(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アノードコンパートメントと、カソードコンパートメントと、前記カソードコンパートメント及び前記アノードコンパートメント間に位置するバリアコンパートメントを備えた電気化学セルであって、
前記バリアコンパートメントは、
前記カソードコンパートメントの隣に位置する第1のイオン透過性強化セパレータと、
前記アノードコンパートメントの隣に位置する第2のイオン透過性強化セパレータと、を備え、
前記第1及び第2のイオン透過性強化セパレータ間にバイパスチャンネルを設けるべく、前記第2のイオン透過性強化セパレータは前記第1のイオン透過性強化セパレータから距離を置いて位置しており、
前記イオン透過性強化セパレータは、少なくとも1つのセパレータ要素と、前記少なくとも1つのセパレータ要素と隣接した実質的に中空のバイパスチャンネルとを含み、
ここで、前記少なくとも1つのセパレータ要素が、細長い多孔性ウェブと、バインダーと、前記バインダー中に分散された金属酸化物または金属水酸化物とを含み、前記セパレータ要素が、少なくとも1バールのバブルポイントと、少なくとも1バールのバックウォッシュ抵抗とを有し、前記バブルポイントは、ASTM E128またはISO 4003に基づいて決定されるものであり、前記第1及び第2のイオン透過性強化セパレータは、電解質が流れるのを許容するが、陰極液および陽極液のコンパートメントからのガス流れが当該第1及び第2のイオン透過性強化セパレータを通って前記バイパスチャンネルに進入するのを防止すべく提供されている、ことを特徴とする電気化学セル。
前記第1及び第2のイオン透過性強化セパレータの前記強化が、ウェブ、格子、金網および多孔多重板からなる群から選択される強化手段で実現される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電気化学セル。
前ウェブ記強化セパレータは、2つのセパレータ要素が、当該2つのセパレータ要素間のスペーサーによって相隔てられ、および/または、一緒につなぎ合わせられると共に圧力に依存しない距離をおいて相隔てられるように構成されるウェブ強化セパレータである、請求項6に記載の電気化学セル。
前記第1及び第2のイオン透過性強化セパレータにおいて、前記実質的に中空のバイパスチャンネルが前記少なくとも1つのセパレータ要素に一体化されている、請求項1〜8のいずれか一項に記載の電気化学セル。
前記第1及び第2のイオン透過性強化セパレータ並びに前記中空のバイパスチャンネルが互いに分離不能に連結されている、請求項1〜10のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【背景技術】
【0002】
水素は、二酸化炭素排出のない唯一のエネルギー源である。風、太陽および波力から生産される電気エネルギーは、水の電気分解により水素に変換することができ、プロトン交換膜燃料電池(PEMFC)において、または唯一の副生成物が水である燃焼によるかのいずれかでエネルギーを生産するために、生じた水素を使用することができる。しかしながら、電気分解装置中での水素の生成は、少なくとも3.9kWh/Nm
3のエネルギー入力を必要とし、そして800バールまでの圧力で水素を提供するためには、さらなるエネルギーが必要とされる。さらに、電力供給のレベルが変動する場合、必要とされるエネルギー入力も変化する可能性がある。先行技術のアルカリ水電解槽は動作範囲が非常に限られ(公称容量の20〜100%)、高圧で水素を提供することができず、高価な圧縮ステップが常に必要である。50バールまでの圧力で実施される電気分解によって、典型的にはそれぞれ99.9モル%および99.5モル%の純度を有する水素および酸素が提供される。電気分解が更に高い圧力で実施される場合、圧力の増加とともに増加する電解質中の水素および酸素の溶解度により、純度が低下したガスが生じ、水素の酸素側への拡散がその反対よりも強力に増加するために、生じる酸素は水素よりも低い純度を有する。この結果、電気分解は32〜50バールの最大圧力で実施されなければならない。なぜなら、室温での水素・酸素混合物の爆発上限(UEL)は大気圧〜200気圧で95.2〜95.1モル%水素しか変化しないが、爆発下限(LEL)は大気圧で4.0モル%水素から200バールで5.9モル%水素まで増加するからである。
【0003】
特許文献1は、関連するセルをアノードおよびカソードチャンバに細分する個々の隔膜をそれぞれが含み、1つは全アノードチャンバのガス空間のためのものであり、他方は全カソードチャンバのガス空間のためのものである2つのガス収集システムを有する複数の耐圧性セルを有する電解装置の操作、そのような装置の操作を開始する方法であって、次のステップ、すなわち、(1)前記収集システムの両方の全てのガス空間を少なくとも2気圧(絶対)の等しい圧力にて窒素で充填し;そして(2)その後、電流のスイッチを入れて、電気分解を開始することからなる方法を開示している。
【0004】
特許文献2は、水を電気分解して、1以上の電解槽を含む電気分解装置を利用してそれから加圧水素および酸素を生成させる方法を開示し、セルは、個々に(i)その中にロッド状アノードが配置されて、カソードとアノードとの間に環状電解質チャンバを規定する管状構造のカソードと、(ii)電解質チャンバ内でカソードとアノードとの間に配置されて、電解質チャンバをアノードサブチャンバとカソードサブチャンバに分割し、その間のガス流に対してサブチャンバを密封するため管状構造の分離膜とを含み、方法は(a)電解質の水溶液を電解質チャンバの両サブチャンバ中に導入するステップ;(b)セルの各アノードおよびカソード全体でのDC電圧降下を適用して、水をカソードで水素、アノードで酸素に分離するステップ;および(c)好ましくは圧力容器をさらに含む1以上の電解槽から水素および酸素を別々に取り出し、そして少なくとも10psigである加圧下で水素および酸素を生成させ、そして特に好ましくは約0.25psig以下でセルから取り出される水素と酸素との間の圧力差を維持することを含むステップを含む。この技術をAvalence Hydrofiller 50−6500−50RGシステムで適用するが、セル膜を透過することによって2つのガスが混合するための原動力が依然として存在する。特許文献2は、分離膜は液体を選択的に通過させるが、ガスは通過させず、生じた気泡が液体電解質を上昇する際に水素および酸素ガスを分離した状態に保つことを開示するが、これらの役割を果たす材料については言及していない。
【0005】
特許文献3は、電解水を製造する方法であって:電気分解装置を隔膜によってアノードチャンバとカソードチャンバとに分割し、そしてアノードチャンバ中に陽極板を、カソードチャンバ中に陰極板を配置する構造上の特徴を有する水の電気分解装置を使用し;あらかじめ電解質を添加した水でカソードチャンバを満たすことによって電気分解を実施すことを含み;ここで、カソードチャンバに提供される水の流速は、負荷電流(loading electric current)1Aあたり40mL/分以下に限定され;カソードチャンバに提供される水をあらかじめ、スケールの形成を防止するために十分軟化させ;そしてアノードおよび/またはカソードチャンバ中で生じた電解水で希釈するために非軟水を添加して、電解水を製造するため、そして所望のpH範囲を有する電解水源を調製するために必要な軟水の量を最小限に抑える方法を開示する。しかしながら、特許文献3は、酸素および水素拡散または高圧での使用に関しては言及せず、非導電性隔膜材料を開示し、分離膜材料については言及していない。
【0006】
特許文献4は、アノードとカソードとを有し、アノードとカソードはそれらの間の内側部分を規定する高圧(340〜690バール)電解槽の効率を増大させる方法を開示し、この方法は:高圧電解槽を操作する際に、アノードで電流密度を減少させ、アノードで過電圧を減少させ;そして、高圧アルカリ電解槽を操作する際に、セル膜を通ってカソードチャンバからアノードチャンバへ向かう水素透過の量を減少させることを含む。特許文献4は、円筒形の外および内表面を有するセパレータを有する高圧電解槽を特に開示する。
【0007】
特許文献5は、外壁を有する容器を含む電気分解装置を開示し、前記容器は垂直方向に4つの連続したチャンバに分割され、電極は前記チャンバの最初と最後のものに設置され、前記チャンバは半透膜によって互いに分離され、この場合、半透膜はカチオンに対しては実質的に透過性であり、半透膜は好ましくは多価カチオンに対しては実質的に不透過性であり、液体入口および液体出口が第2チャンバに設けられ、液体入口および液体出口が第3チャンバに設けられ、そして液体入口および出口は最後のチャンバに設けられ、前記液体出口および前記液体入口は多価カチオン除去装置に接続される。しかしながら、特許文献5はガスの拡散については言及していない。
【0008】
この先行技術は、生じた水素および酸素の相互汚染を回避するための好適なセパレータに関しては言及していない。アルカリ水電解槽で使用するためのセパレータは、自発的に自己湿潤性(self−wettable)、イオン透過性、化学安定性、熱安定性、寸法安定性および機械安定性を持たねばならず、低イオン抵抗性を有する。なぜなら、セパレータの抵抗は、アルカリ水加水分解セルの全抵抗の80%までになるからである。今日のほとんどの商業的電気分解装置は、いまだにアスベストをセパレータとして使用する。しかしながら、アスベストは非常に発ガン性の高い物質である。さらに、最も薄いアスベスト隔膜は厚さ3〜4mmであり、したがって、実現可能なオーム抵抗を制限し、それらは85℃を超えて、または30重量%を超える水酸化カリウム水溶液濃度で使用することができず、将来の応用に適さなくなる。セパレータ材料としてアスベストにとってかわるための候補に関する主な問題は、それらは親水性が無いこと、製造プロセスの制御が困難であること、および関連コストが高いことである。チタン酸カリウム、ポリアンチモン酸、ポリスルホン、親水化ポリフェニレンスルフィド、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)およびPTFEに基づくセパレータに関する研究が実施されてきた。これらの材料はいずれも、少なくとも1つのガスの生成または消費を引き起こす電気化学セルでの将来の応用に好適であることが証明されていない。
【0009】
特許文献6は、電解質で飽和した場合にガス漏れしない対称構造を有する多孔質膜を作製するための方法を開示し、それによって、この方法によると、溶液は溶媒中の有機結合剤から作製され、溶媒は、ある量の金属酸化物および/または金属水酸化物が溶液に添加されることを特徴とする、有機非溶媒中に浸漬することによって抽出することにより除去される。特許文献6は、この方法により作製された膜および、好ましくはアルカリ性セルであり、膜が電解質で飽和し、したがって2つの電極間でセパレータを形成することを特徴とする、前記膜を2つの電極間に含む電気化学セルをさらに開示する。特許文献6は、強化ポリマー支持体を使用しない、バインダーとしてのポリスルホンならびに金属酸化物または水酸化物としての酸化ジルコニウムまたは酸化ジルコニウムおよび酸化亜鉛に基づくセパレータを例証する。そのような非強化セパレータはZIRFON(登録商標)セパレータとして商品化され、良好な湿潤性、低イオン抵抗性および高バブルポイントを示すが、指様空洞を有する典型的な非対称細孔構造を有し、製造するのに30分かかり、これらはすべて好ましくない。
【0010】
