【文献】
HAGA K. et al,Cancer Sci.,98(2)(2007),p.147-154
【文献】
JENKE AC., et al,Mol. Biol. Rep.,31(2004),p.85-90
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一次ヒト組織に対する多くの基礎研究が、入手可能な基質の少なさから妨げられている。細胞療法は多数の遺伝性障害及び後天性障害の治療に極めて有望であるが、多量の治療用細胞の供給に対する要件が満たされない限り、ほぼ理論的予想のままである。潜在的な腫瘍形成結果のリスクを伴うヒト胚性人工多能性(前駆)幹細胞の制御増殖と比較すると、この増殖は実験目的又は治療目的で大量の細胞を作製する魅力的な代替手段である。
【0003】
最も望ましい場合には、in vivoで採取した細胞をin vitroで無制限に成長するように誘導する(不死化と称されるプロセス)。さらに、細胞の初期表現型及び生理的活性(関連する場合、その非分裂状態を含む)を随意に回復させることができる。不死化された状態及び「脱不死化された(de-immortalized)」状態(すなわち、テロメア長維持遺伝子の除去/サイレンシング後)の両方で十分に特性化される、そのようにして得られる細胞株を増殖させることができる。これらの細胞株は、特異的タンパク質の作製、毒性試験、薬物間相互作用、創薬、特定の場合では移植(オーダーメイド医療)のための基礎的生理から(少量のタンパク質の)プロテオミクスまで様々な分析に使用することができる。
【0004】
大抵の初代細胞は培養下で無制限に成長しないことから、初代細胞を可逆的に不死化し、その細胞の最終的な老化状態を克服する方法が必要とされている。一連の集団倍加の後、細胞の数は種、細胞型、培養条件によって異なり、複製老化状態に入った細胞は分裂しなくなる。この状態によって正常ヒト細胞は限られた複製寿命を示す。複製老化状態に入った細胞は、2つの転写調節タンパク質であるp53及びpRbをリン酸化するG1サイクリン依存性キナーゼを阻害する、或る又は別の一連の腫瘍抑制タンパク質の進行性の細胞内蓄積を特徴とする。
【0005】
長期にわたる細胞周期からの脱却及びG1での停止は、細胞形態の明確な変化、濃縮顆粒(pycnotic granules)の出現、進行性の空胞化、遺伝子発現の変化、及び最終的に細胞死をもたらすテロメア長の減少を特徴とする。
【0006】
一部の初代細胞は自発的に不死化され、複製老化を免れる。大抵の場合、それらの細胞は、遺伝子突然変異を有するため、その開始時の組織表現型を代表するものとしてはあまり信頼性がない。
【0007】
老化の一時的な克服に用いられる別の機構は、テロメア短縮化の阻害である。テロメアは直鎖状染色体の最末端のDNAの反復「TTAGGG」ストレッチである。その特異的構造により、染色体が切断として認識されることが回避され、末端がエキソヌクレアーゼ分解及びテロメア融合から保護される。テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)は、テロメア長恒常性を確保するテロメア反復配列のデノボ合成によってテロメアを延長する。ヒトTERT(hTERT)遺伝子の異所性発現が、一部の初代細胞における一時的な不死化の誘導に用いられている。しかしながら、多くの証拠から、テロメラーゼの活性化が大抵の細胞型の不死化に十分でなく、かかる場合に不死化がSV40ラージT抗原等のウイルス遺伝子の導入によって達成されるべきであると示唆される。Salmon et al.(2000年)は、hTERT及びSV40の両方を細胞に導入することによって老化細胞において不死化を誘導するレンチウイルスアプローチを記載している(非特許文献1)。しかしながら、エプスタインバーウイルス(EBV)、シミアンウイルス40(SV40)、ラージT抗原(Tag)、アデノウイルスE1A及びE1B、ヒトパピローマウイルス(HPV)E6及びE7等のウイルス遺伝子の導入を同様に用いて初代細胞を永続的に不死化した場合であっても、かかる不死化細胞は(細胞型に応じて)或る又は別の上述の腫瘍抑制遺伝子を不活性化することによって初代細胞の特性を失い、これにより細胞が細胞周期に再突入し、永久的に複製老化を回避するようになる。CHO細胞、ヒトHela細胞及びPER−C6細胞はかかる樹立細胞株の例である。
【0008】
通常の細胞培養条件下では、多くの初代細胞で腫瘍抑制因子の細胞内濃度が徐々に増大し、細胞周期からの脱却及びG1の或る時点での蓄積がもたらされることも示されている。一部の細胞型では、腫瘍抑制タンパク質はhTERTによる効率的な不死化に重要な要件であると考えられる。このことにより、ヒト初代細胞の不死化がhTERTの同時異所性発現及び同族腫瘍抑制タンパク質の喪失によって達成可能であるはずであると示唆される。
【0009】
Haga et al.(2006年)は、hTERT酵素を異所的に導入し、同時にp16
INK4Aをp16
INK4A shRNAによって抑制し、Bmi−1を導入することによる初代細胞の不死化を記載している(非特許文献2)。したがって、レトロウイルスベクターをクローニングし、レトロウイルストランスフェクションによって細胞内に導入する。Haga et al.は、p16を抑制し、同時にhTERTを発現する細胞を永続的に不死化することが可能であることを見出している。
【0010】
特許文献1は、少なくとも1つの不死化遺伝子配列と、腫瘍抑制遺伝子を下方調節する1つの配列とを導入することによって、初代細胞において不死化又は老化を誘導する誘導方法及び1つ又は複数の導入遺伝子を開示している。カセットを、導入遺伝子を宿主細胞のゲノムにランダムな部位で導入するレンチウイルス系によって導入する。
【0011】
