【文献】
GERDONI EZIO,MESENCHYMAL STEM CELLS EFFECTIVELY MODULATE PATHOGENIC IMMUNE RESPONSE 以下備考,ANNALS OF NEUROLOGY,2007年 3月,V61 N3,P219-227,IN EXPERIMENTAL AUTOIMMUNE ENCEPHALOMYELITIS
【文献】
Current Opinion in Allergy and Clinical Immunology,2009年,Vol.9,p.537-543
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は部分的に、本明細書に記載した細胞の静脈内投与後にこれらの細胞がリンパ節へ移動し;リンパ系内で起こる患者の免疫系と細胞療法との間の相互作用から、有利な免疫および抗炎症効果が生じると考えられることに基づく。それ故に、細胞療法のリンパ系への直接投与は治療の改善を可能にし、用量の低減および潜在的に患者応答時間を速くする。細胞療法のリンパ系内投与に特に有用な用量レジメンが、本明細書の実施例に詳述したように、このたび特定された。従って、本発明はそれを必要とする患者の細胞療法の方法の改善を提供する。本発明のさらなる態様は、リンパ系内に送達する細胞療法において使用するキットおよび組成物を提供する。
【0015】
一態様においては、損傷組織を治療または修復するための方法、ならびに/あるいは、損傷組織を有するヒト被験体における炎症性および/または免疫障害、および/または、炎症性および/または免疫障害に関連する1以上の症状を治療、調節、予防および/または改善のための方法であって、前記被験体のリンパ系に、予防上または治療上有効な幹細胞、調節性T細胞および/または線維芽細胞を含む組成物の用量レジメンを投与するステップを含むものである前記方法を記載する。好ましくは、単一用量、または少なくとも12時間離れた複数用量を含み、そのまたはそれぞれの用量は100,000〜100百万細胞を含むものである。一実施形態において、本発明は細胞療法のリンパ器官への直接送達を含むものである、個体における免疫および/または炎症性疾患を予防、治療または改善する方法を提供する。本発明の一実施形態においては、細胞療法を、抗原と組み合わせて送達する。
【0016】
他の態様においては、i)損傷組織の治療または修復;および/またはii)炎症性障害および/または免疫障害に関連する1以上の症状の治療、調節、改善および/または予防;の方法に使用するための幹細胞、調節性T細胞および/または線維芽細胞であって、リンパ系へ用量レジメンで投与される前記細胞が記載されている。好ましくは、その投与は単一用量、または少なくとも12時間離れた複数用量を含み、そのまたはそれぞれの用量は100,000〜100百万細胞を含むものである。
【0017】
さらに他の態様においてはキットが記載され、前記キットは、i)幹細胞、調節性T細胞および/または線維芽細胞集団を含む医薬、およびii)かかる治療を必要とする被験体の損傷組織を治療または修復する、および/または炎症性および/または免疫障害に関連する1以上の症状を治療、調節、予防および/または改善する方法であって、前記被験体のリンパ系に幹細胞、調節性T細胞および/または線維芽細胞を含む組成物の予防上または治療上有効な用量レジメンを投与するステップを含む前記方法の指導書を含むものである。
【0018】
さらに他の態様において、損傷組織を治療または修復する、および/または炎症性および/または免疫障害に関連する1以上の症状の治療、調節、予防および/または改善する医薬品の製造における幹細胞、調節性T細胞および/または線維芽細胞の使用であって、幹細胞、調節性T細胞および/または線維芽細胞のリンパ系中への用量レジメンでの投与を含むものである前記使用が記載されている。好ましくは、投与は単一用量、または少なくとも12時間離れた複数用量を含むものであり、そのまたはそれぞれの用量は100,000〜100百万細胞を含む。
【0019】
他の態様は、リンパ系への用量レジメンで投与する幹細胞、調節性T細胞および/または線維芽細胞に関する。さらに他の態様は療法に使用する前記細胞に関する。
【0020】
さらに他の態様は、幹細胞、調節性T細胞および/または線維芽細胞、および抗原を含む用量レジメンでリンパ系へ投与する医薬組成物に関する。
【0021】
その他の態様、特徴および利点は、以下の開示および添付の特許請求の範囲から、さらに詳しく明らかになろう。
【0022】
定義
本明細書の理解を容易にするために、本発明の文脈におけるいくつかの用語および表現の意味を以下に説明する。明細書全体を通して必要に応じて、さらなる定義が含まれるであろう。
【0023】
本発明による用語「リンパ系内注射に適合した」または「結節内注射に適合した」または「腋窩および/または鼠蹊リンパ節への直接注射に適合した」は、リンパ系内または結節内注射に適合した(好ましくは、免疫調節性細胞を含む、最も好ましくは、幹細胞、調節性T細胞および/または線維芽細胞を含む)細胞療法、ならびに薬物および前記を含む医薬組成物が、かかる治療を必要とする被験体において、損傷組織(好ましくは、間葉組織)を治療もしくは修復するために、および/または、炎症性障害および/もしくは免疫障害に関連する1以上の症状を治療、調節、予防および/もしくは改善するために、個体、特に、ヒト、さらにより好ましくは、ヒト患者のリンパ組織中に、医学的治療として前記を注射するのに必要なまたは有益な、物理的、化学的、生物学的およびその他の特徴を有することを意味する。さらに、本発明による「リンパ系内注射に適合した」または「結節内注射に適合した」免疫調節性細胞、ならびに薬物および前記を含む医薬組成物は、リンパ組織への適当な容積、好ましくは、約10μL〜1500μL;約100μL〜1000μL;約10μL〜100μL;約100μL〜500μL;約500μL〜1000μL;約1000μL〜1500μLの容積で、すべての構成成分の適当な量の適用を可能にする組成物のすべての構成成分の濃度を含有する。例えば、約10μL以下;約100μL以下;約500μL以下;約1000μL以下;約1500μL以下である。
【0024】
さらに、「リンパ系内または結節内注射に適合した」組成物は、潜在的に有害な物質、例えば、適用する量が多過ぎるとリンパ組織に損傷を与えうる溶媒およびアジュバントを全く含有しないかまたは限定した量しか含有してはならない。リンパ組織の損傷とは、細胞に対する毒性効果、細胞の化学的破壊による直接損傷、例えば炎症性反応、壊死などを誘導することによる細胞に対する間接的損傷を意味する。
【0025】
さらに、本発明による「リンパ系内または結節内注射に適合した」組成物は、注射がリンパ組織を外れ、最悪の場合、免疫調節性細胞ならびにそれを含む医薬および医薬組成物の血液循環中への直接注射となる場合に、免疫調節性細胞ならびにそれを含む医薬および医薬組成物の偶発的な全身適用を防ぐある種の安全機構を有することが理想的である。かかる安全機構には、細胞外半減期の短い生物活性物質が含まれる。
【0026】
本明細書で使用する用語「注射」は、当技術分野におけるその通常の意味が与えられ、身体の一部、通常、皮膚に穴を開けることによる身体への薬剤の送達を意味する。この用語は、中空シリンジおよび高圧ジェット注射装置の使用を含む。
【0027】
本明細書で使用する用語「同種異系(allogeneic)」とは、同一種の異なる個体に由来することを意味すると解釈すべきである。2以上の個体は、遺伝子が1つ以上の遺伝子座で同一でない場合、お互いに同種異系であるといわれる。
【0028】
本明細書で使用する用語「自己」は、同一個体に由来することを意味すると解釈すべきである。
【0029】
用語「自己免疫疾患」は、被験体のそれ自身の細胞、組織および/または器官に対する免疫反応によって引き起こされる細胞、組織および/または器官の傷害を特徴とする被験体の状態を意味する。本発明の免疫調節性細胞で治療できる自己免疫疾患の例には、限定されるものでないが、円形脱毛症、強直性脊椎炎、抗リン脂質症状、免疫反応性アジソン病、副腎の自己免疫疾患、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性肝炎、自己免疫性卵巣炎および精巣炎、自己免疫性血小板減少症、ベーチェット病、水疱性類天疱瘡、心筋症、セリアックスプルー皮膚炎、慢性疲労免疫機能不全症状(CFlDS)、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー、チャーグストラウス症状、瘢痕性類天疱瘡、CREST症状、寒冷凝集素症、円板状ループス、本態性混合型クリオグロブリン血症、線維筋痛症−線維筋炎、糸球体腎炎、グレーブス病、ギランバレー、橋本甲状腺炎、特発性肺線維症、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、IgA神経障害、若年性関節炎、扁平苔癬、メニエール病、混合性結合組織病、多発性硬化症、1型または免疫媒介性真性糖尿病、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、悪性貧血、結節性多発性動脈炎、多発性軟骨炎、多腺性症状、リウマチ性多発性筋痛、多発性筋炎および皮膚筋炎、原発性無ガンマグロブリン血症、原発性胆汁性肝硬変、乾癬、乾癬性関節炎、レイノー現象、ライター症状、サルコイドーシス、強皮症、進行性全身性硬化症、シェーグレン症状、グッドパスチャー症状、全身硬直症状、全身性紅斑性狼瘡、紅斑性狼瘡、高安動脈炎、側頭動脈炎/巨細胞性動脈炎、潰瘍性大腸炎、ブドウ膜炎、血管炎、疱疹状皮膚炎、白斑、ウェゲナー肉芽腫症、抗糸球体基底膜疾患、抗リン脂質症状、神経系の自己免疫疾患、家族性地中海熱、ランバートイートン筋無力症症状、交感神経性眼炎、多腺性内分泌不全症、乾癬などが含まれる。
【0030】
「セリアック病(celiac diseaseあるいはcoeliac disease)」はセリアックスプルー(c(o)eliac sprue)、非熱帯性スプルー、地方病性スプルー(endemic sprue)、グルテン性腸炎またはグルテン感受性腸炎およびグルテン不耐性とも呼ばれる。
【0031】
本明細書に記載される本発明の目的に対する「免疫障害」には自己免疫疾患および免疫学的に媒介される疾患が含まれる。
【0032】
用語「炎症性疾患」は、炎症、例えば、慢性炎症を特徴とする被験体の状態を意味する。炎症性障害の例には、限定されるものでないが、セリアック病、関節リウマチ(RA)、炎症性腸疾患(IBD)、喘息、脳炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、炎症性骨溶解症、アレルギー性障害、敗血性ショック、肺線維症(例えば、特発性肺線維症)、炎症性血管炎(例えば、結節性多発性動脈炎、ウェゲナー肉芽腫症、高安動脈炎、側頭動脈炎およびリンパ腫様肉芽腫症)、外傷後血管の血管形成(例えば、血管形成術後の再狭窄)、未分化脊椎関節症、未分化関節症、関節炎、炎症性骨溶解症、慢性肝炎および慢性ウイルス感染または細菌感染に起因する慢性炎症が含まれる。
【0033】
細胞集団に適用される用語「単離」はin vivoまたはin vitroで前記細胞集団に付随する1以上の細胞集団を実質的に含まない、ヒトまたは動物の身体から単離した細胞集団を意味する。用語「MHC」(主要組織適合複合体)は、細胞表面抗原提示タンパク質をコードする遺伝子のサブセットを意味する。ヒトでは、これらの遺伝子は、ヒト白血球抗原(HLA)遺伝子と呼ばれる。本明細書では、略語MHCまたはHLAは同義に使用される。用語「被験体」は、動物、好ましくは、非霊長類(例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ラットまたはマウス)および霊長類(例えば、サルまたはヒト)を含めた哺乳類を意味する。好ましい実施形態において、被験体はヒトである。
【0034】
