特許第6018048号(P6018048)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018048
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】注射用イブプロフェン医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/192 20060101AFI20161020BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20161020BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20161020BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20161020BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   A61K31/192
   A61P29/00
   A61K9/08
   A61K47/18
   A61K47/02
【請求項の数】9
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2013-510623(P2013-510623)
(86)(22)【出願日】2011年5月18日
(65)【公表番号】特表2013-529205(P2013-529205A)
(43)【公表日】2013年7月18日
(86)【国際出願番号】EP2011058087
(87)【国際公開番号】WO2011144677
(87)【国際公開日】20111124
【審査請求日】2014年3月12日
(31)【優先権主張番号】PCT/ES2010/070330
(32)【優先日】2010年5月18日
(33)【優先権主張国】ES
(73)【特許権者】
【識別番号】508206069
【氏名又は名称】ゲンファルマ ラボラトリオ ソシエダド リミタダ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【弁理士】
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】イグナシオ オルツサール アンデチャカ
(72)【発明者】
【氏名】マリオ オルツサール グティーレス
【審査官】 金田 康平
(56)【参考文献】
【文献】 独国特許出願公開第19912436(DE,A1)
【文献】 Pedea : EPAR - Scientific Discussion,2005年10月21日,[Retrieved on 2015-02-24],URL,www.ema.europa.eu/docs/en_GB/document_library/EPAR_-_Scientific_Discussion/human/000549/WC500039050.pdf
【文献】 Clinical Therapeutics,2009年,Volume 31, Number 9,p.1922-1935
【文献】 注射剤−その基礎と調剤と適用,南山堂,1995年,p. 25-27,「6.注射剤の容器」の項
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00−33/44
A61K47/00−47/48
A61K 9/00− 9/72
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イブプロフェン及びトロメタモールの水溶液を含む注射用イブプロフェン医薬組成物と、ポリエチレン製の容器と組み合わせた製品であって、
該組成物のイブプロフェン濃度がmg/mLであり、トロメタモール濃度が3.8mg/mLであり、pHが7.0〜9.5であり、該組成物は該容器に含まれている、前記製品
【請求項2】
110℃〜130℃で2〜190分間のオートクレーブによって加熱滅菌し得る、請求項に記載の製品
【請求項3】
121℃で15分間のオートクレーブによって加熱滅菌し得る、請求項に記載の製品
【請求項4】
前記組成物がポリエチレン製容器中に供給されるときのpHが7.0〜9.0である、請求項1〜のいずれか1項に記載の製品
【請求項5】
前記組成物のpHが8.5である、請求項1〜のいずれか1項に記載の製品
【請求項6】
前記組成物は、300mOsm/kgの浸透圧を該組成物に付与するのに必要な量の塩をさらに含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の製品
【請求項7】
