特許第6018169号(P6018169)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018169
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】蓄電装置の故障判定方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20161020BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20161020BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20161020BHJP
   G01R 31/36 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   H01M10/48 P
   H02J7/00 Q
   H01M10/42 Z
   G01R31/36 AZHV
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-261157(P2014-261157)
(22)【出願日】2014年12月24日
(65)【公開番号】特開2016-122542(P2016-122542A)
(43)【公開日】2016年7月7日
【審査請求日】2016年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】室 岳志
(72)【発明者】
【氏名】丸野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】小茂田 訓
(72)【発明者】
【氏名】松本 康弘
【審査官】 桑江 晃
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−114401(JP,A)
【文献】 特許第3750318(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/42 − 10/48,301
G01R 31/36
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセルを有する蓄電モジュールを複数備えて構成される組電池を有する蓄電装置における、全ての前記セルの電圧を検出し、検出した前記電圧と第1閾値とを比較することにより前記セルが正常か否かの前記セルの故障判定を行う工程と、
前記セルの故障判定により故障と判定された前記セルを有する前記蓄電モジュールを、正常な前記セルを有する前記蓄電モジュールであって故障と判断されていない前記蓄電モジュールよりも満充電容量が大きい前記蓄電モジュールに交換する蓄電モジュール交換を行った後には、各前記蓄電モジュール毎に、各前記蓄電モジュールにおける前記セルの電圧を検出し、検出した前記電圧と第2閾値とを比較することにより、各前記蓄電モジュール毎に前記セルが正常か否かの前記組電池の故障判定を行う工程と、を有する蓄電装置の故障判定方法。
【請求項2】
前記蓄電モジュール交換の後には、全ての前記セルのうちの最小の充電可能容量と最小の放電可能容量とから得られる前記蓄電装置の使用可能容量と第3閾値とを比較することにより前記組電池の故障判定を行う工程を有する請求項1に記載の蓄電装置の故障判定方法。
【請求項3】
前記蓄電モジュール交換の後には、全ての前記セルの電圧のうちの最高電圧値と最低電圧値との差が第4閾値以上である場合に前記組電池の故障判定を行う工程を有する請求項1に記載の蓄電装置の故障判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複数のセルを有する蓄電モジュールを複数備える蓄電装置の故障判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド車の動力源として、大型のリチウムイオン2次電池が用いられている。単電池(以下、セルという)が電気的に複数接続されて蓄電モジュールが構成され、複数の蓄電モジュールが電気的に複数接続されることにより、リチウムイオン2次電池を有する組電池が構成される。組電池は、電気自動車やハイブリッド車の動力源として必要な電気を出力する。
【0003】