特許文献7は、イオン透過性ウェブ強化セパレータ膜を調製するための方法であって:ウェブおよび好適なペーストを提供し、前記ウェブを垂直位置に誘導し、前記ウェブの両面を前記ペーストで等しくコーティングしてペーストでコーティングされたウェブを製造し、そして対称性表面細孔形成ステップおよび対称性凝固ステップを、前記のペーストでコーティングされたウェブに適用して、ウェブ強化セパレータ膜を製造するステップを含む方法を開示している。特許文献7は、ウェブが膜の中央に位置し、膜の両面が同じ細孔径特性を有することを特徴とするウェブ強化セパレータ膜、ならびにウェブ張力制御のためのウェブ巻き戻しステーション、スプレッダーローラー、垂直(誘導)ウェブ輸送での自動ペースト供給の両面コーティングシステムでの両面コーティングを有するコータおよび加熱凝固浴中の誘導ローラーを含むウェブ強化セパレータ膜を提供するための装置をさらに開示する。
【0011】
非特許文献1によって提示されたポスターは、「NEW−ZIRFON(登録商標)セパレータと称する、高温アルカリ水電気分解で使用するための3つの厚さ(250、550および950μm)および2つの温度バージョン(80℃および120℃)で改善されたセパレータの開発を報告した。「NEW−ZIRFON(登録商標)セパレータは、ポリプロピレン、ETFEまたはPEEKファブリックで強化され、恒久的な親水性、強アルカリ性の溶液中で良好な浸潤性、低イオン抵抗性(厚さ550μmバージョンについて70℃、6M KOH中で0.13Ωcm
2)、10kA/m
2までの電流密度で動作する能力を示し、寸法変化はなく、少なくとも25MPaの引張強度、対称性細孔構造、50〜55%の全孔隙率、7バール以上のバブルポイントおよび両面で同じ細孔(平均値0.08μm)を有し、それによってガスの混合を防止するための二重安定装置を提供するダブルスキン層を示す。ダブルスキン層とは、その2つの外表面で、セパレータの各1面ずつ(一方は上側であり、他方は底部側である)に、2つの高密度層(0.1μmより小さな直径を有する細孔を有する)を有するセパレータを意味する。これらの2つの層の間に、数ミクロンから最大10μmの間の直径を有するはるかに多くの開気孔を有する固体層(厚さの80%以上)がある。しかしながら、この中間層は、電解質循環/移動について低水圧抵抗を有するオープンスペースチャンネルではない。流路についてのその抵抗は非常に高いので、電解質の「自由な」循環には有用でない。W.Doyen et al.はさらに、特許文献7で開示されている連続的垂直両面コーティングプロセスが幅50cmのセパレータを製造することができることも開示している。
【0012】
特許文献8は、それぞれ上側および下側スロット面を有する2つのスロットを含む二重型含浸装置(前記面は、細長い多孔性ウェブの両側で同時にあらかじめ測定された量のドープを提供するために、垂直配向またはわずか10°だけ垂直から逸脱し得る配向を有し、両表面上の前記量は、同じであるか、またはわずか5%だけ同一から逸脱する可能性がある)、前記二重含浸装置を通って前記の細長い多孔性ウェブを下方向に輸送するための輸送手段(前記下方向の輸送は、垂直配向またはわずか10°垂直から逸脱し得る配向を有する)、およびその後の位相反転、凝固および洗浄ステーション(前記位相反転ステーションは前記ドープの位相反転を提供し、前記凝固ステーションは結果としての位相反転ドープの凝固およびそれからの溶媒洗浄を提供する)を含むイオン透過性ウェブ強化セパレータを製造するための装置を開示し、ここで、前記二重含浸装置と前記位相反転ステーションとの間には空隙があり、各含浸装置の下面間の距離は、各含浸装置の上面間の距離よりも長い。特許文献9は、:(i)2つの最外表面を含む細長い多孔性ウェブを提供するステップ;(ii)前記細長い多孔性ウェブを、垂直配向または10°だけ垂直から逸脱し得る配向を有する上側および下側スロット面をそれぞれ有する2つのスロットを含む2つの含浸ヘッド[6]と[6’]との間を下方へ、前記細長い多孔性ウェブに平行に輸送して、前記細長い多孔性ウェブの両面に同時に計量された量(両表面上の前記量は同一または5%だけ同一から逸脱する可能性がある)の、少なくとも1つの膜ポリマーおよびそのための少なくとも1つの溶媒を含むドープを提供するステップ;(iii)それによって、前記細長い多孔性ウェブを前記ドープで完全に含浸し、前記細長い多孔性ウェブの前記最外表面の各表面上に、同等の厚さまたは5%だけ同等から逸脱し得る厚さのドープ層を提供し、前記厚さが前記下側スロット面の1つと、それに最も近い前記細長い多孔性ウェブの表面との間のギャップと無関係であるステップ;(iv)ドープ含浸直後に前記細長い多孔性ウェブと結合した前記ドープを少なくとも1つの非溶媒で位相反転させるステップであって、前記ドープ層の前記位相反転が前記ウェブの各表面上で対称であり、それによって膜を形成するステップ;および;(v)前記少なくとも1つの膜ポリマーの前記少なくとも1つの溶媒の残留物を前記膜から除去し、それによってイオン透過性ウェブ強化セパレータを製造するステップであって、前記ドープが剪断減粘性であることを特徴とするステップを含む方法を開示する。実施例1は、金属酸化物を含有するドープでの3DスペーサーファブリックFC360/50PWの両面コーティングを例証し、ファブリックの連続領域間の実質的に中空のバイパスチャンネルもドープで充填されることを開示する。イオン透過性ウェブ強化セパレータの適用は、電池、例えばリチウムを含有する遷移金属酸化物を正の電極として、リチウムドープ可能/脱ドープ可能な炭素系材料を負の電極として、そして非水性電解質溶液を電解質溶液として用いる非水性二次電池(リチウムイオン二次電池);燃料電池;および電解槽または電気化学セル、例えば、水素が水の電気分解によって生じる局所的水素発生器が想定された。
【0013】
一体型透過物チャンネルがドープで満たされた、特許文献9および特許文献8の技術に基づいたセパレータは、AGFA−GEVAERT N.V.によって、クリソタイルアスベストおよびPPSクロスの置換材料としてアルカリ水加水分解用のZIRFON(登録商標)PERLセパレータとして商品化されている。さらに、2009年7月付のその宣伝資料で、そのようなセパレータは、高耐久性で高い電流密度にて高効率のセル動作を可能にすることを主張している。
【0014】
特許文献10は、モノフィラメント糸によって所定の距離離れて配置された上側および下側ファブリック表面を有する3Dスペーサーファブリックからなる透過性チャンネルを含む膜を開示し、前記透過性チャンネルは2つの膜層間に挿入され、ここで、前記膜層は多数の点で前記上側および下側ファブリック表面と連結されている。そのような膜の用途として、MBR、精密ろ過、限外ろ過、膜蒸留、パーベーパレーション、蒸気透過,ガス分離、支持液体膜およびパートラクション(pertraction)が含まれていた。特許文献10は細孔径およびバブルポイントに関しては言及せず、そのような特性をこの開示から示すことはできず、イオン伝導性層を開示していないので、特許文献10の膜はセパレータとして機能することができなかった。W.Doyen et al.は、Achemaで、重要な要素として、その両面上に直接コーティングされた支持体および透過液排出構造および膜層として3Dスペーサーファブリックを使用する革新的なバックウォッシュ可能なフラットシート膜エンベロープを開示し、面間の中空のバイパスチャンネルは、透過液収集のためまたは排出チャンバとして使用される。
図1を参照のこと。コーティング中、特別に開発されたテキスタイル、適切なドープ粘度および適切なコーティングプロセスを使用することによって中空のバイパスチャンネルの充填は回避される。
【0015】
非特許文献2は、改良されたアルカリ性電気分解における、ポリ(エーテルスルホン)UDEL(登録商標)、RADEL R(登録商標)、RADEL A(登録商標)およびVITREX(登録商標)から製造されたばかりの微孔性ポリマー膜の評価を記載し、これらの膜が、電気分解コンパートメント中でのガス混合を回避するために十分な高い圧力安定性と関連した低抵抗のような、隔膜としての要件を全て満たすことを報告しているが、これらのセルは長期安定性を有していなかった。さらに、非特許文献3は、ポリ(エーテルスルホン)およびポリ(ビニルピロリドン)から作製された均一なブレンド膜のアルカリ水加水分解への応用を報告している。
【0016】
アルカリ水加水分解におけるZIRFON(登録商標)PERLセパレータの使用は、高い電流密度で高効率のセル動作をもたらし、長期安定性、恒久的な親水性、小さな細孔径、対称性細孔構造およびオープンメッシュファブリック(ETFE、PPなど)による強化が証明されるが、そのようなセパレータは、高圧でのアルカリ水電気分解により生じた水素および酸素の交差汚染の問題の解決策を提供しない。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明を、特定の実施形態に関して、そしてある図面を参照して記載するが、本発明はそれらに限定されるのではなく、請求の範囲によってのみ限定される。記載される図面は、単に概略的であり、非限定的である。図面中、いくつかの要素のサイズは、図示するために拡大され、寸法どおりに描かれていない可能性がある。寸法および相対寸法は、本発明を実施するために実際の縮小に対応しない。
【0042】
さらに、説明および特許請求の範囲中の第1、第2、第3などの用語は、類似した要素を区別するために使用され、必ずしも時間的、空間的、順位付けまたは任意の他の方法での順番を記載するものではない。そのように使用される用語は、適切な状況下で交換可能であり、本明細書中で記載される本発明の実施形態は、本明細書中で記載または例示されるものとは別の順番で操作することが可能であると理解されるべきである。
【0043】
さらに、説明および特許請求の範囲で最上部、底部、上、下などの用語は、便宜的に使用され、かならずしも相対的な位置を記載するために用いられるとは限らない。そのように使用される用語は、適切な状況下で交換可能であり、本明細書中で記載される本発明の実施形態は、本明細書中で記載または例示されるものとは別の配向で操作することが可能であると理解されるべきである。
【0044】
「含む、備える」(comprising)という用語は、特許請求の範囲で使用される場合、その後に記載される手段に限定されると解釈されるべきではなく;他の要素またはステップを排除しないことに留意すべきである。したがって、記載された特徴、整数、ステップまたは成分の存在を記載されるように指定するが、1以上の他の特徴、整数、ステップもしくは成分、またはそれらの群の存在もしくは添加を排除しないと解釈されるべきである。したがって、「手段AおよびBを含む(備える)装置」という表現の範囲は、構成AおよびBのみからなる装置に限定されるべきではない。本発明に関して、装置の唯一の関連構成がAおよびBであることを意味する。
【0045】
同様に、特許請求の範囲でも使用される「カップリングした」という用語は、直接的結合のみに限定されると解釈されるべきではないことに留意すべきである。「カップリングした」および「接続した」という用語は、それらの派生語とともに使用することができる。これらの用語は互いの同義語ではないと理解されるべきである。したがって、「装置Bとカップリングした装置A」という表現の範囲は、装置Aの出力が装置Bの入力と直接接続されている装置またはシステムに限定されるべきではない。Aの出力とBの入力との間にパス(経路)が存在することを意味し、このパスは、他の装置または手段を含むパスである可能性がある。「カップリングした」とは、2以上の要素が物理的もしくは電気的のいずれかで直接接触していること、または2以上の要素が互いに直接接触していないが、それでも互いに協働もしくは相互作用することを意味する可能性がある。
【0046】