用語「免疫調節性」は、免疫系の1以上の生物活性の抑制または低減を意味し、限定されるものでないが、免疫反応および炎症状態のダウンレギュレーションならびにサイトカインプロファイル、細胞傷害活性および抗体産生の変化が含まれる。用語「抗原特異的免疫調節性」は、同種抗原および自己抗原の両方を含む、特定の抗原または複数の抗原に関連する免疫系の1以上の生物活性の抑制または低減を意味する。用語「免疫調節」は、「抗原特異的免疫調節」を含むと解釈すべきである。
【0035】
本明細書で細胞表面マーカーに関して使用する場合、「陰性」または「-」は、細胞集団中で、20%未満、10%未満、好ましくは、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%未満または0%の細胞が前記マーカーを発現することを意味すると解釈すべきである。細胞表面マーカーの発現は、例えば、従来の方法と装置を用いて(例えば、市販の抗体および当技術分野で公知の標準プロトコルと共にBeckman Coulter Epics XL FACSシステムを用いて)特定の細胞表面マーカーのフローサイトメトリーにより確認することができる。
【0036】
本明細書で使用する用語「リンパ系」は当技術分野における通常の意味が与えられ、リンパ管および毛細リンパ管の伝導系によって接続されたリンパ組織を意味する。用語「リンパ器官」は、リンパ節および他のリンパ様構造、例えば胸腺、骨髄およびパイエル板を意味する。用語「リンパ節」はヒトまたは動物の身体のいずれかのリンパ節を意味し、限定されるものでないが、腋窩リンパ節、鼠蹊リンパ節(深部/または表面)、頚部リンパ節、顎下リンパ節、鎖骨上リンパ節、縦核リンパ節、胸筋リンパ節、大動脈傍リンパ節、大腿リンパ節、および膝窩リンパ節が含まれる。本明細書で用いる典型的なリンパ節は腋窩または鼠蹊リンパ節、またはリンパ節を欠くかもしくはそれに欠陥を有する個体についてはリンパ組織または免疫細胞である。
【0037】
本明細書で使用する用語「間葉系幹細胞」(本明細書においては「MSC」とも呼ぶ)は、元来、間葉に由来する複数の異なる型の細胞を生じることができる細胞を意味すると解釈すべきである。この用語は、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞または筋細胞の少なくとも1つに分化することができる細胞を意味する。MSCはいずれかの型の組織から単離してもよい。一般に、MSCは、骨髄、脂肪組織、臍帯または末梢血から単離される。本発明で使用するMSCは、いくつかの実施形態において、骨髄(BM-MSC)または脂肪組織(ASC)から単離することができる。本発明の好ましい態様においては、MSCを脂肪吸引液(それら自体が脂肪組織から得られる)から得る。ASCの生産は当技術分野で公知であり、例えば、WO-A-2006/136244に記載されている。
【0038】
本明細書で使用する表現「有意な発現」またはその同義語「陽性」および「+」は、細胞表面マーカーに関して使用する場合、細胞集団中、20%超、好ましくは、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%超の細胞、またはさらに全細胞が前記マーカーを発現することを意味すると解釈すべきである。
【0039】
細胞表面マーカーの発現は特定の細胞表面マーカーに対するフローサイトメトリー、例えば、従来の方法と装置(例えば、市販の抗体と当技術分野で公知の標準プロトコルとともに使用されるBeckman Coulter Epics XL FACSシステム)を用いて確認することができ、これはフローサイトメトリーにおいて特定の細胞表面マーカーに対してバックグラウンドシグナルを上回るシグナルを示す。バックグラウンドシグナルは、従来のFACS分析で各表面マーカーを検出するために使用する特定の抗体と同一アイソタイプの非特異的抗体が示すシグナル強度として定義される。陽性と考えられるマーカーについて観察される特定のシグナルは、従来の方法と装置(例えば、市販の抗体と当技術分野で公知の標準プロトコルと共に使用されるBeckman Coulter Epics XL FACSシステム)を用いるバックグラウンドシグナル強度より20%強い、好ましくは、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、500%、1000%、5000%、10000%以上強い。
【0040】
さらに、前記細胞表面マーカーに対する市販および既知のモノクローナル抗体(例えば、細胞受容体および膜貫通型タンパク質)を用いて、関連細胞を同定してもよい。
【0041】
用語「結合組織」は間葉由来の組織を意味し、それらの細胞が細胞外マトリックス内に含まれることを特徴とするいくつかの組織を含む。結合組織の例には、限定されるものでないが、脂肪組織および軟骨組織が含まれる。
【0042】
本明細書で使用する用語「線維芽細胞」は、線維芽細胞様滑膜細胞を含むと解釈すべきである。
【0043】
用語「T細胞」は、T細胞受容体(TCR)を発現するリンパ球のサブセットである免疫系の細胞を意味する。用語「調節性T細胞」(本明細書ではT-reg細胞とも呼ぶ)は、免疫系の活性化を能動的に抑制し、病的自己反応性、すなわち、自己免疫疾患を防止するT細胞サブセットを意味する。用語「調節性T細胞」または「T-reg細胞」は、天然のT細胞(FoxP3 + T-reg細胞)とFoxP3分子を発現しない獲得T細胞(Tr1細胞またはTh3細胞としても知られる)の両方を含むと解釈すべきである。
【0044】
用語「グルテン」は、グリアジンおよびグルテン成分を含むタンパク質を意味すると解釈すべきである。
【0045】
本明細書で使用する用語「治療する(treat)」、「治療(treatment)」および「治療すること(treating)」は、患者または被験体に関して直接使用する場合、限定されるものでないが、炎症性障害、自己免疫疾患または移植された器官および組織の拒絶を含む免疫学的に媒介される疾患を含む障害に関連する1以上の症状の改善を意味し、ここで、前記改善は本発明の免疫調節性細胞またはそれを含む医薬組成物を前記治療を必要とする被験体に投与することにより得られると解釈すべきである。
【0046】
本明細書で使用する用語「修復する(repair)」および「修復(repairing)」は、損傷組織に関して直接使用する場合、直接的機序、例えば、損傷組織の再生、ならびに間接的機序、例えば、炎症を低減し、それにより組織形成を可能にすることの両方による、かかる損傷の改善を意味すると解釈すべきである。
【0047】
用語「併用治療」は、本発明の免疫調節性細胞またはそれを含む医薬組成物の他の活性物質または治療様式と組み合わせた本発明の方式での使用であって、限定されるものでないが、炎症性障害、自己免疫疾患、または免疫学的に媒介される疾患(移植した臓器および組織の拒絶を含む)を含む障害に関連する1以上の症状を改善するための前記使用を意味する。これらのその他の薬剤または治療は、かかる障害の治療のための既知の薬物および治療薬、例えば、限定するものではないが、副腎皮質ステロイドおよび非ステロイド系抗炎症化合物を含みうる。
【0048】
本発明の免疫調節性細胞またはそれを含む医薬組成物はまた、その他の治療様式、例えば、副腎皮質ステロイド、非ステロイド系抗炎症化合物または炎症の治療に有用なその他の薬剤と組み合わせてもよい。本発明の薬剤とこれらの他の治療薬または治療様式との併用は、同時であっても、逐次的に与えてもよい。すなわち、2種の治療は、前記免疫調節性細胞またはそれを含む医薬組成物を、他の治療薬または治療様式に先立って与えても、またはその後に与えてもよいように分けることができる。主治医は、免疫調節性細胞、またはそれを含む医薬組成物を、他の薬剤、治療薬または治療様式と組み合わせて投与する適当な順序を決定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0050】
発明の説明
一態様において、本発明は、損傷組織(好ましくは間葉組織)を治療または修復する方法、および/またはかかる治療を必要とする被験体における炎症性および/または免疫障害に関連する1以上の症状を治療、調節、予防および/または改善する方法であって、前記被験体のリンパ系に細胞療法を含む組成物の予防上または治療上有効な量を投与するステップを含むものである前記方法を提供する。従って、さらなる態様において、本発明は、損傷組織(好ましくは、間葉組織)の治療もしくは修復において使用するための、および/または、炎症性障害および/または免疫障害に関連する1以上の症状の治療、調節、予防および/または改善のための、好ましくは、免疫調節性細胞を含む、最も好ましくは、幹細胞、調節性T細胞および/または線維芽細胞を含む細胞療法であって、リンパ系に投与する前記細胞療法を提供する。この細胞療法は、リンパ系内投与用、好ましくはリンパ系内注射用に適合されることが好ましい。
【0051】
幹細胞、調節性T細胞および/または線維芽細胞のリンパ系中への直接投与は、先行技術より優れた、すなわち、従来の前記幹細胞、調節性T細胞および/または線維芽細胞の皮下注射より優れたいくつかの利点を有する、例えば、より低い量の免疫調節性細胞で十分であり;この療法は正規の皮下注射より痛みが少なく;かつ有害な副作用が少ない。さらに、リンパ組織への直接適用によって、例えばリンパ節内注射によって、免疫調節性細胞は破壊された組織の治療または修復部位に、より近く送達される。
【0052】
本発明による免疫調節性細胞、ならびに薬物および前記を含む医薬組成物は、リンパ系内投与と同時に、例えば、皮下投与または舌下投与、経口、経皮(transcutaneously)(局所ワクチン接種)、皮内、髄内、くも膜下腔内、脳室内、鼻腔内、結膜へ、気管支内、経皮(transdermally)、直腸内、腹膜内、筋肉内、肺内、膣内、直腸内、または眼内経路によって従来の経路に投与することができる。
【0053】
本発明による細胞療法は、幹細胞、調節性T細胞および/または線維芽細胞を含むことが好ましい。前記幹細胞は、間葉系幹細胞(本明細書において以下、MSCとも呼ぶ)、最も好ましくは、脂肪組織に由来する、通常、ヒト脂肪組織(hASC)に由来するMSC、すなわち、脂肪由来間葉系幹細胞(本明細書においては以降、ASCとも呼ぶ)であることが特に好ましい。
【0054】
本発明で使用する線維芽細胞は、細胞外マトリックスの合成および維持に関連する間葉由来の結合組織であり、線維芽細胞様滑膜細胞を含むと解釈すべきである。線維芽細胞はいずれかの好適な動物、最も好ましくはヒトから得ることができる。
【0055】
本発明で使用する調節性T細胞(サプレッサーT細胞としても知られる)は、いずれかの好適な供給源、例えば、血液または脾臓に由来してもよい。調節性T細胞は、天然のCD4
+Foxp3
+細胞であってもよく、または体外で単離したおよび/または増殖した調節性T細胞であってもよい。調節性T細胞のex vivo増殖法は当技術分野で公知であり、全血からの単離(例えば、PBMC画分の一部として)と、それに続く、例えば、間葉系幹細胞またはラパマイシンを用いる増殖が含まれる。
【0056】
本発明の方法で用いるMSCは好ましくは結合組織由来である。好ましい実施形態において、前記MSCは脂肪組織由来であり、さらに好ましい実施形態において、脂肪組織の間質画分由来である。代わりの実施形態においては、前記MSCを硝子軟骨の軟骨細胞から得る。さらなる実施形態においては、前記MSCを皮膚から得る。別の実施形態においては、前記MSCを骨髄から得る。
【0057】
MSCは、いずれかの好適な動物、最も好ましくは、ヒトから得た結合組織のいずれかの好適な供給源から得ることができる。前記細胞を無病の哺乳動物の供給源、好ましくは、出生後の(例えば、げっ歯類または霊長類)供給源から得ることが好ましい。好ましい実施形態においては、MSCを結合組織の供給源、例えば、限定されるものでないが、脂肪組織、硝子軟骨、骨髄または皮膚の間質画分から得る。最も好ましくは、本発明の方法のMSCを無病の、出生後の、ヒト間質脂肪組織から得る。
【0058】
本発明の方法によって投与する免疫調節性細胞の意図するレシピエントとの関係については、前記方法で使用するMSC、調節性T細胞および/または線維芽細胞は同種異系(ドナー)または自己(被験体)起源であってもよい。本方法の一実施形態において、前記MSC、調節性T細胞および/または線維芽細胞は同種異系起源である。本方法の一実施形態において、前記MSC、調節性T細胞および/または線維芽細胞は自己起源である。
