特許第6018068号(P6018068)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6018068細胞の増殖抑制方法、NEK10バリアント遺伝子に対するRNA干渉作用を有する核酸分子、及び抗癌剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018068
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】細胞の増殖抑制方法、NEK10バリアント遺伝子に対するRNA干渉作用を有する核酸分子、及び抗癌剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20161020BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20161020BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20161020BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20161020BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   C12N15/00 A
   C12N15/00 GZNA
   A61K31/713
   A61K48/00
   A61P35/00
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-533600(P2013-533600)
(86)(22)【出願日】2012年8月29日
(86)【国際出願番号】JP2012071868
(87)【国際公開番号】WO2013038907
(87)【国際公開日】20130321
【審査請求日】2015年2月3日
(31)【優先権主張番号】特願2011-200756(P2011-200756)
(32)【優先日】2011年9月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 学道
【審査官】 白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/094734(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/117038(WO,A1)
【文献】 特開2007−282628(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/061704(WO,A1)
【文献】 特開2004−203745(JP,A)
【文献】 MOLECULAR AND CELLULAR BIOLOGY,2011年 1月,vol.31 no.1,pp.30-42
【文献】 Database GenBank,2006年 9月14日,アクセッション番号AK098832,[検索日2012.09.21],URL,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/AK098832
【文献】 Pharmacology & Therapeutics,2006年,vol.111,pp.974-984
【文献】 GENE,2004年,vol.328,pp.135-142
【文献】 THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,2003年,vol.278 no.37,pp.34897-34909
【文献】 The EMBO Journal,1998年,vol.17 no.2,pp.470-481
【文献】 Cancer Res,2005年,vol.65 no.17,pp.7591-7595
【文献】 Cancer Res,2010年,vol.70 no.23,pp.9742-9754
【文献】 NATURE GENETICS,2009年,vol.41 no.5,pp.585-590
【文献】 Breast Cancer RESEARCH,2010年,vol.12 R10,pp.1-12
【文献】 Cancer Genetics and Cytogenetics,2010年,vol.199,pp.69-72
【文献】 Journal of Reproduction and Development,2011年 3月,vol.57 no.1,pp.107-112
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)配列番号2で表される塩基配列からなるセンスRNA、及び配列番号3で表される塩基配列からなるアンチセンスRNAの組み合わせからなるsiRNA、
(b)配列番号4で表される塩基配列からなるセンスRNA、及び配列番号5で表される塩基配列からなるアンチセンスRNAの組み合わせからなるsiRNA、
である、核酸分子。
【請求項2】
請求項に記載の核酸分子を含み、当該核酸分子を発現させ得る、発現ベクター。
【請求項3】
請求項に記載の核酸分子、及び請求項に記載の発現ベクターからなる群より選択される1種以上を含む、配列番号1で表されるNEK10バリアント遺伝子発現抑制用組成物。
【請求項4】
請求項に記載の核酸分子、及び請求項に記載の発現ベクターからなる群より選択される1種以上を有効成分として含む、抗癌剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の増殖抑制方法、NEK10バリアント遺伝子に対するRNA干渉作用を有する核酸分子、細胞内に当該核酸分子を発現させるための発現ベクター、当該核酸分子を含む、NEK10バリアント遺伝子発現抑制用組成物、当該核酸分子を有効成分とする抗癌剤、及び抗癌剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は、近年の日本における第1位の死因であり、毎年30、0000以上が癌により亡くなっている。癌の検出及び治療は進歩しているにもかかわらず、癌の死亡率は依然として高いままである。癌の化学療法として、近年、グリベック(登録商標)やハーセプチン(登録商標)等の分子標的抗癌剤が注目を集めているが、効果を示す患者が限定されるため、新たな分子標的抗癌剤の開発が望まれている。
【0003】
1970年代初頭に、NIMA kinaseがAspergillus nidulansから、また、NIMA kinaseのホモログであるFin1が分裂酵母から発見された。NIMA kinaseはセリン/スレオニンキナーゼファミリーに属し、細胞周期のM期に重要であることが示された。すなわち、NIMA kinaseは、M期への進入、染色体の凝集、紡錘体の形成及び細胞質分裂の制御において中心的役割を有する分子であることが明らかとなった(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
ヒトのNIMA kinaseのホモログは、NIMA related kinases(NEK)でありNEK1から11まで存在し、NEKファミリーを形成する。これまでに、NEKファミリーは細胞周期及びシグナル伝達経路に重要な分子であることがわかっている。例えば、NEKファミリーのうちのNEK2、NEK6、NEK7、及びNEK9は、NIMA kinase及びFin1と同様に、M期への進入、染色体の凝集、紡錘体の形成及び細胞質分裂の制御に関与すると報告されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0005】
NEK10については、UV照射に対する応答におけるG2/M期チェックポイント制御に重要であるとの報告がある(例えば、非特許文献3参照)。また、NEK10遺伝子に存在するSNPが乳癌の罹患率に関与することが報告されている(例えば、非特許文献4及び5参照)。但し、NEK10が細胞、特に癌細胞の増殖に関与しているかについては、不明であった。また、NCBIのデータベースには、ヒトNEK10バリアントと推測される分子(アクセッション番号:AK098832.1、以下、ヒトNEK10バリアント)が登録されている。他のNEKファミリー分子と同様にキナーゼドメインを有することから、ヒトNEK10バリアントも細胞周期制御に関わっている可能性があるものの、生体内でどのような機能を持つかは不明であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献1】M.J.O’Connell et al., TRENDS in cell Biology,2003,vol.13,p.221〜228.
【非特許文献2】L.O’Regan et al., Cell Division, 2007,vol.2,p.25〜36.
【非特許文献3】L.S.Moniz et al., MOLECULAR and Cellular Biology,2011,vol.31,p.30〜42.
【非特許文献4】S.Ahmed et al.,Nature Genetics, 2009, vol.41, p.585〜590.