前記塩が7.7mg/mLの濃度のNaClである、請求項に記載の製品
【請求項8】
前記組成物は、痛み、炎症又は発熱の治療に使用するための組成物である、請求項1〜のいずれか1項に記載の製品
【請求項9】
前記容器は、100mL又は200mLの容器である、請求項1〜のいずれか1項に記載の製品
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−(4−イソブチルフェニル)−プロピオン酸(イブプロフェン)、トロメタモール及びNaClを含む静脈注射用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
2−(4−イソブチルフェニル)−プロピオン酸(イブプロフェン)は、鎮痛作用、解熱作用、抗炎症作用を有する薬物であり、以下の化学式で表される。
【0003】
【化1】
【0004】
イブプロフェンは、1960年代に発明されて以来、周知となった薬物であり、現在、痛み、炎症及び発熱の治療用として、様々な商品名の下、経口投与剤形で市販されている。
【0005】
イブプロフェンは、(R)又は(S)エナンチオマーの形態をとることができる。生物学的に活性であるのは(S)エナンチオマーであるが、(R)エナンチオマーはin vivoで活性型(S)に変換されるので、大部分の製剤はラセミ混合物を含有する。以下、「イブプロフェン」は、2種類のエナンチオマー(R)又は(S)のいずれか、あるいはラセミ体を意味する。
【0006】
イブプロフェンは多くの利点を有するが、その主要な欠点のうちの1つは、水に対する溶解度の低さである。イブプロフェンは、pKa=4.4の一塩基酸である。したがって、その溶解度は、pHと密接に関連しており、酸性pHにおける78μg/mLから、アルカリ性pHにおける291mg/mLまで変化し得る。その結果、イブプロフェンの投与剤形、特に注射用液体投与剤形の開発は、困難であった。
【0007】
例えば、国際公開公報WO03/039532号及びWO2005/065674号には、イブプロフェンの溶解度を向上させるアミノ酸(例えばアルギニン)を含み、7.8未満のpH値を有する、イブプロフェンの液体医薬組成物が記載されている。しかしながら、これらの製剤は、ある程度まで熱処理に供することができるものの、オートクレーブ滅菌条件(すなわち、一般的には、121℃で15分間)において、アルギニンが分解し、予測不能な不純物を生じるため、オートクレーブ処理できないという欠点がある。このことは、そのような製剤を、上記オートクレーブ処理、すなわち、注射用医薬製剤において第1選択肢として使用されるはずであり、最も有効である滅菌方法に供することができないことを意味する。
【0008】
イブプロフェンの注射用医薬組成物は、商品名「Caldolor」で既に市販されている。その組成は上記国際公開公報に記載された処方に従ったものであり、激しい痛み及び発熱を抑えるための処置に適用されている。この製剤は、注射用水溶液1mLあたり、イブプロフェン100mg(したがって、イブプロフェン濃度は100mg/mL)及びアルギニン78mgを含有し、アルギニン:イブプロフェンのモル比は0.92:1であり、ガラス製バイアル中のイブプロフェン含有量は400又は800mgであり、pHは約7.4である。しかしながら、この製剤は、直接使用するには高濃度であり、100又は200mLまで希釈することが必要である。さらに、既に言及したように、オートクレーブ処理できないため、非常に高額な滅菌製造工程が必要となる。
【0009】
また、イブプロフェンを8mg/mLの濃度で、トロメタモール(トリス−ヒドロキシメチル−アミノメタン)を6.04mg/mLの濃度で含有し、pHが7.8〜8.2の範囲に制限されている非経口用医薬製剤が、DE19912436A1及びそれに続く国際公開公報WO00/56325に記載されている。しかしながら、この文献には、言及された成分のその他の濃度値、又は言及された範囲以外のpH値を有する製剤について記載も示唆もされていない。さらに、この文献に開示された組成物におけるイブプロフェン量は比較的多いので、当該組成物のpHでのイブプロフェンの溶解が悪化する可能性があるばかりか、これらの組成物の滅菌が除菌フィルターによって実施されたという事実は、これらの組成物がオートクレーブによる滅菌に適していなかったことを示唆する。この不適合は、いずれにしても、以下に記載された比較例によって示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明によって解決すべき課題は、従来技術に開示された組成物の欠点を克服する、特に、イブプロフェンの損失及び不純物の生成を最小限に抑えてオートクレーブ処理可能であり、オートクレーブ処理後の医薬関連のその他のパラメーターを薬局方で許容された限度以内に維持可能である、イブプロフェンの注射用液剤を提供することにある。