本明細書全体にわたって「1つの実施形態」または「実施形態」という言及は、その実施形態と関連して記載される特定の特徴、構造または特性が本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体にわたって様々な場所で見られる「1つの実施形態において」または「実施形態において」という語句は、全て同じ実施形態を指すとは限らないが、そうである可能性もある。さらに、1以上の実施形態で、本開示から当業者には明かであるように、特定の特徴、構造または特性を任意の好適な方法で組み合わせることができる。
【0047】
同様に、本発明の例示的実施形態の説明で、本発明の様々な特徴は、開示を合理化し、そして1以上の様々な本発明の態様の理解を助ける目的で、場合によって1つの実施形態、図、またはその説明でまとめられると理解されるべきである。しかし、この開示方法は、請求された発明が、各請求項で明らかに記載されるよりも多くの特徴を必要とする意図を反映すると解釈されるべきではない。むしろ、以下の請求項が反映する場合、本発明の態様は、1つの前記開示の実施形態の全ての特徴ではない。したがって、詳細な説明の後の特許請求の範囲は、この詳細な説明に明確に組み入れられ、各請求項は、本発明の独立した実施形態として独立している。
【0048】
さらに、本明細書中で記載されるいくつかの実施形態は、いくつかの特徴を含むが、他の実施形態に含まれる他の特徴は含まず、当業者には理解されるように、異なる実施形態の特徴の組み合わせは、本発明の範囲内にあることが意図され、異なる実施形態を形成する。例えば、以下の特許請求の範囲では、請求される実施形態のいずれも任意の組み合わせで用いることができる。
【0049】
さらに、実施形態のいくつかは、コンピュータシステムのプロセッサによって、もしくは機能を果たす他の手段によって実施することができる方法または方法の要素の組み合わせとして本明細書中で記載されている。したがって、プロセッサとそのような方法または方法の要素を実施するために必要な指示は、その方法または方法の要素を実施するための手段を形成する。さらに、装置の実施形態の本明細書中で記載される要素は、本発明を実施する目的のための要素によって実施される機能を果たすための手段の一例である。
【0050】
本明細書中で提供される記載では、多くの具体的詳細が明記されている。しかしながら、本発明の実施形態は、これらの具体的詳細なしで実施することができると理解される。他の例では、この記載をわかりにくくしないために、周知の方法、構造および技術は詳細に示されていない。
【0051】
以下の用語は、本発明の理解を助けるためだけに提供される。
【0052】
[定義]
「ウェブ」(web)という用語は、本発明の開示で用いられる場合、製織もしくは編組によって、またはそのようにすることによって形成されるもの;織布;細長い多孔性ファブリック;細長い格子またはメッシュ、例えば金網;織物を思わせる入り組んだパターンもしくは構造;および例えばプラスチックまたは金属の薄板、プレート、またはストリップを意味する。
【0053】
「加圧アルカリ電解槽」という用語中の「加圧」(elevated-pressure)という用語は、本発明の開示で用いられる場合、1バールを超える圧力、好ましくは10バールを超える圧力を意味する。
【0054】
「実質的に中空のバイパスチャンネル」という用語は、本発明の開示で用いられる場合、壁を有するチャンネルであって、前記壁のそれぞれ前記チャンネルの内部の側と前記チャンネルの外部の側とを有し、前記チャンネルの前記壁の外部の側はセパレータ要素と隣接しているか、または前記チャンネルの前記壁の2以上、例えば2つの外面はセパレータと隣接し、例えば前記チャンネルのいずれかの側にサンドイッチ構造を形成する。好ましくは、前記チャンネルの前記壁の外部の側は、セパレータ要素の少なくとも1つと分離不可能に連結している。特に好ましくは、「実質的に中空の(バイパス)チャンネル」という用語は、本発明の開示で用いられる場合、電解質の妨げられない流れを可能にし、したがって流れをチャンネル全体にわたって維持することができ、チャンネル内の圧力降下を回避しながら、セパレータ要素を通る流れ圧力よりも少なくとも50ミリバール低いチャンネルを通る流れ圧力を可能にするチャンネルを意味し、流れ圧力差は、好ましくは500ミリバール未満である。
【0055】
「一体化した実質的に中空のバイパスチャンネル」という用語は、本発明の開示で用いられる場合、セパレータ要素を補強するウェブが、それ自体が実質的に中空のバイパスチャンネルを提供する3D−スペーサーファブリックであることを意味する。
【0056】
「バブルポイント」(bubble point)という用語は、本発明の開示で用いられる場合、当業者には周知であるように、操作条件下で多孔質膜の細孔から水を追い出すために必要な圧力を意味する。これは、ASTM E128およびISO 4003などに記載されている標準的非破壊試験手順によって測定することができる。「バブルポイント」試験は、液体中に沈められ、一方から加圧された多孔性材料の表面から最初の気泡を放出するために必要な圧力を測定する。このバブルポイント試験は材料の最大細孔径を推定するための工業規格である。バブルポイント試験は、ダーシーの法則に基づき、測定されたバブルポイント圧力値を計算された最大細孔径と相関させる。Rakesh Patel,Devarshi Shah,Bhupendra G.Prajapti and Manisha Patel,“Overview of industrial filtration technology and its applications”,Indian Journal of Science and Technology Vol.3 No.10(Oct 2010),1121−1127 at page 1126は、以下のようにバブルポイント試験を記載した:「バブルポイントはフィルター中の最大細孔の直接的尺度である。膜またはカートリッジをまず湿らせ、ハウジングの入口側で液体を抜く。依然として液体を含む出口を、管類を介して湿潤液体を含む容器に接続する。気泡の連続した流れが容器中に現れるまで、大気圧を次いで入口に加える。これが起こる圧力がバブルポイントである。最大細孔径はそれゆえダーシーの法則によって圧力と相関される可能性がある。バブルポイントは、細孔径、湿潤液体、フィルターメディア、および温度によって変わるであろう[V.Choa et al.,Geotextiles Geomembranes,volume 27,pages 152−155(2009)を参照のこと]。「バブルポイント」という表現は、常に、親水性膜の細孔中に存在する水に言及する場合に使用される。セパレータがその機能を果たすために、セパレータ膜中の細孔は常に湿っていなければならないことは当業者には周知である。細孔が湿ったままであるためには、電極の圧力差は0.3バールを超えてはならないか、または1バールをはるかに下回っていなければならない。バブルポイントが少なくとも1バールでなければならないという電流セパレータの基準は、したがって、通常の操作条件下で、すなわち1バールをはるかに下回る電極の圧力差について、細孔は湿ったままであることを意味する。1バールより低いバブルポイントは、細孔の乾燥のためにその機能を果たすことができないことを意味する。バブルポイントは、「Zirfonセパレータ」などの多孔性材料の標準的特性である。Ph.Vermeiren et al,“The influence of manufacturing parameters on the properties of macroporous Zirfon(登録商標)separators”,J.Porous Materials(2008)volume 15(3),259−264を参照のこと。
【0057】
「バックウォッシュ抵抗」(back-wash resistance)という用語は、本発明の開示で用いられる場合、内部チャンネルからセパレータ要素の表面への液体流れ圧力に対するセパレータの全体の抵抗を意味する。バックウォッシュ抵抗はさらに、「Zirfonセパレータ」などの多孔性材料の標準的特性でもある。Ph.Vermeiren et al,“The influence of manufacturing parameters on theproperties of macroporous Zirfon(登録商標)separators”,J.Porous Materials(2008)volume 15(3),259−264を参照のこと。
【0058】
「高圧アルカリ電解槽」という用語中の「高圧」(high-pressure)という用語は、本発明の開示で用いられる場合、50バールを超える圧力、好ましくは100バールを超え、かつ好ましくは1000バールよりも低い圧力を意味する。
【0059】
「電気化学セル」という用語は、本発明の開示で用いられる場合、ボルタもしくはガルバーニ電池として知られる、化学エネルギーを電気エネルギーに変えるための装置、あるいは、電解槽として知られる、電気エネルギーを化学エネルギーに変えるための装置を意味し、全体的な酸化還元反応が起電力を生じるように配列された2つの電極の組み合わせを含む。互いに接続された1以上のセルからなる電池および燃料電池がボルタ電池の例である。
【0060】
「電解槽」という用語は、本発明の開示で用いられる場合、例えば電気分解など、電気エネルギーが化学エネルギーに変化する電池を意味する。
【0061】
「燃料電池」という用語は、本発明の開示で用いられる場合、水素などの燃料と、空気などの酸化剤との間の反応が、燃料の化学エネルギーを燃焼なしに直接電気エネルギーに変換する電気化学的装置を意味する。
【0062】
「ドープ」(dope)という用語は、本発明の開示で用いられる場合、少なくとも1つのその後のプロセスステップで膜に変換することができる組成物を意味する。
【0063】
「実質的にフラット」という用語は、本発明の開示で用いられる場合、肉眼で見える湾曲を有しないことを意味する。
【0064】
「実質的にない」(substantially free)という用語は、本発明の開示で用いられる場合、10%未満を意味する。
【0065】
スロットおよびダイという用語は、本文中では交換可能に用いられ、開口部を意味し、これを、含浸プロセス中にスロットから出てくるドープの粘弾性特性に応じて、スロットまたは押出コーティング技術を用いて細長い多孔性ウェブ上に堆積させる。スロットおよび押出コーティング技術は、前計量(premetered)コーティングとして知られるコーティング方法の1種に属し、この方法では、コーティングされた液体層の厚さは原則としてダイに供給される流速、細長い多孔性ウェブの幅および通過する基体の速度によって決定され、他のプロセス変数と無関係である。「スロットのリップ」という用語は、ファブリックの輸送方向に対して垂直に配置されたスロットに関して、スロットの一側面または他の側面上で輸送方向と平行な含浸ヘッドの部分を意味する。
【0066】
「実質的に同じ量」という用語は、本発明の開示で用いられる場合、5%(以下)しか逸脱しないことを意味する。
【0067】
「実質的に垂直」という用語は、本発明の開示で用いられる場合、10°(以下)だけ垂直から逸脱することを意味する。
【0068】
略語ECFTEは、エチレンおよびクロロトリフルオロエチレンのコポリマーを表し、商品名HALAR(登録商標)によって知られている。
【0069】
略語EFTEはエチレンおよびテトラフルオロエチレンのコポリマーを表す。
【0070】
本発明を、本発明のいくつかの実施形態の詳細な説明によって説明する。本発明の他の実施形態は、本発明の真の精神または技術的教唆から逸脱することなく当業者の知識にしたがって構成することができ、本発明は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることは明らかである。
【0071】