【非特許文献5】A.C.Antoniou et al., Cancer Research,2010,vol.70,p.9742〜9754.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、細胞の増殖抑制方法、抗癌剤として有用な核酸分子、及び新たな抗癌剤のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、ヒトNEK10バリアントと相同性を有する分子がマウスにも存在し、NEK10バリアントが種を超えて保存されていることから、NEK10バリアントは細胞増殖や細胞周期制御に重要であると考え、生体内での機能が不明であったNEK10バリアントについて鋭意研究を行った。その結果、本発明者は、細胞においてNEK10バリアントの発現が抑制されると細胞増殖抑制が起こること、及びNEK10バリアントmRNAに対してRNA干渉作用を有する核酸(NEK10 siRNA)が細胞、特に癌細胞に対する細胞増殖抑制作用を有することを見出し、本願発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、下記の構成をとる。
(1) 細胞において、NEK10バリアント遺伝子の発現を低下させる発現低下工程、又はNEK10バリアントタンパク質の活性を低下させる活性低下工程を含む、細胞の増殖抑制方法。
(2) 前記発現低下工程が、RNA干渉によりNEK10バリアント遺伝子の発現を抑制する核酸分子、前記核酸分子の前駆体、及び、前記核酸分子又は前記前駆体を発現し得る発現ベクターからなる群より選択される少なくとも1種を細胞に導入する工程である、前記(1)に記載の細胞の増殖抑制方法。
(3) 前記核酸分子が、配列番号2又は4で表される、NEK10バリアント遺伝子のmRNA中の塩基配列を標的とする、RNA干渉作用を有するsiRNAであり、
前記前駆体が、配列番号2又は4で表される、NEK10バリアント遺伝子のmRNA中の塩基配列を標的とするRNA干渉作用を有するshRNAである、前記(2)に記載の細胞の増殖抑制方法。
(4) 前記核酸分子が、
(a)配列番号2で表される塩基配列からなるセンスRNA、及び配列番号3で表される塩基配列からなるアンチセンスRNAの組み合わせからなるsiRNA、
(b)配列番号4で表される塩基配列からなるセンスRNA、及び配列番号5で表される塩基配列からなるアンチセンスRNAの組み合わせからなるsiRNA、
(c)配列番号2で表される塩基配列中の15〜24個の連続する塩基配列を含むセンスRNA、及び前記センスRNAと相補的な塩基配列を含むアンチセンスRNAの組み合わせからなり、かつNEK10バリアント遺伝子に対するRNA干渉作用を有するsiRNA、
(d)配列番号4で表される塩基配列中の15〜24個の連続する塩基配列を含むセンスRNA、及び前記センスRNAと相補的な塩基配列を含むアンチセンスRNAの組み合わせからなり、かつNEK10バリアント遺伝子に対するRNA干渉作用を有するsiRNA、
(e)配列番号2で表される塩基配列中の15個以上の連続する塩基配列において1個若しくは数個の塩基が置換、付加又は欠失している塩基配列を含むセンスRNA、及び前記センスRNAと相補的な塩基配列を含むアンチセンスRNAの組み合わせからなり、かつNEK10バリアント遺伝子に対するRNA干渉作用を有するsiRNA、
(f)配列番号4で表される塩基配列中の15個以上の連続する塩基配列において1個若しくは数個の塩基が置換、付加又は欠失している塩基配列を含むセンスRNA、及び前記センスRNAと相補的な塩基配列を含むアンチセンスRNAの組み合わせからなり、かつNEK10バリアント遺伝子に対するRNA干渉作用を有するsiRNA、並びに、
(g)前記(a)〜(f)のいずれかのsiRNAにおいて、1個若しくは数個の塩基が修飾されており、かつNEK10バリアント遺伝子に対するRNA干渉作用を有するsiRNA、
からなる群より選択される、前記(2)又は(3)に記載の細胞の増殖抑制方法。
(5) 前記前駆体が、細胞内において、
(a)配列番号2で表される塩基配列からなるセンスRNA、及び配列番号3で表される塩基配列からなるアンチセンスRNAの組み合わせからなるsiRNA、
(b)配列番号4で表される塩基配列からなるセンスRNA、及び配列番号5で表される塩基配列からなるアンチセンスRNAの組み合わせからなるsiRNA、
(c)配列番号2で表される塩基配列中の15〜24個の連続する塩基配列を含むセンスRNA、及び前記センスRNAと相補的な塩基配列を含むアンチセンスRNAの組み合わせからなり、かつNEK10バリアント遺伝子に対するRNA干渉作用を有するsiRNA、
(d)配列番号4で表される塩基配列中の15〜24個の連続する塩基配列を含むセンスRNA、及び前記センスRNAと相補的な塩基配列を含むアンチセンスRNAの組み合わせからなり、かつNEK10バリアント遺伝子に対するRNA干渉作用を有するsiRNA、
(e)配列番号2で表される塩基配列中の15個以上の連続する塩基配列において1個若しくは数個の塩基が置換、付加又は欠失している塩基配列を含むセンスRNA、及び前記センスRNAと相補的な塩基配列を含むアンチセンスRNAの組み合わせからなり、かつNEK10バリアント遺伝子に対するRNA干渉作用を有するsiRNA、
(f)配列番号4で表される塩基配列中の15個以上の連続する塩基配列において1個若しくは数個の塩基が置換、付加又は欠失している塩基配列を含むセンスRNA、及び前記センスRNAと相補的な塩基配列を含むアンチセンスRNAの組み合わせからなり、かつNEK10バリアント遺伝子に対するRNA干渉作用を有するsiRNA、又は
(g)前記(a)〜(f)のいずれかのsiRNAにおいて、1個若しくは数個の塩基が修飾されており、かつNEK10バリアント遺伝子に対するRNA干渉作用を有するsiRNA、
の何れかを産生する核酸分子である、
前記(2)〜(4)の何れか一つに記載の細胞の増殖抑制方法。
(6) 前記前駆体が、
(p)配列番号2で表される塩基配列中の15個以上の連続する塩基配列、又は当該塩基配列中の1個若しくは数個の塩基が修飾、置換、付加若しくは欠失している塩基配列と、配列番号3で表される塩基配列中の15個以上の連続する塩基配列、又は当該塩基配列中の1個若しくは数個の塩基が修飾、置換、付加若しくは欠失している塩基配列と、を含むshRNA;あるいは
(q)配列番号4で表される塩基配列中の15個以上の連続する塩基配列、又は当該塩基配列中の1個若しくは数個の塩基が修飾、置換、付加若しくは欠失している塩基配列と、配列番号5で表される塩基配列中の15個以上の連続する塩基配列、又は当該塩基配列中の1個若しくは数個の塩基が修飾、置換、付加若しくは欠失している塩基配列と、を含むshRNA;
であり、かつ
細胞内において、前記(p)のshRNA及び前記(q)のshRNAから、NEK10バリアント遺伝子に対するRNA干渉作用を有するsiRNAが産生される、前記(2)に記載の細胞の増殖抑制方法。
(7) 前記細胞が癌細胞である、前記(1)〜(6)のいずれか一つに記載の細胞の増殖抑制方法。
(8) (a)配列番号2で表される塩基配列からなるセンスRNA、及び配列番号3で表される塩基配列からなるアンチセンスRNAの組み合わせからなるsiRNA、
(b)配列番号4で表される塩基配列からなるセンスRNA、及び配列番号5で表される塩基配列からなるアンチセンスRNAの組み合わせからなるsiRNA、
(c)配列番号2で表される塩基配列中の15〜24個の連続する塩基配列を含むセンスRNA、及び前記センスRNAと相補的な塩基配列を含むアンチセンスRNAの組み合わせからなり、かつNEK10バリアント遺伝子に対するRNA干渉作用を有するsiRNA、