初代細胞不死化プロセスにおいて現在使用されている従来のベクターは、宿主ゲノムにおけるランダムインテグレーションに依存するか、又は一時的にしか保持されない。当該技術分野では、初代細胞において不死化を誘導する改善された方法が依然として必要とされている。どちらも安全性、再現性及び効率に関する深刻な問題を引き起こす。ランダムインテグレーションは、挿入突然変異及び導入遺伝子のサイレンシングをもたらす。一方、一時的発現は反復処理が必要とされることを意味し、これは大抵の場合に望ましくない。したがって、理想的なベクターは多くの細胞で組み込まれることなく保持されるべきである。多数のウイルス系ベクターが一部の哺乳動物細胞においてエピソームとして複製される。しかしながら、これらの構築物の複製は、細胞形質転換をもたらすことの多いウイルスによってコードされるトランス作用因子の存在に依存するため、真核細胞の遺伝子操作への使用が大きく制限されている。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、遺伝子導入系及び不死化初代細胞を得る方法を提供する。初代細胞は、自律的にエピソームとして複製することが可能な遺伝子導入系を該初代細胞に導入することによって選択的に可逆的に不死化され得る。遺伝子導入系は、必要とされる限り上記宿主細胞内に維持することができる。上記発現遺伝子導入系の存在が所望又は必要とされなくなった場合、該遺伝子導入系の存在を回復(reminiscence)させることなく、該遺伝子導入系を数回の細胞分裂で取り除く機構を設ける。これにより、一度不死化された上記ヒト初代細胞はその元の静止状態へと戻る。
【0021】
他に規定のない限り、技術用語及び科学用語を含む、本発明の開示に使用される全ての用語は、本発明が属する分野の当業者に一般に理解される意味を有する。更なる指針によって、用語の定義は本発明の教示をよりよく理解するために含まれる。
【0022】
本明細書中で使用される場合、以下の用語は以下の意味を有する。
【0023】
「導入遺伝子」という用語は、増幅目的の細菌宿主等の好適な宿主細胞内でのDNA又はRNAの複製を可能にするヌクレオチド配列を任意で含む場合があり、真核生物宿主細胞に導入することができるプラスミド、ミニサークル又は両構造の複合物等のDNA又はRNAのビヒクルを指す。本発明では、導入遺伝子は、配列が遺伝子組み換え標的細胞内で発現される場合にmRNAに転写され、最終的にタンパク質へと翻訳される(S/MARを除く)遺伝子を含む。
【0024】
「遺伝子導入系」という用語は、宿主細胞内に標準的なトランスフェクション手段によって導入される導入遺伝子の総体を指す。
【0025】
「トランスフェクション」とは、任意のコード配列が最終的に発現されるか否かを問わず、哺乳動物標的細胞の場合のDNAベクター等の外因性ヌクレオチド配列の標的細胞への導入を指す。多数のトランスフェクション方法、例えば化学的方法(例えばリン酸カルシウムトランスフェクション)、物理的方法(例えばエレクトロポレーション、マイクロインジェクション、粒子衝撃)、融合(例えばリポソーム)、受容体介在性エンドサイトーシス(例えば、DNA−タンパク質複合体、ウイルスエンベロープ/カプシド−DNA複合体)、及び組み換えウイルス等のウイルスによる生物学的感染が当業者に既知である(Wolff, J. A., ed, Gene Therapeutics, Birkhauser, Boston, USA (1994))。標的細胞の遺伝子改変はトランスフェクションの成功の指標である。この場合、広範な集団倍加数がトランスフェクションの成功の指標となる。
【0026】
「不死化された」という用語は、例えばp53及びpRB、テロメア短縮化のような増殖を制限する全ての防御機構が不活性化された細胞を指す。細胞は無制限に増殖する場合に不死と称される。したがって、不死化細胞株は、無制限な増殖が可能であり、制限なく増殖可能な細胞株である。重要なことには、不死細胞は必ずしも形質転換細胞ではなく、不死細胞が必ずしも腫瘍表現型を有するわけではないことを意味する。
【0027】
「初代細胞」という用語は、生物から取り出された組織、器官又はその一部に存在する細胞;該組織、器官又はその一部から得られる細胞懸濁液に存在する細胞;移植された組織に存在する細胞;最初にプレーティングされた該懸濁液又は該移植片の細胞;及び最初にプレーティングされた細胞に由来する細胞懸濁液中に存在する細胞を含む。
【0028】
「細胞株」という用語は、in vitroで適切な条件下での持続的な成長及び分裂が可能な細胞集団を指す。
【0029】
「エピソーム」は、宿主細胞のゲノム内に組み込まれる必要なく独立して複製可能なベクター、発現ベクター又は導入遺伝子等の遺伝物質の単位を指す。上記遺伝物質の単位は、宿主細胞のゲノムと同時に存在し、細胞周期中に複製され、この過程で遺伝物質の単位が細胞分裂の前後に存在するコピー数に応じてコピーされ、複製された上記遺伝物質の単位が、生じる細胞内に統計的に分布する。
【0030】
「非ウイルス」ベクター、発現ベクター又は導入遺伝子は、ベクター、発現ベクター又は導入遺伝子が、宿主ゲノム内の導入遺伝子の自律的複製に寄与し得る任意のウイルス配列を欠いていること、及び上記ベクター、発現ベクター又は導入遺伝子の標的化された宿主細胞への送達が、送達ビヒクルとしての(組み換え)ウイルスの助けなしに起こることに関する。
【0031】
「ミニサークル」は概して、細菌系内で大量に産生される親マキシプラスミド(maxi-plasmid)に由来する。マキシプラスミドの増幅に必要とされる複製起点及び原核生物起源の抗生物質耐性遺伝子は、FLPリコンビナーゼによって除去される標的F部位に囲まれる。潜在的な後成的兆候(遺伝子サイレンシング)を排除するには、細菌起源の全ての物質を概して酵素Flpリコンビナーゼによるマキシプラスミドの処理後に排除し、共有結合的に閉じた環状スーパーコイルDNA分子の混合物(原核生物要素及びミニサークルの標的(sought after)を含むマキシプラスミド、ミニプラスミド)を得た後、ミニサークルをそこから単離し、精製する。立証されている後成的影響の非存在下では、原核生物部分はリコンビナーゼ酵素による単調かつ煩雑な処理及びその後のミニサークル精製を回避するために維持することができる。プラスミドと比較して、ミニサークルは概して、より高いトランスフェクション効率及びより長期の異所性発現によって利益を得る。また、このエピソーム群は、数ヶ月間の継続的な培養後の内在的不安定性及び組込みを示す。一方で、ミニサークルは宿主細胞と連動した複製パターンを示し、宿主ゲノムと同調して1回の細胞周期につき一度複製される。
【0032】
「複製起点」(ORI)という用語は、真核細胞及び原核細胞、並びにウイルスにおける一般的な出発点又は複製起点を意味するものとして理解される。これらのORIは複製を支持し、様々なレプリケーターの付着点を形成する。
【0033】
