(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018138
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】オイルタンク及び油圧ダンパー
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20161020BHJP
F16F 9/40 20060101ALI20161020BHJP
F16F 9/32 20060101ALI20161020BHJP
F16N 31/00 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
F16F15/02 C
F16F9/40 A
F16F9/32 T
F16N31/00 C
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-153162(P2014-153162)
(22)【出願日】2014年7月28日
(65)【公開番号】特開2016-31097(P2016-31097A)
(43)【公開日】2016年3月7日
【審査請求日】2015年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241267
【氏名又は名称】豊興工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】316001674
【氏名又は名称】センクシア株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 宣尚
(72)【発明者】
【氏名】稲石 文典
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆之
(72)【発明者】
【氏名】栗野 治彦
【審査官】
村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】
実公昭48−020877(JP,Y1)
【文献】
特開平06−099987(JP,A)
【文献】
特開2012−127461(JP,A)
【文献】
実開平6−76014(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/00−9/58
F16F 15/02
F16N 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のシリンダから出没するピストンロッドを有する油圧ダンパーに適用され、当該シリンダから入出する作動油が入出するオイルタンクにおいて、
前記作動油を蓄えるタンク本体であって、前記シリンダ内と当該タンク本体内とを連通させる少なくとも1つの連通口を有するタンク本体と、
前記連通口より鉛直方向上方側にて前記タンク本体内と大気側と連通させる大気開放部と、
前記タンク本体内のうち前記大気開放部と前記連通口との間に設けられ、前記連通口の鉛直方向上方側を覆うシュラウドとを備え、
前記シュラウドは、前記タンク本体内を鉛直方向に仕切って前記連通口の鉛直方向上方側を覆う仕切部材であって、当該仕切部材を挟んで上方側の空間と下方側の空間とを連通させる開口部を有する仕切部材を有して構成され、
前記連通口として、水平方向一方側に設けられた第1連通口、及び当該水平方向他方側に設けられた第2連通口を有するとともに、前記第1連通口と前記第2連通口とは水平方向において離隔し、
前記第1連通口は前記シリンダの長手方向一端側に連通し、前記第2連通口は前記シリンダの長手方向他端側に連通しており、
さらに、前記開口部は、前記第1連通口と前記第2連通口との間の位置に設けられていることを特徴とするオイルタンク。
【請求項2】
前記シュラウドより鉛直方向上方側に設けられ、前記タンク本体内を水平方向に並んだ複数の空間に区画する区画部材を備え、
前記区画部材により形成された前記複数の空間は、下方側にて互い連通していることを特徴とする請求項1に記載のオイルタンク。
【請求項3】
作動油が出入り可能に充填された円筒状のシリンダと、
シリンダから出没するピストンロッドと、
前記シリンダに一体化された少なくとも1つのオイルタンクであって、請求項1又は2に記載のオイルタンクと
を備えることを特徴とする油圧ダンパー。
【請求項4】
前記ピストンロッドは、前記シリンダの軸線方向一端側のみから出没することを特徴とする請求項3に記載の油圧ダンパー。
【請求項5】
前記オイルタンクを2つ有するとともに、それら2つのオイルタンクは、前記シリンダの径方向において当該シリンダを挟んで両側に配設されていることを特徴とする請求項3又は4に記載の油圧ダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ダンパー用のオイルタンク、及び当該オイルタンクを有する油圧ダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
