(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術では、マンドレルに繊維束をヘリカル巻きによって巻き付ける際に、補強層の面内方向において、マンドレルに巻き付けられた繊維束間に隙間が生じる場合があった。特に、マンドレルのうち径が一定のストレート部において、繊維束間に隙間が生じる場合があった。本明細書において、「繊維束間の隙間」とは、繊維束が巻き付けられることで形成される補強層の面内方向(マンドレルの表面に沿った方向)における隙間をいう。
【0006】
マンドレルに巻き付けられた繊維束間に隙間が生じることで、製造されたタンクの強度が十分に向上できない可能性が生じる。また、繊維束間の隙間の発生を低減するために幅を広げた繊維束を用いた場合、繊維束を供給するためのガイド筒が大きくなる。よって、隣り合うガイド筒同士の干渉を防止するために、隣り合うガイド筒同士の間隔を広げる等のガイド筒の配置位置が制限される場合がある。配置位置が制限されたガイド筒を用いて幅を広げた繊維束がマンドレルに巻き付けられた場合、幅の広い繊維束間に隙間が発生する可能性がある。
【0007】
上記のごとく、マンドレルに巻き付けられる繊維束間の隙間の発生を低減する技術が望まれている。また、マンドレルに巻き付けられる繊維束の面内方向の重なりを低減する技術が望まれている。また、上記技術において、製造工程を簡素化することや、製造コストを低減すること等が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
[形態1]
マンドレルに繊維束をヘリカル巻きするためのヘリカル巻き装置であって、
前記マンドレルを通過させるための開口を有する第1のガイドリングと、
前記マンドレルの軸心を中心とした周方向に沿って前記第1のガイドリングに配置され、第1の繊維束を前記マンドレルに供給する複数の第1のガイド部と、
前記第1のガイド部によって前記第1の繊維束を前記マンドレルに供給して、前記第1の繊維束を前記マンドレルに巻き付けている際に、前記第1のガイド部を周方向に揺れ動かす揺動機構と、を備える、ヘリカル巻き装置。
この形態によれば、揺動機構によって第1のガイド部を周方向に揺れ動かしながら第1の繊維束をマンドレルに巻き付けることができる。これにより、巻き付けられた後の第1の繊維束の幅を広げることができるので、隣り合う繊維束間の隙間の発生を低減できる。
【0009】
(1)本発明の一形態によれば、マンドレルに繊維束をヘリカル巻きするためのヘリカル巻き装置を用いたタンクの製造方法が提供される。ヘリカル巻き装置は、前記マンドレルを通過させるための開口を有し、前記マンドレルの軸心を中心とした前記マンドレルの周囲に配置される第1のガイドリングと、前記軸心を中心とした周方向に沿って前記第1のガイドリングに配置され、第1の繊維束を前記マンドレルに供給する複数の第1のガイド部と、を有し、前記タンクの製造方法は、前記マンドレルが前記開口を通過するように、前記第1のガイドリングに対して前記マンドレルを前記軸心に沿った軸心方向に相対的に移動させる移動工程と、前記移動工程によって前記マンドレルを相対的に移動させつつ、前記第1のガイド部が、前記周方向に揺れ動きながら前記繊維束を前記マンドレルに供給することで前記マンドレルに前記第1の繊維束を巻き付ける巻き付け工程と、を備える。この形態のタンクの製造方法によれば、第1のガイド部が周方向に揺れ動きながら第1の繊維束をマンドレルに巻き付けることで、巻き付けられた後の第1の繊維束の幅を広げることができる。これにより、隣り合う繊維束間の隙間の発生を低減できる。
【0010】
(2)上記形態のタンクの製造方法であって、前記ヘリカル巻き装置は、さらに、前記マンドレルを通過させる開口を有し、前記マンドレルの軸心を中心とした前記マンドレルの周囲であって、前記軸心方向に前記第1のガイドリングと並んで配置された第2のガイドリングと、前記周方向に沿って前記第2のガイドリングに配置され、第2の繊維束を前記マンドレルに供給する複数の第2のガイド部と、を有し、前記第1のガイド部と前記第2のガイド部とは、前記軸心に沿った方向に見たときに、前記周方向に沿って交互に配置され、前記巻き付け工程は、前記第1のガイド部が、前記周方向に揺れ動きながら前記第1の繊維束を前記マンドレルに供給することで前記マンドレルに前記第1の繊維束を巻き付けると共に、前記第2のガイド部が、前記周方向の位置が固定された状態で、前記第2の繊維束を前記マンドレルに供給することで前記マンドレルに前記第2の繊維束を巻き付ける工程を含んでも良い。