本明細書で使用される数量を特定していない単数形("A","an", and "the")は、別途文脈により明確に指示されない限り、単数及び複数の両方の指示物を指す。例えば、「区画(a compartment)」は1又は2以上の区画を意味する。
【0034】
パラメーター、量、期間等の計測可能な値を言及する「約(About)」は、本明細書で使用される場合、規定値より±20%以下、好ましくは±10%以下、より好ましくは±5%以下、更に好ましくは±1%以下、そして更に好ましくは±0.1%以下の変動を包含することを意味し、そのような変動であれば開示される本発明を実施するのに適切である。しかしながら、修飾語句「約」が言及する値自体も具体的に開示されることも理解される。
【0035】
本明細書で使用される「含む、備える("Comprise,""comprising," and "comprises" and "comprised of")」は、「包含する、含有する("include", "including", "includes" or"contain", "containing", "contains")」と同義であり、例えば成分等のその後に続く語の存在を明示する総称又はオープンエンドの用語であって、この技術分野において既知又は本明細書に開示される追加の特定されていない成分、特徴、因子、部材、ステップの存在を排除又は除外するものではない。
【0036】
終点による数値範囲の記述は、その範囲内に含まれる全ての数及び分数を包含し、同様に記述された終点も包含される。
【0037】
本発明の一態様は、初代培養物由来のヒト静止細胞に、一般に「不死化」と称される外部から誘導されるテロメア長の維持及び細胞周期の回転をもたらすために使用される遺伝子導入系を提供する。
【0038】
上記遺伝子導入系は、宿主細胞に導入された場合に初代培養物由来のヒト静止細胞における不死化(寿命の延長及び細胞周期の再突入/回転)の誘導に協働する又は役割を果たす、1つ又は複数の誘導性プロモーター配列の制御下の1つ若しくは複数の遺伝子配列及び/又は遺伝学的単位を含む少なくとも1つの導入遺伝子を含む。
【0039】
遺伝子導入系は「制御領域」(1)と「調節領域」(2)とに分けられ、該調節領域(2)は、実際に静止細胞における不死化の誘導に役割を果たす遺伝子及び/又は遺伝学的単位を含み、該制御領域(1)は、上記調節領域の遺伝子及び/又は遺伝学的単位の発現を制御する遺伝子を含む。
【0040】
一実施形態では、上記制御領域(1)及び調節領域(2)はどちらも上記遺伝子導入系の1つの導入遺伝子に結合している。別の実施形態では、上記制御領域及び調節領域は遺伝子導入系の別個の導入遺伝子に位置する。
【0041】
好ましい実施形態では、上記遺伝子配列は細胞の不死化プロセス、すなわちテロメア長恒常性及び細胞周期の再突入/回転に役割を果たすことが知られる遺伝子をコードする。最も好ましい実施形態では、上記テロメア長維持遺伝子は、テロメラーゼ逆転写酵素触媒サブユニットをコードするTERTである。最も好ましい実施形態では、上記TERTはラットテロメラーゼ逆転写酵素触媒サブユニットであるラットTERTである。大抵の細胞では、テロメアは細胞が増殖するにつれ徐々に短くなる。或る特定の回数の細胞分裂の後、テロメアは細胞に分裂を停止させるか又はアポトーシスを起こさせるほど短くなる。テロメラーゼは、細胞が分裂する度にDNAの小反復断片を染色体の末端に付加することによってテロメアの短縮化に対抗し、テロメア長恒常性を確保する。
【0042】
一実施形態では、上記テロメア長維持遺伝子は構成的プロモーター領域の制御下に位置する。別のより好ましい実施形態では、上記テロメア長維持遺伝子の発現を制御する上記プロモーター配列は外部から誘導可能である。
【0043】
更なる態様では、細胞の不死化を誘導する上記遺伝学的単位は、細胞の老化に役割を果たすことが知られる腫瘍抑制遺伝子の翻訳を下方調節することが可能な技法を含む。該技法は、1つ又は複数の腫瘍抑制mRNAに指向性を有するRNA干渉分子の使用を包含する。siRNA及びmiRNAを使用する方法は、例えばPei and Tusschlによって2006年に記載されているように当該技術分野で既知である(Nat. methods. 3: 670-676 and Chang et al., 2006, Nat. Methods. 3:707-714)。好ましい実施形態では、不死化を誘導する上記遺伝学的単位は、上記腫瘍抑制mRNAに指向性を有するshRNAを含む。好ましい実施形態では、上記shRNAはG1特異的腫瘍抑制mRNAに指向性を有する。最も好ましい実施形態では、上記shRNAはp16
INK4A、p15
INK4B、p18
INK4C、p19
INK4D、p21
Cip1、p27
Kip1又はp57
Kip2 mRNAの群から選ばれるG1特異的腫瘍抑制mRNAに指向性を有する。
【0044】
一実施形態では、上記テロメア長維持遺伝子は構成的プロモーター領域の制御下に位置する。別のより好ましい実施形態では、上記テロメア長維持遺伝子の発現を制御する上記プロモーター配列が誘導性である。
【0045】
不死化を達成するために、テロメア長維持TERT遺伝子又はG1特異的腫瘍抑制mRNAの下方調節を適用することができる。また、不死化プロセスは、テロメア長維持遺伝子と腫瘍抑制mRNA(複数の場合もあり)の下方調節との組合せによっても誘導することができる。ヒト系については、本発明者は、首尾よく不死化された初代細胞の生成を可能にするには、少なくとも1つのG1特異的腫瘍抑制遺伝子の下方調節に加えて、少なくとも1つのテロメア長維持遺伝子の存在が必要であることを認識している。
【0046】
最も好ましい実施形態では、上記遺伝子導入系の調節領域(2)は、少なくとも1つのテロメア長維持遺伝子と、特異的G1腫瘍抑制メッセンジャーRNAの喪失を誘導する少なくとも1つの配列とを含む。
【0047】
更なる態様では、上記遺伝子導入系の制御領域(1)は、調節領域(2)内に位置する上記誘導性プロモーター配列と相互作用することが可能な転写トランスアクチベーターrtTA
2s−M2及びトランスサイレンサーtTSを含む転写調節系を含む。好ましい実施形態では、上記トランスサイレンシング遺伝子及びトランスアクチベーター遺伝子は各々、構成的プロモーター配列の制御下に位置する。別の実施形態では、上記トランスサイレンシング遺伝子及びトランスアクチベーター遺伝子の転写は単一の構成的プロモーター配列によって制御され、2シストロン性の転写産物をもたらす。上記2つの遺伝子間に位置する内部リボソーム侵入部位(IRES)は、mRNAの規定の位置での翻訳開始を可能にし、最終的に2つの別個のタンパク質をもたらす。
