(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018098
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】電子輸送化合物、及びその化合物を用いた有機エレクトロルミネッセントデバイス
(51)【国際特許分類】
C07D 333/76 20060101AFI20161020BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20161020BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20161020BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20161020BHJP
【FI】
C07D333/76CSP
H05B33/22 B
H05B33/14 B
C09K11/06 690
!C07B61/00 300
【請求項の数】9
【外国語出願】
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2014-11174(P2014-11174)
(22)【出願日】2014年1月24日
(65)【公開番号】特開2015-137269(P2015-137269A)
(43)【公開日】2015年7月30日
【審査請求日】2014年7月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】511105034
【氏名又は名称】▲いく▼▲雷▼光電科技股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】バヌマシー・バラガネサン
(72)【発明者】
【氏名】黄 賀隆
(72)【発明者】
【氏名】徐 伯偉
(72)【発明者】
【氏名】江 昆峯
【審査官】
黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−069044(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/187258(WO,A1)
【文献】
国際公開第2011/052186(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0072002(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0187381(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0108735(US,A1)
【文献】
韓国公開特許第10−2012−0120886(KR,A)
【文献】
特開2014−175590(JP,A)
【文献】
特開2014−138006(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0163233(US,A1)
【文献】
韓国公開特許第10−2014−0021969(KR,A)
【文献】
特開2005−320286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式
(II):
【化1】
(式中、X及びYは、それぞれ独立に、
フェニル基を表す。
R1〜R7は、それぞれ独立に、水素及びアリール基からなる群から選ばれる。)
で表される化合物。
【請求項2】
下記式:
【化2】
のいずれかで表される、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
アノードを有する基板の上に、請求項1又は2に記載の化合物を含む少なくとも一つの有機層を形成する工程、および、
前記少なくとも一つの有機層の上にカソードを形成する工程
を含む、有機エレクトロルミネッセントデバイスの製造方法。
【請求項4】
真空蒸着法(vacuum deposition method)またはスピンコート法により、請求項1又は2に記載の化合物をアモルファス薄膜とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の化合物を利用した有機エレクトロルミネッセントデバイス。
【請求項6】
前記化合物は、単独の材料として、またはn型ドーパント材料との組み合わせとして、
電子輸送層または電子注入層に用いられる請求項5に記載の有機エレクトロルミネッセントデバイス。
【請求項7】
前記化合物は、発光層、正孔ブロック層および電子ブロック層からなる群から選ばれた一つの層の材料として用いられる請求項5に記載の有機エレクトロルミネッセントデバイス。
【請求項8】
前記化合物は、蛍光発光体または燐光発光体と組み合わせて、発光層の材料として用いられる請求項5に記載の有機エレクトロルミネッセントデバイス。
【請求項9】