【0059】
本発明の方法で使用するMSC、調節性T細胞および/または線維芽細胞は、(i)それらが抗原提示細胞に特異的なマーカーを発現しないこと、(ii)それらが、IDO(インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ)を構成的に発現しないこと、(iii)それらが、IFN−γでの刺激時にIDOを発現すること、およびMSCの場合には、(iv)それらが、少なくとも2種の細胞系統に分化する能力を示すことを特徴とすることが好ましい。
【0060】
本発明による幹細胞、調節性T細胞および/または線維芽細胞は、注射に好適な生理学的に許容される担体中で送達されることが好ましい。一般に、使用のための公知のいずれかの生理学的に許容される担体を本発明の実施に用いることができる。かかる担体の選択には、限定されることなく、リンガー液、水、標準の生理食塩水溶液、デキストロース溶液およびアルブミン水が含まれ、これらは当技術分野の技術に包含されることは容易に理解されよう。
【0061】
場合によっては、リンパ系またはその一部、例えば、リンパ管またはリンパ器官、好ましくはリンパ節の限られた領域を、注射の手順で可視化してもよい。超音波、放射線学的またはその他の可視化手段、例えば、コンピューター断層撮影(CATスキャン)を使用して、リンパ節を可視化し、ニードルの位置および腫脹などのリンパ節における変化をモニタリングすることができる。超音波による位置のガイドと注射が容易であるので、腋窩および鼠蹊リンパ節への注射が好ましい。
【0062】
注射に用いる技法は、当技術分野の範囲内である。1つの方法は、二重チャンバーシリンジの使用であり、その場合、細胞調製物は1つのチャンバーに含まれ、そして注射前に混合する液状担体が他のチャンバーに含まれる。他の方法は、液体製剤の細胞を含有する単一チャンバーシリンジを使用することである。
【0063】
用量レジメン
本発明によると、被験体を1以上の用量のリンパ系内投与細胞療法を用いて治療する。これらの用量の数と頻度、および各用量中の投与される細胞数が用量レジメンを形成する。本発明による使用の用量レジメンを以下に記載し、マウスモデルにおける様々なレジメンの有効性を実証するデータを実施例において提供する。
【0064】
少なくとも1、2、3、4、5、10、15またはそれ以上の用量を12時間〜60日またはそれ以上の間隔で投与する。いくつかの実施形態において、各用量は約100〜約100百万細胞;約1000〜約10百万細胞;約10,000〜約1百万細胞;約100〜約1000細胞;約1000〜約10,000細胞;約10,000〜100,000細胞;約100,000〜1百万細胞;約1百万〜10百万細胞;5百万細胞以上;1百万〜10百万細胞;0.5百万〜5百万細胞または約10百万〜100百万細胞を含む。他の実施形態において、各用量は約100細胞以下;約250細胞以下;約500細胞以下;約750細胞以下;約1000細胞以下;約2500細胞以下;約5000細胞以下;約7500細胞以下;約10,000細胞以下;約25,000細胞以下;約50,000細胞以下;約75,000細胞以下;約100,000細胞以下;約250,000細胞以下;約500,000細胞以下;約750,000細胞以下;約1百万細胞以下;約2.5百万細胞以下;約5百万細胞以下;約7.5百万細胞以下;約10百万細胞以下;約25百万細胞以下;約50百万細胞以下;約75百万細胞以下;約100百万細胞以下を含む。ある特定の実施形態において、各用量は100,000細胞未満、典型的には90,000細胞未満、80,000細胞未満、70,000細胞未満、60,000細胞、または50,000細胞未満を含む。いくつかの実施形態において、各用量は1000〜50,000細胞、例えば5,000〜40,000細胞、または10,000〜30,000細胞を含む。
【0065】
以下の実施例1〜3に示したマウスモデルから得たデータは実施例4に詳述した有用なヒト用量と相互関係がある。下表は実施例4に示した仮定(平均マウス体重20グラム;平均ヒト体重80キログラム)に基づくヒト用量を総括したものである。
【表1】
【0066】
例示したマウス用量はそれ故に、安全性を調整したヒト用量の5,800細胞/kg(1用量当たり464,000細胞)〜128,000細胞/kg(1用量当たり10.24百万細胞)と相互関係がある。安全性調整がしばしば規制当局により要求される、しかし全事例においては必須でなくてもよい;安全性調整をしないと、ヒト等価用量はおよそ9百万細胞(およそ100,000細胞/kgにて)〜およそ100百万細胞(およそ1.3百万細胞/kgにて)の範囲にある。従って、本発明による例示の用量は、1用量当たり500,000細胞〜100百万細胞の範囲にある。典型的には、本発明は1用量当たり500,000細胞〜50百万細胞、より典型的には1用量当たり500,000細胞〜10百万細胞、さらにより典型的には1用量当たり1百万〜10百万細胞、例えば1用量当たり2百万〜10百万細胞、1用量当たり3百万〜10百万細胞、1用量当たり4百万〜10百万細胞、1用量当たり5百万〜10百万細胞、1用量当たり1百万〜5百万細胞、1用量当たり5百万より多い細胞、または1用量当たり5百万以下の細胞を提供する。本発明による有用な用量には、1用量当たり2百万以上の細胞、1用量当たり3百万以上の細胞、1用量当たり4百万以上の細胞、1用量当たり5百万以上の細胞、1用量当たり6百万以上の細胞、1用量当たり7百万以上の細胞、1用量当たり8百万以上の細胞、1用量当たり9百万以上の細胞、および1用量当たり10百万以上の細胞が含まれる。実施例4は、5百万細胞を用量として投与し、次いで(異なる患者に)1用量当たり10百万細胞の用量を投与する臨床試験を提案している。
【0067】
本明細書で1用量当たりの絶対数として表現した用量は、ヒトの体重が80kgであると仮定して計算している。従って、これらの用量はいずれも、細胞数を80で除することにより1kg当たりの用量として表現することができる。上の表で特定した、1kg当たりで表現した典型的な用量は、およそ6,000(または以上)細胞/kg、12,000(または以上)細胞/kg、19,000(または以上)細胞/kg、39,000(または以上)細胞/kg、64,000(または以上)細胞/kgおよび128,000(または以上)細胞/kgである。従って、1kg当たりで表現した用量の好適な範囲には、6,000細胞/kg〜128,000細胞/kg;12,000細胞/kg〜64,000細胞/kg;20,000細胞/kg〜50,000細胞/kg;または30,000細胞/kg〜40,000細胞/kgが含まれる。
【0068】
本発明のいくつかの実施形態において、細胞の濃度は約1百万細胞/mL〜70百万細胞/mL;約20百万細胞/mL〜60百万細胞/mL;約30百万細胞/mL〜50百万細胞/mLを含む。他の実施形態において、各用量は約1百万細胞/mL以下;約10百万細胞/mL以下;約20百万細胞/mL以下;約30百万細胞/mL以下;約40百万細胞/mL以下;約50百万細胞/mL以下;約60百万細胞/mL以下;約70百万細胞/mLを含む。実施例4において計画した臨床試験は10百万細胞/mlの濃度を提案している。
【0069】
上述のように、また、実施例1に例示したように、リンパ系内投与が有利である理由は、静脈内投与に必要でありうるより少ない数の細胞を用いて治療効果を達成できることにある。
【0070】
複数の用量を全て、リンパ系の同じ領域または特定の部分に投与することができる。あるいは、複数の用量をリンパ系の異なる領域または特定の部分に投与することができる。一実施形態においては、各用量を異なるリンパ節に投与する。これらの異なる結節は同じ型の2つの結節、例えば、2つの異なる鼠蹊リンパ節であってもよく、または異なる型の2つの結節、例えば、鼠蹊リンパ節と腋窩リンパ節であってもよい。複数の結節への投与はそれぞれの注射部位の外傷の軽減、および患者コンプライアンス増加の可能性の利点を有する。
【0071】
典型的には、用量間の最短間隔はおよそ12時間であり、用量間の最長間隔はおよそ60日である。典型的には、用量を少なくとも24時間離れて、少なくとも2、3、4、5、6、または7日離れて、または少なくとも8、9、10、11、12、13、14、15日間以上離れて投与する。3以上の用量を投与するときには、用量の間隔は同じかまたは異なってもよく、すなわち第1と第2の投薬の間隔は引き続いての用量の間隔と同じであってもまたは異なってもよい。例えば、3用量を投与する場合、第1の間隔は7日であって、第2の間隔は4、5、6、8またはそれ以上の日数であってもよい。
【0072】
複数の用量を投与する期間は、典型的には、12時間〜60日、例えば5、6、7、8、9、10、またはそれ以上の日数、典型的には14、15、16、17、18、19、20、21日またはそれ以上、例えば30日にわたる期間である。それ故に、投与する完全な用量レジメンの典型的な期間は1週間、2週間、3週間または1か月である。その期間にわたって投与する用量数は投与頻度(すなわち、用量間の間隔)に依存する。例えば、もし用量レジメンが15日で用量間の間隔が14日であれば、第1日と第15日の2用量だけを投与しうる。
【0073】
典型的には、1、2、3、4または5用量を投与する。2用量を投与する場合、2つの用量を典型的には5、6、7、8、9、10日またはそれ以上の日だけ離れて投与する。例えば、2つの投与を、第1日および第6日に、第1日および第7日に、第1日および第8日に、第1日および第9日に、第1日および第10日に、または第1日および第11日に投与してもよい。2つの投与を、少なくとも14日離れて、例えば第1日および第15日に、第1日および第30日に、または第1日および第15〜30日の間のいずれかの日に投与してもよい。2回用量レジメンにおける典型的な第2用量の投与日は第6日、第7日、第9日、第10日、第15日および第30日であってもよい。
【0074】
3用量を投与する場合、それらの3用量を、典型的には少なくとも5、6または7日離れて、少なくとも11日にわたって、例えば、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25またはそれ以上の日数、例えば、30日の期間にわたって投与する。この実施形態において、典型的な投与スケジュールは第1日、第8日および第30日における用量の投与を含むものである。等しく典型的な投与スケジュールは第1日、第15日および第30日における1用量の投与を含むものである。間隔の異なる3用量の投与もまた、上記のように、可能である。この一例は第1日、第15日および第21日である。
【0075】
4以上の用量を投与する場合、用量は典型的には少なくとも5、6、または7日離れて、さらに典型的には少なくとも10、11、12、13、14またはそれ以上の日数離れて投与する。例えば、5用量に対する典型的な投与スケジュールは第1日、第15日、第30日、第45日および第60日における投与である。間隔が同一でない4用量の一例は第1日、第15日、第21日および第30日である。
【0076】
以下の実施例2および3のデータは、少なくとも7日の投与間隔を実証する。
図3と4は、第1日と第8日における細胞の投与が有利であり、そして第1日、第8日および第15日の投与が最適であることを示す。第1日、第15日および第30日の投与も有利であることを示す。
【0077】