この形態のタンクの製造方法によれば、第2のガイド部を用いて巻き付けられた第2の繊維束間に、第1のガイド部を用いた第1の繊維束が巻き付けられる。これにより、第1のガイド部を用いて巻き付けられた第1の繊維束の幅が広がることで、隣り合う繊維束間の隙間を低減できる。また、周方向の位置が固定された第2のガイド部を用いて巻き付けられた第2の繊維束間に、周方向に揺れ動く第1のガイド部を用いて第1の繊維束が供給される。これにより、第1のガイド部によって巻き付けられた第1の繊維束の位置ズレを第2のガイド部によって巻き付けられた第2の繊維束によって制限できる。よって、第1の繊維束の位置が安定するので、隣り合う繊維束同士が重なることを抑制できる。
【0011】
(3)上記形態のタンクの製造方法であって、前記移動工程における前記マンドレルの相対的な移動方向は、前記軸心方向において、前記第2のガイド部が位置する側から前記第1のガイド部が位置する側へと向かう方向であっても良い。この形態のタンクの製造方法によれば、第2のガイド部を用いて繊維束を巻き付けた後に、巻き付けた繊維束間に第1のガイド部を用いて巻き付けた繊維束を安定して配置できる。これにより、第1のガイド部を用いてマンドレルに巻き付けられた繊維束の位置が更に安定する。これにより、隣り合う繊維束同士が重なることを更に抑制できる。
【0012】
(4)上記形態のタンクの製造方法であって、前記第1のガイド部が供給する前記第1の繊維束の厚さは、前記第2のガイド部が供給する前記第2の繊維束の厚さよりも薄くても良い。この形態のタンクの製造方法によれば、第2のガイド部を用いて巻き付けられた厚い第2の繊維束間に、第1のガイド部を用いて巻き付けた薄い第1の繊維束を配置できる。これにより、第1の繊維束の位置がより一層安定する。
【0013】
(5)上記形態のタンクの製造方法であって、前記第1のガイド部の前記周方向に揺れ動く範囲は、前記マンドレルの径が大きくなるに従い大きくなっても良い。一般に、マンドレルの径が大きくなる程、巻き付けられた繊維束間の隙間が大きくなる。この形態のタンクの製造方法によれば、揺れ動く範囲を大きくすることで第1の繊維束の幅をより広げることができる。よって、巻き付ける部分の径が変化した場合でも、巻き付ける部分に応じて適切に隣り合う繊維束間の隙間を低減できる。
【0014】
(6)本発明の他の一形態によれば、マンドレルに繊維束をヘリカル巻きするためのヘリカル巻き装置が提供される。このヘリカル巻き装置は、前記マンドレルを通過させるための開口を有する第1のガイドリングと、前記マンドレルの軸心を中心とした周方向に沿って前記第1のガイドリングに配置され、第1の繊維束を前記マンドレルに供給する複数の第1のガイド部と、前記第1のガイド部を周方向に揺れ動かす揺動機構と、を備える。この形態のヘリカル巻き装置によれば、揺動機構によって第1のガイド部を周方向に揺れ動かしながら第1の繊維束をマンドレルに巻き付けることができる。これにより、巻き付けられた後の第1の繊維束の幅を広げることができるので、隣り合う繊維束間の隙間の発生を低減できる。
【0015】
(7)上記形態のヘリカル巻き装置であって、さらに、前記マンドレルを通過させるための開口を有し、前記軸心に沿った軸心方向に前記第1のガイドリングと並んで配置された第2のガイドリングと、前記周方向に沿って前記第2のガイドリングに配置され、第2の繊維束を前記マンドレルに供給する複数の第2のガイド部と、を有し、前記第1のガイド部と前記第2のガイド部とは、前記軸心方向に見たときに、前記周方向に沿って交互に配置され、前記第2のガイド部は、前記周方向の位置が固定されていても良い。この形態のヘリカル巻き装置によれば、第2のガイド部を用いて巻き付けられた第2の繊維束間に、第1のガイド部を用いた第1の繊維束を巻き付けることができる。これにより、第1の繊維束の幅が広がることで、隣り合う繊維束間の隙間を低減できる。また、周方向の位置が固定された第2のガイド部を用いて巻き付けられた第2の繊維束間に、周方向に揺れ動く第1のガイド部を用いて第1の繊維束を供給できるので、第1の繊維束の位置の移動を第2の繊維束によって制限できる。これにより、第1の繊維束の位置が安定するので、隣り合う繊維束同士が重なることを抑制できる。
【0016】
(8)上記形態のヘリカル巻き装置であって、前記第1のガイド部が供給する前記第1の繊維束の厚さは、前記第2のガイド部が供給する第2の前記繊維束の厚さよりも薄くても良い。この形態のヘリカル巻き装置によれば、第2のガイド部を用いて巻き付けられた厚い第2の繊維束間に、第1のガイド部を用いて巻き付けた薄い第1の繊維束を配置できる。これにより、マンドレルに巻き付けられた第1の繊維束の位置がより一層安定する。