蛍光有機エレクトロルミネッセントデバイス及び燐光有機エレクトロルミネッセントデバイスのいずれかである請求項5に記載の有機エレクトロルミネッセントデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオランテン分子骨格に結合したベンゾチオフェン部分(benzothiophene moieties)を含む化合物、及びその化合物を用いた有機エレクトロルミネッセントデバイスに関し、特に、置換もしくは非置換のベンゾフルオランテンに直接結合した置換もしくは非置換のジベンゾチオフェンを含む化合物、及びその化合物を用いた有機エレクトロルミネッセントデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光デバイス(organic light emitting device、即ちOLED)への応用の需要に応えるために、新規な有機材料の開発への注目が集まっている。鮮やかな輝度を示し、且つ、長寿命、高効率、低駆動電圧および広色域を有する高密度画素ディスプレイの製造においては、このようなデバイスは、コスト的に有利であるため、商業的に魅力がある。
【0003】
典型的なOLEDは、アノードとカソードとの間に配置された少なくとも一つの有機発光層を含む。電流が印加されると、有機層に、アノードが正孔を注入し、カソードが電子を注入する。注入された正孔および電子は、それぞれ逆帯電した電極へ移動する。一つの電子および一つの正孔が同じ分子に局在すると、励起エネルギー状態を有する局在する電子正孔対である励起子(exciton)が形成される。励起子が光電子放出機構(photoemissive mechanism)によって緩和すると、光が放たれる。このようなデバイスの電荷輸送機能および発光効率を改善するために、発光層の周りにある追加の層、例えば、電子輸送層および/または正孔輸送層、あるいは電子ブロック層および/または正孔ブロック層が組み込まれる。ホスト材料に他の材料(即ち、ゲスト材料)をドープすることによって、デバイスの性能を強化し、色度を調整することができることは、文献により証明されている。いくつかのOLED材料およびデバイスの構成が、米国特許第4769292号公報(特許文献1)、米国特許第5844363号公報(特許文献2)および米国特許第5707745号公報(特許文献3)に開示され、その全体の内容が参考として本願に取り込まれる。
【0004】
多層薄膜構造で有機ELディスプレイを製造する理由としては、電極と有機層との界面の安定化が含まれる。また、有機材料において、電子と正孔は移動度が明らかに異なるため、適切な正孔輸送層および電子輸送層を用いれば、電子および正孔を効率よく発光層に輸送することができる。また、発光層において、正孔および電子の密度が均衡をなすようにすれば、発光効率を高めることができる。上記の有機層の正確な組み合わせは、デバイスの効率と寿命を増進することができる。しかしながら、実際のディスプレイの応用への使用に対する全ての要求を満足する有機材料を見つけ出すのは、非常に難しい。
【0005】
トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(tris(8−hydroxyquinoline)aluminum、即ちAlq
3)は、広く用いられる電子輸送材料であるが、強い緑色発光を示し、その材料を用いたデバイスは高駆動電圧を示す。従って、従来の材料に比べて、全ての実用面において優れた特性、例えば、高効率、低駆動電圧および操作安定性を有する電子輸送材料を見つけ出すことは、極めて重要である。
【0006】
イミダゾール基(imidazole groups)、オキサゾール基(oxazole groups)やチアゾール基(thiazole groups)を有する有機小分子が、電子注入層および輸送層の材料として用いられることがよく報告されており、例えば、Chem. Mater. 2004, No.16, p. 4556(非特許文献1)に記載されている。
【0007】
米国特許第5645948号公報(特許文献4)および米国特許第5766779号公報(特許文献5)には、青色発光を有する電子輸送用の代表的な材料である1,3,5−トリス(1−フェニル−1H−ベンゾイミダゾール−2−イル)ベンゼン(1,3,5−tris(1−phenyl−1H−benzimidazol−2−yl)benzene、即ちTPBI)が開示されている。TPBIは、ベンゼン環の1位、3位、5位の置換位置に三つのN−フェニルベンゾイミダゾール基(N−phenyl benzimidazole groups)を有し、電子輸送材料と発光材料を兼ねる。しかし、TPBIは操作安定性が低い。
【0008】
米国特許第6878469号公報(特許文献6)には、アントラセン(anthracene)分子構造のC2及びC6の位置に、2−フェニルベンゾイミダゾール基(2−phenyl benzimidazolyl group)が結合された化合物が開示されている。米国特許公開第20080125593号公報(特許文献7)および韓国特許第20100007143号公報(特許文献8)には、分子骨格の構造にイミダゾピリジル基(imidazopyridyl)またはベンズイミダゾリル基(benzimidazolyl)が含まれ、低駆動電圧および高効率を示す電子輸送材料が開示されている。しかし、これらの材料も操作安定性が低い。