それぞれの用量を単一処置(例えば、注射)で、または、複数の投与処置(例えば、複数の注射)により被験体に投与してもよい。例えば、用量が50,000細胞を投与する必要のある場合、これらの細胞を、単一注射により、または各25,000細胞の2回注射により投与してもよい。同様に、もし80,000細胞を投与するのであれば、これらを単一注射によりまたは複数注射、例えば、各40,000細胞の2回の別々の注射、または各20,000細胞の4回の別々の注射により投与してもよい。実施例は、各用量の半分の第1鼠蹊リンパ節への投与および各用量の(残りの)半分の第2鼠蹊リンパ節への投与を実証し:その用量が5百万細胞である場合、2.5百万細胞を第1鼠蹊リンパ節へ投与してもよく;そして2.5百万細胞を第2鼠蹊リンパ節へ投与してもよく;同様に、その用量が10百万細胞である場合、5百万細胞を第1鼠蹊リンパ節へ投与してもよく;そして5百万細胞を第2鼠蹊リンパ節へ投与してもよい。単一用量を複数投与処置により投与する場合、複数処置を全ておよそ1時間内に、典型的には半時間内に完了すべきである。典型的には、複数投与処置(例えば、注射)は逐次、同時的に、または同時に行われるであろう。複数投与処置を全て、リンパ系の同じ領域、または同じ特定の領域、例えば、リンパ節に投与することができる。あるいは、複数投与処置(例えば、注射)をリンパ系の異なる領域または特定部位に投与することができる。一実施形態においては、単一用量を複数処置(例えば、注射)により異なるリンパ節に投与する。これらの異なる結節は同じ型の2つの結節、例えば、2つの異なる鼠蹊リンパ節であってもよく、または異なる型の2つの結節、例えば、鼠蹊リンパ節と腋窩リンパ節であってもよい。複数の結節への投与は、各注射部位に対する外傷軽減のさらなる利益を有し、患者コンプライアンスを潜在的に増加する。
【0078】
以下の実施例は、本発明による様々な用量レジメンの効力を実証する。実施例1は、320,000増殖ヒト脂肪幹細胞の2用量のリンパ系内投与(上の表に記したように、使用した安全因子に応じてヒトにおける1用量当たりおよそ5百万〜10百万細胞、または安全因子無しでおよそ100百万細胞)が慢性関節リウマチのマウスモデルにおいて有意に関節炎を軽減しかつ静脈内投与より少ない細胞数でより高い治療効果を達成することを実証する。実施例2は、実施例1と同じ用量の、少なくとも1週間間隔だけ離れたリンパ系内投与(320,000増殖ヒト脂肪幹細胞;ヒトにおける1用量当たりおよそ5百万〜10百万細胞と等価)が関節炎の重症度を低減することを実証する。さらに、それぞれ1週間間隔のこの用量の3回投与(再び、1リンパ節当たり160,000 eASCとして送達した)はさらに高い治療効果を示す。さらに実施例2は、第1日+第8日、ならびにまた、第1日、第8日および第15日における投与は全白血球数を健常な対照動物(グループG)のそれ近くに維持し、これはeASCsの抗-炎症性効果を示す。1週間の用量間隔はそれ故に特に有利であることが示される。実施例3は最適な第1日、第8日および第15日間隔を用いて:(i)320,000細胞(1用量当たりおよそ5百万〜10百万細胞等価用量、安全因子使用時);(ii)97,000細胞(ヒトにおいて、1用量当たりおよそ1.5百万〜3百万細胞);または(iii)29,000細胞(ヒトにおいて、1用量当たりおよそ0.5百万〜1百万細胞)を試験する。これらの用量はそれぞれ、関節炎の重症度を低減することを示す。驚くべきことに、97,000細胞の「中間」用量(使った安全因子に応じてヒトにおける1用量当たりおよそ1.5百万〜3百万細胞、または安全因子無しでおよそ30百万細胞の等価用量)の第1日、第8日および第15日における投与は、関節炎の重症度を大きく低減することを示した。
【0079】
疑義を挟まないために付記すると、上記用量レジメンは全てのリンパ系部位に対する投与に好適である。従って、典型的な用量レジメンは、上記レジメンを用いる、リンパ節、例えば、鼠径リンパ節(例えば、表面および/または深部の鼠径リンパ節)への投与に関わる。
【0080】
MSC表現型マーカー
本発明の好ましい方法に用いるMSCは、好ましくは、APC(抗原提示細胞)表現型に関連するマーカーに対して陰性である。従って、前記MSCは次のマーカー:CD11b;CD11c;CD14;CD45;HLA11の少なくとも1つ、2つ、3つ、4つまたは好ましくは全てに対して陰性であることが好ましい。さらに、MSCは次の細胞表面マーカー:CD31;CD34;CD133の少なくとも1つ、2つまたは好ましくは全てに対して陰性であることが好ましい。
【0081】
特別な実施形態において、本発明の方法で使用するMSCは、好ましくは、次の細胞表面マーカー:CD9、CD44、CD54、CD90およびCD105の少なくとも1つ、2つ、3つ、4つまたは好ましくは全てを発現する(すなわち、陽性である)ことを特徴とするのが好ましい。好ましくは、MSCは、前記細胞表面マーカー:CD9、CD44、CD54、CD90およびCD105の少なくとも1つ、2つ、3つ、4つまたは好ましくは全ての有意な発現レベルを有することを特徴とするのが好ましい。
【0082】
任意に、MSCはまた、細胞表面マーカーCD106(VCAM-1)に対して陰性であってもよい。本発明の方法に用いるのに好適なMSCの例は、当技術分野において、例えば、参照によりその全てが本明細書に組み込まれるWO-A-2007/039150に記載されている。
【0083】
分化
本発明の方法に用いるのに好適なMSCは、好ましくは多分化能(multipotent)または多能性(pluripotent)幹細胞であり、少なくとも2、より好ましくは、3、4、5、6、7またはそれ以上の細胞系統に増殖しかつ分化する能力を示しうる。説明のために挙げれば、前記MSCが分化しうる細胞系統の非限定の例には、骨細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、腱細胞、筋細胞、心筋細胞、造血性支持間質細胞、内皮細胞、ニューロン、星状膠細胞、および肝細胞が含まれる。MSCは通常の方法によって他系列の細胞に増殖および分化することができる。分化した細胞をそれらの未分化の対応細胞から特定し、続いて単離する方法もまた、当技術分野で周知の方法により行うことができる。
【0084】
MSC単離
MSCを単離する方法は当技術分野で公知であり、いずれの好適な方法を用いてもよい。一実施形態において、ASCの単離は次のステップ:
(i)脂肪組織のサンプルから細胞懸濁液を調製するステップ;
(ii)前記細胞懸濁液から細胞を回収するステップ;
(iii)前記細胞を、固体表面上の好適な細胞培地において、細胞が固体表面に接着しかつ増殖することが可能な条件下でインキュベーションするステップ;
(iv)インキュベーションの後に前記固体表面を洗浄して非接着細胞を取り除くステップ;
(v)少なくとも2回、かかる培地で継代した後に前記固体表面に接着したまま残る細胞を選択するステップ;および
(vi)選択した細胞集団が目的の表現型を示すことを確認するステップ
を含むものでありうる。
【0085】
本明細書で使用する用語「固体表面」は、ASCが接着しうるいずれかの材料を意味する。特別な実施形態において、前記材料は哺乳動物細胞のその表面との接着を促進するように処理したプラスチック材料、例えば、ポリ-D-リシンまたは他の試薬でコーティングした市販のポリスチレンプレートである。
【0086】
ステップ(i)〜(vi)は当業者に公知の通常の技法により行うことができる。概要を述べると、ASCを以上考察したいずれかの好適な動物から得たいずれかの好適な供給源から得ることができる。典型的には、ヒト脂肪細胞を、生存ドナーからよく認識されたプロトコル、例えば、外科または吸引脂肪組織切除を用いて得る。実際、脂肪吸引手順は一般的に行われていて、脂肪吸引流出物はASCを誘導しうる特に好ましい供給源である。従って、特別な実施形態において、ASCは脂肪吸引により得たヒト脂肪組織の間質画分由来である。
【0087】
好ましくは、組織を洗浄し、その後、加工処理してASCを残りの材料から分離する。通常用いるプロトコルにおいては、組織のサンプルを生理学的に適合しうる生理食塩水溶液(例えば、リン酸塩緩衝化生理食塩水(PBS))で洗浄し次いで激しく撹拌して静置し、組織から結合力の弱い物質(例えば、損傷組織、血液、赤血球など)を除去するステップを含む。こうして、洗浄と静置ステップを一般に、上清からデブリスが除去されて比較的きれいになるまで繰り返す。残りの細胞は一般に様々なサイズの凝集塊で存在しうるので、プロトコルは細胞自身の損傷を最小限にする一方、その粗構造の分解を測定するステップを用いて進める。これを行う1つの方法は、洗浄した細胞塊を細胞間の結合を弱めるかまたは破壊する酵素(例えば、コラゲナーゼ、ディスパーゼ、トリプシンなど)によって処理することである。かかる酵素処理の量と時間は、使用条件に応じて変わりうるが、かかる酵素の使用は当技術分野で公知である。あるいは、または、かかる酵素処理と併せて、他の処理、例えば、機械撹拌、音エネルギー、熱エネルギーなどを用いて、細胞塊を分解してもよい。もし分解を酵素法により実施するのであれば、好適な時間後に酵素を中和して、細胞に与える有害な効果を最小化することが望ましい。
【0088】
分解ステップは典型的には、凝集細胞のスラリーもしくは懸濁液と、概して遊離した間質細胞(例えば、例えば、赤血球、平滑筋細胞、内皮細胞、線維芽細胞、および幹細胞)を含有する液画分とを生成する。分離プロセスの次の段階は凝集細胞をASCから分離することである。これは遠心分離により達成することができ、細胞を強制的にペレット化し、上清で覆う。次いで上清を廃棄して、ペレットを生理学的に適合しうる液中に懸濁化する。さらに、懸濁化細胞は典型的には赤血球を含み、そしてほとんどのプロトコルではそれを溶解することが所望される。赤血球を選択的に溶解する方法は当技術分野では公知であり、いずれかの好適なプロトコル(例えば、塩化アンモニウムなどを用いることによる高張または低張培地)を使うことができる。勿論、もし赤血球が溶解すれば、次いで残りの細胞を、例えば、濾過、沈降、または密度分画により溶菌液から分離すべきである。
【0089】
赤血球を溶解するかどうかに関係なく、懸濁した細胞を洗浄し、再遠心分離し、そして1回以上続けて再懸濁してさらに高い純度を得ることができる。あるいは、細胞を細胞表面マーカープロファイルに基づいてまたは細胞サイズおよび粒度に基づいて分離することができる。
【0090】
最終的な単離と再懸濁の後、その細胞を培養し、所望であれば、細胞数と生存率を試験して収率を評価することができる。好ましくは、細胞を分化させずに、固体表面上で、好適な細胞培地を用いて、適当な細胞密度と培養条件にて培養しうる。従って、特別な実施形態においては、細胞を分化させずに、通常プラスチック材料製の、固体表面、例えば、ペトリ皿または細胞培養フラスコ上で、好適な細胞培地[例えば、典型的には、5〜15%(例えば、10%)の好適な血清、例えば、ウシ胎児血清またはヒト血清を補充したDMEM]の存在のもとで培養し、そして、細胞が固体表面に接着して増殖しうる条件下でインキュベーションする。インキュベーションの後、非接着の細胞および細胞断片を除去するために、細胞を洗浄する。細胞を同じ培地でかつ同じ条件下で、細胞が十分な集密に、典型的には約70%、約80%または約90%の細胞集密に到達するまで、必要なときは細胞培地を置換えて、培養を維持する。所望の細胞集密に到達した後、剥離剤、例えば、トリプシンを用いて、新しい細胞培養表面上に適当な細胞密度(通常2,000〜10,000細胞/cm
2)でまいて細胞を連続継代により増殖することができる。従って、これらの細胞を次いで、かかる培地でその発生表現型を保持する一方、分化することなしに少なくとも2回、そしてより好ましくは、これらの細胞を発生表現型を失うことなしに少なくとも10回(例えば、少なくとも15回またはさらに少なくとも20回)継代する。
【0091】
典型的には、細胞を所望の密度、例えば、約100細胞/cm
2〜約100,000細胞/cm
2(例えば、約500細胞/cm
2〜約50,000細胞/cm
2、または、さらに特に、約1,000細胞/cm
2〜約20,000細胞/cm
2)でまく。もしより低い密度(例えば、約300細胞/cm
2)でまけば、細胞をより容易にクローンに単離することができる。例えば、数日後に、かかる密度でまいた細胞は均一な集団に増殖しうる。特別な実施形態において、細胞密度は2,000〜10,000細胞/cm
2である。
【0092】
少なくとも2継代を含むかかる処理後に固体表面に接着して残る細胞を選択し、以下に述べるようにASCの同一性を確認するために、目的の表現型を通常の方法により分析する。最初の継代後に固体表面に接着して残る細胞は不均一な起源由来であり;それ故に、前記細胞は少なくとももう1回継代しなければならない。以上の方法の結果、目的の表現型を有する均一な細胞集団が得られる。少なくとも2継代後の固体表面への細胞の接着はASCを選択する本発明の好ましい実施形態を構成する。目的の表現型の確認は通常の手段を用いることにより行うことができる。
