【実施例】
【0017】
様々な包装材料、すなわち、ポリエチレン(PE)、ガラス、ポリ塩化ビニル(PVC)及びポリプロピレン(PP)と、様々なpH値とを使用し、イブプロフェンの処方及びオートクレーブに関する様々な実験を実施した。これと関連して留意すべき点は、本明細書を通じて、本発明の組成物に関する包装材料に言及する場合、当該材料は当該組成物と直接接触すると理解されるべき点である。明らかであるように、本発明の組成物を含有する容器は、異なる材料からなる層で構成することができ、本発明の組成物と直接接触しない層は、示される組成と異なる組成を有することができる。
【0018】
使用された処方は、以下の通りである:
−イブプロフェンベース(BASF):4mg/mL
−トロメタモール(Merck):3.8mg/mL
−NaCl(Esco):7.7mg/mL
【0019】
以下の実験で使用する組成物を調製するために、最初に、賦形剤を50℃の水に添加した。次いで、攪拌しながら、イブプロフェンを添加し、約1時間攪拌してイブプロフェンを完全に溶解させた。最後に、場合に応じて1N HCl及び/又は1N NaOHを使用して、pHを所望の値に調整した。
【0020】
この基本製剤に関して、次のpH値のサンプルを調製した:6.5,7.0,7.5,7.8,8.0,8.2,8.5,9.0及び9.5。これらの調製物を、それぞれ、ガラス製容器、ポリプロピレン(PP)製袋、PVC製袋、及び低密度ポリエチレン製容器中に包装した。オートクレーブ試験では、ガラス製容器、ポリプロピレン製袋及びPVC製袋を、121℃で15分間、オートクレーブ処理した。この際、この処理に関してヨーロッパ薬局方で定められた条件を使用した。ポリエチレン製容器を、110℃で3時間、オートクレーブ処理した。並行して、上記と同様の条件で、一連の比較組成物を調製した。この際、DE19912436A1に開示された以下の処方を使用した:
−イブプロフェンベース(BASF):8mg/mL
−トロメタモール(Merck):6.05mg/mL
−NaCl(Esco):5.4mg/mL
【0021】
この場合、次のpH値:7.8,8.2及び9.0に調整し、異なる材料からなる100mL容量の容器中でのみ試験した。
得られた結果は、以下の通りである。
【0022】
(1)オートクレーブ後の試験製剤の不純物量に関する試験
不純物の測定をHPLC分析によって実施し、この際、以下のパラメータを使用した:
移動相:移動相の調製のために、3mLのアンモニアを1920mLの水に溶解し、リン酸を使用してpHを2.5に調整した後、1080mLのアセトニトリルを添加した。
流速:2.3mL/分
カラム:C18,150mm×4.6mm,5μm
検出:214nm
インジェクション量:10μL
温度=25℃
時間=40分
試験サンプル:直接インジェクション
参照サンプル:イブプロフェンの標準溶液(移動相中の濃度は0.04mg/mL(試験サンプルに対して1.0%))
適合性溶液(suitability solution):4μg/mLの不純物B及び4mg/mLのイブプロフェンを含有する。
適合性基準:イブプロフェン及び不純物Bの分離度(resolution)が2を超える。
【0023】
様々な容器中の様々な製剤に関して得られた結果を以下の表に示す。表中、不純物は、HPLC試験におけるそれぞれの保持時間(Trr)によって示されるとともに、不純物が特定されている場合には、不純物をヨーロッパ薬局方の対応する分析認証に従って定義される文字(A,J,N等)でも示される。
【0024】
pH6.5の場合
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
【0027】
【表3】
【0028】
表1〜3に示されるように、ガラス製容器及びPE製容器に包装されたサンプルでは、不純物の総量が、平均で、約0.10%(オートクレーブ処理前)から0.12%(オートクレーブ処理後)に変化する一方、PVC製容器及びPP製容器に保持されたサンプルでは、約0.10%から0.15%に変化する。なお、全ての場合における基準値(reference value)は、0.20%未満である。
【0029】
pH7.0の場合
【0030】
【表4】
【0031】
【表5】
【0032】
【表6】
【0033】
表4〜6に示されるように、表1〜3と同様、ガラス製容器及びPE製容器に包装されたサンプルでは、不純物の総量が、平均で、約0.10%(オートクレーブ処理前)から0.12%(オートクレーブ処理後)に変化する一方、PVC製容器及びPP製容器に保持されたサンプルでは、約0.10%から0.15%に変化する。なお、全ての場合における基準値は、0.20%未満である。
【0034】
pH7.5の場合
【0035】
【表7】
【0036】
【表8】
【0037】
【表9】
【0038】