組電池において、一部のセルの電圧が所定の値に至るまで上昇しない等、一部のセルに不具合等が生じた場合には、不具合等が生じたセルを含む蓄電モジュールが、新品の正常な蓄電モジュール(以下、「新品モジュール」という)と交換される。また、組電池の寿命が尽きた場合には、寿命が尽きた組電池が、新品の正常な組電池と交換される。不具合等が生じたセルを含む蓄電モジュールが新品モジュールと交換される際には、新品モジュールの電圧を、組電池において交換されなかった蓄電モジュール(以下、「再利用モジュール」という)の電圧に揃えられることが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3750318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、再利用モジュールは、容量が小さく、抵抗値が高い。このため、組電池の充電を行うと、新品モジュールにおいては電圧上昇が小さく、容量が小さい再利用モジュールにおいては電圧上昇が大きい。この結果、組電圧内のセルにおける電圧の偏差が規定電圧を超えてしまい、新品モジュールが、不具合の生じたセルを含む蓄電モジュールとして判定される(故障と判定される)ことがある。
【0006】
本発明は、不具合が生じたセルを含む蓄電モジュールが交換された後に、新品モジュールが、不具合の生じたセルを含む蓄電モジュールとして判定されることを回避できる蓄電装置の故障判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明は、複数のセル(例えば、後述のセル112)を有する蓄電モジュール(例えば、後述の蓄電モジュール111)を複数備えて構成される組電池(例えば、後述のバッテリパック11)を有する蓄電装置における、全ての前記セル(例えば、後述のセル112)の電圧を検出し、検出した前記電圧と第1閾値とを比較することにより前記セル(例えば、後述のセル112)が正常か否かの前記セル(例えば、後述のセル112)の故障判定を行う工程と、前記セル(例えば、後述のセル112)の故障判定により故障と判定された前記セル(例えば、後述のセル112)を有する前記蓄電モジュール(例えば、後述の蓄電モジュール111)を、正常な前記セル(例えば、後述のセル112)を有する前記蓄電モジュール(例えば、後述の蓄電モジュール111)であって故障と判断されていない前記蓄電モジュール(例えば、後述の蓄電モジュール111)よりも満充電容量が大きい前記蓄電モジュール(例えば、後述の蓄電モジュール111)に交換する蓄電モジュール交換を行った後には、各前記蓄電モジュール(例えば、後述の蓄電モジュール111)毎に、各前記蓄電モジュール(例えば、後述の蓄電モジュール111)における前記セル(例えば、後述のセル112)の電圧を検出し、検出した前記電圧と第2閾値とを比較することにより、各前記蓄電モジュール(例えば、後述の蓄電モジュール111)毎に前記セル(例えば、後述のセル112)が正常か否かの前記組電池(例えば、後述のバッテリパック11)の故障判定を行う工程と、を有する蓄電装置の故障判定方法を提供する。
【0008】
本発明によれば、複数の蓄電モジュールのうちの故障と判定された蓄電モジュールを新品の正常の蓄電モジュールに交換した後には、蓄電装置を構成する組電池における全てのセルの電圧と、一の値を有する第1閾値とを比較することにより故障判定を行わない。このため、電圧の上昇・下降スピードが遅い新品の蓄電モジュールのセルが、故障と判定されることを防止できる。この結果、蓄電モジュール交換後に、不要な誤った故障との判定がなされることを防止できる。
【0009】
また、前記蓄電モジュール交換の後には、全ての前記セル(例えば、後述のセル112)のうちの最小の充電可能容量と最小の放電可能容量とから得られる前記蓄電装置の使用可能容量と第3閾値とを比較することにより前記組電池(例えば、後述のバッテリパック11)の故障判定を行う工程を有することが好ましい。
【0010】
この発明によれば、前記蓄電装置を構成する組電池の使用可能容量と第3閾値とを比較することにより、蓄電装置の使用可能容量が低下して、蓄電装置の組電池の交換が必要になったときに、蓄電装置の使用可能容量が低下したことを、容易に検出することができる。
【0011】