【0017】
(9)上記形態のヘリカル巻き装置であって、前記揺動機構は、前記マンドレルの径が大きくなるに従い、前記第1のガイド部を前記周方向に揺れ動かす範囲を大きくしても良い。この形態のヘリカル巻き装置によれば、揺れ動かす範囲を大きくすることで第1の繊維束の幅をより広げることができる。これにより、巻き付ける部分の径が変化した場合でも、巻き付ける部分に応じて適切に隣り合う繊維束間の隙間を低減できる。
【0018】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、ヘリカル巻き装置を備えるフィラメントワインディング装置、上記形態の装置を用いて製造したタンク、上記形態の製造方法を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した一時的でない記録媒体等の形態で実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
A.実施形態:
図1は、本発明の一実施形態としての繊維巻付装置の外観構成を示す斜視図である。繊維巻付装置10は、フィラメントワインディング法によってマンドレル50に繊維束を巻き付ける装置である。本実施形態では、マンドレル50に巻き付ける繊維束は、直径が数マイクロメートル程度の単繊維を複数(例えば、2万本)束ねて構成されている。また、この繊維束は、熱硬化性樹脂が含浸されたカーボン繊維(いわゆるプリプレグ)の集合である。本実施形態では、熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂を用いる。また、本実施形態では、カーボン繊維として、ポリアクリロニトリル(PAN)系カーボン繊維を用いる。なお、ポリアクリロニトリル(PAN)系カーボン繊維に代えて、レーヨン系カーボン繊維やピッチ系カーボン繊維など、他の任意のプリプレグを用いても良い。
【0021】
マンドレル50は、本実施形態では、樹脂成形品により構成されている。なお、かかる樹脂成形品に代えて、高強度のアルミニウム材やステンレス材等の金属材により構成しても良い。マンドレル50の形状は、カプセル状(タンク容器状)である。具体的には、マンドレル50は、マンドレル50の軸心AX方向の中央部分に形成された胴体部と、胴体部の両端からそれぞれ連続して形成されているドーム部とを有する。マンドレル50の両端に位置する2つのドーム部のうち、少なくとも一方のドーム部の円頂部分には、図示しない口金部が形成されている。本実施形態では、繊維束が巻き付けられたマンドレル50を利用して、高圧ガスタンクが製造される。この高圧ガスタンクは、例えば、燃料電池車両において、燃料ガスである水素ガスの収容タンクとして用いられる。口金部は、タンクへの水素ガスの貯蔵およびタンクからの水素ガスの排出に用いられる。なお、
図1には、X軸とY軸とZ軸とを明示している。X軸は、マンドレル50の軸心AX方向と平行である。Y軸は鉛直方向と平行である。なお、−Y軸方向は、鉛直下方向に相当する。Z軸は、水平方向と平行である。
【0022】
繊維巻付装置10は、クリール装置210と、基台300と、フープ巻き装置100と、ヘリカル巻き装置200と、を備えている。
【0023】
クリール装置210は、繊維束が巻かれた多数のボビン211と、給糸ガイド212とを備えており、各ボビン211から給糸ガイド212を介してヘリカル巻き装置200に繊維束を供給する。
図1に示すように、クリール装置210は、基台300と平行して配置されている。
【0024】
基台300は、X軸方向に沿って延設されており、第1のレール302と、第2のレール304と、第1の支持台310と、第2の支持台311とを備えている。第1のレール302及び第2のレール304は、いずれも基台300の上面において互いに平行となるように形成された一対の溝であり、基台300の長手方向(X軸方向に沿った方向)に延設されている。第2のレール304は、第1のレール302を挟むように配置されている。
【0025】