【0009】
フルオランテン誘導体(fluoranthene derivatives)は、本技術分野でよく用いられる発光化合物である。日本特開2002−069044号公報(特許文献9)、日本特開2005−320286号公報(特許文献10)、米国特許公開第20070243411号公報(特許文献11)、国際公開WO 2008/059713(特許文献12)、国際公開WO 2011/052186(特許文献13)、米国特許第7879465号公報(特許文献14)および米国特許第8076009号公報(特許文献15)には、環化したフルオランテン(annulated fluoranthene)を電子注入層および電子輸送層に用いることが開示されている。しかしながら、それらのデバイスは、高発光、操作安定性や低駆動電圧などの必要なEL特性のすべてを有していない。
【0010】
ジベンゾチオフェン(dibenzothiophene、即ちDBT)は、カルコゲノフェン(chalcogenophenes)として分類され、廉価で市販されており、ガスオイルにおいて含有量が最も豊富な化合物の一つであることが報告されている。ジベンゾチオフェンは、高いイオン化ポテンシャル及び大きいバンドギャップを有し、可視光領域では強い吸収を示さない。ジベンゾチオフェンの共平面性(co−planarity)は、分子間相互作用に有利である。韓国特許第20110085784号公報(特許文献16)には、発光デバイスに応用されるベンゾジチオフェン(benzodithiophenes)が開示されている。米国特許公開第20120187381号公報(特許文献17)には、アザジベンゾ部分(azadibenzo moieties)が結合されたアントラセンを電子輸送材料として用いることが開示されている。しかし、それらの材料は、安定性及び駆動電圧をさらに改善する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第4769292号公報
【特許文献2】米国特許第5844363号公報
【特許文献3】米国特許第5707745号公報
【特許文献4】米国特許第5645948号公報
【特許文献5】米国特許第5766779号公報
【特許文献6】米国特許第6878469号公報
【特許文献7】米国特許公開第20080125593号公報
【特許文献8】韓国特許第20100007143号公報
【特許文献9】日本特開2002−069044号公報
【特許文献10】日本特開2005−320286号公報
【特許文献11】米国特許公開第20070243411号公報
【特許文献12】国際公開WO 2008/059713
【特許文献13】国際公開WO 2011/052186
【特許文献14】米国特許第7879465号公報
【特許文献15】米国特許第8076009号公報
【特許文献16】韓国特許第20110085784号公報
【特許文献17】米国特許公開第20120187381号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Chem. Mater. 2004, No.16, p. 4556
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記の種々の問題を解決するために、有機発光デバイスに応用される化合物の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一つの目的は、有機発光デバイスの電子輸送層または発光層に用いられる化合物、及びその化合物を用いたエレクトロルミネッセントデバイスを提供することにより、前記デバイスに高発光効率、長寿命及び低駆動電圧の特性を与えることである。
【0015】
本発明は、下記式(I):
【化1】
(式中、X及びYは、それぞれ独立に、5〜10個の炭素原子を有する芳香族炭化水素もしくは複素芳香族炭化水素を表す。
Ar
1〜Ar
7は、それぞれ独立に、水素、4〜12個の炭素原子を有する非置換もしくは置換の芳香族炭化水素、または4〜12個の炭素原子を有する非置換もしくは置換の縮合多環芳香族炭化水素を表し、Ar
1〜Ar
7が、隣接するX、
Y以外の芳香族炭化水素と選択的に芳香族環構造を形成してもよい。)
で表される構造を有する、フルオランテン分子骨格に結合したベンゾチオフェンを提供する。
【0016】
一つの実施態様において、前記化合物は、下記式(II)〜式(XIII):
【化2】
(式中、X及びYは、それぞれ独立に、5〜10個の炭素原子を有する芳香族炭化水素もしくは複素芳香族炭化水素を表す。R
1〜R
7は、それぞれ独立に、水素、重水素(deuterium)、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、シリル基、シアノ基、アリール基及びヘテロアリール基からなる群から選ばれる。)