【0093】
好ましくは、前記増殖は、前記集団の少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも15または少なくとも20回の倍増または3倍増により行われる。さらなる実施形態において、前記増殖は少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも15または少なくとも20継代にわたって行われる。
【0094】
細胞表面マーカーは、通常、陽性/陰性選択(例えば、細胞表面マーカーに対するモノクローナル抗体の細胞中の存在/非存在を確認する選択)に基づくいずれかの好適な慣用の技法により特定することができる;勿論、他の技法を用いてもよい。従って特別な実施形態においては、CD11b、CD11c、CD14、CD45、HLA11、CD31、CD34およびCD133の1、2、3、4、5、6、7または好ましくは全てに対するモノクローナル抗体を、選択した細胞中の前記マーカーの非存在を確認するために使用し;そしてCD9、CD44、CD54、CD90およびCD105の1、2、3、4または好ましくは全てに対するモノクローナル抗体を、それらの存在または前記マーカーの少なくとも1、および好ましくは全ての存在または検出可能な発現レベルを確認するために使用する。前記モノクローナル抗体は公知であって、市販されているかまたは当業者は慣用の方法により取得することができる。
【0095】
選択した細胞のIFN-γ-誘導性のIDO活性はいずれかの好適な慣用のアッセイにより定量することができる。例えば、選択した細胞をIFN-γで刺激し、IDO発現を試験することができる;すなわち、次いでIDOタンパク質発現に対する慣用のウェスタンブロット分析を実施し、選択した細胞のIFN-γ刺激後のIDO酵素活性を、例えば、高性能液体クロマトグラフィ(HPLC)分析および読出し値として上清中のキヌレニン濃度の測光定量を介して、トリプトファン-キヌレニン変換により測定することができる。ASCはある特定の条件下でIDOを発現するので、IFN-γ刺激後のIDO活性の検出を、ASCを選択するために用いることができる。産生されるIDOの量は1平方センチメートル当たりの細胞数に依存し、好ましくは、5000細胞/cm
2以上のレベルであるが、この濃度に限定されるものでなく、そしてIFN-γの濃度は理想的には3ng/ml以上であるが、この濃度に限定されるものではない。記載した条件下で産生されるIDOの活性は、24時間以上後に、検出可能なマイクロM範囲のキヌレニンを生じうる。
【0096】
選択した細胞の少なくとも2つの細胞系統へ分化する能力は当技術分野で公知の慣用の方法により試験することができる。
【0097】
ASCは、所望であれば、細胞集団をクローニングする好適な方法を用いて、クローンとして増殖することができ、例えば、細胞の増殖集団を物理的に拾い、別の表面(またはマルチウエルプレートの壁)にまくことができる。あるいは細胞を、マルチウエルプレート上に、単一細胞を各ウエル中に置くのを促進する統計比(例えば、約0.1〜約1細胞/ウエルまたはさらに約0.25〜約0.5細胞/ウエル、例えば0.5細胞/ウエル)でサブクローニングすることができる。勿論、細胞は、低密度で(例えば、ペトリ皿または他の好適な基質に)まき、クローニング環などのデバイスを用いてそれらを他の細胞から単離することによりクローニングしてもよい。クローン集団の産生をいずれかの好適な培地で増殖することができる。いずれかの処置において単離した細胞をそれらの発生表現型を評価できる好適な点まで培養することができる。
【0098】
分化を誘導しないASCのex vivo増殖を長時間実施できることは示されており、例えば、特別にスクリーニングした好適な血清(例えば、ウシ胎児血清またはヒト血清)のロットを用いることによる。生存率および収率を測定する方法は当技術分野で公知である(例えば、トリパンブルー排除試験法)。
【0099】
本発明の細胞集団の細胞を単離するためのいずれかのステップおよび手順は、所望であれば、手作業で実施することができる。あるいは、かかる細胞を単離するプロセスは1以上の好適なデバイスを通して促進および/または自動化することができ、それらは当技術分野で公知である。
【0100】
MSC細胞培養
前記MSCはまた、ex vivoで増殖することができる。すなわち、単離後に、前記MSCを細胞培地においてex vivoで維持しかつ増殖することができる。かかる培地は、例えば、抗生物質(例えば、100単位/mlペニシリンおよび100μg/mlストレプトマイシン)を伴うまたは抗生物質を伴わない、および2mMグルタミン、および2〜20%ウシ胎児血清(FBS)を補充した、Dulbecco改変Eagle培地(DMEM)から構成される。使用する細胞に必要な培地および/または培地補助剤の濃度を改変または調節することは当業者の技法の範囲内である。血清はしばしば、生存と増殖のために必要な細胞因子および非細胞因子ならびに成分を含有する。血清の例には、ウシ胎児血清(FBS)、ウシ血清(BS)、子ウシ血清(CS)、胎児子ウシ血清(FCS)、新生児子ウシ血清(NCS)、ヤギ血清(GS)、ウマ血清(HS)、ブタ血清、ヒツジ血清、ウサギ血清、ラット血清(RS)などが含まれる。もし前記MSCがヒト起源であれば、細胞培地を好ましくは、自己起源のヒト血清で補充することも本発明の範囲内にある。もし補体カスケードの成分の不活化が必要と思われれば、血清を55〜65℃にて熱不活化できることは理解されている。血清濃度の調節および/または培地からの血清の離脱も、1以上の所望の細胞型の生存を促進するために利用することができる。好ましくは、前記MSCは約2%〜約25%のFBS濃度が有利であろう。他の実施形態においては、当技術分野で公知のように、MSCを一定の細胞培地[血清が血清アルブミン、血清トランスフェリン、セレン、ならびに、限定されるものでないが、インスリン、血小板由来の成長因子(PDGF)、および塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)を含む組換えタンパク質の組み合わせにより置換えられた]において増殖することができる。
【0101】
多くの細胞培地は既にアミノ酸類を含有するが、細胞培養の前にいくつかのアミノ酸を補充する必要がある。かかるアミノ酸には、限定されるものでないが、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン酸、L-アスパラギン、L-システイン、L-シスチン、L-グルタミン酸、L-グルタミン、L-グリシンなどが含まれる。
【0102】
典型的には、細菌、マイコプラズマ、および真菌の汚染を軽減するために抗菌剤も用いられる。典型的に用いられる抗生物質または抗糸状菌化合物はペニシリン/ストレプトマイシンの混合物であるが、限定されることなく、アムフォテリシン(ファンギゾン(R))、アンピシリン、ゲンタマイシン、ブレオマイシン、ハイグロマイシン、カナマイシン、マイトマイシンなども含みうる。
【0103】
ホルモンを細胞培養に用いることも有利であり、前記ホルモンには、限定されるものでないが、D-アルドステロン、ジエチルスチルベストロール(DES)、デキサメタゾン、b-エストラジオール、ヒドロコルチゾン、インスリン、プロラクチン、プロゲステロン、ソマトスタチン/ヒト成長ホルモン(HGH)などが含まれる。
【0104】
増殖細胞
一実施形態においては、MSC、調節性T細胞および/または線維芽細胞を本発明の方法における使用に先立って増殖しておくことができる。細胞を増殖する方法は、上記のように、当技術分野で公知である。
【0105】
遺伝子工学で作製した細胞
他の実施形態において、MSC、調節性T細胞および/または線維芽細胞は遺伝子工学で作製した細胞(例えば、外因性核酸による形質導入または形質移入)、またはそれらの誘導体であってもよい。
【0106】
例えば、前記細胞は、例えば、前記酵素および任意に好適なプロモーター配列をコードする適当な核酸構築物を用いる形質移入により、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)を構成的に発現するように遺伝子工学で作製することができる。細胞の遺伝子工学は当技術分野で公知であり、当業者はそれを行うことができる。
【0107】
照射した細胞
さらに他の実施形態においては、MSC、調節性T細胞および/または線維芽細胞を本発明の方法における使用に先立って照射しておくことができる。細胞の照射はそれらの増殖能力および生存時間を低減する。
【0108】
照射は好適な制御された電離放射線の供給源、例えばγ照射デバイスを用いて行うことができる。照射条件はMSC、調節性T細胞および/または線維芽細胞の長期間増殖停止を引き起こす照射用量を加えるために必要な曝露時間となるように、当業者が実験的に調節しなければならない。一実施形態においては、前記照射用量は1〜100Gy;5〜85Gy、10〜70Gy、12〜60Gyから成る群より選択される範囲内であるが、前記照射用量は15〜45Gy、典型的には20〜30Gyまたは22〜28Gy内であることが特に好ましい。
【0109】
CD26アンタゴニスト処理した細胞
さらに他の実施形態においては、MSC、調節性T細胞および/または線維芽細胞を、本発明の方法における使用に先立って、CD26アンタゴニストまたはインヒビターで処理することができる。CD26アンタゴニストおよびインヒビターは当技術分野で公知であり、限定されるものでないが、アミノメチルピリジン;P32/98;NVP DPP728;PSN9301;イソロイシンチアゾリジド;デナグリプチン;シタグリプチン;ビラダグリプチン;サクサグリプチン;アログリプチン;ジプロチンAが含まれ、かかる処理は当業者により行うことができる。
【0110】
IFN-γ刺激した細胞
他の実施形態においては、MSC、調節性T細胞および/または線維芽細胞を、本発明の方法における使用に先立って、インターフェロンγで刺激することができる。MSCを刺激するIFN-γ処理は当技術分野で公知であり(例えば、Krampera et al、Stem Cells, 2006 Feb;24(2):386-98)、当業者により行うことができる。
【0111】
抗原刺激した細胞
さらに他の実施形態においては、MSC、調節性T細胞および/または線維芽細胞を、本発明の方法における使用に先立って、抗原で刺激することができる。MSCを刺激する抗原処理は当技術分野で公知であり、当業者により行うことができる。
【0112】
マイトマイシンC処理したMSC
さらに他の実施形態においては、MSC、調節性T細胞および/または線維芽細胞を、本発明の方法における使用に先立って、マイトマイシンCで処理することができる。MSCのマイトマイシンC処理は当技術分野で公知であり、当業者により行うことができる。
【0113】
さらに、所望であれば、MSC、調節性T細胞および/または線維芽細胞を、本発明の方法における使用に先立って、照射、IFN-γ刺激およびマイトマイシンC処理から成る群より選択される2つまたは3つの処理の組み合わせで処理することができる。
【0114】
前記MSCの維持条件はまた、細胞が未分化の形態で残ることを可能にする細胞因子を含有しうる。分化に先立って細胞分化を阻止する補充剤を培地から除去しなければならないことは当業者に明らかである。全ての細胞がこれらの因子を必要としないことも明らかである。実際、これらの因子は細胞型に応じて、欲しない効果を誘発しうる。
【0115】
抗原との組み合わせ
