選択することで、屈曲部Wにおける割れ等を抑えることが可能となる(後述の実施例1参照)。
【0047】
また、樹脂層として、強化ガラス繊維を含有しているものを採用することも好適な一例である。屈曲部Wに平行に強化ガラス繊維が配向されていれば、低温時に屈曲部Wにおいて割れ等が発生するのを抑えやすくなる。すなわち、熱膨張差により発生しうる応力集中の方向と強化ガラス繊維方向を合わせるようにすれば、当該樹脂層の強度が大幅に向上する。
【0048】
また、上述のような強化ガラス繊維を含有した樹脂層の成型手段は種々あるが、強化ガラス繊維が所定の配向となるように成型時のゲート24の位置を決定することは好適な手段の一例である。例示すれば、エンドプレート22の表面における屈曲部Wに平行に強化ガラス繊維が配向するように成型時のゲート24の位置を決定することができる。あるいは、強化ガラス繊維が平坦部Fの長手方向および屈曲部Wに平行に配向するようなゲート24の位置とすることもできる。例えば図7に示すエンドプレート22においては、成型時の樹脂流れ方向が長手方向であって向かって右側(図7中の矢印を参照)である場合に、流れ方向上流側に3箇所、下流側に1箇所のゲート24を配置し、強化ガラス繊維が屈曲部Wに平行に配向されるようにしている(図7参照)。
【0049】
また、本実施形態の燃料電池1において、エンドプレート22の長手方向における中央領域(図中、符号22Aで示す)は、該中央領域22Aの長手方向外側に位置する外側領域(図中、符号22Bで示す)よりも金属の板厚が厚くなるように形成されている(図7図8参照)。一般的に、セル積層体21は数十トンもの荷重で圧縮されることを考慮すると、スタックマニホールド27とエンドプレート22を一体にした本実施形態の燃料電池1においては、特にスタックマニホールド27の中央部を補強することが望ましい。この点、上述のように中央領域22Aの金属を厚く形成すれば、エンドプレート22の全体として締結荷重に耐えるべく強度をさらに向上させることができる。また、このような構造とした場合、外側領域22Bにおいてはフラットな形状のままでも、流体流路を狭めることによって中央領域22Aの金属を厚くすることが可能である。
【0050】
なお、上述したようにエンドプレート22を構成する金属部分に厚い領域と薄い領域とが形成されている場合(図5等参照)、先に説明した強化ガラス繊維を、これら金属の厚い領域と薄い領域の境界をまたぐ方向に配向させることも好ましい。金属と樹脂の複合材料において、樹脂の割れは金属が厚くなっている領域の方向に向かって発生しやすいのに対し、強化ガラス繊維をこのように配向すれば樹脂に割れが発生するのを抑えやすくなる。
【0051】
また、上述のごとくエンドプレート22のW方向内側に溝状の流路25を形成した本実施形態の燃料電池1においては、セル積層体21のうち当該エンドプレート22と接触する側に、これら溝形状に対応した溝を加工することも好適である。この場合のセル積層体21側の溝は、エンドプレート22側の溝(または溝状の流路25)との間で互いに一部が嵌り込むようになっており、尚かつ嵌り合った状態で流路25の流域を確保するものであることが好ましい。このような構成とした場合、エンドプレート22の厚さをさらに低減しやすくなる。
【0052】
ここまで説明したごとき燃料電池スタック2の利点を従来構造と比較しつつ説明すると以下のとおりである。
【0053】
まず、上述のごとき構造の燃料電池スタック2においては、溝状に形成された各流路25の間における部分(エンドプレート22の金属部分)が補強リブ23の役割を果たすことから、いわば、補強リブ23をW方向内側へ設けたのと同様の効果が得られる構造であり、当該エンドプレート22のW方向外側に従来のような補強リブを形成する必要がない。このため、エンドプレート22の外側における補機、配管等の配置が簡易になり、尚かつこれら補機、配管等の接続を補強リブが妨げるようなことがなくなり、これらの接続部分の構成を簡易にすることが可能となる。一方、従来構造の場合には、エンドプレート外側に補強リブを設けていたことから、エンドプレート外側に配置される補機や配管等の配置用のスペース確保が難しかったり、エンドプレート外側で配管の曲げによる位置調整を要したりすることがある。
【0054】
また、本実施形態に係る燃料電池スタック2によれば、溝状の流路25を形成することにより、エンドプレート22の外側の配管の省スペース化を実現することができる。一方、従来構造であれば内部流路が樹脂のみで構成されており、強度は期待できないため補強リブとして機能させることはできなかったし、エンドプレート外側には水素、酸素、冷却水のイン・アウトのための配管を設置するため大きなスペースを要していた。
【0055】
しかも、本実施形態に係る燃料電池スタック2においては、エンドプレート22の表面に流体の流路25が溝状に形成されることから、当該エンドプレート22の加工は比較的容易である。また、流路25が溝状であるということは、強度を確保しながらも重量増を抑えやすいことからエンドプレート22の軽量化を図りやすくもある。一方、従来構造であればこのような利点を実現することが難しい。
【0056】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば本実施形態においては、冷媒が冷却水である場合について説明したが、冷却水は燃料電池1に対して給排される流体の一例にすぎず、これ他の流体であってもよいことはいうまでもない。
【実施例1】
【0057】
エラストマー成分を添加した場合の樹脂材料(エラストマー成分添加材)の機械特性を、通常ナイロン系の樹脂材料の機械特性(図10参照)と比較しつつ、応力集中部位の強度や耐性がどの程度向上するかを調べた(図9参照)。その結果、エラストマー成分を添加した樹脂材料は、成型後初期において以下のような機械特性を有することが確認できた。
・常温(23℃)時の歪み2%時の応力 160MPa〜180MPa
・常温(23℃)時の破断伸び3.2%以上
・低温(−20℃)時の歪み2%時の応力 140MPa〜160MPa
・低温(−20℃)時の破断伸び2.9%以上
【0058】
以上の結果から、エンドプレート22の樹脂部における曲がりや折れ、場合によっては割れに至るおそれに対し、上述の実施形態にて述べたごとくエラストマー成分を添加した樹脂材料を採用することが有効であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、セル積層体21と、該セル積層体21の端部に配置されたエンドプレート22とを有する燃料電池スタック2ないしは該燃料電池スタック2を含む燃料電池1に適用して好適なものである。
【符号の説明】
【0060】
1…燃料電池
2…燃料電池スタック
21…セル積層体(燃料電池セル積層体)
22…エンドプレート
22A…長手方向における中央領域
22B…中央領域の長手方向外側に位置する外側領域
24…ゲート
25…流体の流路
27…スタックマニホールド(樹脂層)
図1
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