建築構造物の揺れを減衰させる制震装置として、TMD(Tuned Mass Damper:同調質量ダンパー)が利用されている。TMDの構造としては、構造物の最上階にアームで吊り下げられた錘を備えるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−27136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
油圧ダンパーは、円筒状のシリンダ及び当該シリンダから出没するピストンロッド等を有し、かつ、当該シリンダ内には作動油が封入されている。油圧ダンパー用のオイルタンクは、シリンダ内と連通して作動油を蓄えるタンク本体を備えている。
【0005】
ところで、タンク本体の上部が大気に連通したオイルタンクでは、タンク本体から多量の作動油が急激に流出すると、シリンダと連通する連通口付近の油面が部分的に大きく低下し、連通口が大気側と直接的に連通して作動油と共に空気が油圧ダンパー(シリンダ)側に送られてしまうおそれがある。
【0006】
そして、油圧ダンパー(シリンダ)側に空気が流入すると、油圧ダンパーのダンピング能力(減衰能力)が低下してしまう。
本発明は、上記点に鑑み、作動油と共に空気が油圧ダンパー(シリンダ)側に送られてしまうことを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、円筒状のシリンダ(3)から出没するピストンロッド(5)を有する油圧ダンパー(1)に適用され、当該シリンダ(3)から入出する作動油が入出するオイルタンクにおいて、作動油を蓄えるタンク本体(71)であって、シリンダ(3)内と当該タンク本体(71)内とを連通させる少なくとも1つの連通口(71A)を有するタンク本体(71)と、連通口(71A)より鉛直方向上方側にてタンク本体(71)内と大気側と連通させる大気開放部(72)と、タンク本体(71)内のうち大気開放部(72)と連通口(71A)との間に設けられ、連通口(71A)の鉛直方向上方側を覆うシュラウド(73)とを備えることを特徴とする。
【0008】
これにより、本発明では、連通口(71A)が大気側と直接的に連通してしまうことを抑制できるので、作動油と共に空気が油圧ダンパー(シリンダ)側に送られてしまうことを抑制できる。延いては、油圧ダンパーのダンピング能力(減衰能力)が低下してしまうことを抑制できる。
【0009】
因みに、上記各手段等の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段等との対応関係を示す一例であり、本発明は上記各手段等の括弧内の符号に示された具体的手段等に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】(a)及び(b)はTMDを用いた制震装置の概念図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る油圧ダンパー1の上面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る油圧ダンパー1の側面図である。なお、オイルタンク7は断面図として示されている。
【
図5】本発明の第1実施形態に係るオイルタンク7の断面図である。
【
図6】本発明の第1実施形態に係るオイルタンク7の上面図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る油圧ダンパー1の油圧回路図である。
【
図8】(a)〜(d)は本発明の第2実施形態に係る区画部材74を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に説明する「発明の実施形態」は実施形態の一例を示すものである。つまり、特許請求の範囲に記載された発明特定事項等は、下記の実施形態に示された具体的手段や構造等に限定されるものではない。
【0012】
本実施形態は、TMDを用いた制震装置用の油圧ダンパーに本発明を適用したものである。
図1(a)及び
図1(b)に示すように、複数の油圧ダンパー1は、吊り下げられた錘Wと構造物とを連結する。これにより、錘Wの揺れは、各油圧ダンパー1により減衰する。
【0013】
なお、各図に付された方向を示す矢印等は、各図相互の関係を理解し易くするために記載したものである。本発明は、各図に付された方向に限定されるものではない。少なくとも符号を付して説明した部材又は部位は、「複数」や「2つ以上」等の断りをした場合を除き、少なくとも1つ設けられている。以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