好ましい実施形態、特定の構造および構成、ならびに材料を本発明による装置について本明細書中で検討してきたが、形状および詳細における様々な変更または修正を本発明の範囲および精神から逸脱することなくなす事ができることを理解すべきである。例えば、上述の任意の式は使用することができる手順の単なる代表例である。ステップを本発明の範囲内で記載される方法に付加することができるか、または削除することができる。
【0072】
[細長い多孔性ウェブ]
本発明による、細長いイオン透過性ウェブ強化セパレータで使用するための細長い多孔性ウェブは、細長い多孔性ファブリック、例えば織布または不織布(例えばフェルト)、細長いメッシュ、例えば金網、細長い格子、細長い多孔性薄板、細長いプレート、または細長いストリップを含む。細長い多孔性ウェブはチャンネルを組み入れる可能性があるか、または細長い多孔性ウェブはチャンネルをさらなる加工の結果として、ラミネーション(例えば、トリラミネートを形成することによる)または例えばプラスチックもしくは金属の多重シート、プレートもしくはストリップを形成するための押出プロセスによって、組み入れることができる。
【0073】
細長い多孔性ウェブの好ましい実施形態は、チャンネルまたはチャンネル前駆体、すなわち、さらなる加工によって、非伝導性の細長いメッシュをその少なくとも1側面上に提供する構成である。
【0074】
細長い多孔性ウェブの別の好ましい実施形態は3Dスペーサーファブリックである。3Dスペーサーテキスタイルは、製織または編組プロセスによって作製され、基本的に2つの面または壁(モノフィラメントまたは多フィラメント繊維を含む外層)からなり、これらは多数のモノフィラメントスペーサー糸(各方向で1cmあたり10本まで)によって互いに接続され、これによってそれらは非常に強力になり、ほとんど分離できない中空の構造になる。表面領域中のモノフィラメントのループのためにこれらの材料は分離できない。したがって、これらの構造は3つの識別可能な要素:2つの面(それぞれ厚さ約0.5mm)、および、それらの間に、多数のモノフィラメントスペーサー糸によって形成された中空の(バイパス)チャンネルを含む。本発明のセパレータにおいて、モノフィラメントまたは多フィラメントを含むスペーサーファブリックをセパレータ固定のために使用し、一方、それらの間の中空の(バイパス)チャンネルを電解質に使用する。実際には、面間の中空の(バイパス)チャンネルの高さは0.4〜10mmである可能性があり、これらのスペーサー糸の長さおよびチャンネル全体の圧力降下の回避に依存する。
【0075】
これらの3Dスペーサーファブリックは典型的には管状形態に編まれ、それ自体で、または切断された形態のいずれかで使用することができる。そのまま使用される場合、一体型の実質的に中空の(バイパス)チャンネルを有する円筒形セパレータが得られる。
【0076】
細長い多孔性ウェブを、好ましくは、巻き取りローラー上に巻き取ることができる。細長い多孔性ウェブは、好ましくは、少なくとも500μmの厚さ、特に好ましくは少なくとも1250μmの厚さを有する。細長い多孔性ウェブは、好ましくは最大でも10mm(10000μm)の厚さを有する。
【0077】
セパレータの3Dスペーサーファブリックのための材料の選択は、高アルカリ性電解質などの用途で想定される浸食環境に依存するか、または燃料電池はそのような環境に耐えることができる3Dスペーサー材料を必要とする。ファブリックの好適な材料としては、低温(<80℃)用途用として、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド/ナイロン(PA)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエチレンおよびポリエチレンテレフタレート(PET)、および玄武岩(basalt)、並びに、高温(<120℃)用途用として、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、モノクロロトリフルオロエチレン(CTFE)、エチレンとクロロトリフルオロエチレンとのコポリマー(ETFE)、エチレンとテトラフルオロエチレンとのコポリマー(ETFE)、およびm−アラミドが挙げられる。そのようなファブリックは、織布または不織布であり得るが、好ましくは織布である。
【0078】
150℃の温度で、45分後のETFE−メッシュの平均クリンプ(crimp)は10〜15%であり、ポリプロピレンメッシュの平均クリンプは>30%であった。230℃の温度で、ETFE−メッシュの平均クリンプは30%よりも大きかった。
【0079】
細長い多孔性ウェブの開口領域(open area)は、好ましくは30〜70%であり、40〜60%の範囲の開口領域が特に好ましい。
【0080】
細孔またはメッシュ開口部は、好ましくは100〜1000μmの平均直径を有し、300〜700μmの平均直径が特に好ましい。
【0081】
細長い多孔性ウェブは、好ましくは、ウェブのいずれかの側の実質的に同じ細孔径/メッシュサイズと対称である。
【0082】
細長い多孔性ウェブは、好ましくは織布である。細長い多孔性ウェブは好ましくは2〜20の範囲、特に好ましくは2〜15の範囲のMacMullin数を有する。MacMullin数はイオン透過性の指数であり、電解質単独の伝導率を支持体中に含浸された電解質溶液での伝導率で割ったものであり、すなわち、イオン透過性はこの数が増加するにつれて増加する。
【0083】
[ドープ(Dope)]
3Dスペーサーファブリックをコーティングするためのドープ(又はドープ塗料)は、少なくとも1つの膜ポリマーおよびそのための少なくとも1つの有機溶媒を含み、場合によって、少なくとも1つの細孔形成促進材料および場合によって少なくとも1つの極性有機溶媒をさらに含む。3Dスペーサーファブリックの2つの表面に適用されるドープは同じであってもよいし、または異なっていてもよい。
【0084】
ドープは、好ましくは少なくとも1つの膜ポリマー、少なくとも1つの極性溶媒および少なくとも1つの安定剤、例えばグリセロールを含み、場合によって少なくとも1つの細孔形成促進材料をさらに含む。親水化剤および安定剤、例えばポリプロピレングリコール、エチレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、例えばPEG8000およびPEG20000、グリセロール、多価アルコール、例えばグリセリン、ジブチルフタレート(DBP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジウンデシルフタレート(DUP)、イソノナン酸、およびネオデカン酸を位相反転プロセスが完了した後であるが、乾燥前に組み入れることもできる。
【0085】
多くの場合、溶媒混合物の変動は異なるフィルム形態をもたらし、したがって異なる膜性能をもたらす。好適な膜ポリマーとしては、ポリスルホン(PSU)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ(アクリロニトリル)(PAN)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリメチルメタクリレートまたはそれらのコポリマーが挙げられ、PVDF、VDF−コポリマー、及び、主にPVDFから構成される有機ポリマー化合物が、酸化/還元耐性およびフィルム形成特性の観点から特に好ましい。これらのうち、フッ化ビニリデン(VDF)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)およびクロロトリフルオロエチレン(CTFE)のターポリマーが、それらの優れた膨潤特性、耐熱性および電極に対する接着性のために好ましい。好適な細孔形成促進材料にはポリマーが含まれる。好適な親水性ポリマーとしては、ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)、架橋ポリビニルピロリドン(PVPP)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(酢酸ビニル)、メチルセルロースおよびポリエチレンオキシドが挙げられる。
【0086】
好適な無機材料としては、TiO
2、A1
2O
3、ZrO
2、Zr
3(PO
4)
4、BaTiO
3、SiO
2、ペロブスカイト酸化物材料、SiCおよびC(Pt/Rh/Ru)が挙げられ、金属酸化物および水酸化物、例えば酸化ジルコニウムまたは酸化チタンが好ましい。無機酸化物および水酸化物は、イオン透過性ウェブ強化セパレータのイオン伝導率を増大させるさらなる利点を有する。好適な極性有機溶媒には、N−メチル−ピロリドン(NMP)、N−エチル−ピロリドン(NEP)、Ν,Ν−ジメチルホルムアミド(DMF)、ホルムアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)、Ν,Ν−ジメチルアセトアミド(DMAC)、アセトニトリルおよびそれらの混合物が含まれる。ポリスルホン−NMP溶液を水中に浸漬することによって形成されるフィルムは多孔性である。しかしながら、ポリスルホン−NMP−THF溶液を水中に浸漬すると異なる膜構造が得られる可能性がある。
【0087】
イオン透過性ウェブ強化セパレータのコックリング(cockling)(波形)およびカールは主に、イオン透過性ウェブ強化セパレータが完全に対称性ではないため、特に、細長い多孔性ウェブはイオン透過性ウェブ強化セパレータの中央に位置しないことに起因することが判明している。含浸ヘッドの下側リップ面間の距離を上側リップ面間の距離よりも大きく設定することも、特に更に細長い多孔性ウェブの場合に細長い多孔性ウェブのセンタリングの助けとなる可能性がある。下側リップ面と上側リップ面との間のオフセットは100μm以上である可能性がある。ドープの粘度を増大させることによっても、イオン透過性ウェブ強化セパレータ中での細長い多孔性ウェブの中央位置決定を改善するが、臨界粘度を超えると、このことはドープによる細長い多孔性ウェブの透過に悪影響を及ぼす。しかしながら、剪断減粘(shear−thinning)ドープの使用は、細長い多孔性ウェブのドープ透過に悪影響を及ぼす粘度を使用する必要が無くイオン透過性ウェブ強化セパレータのコックリング(波形)の減少を可能にすることも判明した。
【0088】
ドープは、好ましくは、含浸温度にて少なくとも2.0、更に好ましくは少なくとも2.5、最も好ましくは少なくとも5の、1s
−1の剪断での粘度と100s
−1の剪断での粘度の比を有する。さらに、粘度比が高いほど、法外な波形なしに許容できる全セパレータ厚さ対多孔性ウェブ厚さの比が大きくなる。減少したコックリングは、さらにコンパクトな電解槽の実現を可能にする。粘度比は、無機顔料またはポリマーを増粘剤として使用することによって増加させることができる。
【0089】
イオン透過性ウェブ強化セパレータの平滑度は、ドープ粘度によって決定されず、原則として含浸ヘッドの下側リップの平滑度によって決定されることも見出された。平滑度は、セパレータ特性の均一性およびセパレータを通るガス漏れを回避する。
【0090】
[イオン透過性強化セパレータ]
本発明の第1の態様によると、少なくとも1つのセパレータ要素と、前記少なくとも1つのセパレータ要素と隣接する実質的に中空のバイパスチャンネルとを含むイオン透過性強化セパレータが提供され、ここで、前記少なくとも1つのセパレータ要素は、バインダーと、その中に分散された金属酸化物または水酸化物とを含み、前記セパレータ要素は、少なくとも1バールのバブルポイントおよび少なくとも1バールのバックウォッシュ抵抗を有する。