第1の支持台310は、第2の支持台311と共にマンドレル50を支持する。第1の支持台310は、基台300の上面において、ヘリカル巻き装置200に対して+X軸方向側に配置されている。第1の支持台310は、図示しない駆動機構により駆動されて、第1のレール302上を往復動できる。第1の支持台310は、ベース312と、支持腕314と、チャック316と、取付治具318と、を備えている。ベース312は、板状の部材であり、第1のレール302に対して、スライド可能に配置されている。支持腕314は、Y軸方向を長手方向とする四角柱状の外観形状を有し、ベース312から上方向に向かって延びる。チャック316は、支持腕314の上端部、換言すれば、支持腕314がベース312に固定されている側とは反対側の端部に設けられている。チャック316は、取付治具318を固定する。取付治具318は、略棒状の治具であり、マンドレル50を支持する。詳細には、取付治具318は、一端部でマンドレル50のドーム部を保持し、他端部はチャック316に固定される。これにより、第1の支持台310に対してマンドレル50を保持することができる。取付治具318は、図示しない駆動機構により、軸心AXを中心として回転できる。このため、取付治具318により支持されるマンドレル50も、取付治具318と共に軸心AXを中心として回転できる。
【0026】
第2の支持台311は、取付治具318を支持し、かつ、第1の支持台310と共にマンドレル50を支持する。第2の支持台311は、フープ巻き装置100に対して−X軸方向側に配置されている点においてのみ第1の支持台310と異なる、よって、詳細な説明を省略する。
【0027】
フープ巻き装置100は、基台300の上面に配置されており、マンドレル50に繊維束をフープ巻きする。フープ巻き装置100は、フレーム102と、巻掛テーブル104と、5個のホルダー106と、5個のボビン107とを備えている。フレーム102は、フープ巻き装置100の各部材を収容する筐体である。フレーム102は、図示しない駆動機構により駆動されて、第2のレール304上を往復動できる。
【0028】
巻掛テーブル104は、円盤状の外観形状を有し、厚さ方向がX軸と平行となるように、フレーム102に固定されている。巻掛テーブル104の中央には、厚さ方向に貫通する開口105が形成されている。開口105は、マンドレル50の通過を許容し、繊維束をマンドレル50に巻き付ける際にはマンドレル50が配置される。開口105の中心は軸心AX上に位置し、開口105には、取付治具318が貫通されている。巻掛テーブル104は、開口105の近傍に、第1のガイド給糸部108と、第2のガイド給糸部109とを備えている。第1のガイド給糸部108及び第2のガイド給糸部109は、それぞれ巻掛テーブル104から+X軸方向に突出して配置されている。第1のガイド給糸部108は、マンドレル50に対して上方(+Y軸方向)に位置している。第2のガイド給糸部109は、マンドレル50に対して下方(−Y軸方向)に位置している。第1のガイド給糸部108と第2のガイド給糸部109とは、マンドレル50に繊維束を供給する。
【0029】
5個のホルダー106は、開口105を囲むように環状に並んで配置されている。各ホルダー106は、それぞれ1つのボビン107を収容する。ボビン107には、ボビン211と同様に予め繊維束が巻かれている。各ホルダー106は、図示しない駆動機構により回転駆動され、ボビン107から第1のガイド給糸部108および第2のガイド給糸部109に繊維束を供給する。
【0030】
ヘリカル巻き装置200は、基台300の上面に配置されており、マンドレル50に繊維束をヘリカル巻きする。ヘリカル巻き装置200は、フレーム202と、ガイドリング部としての給糸リング部204とを備えている。フレーム202は、給糸リング部204を収容する筐体である。マンドレル50は、図示しない駆動機構により駆動されて、給糸リング部204の中を往復動できる。
【0031】
給糸リング部204は、厚み方向がX軸と平行となる略円柱状の外観形状を有する。給糸リング部204の軸は、マンドレル50の軸心AXと一致する。給糸リング部204の中央には、厚み方向に貫通する開口206が形成されている。開口206内には、マンドレル50が配置され得る。開口206を形成する給糸リング部204の内壁には、繊維束をマンドレル50に供給するための図示しないガイド部が多数配置されている。このガイド部からマンドレル50に向かって多数の繊維束が繰り出される。なお、ヘリカル巻き装置200の詳細構成は後述する。
【0032】