からなる群から選ばれた式を有する。
【0017】
もう一つの実施態様において、X及びYは、フェニル基、2−トリル基(2−tolyl)、3−トリル基、4−トリル基、4−ピリジル基、1−ナフチル基および2−ナフチル基からなる群から選ばれる。
【0018】
また、本発明は、
アノードを有する基板の上に、請求項1に記載の式(I)で表される化合物を含む少なくとも一つの有機層を形成する工程、および前記少なくとも一つの有機層の上にカソードを形成する工程を含む、有機エレクトロルミネッセントデバイスの製造方法を提供する。
【0019】
一つの実施態様において
、真空蒸着法(vacuum deposition method)またはスピンコート法により、
前記式(I)で表される化合物をアモルファス薄膜とする。
【0020】
また、本発明は、式(II)〜式(XIII)からなる群から選ばれた式で表される化合物を利用した有機エレクトロルミネッセントデバイスを提供する。
【0021】
一つの実施態様において、前記化合物は、単独の材料として、またはn型ドーパント材料との組み合わせとして、電子輸送層または電子注入層に用いられる。
【0022】
もう一つの実施態様において、前記化合物は、発光層、正孔ブロック層および電子ブロック層からなる群から選ばれた一つの層に用いられる。
【0023】
さらにもう一つの実施態様において、前記化合物は、蛍光発光体または燐光発光体と組み合わせて、発光層に用いられる。
【0024】
一つの実施態様において、前記有機エレクトロルミネッセントデバイスは、蛍光有機エレクトロルミネッセントデバイス及び燐光有機エレクトロルミネッセントデバイスのいずれかである。
【発明の効果】
【0025】
本発明の有機エレクトロルミネッセントデバイスは、高効率、低駆動電圧、長寿命および好ましい熱安定性を示す。また、本発明の有機化合物を用いることにより、白色光を発光することが可能である有機エレクトロルミネッセントデバイスを製造することができる。
【0026】
添付の図面と詳細な説明により、本発明の好ましい態様の目的、趣旨及び利点が、より理解されやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の有機発光デバイスの一つの実施態様の断面図である。
【
図2】本発明の有機発光デバイスのもう一つの実施態様の断面図である
【
図3】本発明の有機発光デバイスのさらにもう一つの実施態様の断面図である。
【
図4】化合物A1の
1H−NMRスペクトルを示す図である。
【
図5】化合物A2の
1H−NMRスペクトルを示す図である。
【
図6】化合物A5の
1H−NMRスペクトルを示す図である。
【
図7】本発明の有機エレクトロルミネッセントデバイスのエレクトロルミネッセントスペクトル(electroluminescent spectrum)を示す図である。
【
図8】本発明の有機エレクトロルミネッセントデバイスの
電圧対輝度のプロット曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、特定の具体的な例により、本発明を実施するための形態を説明する。本技術分野に習熟した者は、本明細書に開示された内容によって本発明の利点や効果を理解することができる。
【0029】
本発明の有機エレクトロルミネッセントデバイスに用いられる化合物は、式(I)で表される。この式(I)で表される化合物は、式(II)〜式(XIII)からなる群から選ばれた一つの式で表される化合物であることが好ましい。
【0030】
式(II)〜式(XIII)の中、X及びYは、5〜10個の炭素原子を有する芳香族炭化水素もしくは複素芳香族炭化水素を表す。X及びYは、同じであってもよく、異なっていてもよい。X及びYは、フェニル基、トリル基、ピリジル基およびナフチル基からなる群から選ばれる。R
1〜R
7は、それぞれ独立に、水素、重水素、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、シリル基、シアノ基、アリール基及びヘテロアリール基からなる群から選ばれる。
【0031】
上記の式(II)〜式(XIII)で表される化合物の中、好ましい例として、以下の化合物A1〜A24、B1〜B24、C1〜C24、D1〜D24、E1〜E24、F1〜F24、G1〜G24、H1〜H24を示すが、それらに限定されない。
【0032】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【0033】
様々なアリール化したフルオランテン誘導体は、Journal of the American Chemical Society 1949, vol.71(6), p.1917及びJournal of Nanoscience and Nanotechnology 2008, 8(9), p.4787.に記載の手順に従って準備されることができる。
【0034】
様々なジベンゾチオフェン誘導体は、他の引用文献に記載の手順に従って準備されることができる。