(d)配列番号4で表される塩基配列中の15〜24個の連続する塩基配列を含むセンスRNA、及び前記センスRNAと相補的な塩基配列を含むアンチセンスRNAの組み合わせからなり、かつNEK10バリアント遺伝子に対するRNA干渉作用を有するsiRNA、
(e)配列番号2で表される塩基配列中の15個以上の連続する塩基配列において1個若しくは数個の塩基が置換、付加又は欠失している塩基配列を含むセンスRNA、及び前記センスRNAと相補的な塩基配列を含むアンチセンスRNAの組み合わせからなり、かつNEK10バリアント遺伝子に対するRNA干渉作用を有するsiRNA、
(f)配列番号4で表される塩基配列中の15個以上の連続する塩基配列において1個若しくは数個の塩基が置換、付加又は欠失している塩基配列を含むセンスRNA、及び前記センスRNAと相補的な塩基配列を含むアンチセンスRNAの組み合わせからなり、かつNEK10バリアント遺伝子に対するRNA干渉作用を有するsiRNA、又は、
(g)前記(a)〜(f)のいずれかのsiRNAにおいて、1個若しくは数個の塩基が修飾されており、かつNEK10バリアント遺伝子に対するRNA干渉作用を有するsiRNA、
である、核酸分子。
(9) (p)配列番号2で表される塩基配列中の15個以上の連続する塩基配列、又は当該塩基配列中の1個若しくは数個の塩基が修飾、置換、付加若しくは欠失している塩基配列と、配列番号3で表される塩基配列中の15個以上の連続する塩基配列、又は当該塩基配列中の1個若しくは数個の塩基が修飾、置換、付加若しくは欠失している塩基配列と、を含むshRNA;あるいは
(q)配列番号4で表される塩基配列中の15個以上の連続する塩基配列、又は当該塩基配列中の1個若しくは数個の塩基が修飾、置換、付加若しくは欠失している塩基配列と、配列番号5で表される塩基配列中の15個以上の連続する塩基配列、又は当該塩基配列中の1個若しくは数個の塩基が修飾、置換、付加若しくは欠失している塩基配列と、を含むshRNA、
であり、細胞内において、NEK10バリアント遺伝子に対するRNA干渉作用を有するsiRNAを産生するための前駆体である、核酸分子。
(10) 前記(8)又は(9)に記載の核酸分子を含み、当該核酸分子を発現させ得る、発現ベクター。
(11) 前記(8)に記載の核酸分子、前記(9)に記載の核酸分子、及び前記(10)に記載の発現ベクターからなる群より選択される1種以上を含む、NEK10バリアント遺伝子発現抑制用組成物。
(12) 前記(8)に記載の核酸分子、前記(9)に記載の核酸分子、及び前記(10)に記載の発現ベクターからなる群より選択される1種以上を有効成分として含む、抗癌剤。
(13) NEK10バリアント遺伝子の発現に対する抑制効果又はNEK10バリアントタンパク質の活性に対する抑制効果を指標とする、抗癌剤のスクリーニング方法。
(14) NEK10バリアント遺伝子の発現抑制効果、又はNEK10バリアントタンパク質の活性に対する抑制効果についての候補物質の存在下及び非存在下で、NEK10バリアント発現細胞をそれぞれ培養する工程;及び
当該細胞内のNEK10バリアントmRNA発現量、又はNEK10バリアントタンパク質の活性量を測定し、当該候補物質存在下及び非存在下での発現量又は活性量を比較する工程;
を含む、前記(13)に記載の抗癌剤のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の細胞の増殖抑制方法により、NEK10バリアント活性の低下という新規な経路に作用することによって、細胞の増殖を抑制することができる。また、本発明の核酸分子は、NEK10バリアントmRNAに対してRNA干渉作用を有する物質であり、本発明の細胞の増殖抑制方法に好適に用いられる。すなわち、本発明の細胞の増殖抑制方法及び核酸分子は、癌の治療において極めて有用であり、従来の増殖抑制方法によっては効果が得られなかった癌患者に対しても抗腫瘍効果を示すことが期待できる。
また、本発明の抗癌剤のスクリーニング方法により、新たな抗癌剤の候補化合物を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1において、コントロール siRNA処理時のNEK10バリアントmRNA発現を100とした場合の、各siRNA処理群の相対的なNEK10バリアントmRNA発現量を示した図である。
図2】実施例1において、コントロール siRNA処理時の細胞増殖を100とした場合の、各siRNA処理群の細胞増殖率を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<細胞の増殖抑制方法>
本発明の細胞の増殖抑制方法は、細胞において、NEK10バリアント遺伝子の発現を低下させる発現低下工程、及び/又はNEK10バリアントタンパク質(NEK10バリアント遺伝子がコードするタンパク質)の活性を低下させる活性低下工程を含むことを特徴とする。細胞内におけるNEK10バリアントタンパク質の機能を抑制することにより、細胞の細胞増殖を抑制することができる。これは、NEK10バリアントタンパク質が、細胞における細胞増殖に関与しているために生じる現象と考えられる。NEK10バリアント遺伝子の発現又はNEK10バリアントタンパク質の活性を低下させる方法は、特に限定されるものではなく、細胞内における特定の遺伝子の発現又はタンパク質の活性を低下させる際に用いられる公知の手法のいずれを用いてもよい。
【0013】
NEK10バリアントタンパク質の活性を低下させる方法としては、例えば、NEK10バリアントタンパク質に対する抗体等の、NEK10バリアントタンパク質に結合する物質を細胞内に導入し、当該物質を細胞内のNEK10バリアントタンパク質と結合させることによってNEK10バリアントタンパク質が他の生体分子と相互作用することを抑制する方法が挙げられる。NEK10バリアントタンパク質に結合する物質を細胞内へ導入する方法は特に限定されるものではなく、当該物質をインジェクション等により直接細胞内へ導入してもよく、当該物質を細胞表面上に接触させてエンドサイトーシス等により細胞内へ取り込ませてもよい。その他、NEK10バリアントタンパク質はNEK10タンパク質と同様にキナーゼ活性を持つことが、NEK10バリアントタンパク質の構造から推測される。したがって、NEK10バリアントタンパク質の活性は、細胞内に、NEK10バリアントタンパク質のキナーゼ活性部位を欠失又は置換したドミナントネガティブ体を発現させることによって抑制することも可能である。
【0014】
一方、NEK10バリアント遺伝子の発現を低下させる方法としては、RNA干渉法によりNEK10バリアント遺伝子をノックダウンする方法を挙げることができる。具体的には、NEK10バリアント遺伝子のmRNA(NEK10バリアントmRNA)を標的とする、アンチセンス核酸、リボザイム核酸、又は二本鎖RNA(dsRNA)等のRNA干渉を誘導する核酸分子を、細胞内へ導入し、当該細胞内のNEK10バリアントmRNAを分解させる。
【0015】