また、前記蓄電モジュール交換の後には、全ての前記セル(例えば、後述のセル112)の電圧のうちの最高電圧値と最低電圧値との差が第4閾値以上である場合に前記組電池(例えば、後述のバッテリパック11)の故障判定を行う工程を有することが好ましい。
【0012】
この発明によれば、全ての前記セルのうちの最小の充電可能容量と最小の放電可能容量とから得られる前記蓄電装置の使用可能容量を算出せずに、組電池の故障判定を行うことができる。即ち、各セルにおけるSOCを算出したり、各セルにおけるSOCに基づいて各セルの容量を算出したりせずに、組電池の故障判定を行うことができる。このため、組電池の故障判定を行うための処理を容易とすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、不具合が生じたセルを含む蓄電モジュールが交換された後に、新品モジュールが、不具合の生じたセルを含む蓄電モジュールとして判定されることを回避できる蓄電装置の故障判定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態による蓄電装置の故障判定方法が実施される車両1を示すブロック図である。
図2】本発明の第1実施形態による蓄電装置の故障判定方法における、蓄電モジュール111の交換前のセル112の故障判定のための工程を示すフローチャートである。
図3】本発明の第1実施形態による蓄電装置の故障判定方法における、蓄電モジュール111の交換の後のバッテリパック11の故障判定のための工程を示すフローチャートである。
図4】本発明の第2実施形態による蓄電装置の故障判定方法が実施される車両1Aを示すブロック図である。
図5】本発明の第2実施形態による蓄電装置の故障判定方法における、蓄電モジュール111の交換前のセル112の故障判定のための工程を示すフローチャートである。
図6】本発明の第2実施形態による蓄電装置の故障判定方法における、蓄電モジュール111の交換の後のバッテリパック11の故障判定のための工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態について、図面を参照して詳しく説明する。なお、第2実施形態以降の説明において、第1実施形態と共通する構成については、第1実施形態と同一の符号を付し、その説明を省略する。
図1は、本発明の第1実施形態による蓄電装置の故障判定方法が実施される車両1を示すブロック図である。図2は、本発明の第1実施形態による蓄電装置の故障判定方法における、蓄電モジュール111の交換前のセル112の故障判定のための工程を示すフローチャートである。図3は、本発明の第1実施形態による蓄電装置の故障判定方法における、蓄電モジュール111の交換の後のバッテリパック11の故障判定のための工程を示すフローチャートである。
【0016】
第1実施形態に係る蓄電装置の故障判定方法は、電気自動車やハイブリッド車等の、蓄電装置を構成するバッテリパック11から供給される電気により駆動する車両1において実施される。図1に示すように、車両1に設けられる蓄電装置は、組電池により構成されるバッテリパック11を有している。バッテリパック11は、複数個の蓄電モジュール111を有している。蓄電モジュール111は、例えばリチウムイオンバッテリにより構成された2次電池である複数個のセル112を有している。複数個のセル112は、積層され電気的に直列に接続されている。バッテリパック11は、高電圧バッテリを構成し、電気自動車やハイブリッド車の蓄電池として使用される。
【0017】
全てのセル112には、セル電圧センサ12が電気的に接続されている。セル電圧センサ12は、バッテリパック11における全てのセル112の無負荷電圧を検出する。また、バッテリパック11から出力される電流を検出可能な電流センサ(図示せず)が設けられている。セル電圧センサ12、電流センサ(図示せず)は、導線や基板上の配線等を介して、ECU20に電気的に接続されている。
【0018】
ECU20は、セル電圧センサ12からの入力信号波形を入力する入力回路や、中央演算処理ユニット(以下「CPU」という)や、CPUで実行される各種演算プログラム、各種マップ、後述の第1閾値〜第4閾値などを記憶する記憶回路や、制御信号を出力する出力回路等を備えている。これらにより、ECU20においては、セル電圧取得部21と、パック内セル電圧偏差算出部22と、モジュール内セル電圧偏差算出部23と、セル故障検出部24と、セルSOC算出部25と、セル使用可能容量算出部26と、パック使用可能容量算出部27と、故障検出部28と、が構成される。