【0035】
例示化合物A
3の一つを合成する、典型的な合成スキームの一つの例を、以下に示す。
【化11】
【0036】
本発明の一つの実施態様において、式(I)で表される化合物は、有機エレクトロルミネッセントデバイスの有機層に含まれていてもよい。従って、本発明の有機エレクトロルミネッセントデバイスは、基板の上にあるアノードとカソードとの間に、式(I)で表される化合物を含む少なくとも一つの有機層を有する。前記有機層は、発光層、正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層、または正孔輸送層であってもよい。式(I)で表される化合物を含む前記有機層は、好ましくは、電気的に注入されるドーパント(electrically injecting dopants)(n/p型)と組み合わせて、電子輸送・電子注入層に含まれていてもよい。
【0037】
電子輸送層に用いられる導電性ドーパント(即ち、n/p型)は、有機アルカリ金属・アルカリ土類金属の錯体(organic alkali/alkaline metal complexes)、酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩、またはリチウム及びセシウムから選ばれた少なくとも一つのアルカリ金属・アルカリ土類金属を含むリン酸塩であることが好ましい。このような有機金属錯体は、上記特許文献で知られており、これらから適切な錯体を選んで本発明に使用することも可能である。
【0038】
電子輸送・電子注入層において、前記電気的に注入されるドーパントの含有量は、25重量%〜75重量%の範囲にあることが好ましい。
【0039】
また、式(I)で表される化合物のいずれかは、発光層と電子輸送層の間にある層に含まれていてもよい。前記発光層は、蛍光ドーパント、燐光ドーパント、及びそれらにそれぞれ対応する蛍光・燐光ホスト発光体を含んでもよい。
【0040】
また、式(I)〜式(XIII)で表される化合物のいずれかは、電子注入・輸送層、または正孔ブロック層、および/または電子ブロック層に用いられてもよい。
【0041】
本発明の有機エレクトロルミネッセントデバイスの構造について、図面を参照しながら説明するが、それらに限定されない。
【0042】
図1は、本発明の有機発光デバイスの一つの実施態様の概略図である。有機発光デバイス100は、基板110、アノード120、正孔注入層130、正孔輸送層140、発光層150、電子輸送層160、電子注入層170、およびカソード180を含む。前記有機発光デバイス100は、それらの層を順に堆積することにより製造されることができる。
図2は、本発明の有機発光デバイスのもう一つの実施態様の概略図であり、
図1と類似する。ただし、
図2の有機発光デバイスにおいては、励起子245は、正孔輸送層240と発光層250の間に置かれる。
図3は、本発明の有機発光デバイスのさらにもう一つの実施態様の概略図であり、同じく
図1と類似するが、励起子ブロック層355が、発光層350と電子輸送層360の間に置かれる。
【0043】
正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層、正孔ブロック層、発光層および電子注入層に用いられる材料は、従来で知られている材料を用いることができる。例えば、電子輸送層を形成するための電子輸送材料は、発光層を形成するための材料と異なり、正孔を輸送する性質を有するので、電子輸送層への正孔の移動度を促進し、発光層と電子輸送層とのイオン化ポテンシャルの差による蓄積を防止する。
【0044】
また、米国特許第5844363号公報(特許文献2)には、フレキシブルで透明な基板とアノードとの組み合わせが開示されている。米国特許公開第20030230980号公報には、p型ドープの正孔輸送層の例として、m−MTDATAにF
4−TCNQがモル比50:1でドープされるものが開示されている。米国特許公開第20030230980号公報には、n型ドープの電子輸送層の例として、BphenにLiがモル比1:1でドープされるものが開示されている。米国特許第5703436号公報および米国特許第5707745号公報(特許文献3)には、カソードの例として、金属薄層を有する化合物カソードが挙げられ、前記金属薄層としては、例えば、Mg:Agに透明導電性のスパッタ蒸着ITO層が被覆されたものが挙げられることが開示されている。米国特許第6097147号公報および米国特許公開第20030230980号公報には、ブロック層の理論と応用が開示されており、その内容は参考として本願に引用される。米国特許公開第20040174116号公報には、注入層の例が開示されている。米国特許公開第20040174116号公報には、保護層に関する説明内容が開示されている。
【0045】
詳細に説明されていない構造と材料も、本発明に応用されることができる。例えば、米国特許第5247190号公報に開示されたポリマー材料(PLED)からなるOLEDsが用いられてもよい。また、単一の有機層を有するOLEDsが用いられてもよい。OLEDsは、米国特許第5707745号公報に記載されるように積層されてなるものであってもよい。