一般的にRNA干渉とは、標的遺伝子のmRNA配列の一部と相同な配列からなるセンスsiRNA(small interfering RNA)及びこれと相補的な配列からなるアンチセンスsiRNAから形成されたdsRNAであるsiRNAを細胞に投与することにより、細胞内でsiRNAが、センスsiRNA及びアンチセンスsiRNAに乖離し、標的遺伝子mRNAとアンチセンスsiRNAが二本鎖を形成し、その後、この形成されたdsRNAがDicerにより分解されることにより、標的遺伝子の発現が抑制される現象を言う。RNA干渉法は、siRNAを細胞内に導入するほか、細胞内へsiRNAの前駆体となる比較的長鎖のdsRNA又はヘアピン型のshRNA(small hairpin RNA)を導入することや、siRNA又はその前駆体を発現するベクターを導入することによっても、siRNAと同様に目的遺伝子の発現を抑制することも可能である。さらに、siRNAにより、in vivoにおいて標的遺伝子の発現を抑制する方法も知られている(P.Anton et al.,Nature,2002,vol.418,p38−39;L.David et al.,Nat.Genet.,2002,vol.32,p107−108)。
【0016】
[NEK10バリアント遺伝子に対するRNA干渉作用を有する核酸分子]
本発明においては、NEK10バリアント遺伝子に対するRNA干渉作用を有する核酸分子(以下、「RNAi核酸分子」ということがある)を細胞へ導入することによって、NEK10バリアント遺伝子の発現を低下させることが好ましい。RNAi核酸分子としては、NEK10バリアントmRNAに対してRNA干渉作用を有する核酸分子であれば特に限定されるものではないが、siRNAであることが好ましい。
【0017】
本発明においてRNAi核酸分子として用いられるsiRNAは、NEK10バリアントmRNAに対するRNA干渉作用を有する限り、そのどの領域に対してのsiRNAであってもよい。NEK10バリアントmRNAの部分塩基配列に対してRNA干渉作用を有するsiRNAは、NEK10バリアントmRNAの塩基配列情報に基づき、当業者であれば、適宜設計して調製することが出来る。例えば、ヒトNEK10バリアントmRNAのcDNAの塩基配列を配列番号1に示す。本発明において用いられるsiRNAは、NEK10バリアントmRNA中の標的とする塩基配列と、完全に相補的な塩基配列を有していることが好ましいが、RNA干渉作用を有する限り、1又は数塩基のミスマッチがあってもよい。
【0018】
本発明において用いられるsiRNAの塩基対長は、NEK10バリアントmRNAに対するRNA干渉作用を示すものであれば特に限定されるものではない。例えば、センスRNA及びアンチセンスRNAが15〜30個の塩基対、好ましくは21〜23個の塩基対からなるsiRNAが挙げられる。
【0019】
また、本発明において用いられるsiRNAは、RNA干渉作用を有する限り、1又は数個の塩基が修飾されていてもよい。当該修飾としては、メチル化、イノシン化、dU化、蛍光基修飾、又はリン酸化等が挙げられる。siRNA中、修飾塩基は、センスRNA中にあってもよく、アンチセンスRNA中にあってもよく、両方に存在していてもよい。
【0020】
本発明において用いられるsiRNAの末端構造は、NEK10バリアント遺伝子の発現をRNA干渉効果により調節することが可能であれば、平滑末端と突出末端のいずれであってもよい。突出末端構造は、3’末端側が突出している構造だけではなく、上記RNA干渉効果を示す限り5’末端側が突出している構造も含めることができる。また、突出する塩基数は、既に他の遺伝子に対しRNA干渉効果を示すことが報告されているsiRNAの多くでは2〜3塩基であるが、本発明において用いられるsiRNAでは、RNA干渉効果を誘導することができる塩基数であればよく、例えば、突出する塩基数は、1〜8塩基、好ましくは2〜4塩基であってもよい。この突出している塩基については、NEK10バリアントmRNAと相補的(アンチセンス)又は同一(センス)配列である必要はない。
【0021】
NEK10バリアントmRNAに対してRNA干渉作用を有するsiRNAとしては、例えば、NEK10バリアントmRNA中の配列番号2で表される塩基配列の全長若しくはその一部の連続する塩基配列、例えば15〜24個の連続する塩基配列、好ましくは18〜20個の連続する塩基配列を標的とする、RNA干渉作用を有するsiRNAが挙げられる。また、NEK10バリアントmRNA中の配列番号4で表される塩基配列の全長若しくはその一部の連続する塩基配列、例えば15〜24個の連続する塩基配列、好ましくは18〜20個の連続する塩基配列を標的とするRNA干渉作用を有するsiRNAも挙げられる。
【0022】
NEK10バリアントmRNA中の配列番号2で表される塩基配列の全長若しくはその部分塩基配列を標的とするsiRNAとしては、具体的には、配列番号2(5’−GAAAUCCUGUCAGAUGAUAACUUCA−3’)で表される塩基配列からなるセンスRNA、及び配列番号3(5’−UGAAGUUAUCAUCUGACAGGAUUUC−3’)で表される塩基配列からなるアンチセンスRNAの組み合わせからなるsiRNAや、配列番号2で表される塩基配列中の15〜24個の連続する塩基配列を含むセンスRNA、及び前記センスRNAと相補的な塩基配列を含むアンチセンスRNAの組み合わせからなり、かつNEK10バリアント遺伝子に対するRNA干渉作用を有するsiRNAが挙げられる。また、配列番号2で表される塩基配列中の15個以上の連続する塩基配列において1個若しくは数個の塩基が置換、付加又は欠失している塩基配列を含むセンスRNA、及び前記センスRNAと相補的な塩基配列を含むアンチセンスRNAの組み合わせからなり、かつNEK10バリアント遺伝子に対するRNA干渉作用を有するsiRNAであってもよい。その他、これらのsiRNAにおいて、1個若しくは数個の塩基が修飾されており、かつNEK10バリアント遺伝子に対するRNA干渉作用を有するsiRNAであってもよい。
【0023】
NEK10バリアントmRNA中の配列番号4で表される塩基配列の全長若しくはその部分塩基配列を標的とするsiRNAとしては、具体的には、配列番号4(5’−UCUGCCUUGUUUGUUCACCACUAUU−3’)で表される塩基配列からなるセンスRNA、及び配列番号5(5’−AAUAGUGGUGAACAAACAAGGCAGA−3’)で表される塩基配列からなるアンチセンスRNAの組み合わせからなるsiRNAや、配列番号4で表される塩基配列中の15〜24個の連続する塩基配列を含むセンスRNA、及び前記センスRNAと相補的な塩基配列を含むアンチセンスRNAの組み合わせからなり、かつNEK10バリアント遺伝子に対するRNA干渉作用を有するsiRNAが挙げられる。また、配列番号4で表される塩基配列中の15個以上の連続する塩基配列において1個若しくは数個の塩基が置換、付加又は欠失している塩基配列を含むセンスRNA、及び前記センスRNAと相補的な塩基配列を含むアンチセンスRNAの組み合わせからなり、かつNEK10バリアント遺伝子に対するRNA干渉作用を有するsiRNAであってもよい。その他、これらのsiRNAにおいて、1個若しくは数個の塩基が修飾されており、かつNEK10バリアント遺伝子に対するRNA干渉作用を有するsiRNAであってもよい。
【0024】
[RNAi核酸分子の前駆体]
本発明の細胞の増殖抑制方法においては、siRNA等のRNAi核酸分子を直接細胞へ導入してもよく、RNAi核酸分子の前駆体を細胞へ導入し、当該細胞内において分解等の反応により当該前駆体からRNAi核酸分子を産生させてもよい。RNAi核酸分子の前駆体としては、細胞内において最終的にsiRNA等のRNAi核酸分子を産生する前駆体であればよく、特に限定されない。siRNAの前駆体としては、例えば、比較的長鎖のdsRNA、siRNAを構成するセンスRNA及びアンチセンスRNAがスペーサーを介して連結されている一本鎖RNAが挙げられる。スペーサーの長さは特に限定されないが、例えば3〜23塩基としてよい。また、センスRNA及びアンチセンスRNAを連結するスペーサーがループを形成して、その前後のRNA配列同士がアニールして2本鎖を形成するRNA(shRNA)も好ましい。shRNA中のループ及びステムの長さは特に限定されないが、例えばステムは5〜29塩基としてよい。また、5’末端及び/又は3’末端に数塩基のオーバーハングを有していてもよく、有していなくてもよい。これらの前駆体が、細胞内でDicer等により消化される結果、siRNA等のRNAi核酸分子が産生される。