他の態様において、本発明はかかる治療を必要とする被験体における、損傷組織(好ましくは、間葉組織)を治療または修復する方法、および/または炎症性および/または免疫障害に関連する1以上の症状を治療、調節、予防、および/または改善する方法であって、前記被験体のリンパ系に、予防上または治療上有効な量の細胞療法(最も好ましくは、MSC、調節性T細胞および/または線維芽細胞を含む)含む組成物を投与するステップを含み、かつさらに抗原の前記被験体の直接リンパ系への投与を含むものである前記方法を提供する。前記抗原を、細胞療法の投与の前に、同時にまたは引き続いて投与してもよい。抗原を、細胞療法の投与の、少なくとも1、2、3、5または10時間前に、または引き続いて投与してもよい。必要な抗原の用量を当業者は容易に決定することができる。典型的には、抗原を、1μg〜500mg、典型的には50μg〜250mg、100μg〜100mg、または1mg〜50mgの用量で投与する。100μg〜100mgの抗原の用量を典型的には、上に詳述した細胞の用量、典型的には100,000〜1百万細胞、250,000〜1百万細胞、500,000〜1,000,00細胞、100,000〜500,000細胞、250,000〜500,000細胞、または100,000〜250,000細胞と組み合わせる。他の実施形態においては、100μg〜100mgの抗原の用量を、100,000細胞より少ないまたは5百万細胞より多い細胞を含む用量と組み合わせる。
【0116】
前記方法に用いる抗原は、選ばれた抗原、抗原のグループ、または前記抗原を発現および/または提示する細胞型であってもよい。一実施形態において、抗原は、自己免疫を患う患者由来の自己抗原の混合物、ペプチド抗原、改変されたペプチドリガンド、組換えタンパク質またはそれらの断片から成る群より選択される。一実施形態において、前記抗原は関節炎(例えば、限定されるものでないが、コラーゲン抗原、例えばヒト1型および/または2型コラーゲン)に関連する。代わりの実施形態において、前記抗原はセリアック病に関連する。セリアック病に関連する抗原は、プロラミンのいくつかの型を含むグルテンファミリーのメンバー(例えば、限定されるものでないが、グリアジン、ホルデイン、および/またはセカリン)である。さらなる実施形態において、前記抗原は多発性硬化症(例えば、限定されるものでないが、ミエリン抗原)に関連する。かかる抗原を単離、精製および調製する方法は当業者に公知である。
【0117】
投与
本発明の全ての態様の細胞療法を、リンパ器官、最も好ましくは、末梢リンパ器官に直接投与することが特に好ましく、前記リンパ器官には、限定されるものでないが、リンパ節、最も好ましくは腋または鼠蹊リンパ節、典型的には表面鼠径リンパ節または深部鼠径リンパ節が含まれる。リンパ節を欠くかまたはそれらに欠陥がある個体においては、細胞療法をリンパ組織または免疫細胞に送達してもよい。
【0118】
リンパ系内に投与する方法は当技術分野で公知であり、通常、注射デバイス(例えば、シリンジ)を用いて行う。投与は、画像処理デバイス、例えば、限定されるものでないが、放射線、超音波およびコンピューター化アキシャル断層撮影(CATスキャン)の方法により支援しかつ観察することができる。これにより、細胞療法の正確な投与およびまた有害処置に対するリンパ器官のモニタリングが可能になる。
【0119】
使用、医薬品および組成物
さらに他の態様において、本発明はリンパ系へ投与するための幹細胞、調節性T細胞および/または線維芽細胞を提供する。
【0120】
他の態様において、本発明は幹細胞、調節性T細胞および/または線維芽細胞の投与により、損傷組織(好ましくは間葉組織)を治療または修復するための、および/または、炎症性および/または免疫障害に関連する1以上の症状を治療、調節、予防、および/または改善するための医薬品として、幹細胞、調節性T細胞および/または線維芽細胞の使用を提供する。
【0121】
本発明の代わりの態様は、幹細胞、調節性T細胞および/または線維芽細胞の投与により、損傷組織(好ましくは間葉組織)を治療または修復するための、および/または、炎症性および/または免疫障害に関連する1以上の症状を治療、調節、予防、および/または改善するための医薬品の製造における幹細胞、調節性T細胞および/または線維芽細胞の使用を提供する。
【0122】
さらなる態様において、本発明はリンパ系へ投与するための、幹細胞、調節性T細胞および/または線維芽細胞を含む医薬組成物を提供する。前記医薬組成物は、損傷組織、または炎症性および/または免疫障害に関連する1以上の症状、例えば、限定されるものでないが、移植した器官および組織の拒絶を含む、自己免疫疾患、炎症性障害、および免疫学的に媒介される疾患の治療、修復、予防、および/または改善に使用される。典型的には、医薬組成物は1用量に必要な細胞数を含みうるのであって、1用量当たりの好適な細胞数は詳しく先に記載されており、例えば約100〜約100百万細胞;約1000〜約10百万細胞;約10,000〜約1百万細胞;約100〜約1000細胞;約1000〜約10,000細胞;約10,000〜100,000細胞;約100,000〜1百万細胞;約1百万〜10百万細胞;約10百万〜100百万細胞である。典型的には、組成物は、500,000細胞〜50百万細胞、より典型的には500,000細胞〜10百万細胞、さらにより典型的には1百万〜10百万細胞、例えば1百万〜5百万細胞、5百万細胞超、または5百万以下の細胞を含む単一用量を含有しうる。従って、本発明に有用な組成物は、2百万以上の細胞、3百万以上の細胞、4百万以上の細胞、5百万以上の細胞、6百万以上の細胞、7百万以上の細胞、8百万以上の細胞、9百万以上の細胞、または10百万以上の細胞を含む。
【0123】
本発明の一実施形態において、医薬組成物はさらに、抗原、抗原のグループまたは前記抗原を発現および/または提示する細胞型を含むものである。この抗原は典型的には、組成物中に1μg〜500mg、典型的には50μg〜250mg、100μg〜100mg、または1mg〜50mgが存在する。一実施形態において、抗原は、自己免疫を患う患者由来の自己抗原の混合物、ペプチド抗原、核酸、改変されたペプチドリガンド、組換えタンパク質またはそれらの断片から成る群より選択される。一実施形態において、前記抗原は関節炎に関連し、例えば、限定されるものでないが、コラーゲン抗原、典型的にはヒト1型(1型α1および/または1型α2)コラーゲンおよび/またはヒト2型コラーゲンである。代わりの実施形態において、前記抗原はセリアック病に関連する。セリアック病に関連する抗原は、プロラミンのいくつかの型を含むグルテンファミリーのメンバー(例えば、限定されるものでないが、グリアジン、ホルデイン、および/またはセカリン)である。グルテンおよびその成分、グルタミンおよびグリアジンは、セリアック病に関連する好ましい抗原である。さらなる実施形態において、前記抗原は多発性硬化症に関連するものであって、例えば、限定されるものでないが、ミエリン抗原およびミエリン成分抗原、例えば、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、ミエリンオリゴデンドログリア糖タンパク質(MOG)、プロテオリピドタンパク質(PLP)およびミエリン糖脂質、例えば、ガラクトセレブロシドである。かかる抗原を単離、精製 および 調製する方法は当業者に公知である。
【0124】
本発明の医薬組成物は、予防上または治療上有効な量の幹細胞、調節性T細胞および/または線維芽細胞、任意に抗原、および医薬品担体を含むものである。これらの細胞型のそれぞれに対する用量および用量レジメンの例は先に与えた通りである。好適な医薬品担体は当技術分野で公知であり、好ましくは、米国の連邦または州政府の規制当局により認可されたものまたは米国薬局方もしくは欧州薬局方、その他の一般に認められた動物、およびさらに特にヒトにおける使用に対する薬局方に掲げられたものである。用語「担体」は治療薬と共に投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルを意味する。好適な担体の一例はリンガー乳酸溶液である。その組成物はまた、所望であれば、少量のpH緩衝化剤を含有してもよい。担体は、貯蔵培地、例えば、ハイポサーモゾル(登録商標)(Hypothermosol、BioLife Solutions Inc., USAから市販されている)を含んでもよい。好適な医薬品担体の例は、E W Martinによる"Remington's Pharmaceutical Sciences"に記載されている。かかる組成物は、予防上または治療上有効な量の予防または治療薬を好ましくは精製された形態で好適な量の担体と一緒に含有して、被験体への適当な投与のための剤形を提供しうる。製剤は投与様式に相応しいものにすべきである。好ましい実施形態において、医薬組成物は無菌でかつ被験体、好ましくは動物被験体、より好ましくは哺乳動物被験体、そして最も好ましくはヒト被験体への投与に好適な形態である。
【0125】
本発明の医薬組成物は様々な剤形でありうる。これらには、例えば、半固体、および 液体の投与剤形、例えば、凍結乾燥調製物、溶液または懸濁液、注射可能なおよび輸液可能な溶液などが含まれる。上記の通り、医薬組成物は好ましくは注射可能である。
【0126】
本発明の方法、医薬品、組成物および細胞は、損傷組織(好ましくは間葉組織)を治療または修復するために、および/または炎症性および/または免疫障害に関連する1以上の症状を治療、調節、予防、および/または改善するために使用されることが好ましい。従って、本発明の方法および細胞は、前記症状のいずれかまたは全てを特徴とするいずれかの障害の治療に有用である。かかる障害の代表的な非網羅的なリストは定義の節にて提供されている。特に好ましいのは、セリアック病、慢性関節リウマチ(RA)、炎症性腸疾患(クローン疾患および/または潰瘍性大腸炎を含むIBD)および多発性硬化症(MS)の治療における本発明の方法、医薬品、組成物の使用である。さらにより特に好ましいのは、本発明の方法、医薬品、組成物および細胞の、慢性関節リウマチの治療における使用である。
【0127】
本発明の方法または組成物が1以上の抗原を含む場合、その方法を前記抗原に関連するまたは誘導される障害の治療に用いることが好ましく、例えば、抗原がコラーゲン(典型的にはヒト1型α1、ヒト1型α2および/またはヒト2型コラーゲン)である場合、その方法を関節炎の治療に用いることができ、抗原がグルテン成分である場合、その方法をセリアック病の治療に用いることができ、抗原がミエリン成分である場合、その方法または組成物を多発性硬化症の治療に用いることができる。
【0128】
さらなる態様において本発明は、i)幹細胞、調節性T細胞および/または線維芽細胞集団を含む医薬品およびii)本発明の方法によりそれらを使用するための指導書を含むキットを提供する。幹細胞、調節性T細胞および/または線維芽細胞集団は1以上、典型的には2以上の用量(上記の通り)の細胞を含む。
【0129】
さらなる実施形態において、前記キットはさらにiii)1以上の抗原を含みうる。典型的には、キットの抗原は1以上の用量、典型的には2以上の用量を含み、ここで、各用量は1μg〜500mg、典型的には50μg〜250mg、100μg〜100mg、または1mg〜50mgの抗原である。
【0130】
本発明の特徴と利点をさらに詳しく次の非限定の実施例により説明するが、ここで、全ての割合およびパーセントは、特に断らない限り、重量基準である。
【実施例】
【0131】
[実施例1]ASCによるコラーゲン誘導関節炎(CIA)の治療
材料と方法
コラーゲン誘導関節炎(CIA)マウスモデル
実験的関節炎をDBA1/(H-2
q)雄マウス(6〜8週齢)において誘導した。研究開始日に各マウスの尾(身体から2〜3cm)に第1用量として、0.1ml/動物の容積の完全フロイントアジュバント(CFA)(ヒト型結核菌1mg/ml最終濃度)中のニワトリII型コラーゲン(CII)の乳濁液(1mg/ml最終濃度)を皮下注射した。コラーゲンの第1注射の21日後に第2注射(ブースター)を、各動物にCII(0.1ml/動物)の尾ではあるが第1注射と異なる位置に皮下投与した。この際、コラーゲン懸濁液は不完全フロイントアジュバント(IFA)を用いて作製した。
【0132】
関節炎スコア指数が約2〜4になったときに、動物を増殖脂肪由来幹細胞を用いて、または対照としてビヒクル(リンガー溶液)を用いて治療した。CIAの進行を、予め確立したスコアリングシステムに従って、上肢および下肢の関節の炎症−発赤−強直を測定することにより毎日(月曜から金曜まで)追跡した。
【0133】