【0091】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態によると、強化は、ウェブ(例えば、不織布、織布または編物)、格子、金網および多孔(例えば、多重)板からなる群から選択される強化手段で実現され、積層または多孔多重板が好ましい。無孔(unperforated)積層多重シートの例は欧州特許第1215037A号明細書で開示され、無孔押出多重シートの例は欧州特許第1506249A号明細書で開示されている。
【0092】
本発明の第1の態様の別の好ましい実施形態によると、イオン透過性強化セパレータはウェブ強化セパレータである。
【0093】
本発明の全ての態様の別の好ましい実施形態によると、セパレータは2つのセパレータ要素を含む。
【0094】
本発明の全ての態様の別の好ましい実施形態によると、セパレータは、少なくとも2つの実質的に中空のバイパスチャンネルを含む。
【0095】
本発明の第1の態様の別の好ましい実施形態によると、セパレータは2つのセパレータ要素を含み、強化セパレータは、セパレータ要素が2つのセパレータ要素間のスペーサーによって相隔てられている、および/またはそれらが一緒につなぎ合わせられ、圧力に依存しない距離で隔てられている様な構成のウェブ強化セパレータである。
【0096】
本発明の第1の態様の別の好ましい実施形態によると、セパレータ要素は6M水酸化カリウム溶液中、30℃にて4Ωcm未満の比抵抗を有する。
【0097】
本発明の第1の態様の別の好ましい実施形態によると、セパレータ要素は0.05〜0.50μmの範囲内の細孔径を有する。
【0098】
本発明の第1の態様の別の好ましい実施形態によると、実質的に中空のバイパスチャンネルは前記イオン透過性強化セパレータに一体化されている。
【0099】
本発明の第1の態様の別の好ましい実施形態によると、セパレータは円筒形である。
【0100】
本発明の第1の態様の別の好ましい実施形態によると、少なくとも1つのセパレータおよび中空のバイパスチャンネルは互いに分離不能に連結されている。
【0101】
本発明の全ての態様の別の好ましい実施形態によると、少なくとも1つのセパレータの厚さは少なくとも1mmである。
【0102】
本発明の全ての態様の別の好ましい実施形態によると、少なくとも1つのセパレータの厚さは、最大でも8mmであり、最大でも5mmであるのが好ましい。
【0103】
本発明の全ての態様の別の好ましい実施形態によると、実質的に中空のバイパスチャンネルの高さは少なくとも0.6mmである。
【0104】
本発明の全ての態様の別の好ましい実施形態によると、実質的に中空のバイパスチャンネルの高さは最大でも8mmであり、最大でも5mmであるのが好ましい。
【0105】
図9は、プレート間のスペーサーとあわせて積層されてトリラミネートを形成する3つの多孔板の断面画像を示し、このトリラミネートは、一部が、最上多孔板上および最低多孔板上の両方にてイオン透過性層(白色層)でコーティングされて、2つの隣接した分離不可能な実質的に中空のバイパスチャンネルをはさんだ2つのセパレータ要素からなる、本発明のe−バイパスセパレータを形成しているものが示されている。図中の最上層は第1セパレータ要素であり、そのセパレータ要素の下には、2つの実質的に中空のバイパスチャンネルがあり、セパレータ要素の面に対して垂直なスペーサーは多孔板とあわせて積層してチャンネルを形成する。最底部多孔板上(不可視)にコーティングされた最低層は第2セパレータ要素である。
【0106】
図11は、2面が一緒に織りあわされて、両面間に実質的に中空のチャンネルが形成される織布スペーサーファブリックの断面画像を示し、これは、一部が、最上多孔板上および最低多孔板上の両方にてイオン透過性層(白色層)でコーティングされて、2つの隣接した分離不可能な実質的に中空のバイパスチャンネルをはさんだ2つのセパレータ要素からなる、本発明で使用されるe−バイパスセパレータを形成しているものが示されている。織布の形状は、チャンネルの崩壊を防止するモノフィラメント繊維が散在した複数のチャンネル開口部を有するのがはっきりと見える。これは、図の下部で見られ、チャンネル要素のラインがはっきりと見える。1つのセパレータ要素は織布の最上面をコーティングされ、白色層としてはっきりと見える(イオン透過性層でコーティングされている)。他のセパレータ要素(不可視)は、織布の最底面上でコーティングされている。
【0107】
[イオン透過性ウェブ強化セパレータ]
本発明の第1の態様の好ましい実施形態によると、少なくとも1つのセパレータ要素と、少なくとも1つのセパレータ要素と隣接した実質的に中空の(バイパス)チャンネルとを含むイオン透過性ウェブ強化セパレータが提供され、少なくとも1つのセパレータ要素は、バインダーと、その中に分散された金属酸化物、水酸化物、リン酸塩またはチタン酸塩とを含み、セパレータ要素は、6Mの水酸化カリウム水溶液中30℃で4Ωcm未満の比抵抗を有する。
【0108】
本発明の第11の態様によると、イオン透過性ウェブ強化セパレータが提供され、前記イオン透過性ウェブ強化セパレータは、場合によって一体化された実質的に中空の(バイパス)チャンネルによって分離された2つのセパレータ要素を含み、ここで、セパレータ要素はそれぞれ、バインダーと、その中に分散された金属酸化物、水酸化物、リン酸塩またはチタン酸塩とを含み、セパレータ要素は、6Mの水酸化カリウム水溶液中30℃で4Ωcm未満の比抵抗および少なくとも1バールのバックウォッシュ抵抗を有する。2つのセパレータ要素は同一であっても、または異なっていてもよく、例えば異なる組成を有していてもよい。例えば、1つのセパレータはウェブ強化多孔性ジルコニア/ポリスルホンである可能性があり、他方はウェブ強化多孔性ジルコニア/PVDFである可能性がある。そのような構成を必要とする用途は、
図8で示されるような、多孔性ジルコニア/PVDFセパレータ要素が、塩素が生じるセルのアノード側を向き、多孔性ジルコニア/ポリスルホンセパレータ要素が、水素が放出されるセルのカソード側を向き、飽和塩水溶液が内部バイパスチャンネルから供給され、e−バイパスセパレータのジルコニア/ポリスルホン側の全表面を通ってカソードコンパートメントへと流され(若干過剰の圧力を使用することによる)、ポリスルホン系セパレータ要素がそれによって決して塩素ガスと接触せず、PVDF系セパレータ要素は水酸化ナトリウム溶液と接触しない、食塩電解槽である。
【0109】
一体化された実質的に中空の(バイパス)チャンネルを用いる実施形態の場合、2つのセパレータ要素は、セパレータ材料が適用される3Dスペーサーファブリックによって一緒につなぎ合わせられ、相隔てられている。2つのセパレータ要素の間には一体化された実質的に中空の(バイパス)チャンネルがあり、これを電解質で充填することができ、その中をこの電解質が流れる可能性がある。この特別なセパレータ構造は、3Dスペーサーファブリックの2つの外層にドープを含浸することによって得られ、ドープは2つの外層について同じであってもよいし、または異なっていてもよい。さらに、2つの外層に適用されるドープ中の少なくとも1つの無機物は同じであってもよいし、または異なっていてもよく、異なる外層に適用されるドープ中の少なくとも1つのバインダーは同じであってもよいし、または異なっていてもよい。例えば、ZIRFON(登録商標)有機無機セパレータ材料はセパレータ材料になる可能性がある。この内部電解質チャンネルは、2つの隣接するセパレータ要素間を通る電解質循環バイパス流れを作製するために使用することができる。このバイパス中で、溶解したガスのない電解質は、2つのセパレータ要素の全表面を通って流される。このように、圧力の結果として陰極液コンパートメント中で溶解した水素ガスは陽極液コンパートメントへ拡散することが完全に防止される。この操作方法の結果、ガスの純度は、電流密度、圧力および温度などの運転条件と無関係である。
【0110】
2つのセパレータ要素中のセパレータ材料が異なる、本発明の第1および第6の態様の好ましい実施形態によるイオン透過性ウェブ強化セパレータの一例は、ZrO2/PSfセパレータ要素を作製するために、例えばPPS(Ryton)3Dスペーサーファブリックの2つの外層のうちの1つにZirfon(=ZrO
2/PSf/NMP)有機無機ドープを含浸し、ZrO
2/PVDFセパレータ要素を作製するために他方にZrO
2/PVDF/NMP有機無機ドープを含浸し、次いで2つのドープを位相反転させて、2つの異なるセパレータ要素を得る、すなわち、ドープを注入して、2つの外層間の容積が充填されないようにすることによって得られるものである。
図8で示されるように、結果としての内部電解質チャンネルを、2つの異なるセパレータ要素間を通る電解質循環バイパス流れを作製するために使用する。
【0111】
単一セパレータ要素の厚みよりも厚いe−バイパスセパレータは、オーム抵抗の大幅な増加をもたらさない。なぜなら、2つのセパレータ要素間の距離を1mm未満に維持することができ、セパレータ要素の多孔性ならびにそれらの間の空間はどちらも、気泡や溶解したガスのない電解質、例えば純粋なアルカリ液で充填されるからである。
【0112】
本発明の第1および第6の態様の好ましい実施形態によると、2つのセパレーション要素の分離は圧力と無関係である。
【0113】
本発明の第1および第6の態様の好ましい実施形態によると、セパレータ要素は少なくとも1バールのバブルポイントを有する。
【0114】
本発明の第1および第6の態様の好ましい実施形態によると、イオン透過性ウェブ強化セパレータは、2つのセパレータ要素間のスペーサーによって相隔てられるように、および/またはそれらがつなぎ合わせられ、圧力に依存しない距離で相隔たるように構成される。
【0115】
本発明の第1および第6の態様の好ましい実施形態によると、セパレータ要素は、6Mの水酸化カリウム溶液中30℃で4Ωcm未満の比抵抗を有する。
【0116】
本発明の第1および第6の態様の好ましい実施形態によると、セパレータ要素は0.05〜0.50μmの範囲の細孔径を有する。
【0117】
本発明の第1および第6の態様の好ましい実施形態によると、実質的に中空の(バイパス)チャンネルは前記イオン透過性ウェブ強化セパレータ中に一体化される。
【0118】
本発明の第1および第6の態様の好ましい実施形態によると、ウェブ強化は、ポリフェニレンスルフィド(PPS)3Dスペーサーファブリックによって提供される。
【0119】
本発明の第1および第6の態様の好ましい実施形態によると、イオン透過性ウェブ強化セパレータの厚さは0.5〜7.0mmの範囲である。
【0120】
本発明の第1および第6の態様の好ましい実施形態によると、セパレータ要素の厚さは200μm〜2000μmの範囲である。
【0121】
本発明の第1および第6の態様の好ましい実施形態によると、一体型の実質的に中空の(バイパス)チャンネルの高さは400μm〜6.5mmの範囲であり、典型的には1mmであるが、チャンネルの圧力降下を回避するために十分高くなければならないが、実質的な電圧ペナルティを引き起こすほど高くてはならない。
【0122】
本発明の第1および第6の態様の別の好ましい実施形態によると、前記セパレータ要素のバブルポイントは少なくとも3バールであり、5バールを超えるのが好ましく、10バールを超えるのが特に好ましい。
【0123】
本発明の第1および第6の態様の別の好ましい実施形態によると、30℃、6Mの水酸化カリウム水溶液中のセパレータ要素の比抵抗は4Ωcm未満であり、典型的には70℃で2.5Ωcmである。
【0124】
本発明の第1および第6の態様の別の好ましい実施形態によると、6Mの水酸化カリウム水溶液中、30℃でのセパレータ要素の面積抵抗は1.0Ωcm
2未満であり、厚さ500μmのセパレータについての典型的な値は0.2Ωcm
2である。
【0125】
本発明の第1および第6の態様の別の好ましい実施形態によると、セパレータ要素の全細孔容積は、セパレータ要素の50〜80容積%の範囲である。
【0126】