【0025】
本発明の細胞の増殖抑制方法において用いられる前駆体としては、NEK10バリアント遺伝子のmRNA中の配列番号2又は4で表される塩基配列を標的とする、RNA干渉作用を有するshRNAが挙げられる。本発明において用いられる前駆体としては、細胞内において、NEK10バリアントmRNA中の配列番号2で表される塩基配列の全長若しくはその部分塩基配列を標的とするsiRNA、又はNEK10バリアントmRNA中の配列番号4で表される塩基配列の全長若しくはその部分塩基配列を標的とするsiRNA、の何れかを産生し得るshRNAが好ましい。
【0026】
配列番号2で表される塩基配列の全長若しくはその部分塩基配列を標的とするsiRNAを産生するための前駆体である核酸分子としては、例えば、配列番号2で表される塩基配列中の15個以上の連続する塩基配列、又は当該塩基配列中の1個若しくは数個の塩基が修飾、置換、付加若しくは欠失している塩基配列と、配列番号3で表される塩基配列中の15個以上の連続する塩基配列、又は当該塩基配列中の1個若しくは数個の塩基が修飾、置換、付加若しくは欠失している塩基配列と、を含むshRNA等であって、細胞内において当該shRNAからNEK10バリアント遺伝子に対するRNA干渉作用を有するsiRNAが産生されるものが挙げられる。配列番号4で表される塩基配列の全長若しくはその部分塩基配列を標的とするsiRNAを産生するための前駆体である核酸分子としては、例えば、配列番号4で表される塩基配列中の15個以上の連続する塩基配列、又は当該塩基配列中の1個若しくは数個の塩基が修飾、置換、付加若しくは欠失している塩基配列と、配列番号5で表される塩基配列中の15個以上の連続する塩基配列、又は当該塩基配列中の1個若しくは数個の塩基が修飾、置換、付加若しくは欠失している塩基配列と、を含むshRNA等であって、細胞内において当該shRNAからNEK10バリアント遺伝子に対するRNA干渉作用を有するsiRNAが産生されるものが挙げられる。
【0027】
siRNA等のRNAi核酸分子又はその前駆体である核酸分子は、例えば、化学的in vitro合成系、ファージRNAポリメラーゼを用いたin vitro転写法、クローン化したcDNAを鋳型として転写し会合させた長いdsRNAをRNase III又はDicerによって切断する方法等により、適宜調製することができる。また、修飾塩基を含むRNAi核酸分子を用いる場合には、合成された核酸分子に対して修飾を施してもよく、修飾塩基を用いてRNAi核酸分子を合成させてもよい。
【0028】
[発現ベクター]
本発明の細胞の増殖抑制方法においては、RNAi核酸分子又はその前駆体である核酸分子を発現し得る発現ベクターを細胞に導入し、当該細胞内において、当該発現ベクターからRNAi核酸分子等を産生させてもよい。siRNAを発現し得るベクターとしては、例えば、siRNAのセンスRNAとアンチセンスRNAが別々に発現するように、それぞれ別々のプロモーターと連結した発現ベクター、選択的スプライシング等により1つのプロモーターからセンスRNAとアンチセンスRNAが別個に転写されるようにした発現ベクター等が挙げられる。shRNAを発現し得るベクターとしては、例えば、プロモーターの下流に、shRNAを構成する一本鎖のRNAを連結した発現ベクター等が挙げられる。
【0029】
これらの発現ベクターは、当業者においては、一般的な遺伝子工学技術により、容易に作製することができる(T.R.Brummelkamp et al.,Science,2002,vol.296,p.550〜553;N.S.Lee et al.,Nat.Biotech.,2001,vol.19,p.500〜505;M.Miyagishi and K.Taira,Nat.Biotech.,2002,vol.19,p.497〜500;P.J.Paddison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,2002,vol.99,p.1443〜1448;C.P.Paul et al.,Nat.Biotech.,2002,vol.19,p.505〜508;G.Sui et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,2002,vol.99,p.5515〜5520;G.M.Barton and R.Medzhitov,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,2002,vol.99,p.14943〜14945;P.J.Paddison et al.,Genes Dev.,2002,vol.16,p.948〜958)。より具体的には、目的のRNA配列をコードするDNAを公知の種々の発現ベクターへ適宜挿入することによって構築することが可能である。プロモーターとしては、RNAポリメラーゼIIIプロモーター等を用いることができる。具体的には、例えばU6プロモーターやH1プロモーター等が利用できる。公知のベクターとしては、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、マイナス鎖RNAウイルスベクター等のウイルスベクターや、プラスミド等の非ウイルスベクター等が利用できる。
【0030】
[細胞への導入]
siRNA等のRNAi核酸分子、その前駆体、又はこれらの発現ベクターを細胞へ導入する方法は、特に限定されるものではなく、核酸分子を細胞内へ導入する際に用いられる公知の手法のいずれを用いてもよい。例えば、RNAi核酸分子等をインジェクション等により直接細胞内へ導入してもよく、必要に応じて公知の遺伝子導入試薬等を使用してエンドサイトーシス等により細胞内へ取り込ませてもよい。また、細胞へ導入するRNAi核酸分子等は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて導入してもよい。
【0031】
本発明の細胞の増殖抑制方法において、増殖を抑制させる対象となる細胞は、NEK10バリアント遺伝子が発現している細胞、すなわち、NEK10バリアント遺伝子の転写産物であるmRNAやその翻訳産物であるタンパク質を発現し得る細胞(以下、NEK10バリアント発現細胞)である。NEK10バリアント発現細胞であれば特に限定されず、正常細胞であってもよく、癌細胞であってもよい。また、由来する組織等は特に限定されない。例えば、癌細胞の場合には、癌種も特に限定されない。また、ヒト由来の細胞であってもよく、ヒト以外の動物由来の細胞であってもよい。増殖を抑制させる対象となる細胞は、培養細胞や、生物個体から採取された細胞であってもよく、生物個体中の細胞であってもよい。
【0032】
<NEK10バリアント遺伝子発現抑制用組成物、抗癌剤>
NEK10バリアントmRNAに対してRNA干渉作用を有するsiRNA、前記siRNAの前駆体(中でも、shRNA)、前記siRNAの発現ベクター、又は前記前駆体の発現ベクター等の核酸分子を細胞内へ導入すると、当該細胞内でRNA干渉がおこり、NEK10バリアント遺伝子の発現が低下する結果、当該細胞の細胞増殖が抑制される。つまり、これらの核酸分子は細胞増殖抑制剤の有効成分とし得るものであり、よって腫瘍等の細胞の過増殖等が問題となる疾患に対する医薬品として有用な物質である。そこで、これらの核酸分子は、そのまま、あるいは適宜薬理学的に許容される配合剤と混合して、NEK10バリアント遺伝子発現抑制用組成物(本発明の組成物)又は抗癌剤(本発明の抗癌剤)として使用することができる。なお、本発明の組成物及び抗癌剤は、siRNA等の核酸分子を1種類のみ含有していてもよく、複数種類を組み合わせて含有していてもよい。