【0046】
特に説明しない限り、様々な実施態様の任意の層は、任意の適切な方法により沈着され形成されることができる。有機層に関して、好ましい方法は、米国特許第6013982号公報および米国特許第6087196号公報に開示された熱蒸発法とインクジェット法、米国特許第6337102号公報に開示された有機気相沈着法(organic vapor phase deposition、即ちOVPD)、および米国特許第10/233470号公報に開示された有機気相ジェットプリント沈着法(deposition by organic vapor jet printing、即ちOVJP)を含む。他の適切な沈着方法は、スピンコート法および溶液系プロセスを含む。溶液系プロセスは、窒素または不活性雰囲気で行うことが好ましい。他の層に関して、好ましい方法は熱蒸発法を含む。好ましいパターニング方法は、米国特許第6294398号公報および米国特許第6468819号公報に開示されたマスクを介して沈着し冷間圧接するプロセス、およびパターニングと沈着法とを組み合わせたインクジェットとOVJDを含む。当然ながら、他の方法も適用することができる。上記材料は、用いられる沈着方法に合わせるために、変性されてもよい。
【0047】
本発明の有機エレクトロルミネッセントデバイスは、単一のデバイス、アレイ配置された構造を有するデバイス、またはアノードとカソードとがX−Yマトリクスに配置された構造を有するデバイスに適用される。発光層において燐光ドーパントと組み合わせて用いる場合、従来のデバイスに比べて、本発明の有機エレクトロルミネッセントデバイスの発光効率と駆動安定性は明らかに向上する。また、フルカラーパネル又はマルチカラーパネルに用いられる場合、本発明の有機エレクトロルミネッセントデバイスはより優れた性能を示すことができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0049】
合成例1(化合物A1の合成)
6gの3−ブロモ−7,12−ジフェニルベンゾ[k]フルオランテン(3−bromo−7,12−diphenylbenzo[k]fluoranthene)及び3.2gの4−ジベンゾチオフェニルボロン酸(4−dibenzothiophenyl boronic acid)を、30mLのトルエンにて攪拌し混合した。0.06gのテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(tetrakis(triphenylphosphine)palladium)、6.0gの炭酸カリウム及び15mLの水性エタノール(aqueous ethanol)を加えて、窒素雰囲気下で6時間還流反応させた。反応を水でクエンチし、セライトカラム(celite column)に通過させることによりトルエン層を除去した。
【0050】
有機層を合併した後、真空下でロータリーエバポレーターにより蒸発させ、淡黄色固体として化合物A1が得られた。
【0051】
化合物A1は融点が307℃であり、ガラス転移温度(glass transition temperature、即ちTg)が176℃である。
化合物A1の主要な紫外吸収ピークは、313nm、394nm及び417nmにある。
化合物A1のフォトルミネッセンススペクトルは、435nmで発光を示す。
化合物A1の
1H−NMRスペクトルは、
図4に示される。
1H NMR (CDCl
3, δ): 8.21(dd, 1H)−8.20 (dd, 1H); 7.72−7.57 (m, 14H); 7.56−7.54 (m, 3H); 7.48 (d, 1H); 7.45−7.41 (m, 3H); 7.27−7.23 (m, 1H); 6.74 (d, 1H); 6.65 (d, 1H)。
【0052】
合成例2(化合物A2の合成)
10gの2−ブロモ−ジベンゾ[b,d]チオフェン(2−bromo−dibenzo[b,d]thiophene)、5.1gのフェニルボロン酸(phenylboronic acid)、2.2gのテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム及び18.38gの炭酸カリウムを、110mLのトルエンと20mLのエタノールと90mLの水との混合物にて、一夜還流反応させた。反応を水でクエンチし、セライトカラムに通過させることによりトルエン層を除去し、トルエン層をロータリーエバポレーターにより蒸発させ、5.2gの2−フェニル−ジベンゾ[b,d]チオフェン(2−phenyl−dibenzo[b,d]thiophene)が得られた。窒素雰囲気下で、5.2gの2−フェニル−ジベンゾ[b,d]チオフェンを50mLの無水テトラヒドロフラン(anhydrous tetrahydrofuran)に溶解させ、溶液を−78℃に冷却させた。反応混合物に20.0mLのn−ブチルリチウム(1.6M溶液)を添加し、温度が室温と平衡に達するまで連続的に攪拌した。反応混合物を−60℃に冷却させ、5.67mLのホウ酸トリメチル(trimethyl borate)を添加し、連続的に攪拌しながら一夜反応させた。反応を20%の塩酸水溶液でクエンチし、酢酸エチルで有機層を抽出し、抽出された酢酸エチル層を十分に水で洗った後、無水硫酸ナトリウム(anhydrous sodium sulfate)で乾燥させ、4.2gの8−フェニルジベンゾ[b,d]チオフェン−4−ボロン酸(8−phenyldibenzo[b,d]thiophene−4−boronic acid)が得られた。