【0019】
セル電圧取得部21は、セル電圧センサ12により検出された全てのセル112の無負荷電圧を入力する。また、セル電圧取得部21は、セル電圧センサ12により検出された全てのセル112の無負荷電圧のデータを、パック内セル電圧偏差算出部22、モジュール内セル電圧偏差算出部23、及び、セルSOC算出部25へ出力する。
【0020】
パック内セル電圧偏差算出部22は、セル電圧取得部21から出力された全てのセル112の無負荷電圧から、セル112の無負荷電圧の平均電圧を算出する。また、算出された平均電圧を基準としたバッテリパック11内のセル112の無負荷電圧の偏差の許容範囲、即ち、第1閾値としての、セル112の無負荷電圧の許容上限値及び許容下限値を算出し、セル故障検出部24へ出力する。
【0021】
モジュール内セル電圧偏差算出部23は、セル電圧取得部21により取得された、全てのセル112の無負荷電圧から、蓄電モジュール111毎に平均電圧をそれぞれ算出する。また、算出された蓄電モジュール111毎の平均電圧を基準とした各モジュール内のセル112の無負荷電圧の偏差の許容範囲、即ち、第2閾値としての、セル112の無負荷電圧の許容上限値及び許容下限値を、モジュール毎に算出し、セル故障検出部24へ出力する。
【0022】
セル故障検出部24は、セル電圧取得部21から出力されたセル112の無負荷電圧と、第1閾値としての、セル112の無負荷電圧の許容上限値及び許容下限値、又は、第2閾値としての、セル112の無負荷電圧の許容上限値及び許容下限値と、を比較する。これにより、セル112の無負荷電圧が第1閾値又は第2閾値を超えたか否かを判断する。後述の蓄電モジュール111の交換の前に、セル112の無負荷電圧が、第1閾値としてのセル112の無負荷電圧の許容上限値と許容下限値との間の範囲から外れたとの判断を、セル故障検出部24がした場合には、セル故障検出部24は、第1閾値を超えたセル112を有する蓄電モジュール111の交換を促す故障ステータスを、車両1に設けられた警報装置等へ出力する。また、後述の蓄電モジュール111の交換の後に、セル112の無負荷電圧が、第2閾値としてのセル112の無負荷電圧の許容上限値と許容下限値との間の範囲から外れたとの判断を、セル故障検出部24がした場合には、セル故障検出部24は、バッテリパック11の交換を促す故障ステータスを、車両1に設けられた警報装置等へ出力する。
【0023】
セルSOC算出部25は、セル電圧取得部21によって得られた全てのセル112の電圧値と、セル112のSOC(State of Charge)特性グラフと、に基づいて、全てのセル112のSOCを算出し、セル使用可能容量算出部26へ出力する。
【0024】
セル使用可能容量算出部26は、セルSOC算出部25によって得られた全てのセル112の現在のSOCを用いて、
「 容量 = 放電容量の変化量(△Ah)/SOCの変化量(△SOC) 」
に基づき、各セル112の容量を算出する。また、セルSOC算出部25によって得られた各セル112の現在のSOCと、各セル112の使用下限SOCと、の差と、各セル112の容量と、の積を算出することにより、即ち、
「 放電可能容量 = 容量 × (現在のSOC − 使用下限SOC) 」
に基づき、全てのセル112について、放電可能容量を算出する。また、セル使用可能容量算出部26は、セル112の使用上限SOCと、セルSOC算出部25によって得られた全てのセル112の現在のSOCと、の差と、各セル112の容量と、の積を算出することにより、即ち、
「 充電可能容量 = 容量 × (使用上限SOC − 現在のSOC) 」
に基づき、全てのセル112について、充電可能容量を算出する。セル使用可能容量算出部26は、算出した放電可能容量、充電可能容量をパック使用可能容量算出部27へ出力する。
【0025】
パック使用可能容量算出部27は、セル使用可能容量算出部26により算出された全てのセル112の放電可能容量のうちの最小の放電可能容量と、セル使用可能容量算出部26により算出された全てのセル112の充電可能容量のうちの最小の充電可能容量と、の和を、バッテリパック11の使用可能容量として算出する。パック使用可能容量算出部27は、算出したバッテリパック11の使用可能容量を故障検出部28へ出力する。
【0026】