表7〜9に示されるように、このpHの場合にも、ガラス製容器及びPE製容器に包装されたサンプルでは、不純物の総量が約0.10%(オートクレーブ前)から0.12%(オートクレーブ後)に変化する一方、PVC製容器及びPP製容器に保持されたサンプルでは、約0.10%から0.15%に変化する。なお、全ての場合における基準値は、0.20%未満である。
【0039】
pH8.0の場合
【0040】
【表10】
【0041】
【表11】
【0042】
【表12】
【0043】
この場合、オートクレーブ後に生じた不純物レベルの若干の増加が観察される。すなわち、ガラス製容器及びPE製容器に包装されたサンプルでは、不純物の総量が、平均で、約0.10%(オートクレーブ前)から0.11%(オートクレーブ後)に変化する一方、PVC製容器及びPP製容器に保持されたサンプルでは、平均で、約0.10%から0.12%に変化する。なお、全ての場合における基準値は、0.20%未満である。
【0044】
pH8.5の場合
【0045】
【表13】
【0046】
【表14】
【0047】
【表15】
【0048】
pH8.5の場合、pH8.0で既に観察された傾向(オートクレーブ後の不純物レベルの若干の増加)が維持されているようである。すなわち、ガラス製容器及びPE製容器に包装されたサンプルでは、不純物の総量が、平均で、約0.10%(オートクレーブ前)から0.11%(オートクレーブ後)に変化する一方、PVC製容器及びPP製容器に保持されたサンプルでは、平均で、約0.10%から0.13%に変化する。なお、全ての場合における基準値は、0.20%未満である。
【0049】
pH9.0の場合
【0050】
【表16】
【0051】
【表17】
【0052】
【表18】
【0053】
pH9.0の場合、上記傾向が依然として維持されているようである。すなわち、ガラス製容器及びPE製容器に包装されたサンプルでは、不純物の総量が、オートクレーブ後、実質的に一定に維持される一方、PVC製容器及びPP製容器に保持されたサンプルでは、平均で、約0.10%から0.12%に、若干増加する。なお、全ての場合における基準値は、0.20%未満である。
【0054】
pH9.5の場合
【0055】
【表19】
【0056】
【表20】
【0057】
【表21】
【0058】
同様に、pH9.5の場合、ガラス製容器及びPE製容器に包装されたサンプルでは、不純物量が、オートクレーブ後、実質的に不変である一方、PVC製容器及びPP製容器に包装されたサンプルでは、同プロセス後、前出のpH値の場合よりも若干増加し、平均で、0.10%から0.11%に変化する。
【0059】
したがって、オートクレーブ処理後の不純物量の増加は、pHの増加に伴って小さくなり、これは、明らかに、注射用製剤にとって大きな利点としての意義をもつと結論付けることができる。
【0060】
(2)オートクレーブ後の試験製剤のイブプロフェン量に関する試験
不純物量等のその他のパラメーターの関連性を考慮すると、注射用医薬組成物に関して、オートクレーブ後のイブプロフェン量が非常に重要なパラメーターであることは明らかである。この目的に関連して、オートクレーブ後のイブプロフェン最低限許容量は、溶液に添加されたイブプロフェン初期量の少なくとも95%であると考えられる。
【0061】
オートクレーブ後、オートクレーブによって生じた損失を評価することにより、製剤中に残存するイブプロフェンを測定した。イブプロフェンの測定は、上記と同様、HPLC分析によって実施し、この際、以下のパラメータを使用した:
【0062】
移動相:移動相の調製のために、6gのトリフルオロ酢酸を600mLの水に溶解し、希釈水酸化アンモニウムを使用してpHを3に調整した後、900mLのアセトニトリルを添加した。
流速:1mL/分
カラム:C18,150mm×4.6mm,5μm
検出:254nm
インジェクション容量:10μL
温度=25℃
時間=8分
試験サンプル:イブプロフェンの試験サンプルを、0.8〜1.0mg/mLの濃度に希釈する。
参照サンプル:イブプロフェンの標準溶液(移動相中の濃度は0.8〜1.0mg/mL)
結果を以下の表に示す。
【0063】
【表22-1】
【0064】
【表22-2】
【0065】
不純物の場合と同様に、pHの増加に伴って、活性成分(イブプロフェン)の損失の低下傾向が観察されるが、その程度は、使用される容器に応じて変化する。pH6.5の場合、イブプロフェンの損失は、全ての場合に増加する。しかしながら、pH7.0の場合、イブプロフェンの損失は、ガラス及びPEに包装されたサンプルでは無視できるほど小さい一方、PP及び特にPVCでは依然として有意に高い。pH7.5の場合、イブプロフェンの損失は、PVCでは依然として有意に高いが、8.0以上のpHでは、イブプロフェンの損失は、いずれの容器でも有意に高くはない。
【0066】
一方、前出のDE文献の教示に従って調製した組成物について、実験を実施したところ、以下の結果が得られた。
【0067】
【表23】
【0068】