【0048】
この転写調節系は、細胞の培地での誘導剤の存在又は非存在によって外部から制御することができる。上記転写トランスアクチベーター及びトランスサイレンサーは、上記導入遺伝子上に存在する誘導性プロモーター配列に作用する。上記誘導剤の非存在下では、上記転写トランスサイレンサーが上記調節領域中に存在する上記誘導性プロモーターと相互作用することにより、上記プロモーター配列の任意の活性を阻害する。しかしながら、上記誘導剤の存在下では、上記誘導性プロモーターによって制御される配列の転写をもたらす逆の状況が優先される。
【0049】
更なる代替的な実施形態では、内分泌系に由来する細胞にはよくあることだが、標的初代細胞がフーリン活性を示す場合、IRES配列がコンセンサスRAK/KRRフーリン切断部位に対応するヌクレオチド配列に置き換えられ、更に2つの別個のタンパク質が生じる。調節領域内の転写調節系は、細胞の成長培地に添加される誘導剤の存在又は非存在によって外部から厳重に制御することができる。上記転写トランスサイレンシングtTSタンパク質及び転写トランスアクチベーターrtTA
2s−M2タンパク質は、上記導入遺伝子上の調節領域中に存在する誘導性プロモーターに作用する。上記誘導剤の非存在下では、上記転写トランスサイレンサーtTSは、上記調節領域内の上記誘導性P
Tight/U6プロモーター及び誘導性P
Tet−T6プロモーターと相互作用することにより、上記プロモーター配列の任意の活性を阻害する。しかしながら、上記誘導剤の存在下では、該誘導剤は上記転写トランスアクチベーターrtTA
2s−M2を上記誘導性P
Tight/U6プロモーター及び誘導性P
Tet−T6プロモーターに結合させ、これら2つのプロモーターの活性化を可能にし、RNAポリメラーゼIII型及びII型それぞれによる上記P
Tight/U6プロモーター及びP
Tet−T6プロモーターによって制御される配列の転写をもたらす。
【0050】
好ましい実施形態では、上記転写調節系はTET−ON/TET−OFF調節系であり、上記誘導剤は抗生物質、より好ましくはテトラサイクリン又はドキシサイクリンである。必要とされる上記誘導剤の濃度は、培養培地1ml当たり300ngから2000ngまでの範囲である。
【0051】
本発明の更に別の態様では、上記遺伝子導入系は少なくとも1つの足場/マトリクス付着領域(S/MAR)要素を含む。S/MARは通常は70%A/Tリッチ配列であり、染色体複製起点と結合して見られることが多い。さらに、S/MARは染色体構造の維持及び真核細胞核の機能に極めて重要な役割を果たす。初代細胞の不死化に使用され、真核細胞においてエピソームとして複製される大抵のベクター又は導入遺伝子は、例えばSV40系ベクターのようにウイルス由来である。これらのベクター内に含有される複製起点は、ウイルスによってコードされるトランス作用因子との相互作用を必要とする。これらのタンパク質は、トランスフェクト細胞の永続的な形質転換をもたらすことが非常に多い。例えば、SV40 DNAの複製は単一のウイルスタンパク質であるラージT抗原を必要とするが、他の因子は宿主細胞によって供給される。SV40による感染又はSV40ラージT抗原をコードする遺伝子を有するベクターによるトランスフェクションは、初代細胞の不死化をもたらすことができ、動物において腫瘍形成を誘導する場合がある。したがって、かかるベクターは初代細胞の不死化に部分的にしか有用でない。本発明の目的は、任意のウイルスタンパク質を発現せず、細胞形質転換を回避する、初代細胞の不死化に使用されるエピソーム遺伝子導入系を提供することである。S/MAR系ベクターが哺乳動物細胞におけるエピソーム複製及び維持を促進することができることが示されている(例えば、Piechaczek et al., 1999, Nuc. Acids Res.、Hagedornet al., 2011, Hum. Gene Therapy)。米国特許出願公開第20020142393号は、S/MAR要素を含むエピソーム複製ベクターを提供している。しかしながら、このベクターは依然としてSV40に由来する複製起点(ORI)を含む。本発明は、S/MAR要素の存在によってエピソームとして複製することが可能であり、ウイルスORIを欠いているために完全に非ウイルス性である少なくとも1つの導入遺伝子を含む遺伝子導入系を提供する。
【0052】
一実施形態では、上記S/MAR要素は構成的プロモーター配列の制御下にある。更に別の実施形態では、S/MAR要素を制御する上記プロモーター配列は誘導性である。好ましくは、遺伝子導入系の上記調節領域(2)では、上記S/MAR要素は、上記テロメア長維持遺伝子配列のインフレーム下流に位置し、上記テロメア長維持遺伝子配列と同じプロモーター配列によって制御される。上記誘導性プロモーター配列が上記誘導剤の存在によって活性化されると、S/MAR要素は容易に転写され、上記導入遺伝子は細胞分化に対していかなる影響も与えることなく宿主細胞ゲノムとインフェーズに複製される。しかしながら、S/MARの転写が中断されると、導入遺伝子は組み込まれることなく宿主細胞から失われる。したがって、転写活性の調節を利用して、上記導入遺伝子の保持を支持又は終了することができる。本発明では、誘導性プロモーター配列を使用した場合、これは例えば上記誘導剤の除去によって達成することができる。上記導入遺伝子の複製の終了が望ましくない用途では、上記S/MAR要素は構成的プロモーター配列によって制御することができる。
【0053】
本発明の一実施形態では、上記遺伝子導入系の導入遺伝子はミニサークルであり、細菌での伝搬のための任意の残留性要素を欠いている。ミニサークルは概して、大腸菌等の原核生物系で複製することが可能な親マキシプラスミドから作製される。このいわゆる親マキシプラスミド内の原核生物領域は、通常は上記ミニサークルの配列に隣接する組み換え部位と、残存する親プラスミド及び除去後に得られるミニプラスミドの破壊のためのエンドヌクレアーゼ制限部位と、選択遺伝子とを含有する。要するに、第一に親マキシプラスミドからのミニサークルの除去をもたらし、第二に該親マキシプラスミド及びミニプラスミドの骨格の酵素分解をもたらす上記酵素遺伝子の発現を誘導する。続く工程では、ミニサークルをCsCl密度勾配によって精製する。ミニサークルが原核生物の伝搬を支持する任意の要素を欠いており、自己複製性及び非ウイルス性であることとは別に、ミニサークルは、一定の高レベルな遺伝子発現を長期間にわたって維持するという利点を更に有する。