故障検出部28は、パック使用可能容量算出部27により算出されたバッテリパック11の使用可能容量と、第3閾値としてのバッテリパック11の使用可能容量の下限値とを比較する。これにより、故障検出部28は、バッテリパック11の使用可能容量が第3閾値を下回ったか否かを判断する。第3閾値としては、バッテリパック11を使用可能なバッテリパックの容量の最低の値が用いられる。後述の蓄電モジュール交換の後に、バッテリパック11の使用可能容量が第3閾値を下回ったとの判断を、故障検出部28がした場合には、故障検出部28は、バッテリパック11の交換を促す故障ステータスを、車両1に設けられた警報装置等へ出力する。
【0027】
上記構成を有する車両1の蓄電装置の故障判定方法については、以下のとおりである。
先ず、図2に示すように、S11では、セル電圧センサ12は、複数のセル112(図1参照)を有する蓄電モジュール111を複数備える蓄電装置のバッテリパック11における、全てのセル112の無負荷電圧を検出する。そして、セル電圧取得部21は、セル電圧センサ12により検出された全てのセル112の無負荷電圧を入力する。
【0028】
S12では、セル電圧センサ12により検出した無負荷電圧と第1閾値とを比較することによりセル112が正常か否かのセル112の故障判定を行う。具体的には、S12では、パック内セル電圧偏差算出部22は、セル電圧取得部21により取得された全てのセル112の無負荷電圧から平均電圧を算出する。次に、算出された平均電圧を基準としたバッテリパック11内のセル112の無負荷電圧の偏差の許容範囲、即ち、第1閾値としての、セル112の無負荷電圧の許容上限値及び許容下限値を算出する。そして、セル故障検出部24は、セル電圧取得部21によって取得された全てのセル112の無負荷電圧と、第1閾値としての、セル112の無負荷電圧の許容上限値及び許容下限値と、を比較する。これにより、セル故障検出部24は、セル112の無負荷電圧が第1閾値を超えたか否かの判断することにより、セル112の故障判定を行う。
【0029】
S12において、少なくとも1つのセル112の無負荷電圧が第1閾値を超えた、即ち、少なくとも1つのセル112の無負荷電圧がセル112の無負荷電圧の許容上限値を上回ったか、又は、許容下限値を下回った、とセル故障検出部24が判断した場合、即ち、セル112についての故障との判定により、セル112の故障が判定された場合には、S13へ移行する。セル112の無負荷電圧が第1閾値を超えていない、即ち、セル112の無負荷電圧がセル112の無負荷電圧の許容上限値と許容下限値との間の範囲内である、とセル故障検出部24が判断した場合には、S11へ戻る。
【0030】
S13では、セル故障検出部24は、S12においてセル112の無負荷電圧が第1閾値を超えていると判断したセル112を特定する。S14では、セル故障検出部24は、S13において特定されたセル112を有する蓄電モジュール111を特定する。S15では、セル故障検出部24は、S14において特定された蓄電モジュール111の交換を促す故障ステータスを、車両1に設けられた警報装置等へ出力する。そして、整備工場等において、S14において特定された蓄電モジュール111の交換が行われる。具体的には、セル112の故障判定により故障と判定されたセル112を有する蓄電モジュール111を、新品の正常な蓄電モジュール111(以下、「新品モジュール」という)に交換する。新品モジュールは、故障と判断されなかった蓄電モジュール111(以下、「再利用モジュール」という)よりも満充電容量が大きい。
【0031】
S16では、S14において特定された蓄電モジュール111の交換が行われた後に、整備工場等において、ECU20のプログラムが書き換えられる。この後には、ECU20は、前述のS11〜S16の工程に代えて、図3に示す以下のS21〜S25の工程を行う。S21〜S25の工程を行うことにより、各蓄電モジュール111毎に、各蓄電モジュール111におけるセル112の無負荷電圧を検出する。そして、検出した無負荷電圧と第2閾値とを比較することにより、各蓄電モジュール111毎にセル112が正常か否かのバッテリパック11の故障判定を行う。
【0032】
具体的には、S21では、セル電圧センサ12は、複数のセル112を有する蓄電モジュール111を複数備える蓄電装置のバッテリパック11における、全てのセル112の無負荷電圧を検出する。そして、セル電圧取得部21は、セル電圧センサ12により検出された全てのセル112の無負荷電圧を入力する。