【0033】
NEK10バリアントmRNAに対してRNA干渉作用を有する核酸分子を有効成分とする本発明の抗癌剤は、NEK10バリアント遺伝子を発現する癌に対する治療において極めて有用であると考えられる。そして、NEK10バリアント遺伝子は、乳癌のみならず、少なくとも肝癌、腎癌、前立腺癌、及び子宮癌で発現している。このため、本発明の抗癌剤は、多くの癌細胞において、細胞増殖作用を示し、高い抗腫瘍効果を発揮することが期待される。
【0034】
本発明の組成物及び抗癌剤は、NEK10バリアント遺伝子を発現する癌細胞に対して、癌細胞増殖抑制作用、癌細胞死誘導作用等の抗癌作用や、抗癌剤等に対する感受性増強作用等を示す。また、本発明の組成物又は抗癌剤によるこれらの作用効果は、一過性であってもよく、恒常的に発揮されるものであってもよい。また、本発明の組成物又は抗癌剤の導入後、ある一定期間が経過した後に、最終的に効果が発現されるものであっても良い。
【0035】
本発明の組成物及び抗癌剤に添加してもよい配合剤としては、担体、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、流動化剤、コーティング剤、懸濁化剤、乳化剤、安定化剤、保存剤、矯味剤、着香剤、希釈剤、溶解補助剤等の製薬上許容し得る添加剤が挙げられる。又、本発明の組成物及び抗癌剤は、粉剤、顆粒剤、錠剤、カブレット剤、カプセル剤、注射剤、座剤、軟膏剤等の製剤形態で、経口又は非経口的(全身投与、局所投与等)に安全に投与される。本発明の組成物及び抗癌剤中の有効成分(RNAi核酸分子又はその前駆体である核酸分子)の含有量は、製剤により種々異なるが、通常0.1〜100重量%であることが好ましい。投与量は、投与経路、患者の年齢、及び、予防又は治療すべき実際の症状等により異なるが、例えば成人に経口投与する場合、有効成分として1日0.01mg〜2000mg、好ましくは0.1mg〜1000mgとすることができ、1日1回又は数回に分けて投与できる。
【0036】
<抗癌剤のスクリーニング方法>
上述のように、NEK10バリアント遺伝子の発現を低下させる等により、癌細胞内におけるNEK10バリアントタンパク質の機能を抑制させることによって、癌細胞の細胞増殖が抑制され、抗腫瘍効果を示す。このため、NEK10バリアント遺伝子の発現を抑制する作用を有する物質、又はNEK10バリアントタンパク質の活性を抑制する作用を有する物質は、癌治療薬の有効成分として有用である可能性が高い。したがって、NEK10バリアント遺伝子の発現に対する抑制効果又はNEK10バリアントタンパク質の活性に対する抑制効果を指標とすることにより、新規抗癌剤のスクリーニングが可能である。
【0037】
抗癌剤の候補物質としては、核酸、ペプチド、タンパク質、有機化合物(低分子化合物や高分子化合物を含む)、無機化合物等を挙げることができる。本発明のスクリーニング方法は、これらの候補物質(以下、被験物質)を含む試料を対象として実施することができる。被験物質を含む試料には、細胞抽出物、遺伝子ライブラリーの発現産物、微生物培養上清及び菌体成分等が含まれる。
【0038】
被験物質の中から、NEK10バリアント遺伝子の発現に対する抑制効果を指標として探索する場合には、具体的には、NEK10バリアント発現細胞を、被験物質の存在下又は非存在下で培養し、両条件下でのNEK10バリアントmRNA又はNEK10バリアントタンパク質の発現量を比較する。
【0039】
スクリーニングに使用する細胞としては、NEK10バリアント発現細胞であればよい。ヒトに有効な抗癌剤をスクリーニングする場合、ヒト由来のNEK10バリアント発現細胞を用いることが好ましいが、ヒトNEK10バリアントmRNAと相同性を示す塩基配列が存在する種由来の細胞であれば、ヒト以外の動物由来のNEK10バリアント発現細胞であってもよい。例えば、マウスの転写産物中にもヒトNEK10バリアントmRNAと相同性を示す塩基配列(NCBIのアクセッション番号:NM_001195119.1)が存在することから、マウス由来のNEK10バリアント発現細胞を用いてもよい。なお、スクリーニングに用いられる細胞の範疇には、細胞の集合体である組織も含まれる。その他、定法に従って、ヒトNEK10バリアント遺伝子のcDNAを有する発現ベクターを導入してNEK10バリアントタンパク質を産生可能な状態に調製された形質転換細胞を、NEK10バリアント発現細胞として使用することもできる。
【0040】
上述のスクリーニング方法において、被験物質とNEK10バリアント発現細胞との接触は、例えば、NEK10バリアント発現細胞の培養液に被験物質を添加した状態で培養することにより行う。また、被験物質とNEK10バリアント発現細胞との接触条件は、特に限定されないが、当該細胞が死滅せず、NEK10バリアントmRNA又は蛋白質が発現し得る培養条件(温度、pH、培地組成等)を選択することが好ましい。
【0041】
候補物質の選別は、例えば上記条件で被験物質とNEK10バリアント発現細胞とを接触させ、NEK10バリアントmRNA又はタンパク質の発現量を低下させる物質を探索することによって行うことができる。具体的には、被験物質存在下でNEK10バリアント発現細胞を培養した場合に、NEK10バリアントmRNA又はタンパク質発現量が、同条件の被験物質非存在下のNEK10バリアントmRNA又はタンパク質発現量よりも小さい被験物質を選別する。
【0042】
NEK10バリアントmRNAの発現量は、NEK10バリアントmRNAの塩基配列と相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドプローブ等を利用したノーザンブロット法やDNAアレイを利用した測定方法、NEK10バリアントmRNA中の部分塩基配列をプライマーとしたRT−PCR法やリアルタイムPCR法等により測定することができる。
【0043】
NEK10バリアントタンパク質の発現量は、例えば、NEK10バリアントタンパク質に対する抗体を利用した公知の方法により測定することができる。抗体を利用した測定方法としては、例えば、ウエスタンブロット法、免疫沈降法、ELISA等が挙げられる。
【0044】
NEK10バリアントはキナーゼ活性を持つことが構造から推定される。したがって、被験物質の中から、NEK10バリアントタンパク質のキナーゼ活性に対する抑制効果を指標として、抗癌剤のスクリーニングを行うこともできる。具体的には、例えば、精製したNEK10バリアントタンパク質又はNEK10バリアントタンパク質を発現する細胞の抽出液を用い、被験物質の存在下又は非存在下での、NEK10バリアントタンパク質のキナーゼ活性を比較する。
【0045】
キナーゼ活性測定に用いられるNEK10バリアントタンパク質としては、遺伝子組換え技術により産生された組換えタンパク質を用いることができる。組換えタンパク質は、NEK10バリアント遺伝子のcDNAと公知の発現系を用いて常法により製造することができる。発現系としては、大腸菌、酵母、昆虫細胞、哺乳類細胞等を宿主細胞とする発現系、無細胞発現系等が挙げられる。例えば、NEK10バリアントタンパク質を強制発現後の宿主細胞の抽出液をそのままキナーゼ活性測定に用いてもよく、当該抽出液から精製した組換えタンパク質を用いてもよい。また、元々NEK10バリアントタンパク質を発現している細胞の抽出液や、当該抽出液から精製されたNEK10バリアントタンパク質も、キナーゼ活性測定に用いることができる。