従来技術に開示されたイブプロフェン製剤は相当数存在するが、それらの製剤には、オートクレーブの間に分解して予測不能な不純物を生じ、注射用としての使用を不可能にする化合物が含まれるため、いずれの製剤もオートクレーブ処理できないという問題が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題を解決するための手段は、イブプロフェンの液体組成物が、この活性成分を2〜6mg/mL、好ましくは約4mg/mLの濃度で含むとともに、トロメタモールを1.8〜5.8mg/mLの濃度で含み、7以上、好ましくは8.0〜9.0のpHを有するとき、驚くべきことに、オートクレーブ処理による活性成分の損失を最小化することができ、不純物の増加を低下させて許容可能な限度以内に維持することができるので、注射用医薬製剤としての使用に特に好適であるという、本発明者が見出した事実に基づく。これらの製剤の上記特性、すなわち、オートクレーブ処理されたとき、活性成分の損失が最小限であり、オートクレーブ後の不純物の生成が許容可能であることは、その程度に相違はあるものの、様々な種類の容器(例えば、ポリプロピレン(PP)、PVC、ポリエチレン等のプラスチック製容器、又はガラス製容器)で示されている。
【0012】
したがって、本発明の第1の態様は、イブプロフェン及びトロメタモールの水溶液を含む注射用イブプロフェン医薬組成物であって、イブプロフェン濃度が2〜6mg/mL、好ましくは約4mg/mLであり、トロメタモール濃度が1.8〜5.8mg/mL、好ましくは約3.8mg/mLであり、pHが7.0〜9.5である前記医薬組成物に関する。これらの組成物は、痛み、炎症又は発熱の治療に有用である。
【0013】
第2の態様において、本発明は、痛み、炎症又は発熱の治療のための医薬品の製造における前記組成物の使用に関する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
したがって、本発明の液体医薬組成物は、イブプロフェンを2〜6mg/mL、好ましくは約4mg/mLの濃度で含むとともに、トロメタモールを1.8〜5.8mg/mL、好ましくは約3.8mg/mLの濃度で含み、さらに、適当な等張性を実現するために必要なNaCl(通常は約300mOsm/kgであり、必要なNaCl濃度は好ましくは約7.7mg/mLである)を含む。トロメタモールは、水性溶媒に対するイブプロフェンの溶解速度の増加を促進するとともに、溶液中でのイブプロフェンの安定性の維持を助けると考えられる。本発明の組成物において、トロメタモールは、1.5〜5.8mg/mL、好ましくは約3.8mg/mLの濃度で添加される。本発明の組成物のpHは、それらが存在する容器に依存するが、7.0〜12、好ましくは7.0〜9.5、さらに好ましくは7.5〜9.0、さらに一層好ましくは8.0〜9.0、最も好ましくは約8.5である。pHの調整は、当該調整のための当業者に公知の任意の方法によって実施することができるが、好ましくは、所望のpHに達するまでNaOH/HClを使用して実施される。
【0015】
本明細書を通じて、「オートクレーブ」は、製剤の滅菌を可能とする任意の熱的方法、特に、製剤が110〜130℃で2〜190分間、さらに好ましくは120〜125℃で15〜20分間の処理に供される方法を意味する。
【0016】
また、本明細書を通じて、注射用溶液は、先行する段落に記載されたオートクレーブ処理に供された後、そのイブプロフェン量が、溶液に添加されたイブプロフェン初期量の少なくとも95%であるとき、加熱滅菌可能、すなわち「オートクレーブ可能」であると理解される。
【実施例】
【0017】
様々な包装材料、すなわち、ポリエチレン(PE)、ガラス、ポリ塩化ビニル(PVC)及びポリプロピレン(PP)と、様々なpH値とを使用し、イブプロフェンの処方及びオートクレーブに関する様々な実験を実施した。これと関連して留意すべき点は、本明細書を通じて、本発明の組成物に関する包装材料に言及する場合、当該材料は当該組成物と直接接触すると理解されるべき点である。明らかであるように、本発明の組成物を含有する容器は、異なる材料からなる層で構成することができ、本発明の組成物と直接接触しない層は、示される組成と異なる組成を有することができる。
【0018】
使用された処方は、以下の通りである:
−イブプロフェンベース(BASF):4mg/mL
−トロメタモール(Merck):3.8mg/mL
−NaCl(Esco):7.7mg/mL
【0019】