図2は、ヘリカル巻きを説明するための図である。ヘリカル巻きは、繊維束Fの巻回軌跡が軸心AXに対して低角度の繊維角αLH(例えば、約11〜25°)で交差する。すなわち、ヘリカル巻きを用いた繊維束Fは、マンドレル50の胴体部50aの両端に位置するドーム部50bに掛け渡るよう螺旋状に繰り返し巻回される。そして、両側のドーム部50bでは、マンドレル50の往路・復路の切換に伴って繊維の巻き付け方向が折り返されると共に、軸心AXからの折り返し位置も調整される。ヘリカル巻きを行う際には、マンドレル50が軸心AXを中心として回転すると共に、軸心AX方向に沿って開口206内を通過するように往復移動する。これにより、ヘリカル巻きによって形成されたヘリカル層が形成される。
【0033】
図3は、フープ巻きを説明するための図である。フープ巻きは、繊維束Fの巻回軌跡が軸心AXに対してほぼ垂直に近い角度(繊維角α0が例えば約89°)で交差する。このフープ巻きは胴体部50aに施される。フープ巻きを行う際には、フープ巻き装置100が軸心AX方向に沿って往復動すると共に、マンドレル50が軸心AXを中心として回転する。これにより、フープ巻きによって形成されたフープ層が形成される。マンドレルの周囲に、フープ層とヘリカル層を複数積層して補強層を形成することで、強度が向上したタンクが製造される。
【0034】
図4は、ヘリカル巻き装置200の詳細を説明するための図である。
図4は、ヘリカル巻き装置200の一部を示す斜視図である。ヘリカル巻き装置200は、可動側ヘリカルユニット201Aと、固定側ヘリカルユニット201Bとを備える。可動側ヘリカルユニット201Aと固定側ヘリカルユニット201Bとは、軸心AX方向(X軸方向)に沿って並んで配置されている。
【0035】
可動側ヘリカルユニット201Aは、給糸リング部204を構成する第1のガイドリング204Aと、繊維束Fをマンドレル50に供給する複数の第1のガイド部236Aと、を備える。第1のガイドリング204Aは、マンドレル50を通過させるための開口206Aを有する。この開口206Aは、給糸リング部204の開口206を構成する。第1のガイドリング204Aは、マンドレル50の軸心AXを中心としたマンドレル50の周囲に配置され得る。
【0036】
複数の第1のガイド部236Aは、軸心AXを中心とした周方向に沿って一定間隔毎に第1のガイドリング204Aに固定されている。例えば、第1のガイド部236Aは、50〜300個配置される。第1のガイドリング204Aは、後述する駆動機構によって軸心AXを中心とした周方向に沿って所定範囲内で揺れ動くことが可能である。第1のガイドリング204Aの動きに連動して複数の第1のガイド部236Aも周方向に沿って揺れ動く。
【0037】
固定側ヘリカルユニット201Bは、給糸リング部204を構成する第2のガイドリング204Bと、繊維束Fをマンドレル50に供給する複数の第2のガイド部236Bと、を備える。第2のガイドリング204Bは、マンドレル50を通過させるための開口206Bを有する。この開口206Bは、給糸リング部204の開口206を構成する。第2のガイドリング204Bは、マンドレル50の軸心AXを中心としたマンドレル50の周囲に配置され得る。第2のガイドリング204Bは、軸心AX方向に沿った方向に第1のガイドリング204Aと並んで配置されている。
【0038】
複数の第2のガイド部236Bは、軸心AXを中心とした周方向に沿って一定間隔毎に第2のガイドリング204Bに固定されている。例えば、第2のガイド部236Bは5000〜300個配置される。本実施形態では、第1のガイド部236Aの個数と第2のガイド部236Bの個数は同じである。第2のガイドリング204Bは、第1のガイドリング204Aと異なり周方向の位置が固定されている。すなわち、複数の第2のガイド部236Bは、周方向の位置が変位することなく固定されている。
【0039】
ここで、第1のガイド部236Aと第2のガイド部236Bの繊維束Fをマンドレル50に供給するための構成は同様である。よって、以下に第1と第2のガイド部236A,236Bにおける繊維束Fを供給するための構成について、第1のガイド部236Aを用いて説明する。
【0040】
第1のガイド部236Aは、繊維束Fを第1のガイド部236Aに導入するための導入部237と、繊維束Fをマンドレル50に向けて供給するための供給部238とを有する。導入部237から供給部238に至る繊維束Fの供給経路は直線状である。導入部237は筒状である。供給部238は、凹形状である。供給部238は、凹形状の底部を形成する底面部232と、底面部232の側面部を形成する第1の側面部234及び第2の側面部235とを有する。また、供給部238の先端には、第1と第2の側面部234,235とを繋ぐ上面部233が形成されている。これにより、供給部238の先端開口239は枠状を形成する。繊維束Fは先端開口239を通ってマンドレル50に供給される。