【0054】
本発明の別の実施形態では、本発明者は、細菌でのミニサークルの複製及び増幅を可能にする原核生物複製起点を上記ミニサークル内に維持することによって、ミニサークルの煩雑かつ労働集約的な作製を克服しようと試みた。加えて、ミニサークルは抗生物質非依存性選択要素を備えることができ、これらのいずれの要素もマキシプラスミドの真核生物部分に影響を及ぼさない(後成的サイレンシング)。
【0055】
宿主細胞において遺伝子導入系の安定性を確保するには、上記遺伝子導入系の導入遺伝子は7キロ塩基対〜8キロ塩基対(Kb)のサイズを超えるべきではない。さらに、宿主ゲノムへの上記導入遺伝子の組込みのリスクを阻止するには、導入遺伝子は3Kb未満とすべきではない。好ましくは、導入遺伝子は4Kb〜7Kbのサイズを有するものとする。
【0056】
上述のように、本発明による遺伝子導入系は少なくとも1つの導入遺伝子を含む。一実施形態では、宿主細胞は上記制御領域(1)、例えば転写トランスアクチベーター、トランスサイレンサー及びそれらの対応する一般的プロモーター配列、例えば構成的EF1αプロモーターと、テロメア長維持遺伝子、S/MAR領域及びG1腫瘍抑制mRNAに指向性を有するshRNA干渉配列を有する調節領域(2)との2つの成分を含む導入遺伝子を1つのみ有する遺伝子導入系(
図1を参照されたい)を受ける。別の好ましい実施形態では、宿主細胞は、2つ以上の導入遺伝子を有する遺伝子導入系(
図4を参照されたい)を受け、上記導入遺伝子は各々、全てが同じ宿主細胞中に存在するという条件で不死化を誘導することができる単位を含む。これは例えば、単一の導入遺伝子のサイズが好ましいサイズを超え、上記導入遺伝子の不安定性の恐れがある場合に起こり得る。好ましくは、宿主細胞は2つの導入遺伝子を受け、一方の導入遺伝子は上記制御領域の成分、例えばプロモーター配列とともに転写トランスアクチベーター及び転写トランスサイレンサーのみを含み、他方の導入遺伝子は、テロメア長維持遺伝子及びG1腫瘍抑制mRNAに指向性を有するshRNA配列を含む上記調節領域の成分のみを含む。どちらの導入遺伝子も各々、宿主細胞のゲノムとインフェーズな複製を維持するためにS/MAR要素を更に保有する。2つの同一のS/MAR要素が同じ位置で競合するリスクを阻止するには、各々の導入遺伝子のS/MAR要素は異なるべきである。
【0057】
全体としては、少なくとも1つの導入遺伝子を含む遺伝子導入系は、好ましくは細胞にトランスフェクトし、in vitroで長期間の細胞の成長を可能にする遺伝子配列及び/又は遺伝要素を安定的に発現することが可能である。
【0058】
更なる主題として、本発明は、初代培養物由来の静止細胞、好ましくはヒト起源の静止細胞を不死化する方法であって、
a)初代培養物由来の静止細胞を準備する工程と、
b)請求項1〜8に記載の遺伝子導入系をヒト静止細胞に導入する工程であって、該遺伝子導入系が組み込まれることなく宿主細胞ゲノムとインフェーズに複製される工程と、
c)誘導剤を上記細胞の成長培地に添加する工程と、
d)上記遺伝子導入系内に存在するテロメア長維持遺伝子を過剰発現させる工程と、
e)上記遺伝子導入系内に存在する特異的RNA干渉配列によってG1特異的腫瘍抑制mRNAの翻訳を阻止する工程と、
を含む、方法を提供する。
【0059】
本発明は、好ましくは静止した、そうでなければin vitroでの拡大成長が不可能な遺伝子操作真核細胞に関する。後者の真核細胞は、好ましくはヒト、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ニワトリ、ネコ、イヌ、非ヒト霊長類、ブタ、ヒツジ、ウシ、ウマ、魚類、爬虫類又は両生類起源に由来するのが好ましい。より好ましくは、上記初代細胞はヒト起源である。
【0060】
導入遺伝子(複数の場合もあり)を含む上記遺伝子導入系の導入は、トランスフェクションによって行われる。トランスフェクションは、細胞への導入遺伝子の取込みを意味するものとして理解される。好ましい実施形態では、上記トランスフェクションは、DNA及び陽イオン性脂質の両方を含む小複合体を作製するリポフェクションによって行われる。負に帯電したDNAは正に帯電したリポソームに自発的に結合し、DNA−陽イオン性脂質試薬複合体が形成される。
【0061】
リポフェクションは当該技術分野で既知であり、基本的構造が正に帯電した頭部基と1つ又は2つの炭化水素鎖とからなる陽イオン性脂質の使用を含む。帯電した頭部基は脂質と核酸のリン酸骨格との間の相互作用を支配し、DNA凝縮を促進する。多くの場合、陽イオン性脂質は中性の共脂質(co-lipid)又は補助脂質(helper lipid)と配合され、続いて押出又は顕微溶液化によって、水中に配合された場合に正の表面電荷を有する単層リポソーム構造が得られる。
【0062】
リポソームの正の表面電荷はまた、核酸と細胞膜との間の相互作用を媒介し、リポソーム/核酸(「トランスフェクション複合体」)と負に帯電した細胞膜との融合を可能にする。トランスフェクション複合体はエンドサイトーシスによって細胞に入ると考えられる。エンドサイトーシスは、細胞膜の局所領域が膜結合/細胞内小胞を形成することによってDNA:リポソーム複合体を取り込むプロセスである。細胞内に入った後、複合体はエンドソーム経路を避け、細胞質を介して拡散し、遺伝子発現のために核に入るはずである。陽イオン性脂質は、プロセスの初期段階でDNA凝縮及びDNA/細胞相互作用を媒介することによってトランスフェクションを促進すると考えられる。
【0063】
上記トランスフェクションは2次元培養において接着細胞で行うのが好ましい。一実施形態では、細胞をトランスフェクション前に、ヒストンデアセチラーゼの既知の阻害剤である酪酸による処理に供する場合もある。
【0064】
本発明による方法は、上記初代細胞の培地に成長培地1ml当たり300ng〜2000ngの濃度範囲で供給される上記誘導剤を使用する。上記誘導剤は好ましくは抗生物質、より好ましくはテトラサイクリン又はドキシサイクリン(Doxycycline)を含む。
【0065】
本発明の一実施形態では、上記系のRNA干渉配列の発現は上記誘導剤の存在に依存する。