【0033】
S22では、モジュール内セル電圧偏差算出部23は、セル電圧取得部21により取得された、全てのセル112の無負荷電圧から、蓄電モジュール111毎に平均電圧をそれぞれ算出する。また、算出された蓄電モジュール111毎の平均電圧を基準とした各モジュール内のセル112の無負荷電圧の偏差の許容範囲、即ち、第2閾値としての、セル112の無負荷電圧の許容上限値及び許容下限値を、各モジュール毎に算出する。そして、セル故障検出部24は、セル電圧取得部21によって取得された各セル112の無負荷電圧と、第2閾値としての、セル112の無負荷電圧の許容上限値及び許容下限値と、を比較する。これにより、セル故障検出部24は、セル112の無負荷電圧が第2閾値を超えたか否かを判断することにより、セル112が正常か否かの判定を行う。
【0034】
少なくとも1つの蓄電モジュール111においてセル112の無負荷電圧が第2閾値を超えた、即ち、セル112の無負荷電圧がセル112の無負荷電圧の許容上限値を上回ったか、又は、許容下限値を下回った、とセル故障検出部24が判断した場合(故障と判定された場合)には、S25へ移行する。全てのセル112の無負荷電圧が第2閾値を超えていない、即ち、全てのセル112の無負荷電圧がセル112の無負荷電圧の許容上限値と許容下限値との間の範囲内である、とセル故障検出部24が判断した場合には、S23へ移行する。
【0035】
S23、S24では、全てのセル112のうちの最小の充電可能容量と最小の放電可能容量とから得られる蓄電装置の使用可能容量と第3閾値とを比較することによりバッテリパック11の故障判定を行う。具体的には、S23では、セル電圧センサ12は、複数のセル112を有する蓄電モジュール111を複数備える蓄電装置のバッテリパック11における、全てのセル112の無負荷電圧を検出する。そして、セル電圧取得部21は、セル電圧センサ12により検出された全てのセル112の無負荷電圧を入力する。
【0036】
S24では、セルSOC算出部25は、セル電圧取得部21によって得られた全てのセル112の電圧値と、セル112のSOC特性グラフと、に基づいて、全てのセル112のSOCを算出する。セル使用可能容量算出部26は、全てのセル112について、放電容量の変化量(△Ah)とSOCの変化量(△SOC)との商を算出することより、各セル112の容量を算出する。また、セル使用可能容量算出部26は、セルSOC算出部25によって得られた全てのセル112の現在のSOCと、セル112の使用下限SOCと、の差と、セル使用可能容量算出部26によって得られたセル112の容量と、の積を算出することにより、全てのセル112の放電可能容量を算出する。
【0037】
また、S24においては、セル使用可能容量算出部26は、セル112の使用上限SOCと、セルSOC算出部25によって得られた全てのセル112の現在のSOCと、の差と、セル使用可能容量算出部26によって得られたセル112の容量との積を算出することにより、全てのセル112の充電可能容量を算出する。また、パック使用可能容量算出部27は、セル使用可能容量算出部26により算出された全てのセル112の放電可能容量のうちの最小の放電可能容量と、セル使用可能容量算出部26により算出された全てのセル112の充電可能容量のうちの最小の充電可能容量と、の和を、バッテリパック11の使用可能容量として算出する。
【0038】
そして、故障検出部28は、パック使用可能容量算出部27により算出されたバッテリパック11の使用可能容量と、第3閾値としてのバッテリパック11の使用可能容量の下限値とを比較する。これにより、故障検出部28は、バッテリパック11の使用可能容量が第3閾値を下回ったか否かを判断する。
【0039】
バッテリパック11の使用可能容量が第3閾値を下回ったとの判断を、故障検出部28がした場合(故障と判定された場合)には、S25へ移行する。バッテリパック11の使用可能容量が第3閾値を下回っていないとの判断を、故障検出部28がした場合には、S21へ戻る。
【0040】
S25では、故障検出部28は、バッテリパック11の交換を促す故障ステータスを、車両1Aに設けられた警報装置等へ出力する。そして、整備工場等において、バッテリパック11の交換が行われる。また、整備工場等において、ECU20のプログラムが書き換えられる。この後には、前述のS11〜S16の工程に戻る。