以下の実験で使用する組成物を調製するために、最初に、賦形剤を50℃の水に添加した。次いで、攪拌しながら、イブプロフェンを添加し、約1時間攪拌してイブプロフェンを完全に溶解させた。最後に、場合に応じて1N HCl及び/又は1N NaOHを使用して、pHを所望の値に調整した。
【0020】
この基本製剤に関して、次のpH値のサンプルを調製した:6.5,7.0,7.5,7.8,8.0,8.2,8.5,9.0及び9.5。これらの調製物を、それぞれ、ガラス製容器、ポリプロピレン(PP)製袋、PVC製袋、及び低密度ポリエチレン製容器中に包装した。オートクレーブ試験では、ガラス製容器、ポリプロピレン製袋及びPVC製袋を、121℃で15分間、オートクレーブ処理した。この際、この処理に関してヨーロッパ薬局方で定められた条件を使用した。ポリエチレン製容器を、110℃で3時間、オートクレーブ処理した。並行して、上記と同様の条件で、一連の比較組成物を調製した。この際、DE19912436A1に開示された以下の処方を使用した:
−イブプロフェンベース(BASF):8mg/mL
−トロメタモール(Merck):6.05mg/mL
−NaCl(Esco):5.4mg/mL
【0021】
この場合、次のpH値:7.8,8.2及び9.0に調整し、異なる材料からなる100mL容量の容器中でのみ試験した。
得られた結果は、以下の通りである。
【0022】
(1)オートクレーブ後の試験製剤の不純物量に関する試験
不純物の測定をHPLC分析によって実施し、この際、以下のパラメータを使用した:
移動相:移動相の調製のために、3mLのアンモニアを1920mLの水に溶解し、リン酸を使用してpHを2.5に調整した後、1080mLのアセトニトリルを添加した。
流速:2.3mL/分
カラム:C18,150mm×4.6mm,5μm
検出:214nm
インジェクション量:10μL
温度=25℃
時間=40分
試験サンプル:直接インジェクション
参照サンプル:イブプロフェンの標準溶液(移動相中の濃度は0.04mg/mL(試験サンプルに対して1.0%))
適合性溶液(suitability solution):4μg/mLの不純物B及び4mg/mLのイブプロフェンを含有する。
適合性基準:イブプロフェン及び不純物Bの分離度(resolution)が2を超える。
【0023】
様々な容器中の様々な製剤に関して得られた結果を以下の表に示す。表中、不純物は、HPLC試験におけるそれぞれの保持時間(Trr)によって示されるとともに、不純物が特定されている場合には、不純物をヨーロッパ薬局方の対応する分析認証に従って定義される文字(A,J,N等)でも示される。
【0024】
pH6.5の場合
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
【0027】
【表3】
【0028】
表1〜3に示されるように、ガラス製容器及びPE製容器に包装されたサンプルでは、不純物の総量が、平均で、約0.10%(オートクレーブ処理前)から0.12%(オートクレーブ処理後)に変化する一方、PVC製容器及びPP製容器に保持されたサンプルでは、約0.10%から0.15%に変化する。なお、全ての場合における基準値(reference value)は、0.20%未満である。
【0029】
pH7.0の場合
【0030】
【表4】
【0031】
【表5】
【0032】
【表6】
【0033】
表4〜6に示されるように、表1〜3と同様、ガラス製容器及びPE製容器に包装されたサンプルでは、不純物の総量が、平均で、約0.10%(オートクレーブ処理前)から0.12%(オートクレーブ処理後)に変化する一方、PVC製容器及びPP製容器に保持されたサンプルでは、約0.10%から0.15%に変化する。なお、全ての場合における基準値は、0.20%未満である。
【0034】
pH7.5の場合
【0035】
【表7】
【0036】
【表8】
【0037】
【表9】
【0038】
表7〜9に示されるように、このpHの場合にも、ガラス製容器及びPE製容器に包装されたサンプルでは、不純物の総量が約0.10%(オートクレーブ前)から0.12%(オートクレーブ後)に変化する一方、PVC製容器及びPP製容器に保持されたサンプルでは、約0.10%から0.15%に変化する。なお、全ての場合における基準値は、0.20%未満である。
【0039】
pH8.0の場合
【0040】
【表10】
【0041】
【表11】
【0042】
【表12】
【0043】