【0066】
本発明の別の実施形態では、上記テロメア長維持遺伝子の発現は上記誘導剤の存在に依存する。
【0067】
最も好ましい実施形態では、上記RNA干渉配列及び上記テロメア長維持遺伝子のどちらの発現も上記誘導剤の存在に依存する。
【0068】
本発明の別の実施形態では、上記S/MAR要素の転写は上記誘導剤の存在に依存する。これらの状況では、上記誘導剤の非存在が上記宿主細胞でのS/MAR要素の喪失をもたらし、最終的に宿主細胞からの上記導入遺伝子の完全な喪失をもたらす。したがって、不死化初代細胞の状態はその正確な初期状態へと逆転し、任意の外部から導入される遺伝物質の存在なしに最終的に老化し始める。そのようにして、細胞はトランスフェクション前の状態と同一になる。
【0069】
別の実施形態では、テロメア長維持遺伝子(TERT)の下流に操作可能に連結した上記S/MAR要素の転写は構成的であり、上記不死化初代細胞は、G1特異的腫瘍抑制mRNAが欠失している条件で不死化されたままであり、遺伝子導入系を保有する上記導入遺伝子の存在は、上記誘導剤の存在とは無関係に宿主細胞において維持される。
【0070】
最後の態様では、本発明は、上に記載される本発明の方法によって不死化された初代細胞を更に提供し、該不死化細胞はその元の状態へと決定的に逆転させることができる。これは実行者又は研究者によって決定される規定の時点で、単に細胞から上記誘導剤を除去することで行うことができる。これは例えば、上記誘導剤を含む細胞の培地を、上記誘導剤を完全に欠いている培地に交換することによって行うことができる。上記誘導剤の欠如により、2、3回の細胞複製周期のうちに上記導入遺伝子の喪失がもたらされる。
【0071】
本発明は、本発明を更に例示する以下の非限定的な実施例により更に説明され、これは本発明の範囲の限定を意図するものではなく、そのように解釈されるべきでもない。
【実施例】
【0072】
実施例1
図1は、導入遺伝子を1つのみ含有する本発明による遺伝子導入系の例示的な実施形態を示し、該導入遺伝子はミニサークルであり、原核生物領域を欠いている。
図1による遺伝子導入系は、EF1αプロモーターを用いて構成的に発現される転写トランスアクチベーターrtTA
2S−M2及び転写トランスサイレンサーtTSを有する制御領域(1)内にTet−on/Tet−off系を含む。この特定の例では、上記転写トランスアクチベーター及び転写トランスサイレンサーは、2シストロン性のmRNAとして転写され、それらの間に翻訳を調節するIRESを含む。本発明の別の実施形態(図示せず)では、転写トランスアクチベーター又は転写トランスサイレンサーを制御し、IRESの存在が不必要な第2の構成的プロモーターを提供することができる。
図1による遺伝子導入系は調節領域(2)内に、テロメア長恒常性を確保する上記テロメア長維持遺伝子としてrTERTと、腫瘍抑制mRNA p16
INK4aに指向性を有するshRNAとを含む。かかるRNA干渉機構によるp16
INK4a mRNAの分解は、p16
INK4aタンパク質の細胞内濃度の減少及び同族G1特異的サイクリン依存性キナーゼ複合体の活性化をもたらす。どちらの不死化配列も、細胞の培地中のドキシサイクリン又はテトラサイクリンの存在又は非存在の影響を受けやすい誘導性プロモーター配列の制御下に位置する。S/MAR要素も同様に上記誘導性プロモーターの一方の制御下に置かれる。
図1による導入遺伝子内に存在するF部位は、細菌におけるミニサークルの増幅に使用される「floxed」細菌領域(一定方向でF部位に挟まれた領域)の酵素Flpリコンビナーゼへの曝露後の残部である。
図1による上記ミニサークルの作用様式は以下のようにして行われる。
【0073】
P
Tet−ON(ドキシサイクリンの存在下):rtTA
S2−M2は、shRNAカセットの上流に位置し、RNAポリメラーゼIII(スプライシングに関与する核内低分子U6 RNA等の短鎖DNA配列を選択的に転写する)がshRNAを積極的に転写することを可能にするP
Tight/U6と、RNAポリメラーゼ(polymerase)IIがTERT−S/MARカセットを転写するようにP
Tet−T6と結合する。転写サイレンサーtTSは多量に存在していても上記効果に影響を与えない。
【0074】
P
Tet−OFF(ドキシサイクリンの非存在下):rtTA
S2−M2は、P
Tight/U6にもP
Tet−T6にも結合することはない。ここで、転写サイレンサーtTSはP
Tight/U6及びP
Tet−T6の両方と相互作用することが可能である。shRNA及びTERT−S/MARカセットの両方がサイレンシングされる。転写されることのないS/MARは、2、3回の細胞複製周期のうちにミニサークルを喪失させる。
【0075】
図1に示される遺伝子導入系は、初代細胞にトランスフェクトした場合、該初代細胞の不死化を確実にする。これにより、細胞周期への再突入を促すことによって分化成体細胞の無制限の供給をもたらすことが可能になる。組織、器官の再生、並びにインスリン依存性糖尿病、肝臓に影響を及ぼす疾患(線維症、劇症肝炎)及びその続発症(肥満、アテローム性動脈硬化等)といった様々な疾患の治療への初代細胞(例えば膵島β細胞、肝細胞等)の広範な適用は、適切な分化表現型を示す細胞の無制限の供給のアベイラビリティに左右されるため、本発明は大量の任意の所与の初代細胞を容易に作製する方法を提供する。さらに、必要数の細胞に達した時点で、上記誘導剤の除去によって導入遺伝子内の発現カセットがサイレンシングされ、続いて完全な導入遺伝子が急速に排除される。
【0076】
不死化初代細胞を得るために欠失させるべき上記腫瘍抑制タンパク質の選択は、初代細胞の起源に応じて異なり、慎重に選ぶ必要がある。概して、上記腫瘍抑制タンパク質はp15
INK4B、p16
INK4A、p18
INK4C、p19
INK4D、p21
Cip1、p27
Kip1又はp57
Kip2の群から選ばれ、これら全てのサイクリン依存性キナーゼがG1の或る時点で細胞を遮断する。表1にヒト初代細胞のタイプ、及びrTERT等のテロメア長維持遺伝子の存在は別にして不死化を誘導するために下方調節する必要がある関連腫瘍抑制因子を示す。また、表1から、樹立細胞株に由来する細胞(持続的に成長するHela細胞)を、腫瘍抑制p27
Kip1のロバスタチン媒介性活性化後にG1の或る時点で遮断することができることが示される。
【0077】