【0041】
本実施形態によれば、以下の効果が奏される。
本実施形態では、複数のセル112を有する蓄電モジュール111を複数備える蓄電装置における、全てのセル112の無負荷電圧を検出し、検出した無負荷電圧と第1閾値とを比較することによりセル112が正常か否かのセル112の故障判定を行う工程と、セル112の故障判定により故障と判定されたセル112を有する蓄電モジュール111を、正常なセル112を有する蓄電モジュール111であって故障と判断されていない蓄電モジュール111よりも満充電容量が大きい蓄電モジュール111に交換する蓄電モジュール交換を行った後には、各蓄電モジュール111毎に、各蓄電モジュール111におけるセル112の無負荷電圧を検出し、検出した無負荷電圧と第2閾値とを比較することにより、各蓄電モジュール111毎にセル112が正常か否かのバッテリパック11の故障判定を行う工程と、を有する。
【0042】
これにより、複数の蓄電モジュール111のうちの故障と判定された蓄電モジュール111を新品モジュールに交換した後には、バッテリパック11における全てのセル112の無負荷電圧と、一の値を有する第1閾値とを比較することにより故障判定をすることを行わない。このため、電圧の上昇・下降スピードが遅い新品モジュールのセル112が、故障と判定されることを防止できる。この結果、蓄電モジュール交換後に、不要な誤った故障との判定がされることを防止できる。
【0043】
また、蓄電モジュール交換の後には、全てのセル112のうちの最小の充電可能容量と最小の放電可能容量とから得られる蓄電装置の使用可能容量と第3閾値とを比較することにより組電池としてのバッテリパック11の故障判定を行う工程を有する。
【0044】
これにより、蓄電装置の使用可能容量と第3閾値とを比較することにより、蓄電装置の使用可能容量が低下して蓄電装置のバッテリパック11の交換が必要になったときに、蓄電装置の使用可能容量が低下したことを、容易に検出することができる。
【0045】
<第2実施形態>
以下、本発明の第2実施形態を、図面を参照しながら説明する。本実施形態に係る蓄電装置の故障判定方法は、バッテリパック11の使用可能容量を算出せずに、全てのセル112の無負荷電圧のうちの最高電圧値と最低電圧値との差を算出する点において、第1実施形態とは異なる。また、車両1Aは、セルSOC算出部25及びセル使用可能容量算出部26を備えておらず、セル電圧差分比較部27Aを備えている点において、第1実施形態とは異なる。また、本実施形態に係る蓄電装置の故障判定方法を示すフローチャートでは、第1実施形態におけるS23、S24の工程に代えて、S31、S32の工程が行われる点において、第1実施形態とは異なる。
図4は、本発明の第2実施形態による蓄電装置の故障判定方法が実施される車両1Aを示すブロック図である。図5は、本発明の第2実施形態による蓄電装置の故障判定方法における、蓄電モジュール111の交換前のセル112の故障判定のための工程を示すフローチャートである。図6は、本発明の第2実施形態による蓄電装置の故障判定方法における、蓄電モジュール111の交換の後のバッテリパック11の故障判定のための工程を示すフローチャートである。
【0046】
セル電圧差分比較部27Aは、セル電圧取得部21により取得された、全てのセル112の無負荷電圧のうちの最高電圧値と最低電圧値とを検出する。また、セル電圧差分比較部27Aは、検出した最高電圧値と最低電圧値との差を算出する。
【0047】
故障検出部28Aは、セル電圧差分比較部27Aにより算出された最高電圧値と最低電圧値との差と、第4閾値とを比較する。この比較により、故障検出部28Aは、最高電圧値と最低電圧値との差が第4閾値以上であるか否かを判断する。第4閾値としては、車両1Aにおいてバッテリパック11を使用可能な、バッテリパック11におけるセル112の最高電圧値と最低電圧値との差の許容範囲における最大の値が用いられる。後述の蓄電モジュール111交換の後に、セル112の最高電圧値と最低電圧値との差が第4閾値以上であるとの判断を、故障検出部28Aがした場合には、故障検出部28Aは、バッテリパック11の交換を促す故障ステータスを、車両1Aに設けられた警報装置等へ出力する。
【0048】