この場合、オートクレーブ後に生じた不純物レベルの若干の増加が観察される。すなわち、ガラス製容器及びPE製容器に包装されたサンプルでは、不純物の総量が、平均で、約0.10%(オートクレーブ前)から0.11%(オートクレーブ後)に変化する一方、PVC製容器及びPP製容器に保持されたサンプルでは、平均で、約0.10%から0.12%に変化する。なお、全ての場合における基準値は、0.20%未満である。
【0044】
pH8.5の場合
【0045】
【表13】
【0046】
【表14】
【0047】
【表15】
【0048】
pH8.5の場合、pH8.0で既に観察された傾向(オートクレーブ後の不純物レベルの若干の増加)が維持されているようである。すなわち、ガラス製容器及びPE製容器に包装されたサンプルでは、不純物の総量が、平均で、約0.10%(オートクレーブ前)から0.11%(オートクレーブ後)に変化する一方、PVC製容器及びPP製容器に保持されたサンプルでは、平均で、約0.10%から0.13%に変化する。なお、全ての場合における基準値は、0.20%未満である。
【0049】
pH9.0の場合
【0050】
【表16】
【0051】
【表17】
【0052】
【表18】
【0053】
pH9.0の場合、上記傾向が依然として維持されているようである。すなわち、ガラス製容器及びPE製容器に包装されたサンプルでは、不純物の総量が、オートクレーブ後、実質的に一定に維持される一方、PVC製容器及びPP製容器に保持されたサンプルでは、平均で、約0.10%から0.12%に、若干増加する。なお、全ての場合における基準値は、0.20%未満である。
【0054】
pH9.5の場合
【0055】
【表19】
【0056】
【表20】
【0057】
【表21】
【0058】
同様に、pH9.5の場合、ガラス製容器及びPE製容器に包装されたサンプルでは、不純物量が、オートクレーブ後、実質的に不変である一方、PVC製容器及びPP製容器に包装されたサンプルでは、同プロセス後、前出のpH値の場合よりも若干増加し、平均で、0.10%から0.11%に変化する。
【0059】
したがって、オートクレーブ処理後の不純物量の増加は、pHの増加に伴って小さくなり、これは、明らかに、注射用製剤にとって大きな利点としての意義をもつと結論付けることができる。
【0060】
(2)オートクレーブ後の試験製剤のイブプロフェン量に関する試験
不純物量等のその他のパラメーターの関連性を考慮すると、注射用医薬組成物に関して、オートクレーブ後のイブプロフェン量が非常に重要なパラメーターであることは明らかである。この目的に関連して、オートクレーブ後のイブプロフェン最低限許容量は、溶液に添加されたイブプロフェン初期量の少なくとも95%であると考えられる。
【0061】
オートクレーブ後、オートクレーブによって生じた損失を評価することにより、製剤中に残存するイブプロフェンを測定した。イブプロフェンの測定は、上記と同様、HPLC分析によって実施し、この際、以下のパラメータを使用した:
【0062】
移動相:移動相の調製のために、6gのトリフルオロ酢酸を600mLの水に溶解し、希釈水酸化アンモニウムを使用してpHを3に調整した後、900mLのアセトニトリルを添加した。
流速:1mL/分
カラム:C18,150mm×4.6mm,5μm
検出:254nm
インジェクション容量:10μL
温度=25℃
時間=8分
試験サンプル:イブプロフェンの試験サンプルを、0.8〜1.0mg/mLの濃度に希釈する。
参照サンプル:イブプロフェンの標準溶液(移動相中の濃度は0.8〜1.0mg/mL)
結果を以下の表に示す。
【0063】
【表22-1】
【0064】
【表22-2】
【0065】
不純物の場合と同様に、pHの増加に伴って、活性成分(イブプロフェン)の損失の低下傾向が観察されるが、その程度は、使用される容器に応じて変化する。pH6.5の場合、イブプロフェンの損失は、全ての場合に増加する。しかしながら、pH7.0の場合、イブプロフェンの損失は、ガラス及びPEに包装されたサンプルでは無視できるほど小さい一方、PP及び特にPVCでは依然として有意に高い。pH7.5の場合、イブプロフェンの損失は、PVCでは依然として有意に高いが、8.0以上のpHでは、イブプロフェンの損失は、いずれの容器でも有意に高くはない。
【0066】
一方、前出のDE文献の教示に従って調製した組成物について、実験を実施したところ、以下の結果が得られた。
【0067】
【表23】
【0068】