【0014】
(第1実施形態)
1.油圧ダンパーの概略構成
油圧ダンパー1は、
図2及び
図3に示すように、シリンダ3、ピストンロッド5、少なくとも1つのオイルタンク7等を有して構成されている。シリンダ3は作動油が出入り可能に充填された円筒状の部材である。ピストンロッド5はシリンダ3から出没する。そして、当該ピストンロッド5はシリンダ3の軸線方向一端側のみから出没する。
【0015】
シリンダ3の軸線方向一端側開口は、ピストンロッド5の外周面に滑り接触するパッキン(図示せず。)により液密に封止されている。シリンダ3の軸線方向他端側開口は蓋体5Aにより閉塞されている。
【0016】
蓋体5A、及びピストンロッド5の長手方向端部のうちシリンダ3外に露出している部位は、継手5Bを介して構造物又は錘Wに連結されている。なお、継手5Bは、自在継手等の三次元的に揺動可能な継手により構成されている。
【0017】
オイルタンク7は、シリンダ3から入出する作動油が入出する貯油部であって、シリンダ3に一体化されている。本実施形態では、オイルタンク7を2つ有するとともに、それら2つのオイルタンク7は、
図4に示すように、互いに対向するように、シリンダ3の径方向において当該シリンダ3を挟んで両側に配設されている。
【0018】
なお、上記「径方向」、つまり一対のオイルタンク7が対向する方向は、油圧ダンパー1が制振装置に組み付けられた状態において、略水平方向と一致する。
2.オイルタンク等の構造
2.1 オイルタンク
一対のオイルタンク7は同一構造である。オイルタンク7は、
図5に示すように、タンク本体71、大気開放部72及びシュラウド73等を有して構成されている。タンク本体71は作動油を蓄える貯油部である。当該タンク本体71には、シリンダ3内と当該タンク本体71内とを連通させる少なくとも1つの連通口71Aが設けられている。
【0019】
本実施形態では、連通口71Aとして、水平方向一方側に設けられた第1連通口71B、及び当該水平方向他方側に設けられた第2連通口71Cを有している。以下、第1連通口71B及び第2連通口71Cを総称するときは、連通口71Aと記す。
【0020】
第1連通口71Bと第2連通口71Cとは水平方向において離隔している。そして、第1連通口71Bは、配管L1を介してシリンダ3の長手方向一端側に連通し、かつ、第2連通口71Cは配管L2を介してシリンダ3の長手方向他端側に連通している。
【0021】
タンク本体71のうち連通口71Aより鉛直方向上方側には、タンク本体71内と大気側と連通させる大気開放部72が設けられている。連通口71Aより鉛直方向上方側には区画部材74が設けられている。
【0022】
区画部材74は、タンク本体71内を水平方向に並んだ複数の空間A1〜A5に区画する。区画部材74により形成された複数の空間A1〜A5は、
図5に示すように、タンク本体71の下方側にて互い連通している。
【0023】
本実施形態では、複数の大気開放部72が設けられている。それら大気開放部72は、区画部材74により区画された空間A1、A2、A4、A5と大気側とを連通させる。各大気開放部72は、
図6に示すように、シリンダ3側にて大気に連通している。なお、一対のオイルタンク7は、連通管75を介して空間A3にて連通している。
【0024】
シュラウド73は、
図5に示すように、連通口71Aの鉛直方向上方側を覆う。そして、シュラウド73は、タンク本体71内のうち大気開放部72と連通口71Aとの間であって区画部材74より下方側に設けられている。
【0025】
本実施形態に係るシュラウド73は、タンク本体71内を鉛直方向に仕切って連通口71Aの鉛直方向上方側を覆う仕切部材73Aにより構成されている。仕切部材73Aには、当該仕切部材73Aを挟んで上方側の空間A1〜A5と下方側の空間A6とを連通させる開口部73Bが設けられている。そして、開口部73Bは、第1連通口71Bと第2連通口71Cとの中間位置に設けられている。
【0026】
2.2 油圧ダンパーの概略作動
第1連通口71Bは配管L1を介してシリンダ3の長手方向一端側に連通している。第2連通口71Cは配管L2を介してシリンダ3の長手方向他端側に連通している。配管L1、L2には、流通する作動油に流通抵抗を発生させて減衰力を発生させるバルブ装置9C〜9D(
図7参照)が設けられている。なお、各バルブ装置9C〜9Dは、シリンダ3の長手方向端部側に組み付け固定されている。
【0027】
そして、ピストンロッド5がシリンダ3に対して出没すると、これに連動して作動油は、以下のように流通する。
すなわち、第1連通口71Bから作動油がタンク本体71に流入する場合には、第2連通口71Cから作動油がタンク本体71外に流出する。第2連通口71Cから作動油がタンク本体71に流入する場合には、第1連通口71Bから作動油がタンク本体71外に流出する。