【0041】
複数の第1のガイド部236Aのそれぞれの先端開口239は、対向するマンドレル50の胴体部50a(
図2)の外表面に対して同じ向きとなるように配置されている。すなわち、各先端開口239が軸心AXを通る所定の一点に向かって開口し、かつ、各供給部238の中心軸ACを中心とした各供給部238の回転位置が全て同じである。言い換えれば、各先端開口239を所定の一点を中心として周方向に回転させると全て重なる関係にある。これにより、ヘリカル巻きによって巻き付けられる繊維束同士の重なりを抑制できる。ここで、マンドレル50に供給された繊維束がすべる等によって繊維束同士が重なると段差や段差に起因する空隙が発生する場合がある。これにより、タンク強度が低下する等のタンク性能が低下する場合がある。しかしながら、本実施形態では、繊維束同士の重なりを抑制できるためタンク性能が低下することを抑制できる。
【0042】
第1のガイド部236Aと第2のガイド部236Bとがそれぞれ供給する繊維束Fの幅は同じである。また、第1のガイド部236Aが供給する繊維束F(「第1の繊維束F1」とも呼ぶ。)の厚さは、第2のガイド部236Bが供給する繊維束F(「第2の繊維束F2」とも呼ぶ)の厚さよりも薄い。例えば、第1の繊維束F1の厚さは、第2の繊維束F2の厚さの1/2以下であることが好ましく、1/3以下であることがより好ましい。これにより、第2の繊維束F2によって第1の繊維束F1の位置が安定する。なお、第1の繊維束F1と第2の繊維束F2の幅は異なっていても良い。ここで、第1の繊維束F1と第2の繊維束F2の幅とは、マンドレル50に巻き付けられた直後の幅をいう。
【0043】
図5〜
図8は、ヘリカル巻き装置200を説明するための図である。
図5〜
図8は、ヘリカル巻き装置200を模式的に図示している。
図5は、ヘリカル巻き装置200の正面図である。
図6は、ヘリカル巻き装置200の側面図である。
図7は、
図6のF6−F6部分断面図である。
図8は、
図7のF7−F7断面図である。
【0044】
図5に示すように、ヘリカル巻き装置200は、更に、複数のガイドローラ250と、補助フレーム230と、揺動機構40と、を備える。ガイドローラ250は、第1のガイド部236A及び第2のガイド部236Bに対応して設けられている。ガイドローラ250は、クリール装置210(
図1)のボビン211から供給された繊維束Fを対応するガイド部(第1のガイド部236A又は第2のガイド部236B)に案内する。ガイドローラ250は、フレーム202及び補助フレーム230に固定されている。
【0045】
補助フレーム230は、可動側ヘリカルユニット201Aに設けられている。補助フレーム230は、第1のガイドリング204Aを固定する。補助フレーム230は円環状であり、中央には開口206を形成するための貫通孔が形成されている。なお、第2のガイドリング204Bはフレーム202に固定されている。
【0046】
図6に示すように、第1のガイド部236Aと第2のガイド部236Bとは、軸心AX方向(X軸方向)にヘリカル巻き装置200を見たときに、周方向に沿って交互に配置されている。すなわち、隣り合う2つの第1のガイド部236Aの間には、1つの第2のガイド部236Bが位置する関係を有する。また、揺動機構40による第1のガイド部236Aの周方向における変位に拘わらず、第1のガイド部236Aと第2のガイド部236Bとは上記関係を有する。
【0047】
揺動機構40は、油圧シリンダ41と、制御部49とを備える。油圧シリンダ41のピストンロッドの端部43は、補助フレーム230に設けられたブラケット42に連結されている。油圧シリンダ41のシリンダ側の端部45は、フレーム202の底部に設けられたブラケット44に連結されている。制御部49は、油圧シリンダ41のピストンロッドを伸縮させる。これにより、補助フレーム230が周方向Rへ揺れ動くことで、第1のガイド部236Aも周方向Rへ揺れ動く。
【0048】
図7に示すように、ヘリカル巻き装置200は、第1のガイド部236Aの周方向Rへの揺れ動く範囲が所定範囲内に制限するための制限機構30を有する。所定範囲とは、少なくとも周方向における隣り合う第2のガイド部236B(