表1.腫瘍抑制因子(サイクリン依存性キナーゼ阻害剤)及び関連細胞のタイプ
【表1】
【0078】
実施例2
図2は本発明による遺伝子導入系の実施形態の概略図であり、調節領域(2)内の上記テロメア長維持遺伝子rTERT及びS/MAR領域は構成的P
CMVプロモーター配列によって制御される。したがって、S/MAR領域は宿主細胞中に存在するrTERTとインフレームで持続的に転写され、それにより上記導入遺伝子の存在が維持される。上記導入遺伝子は上記誘導剤の存在とは無関係であり、したがって宿主細胞から排除することはできない。
図2に示される導入遺伝子は、例えば治療用モノクローナル抗体のヒトBリンパ球による産生に特に有用であり得る。誘導剤の存在下では、上記導入遺伝子の調節領域内の上記G1特異的腫瘍抑制shRNA配列が転写され、対応する腫瘍抑制因子の発現が阻止される。トランスジェニック細胞は細胞周期に入り、増加するが、モノクローナル抗体を分泌しない(in vivoでのリンパ芽球段階によく似た状況)。誘導剤を取り出すと、Bリンパ球は細胞周期から外れ、G1の或る時点で蓄積し、静止したまま留まり、モノクローナル抗体が合成される(in vivoでのこのタイプの細胞の形質細胞段階を反映する状況)。誘導剤が成長培地中に存在するか又は(or)欠如しているかにかかわらず、上記導入遺伝子内のrTERT−S/MAR領域は永続的に転写され、上記トランスジェニック細胞の安定性が確保される。概して、抗体産生Bリンパ球を不死化するために、これらのB細胞を自ら抗体を産生しない積極的に成長する骨髄腫細胞と融合させ、ハイブリッド細胞株又はハイブリドーマを形成する。本発明による導入遺伝子を使用することで、本発明によって提供される上記導入遺伝子の導入によってBリンパ球が容易に不死化するため、これらのハイブリッド細胞株の形成は不必要となる。
【0079】
実施例3
図3は本発明による遺伝子導入系の別の例示的な実施形態の概略図であり、遺伝子導入系の導入遺伝子が原核生物における増幅を支持するために原核生物領域を備える。ミニサークルの作製が通常は煩雑かつ労働集約的であるため、これは上記導入遺伝子に非抗生物質選択機構(3)(STABY(商標)技術、ccdB毒素遺伝子を発現する細菌宿主株大腸菌Cys21及び温度誘導性Flpリコンビナーゼ活性;Szpirer and Milinkovitch, 2005, Biotechniques 38: 775-781;国際公開第02066657号、国際公開第9958652号、Broll et al., 2010, J. Mol. Biol. 395: 950-965)とともに、細菌複製起点を挿入することによって克服することができる。したがって、上記導入遺伝子は、増幅目的で細菌において複製することが可能であり、抗生物質による選択なしに細菌から導入遺伝子を得ることができる。誘導的又は構成的に制御されるS/MAR要素の存在は、真核生物宿主細胞における上記導入遺伝子の複製を、上記宿主細胞のゲノムに組み込まれることなく確実にする。
【0080】
実施例4
図1に示される特有の上記導入遺伝子の全体サイズを低減し、それに応じて導入遺伝子の安定性を増大させるために、
図4は、
図1の上記導入遺伝子の遺伝子を2つの導入遺伝子間に分布させることによって、上記導入遺伝子の一方が制御領域(1)の遺伝子を含有し、第2の上記導入遺伝子が調節領域(2)の遺伝子を含有する、本発明による遺伝子導入系の例示的な実施形態を示す。制御領域(1)の遺伝子を含有する上記導入遺伝子をドキシサイクリンの非存在下で排除するには、S/MAR1要素を、上記P
TET−T6ドキシサイクリン誘導性プロモーターの制御下に位置する転写トランスアクチベーターrtTA
S2−M2のインフレーム下流に連結すべきである。調節領域は、TERT等のテロメア長恒常性遺伝子と、G1腫瘍抑制mRNAに指向性を有するshRNAとを含む(表1を参照されたい)。さらに、S/MAR2領域も同様にTERT遺伝子のインフレーム下流に位置する。配列の発現は誘導性であるか、又は例えばS/MAR2要素の上流に操作可能に連結したTERT遺伝子の場合に構成的である。
【0081】
実施例5
ヒトケラチノサイトのドキシサイクリン制御性可逆的不死化
複製寿命の決定
成体包皮に由来する正常増殖性ヒト上皮ケラチノサイト(参照番号C12004)及び既製のケラチノサイト成長培地2(参照番号20211)は、どちらもPromoCell GmbH(Heidelberg,Germany)から購入した。0.5mlの細胞(ドキシサイクリンを含む又は含まない)を、1cm
2当たり10000細胞の細胞密度で33mm径組織培養グレード多壁(multiwall)プレート(Becton Dickinson USA)に三連で播種し、37℃、5%CO
2/加湿空気雰囲気キャビネット内で培養した。1000ngのドキシサイクリンを含有する成長培地を1日おきに交換した。細胞が50%〜60%のコンフルエンシーに達した時点で、InvitrogenのTryplE Select(商標)で酵素的に分離し、継代し、1継代あたりの集団倍加(PD)を、継代培養時の細胞のlog
2数/プレーティングした細胞の数として算出した。複製寿命の決定は、総培養時間に対して累積PDをプロットすることによって算出した。細胞は、細胞寿命が未トランスフェクト細胞を50PD上回る場合に不死化されたとみなした。
【0082】
p16
INK4a腫瘍抑制タンパク質の免疫化学的分析及びテロメラーゼ活性の決定
対照の細胞単層及びドキシサイクリンを含有する培養物を2mlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)でリンスし、細胞を37℃で4分間のインキュベーション後に5mlのInvitrogenのTryplE Select(商標)で分離し、続いて4mlの完全成長培地で酵素を中和した。細胞ペレットを5mlのPBSで1回リンスした後(2000rpmで5分間)、2%ドデシル硫酸ナトリウム及び1mMジチオスレイトールを含有する20mlのTris−HClバッファー(pH7.3)に細胞を溶解し、そのタンパク質含量を(例えばブラッドフォード法によって)決定した。20μg〜80μgのタンパク質を、14%(w/v)ポリアクリルアミド濃度を用いたドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分離した。
【0083】