試験物質またはビヒクルの投与後、各動物の両方の後足の体積を毎日測定し、両足の平均を算出した。さらに、その後、それぞれの日に測定した足の体積から各動物の第1日に測定した後足の体積(第1のコラーゲン注射前に基礎体積として採取した)を差し引いて、各動物の足体積の純増(すなわち浮腫)を得た。さらに、以下の関節炎指数スコアリングシステムに従って、前足および後足の両方における関節炎の重症度を同じ頻度とタイミングで採点した:
0:関節炎の徴候なし
1:足または1本の指の腫脹および/発赤
2:2グループの関節の炎症(腫脹および/または発赤)
3:3グループ以上の関節の炎症(腫脹および/または発赤)
4:足全体の炎症、重症の関節炎。
【0134】
最終スコアは4つの足に対するスコアの合計である。最大スコアは16である。
【0135】
実験設計
対照
グループA=無処置。
【0136】
静脈内投与
グループC=1用量あたり100万細胞、連続して毎日1用量の静脈内注射。全部で5用量。
【0137】
グループD=300万細胞の第1用量、その後、隔日に第2および第3用量の100万細胞の静脈内注射。全部で3用量。
【0138】
リンパ系内投与
グループE=1用量あたり32万細胞(16万個を右鼠蹊結節、16万個を左鼠蹊結節)のリンパ系内注射の第1用量。7日後に第2用量。全部で2用量
ビヒクル対照
グループF=リンガー溶液のリンパ系内注射。第1用量の7日後に第2用量、全部で2用量。
【0139】
N=12マウス/グループ。
【0140】
静脈内投与
試験物質を尾静脈を介して滅菌翼状針(25G)を用いて静脈内に投与した。
【0141】
動物に5連続日用量または3隔日(1日あたり1回)用量を与えた。動物に、試験物質0.2mlを、0.05ml/分の速度の輸液として尾静脈を介して静脈内に与えた。
【0142】
鼠径リンパ節におけるリンパ系内投与
DBA1マウスを、鼻マスクを介する2.0〜2.5%のイソフロランの吸入により麻酔し、37℃の加温プレート上に寝かせた。除毛(Veet敏感肌用除毛クリーム)および70%エタノールによる鼠径部領域の消毒後、鼠径部領域に6〜8mmの切開を行った。鼠径部脂肪内のリンパ節の位置を特定し、8μlのビヒクルまたはビヒクルとASC(2000万細胞/mlの密度で)を、30ゲージニードルを備えたHamiltonシリンジを用いてリンパ節に注射した。1または2個の結び目によって切開を縫合し、もう一方の側の鼠径リンパ節にてこの手順を繰り返した。マウスを麻酔から回復させた。7日後、この手順を繰り返した。
【0143】
増殖脂肪由来幹細胞の調製
局所麻酔と全身鎮静のもとで、ヒト脂肪組織を脂肪吸引により得た。中空で先の丸いカニューレを、小さい切開部(直径0.5cm未満)を通して皮下空間中に入れた。穏やかに吸引しながらカニューレを脂肪組織腹壁区画を通して移動し、脂肪組織を機械的に破壊した。生理食塩水溶液および血管収縮薬エピネフリンを脂肪組織区画中に注射し、血液損失を最小化した。この方法で、治療する各患者から80〜100mlの生脂肪吸引液を得た。
【0144】
生吸引脂肪液を、滅菌リン酸緩衝生理食塩水(PBS;Gibco BRL, Paisley, Scotland, UK)を用いて十分に洗浄して、血液細胞、生理食塩水および局所麻酔薬を除去した。細胞外マトリックスを、平衡塩溶液(5mg/ml;Sigma, St. Louis, USA)中のII型コラゲナーゼ(0.075%; Gibco BRL)の溶液を用いて37℃で30分間消化し、細胞画分を遊離させた。次いで、等容積の、10%ウシ胎児血清(FBS;Gibco BRL)を含有する細胞培地(Dulbecco改変Eagle培地(DMEM;Gibco BRL)を加えてコラゲナーゼを不活化した。
【0145】
細胞の懸濁液を、250 x gで10分間遠心分離した。細胞を0.16M NH
4Clに再懸濁し、室温(RT)で5分間静置させて赤血球を溶解した。混合物を、250 x gで遠心分離し、細胞をDMEMおよび10%FBSおよび1%アンピシリン/ストレプトマイシン混合物(Gibco BRL)に再懸濁し、次いで、それらを40μmのメッシュを通して濾過し、10〜30 x 10
3細胞/cm
2の濃度で組織培養フラスコにまいた。
【0146】
細胞を、大気中、5%CO
2の雰囲気にて、37℃で24時間培養した。次いで、培養フラスコをPBSで洗浄し、非接着の細胞および細胞フラグメントを除去した。この細胞を、同じ培地で同じ条件下の培養で、およそ80%の集密に達するまで、3〜4日毎に培地を置き換えながら維持した。次いで、細胞を、およそ約5〜6 x 10
3細胞/cm
2の細胞密度に対応する1:3に希釈し、トリプシン-EDTA(Gibco BRL)を用いて継代した。
【0147】
この実験に当たっては、12〜16の複製倍化の細胞をトリプシン処理し、ビヒクル(リンガー溶液)で所望の細胞密度に再懸濁した。次いで、シリンジに移し、マウスに注射した。
【0148】
統計分析
結果の統計的有意性を統計プログラムGraphPad Instat 3を使用して評価した。結果を平均±標準誤差として表し、ここで(n)は動物数である。
【0149】
図1は、グループA対グループEの比較のp値を示す注釈がつけられている。有意差は、*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001として表した。グループ間の差は、アンペアードデータに対するKruskal-Wallis検定とDunn型多重比較の事後検定(post-test)によって評価した。P<0.05の値を有意とした。
【0150】
結果(図1および2)
関節炎をニワトリコラーゲンIIの注射によってDBAlマウスで誘導した。マウスが2〜4の関節炎スコアを示したときに、増殖ASCを用い、静脈内またはリンパ系内経路によってそれらを治療した。リンパ系内投与の対照には、マウスをビヒクルを用いて治療した。関節炎スコアを毎日モニタリングした(
図2参照)。未治療のマウスまたはビヒクルを用いて治療したマウスは、時間に応じて増大する足の高度の炎症を示したのに対し、リンパ系内に送達した増殖ASCを用いて治療したマウスは、有意に炎症の低減を示した。さらに、リンパ系内投与の治療効果は、静脈内投与よりも高かった(
図1参照)。
【0151】
結論
本研究は、DBAlマウスへのヒトASCのリンパ系内投与は(関節炎指数スコアによって示されるように)関節炎重症度の統計的に有意な低減をもたらすことを示す。
【0152】
さらに、総計64万ASC(2用量で)のリンパ系内投与の治療効果は、総計500万細胞の静脈内投与よりも有意に高かった。これらの結果は、リンパ系内の投与経路がより少ない細胞数を用いて、より高い治療効果に達するので、より有効であることを示す。
【0153】
[実施例2]コラーゲン誘導関節炎(CIA)マウスモデルにおける、ヒトASCのリンパ系内投与の効力研究
本研究の目的は、リンパ系内経路を介する投与後のコラーゲン誘導関節炎マウスモデルにおける、炎症性反応を阻止する増殖ヒトASC(eASC)の能力を研究することであった。
【0154】
実験グループ
動物を、各グループのn=14とした7つの実験グループに分けた。
【0155】
グループA) 関節炎(CIA)が誘導されたマウス:無治療。
【0156】
グループB) CIAが誘導されたマウス:培養しかつ最近トリプシン処理したeASC(16x10
4細胞/リンパ節/日)でリンパ系内投与(右および左鼠蹊リンパ節中に:第1日)を介して治療した。ハイポサーモゾル製剤。
【0157】
グループC) CIAが誘導されたマウス:培養しかつ最近トリプシン処理したeASC(16x10
4細胞/リンパ節/日)でリンパ系内投与(右および左鼠蹊リンパ節中に:第1および第8日)を介して治療した。リンガー乳酸製剤。
【0158】
グループD) CIAが誘導されたマウス:培養しかつ最近トリプシン処理したeASC(16x10
4細胞/リンパ節/日)でリンパ系内投与(右および左鼠蹊リンパ節中に:第1、第8および第15日)を介して治療した。ハイポサーモゾル製剤。
【0159】
グループE) CIAが誘導されたマウス:培養しかつ最近トリプシン処理したeASC(16x10
4細胞/リンパ節/日)でリンパ系内投与(右および左鼠蹊リンパ節中に:第1、第15および第30日)を介して治療した。ハイポサーモゾル製剤。
【0160】
グループF) CIAが誘導されたマウス:ビヒクル(ハイポサーモゾル)でリンパ系内投与(右および左鼠蹊リンパ節中に:第1、第15および第30日)を介して治療した。
【0161】
グループG) 対照健常なマウス(CIAなし):無治療、研究終了時に犠牲にした。このグループを健常な対照として用いた。
【0162】
材料および方法
若い健常な雄DBA/1(H-2
q)8週齢マウスを研究に用いた。系統DBA/1(H-2
q)からのマウスを選択したのは、この系統がコラーゲンによる関節炎の誘導に高度に感受性があるからであった。これらのマウスはウシ、ブタ、ヒトおよびニワトリのII型コラーゲンに対して免疫反応を生じる。研究の開始日、各マウスの尾(身体から2〜3cm)に、第1用量のニワトリコラーゲンII型の完全フロイントアジュバント(ヒト型結核菌1mg/ml最終濃度)中の乳濁液(1mg/ml最終濃度)、0.1ml/動物の容積を皮下注射した。コラーゲンの第1注射の21日後、各動物にII型コラーゲンの第2注射(0.1ml/動物)を尾であるが第1注射と異なる位置に再び皮下投与した。この際、コラーゲン懸濁液は不完全フロイントアジュバント(ヒト型結核菌含まず)を用いて作製した。試験物質(またはビヒクル)による治療は、2〜4の関節炎指数スコアを達成した時に開始し、予め規定した時間にわたって続けた。動物間に大きな差のない各実験グループにおける関節炎指数スコアの均一性を保証するため、研究の開始に当たって、各実験グループへの動物の分布は無作為化した方式で作らなかった。代わりに、動物が2〜4の関節炎指数スコアに達すると、実験グループに割り当てた。14動物がこのスコアに達すると、1つの実験グループを完結し、試験物質またはビヒクルによる治療を開始した。これを全実験グループが構成されるまで漸次行った。試験物質は、先に表明した用量で、ハイポサーモゾルまたはリンガー乳酸溶液(ビヒクル)中の懸濁液として投与した。投与した細胞に対して示した数字は細胞の合計数(生存+非生存)である。それに関わらず、生存細胞数を投与前にそれぞれの日を確認した(トリパンブルー排除)。対照グループ(A)はいずれの治療も受けなかった。
【0163】
コラーゲン調製物:0.05M酢酸中の2mg/mlの濃度に溶解した高純度ニワトリII型コラーゲンを用いた。溶液は一晩、4℃の温度で穏やかに撹拌することにより調製した。溶解したコラーゲンは4℃にて1週間または-20℃にてさらに永く保存しうる。
【0164】
フロイント完全アジュバント(CFA)中のII型コラーゲン乳濁液の調製:不完全アジュバントの使用ではマウスが関節炎を発症しないので、マウスにおいて関節炎を誘導するためにはフロイント完全アジュバントを用いる必要がある。免疫化のための乳濁液の品質は、関節炎誘導にとって非常に重要な点である。乳濁液は電気ホモジェナイザーを使用し、Farma-Cros Ibericaの内部標準操作手順(FCI-PNT-FT-84)に従って調製した。得られるCFA中のコラーゲンII乳濁液はコラーゲン(II型)を1mg/mlの濃度で含有した。コラーゲン懸濁液を尾の皮下に0.1mlの容積で身体からおよそ2〜3cmに注射した。
【0165】
ブースター注射による関節炎の誘導:
第1日:コラーゲン懸濁液を尾の皮下に0.1mlの容積で身体からおよそ2〜3cmに注射した。
【0166】
第21日:不完全フロイントアジュバント中のコラーゲン懸濁液を先に記載したように調製した。
【0167】
0.1mlを各マウスの尾の皮下に、しかし第1日に用いたのとは異なる部位に注射した。
【0168】
治療:治療は、実験グループを形成するのに十分な動物(14)が2〜4の関節炎指数スコアに達したときに開始した。
【0169】
関節炎指数スコア:関節炎指数スコアを、各動物に対して第21日から、研究の終了まで評価した。関節炎の重症度は前足および後足の両方において、実施例1に記載したのと同じ関節炎指数スコアリングシステムに従ってスコアを付けた。最終スコアは4つの足に対するスコアの和である。最大スコアは16である。