図6)の距離(ピッチ)未満に設定される。すなわち、第1のガイド部236Aが、周方向Rにおいて常に隣り合う第2のガイド部236Bの間に位置するように、制限機構30によって揺れ動く範囲が制限される。制限機構30によって、第1のガイド部236Aと第2のガイド部236Bとが周方向Rにおいて重なることを防止できるので、第1のガイド部236Aと第2のガイド部236Bのそれぞれから供給された繊維束Fが重なる可能性を低減できる。
【0049】
図7に示すように、制限機構30は、第1制限部としてのボルト37と、第2制限部としての溝36と、を備える。ボルト37と溝36とによって、第1のガイドリング204Aの周方向Rにおける移動範囲(揺れ動く範囲)が所定範囲PR(
図8)に制限される。
図6に示すように、ボルト37及び溝36は、4個ずつ設けられている。また、本実施形態では、ボルト37と溝36とのユニットは、周方向において等間隔で配置されている。
【0050】
図8に示すように、ボルト37の一端部は、第2のガイドリング204Bのうち、周方向に亘って形成されたリング周面34側から第2のガイドリング204Bに埋設されている。ボルト37の他端部は、溝36内に位置する。
【0051】
揺動機構40によって、第1のガイドリング204Aが周方向Rに回転する場合、溝36のうち周方向Rにおける側面部にボルト37が当接することで、第1のガイドリング204Aの周方向Rにおける移動範囲が所定範囲PR内に制限される。
【0052】
上記のごとく、揺動機構40によって、第1のガイド部236Aは、
図8において時計回りである正回転方向+Rと、反時計回りである逆回転方向−Rに回転移動する。この正回転と逆回転による移動は、所定範囲PRで交互に繰り返し実行される。これにより、第1のガイド部236Aは、周方向Rに揺れ動く。ここで、揺動機構40によって第1のガイド部236Aが周方向Rに揺れ動く速度は、例えば、所定範囲PRにおける1つの正回転と1つの逆回転との組み合わせの動作回数が1秒間に1回以上行われることが好ましく、2〜3回程度がより好ましい。周方向Rに揺れ動く動作回数を多くして、第1のガイド部236Aを振動させることによって、第1の繊維束F1の幅をより安定して広げることができる。
【0053】
図9は、タンクの製造方法を説明するフローチャートである。まず、マンドレル50が繊維巻付装置10(
図1)に取り付けられる(ステップS10:取付工程)。ステップS10の処理では、マンドレル50が取付治具318(
図1)によって支持される。次に、軸心AXを中心としてマンドレル50を回転させつつ、マンドレル50を繊維巻付装置10に対して軸心AX方向に沿って相対的に移動させる(ステップS20:移動工程)。また、ステップS20を実行しつつ、繊維巻付装置10を用いて所定の順番でヘリカル層とフープ層をマンドレル50に積層する(ステップS30:巻き付け工程)。例えば、マンドレル50の表面にフープ層を形成し、フープ層上にヘリカル層を形成し、さらにヘリカル層上にフープ層を形成する。
【0054】
フープ層を形成する場合は、マンドレル50が開口105(
図1)を通過するようにフープ巻き装置100を軸心AX方向に沿って往復移動させる。そして、マンドレル50の胴体部50a(
図3)に繊維束Fをフープ巻きによって巻き付ける。これにより、フープ層が形成される。
【0055】
ヘリカル層を形成する場合は、マンドレル50が開口206(
図1)を通過するようにマンドレル50を軸心AX方向に沿って往復移動させる。そして、揺動機構40によって第1のガイド部236を周方向Rに揺れ動かしながら第1のガイド部236Aから繊維束Fをマンドレル50に供給すると共に、第2のガイド部236Bから繊維束Fをマンドレル50に供給する。これにより、ヘリカル層が形成される。
【0056】
マンドレル50上にフープ層とヘリカル層とが積層された後に、繊維巻付装置10からマンドレル50を取り外す(ステップS40:取り外し工程)。ステップS40の後に、マンドレル50を加熱する(ステップS50:加熱工程)。これにより、繊維束Fに浸含されていた熱硬化性樹脂を硬化させることで補強層が形成されたタンクが製造される。
【0057】
図10は、上記実施形態の効果の一つを説明するための図である。本実施形態のヘリカル巻き装置200は、マンドレル50の周囲に第1の繊維束F1を巻き付ける際に、第1のガイド部236Aが周方向Rに揺れ動きながら第1の繊維束F1をマンドレル50に供給している。これにより、第1のガイド部236Aによってマンドレル50に巻き付けられた後の第1の繊維束F1の幅を
図10の破線で示すように広げることができる。これにより、隣り合う繊維束F(第1の繊維束F1と第2の繊維束F2)間の隙間の発生を低減できる。