表23に示されるように、前出のDE文献の教示に従って調製した組成物では、オートクレーブ前から既に、イブプロフェンの不完全な溶解が頻繁に観察され、95%という必要最低値よりも低いイブプロフェン初期量となり、90%に達するのが困難な場合さえ観察される。これらの結果は、オートクレーブ後にはさらに悪化し、この熱処理後には、いずれの場合にも95%というイブプロフェン必要最低量に達せず、多くの場合には、5%よりも大きい損失が観察された。結論として、イブプロフェン量が約8mg/mLであり、トロメタモール量が約6.05mg/mLである組成物は、オートクレーブに適しておらず、そのように調製された組成物では、オートクレーブによって、添加されたイブプロフェン初期量の最大28%が、検討されたpHに依存して損失される可能性がある。
【0069】
(3)オートクレーブ後の試験製剤のpH変化に関する試験
試験製剤を包装した後、オートクレーブすることなく又はオートクレーブした後に、そのpHを測定し、当該処理によって生じたこのパラメーターの変化を評価した。結果は以下の通りであった。
【0070】
【表24-1】
【0071】
【表24-2】
【0072】
包装後にオートクレーブ処理しない及びオートクレーブ処理した製剤を比較すると、使用した容器に依存して若干異なる効果が観察される。一般的に、pH6.5の場合、オートクレーブ後に有意なpH増加が観察され、これは、製剤の幾つかの成分の分解によるアルカリ性の派生物の生成を明確に示す。しかしながら、このpH増加は、PE中で保存されたサンプルで非常に有意であるが、PVC及びPP中で保存されたサンプルではそれほど有意ではなく、ガラス中で保存された全ての場合ではほとんど観察されない。さらに、試験製剤の初期pHの増加に伴って、オートクレーブ後のこのpH増加は漸減し、全ての場合において、使用された容器に依存して、一定のpH値でほとんど観察されなくなる。異なる容器中のサンプルが観察可能なpHの減少をほとんど示さない処方は、
−ガラスにおいて初期pHが6.5である場合、
−PPにおいて初期pHが7.0である場合、及び
−PVCにおいて初期pHが7.5である場合であり、
一方、PEの場合、pH値が約9.5である場合、pHがほぼ0.1単位程度減少するが、上記増加は、ほとんど観察可能ではないとみなすことはできない。
【0073】
(4)肉眼では見ることができない粒子(sub-visible particles)に関する試験
肉眼では見ることができない製剤中の粒子をオートクレーブ前後に測定した。この試験を、肉眼では見ることができない粒子を粒子カウンターで直接測定することにより実施した。ヨーロッパ薬局方に従った基準は次の通りである。
【0074】
100mLの場合:
≦ 6000粒子/容器 ≧ 10μm
≦ 600粒子/容器 ≧ 25μm
【0075】
200mLの場合:
≦ 25粒子/mL ≧ 10μm
≦ 3粒子/mL ≧ 25μm
【0076】
試験製剤に関して得られた結果は以下の通りであった。
【0077】
【表25-1】
【0078】
【表25-2】
【0079】
【表25-3】
【0080】
表25に示されるように、製剤がガラス製容器に包装される場合、全ての場合において、肉眼では見ることができない粒子のレベルは基準以内であり、製剤のpHの増加に伴って、粒子レベルが低下する傾向を若干示し、特に、オートクレーブ処理された製剤ではこの傾向が顕著であり、いずれの場合にも、ガラス製容器における製剤の許容可能なpH範囲は、試験された全てのpH値、すなわち6.5〜9.5を含むと結論付けられる。
【0081】
しかしながら、PP製容器、PVC製容器及びPE製容器に包装された製剤の場合、オートクレーブ処理された製剤において、高pHレベル(pH=9.5)によって、肉眼では見ることができない粒子の量の増加が生じ、特にPVC製容器ではその程度が顕著であり、PP製容器及びPE製容器ではその程度が低下する。したがって、これらの材料の場合、製剤の許容可能なpH範囲は6.5〜9.0を含むと考えられる。
【0082】
したがって、結論として、本発明の注射用イブプロフェン製剤は、一般的に、pH7.0〜9.5で使用することができ、本発明の最も好ましい実施形態では、例えば、以下の範囲であると考えられる。
−製剤がガラス製容器中にあるとき、製剤のpHは7.0〜9.5、さらに好ましくは8.0〜9.0、最も好ましくは約8.5であり、
−製剤がPE製容器中にあるとき、製剤のpHは7.0〜9.0、さらに好ましくは8.0〜9.0、最も好ましくは約8.5であり、
−製剤がPP製容器中にあるとき、製剤のpHは7.5〜9.0、さらに好ましくは8.0〜9.0、最も好ましくは約8.5であり、
−製剤がPVC製容器中にあるとき、製剤のpHは8.0〜9.0、さらに好ましくは約8.5である。
【0083】
これらの製剤は、オートクレーブ後、活性成分の濃度レベルを許容可能な値以内に維持することができ、本発明の製剤をオートクレーブに供したときのその他のパラメータの変化(例えば、不純物量の増加、pH変化、又は肉眼では見ることができない粒子の増加)も許容可能な変化である。