タンパク質をMini−ProteinII Trans Blot装置でHybond P PVDF膜に電気転写し(electrotransferred)、腫瘍抑制タンパク質の−COOH末端に対して生成されたマウス抗ヒトp16
INK4aモノクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology-Santa Cruz,CA,USA)でプロービングした。抗体をブロッキングバッファー(PBS中の4%粉乳及び0.2%Tween 20)中、4℃で一晩、1000倍希釈で使用した。
【0084】
次いで、ブロットをホースラディッシュペルオキシダーゼ結合ヤギ抗マウス二次抗体とインキュベートした後、増強化学発光検出を行い、結果をX線フィルムによって視覚化した。テロメラーゼ活性を、PCR系テロメラーゼ反復配列増幅プロトコル(TRAP)アッセイ(Kim and Wu, Nucleic Acids Res., 1997, 25: 2595-2597)を用いて検出した。
【0085】
トランスフェクション
200μlの完全成長培地(CGM)中5万個のケラチノサイトを、6ウェル培養プレートのウェルに播種し、一晩(18時間〜24時間)50%〜60%のコンフルエンシーまで成長させた。次いで、最終濃度に達成するまで酪酸塩を添加し(Broll, S. et al., 2010, 395: 950-965)、細胞を36時間インキュベートした。次いで、酪酸塩を培地交換によって除去し、細胞を2回洗浄して、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤を残らず除去した。細胞を、Roche X−Treme 9 DNAトランスフェクションによって製造業者のプロトコルに従ってトランスフェクトした。トランスフェクションの4時間後、当量の成長培地を1000ngのドキシサイクリンを含有するCGM(10%ウシ胎仔血清)に交換し、この条件下で1日おきに交換した。
【0086】
実施例6
ヒト膵島β細胞のドキシサイクリン制御性不死化
複製寿命の決定
ランゲルハンス島を、ベルギーの規則及び地方機関の倫理委員会に従ってヒト成人脳死膵臓ドナーから準備した。組織の処理は、解離段階にトリプシンの代わりにInvitrogensのTryplE Select(商標)を用いて、Lukowiakによって記載されるように行い(Lukowiak, B. et al. JHistochem Cytochem 49 (2001) 519-528)、単離膵島細胞懸濁液を調製した。
【0087】
25μMのNewport Green(親油性二酢酸エステル形態)での染色を、カルシウムを含まず、2.8mMグルコースを含有するF10成長培地中で90分間行った。BD Facscanを用いて選別を行った。複製寿命の決定を、ヒトケラチノサイト(実施例5)についての記載と同様に行った。
【0088】
p16腫瘍抑制タンパク質の免疫化学的分析及びテロメラーゼ活性の決定
免疫化学的分析を、ヒトケラチノサイト(実施例5)についての記載と同じ方法で、ヒトケラチノサイト(実施例5)と使用したものと同じマウス抗ヒトp16
INK4aモノクローナル抗体を用いて行った。
【0089】
トランスフェクション
ヒト膵島β細胞のトランスフェクションを、ヒトケラチノサイト(実施例5)についての記載と本質的に同じ方法で行った。
【0090】
実施例7
ヒト肝細胞のドキシサイクリン制御性不死化
複製寿命の決定
単一ドナーの正常肝臓から単離した正常ヒト肝細胞(参照番号C12850)、及び1000ng/mlのドキシサイクリンを含む又は含まない既製の肝細胞成長培地(参照番号C25010)は、どちらもPromoCell GmbH(Heidelberg,Germany)から購入した。
【0091】
複製寿命の決定を、ヒトケラチノサイト(実施例5)についての記載と同様に行った。
【0092】
p15
INK4b腫瘍抑制タンパク質の免疫化学的分析及びテロメラーゼ活性の決定
免疫化学的分析を、ヒトケラチノサイト(実施例5)についての記載と同じ方法で、p15
INK4b腫瘍抑制タンパク質の存在についての肝細胞タンパク質溶解物のプロービングに、p16
INK4aの代わりにマウス抗ヒトp15
INK4aモノクローナル抗体を用いて行った。
【0093】
トランスフェクション
ヒト肝細胞のトランスフェクションを、ヒトケラチノサイト(実施例5)についての記載と本質的に同じ方法で行った。
【0094】
実施例8
ヒト骨芽細胞のドキシサイクリン制御性不死化
複製寿命の決定
PromoCell GmbH(Heidelberg,Germany)から入手した、膝部又は股関節部の大腿骨組織に由来する正常増殖性ヒト骨芽細胞(参照番号C12706)を、10%FCS、200mMグルタミン及び抗生物質(各500mMのペニシリン(Penicillin)及びストレプトマイシン(Streptomycin))を添加した、1000ng/mlのドキシサイクリンを含む又は含まないMEM(Life Technologies Inc.,Grand Island,N-Y)中で培養する。培地を1日おきに交換し、影響を受ける前に培養物を継代培養する(subcultivate)ことに注意を払った。
【0095】
複製寿命の決定を、ヒトケラチノサイト(実施例5)についての記載と同様に行った。
【0096】
p27
Kip1腫瘍抑制タンパク質の免疫化学的分析及びテロメラーゼ活性の決定
ヒトケラチノサイト(実施例5)について記載されるように細胞分離を行った後、細胞を120mM NaCl、0.5%NP40、1mM EDTA、1mMジチオスレイトール、1mM PMSF、溶解バッファー50ml当たり1錠のプロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche Complete、EDTA無含有、参照番号11873580001)を含有する50mM Tris−HCl(pH7.2)に溶解した。氷上で15分間のインキュベーション及び遠心分離(2000gで10分間)を行い、上清の総タンパク質をブラッドフォードアッセイによって定量した後、先に記載のように(実施例5)タンパク質をドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分離する。
【0097】
トランスフェクション
ヒト骨芽細胞のトランスフェクションを、ヒトケラチノサイト(実施例5)についての記載と本質的に同じ方法で行った。