本発明の第1および第6の態様の別の好ましい実施形態によると、70℃での電解質透過性は、(20℃での水の粘度)/(70℃での電解質粘度)の増倍率で換算すると、50〜1500l/hm
2バールの範囲である。例えば、6Mの水酸化カリウム水溶液は、70℃で、20℃の水の粘度と実質的に等しい粘度を有し、したがって、70℃での電解質透過性は約50〜約1500l/hm
2バールの範囲であり、一方、70℃の6M水酸化ナトリウム水溶液は20℃の水の粘度の約2倍の粘度を有し、したがって、電解質透過性は約25〜約750l/hm
2バールの範囲である。
【0127】
本発明の第1および第6の態様の別の好ましい実施形態によると、セパレータ要素の電解質透過性および実質的に中空の(バイパス)チャンネルの寸法は、セパレータ要素を通るものよりも約5〜約20倍高い実質的に中空の(バイパス)チャンネルを通る流速を提供するようなものであり、約10倍が好ましい。
【0128】
本発明の第1および第6の態様の別の好ましい実施形態によると、セパレータ要素の電解質透過性および実質的に中空の(バイパス)チャンネルの寸法は、セパレータ要素を通るものよりも約5倍〜約20倍低い、実質的に中空の(バイパス)チャンネルを通る流れ抵抗を提供するようなものであり、約10倍が好ましい。
【0129】
水性水酸化ナトリウムおよび水性水酸化カリウムは、最適のアルカリ性電解質であり、濃度への伝導率依存性のピークはセル作動温度が増加するとより高い濃度へ増加し、シフトする。例えば、水性水酸化ナトリウムの場合、18℃で0.36Ω
−1cm
−1の最大伝導率は約12.5重量%の濃度で得られ、24重量%の濃度、40℃で、1.25Ω
−1cm
−1まで上昇する;そして水性水酸化カリウムの場合、20℃で0.57Ω
−1cm
−1の最大伝導率が約26重量%の濃度で得られ、34重量%の濃度、100℃で、1.71Ω
−1cm
−1まで上昇する。
【0130】
本発明の第1および第6の態様の好ましい実施形態によると、イオン透過性ウェブ強化セパレータは100N/m未満の張力で巨視的にフラットであり、イオン透過性ウェブ強化セパレータは、好ましくは100℃で120分後に10%未満のクリンプ(crimp)を有し、5%未満のクリンプが好ましい。これによって、電気化学セル中でコンパクトなスタッキングが可能になる。
【0131】
本発明の第1および第6の態様の好ましい実施形態によると、イオン透過性ウェブ強化セパレータは100N/m未満の張力で巨視的にフラットであり、イオン透過性ウェブ強化セパレータのコックリングの幅は、最大でも細長い多孔性ウェブの厚さの10倍である。
【0132】
本発明の第1および第6の態様の別の好ましい実施形態によると、イオン透過性ウェブ強化セパレータは円筒形(管状)である。円筒形セパレータ構成は米国特許出願公開第2007/0151865A1号明細書、特許文献4および米国特許第7,510,663号明細書で開示され、これらの構成は参照することによって本明細書中に組み込まれる。一体化された実質的に中空の(バイパス)チャンネルを用いた実施形態の場合、管状3Dスペーサーファブリックを使用して、一体型の実質的に中空の(バイパス)チャンネルを得る。これによって、高圧電気化学セル、例えば高圧アルカリ性水加水分解セルまたは高圧空気燃料電池での使用が可能になる。
【0133】
本発明の第1および第6の態様の別の好ましい実施形態によると、イオン透過性ウェブ強化セパレータは、細長い多孔性ウェブの厚さに対する全厚さの比が2.1未満である。
【0134】
金属酸化物または水酸化物含有ドープをアルカリ耐性3Dスペーサーファブリックの2面に注入する、特許文献9および特許文献8で開示される製造技術は、マルチフィラメントを含むスペーサーファブリックの面が、3Dスペーサーファブリックの2つの側に含浸されたドープの位相反転から得られるセパレータ要素を固定するために使用され、それによって中空の(バイパス)チャンネルが残り、2つのセパレータ要素の間に電解質チャンネルが得られる、フラットシートセパレータまたは円筒形セパレータを提供する。セパレータ要素の間を通るフリー電解質を輸送するために、この電解質チャンネルを使用することができる。この特徴を、アルカリ水電気分解用などの電解槽および空気燃料電池で使用することができる。
【0135】
一体化された実質的に中空の(バイパス)チャンネルを有するセパレータの好ましい実施形態の特定の特徴は:その剛性および2つのセパレータ要素の3Dスペーサーファブリックに対する優れた接着力であり、2つのセパレータ要素を当該2つのセパレータ要素間の全セパレータにわたってギャップとほとんど分離できないようにし、これは電解質の制約されない流れを可能にする。
【0136】
製造プロセスの間、ちょうどいい細孔直径が(MFまたはUF領域で)同様に得られなければならず、これは両セパレータ要素で同時でなければならない。これは、蒸気によって誘発される相分離(VIPS)および液体によって誘発される相分離(LIPS)の組み合わせによっておこなわれる。この開発が真の技術的挑戦(技術的課題)であったことは明かである。
【0137】
そのようなセパレータは、ガス発生をともなう電気分解の間にセパレータ要素を連続して湿らせるため;触媒パイプ材料に由来する腐食生成物堆積物をセパレータ要素から洗い流す(ろ過および脱気電解質でのバックウォッシュによる);冷却目的のため(特にアルカリ型燃料電池について);陽極液および陰極液コンパートメントの両方から放出されるガスの排出を助け、結果としてガス特性が改善され、それによってアルカリ水電気分解装置が5%〜120%で作動できるようにするため、および100〜800バールの超高圧電気分解のため;ならびに陽極液および陰極液両方の濃度の均一化のために使用することができる。この新規セパレータの概念は、電解質バイパス流れの生成を可能にする。これらのバイパスセパレータは、例えば水素、酸素、アンモニアまたはメタノール蒸気などの少なくとも1つのガスの生成または消費を引き起こす多くの種類の電気化学セルについて用いることができる。セパレータ要素の組成および使用される3Dスペーサーファブリックを変えることによって、燃料電池で、アルカリ性または酸性電解質とともに、また電解槽で、異なる電極および触媒でアルカリ性および酸性電解質と高温にて使用することができる、本発明によるセパレータを得ることができる。1種のZirfon(登録商標)PERLセパレータは、例えば、AGFAによって80℃で作動するセルのために提供される。
【0138】
[少なくとも1つのガスの生成または消費を引き起こす電気化学セルにおけるイオン透過性強化セパレータの使用]
【0139】
本発明の第2の態様によると、少なくとも1つのガスの生成または消費を引き起こす電気化学セルにおける本発明の第1の態様のイオン透過性強化セパレータの使用が提供される。
【0140】
本発明の第2の態様の好ましい実施形態によると、セパレータはウェブ強化セパレータである。
【0141】
本発明の第2の態様の別の好ましい実施形態によると、電気化学セルは高圧電気化学セルである。
【0142】
本発明の第2の態様の別の好ましい実施形態によると、電気化学セルは電解槽であり、好ましくはアルカリ水電解槽である。
【0143】
本発明の第2の態様の別の好ましい実施形態によると、電気化学セルは燃料電池であり、好ましくはアルカリ型燃料電池である。
【0144】
本発明の第2の態様の別の好ましい実施形態によると、電気化学セルは燃料電池であり、燃料電池は、アノードコンパートメントと、カソードコンパートメントと、バリアコンパートメントとを含む。
【0145】
本発明の第2の態様の別の好ましい実施形態によると、実質的に中空の(バイパス)チャンネルを通る電解質の流れに対する抵抗は、セパレータ要素を通るものよりも少なくとも10倍低く、20倍低いのが好ましく、50倍低いのが特に好ましい。
【0146】
本発明の第2の態様の別の好ましい実施形態によると、実質的に中空の(バイパス)チャンネルを通る電解質の流れに対する抵抗は、セパレータ要素を通るものよりも最大でも1000倍低い。
【0147】
本発明の第2の態様の別の好ましい実施形態によると、実質的に中空の(バイパス)チャンネルを通る電解質の流れを抑制する圧力は、セパレータ要素を通る電解質の流れを抑制する圧力よりも少なくとも50ミリバール低い。
【0148】
[少なくとも1つのガスの生成または消費を引き起こす電気化学セルにおけるイオン透過性ウェブ強化セパレータの使用]
【0149】
本発明の第7の態様によると、少なくとも1つのガスの生成または消費を引き起こす電気化学セル、特に高圧電気化学セルにおける本発明の第6の態様のイオン透過性ウェブ強化セパレータの使用が提供される。
【0150】
本発明の第7の態様の好ましい実施形態によると、電気化学セルは、アノードコンパートメントと、カソードコンパートメントと、バリアコンパートメントとを含む3コンパートメント電気化学セルである。
【0151】
本発明の第7の態様の別の好ましい実施形態によると、電気化学セルは電解槽であり、好ましくはアルカリ水電解槽である。本発明の第7の態様の別の好ましい実施形態によると、電気化学セルは電解槽であり、この電解槽は、アノードコンパートメントと、カソードコンパートメントと、バリアコンパートメントとを含む。
【0152】
本発明の第7の態様の別の好ましい実施形態によると、電気化学セルは燃料電池であり、好ましくはアルカリ型燃料電池である。
【0153】
本発明の第7の態様の別の好ましい実施形態によると、電気化学セルは燃料電池であり、この燃料電池は、アノードコンパートメントと、カソードコンパートメントと、バリアコンパートメントとを含む。
【0154】
本発明の第7の態様の別の好ましい実施形態によると、実質的に中空の(バイパス)チャンネルを通る電解質の流れに対する抵抗は、セパレータ要素を通るものよりも少なくとも10倍低く、20倍低いのが好ましく、50倍低いのが特に好ましい。
【0155】
本発明の第7の態様の別の好ましい実施形態によると、実質的に中空の(バイパス)チャンネルを通る電解質の流れに対する抵抗は、セパレータ要素を通るものよりも最大でも1000倍低い。
【0156】
本発明の第7の態様の別の好ましい実施形態によると、実質的に中空の(バイパス)チャンネルを通る電解質の流れを抑制する圧力は、セパレータ要素を通る電解質の流れを抑制する圧力よりも少なくとも50ミリバール低い。
【0157】
[電気化学セル]
本発明の第3の態様によると、少なくとも1つのガスの生成または消費を引き起こす電気化学セルが提供され、前記電気化学セルは本発明の第1の態様のイオン透過性強化セパレータを含む。少なくとも1つのガスの生成または消費を引き起こす電気化学セルの例は、電極触媒反応による化合物の生成のための電気化学セル、電解槽および燃料電池である。本発明の第8の態様によると、少なくとも1つのガスの生成または消費を引き起こす電気化学セルが提供され、前記電気化学セルは本発明の第6の態様のイオン透過性ウェブ強化セパレータを含む。少なくとも1つのガスの生成または消費を引き起こす電気化学セルの例は、電極触媒反応による化合物の生成のための電気化学セル、電解槽および燃料電池である。
【0158】
本発明の第3および第8の態様の好ましい態様によると、電気化学セルは電極触媒反応による少なくとも1つの化合物の生成のための電気化学セルであり、前記少なくとも1つの化合物は好ましくはガスである。
【0159】
本発明の第3および第8の態様の好ましい態様によると、電気化学セルは電解槽であり、電解槽は好ましくはアルカリ水電解槽である。
【0160】
本発明の第3および第8の態様の好ましい態様によると、電気化学セルは燃料電池であり、好ましくはアルカリ型燃料電池である。
【0161】