表23に示されるように、前出のDE文献の教示に従って調製した組成物では、オートクレーブ前から既に、イブプロフェンの不完全な溶解が頻繁に観察され、95%という必要最低値よりも低いイブプロフェン初期量となり、90%に達するのが困難な場合さえ観察される。これらの結果は、オートクレーブ後にはさらに悪化し、この熱処理後には、いずれの場合にも95%というイブプロフェン必要最低量に達せず、多くの場合には、5%よりも大きい損失が観察された。結論として、イブプロフェン量が約8mg/mLであり、トロメタモール量が約6.05mg/mLである組成物は、オートクレーブに適しておらず、そのように調製された組成物では、オートクレーブによって、添加されたイブプロフェン初期量の最大28%が、検討されたpHに依存して損失される可能性がある。
【0069】
(3)オートクレーブ後の試験製剤のpH変化に関する試験
試験製剤を包装した後、オートクレーブすることなく又はオートクレーブした後に、そのpHを測定し、当該処理によって生じたこのパラメーターの変化を評価した。結果は以下の通りであった。
【0070】
【表24-1】
【0071】
【表24-2】
【0072】
包装後にオートクレーブ処理しない及びオートクレーブ処理した製剤を比較すると、使用した容器に依存して若干異なる効果が観察される。一般的に、pH6.5の場合、オートクレーブ後に有意なpH増加が観察され、これは、製剤の幾つかの成分の分解によるアルカリ性の派生物の生成を明確に示す。しかしながら、このpH増加は、PE中で保存されたサンプルで非常に有意であるが、PVC及びPP中で保存されたサンプルではそれほど有意ではなく、ガラス中で保存された全ての場合ではほとんど観察されない。さらに、試験製剤の初期pHの増加に伴って、オートクレーブ後のこのpH増加は漸減し、全ての場合において、使用された容器に依存して、一定のpH値でほとんど観察されなくなる。異なる容器中のサンプルが観察可能なpHの減少をほとんど示さない処方は、
−ガラスにおいて初期pHが6.5である場合、
−PPにおいて初期pHが7.0である場合、及び
−PVCにおいて初期pHが7.5である場合であり、
一方、PEの場合、pH値が約9.5である場合、pHがほぼ0.1単位程度減少するが、上記増加は、ほとんど観察可能ではないとみなすことはできない。
【0073】
(4)肉眼では見ることができない粒子(sub-visible particles)に関する試験
肉眼では見ることができない製剤中の粒子をオートクレーブ前後に測定した。この試験を、肉眼では見ることができない粒子を粒子カウンターで直接測定することにより実施した。ヨーロッパ薬局方に従った基準は次の通りである。
【0074】
100mLの場合:
≦ 6000粒子/容器 ≧ 10μm
≦ 600粒子/容器 ≧ 25μm
【0075】
200mLの場合:
≦ 25粒子/mL ≧ 10μm
≦ 3粒子/mL ≧ 25μm
【0076】
試験製剤に関して得られた結果は以下の通りであった。
【0077】
【表25-1】
【0078】
【表25-2】
【0079】
【表25-3】
【0080】
表25に示されるように、製剤がガラス製容器に包装される場合、全ての場合において、肉眼では見ることができない粒子のレベルは基準以内であり、製剤のpHの増加に伴って、粒子レベルが低下する傾向を若干示し、特に、オートクレーブ処理された製剤ではこの傾向が顕著であり、いずれの場合にも、ガラス製容器における製剤の許容可能なpH範囲は、試験された全てのpH値、すなわち6.5〜9.5を含むと結論付けられる。
【0081】
しかしながら、PP製容器、PVC製容器及びPE製容器に包装された製剤の場合、オートクレーブ処理された製剤において、高pHレベル(pH=9.5)によって、肉眼では見ることができない粒子の量の増加が生じ、特にPVC製容器ではその程度が顕著であり、PP製容器及びPE製容器ではその程度が低下する。したがって、これらの材料の場合、製剤の許容可能なpH範囲は6.5〜9.0を含むと考えられる。
【0082】
したがって、結論として、本発明の注射用イブプロフェン製剤は、一般的に、pH7.0〜9.5で使用することができ、本発明の最も好ましい実施形態では、例えば、以下の範囲であると考えられる。
−製剤がガラス製容器中にあるとき、製剤のpHは7.0〜9.5、さらに好ましくは8.0〜9.0、最も好ましくは約8.5であり、
−製剤がPE製容器中にあるとき、製剤のpHは7.0〜9.0、さらに好ましくは8.0〜9.0、最も好ましくは約8.5であり、
−製剤がPP製容器中にあるとき、製剤のpHは7.5〜9.0、さらに好ましくは8.0〜9.0、最も好ましくは約8.5であり、
−製剤がPVC製容器中にあるとき、製剤のpHは8.0〜9.0、さらに好ましくは約8.5である。
【0083】
これらの製剤は、オートクレーブ後、活性成分の濃度レベルを許容可能な値以内に維持することができ、本発明の製剤をオートクレーブに供したときのその他のパラメータの変化(例えば、不純物量の増加、pH変化、又は肉眼では見ることができない粒子の増加)も許容可能な変化である。