【0058】
また、上記実施形態では、ヘリカル巻き装置200の第2のガイド部236Bは周方向Rの位置が固定された状態でマンドレル50に第2の繊維束F2を巻き付けている。これにより、
図10に示すように、第1のガイド部236Aによって巻き付けられた第1の繊維束Fの位置ズレを第2のガイド部によって巻き付けられた第2の繊維束Fによって制限できる。これにより、第1のガイド部236Aを用いてマンドレルに巻き付けられた第1の繊維束F1の位置が安定するので、隣り合う繊維束F同士が重なることを抑制できる。
【0059】
更に、マンドレル50に供給される第1の繊維束F1の厚さTaは、マンドレル50に供給される第2の繊維束F2の厚さTbよりも薄い。これにより、第2のガイド部236Bを用いて巻き付けられた厚い第2の繊維束F2間に、第1のガイド部236Aを用いて巻き付けた薄い第1の繊維束F1を配置できる。これにより、第1のガイド部236Aを用いてマンドレル50に巻き付けられた繊維束の位置がより一層安定する。すなわち、第1のガイド部236Aが周方向Rに揺れ動くことで第1の繊維束F1の幅が広がった場合でも、広がった第1の繊維束F1が、隣り合う第2の繊維束F2上に乗り上がる可能性を低減できる。これにより、隣り合う繊維束F同士が重なる可能性を更に低減できる。
【0060】
ここで、ヘリカル巻き装置200を用いて繊維束Fをマンドレル50に巻き付ける場合、第2の繊維束F2を巻き付けた後に、第1の繊維束F1を巻き付けることが好ましい。すなわち、複数の第2のガイド部236B(
図5)が位置する側から複数の第1のガイド部236Aが位置する側へとマンドレル50が移動するときに、ヘリカル巻き装置200を用いて繊維束Fをマンドレル50に巻き付ける。こうすることで、第2のガイド部236Bによって第2の繊維束F2を巻き付けた後に、第1のガイド部236Aによって第1の繊維束F1を巻き付けることができる。
【0061】
先に第1の繊維束F1がマンドレル50に巻き付けられた場合、第2の繊維束F2が未だ配置されていない為に、第1の繊維束F1が過剰に広がる場合がある。この場合、第1の繊維束F1上に第2の繊維束F2が巻き付けられる場合がある。しかしながら、先に第2の繊維束F2を巻き付けた後に、隣り合う第2の繊維束F2間に第1の繊維束F1を巻き付けた場合、第1の繊維束F1が過剰に広がることを抑制できるので第1の繊維束F1の位置が更に安定する。これにより、隣り合う繊維束同士が重なることを更に抑制できる。
【0062】
また、第1ガイド部236Aの移動範囲(揺れ動く範囲)は一定であっても良いし、マンドレル50の形状によって所定範囲PR内で変化させても良い。例えば、軸心AX方向と直交するマンドレル50の径が大きくなるに従い移動範囲を大きくしても良い。例えば、胴体部50a(
図2)上に第1の繊維束F1を供給する場合は、胴体部50a上に第1の繊維束F1を供給する場合よりも移動範囲を大きくする。一般に、マンドレル50の径が大きくなる程、巻き付けられた繊維束F間の隙間が大きくなる。よって移動範囲を大きくすることで第1の繊維束F1の幅をより広げることができるので、巻き付ける部分の径が変化した場合でも、巻き付ける部分に応じて適切に隣り合う繊維束F間の隙間を低減できる。移動範囲は、揺動機構40によって制御しても良い。
【0063】
B.変形例:
B−1.第1変形例:
上記実施形態では、第1と第2のガイド部236A、236Bは先端開口239が枠状の部材を用いたが、これに限定されるものではない。例えば、第1と第2のガイド部236A,236Bのうち、繊維束Fを案内する部分が筒状で形成されていても良い。
【0064】
B−2.第2変形例:
図10に示すように、第1の繊維束F1の厚さTaは、第2の繊維束F2の厚さTbよりも薄いものを使用したがこれに限定されるものではなく、同じ厚さであっても良いし、厚さTbが厚さTaよりも薄くても良い。
【0065】
B−3.第3変形例:
上記実施形態では、ヘリカル巻き装置200は、第1のガイド部236Aの揺れ動く範囲を制限するための制限機構30(
図7)を有していたが、省略しても良い。例えば、制限機構30に代えて、揺動機構40の制御部49が揺れ動く範囲を所定範囲内に制御しても良い。
【0066】
B−4.第4変形例:
上記実施形態では、揺動機構40は、油圧シリンダ41を用いて第1のガイド部236Aを揺れ動かしていたが、これに限定されるものではなく他のアクチュエータを用いて第1のガイド部236Aを揺れ動かしても良い。