本発明の第3および第8の態様による電気化学セルの好ましい実施形態によると、その内部で、例えば陽極液コンパートメント、陰極液コンパートメントおよびセパレータを通る電解質の循環を提供するための少なくとも1つのポンプを有する電気化学セルが提供される。
【0162】
本発明の第3および第8の態様による電気化学セルの好ましい実施形態によると、その内部で、例えば陽極液コンパートメント、陰極液コンパートメントおよびセパレータを通る電解質の循環を提供するための2つのポンプを有する電気化学セルが提供される。
【0163】
本発明の第3および第8の態様による電気化学セルの好ましい実施形態によると、その内部で、例えば、陽極液コンパートメント、陰極液コンパートメントおよびセパレータを通る電解質の循環を提供するための3つのポンプを有する電気化学セルが提供される。
【0164】
[化合物の生成のための電気化学セル]
本発明の第3および第8の態様の好ましい実施形態によると、少なくとも1つのガスの生成または消費を引き起こす前記電気化学セルは、電極触媒反応による少なくとも1つの化合物の生成ための電気化学セルである。少なくとも1つの化合物は、ガス、液体または溶液中の固体であってよい。液体電解質チャンバの通常のアプローチの代わりに電気化学セル中でe−バイパスセパレータをイオン伝導性/透過性膜とあわせて使用することは:電解質チャンバを有するセルと比較した場合、アノードとカソードとの間の距離が減少し、その結果、抵抗が低くなり、電力損失が低くなること;およびガスの二重バリアの利点を有し、e−バイパスセパレータを組み込むことによって、ガス状反応物ならびにアノードおよびカソードの両方からの生成物のためのバリアが提供される。この構成を他の化学物質の生成のための電気化学セルで使用することができ、セル中で、反応物はガスであるが、生成物は液体または水性電解質中に可溶性の固体であり、反応物は少なくとも1つの液体または水性電解質中に可溶性の固体であり、生成物はガスである。
【0165】
反応物がガスである、本発明の第3および第8の態様によるそのような電気化学的プロセスの一例は、水素および一酸化窒素からのヒドロキシルアミン(HA)の生成である。ヒドロキシルアミンの工業的生産は、窒素の高酸化状態の還元によって実施される。例えば、米国特許第5,554,353号明細書を参照のこと。適切なセル構成を使用することによって、NOをH
2で水素化し、ヒドロキシルアミン(またはその共役酸ヒドロキシルアンモニウム)を製造することが可能であり、電流が副生成物として生じる。燃料電池反応はこの場合:
NO+H
2 → NH
2OH
である。
【0166】
セルは、フリー電解液相によって分けられたアノードとカソード(これらに対して、水素および窒素酸化物がそれぞれ供給される)とからなり、一方、米国特許第4,321,313号明細書は、アノードとカソードとの間のセパレータ/膜の使用を想定しない。アノード水素は酸化されて、プロトンおよび電子を産生する(アノード半反応:H
2→2H
++2e
−)。カソードで、一酸化窒素は還元されて、ヒドロキシルアミンを生じる(カソード半反応:2NO+6H
++6e
−→2NH
2OH)。液体電解質3M硫酸の存在はこの装置では必須である。なぜなら、硫酸は、生じたヒドロキシルアミンと反応して硫酸ヒドロキシルアンモニウム(HAS)を生じるさらなる機能を有するからである:
2NH
2OH+H
2SO
4 → (NH
3OH)
2SO
4
【0167】
硫酸ヒドロキシルアンモニウム塩は、激しい分解をかなり受けやすいヒドロキシルアミン遊離塩基よりもはるかに安定であり、扱いが容易である。試薬と生成物とのクロスオーバーを防止するために、プロトン伝導性膜を、電解質中、アノードとカソードとの間に設置する。しかしながら、ヒドロキシルアンモニウム生成物はイオンであるので、イオン伝導性膜は、HASが電極表面へ移動するのを防止するための適切なバリアではなく、電極表面でHASはさらに反応してシステムの効率を阻害する可能性がある。e−バイパスセパレータは、硫酸との反応によってHA生成物をトラップし、結果として得られるHASを電極表面付近から除去する手段を提供する。
【0168】
生成物がガスである、本発明の第3および第8の態様によるそのような電気化学的プロセスの一例は、塩化物イオンがアノードで酸化されて塩素を産生し、水がカソードで水酸化物イオンおよび水素に分裂する塩素アルカリ電気分解である。通常のセルでは、セパレータまたは隔膜は水酸化ナトリウムおよび塩素副産物の反応を防止し、一方、第3および第8の態様による電気化学セルにおいて、ガスを含まない電解質は、2つのセパレータ層間のバイパスセパレータのチャンネルを通って流れる。この構成は、はるかに低いセル抵抗及びはるかに良好な親水性のさらなる利点を有し、これらはセル効率を増大させる。
【0169】
[電解槽]
本発明の第3および第8の態様の好ましい実施形態によると、少なくとも1つのガスの生成または消費を引き起こす前記電気化学セルは電解槽であり、好ましくは水電解槽であり、特に好ましくはアルカリ水電解槽である。
【0170】
酸性水電気分解は、貴金属触媒の使用を必要とし、一方、アルカリ水電気分解は非貴金属触媒の使用を可能にする。しかしながら、アルカリ性水電気分解装置は、酸素を放出するアノードの高い過電圧のために、低いエネルギー効率を示す。活性化過電圧を減少させるために、スピネル型構造を有する遷移金属酸化物を含む多くの電解触媒が示唆され、遷移金属合金が、それぞれ酸素発生および水素発生電極触媒について最も有望である。
【0171】
図2は、単一ポンプシステム、それぞれ陰極液および陽極液と接触した2つのセパレータ要素ならびに陰極液および陽極液コンパートメント間に、水素の陽極液コンパートメントへの拡散および酸素の陰極液コンパートメントへの拡散を防止することができない隔膜Dを有する先行技術の電気分解装置の略図である。完全脱気の陰極液(1)および陽極液(6)の循環がある。
【0172】
図3は、それぞれ陰極液および陽極液と接触した2つのセパレータ要素を有する2ポンプ(12、13)システムを有する先行技術の電気分解装置の略図であり、図中、1つのポンプは部分脱気電解質10を陰極液中にポンプ圧送し、他のポンプは部分脱気電解質11を陽極液中にポンプ圧送し、陰極液および陽極液コンパートメント間に隔膜があり、これは、水素の陽極液コンパートメントへの拡散および酸素の陰極液コンパートメントへの拡散を防止することができない。陰極液コンパートメントおよび陽極液コンパートメントの両方で部分脱気電解質(10、11)の循環がある。
【0173】
図4は、3つの電解質循環回路16(第1)、17(第2)および18(第3)を有する電気化学セルの略図であり、図中、それぞれ電解質回路を有するアノードおよびカソードは、本発明によるe−バイパスセパレータによって分離され、電解質は2つのセパレータ要素S1およびS2の間の電解質チャンネルを通って循環される。
【0174】
この第3の電解質回路18が陽極液および陰極液回路中よりも高い圧力で動作する場合、セパレータ要素の細孔をそれら全体にわたる電解質の独立流れ(第3の回路)によって連続して湿らせることが可能になり、これは、あらゆる状況(すなわち、低および高電流密度の両方)でセパレータの良好な機能のために必須である。さらに、電解質のこの独立流れは、溶解したガスを含まず、挿入されたチャンネルの2つの側面上のセパレータ要素中に浸透する陽極液および陰極液回路中でそれぞれ生じたガスを連続的に置換し、したがってそれにより除去する。加えて、電解質のこの独立流れはセパレータからパイプの腐食によって生じる堆積生成物を連続してリンスする(セパレータのバックウォッシュによる)。これによって、低い長期セパレータ抵抗を確実にする。その結果、槽電圧は、高い電流密度でさえも低いままであることが予想される。このことは、強力電気分解装置中の大きな電極面積についても当てはまる。第3の電解質回路18のさらなる利点は、陽極液および陰極液中の電解質濃度の均一化が促進されることである。なぜなら、それらはガスセパレータを出た直後で第3の(バリア)コンパートメントに入る直前に混合され、これにより、電解質コンダクタンスは最高であるので、槽電圧が若干減少するからである。
【0175】
特に高圧電気分解装置の場合、通常のセパレータに関するe−バイパスセパレータの別の利点は、優れたガス特性(水素および酸素の両方)をもたらす可能性である。なぜなら、ガスの他のコンパートメントへの拡散は、第3の電解質回路の結果としての対流によって非常に制限されるからである。この改善は、広い電流密度範囲で操作される高圧電気分解装置に特に必要である:30バールで操作される市販の電気分解装置では、3kA/m
2より低い電流密度は水素純度を損なう。さらに、酸素中の水素の汚染率(%)は、爆発下限(LEL)に近づき始める。更に高い電気分解装置圧力で、水酸化カリウム水溶液(アルカリ液)中のガスの溶解度は増加し、ガスの混合はLELに近づく。したがって、電気分解装置を広い操作範囲中150バールにて操作する場合、ガス純度の問題に対処することが必須である。本発明の第1および第6の態様は、この問題に対する解決策を提供する。中間電解質流れを使用し、中央から隔膜を通ってアノードおよびカソードコンパートメントへと輸送されるような方法で圧力差を適用することによって、電解質を通るガスの拡散はごくわずかになる。
【0176】
図5は、e−バイパスセパレータ19、並びに、それぞれ陰極液および陽極液と接触した2つのセパレータ要素S1およびS2を有する本発明によるe−バイパスセパレータ19を組み入れた単一の電解質ポンプ7を有する電気分解装置の略図であり、図中、電解質は、1つのポンプ7によって実質的に中空の(バイパス)チャンネルを通り、セパレータ要素S1およびS2を通り、次いで水素および酸素セパレータHSおよびOSを通ってポンプ圧送され、それぞれ完全脱気陰極液および陽極液が得られ、これを次いでろ過(8)後に戻して、粒状物質、例えば腐食生成物または触媒粒子を除去した後、実質的に中空の(バイパス)チャンネルを通って再度ポンプ圧送する。
【0177】
図6は、e−バイパスセパレータ19、並びに、それぞれ陰極液および陽極液と接触した2つのセパレータ要素S1およびS2を有する本発明によるe−バイパスセパレータ19を組み入れた2つの電解質ポンプP1およびP2を有する電気分解装置の略図であり、図中、電解質は、1つのポンプP1によって実質的に中空の(バイパス)チャンネルを通り、そしてセパレータ要素S1およびS2を通り、次いで水素および酸素セパレータHSおよびOSを通ってポンプ圧送され、それぞれ完全脱気陰極液および陽極液が得られ、これを次いでろ過(8)後に戻し、粒状物質、例えば腐食生成物または触媒粒子を除去した後、実質的に中空の(バイパス)チャンネルを通して再度ポンプ圧送し、第2ポンプP2は電解質を陰極液および陽極液コンパートメント中にポンプ圧送する。
【0178】
単一要素セパレータのものと比較して本発明のセパレータはより厚いために、オーム抵抗が大幅に増加することはない。なぜなら、2つのセパレータ要素間の距離を1mm未満に維持することができ、セパレータ要素の細孔ならびにそれらの間の空間はどちらもアルカリ液で充填されるからである。
【0179】
[燃料電池]
本発明の第3および第8の態様の別の好ましい実施形態によると、前記電気化学セルは燃料電池であり、好ましくはアルカリ型燃料電池(AFC)である。
【0180】
燃料電池中に、空気および水素が供給され、水および電気が産生される。電解質は、強アルカリ性、例えば、AFCにおけるように水酸化カリウムの溶液である可能性があるか、またはリン酸燃料電池(PAFC)およびPEMFCにおけるように酸性である可能性がある。
【0181】