【0046】
キナーゼ活性測定に用いられる基質としては、キナーゼの基質として一般的に用いられる各種タンパク質を用いることができる。具体的には、MBP(myelin basic protein)、ヒストン等が挙げられる。基質とするタンパク質は、組換えタンパク質であってもよく、ペプチド合成等により人工的に合成されたものであってもよく、細胞内の内在性のタンパク質であってもよい。組換えタンパク質や元々細胞内に存在しているタンパク質を用いる場合、細胞の抽出液と当該抽出液から精製したタンパク質のいずれをキナーゼ活性測定に用いてもよい。
【0047】
上述のスクリーニング方法において、被験物質とNEK10バリアント発現細胞は、キナーゼ活性測定の測定環境下で接触させる。キナーゼ活性測定の温度、pH、塩濃度等の条件は、NEK10バリアントタンパク質による基質となるタンパク質のリン酸化が起こる条件であればよく、特に限定されない。
【0048】
候補物質の選別は、例えば上記条件の被験物質存在下で、NEK10バリアントタンパク質による基質タンパク質のリン酸化量と、被験物質非存在下での基質タンパク質のリン酸化量とを比較することにより行うことができる。具体的には、被験物質存在下での基質タンパク質のリン酸化量が、同条件の被験物質非存在下での基質タンパク質のリン酸化量よりも小さい被験物質を選別する。
【0049】
本発明の抗癌剤のスクリーニング方法により選抜された物質は、細胞においてNEK10バリアント遺伝子の発現を抑制しNEK10バリアントタンパク質の産生を低下させるか、又はNEK10バリアントタンパク質のキナーゼ活性を低下させる作用を有するものであり、癌治療に有用であると考えられる。また、当該スクリーニング方法によって選別された被検物質の各種誘導体を製造し、これらに対してさらなるスクリーニングを行うことによって、効果や安全性に優れた誘導体を得ることも可能である。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例等により具体的に説明するが、これは一例であり、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例等で言及されている市販試薬は、特に示さない限りは製造者の使用説明に従い使用した。
【0051】
[参考例1]
本参考例は、各種癌細胞株において、NEK10バリアントmRNAの発現を確認するために行った。すなわち、表1に記載の各種癌細胞株におけるNEK10バリアントのmRNAの相対発現量を、SYBR(登録商標)GREENによるリアルタイムPCRにより測定した。
【0052】
各癌細胞株よりRNAeasy Kit(QIAGEN社)を用いてtotal RNAを精製した。400ngの精製したRNAを用い、逆転写酵素SuperscriptIII(Invitrogen社)を使用説明に従い使用し、cDNAを調製した。すなわち、RNAを65℃で5分間変性処理を行った後4℃で急冷し、その後55℃で30分間及び75℃で15分間反応させ、cDNAを合成した。
【0053】
得られたcDNAのうち1μLを鋳型とし、NEK10バリアントmRNAから合成されたcDNAを増幅するためのプライマー、及びGAPDHのmRNAから合成されたcDNAを増幅するためのプライマーを用い、BRILIANT SYBR(登録商標)GREEN master mix(STRATAGENE社)を用い使用説明に従い使用し、リアルタイムPCRを行った。GAPDHの増幅は、反応系のコントロールとして行った。すなわち、95℃、10分間の熱変性の後、1サイクルが95℃、30秒間、次いで55℃、60秒間、その後72℃、60秒間からなるサイクル反応を40サイクル行うPCR反応を行った。リアルタイムPCR機は、MX3000(STRATAGENE社)を用いた。NEK10バリアントmRNAから合成されたcDNAを増幅するためのプライマーとして、配列番号6:5’−GCACACAAAGGTATTTTATGG−3’の塩基配列からなるフォワードプライマー、及び配列番号7:5’−CTACTCAAACTTGCCTTCTCA−3’の塩基配列からなるリバースプライマーを用いた。また、GAPDHのmRNAから合成されたcDNAを増幅するためのプライマーとして、配列番号8:5’−TCTGCTCCTCCTGTTCGACAGT−3’の塩基配列からなるフォワードプライマー、及び配列番号9:5’ −ACCAAATCCGTTGACTCCGAC−3’の塩基配列からなるリバースプライマーを用いた。Ct値の判定は、ソフトウエアMX Pro(STRATAGENE社)を用いた。Ct値とは、PCR反応により標的遺伝子の増幅が指数関数的におこる立ち上がりのサイクル数(Cycle Threshold:Ct値)のことである。
【0054】
下記の式(1)を用いて、得られたCt値から、各種癌細胞株のNEK10バリアントmRNAのΔCt値(キャリブレータと比較した場合の相対的なCt値)を求めた。
式(1):
ΔCt(NEK10遺伝子バリアント)値=NEK10バリアントmRNAのCt値−GAPDH mRNAのCt値
【0055】
式(1)から得られた各種癌細胞株におけるNEK10バリアントmRNAのΔCt値を用いて、HeLaS3細胞におけるNEK10バリアントmRNAの発現量を100とした場合の、各種癌細胞株の相対的なNEK10バリアントmRNA発現量を、式(2)により求めた。
式(2):
各種癌細胞株のNEK10バリアントmRNAの相対発現値=(各種癌細胞株におけるNEK10バリアントmRNAのΔCt値/HeLaS3細胞におけるNEK10バリアントmRNAのΔCt値)×100
【0056】
前記式(2)を用いて得られた、HeLaS3細胞のNEK10バリアントmRNA発現量を100とした場合の、各種癌細胞株におけるNEK10バリアントmRNAの相対的な発現量を表1に示す。NEK10バリアントmRNAの発現は、乳癌細胞、肝癌、腎癌、前立腺癌及び子宮癌細胞で認められた。したがって、NEK10バリアントは乳癌細胞のみならず、乳癌以外の癌細胞でも重要な働きを担っていることが推測される。
【0057】
【表1】
【0058】
[実施例1]
本実施例は、NEK10バリアントmRNAに対してRNA干渉作用を有するsiRNAが、NEK10バリアントmRNAの発現を抑制し、かつ癌細胞の増殖を抑制することを確認するために行った。
【0059】
<NEK10バリアントmRNAの発現抑制作用の確認>
配列番号2で表される塩基配列からなるセンスRNA及び配列番号3で表される塩基配列からなるアンチセンスRNAの組み合わせからなるsiRNA(以下、NEK10 siRNA#1)及び配列番号4で表される塩基配列からなるセンスRNA及び配列番号5で表される塩基配列からなるアンチセンスRNAの組み合わせからなるsiRNA(以下、NEK10 siRNA#2)について、細胞内に導入してsiRNA処理を行った後のNEK10バリアントmRNAをSYBR(登録商標)GREENによるリアルタイムPCRにより測定し、NEK10バリアントmRNAに対するノックダウン効果を検討した。
【0060】
実施例1でNEK10バリアントmRNAを発現していることが確認された乳癌細胞株 MDA−MB−231を用い、コントロールsiRNA、NEK10 siRNA#1、又はNEK10 siRNA#2を細胞内に導入し、siRNA処理後のNEK10バリアントmRNAをSYBR(登録商標)GREENによるリアルタイムPCRにより測定し、各siRNAによるNEK10バリアントmRNAのノックダウン効果を検討した。コントロールsiRNAはInvitrogen社から購入し、NEK10 siRNA#1及びNEK10 siRNA#2はInvitrogen社が合成したものを使用した。