【0053】
従来方法で準備された4.63gの3−ブロモ−7,12−ジフェニルベンゾ[k]フルオランテン及び3.5gの8−フェニルジベンゾ[b,d]チオフェン−4−ボロン酸を、50mLのトルエンにて攪拌し混合した。0.553gのテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、4.62gの炭酸カリウム及び50mLの水性エタノールを加えて、窒素雰囲気下で還流反応させた。薄層クロマトグラフィーで反応を6時間監視した。反応を水でクエンチし、さらに水で抽出し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに通過させて、トルエン層が得られた。有機層を合併した後、真空下でロータリーエバポレーターにより蒸発させ、黄白色固体として3.5gの化合物A2が得られた。
【0054】
化合物A2は、観測可能な融点を示さない。化合物A2の紫外可視吸収ピークは、395nm及び417nmにある。また、化合物A2のテトラヒドロフランでのフォトルミネッセンススペクトルは、440nmで発光ピークを示す。
化合物A2の
1H−NMRスペクトルは、
図5に示される。
1H NMR (CDCl
3, δ): 8.45−8.39(m, 1H); 8.25 (dd, 1H); 7.83−7.56 (m, 17H); 7.51−7.36 (m, 8H); 7.27−7.24 (m, 1H); 6.73 (d, 1H); 6.63 (d, 1H)。
【0055】
合成例3(化合物A5の合成)
14gの2,8−ジブロモ−ジベンゾ[b,d]チオフェン、11.0gのフェニルボロン酸、3.8gのテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム及び20gの炭酸カリウムを、110mLのトルエンと20mLのエタノールと90mLの水との混合物にて、一夜還流反応させた。反応を水でクエンチし、セライトカラムに通過させることによりトルエン層を除去し、トルエン層をロータリーエバポレーターにより蒸発させ、6gの2,8−ジフェニル−ジベンゾ[b,d]チオフェン(2,8−diphenyl−dibenzo[b,d]thiophene)が得られた。窒素雰囲気下で、6gの2,8−ジフェニル−ジベンゾ[b,d]チオフェンを80mLの無水テトラヒドロフランに溶解させ、溶液を−78℃に冷却させた。反応混合物に20.0mLのn−ブチルリチウム(1.6M溶液)を添加し、温度が室温と平衡に達するまで連続的に攪拌した。反応混合物を−60℃に冷却させ、5.67mLのホウ酸トリメチルを添加し、連続的に攪拌しながら一夜反応させた。反応を20%の塩酸水溶液でクエンチし、酢酸エチルで有機層を抽出し、抽出された酢酸エチル層を十分に水で洗った後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、4.5gの2,8−ジフェニルジベンゾ[b,d]チオフェン−4−ボロン酸(2,8−diphenyldibenzo[b,d]thiophene−4−boronic acid)が得られた。
【0056】
従来方法で準備された3.8gの3−ブロモ−7,12−ジフェニルベンゾ[k]フルオランテン及び3.5gの2,8−ジフェニルジベンゾ[b,d]チオフェン−4−ボロン酸を、50mLのトルエンにて攪拌し混合した。0.5gのテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、3.8gの炭酸カリウム及び50mLの水性エタノールを加えて、窒素雰囲気下で還流反応させた。薄層クロマトグラフィーで反応を6時間監視した。反応を水でクエンチし、さらに水で抽出し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに通過させて、トルエン層が得られた。有機層を合併した後、真空下でロータリーエバポレーターにより蒸発させ、黄色固体として3.0gの化合物A5が得られた。
【0057】
化合物A5は、ガラス転移温度が194℃である。化合物A5の紫外可視吸収ピークは、397nm及び419nmにある。また、化合物A5のテトラヒドロフランでのフォトルミネッセンススペクトルは、446nmで発光ピークを示す。
化合物A5の
1H−NMRスペクトルは、
図6に示される。
1H NMR (CDCl