【0170】
犠牲の日に、血液を各動物から採取し、次のパラメーター:ヘマトクリット、RBC、WBC、血小板、アルブミン/グロブリン比、トリグリセリド、示差白血球数(好中球、リンパ球、単球)を測定した。
【0171】
結果(図3〜4)
グループB:試験物質16x104 ASC培養細胞/神経節/日、第1日だけ(ハイポサーモゾル)
試験物質のDBA1マウスへの1回のリンパ系内投与はコラーゲンII投与により誘導された関節炎の重症度を低減した。試験物質投与の開始から第23〜31日において統計的に有意であった。前足に対するスコアだけを考えると、抗-炎症性活性は第27および28日において有意であった。対照的に、後足に対するスコアだけを考えると、抗-炎症性活性は第22〜31日において有意であった。これは、この実験グループについて観察された関節炎指数スコアの有意な低減は主に後足における効果に因ることを示唆する。
【0172】
グループC:試験物質16x104 ASC培養細胞/神経節/日、第1および8日(リンガー乳酸)
試験物質のDBA1マウスへの2回(第1日および第8日)のリンパ系内投与は、リンガー乳酸で製剤した場合も、コラーゲンII投与により誘導された関節炎の重症度を低減した。試験物質投与の開始から早くも第5日〜第41日において統計的に有意であった。前足に対するスコアだけを考えると、抗-炎症性活性はもっと一貫性がなく、第5〜7日、第9〜27日および第40〜41日に統計的有意に達した。対照的に、後足に対するスコアだけを考えると、観察された抗-炎症性活性はより一貫性があり、第7〜27日に有意に達したが、この日を超えると有意でなかった。これは、この実験グループに対して観察された関節炎指数スコアの有意な低減は第27日まで前足と後足における組み合わせ効果に因るものであり、この日付以後は主に前足の炎症低減に因ることを示唆する。
【0173】
グループD:試験物質16x104 ASC培養細胞/神経節/日、第1、8および15日(ハイポサーモゾル)
ハイポサーモゾルで製剤した場合、試験物質のDBA1マウスへの3回(第1、8および15日)のリンパ系内投与もコラーゲンII投与により誘導された関節炎の重症度を低減した。試験物質投与の開始から第8〜44日において統計的に有意であった。前足に対するスコアだけを考えると、抗-炎症性活性は第5日および次いで第9〜41日において有意であった。
【0174】
後足に対するスコアだけを考えると、抗-炎症性活性は第14〜21日および第26〜47日において有意であった。これは、この実験グループについて観察された関節炎指数スコアの有意な低減は研究の大部分を通して前足と後足における組み合わせ効果に因るものであり、前または後の四肢の効果に偏りのないことを示唆する。
【0175】
グループE:試験物質16x104 ASC培養細胞/神経節/日、第1、15および30日(ハイポサーモゾル)
試験物質のDBA1マウスへのそれぞれ15日離れた3回(第1、15および30日)のリンパ系内投与は、ハイポサーモゾルで製剤した場合、試験物質の投与開始から第15〜31日においてだけコラーゲンII投与により誘導された関節炎の重症度を低減した。前足に対するスコアだけを考えると、抗-炎症性活性は第21〜31日において有意であった。後足に対するスコアだけを考えると、観察された抗-炎症性活性はいずれのときも有意でなかった。これは、この実験グループについて観察された関節炎指数スコアの有意な低減は、ただ後足における効果に因ることを示唆する。
【0176】
グループF:ビヒクル、ハイポサーモゾル、第1、15および30日(鼠蹊リンパ節左および右のリンパ系内投与)。
ビヒクルのDBA1マウスへの3回の離れた時点(第1、15および30日)でのリンパ系内投与は、グループA(無治療)と比較した場合、研究した時点のいずれにおいても関節炎の重症度に有意な効果を有しなかった。
【0177】
図4は、試験物質の抗炎症活性を示すグループCおよびDにおける動物の合計白血球数の低下が、健常な動物(G)のそれらと類似のレベルに達することを示す。
【0178】
結論
1リンパ節当たり160,000 eASC(リンガー乳酸の製剤)の1週間離れた2回投与は関節炎の重症度を低減することを立証する(グループC)。さらに、1リンパ節当たり160,000 eASC(ハイポサーモゾル製剤)の1週間離れた3回投与はより高い治療効果を示した。ハイポサーモゾル製剤はeASCの治療能力に影響を与えない(グループD)。さらに、グループCおよびDはまた、健常な対照動物(グループG)のそれに近い全白血球数を維持し、eASCの抗炎症性効果を示す。
【0179】
[実施例3]コラーゲン誘導関節炎(CIA)マウスモデルにおける、160,000、48,500および14,500 eASC/リンパ節の1週間隔3回投与を比較するヒトASCのリンパ系内投与の効力研究
本研究の目的は、異なる用量のヒト増殖ASC(eASC)のリンパ系内経路を介する投与後のマウスにおける、コラーゲンにより誘導される関節炎モデルの炎症性反応を抑制する能力を比較することであった。
【0180】
実験グループ
動物を、各グループがn=14を含む7つの実験グループに分けた。
【0181】
グループA) 関節炎(CIA)が誘導されたマウス:無治療。
【0182】
グループB) CIAが誘導されたマウス:培養しかつ最近トリプシン処理した(160,000細胞/リンパ節/日)eASCでリンパ系内投与(右および左鼠蹊リンパ節中に:第1、第8および第15日)を介して治療した。ハイポサーモゾル製剤。
【0183】
グループC) CIAが誘導されたマウス:培養しかつ最近トリプシン処理した(48,500細胞/リンパ節/日)eASCでリンパ系内投与(右および左鼠蹊リンパ節中に:第1、第8および第15日)を介して治療した。ハイポサーモゾル製剤。
【0184】
グループD) CIAが誘導されたマウス:培養しかつ最近トリプシン処理した(14,500細胞/リンパ節/日)eASCでリンパ系内投与(右および左鼠蹊リンパ節中に:第1、第8および第15日)を介して治療した。ハイポサーモゾル製剤。
【0185】
グループE) CIAが誘導されたマウス:ビヒクル(ハイポサーモゾル)でリンパ系内投与(右および左鼠蹊リンパ節中に:第1、第8および第15日)を介して治療した。
【0186】
グループF) 対照健常なマウス(CIAなし):無治療、研究終了時に犠牲にした。このグループを健常な対照として用いた。
【0187】
結果(図5)
グループB)CIAが誘導されたマウス:培養しかつ最近トリプシン処理した(160,000細胞/リンパ節/日)eASCでリンパ系内投与(右および左鼠蹊リンパ節中に:第1、第8および第15日)を介して治療した。ハイポサーモゾル製剤。
【0188】
用量のDBA1マウスへの3回(第1、8および15日)のリンパ系内投与はコラーゲンII投与により誘導された関節炎の重症度を低減した。試験物質投与の開始から第13〜34日において統計的に有意であった。
【0189】
グループC)CIAが誘導されたマウス:培養しかつ最近トリプシン処理した(48,500細胞/リンパ節/日)eASCでリンパ系内投与(右および左鼠蹊リンパ節中に:第1、8および15日)を介して治療した。ハイポサーモゾル製剤。
用量のDBA1マウスへの3回(第1、8および15日)のリンパ系内投与は160,000細胞の用量と比較して治療効果(関節炎 スコア)の増加を示した。さらに、それは試験物質投与の開始から早くも第4〜50日に統計的に有意であった。
【0190】
グループD) CIAが誘導されたマウス:培養しかつ最近トリプシン処理した(14,500細胞/リンパ節/日)eASCでリンパ系内投与(右および左鼠蹊リンパ節中に:第1、第8および第15日)を介して治療した。ハイポサーモゾル製剤。
この用量のDBA1マウスへの3回(第1、8および15日)のリンパ系内投与は、試験した他の2通りの用量と比較して低下はしたが、ある程度の治療効果(関節炎スコア)を示した。
【0191】
それは試験物質投与の開始から第14〜30日に統計的に有意であった。
【0192】
グループE:CIAが誘導されたマウス:ビヒクル(ハイポサーモゾル)でリンパ系内投与(右および左鼠蹊リンパ節中に:第1、第8および第15日)を介して治療した。
このビヒクルのDBA1マウスへの3回(第1、8および15日)のリンパ系内投与は、グループAと比較した場合、研究したいずれの時点でも、関節炎の重症度に有意な効果を有しなかった。
【0193】
結論
図5に見られるように、1投与当たりの最適な合計用量は、合計用量当たり29,000細胞〜合計用量当たり320,000細胞であることが確立された。
【0194】
[実施例4]ヒト用量
最大推奨開始用量(MRSD)はヒト等価用量(HED)を安全因子により除することにより決定される。
【0195】
MRSDを計算する最初のステップは、有害効果無観察レベル(NOAEL)を決定するために利用可能なデータを総括して評価することである。NOAELは、対照グループと比較して有害効果の有意な増加を生じない(たとえ統計的に有意でなくとも)最高用量レベルとして定義される。
【0196】
第2ステップは、動物用量を身体表面積に基づいてヒト等価用量に変換する変換因子を用いることによりNOAELをHEDに変換するステップである。マウスをヒトに変換する変換因子はマウス用量に0.08を乗じる。
【0197】
安全因子(SF)は最初の臨床用量を受けるヒト被験体を保護する安全のマージンを提供する。通常使用されるデフォールト安全因子は10であるが、適当な環境のもとでは10未満のSFを用いてもよい。
【0198】
マウスによる研究に基づくヒト用量の計算:
eASCによるヒトリンパ系内臨床試験に対する適当な用量を提供するために、eASCの毒性学および安全データが考慮される。MRSDは単一用量に対して次の通り決定される:
(i) NOAELはマウスにおいて320,000細胞である。試験したマウスの中位体重は20gであり、これは16百万細胞/kgの用量に対応する。
【0199】
(ii) HEDへ変換すると、16百万細胞/kg x 0.08=1.28百万細胞/kg。
【0200】
(iii) MRSD=1.28/10=0.128百万細胞/kg(128,000細胞/kg)。
【0201】
10のSFは適当であるが、保守的に20のSFを適用することを欲しうるので、その場合、およそ80kgのヒトにおける対応する用量は5百万細胞であろう。
【0202】
それ故に、最初の臨床試験に対して、提案した最初の開始用量は次の通りである:
【表2】
【0203】
この初期開始用量は5患者の両方の鼠蹊リンパ節(左と右)に与えられるであろう。
【0204】
これらの5患者を評価した後、他の5患者に第2の提案用量が与えられるであろう。
【表3】
【0205】
[実施例5]さらなる用量レジメン
コラーゲン誘導関節炎マウスモデルにおけるリンパ系内投与の効力と最適用量を治療(GLP条件のもとで)の第50日まで確認することができる。記載した数のASCを下記の用量および間隔にて各マウスに2回(1鼠蹊リンパ節「ILN」当たり1回)注射しうる。
【表4】
【0206】
毒性学および生体分布研究もグループA、BおよびCについて行いうる。CIAマウスにおける生体分布の研究の短期研究のために、第15、21および30日にILNに160K/リンパ節を注射した別のグループも存在しうる。
【0207】
健常な動物におけるASCの生体画像処理研究も実施しうる:
(i)160K/リンパ節(320k用量)、ILN、第1-15-30-45-60日、最後の投与後の第14、30および180日における毒性学。80マウス、生体分布を評価するための800組織。
【0208】
(ii)DMEM、ILN、第1-15-30-45-60、第30日の毒性学。
【0209】
従って、本発明は、本発明の具体的な態様、特徴および説明上の実施形態を参照して本明細書に記載されているが、本発明の効用はこれに限定されるものでなく、むしろ、多数の他の態様、特徴、および実施形態に広がるものであると解釈しうる。従って、以下に記載の請求項は、それらの精神と範囲内において、全てのかかる態様、特徴および実施形態を含むことを意図する。