【0061】
1万個/wellのMDA−MB−231細胞を12well plateに播種し、24時間後にsiRNAをLipofectamine RNAiMAX(Invitrogen社)を用い製造者の使用説明に従い使用し導入した。すなわち、1μLのsiRNA(20nM)を50μLのOptiMEM(Invitrogen社)に溶解した溶液を、1μLのLipofectamine RNAiMAXを50μLのOptiMEMに溶解し室温で5分間静置した溶液と混合し、さらに室温で20分間静置した。静置後、上記混合液を細胞に添加し、37℃で3時間培養した後、培地を交換し、さらに72時間培養した。その後、培地を除去し、RNAeasy Kit(QIAGEN社)を用いて、各well中の細胞からRNAを精製した。
精製されたRNAのうち500ng用い、逆転写酵素SuperscriptIII(Invitrogen社)を使用し、参考例1と同様にしてcDNAを調製した。得られたcDNAのうち1μLを鋳型とし、参考例1と同様にしてCt値の測定を行った。使用した試薬、プライマー及び機器も参考例1と同様である。
【0062】
実験はトリプリケイトで行い、Ct値のトリプリケイトの平均値を下記の式(3)に代入し、各siRNA処理群のΔCt値を求めた。また、実験は3回繰り返した。
式(3)−1:
ΔCt(control)値=コントロール siRNA処理群のNEK10バリアントmRNAのCt値−コントロール siRNA処理群のGAPDHのmRNAのCt値
式(3)−2:
ΔCt(sample)値=NEK10 siRNA処理群のNEK10バリアントmRNAのCt値−NEK10 siRNA処理群のGAPDHのmRNAのCt値
【0063】
前記式(3)で得られた各siRNA処理群のΔCt値を用いて、下記式(4)により、各実験における各siRNA処理によるNEK10バリアントmRNAの発現量を、1回目のコントロール siRNA処理群を100とした場合の相対値として求めた。但し、式(4)中、NEK10バリアントmRNA量は、対コントロール siRNA処理群に対する%である。
式(4):
NEK10バリアントmRNA量=2(ΔCt(control)値−ΔCt(sample)値)×100
【0064】
算出結果を図1に示す。図1中、縦軸はコントロールsiRNA処理時のNEK10バリアントmRNA発現を100とした場合の、各siRNA処理群の相対的なNEK10バリアントmRNA発現量を示す。横軸は各siRNA処理群を示す。
【0065】
乳癌細胞MDA−MB−231における、コントロール siRNA又はNEK10 siRNA処理によるNEK10 mRNAの対コントロール(%)は、コントロールsiRNA処理群が107±6.2、NEK10 siRNA#1処理群が11±0.5、NEK10 siRNA#2処理群が86±7.4であった。Dunnet検定によりコントロール siRNA処理群とNEK10 siRNA処理群とを検定した結果、NEK10 siRNA#1処理群は、コントロール siRNA処理群と比較して有意(***、p<0.001)にNEK10バリアントmRNAを抑制した。同様に、NEK10 siRNA#2処理群も、コントロール siRNA処理群と比較して有意(**、p<0.01)にNEK10バリアントmRNAの発現を抑制した。すなわち、NEK10 siRNA#1及びNEK10 siRNA#2はいずれも、乳癌細胞において、NEK10バリアントのmRNA発現を抑制することが明らかとなった。
【0066】
<NEK10 siRNAの癌細胞の増殖抑制効果>
NEK10 siRNA#1及びNEK10 siRNA#2が癌細胞に対する増殖抑制効果を有することを確認した。すなわち、NEK10 siRNA#1及びNEK10 siRNA#2を細胞内に導入し、NEK10バリアント遺伝子をノックダウンすることにより細胞増殖が抑制されるか、メチレンブルー法により検討した。
【0067】
上記(NEK10バリアントmRNAの発現抑制作用の確認)と同様にして、各siRNAをMDA−MB−231細胞へ導入し、導入後、72時間培養した。培養後、培地を除去し、1000μLのメタノールを添加して室温で2分間放置し、細胞を固定した。メタノールを除去後、1000μLの染色液(0.05%メチレンブルー溶液)を添加し、30分間染色した。4mLの蒸留水で3回洗浄した後、3%HCl溶液を2mL添加し、メチレンブルーの660nmの吸光度を、マイクロプレートリーダー(BioRad社)を用いて測定した。
【0068】
実験はトリプリケイトで実施し、同様の実験を3回繰り返した。1回目の実験のコントロール siRNA処理群のトリプリケイトの平均値をコントロールとし、各実験のsiRNA処理群のトリプリケイトの平均値を用いて、下記式(5)により細胞増殖率(%)を算出した。
式(5):
細胞増殖率(%)=(各実験のコントロール siRNA処理群又はNEK10 siRNA処理群の660nmの吸光度/1回目の実験のコントロール siRNA処理群の660nmの吸光度)×100
【0069】
算出結果を図2に示す。図2中、縦軸はコントロールsiRNA処理時の細胞増殖を100とした場合の、各siRNA処理群の細胞増殖率を示す。横軸は各siRNA処理群を示す。
【0070】
各siRNA処理による乳癌細胞MDA−MB−231の細胞増殖率(%)は、コントロール siRNA処理群が88±18、NEK10 siRNA#1処理群が34±14、NEK10 siRNA#2処理群が58±17であった。Dunnet検定によりコントロール siRNA処理群とNEK10 siRNA処理群とを検定した結果、NEK10 siRNA#1処理群は、コントロール siRNA処理群と比較して有意(*、p<0.05)にMDA−MB−231細胞の増殖を抑制した。
また、NEK10 siRNA#2処理群は、統計学的な有意性は確認できなかったものの、コントロール siRNA処理群よりも、MDA−MB−231細胞の増殖が抑制されていた。すなわち、NEK10 siRNA#1及びNEK10 siRNA#2は、効果の多少はあるがいずれも、乳癌細胞に対する増殖抑制効果を有することが明らかとなった。
【0071】
また、NEK10バリアントmRNAの発現抑制効果がより高いNEK10 siRNA#1のほうが、NEK10 siRNA#2よりも細胞増殖抑制効果が高かった。これより、NEK10バリアントmRNAの発現抑制効果が高いsiRNAを用いることにより、より高い細胞増殖抑制効果が得られること、十分な細胞増殖抑制効果を得るためには、NEK10バリアントmRNAの発現量を対コントロール(%)で86以下とし得るsiRNAを用いることが好ましいことが示唆された。また、NEK10 siRNA#1とNEK10 siRNA#2は、NEK10バリアントmRNAの異なる配列を標的としていることから、NEK10 siRNA#1とNEK10 siRNA#2を併用することにより、それぞれのsiRNAを単独で使用した場合よりも高い細胞増殖抑制効果(抗腫瘍効果)が得られることが期待される。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の細胞の増殖抑制方法及び核酸分子は、NEK10バリアント遺伝子が発現している様々な細胞、特に癌細胞の増殖を抑制することができるため、癌の治療及び抗癌剤の製造等の分野で利用が可能である。
図1
図2
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]