3, δ): 8.46−8.42(m, 2H); 7.807.56 (m, 20H); 7.51−7.36 (m, 9H); 7.29−7.24 (m, 1H); 6.74 (d, 1H); 6.63 (d, 1H)。
【0058】
デバイス実施例1(有機エレクトロルミネッセントデバイスの製造)
基板を蒸発システムに入れる前に、予め基板を溶剤で脱脂し、紫外線オゾンで清浄した。その後、基板を真空蒸着チェンバーに移動させ、基板の上に全ての他の層を沈着した。約10
−6 Torrの真空下で、熱ボートでの蒸発により、
図2に示されるように、以下の層を順に沈着した。
【0059】
a)正孔注入層、厚さ30nm、HAT−CN。
b)正孔輸送層、厚さ110nm、N,N’−ジ−1−ナフチル−N,N’−ジフェニル−4,4’−ジアミノビフェニル(N,N’−di−1−naphthyl−N,N’−diphenyl−4,4’−diaminobiphenyl、即ちNPB)。
c)発光層、厚さ30nm、3%BDがドープされたBHを含む(BHおよびBDは、台湾の
【数1】
光電科技株式会社の製品名)。
d)電子輸送層、厚さ15nm、化合物A1を含む。
e)電子注入層、厚さ1nm、フッ化リチウム(LiF)。
f)カソード、厚さ約150nm、化合物A1を含む。
【0060】
デバイス実施例1のデバイス構造は、以下のように示される:ITO/HAT−CN(30nm)/NPB(110nm)/BH−3%BD(30nm)/化合物A1(15nm)/LiF(1nm)/化合物A1(150nm)。
【化12】
【0061】
これらの層を沈着した後、デバイスを蒸着チェンバーから封止用の乾燥ボックスに移動させ、続いて、UV硬化性エポキシ樹脂及び水分ゲッター(moisture getter)を含むガラス蓋を用いて封止する。有機ELデバイスは3mm
2の発光領域を有する。有機ELデバイスを外部電源に接続し、直流電圧下で使用して、発光する光の性質は以下の表
1に示される。
【0062】
製造されたデバイスの全てのEL性質は、定電流(KEITHLEY 2400 Source Meter、Keithley Instruments株式会社製、Cleveland, Ohio)および光度計(PHOTO RESEARCH SpectraScan PR 650、Photo Research株式会社製、Chatsworth, Calif.)を用いて室温下で測定した。
【0063】
デバイスの稼働寿命(もしくは安定性)は、発光層の色による様々な初期輝度の下で、室温下で、定電流を用いて、測定した。光の色は、国際照明委員会(CIE)の表色系で示した。
【0064】
デバイス実施例2(有機ELデバイスの製造)
電子輸送層において化合物A1とリチウムキノラート(Lithium quinolate、即ちLiq)のn型ドーパントとを割合1:1で用いる以外、デバイス実施例1と類似する層構造で有機蛍光ELデバイスを製造した。デバイス実施例2のデバイス構造は、以下のように示される:ITO/HAT−CN(30nm)/NPB(110nm)/BH−3%BD(30nm)/Liqがドープされた化合物A1(15nm)/LiF(1nm)/化合物A1(150nm)。
【0065】
比較例1(有機ELデバイスの製造)
電子輸送層において化合物A1の代わりにAlq
3を用いる以外、デバイス実施例1と類似する層構造で有機ELデバイスを製造した。比較例1のデバイス構造は、以下のように示される:ITO/HAT−CN(30nm)/NPB(110nm)/BH−3%BD(30nm)/Alq
3(15nm)/LiF(1nm)/化合物A1(150nm)。
【0066】
実施例で製造された有機ELデバイスの発光ピーク波長、最大発光効率、駆動電圧および出力効率は、表
1に示される。デバイス実施例1、2のELスペクトルは
図7に示され、電圧対輝度のプロット曲線図は
図8に示される。
【0067】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0068】
上記で述べたように、本発明の有機ELデバイス材料を用いた有機ELデバイスは、高発光効率、高熱安定性、低駆動電圧および長寿命を有するため、非常に実用的である。従って、本発明の有機ELデバイスは、フラットパネルディスプレイ、携帯電話ディスプレイ、平面発光体の特性を利用する光源、看板に応用されてもよく、高い技術的価値を有する。
【0069】
上記では、本発明を具体的な実施例により開示及び説明したが、当業者であれば、本発明が様々な他の具体的な実施例にも適用されることが可能であることを容易に理解することができる。従って、本発明の主張する権利範囲は、特許請求の範囲に基づいている。
【符号の説明】
【0070】
100、200、300 有機発光デバイス
110、210、310 基板
120、220、320 アノード
130、230、330 正孔注入層
140、240、340 正孔輸送層
150、250、350 発光層
160、260、360 電子輸送層
170、270、370 電子注入層
180、280、380 カソード
245 励起子
355 励起子ブロック層