本実施形態における車両1Aの蓄電装置の故障判定方法では、ECU20は、S11〜S16、S21〜S22と同一の工程を行った後に、S22において、セル112の無負荷電圧が第2閾値を超えていない、即ち、セル112の無負荷電圧がセル112の無負荷電圧の許容上限値と許容下限値との間の範囲内である、とセル故障検出部24が判断した場合には、S31へ移行する。セル112の無負荷電圧が第2閾値を超えた、即ち、セル112の無負荷電圧がセル112の無負荷電圧の許容上限値を上回ったか、又は、許容下限値を下回った、とセル故障検出部24が判断した場合には、S25へ移行する点については、第1実施形態と同様である。
【0049】
S31、S32では、全てのセル112の無負荷電圧のうちの最高電圧値と最低電圧値との差が第4閾値以上である場合に故障との判定を行う。具体的には、S31では、セル電圧センサ12は、複数のセル112を有する蓄電モジュール111を複数備える蓄電装置のバッテリパック11における、全てのセル112の無負荷電圧を検出する。そして、セル電圧取得部21は、セル電圧センサ12により検出された全てのセル112の無負荷電圧を入力する。
【0050】
S32では、セル電圧差分比較部27Aは、セル電圧取得部21により取得された、全てのセル112の無負荷電圧のうちの最高電圧値と最低電圧値とを検出する。そして、セル電圧差分比較部27Aは、検出した最高電圧値と最低電圧値との差を算出する。
【0051】
そして、故障検出部28Aは、セル電圧差分比較部27Aにより算出された最高電圧値と最低電圧値との差と、第4閾値とを比較する。この比較により、故障検出部28Aは、最高電圧値と最低電圧値との差が第4閾値以上であるか否かを判断する。最高電圧値と最低電圧値との差が第4閾値以上であるとの判断を、故障検出部28Aがした場合(故障と判定された場合)には、S25へ移行する。最高電圧値と最低電圧値との差が第4閾値未満であるとの判断を、故障検出部28Aがした場合には、S21へ戻る。
【0052】
本実施形態によれば、以下の効果が奏される。
本実施形態では、蓄電モジュール111の交換の後には、全てのセル112の無負荷電圧のうちの最高電圧値と最低電圧値との差が第4閾値以上である場合に組電池としてのバッテリパック11の故障判定を行う工程を有する。これにより、全てのセル112のうちの最小の充電可能容量と最小の放電可能容量とから得られる蓄電装置のバッテリパック11の使用可能容量を算出せずに、バッテリパック11の故障判定を行うことができる。即ち、各セル112におけるSOCを算出したり、各セル112におけるSOCに基づいて各セル112の容量を算出したりせずに、バッテリパック11の故障判定を行うことができる。このため、バッテリパック11の故障判定を行うための処理を容易とすることができる。
【0053】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
例えば、第1実施形態では、S21及びS22の工程を行った後に、S23及びS24の工程を行ったが、これに限定されない。例えばS23及びS24の工程を行った後に、S21及びS22の工程を行ってもよいし、S21及びS22の工程と、S23及びS24の工程と、を同時並行して行ってもよい。
同様に、第2実施形態では、S21及びS22の工程を行った後に、S31及びS32の工程を行ったが、これに限定されない。例えばS31及びS32の工程を行った後に、S21及びS22の工程を行ってもよいし、S21及びS22の工程と、S31及びS32の工程と、を同時並行して行ってもよい。
【0054】
また、蓄電装置の故障判定方法を実施する車両の各部の構成等は、本実施形態の蓄電装置の故障判定方法を実施する車両1、1Aの各部の構成等に限定されない。
【0055】
また、第1実施形態では、無負荷電圧と閾値を比較することにより故障判定を行ったが、無負荷電圧に限らず、負荷電圧と各閾値を比較してもよい。また、無負荷電圧は、以下の式のように、負荷電圧を使って計算により算出したものを使用してもよい。
無負荷電圧(OCV)=負荷電圧(CCV)+電流(I)×セル内部抵抗(R)
なお、各閾値は予め実験等で求めた固定値を用いてもよい。例えば、第1閾値は各セルの平均電圧から±0.5V以内等とすることができる。
【符号の説明】
【0056】
11 バッテリパック
111 蓄電モジュール
112 セル
図1
図2
図3
図4
図5
図6