【0028】
そして、シリンダ3とオイルタンク7との間を作動油が流通する際に、各バルブ装置9C〜9Dにて減衰力が発生するので、ピストンロッド5の出没が抑制されて錘Wの振幅が減衰していく。
【0029】
3.本実施形態に係るオイルタンクの特徴
本実施形態では、連通口71Aの鉛直方向上方側を覆うシュラウド73を備えることを特徴としている。これにより、連通口71Aが大気側と直接的に連通してしまうことを抑制できる。
【0030】
したがって、本実施形態では、作動油と共に空気が油圧ダンパー1(シリンダ3)側に送られてしまうことを抑制できるので、油圧ダンパー1の減衰能力が低下してしまうことを抑制できる。
【0031】
本実施形態では、開口部73Bを有する仕切部材73Aによりシュラウド73が構成されていることを特徴としている。これにより、連通口71Aが大気側と直接的に連通してしまうことを確実に抑制できる。
【0032】
本実施形態では、連通口71Aとして、水平方向一方側に設けられた第1連通口71B、及びに当該水平方向他方側に設けられた第2連通口71Cを有するとともに、第1連通口71Bと第2連通口71Cとは水平方向において離隔し、第1連通口71Bはシリンダ3の長手方向一端側に連通し、第2連通口71Cはシリンダ3の長手方向他端側に連通しており、さらに、開口部73Bは、第1連通口71Bと第2連通口71Cとの中間位置に設けられていることを特徴としている。
【0033】
これにより、上述したように、第1連通口71Bから作動油がタンク本体71に流入する場合には、第2連通口71Cから作動油がタンク本体71外に流出する。同様に、第2連通口71Cから作動油がタンク本体71に流入する場合には、第1連通口71Bから作動油がタンク本体71外に流出する。
【0034】
このため、タンク本体71に貯留している作動油の量が大きく減少することを抑制できるので、油面が大きく低下してしまうことを抑制できる。したがって、作動油と共に空気が油圧ダンパー1(シリンダ3)側に送られてしまうことを確実に抑制できる。
【0035】
本実施形態では、タンク本体71内を水平方向に並んだ複数の空間A1〜A5に区画する区画部材74を備え、当該区画部材74により形成された複数の空間A1〜A5は、下方側にて互い連通していることを特徴としている。
【0036】
これにより、タンク本体71が揺動した場合であっても油面が大きく波立つことを抑制できるので、作動油と共に空気が油圧ダンパー1(シリンダ3)側に送られてしまうことを抑制しつつ、作動油が大気開放部72から外部に流出してしまうことを抑制できる。
【0037】
(第2実施形態)
第1実施形態に係る区画部材74は、タンク本体71内を水平方向に1列に並んだ複数の矩形状空間に区画するものであった。
【0038】
しかし、本実施形態は、
図8(a)〜
図8(d)に示すように、タンク本体71内を水平方向に複数列に並んだ複数の空間、又はタンク本体71内を水平方向に1列に並んだ複数の異形空間に区画するに区画する区画部材74を設けたものである。なお。「異形空間」とは、
図8(b)〜
図8(d)のごとく、矩形状以外の形状をいう。
【0039】
(その他の実施形態)
上述の実施形態に係るオイルタンク7は、シュラウド73及び区画部材74を備えていたが、本発明はこれに限定されるものではなく、シュラウド73及び区画部材74のうちいずれか一方のみを備えるオイルタンク7であってもよい。
【0040】
上述の実施形態に係るシュラウド73は、仕切部材73Aにより構成されていたが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、タンク本体71内を鉛直方向に完全に仕切ることなく、単純に連通口71Aの鉛直方向上方側を覆う部材によりシュラウド73を構成してもよい。
【0041】
上述の実施形態に係る仕切部材73Aの開口部73Bは、第1連通口71Bと第2連通口71Cとの中間位置に1つ設けられていたが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば仕切部材73Aを複数の開口部73Bを有するパンチメタルに構成してもよい。なお、この場合、連通口71A近傍には、開口部73Bを設けないことが望ましい。
【0042】
また、本発明は、特許請求の範囲に記載された発明の趣旨に合致するものであればよく、上述の実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0043】
1… 油圧ダンパー 3… シリンダ 5… ピストンロッド 5A… 蓋体
5B… 継手 7… オイルタンク 71… タンク本体 71A… 連通口
71B… 第1連通口 71C… 第2連通口 72… 大気開放部
73… シュラウド 73A… 仕切部材 73B… 開口部 74… 区画部材
75… 連通管 L1、L2… 配管