アルカリ型燃料電池では、空気中の二酸化炭素の毒作用の結果、アルカリ型燃料電池の2つの主な変形:静止電解質(static electrolyte)を有するものと、流動電解質を有するものとがある。アポロ宇宙船やスペースシャトルで使用された種類の静止または固定化電解質セルは、典型的には水酸化カリウムで飽和したアスベストセパレータを使用する。水生成はアノードからの蒸発によって達成され、これは他の使用のために再生することができる純水を産生する。これらの燃料電池は、典型的には、最大容積効率および比効率(specific efficiency)を達成するために白金触媒を使用する。流動電解質デザインは、電解質が電極間(電極と平行)または電極中を横方向(ASK型またはEloFlux燃料電池)のいずれかを流れるようにする、よりオープンなマトリックスを使用する。並流電解質デザインでは、生じた水は電解質中に保持され、古い電解質は新しいものと交換することができる。「並流」デザインの場合、この流れを可能にするためには電極間により大きな空間が必要であり、これはセル抵抗の増加となり、固定化電解質設計と比べて電力出力が減少する。アルカリ型燃料電池のさらなる変形には、金属水素化物燃料電池および直接ホウ化水素燃料電池が含まれる。アルカリ性液体電解質(は)、典型的には水酸化カリウム溶液(であり)、電解質中を移動するヒドロキシルイオンの存在は、回路が形成され電気エネルギーが産生されるのを可能にする。
液体電解質の標準的燃料電池電極は、いくつかのPTFE結合したカーボンブラック層からなる。典型的な電流コレクタはニッケルからなる。アノードの触媒はラネーニッケル(Raney-nickel)である。しかしながら、カソード(Pt)およびアノード(Pd、Pt、Ru、Rh)用貴金属の使用は、製造されるAFCシステムの数が少ないので、未だに一般的である。
【0182】
[電解槽中で水素を製造するための方法]
本発明の第4の態様によると、電解槽中で水素を産生するための方法が提供され、この方法では、前記アルカリ水電解槽は本発明の第1の態様のイオン透過性強化セパレータを含み、電解質は、前記セパレータ要素の間でその中を通る前記実質的に中空の(バイパス)チャンネルを充填し、その中を流れる。実質的に中空の(バイパス)チャンネルを通るこの流れがセパレータを冷却する。
【0183】
本発明の第9の態様によると、電解槽中で水素を生成させるための方法が提供され、この方法では、電解槽は本発明の第6の態様のイオン透過性ウェブ強化セパレータを含み、電解質はセパレータ要素間の(場合によって一体化された)実質的に中空の(バイパス)チャンネルを充填し、場合によってその中を流れる。実質的に中空の(バイパス)チャンネルを通るこの流れがセパレータを冷却する。
【0184】
本発明の第4および第9の態様の好ましい実施形態によると、電解槽はアルカリ水電解槽である。
【0185】
本発明の第4および第9の態様の好ましい実施形態によると、セパレータ要素を通る電解質の流速は少なくとも1l/hm
2であり、少なくとも15l/hm
2の流速が好ましい。本発明の第4および第9の態様の好ましい実施形態によると、セパレータ要素を通る電解質の流速は最大でも1000l/hm
2であり、最大でも300l/hm
2の流速が好ましい。
【0186】
本発明の第4および第9の態様の好ましい実施形態によると、(場合によって一体化された)中空の(バイパス)チャンネルを通る電解質流れの速度は、少なくとも1cm/sであり、好ましくは少なくとも10cm/sである。
【0187】
[燃料電池中で発電するためのプロセス]
本発明の第5の態様によると、燃料電池中で発電するための方法が提供され、この方法では、燃料電池は本発明の第1の態様のイオン透過性強化セパレータを含み、電解質は、セパレータ要素間の(場合によって一体化された)実質的に中空の(バイパス)チャンネルを充填し、場合によってその中を通って流れる。
【0188】
本発明の第10の態様によると、燃料電池中で発電するための方法が提供され、ここで燃料電池は本発明の第6の態様のイオン透過性ウェブ強化セパレータを含み、電解質はセパレータ要素間の(場合によって一体化された)実質的に中空の(バイパス)チャンネルを充填し、場合によってその中を通って流れる。
【0189】
本発明の第5および第10の態様の好ましい実施形態によると、燃料電池はアルカリ型燃料電池である。
【0190】
本発明の第5および第10の態様の好ましい実施形態によると、(場合によって一体化された)中空の(バイパス)チャンネルを通る電解質流れの速度は少なくとも1cm/sであり、好ましくは少なくとも10cm/sである。
【0191】
[工業的利用]
本発明によるイオン透過性ウェブ強化セパレータを、ガスの生成または消費を引き起こす電気化学セル、特に高圧電気化学セルで使用することができ、アルカリ型燃料電池およびアルカリ水電気分解のために特に有用である。
【実施例】
【0192】
実施例で使用するファブリック:
太さ150μmのモノフィラメントEFTEから作製される、360μmのメッシュ開口部および50%の開口領域を有する厚さ310μmのファブリックである、NBC Inc.(Liaison Office Europe,Am Isarkanal 21,D−85464 Neufinsing,Germany)から得られるFC0360/50PWエチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー(EFTE)ファブリックを比較例で使用する。
【0193】
Vandenstorme Weaving(De Bruwaan,Oudenaarde,Belgium)から得られる、それぞれ300μmの厚さを有する2面と、50%の開口部分を有する織布との間に厚さ1.48mmの中空チャンネルとを有し、太さ100μmのPPSのモノフィラメントで作製される、厚さ2.0mmの織布であるV C PO 471 PPSファブリックを、本発明の実施例で使用する。
【0194】
実施例で使用するセパレータ:
2種類のセパレータ:特許文献9で記載されるようにして、固体構成成分としてUdelから得られる85重量%のジルコニア(ZrO
2)および15重量%のポリスルホン(PSf)を含むドープをFC0360/50PWエチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー(EFTE)ファブリック上にキャストし、続いてドープのN−エチルピロリドン(NEP)有機非溶媒中での位相反転によって製造された単層550μm厚強化Zirfon(登録商標)Perl550HP単層膜セパレータ;並びに、V C PO471PPSファブリックの外面を、Udelから得られる85重量%のジルコニア(ZrO
2)および15重量%のポリスルホン(PSf)を含有するドープでコーティングし、有機非溶媒であるN−エチルピロリドン(NEP)中でのドープの位相反転後に高さ1.48mmのフリーな中央チャンネルが残ることによって製造される、本発明による隣接した分離できない実質的に中空のバイパスチャンネルを挟んだ2つのセパレータ要素からなる2.0mm厚e−バイパスセパレータを使用した。
【0195】
実施例で使用される電気分解装置:
図10で示されるように、100cm
2の電極面積を有するZirfon(登録商標)Perl 550 HP単一層膜セパレータを伴った2コンパートメントセルを使用した。
図10は、4つの丸い点がスペーサーファブリックの切断されたフィラメントである単一層を明らかに示す。e−バイパス型セパレータの場合、e−バイパスセパレータがツーピース円形構造リングの内部に取り付けられて、
図11で示されるeバイパスセパレータで新たに脱気された電解質の内部供給を可能にする、3コンパートメントセルを使用した。e−バイパスセパレータの高さ1.48mmの内部チャンネルを通る流れを容積型ポンプで実施した。
【0196】
容積型ポンプは、遠心力ポンプまたはターボポンプと異なり、理論上は、どのような吐き出し圧力であっても、所定の速度(RPM)で同じ流れを生成する。したがって、容積型ポンプは、「一定流量機械」である。しかしながら、圧力が増加するにつれ、内部漏れが若干増加するために、真の一定流速を達成することはできない。
【0197】
容積型ポンプは、ポンプの放出側の閉じた弁に対して作動させてはならない。なぜなら、遠心力ポンプのようなシャットオフヘッドを有しないからである。閉じた放出弁に対して作動する容積型ポンプは流れを形成し続け、吐き出し管中の圧力は、管が破裂するまで、またはポンプがひどく損傷を受けるまで、または両方が起こるまで、増加するであろう。
【0198】
実験:
実験を75〜85℃の温度で実施し、実験中、電流密度を1kA/m
2(0.1A/cm
2)〜10kA/m
2(1A/cm
2)で変化させ、圧力を30〜250バールで変化させた。
【0199】
Zirfon(登録商標)Perl 550 HTPセパレータおよびe−パス−セパレータをそれぞれ有する2コンパートメント電気分解装置および3コンパートメント電気分解装置で2種類(2タイプ)の実験を実施した。第1種の実験は、電気分解装置の動作範囲の拡大について、3コンパートメントセル構造中のe−バイパスセパレータの能力を評価することを対象とし、第2種の実験は、ガス純度をそれで改善することができるかどうかを確かめるためであった。
【0200】
電気分解装置の動作範囲を拡大する可能性を評価するための実験:
これらの実験を85℃の固定温度、30バールの固定圧力で、6MのKOHを電解質として使用して電解密度を変えつつ実施した。
【0201】
結果は、Zirfon Perl 550 HTPセパレータについては表1にまとめられ、e−バイパスセパレータについては表2にまとめられている。表1は、通常のZirfon Perl 550 HTPセパレータを2コンパートメントセルで使用した場合、酸素中の水素濃度は2kA/m
2より低い電流密度で高いが、3kA/m
2より高い電流密度では、それらは約0.5容積%まで減少することが判明したことを示す。表2は、75L/hm
2のセパレータの内部チャンネルを通る電解質の流速で、3コンパートメントセル中でe−バイパスセパレータを使用した場合、少なくとも10kA/m
2までの電流密度で高品質酸素および水素を調製することが可能であり、どちらも他のガスの不純物は0.05容積%未満であったことを示す。しかしながら、セパレータの内部チャンネルを通る電解質の流速がさらに低い値まで減少する場合、他のガスの濃度は増加し、ガス特性の低下を表す。流速に応じて、ガス特性を要求に応じて制御することができる。
【0202】
【表1】
【0203】
【表2】
【0204】
超高圧でガス特性(ガス品質)を改善する可能性を評価するための実験:
これらの実験は、75℃の固定温度および4kA/m
2の固定電流密度にて、圧力を変えて実施した。結果を、Zirfon Perl 550 HTPセパレータについては表3に、e−バイパスセパレータについては表4にまとめられている。表3は、通常のZirfon Perl 550 HTP セパレータを2コンパートメントセルで使用した場合、酸素中の水素濃度は、圧力が50バールより高い場合に急激に増加し、250バールで3.5容積%の非常に危険な濃度に達したことを示す。表4は、e−バイパスセパレータを3コンパートメント構造中250バールにて、200L/hm
2のセパレータ中内部チャンネルを通る電解質流速と組み合わせて使用した場合、高品質の酸素および水素が得られ、どちらも0.05%容積%未満の他のガスの不純物レベルを有していたことを示す。しかしながら、内部チャンネルを通る電解質の流速が75L/hm
2まで減少した場合、水素中の酸素濃度は1.45容積%まで増加した。さらに、低い圧力では、許容できるガス特性(ガス品質)を得るために必要な、内部チャンネルを通る電解質の流速は低いことが判明した。
【0205】
【表3】
【0206】
【表4】
【0207】
これらの実験は、カソードで産生されるガスとアノードで産生されるものまたはその逆の相互汚染を部分的または全体的に抑制する際の本発明のセパレータ構造の有効性を示す。