(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
半凝固状態の材料(以下、半凝固材料とも記載)の成形法として、鋳造法と鍛造法が用いられているが、従来一般的に用いられてきた成型技術を踏襲した場合、半凝固材料の特性(流動性)が固体状態や液体状態の材料とは大きく異なるため、様々な障害が発生することとなる。
中でも鍛造法は、固体状態の材料を、下型(金型)の凹部内に据え置き、この下型に対して上型(金型)をプレス機による圧力で押し下げ、上型(可動面)と下型の凹部とで形成される空間部の形状となるように、材料の形状を変形(塑性変形)させることで成形する方法である。
【0003】
このため、従来の鍛造の成形概念をそのまま半凝固材料の鍛造に適用した場合、材料の加圧による流動性(移動距離)の違いにより、固体状態の材料に比較して大きな加圧力は要しなくなるものの、以下の問題が発生する。
・半凝固材料が金型のパーティング面(合わせ面)に先に差し込み、製品となる部分(凹部内の半凝固材料)の加圧が不十分になる障害。
・金型に触れた半凝固材料の表面(外周面)と内部との温度差による流動性の差。
・半凝固材料を用いることに起因した圧力の伝わり方の差異。
これらが原因で、金型の空間部内全体に半凝固材料を充填させることができず、その結果、安定した性能を備えた良品を製造することが困難となっていた。
【0004】
上記した問題を解決するため、様々な技術の研究により、例えば、以下の方法が模索されている。
1)半凝固材料の固相率を上げ、より固化された状態とし、加圧による半凝固材料の流動性を抑制して鍛造する方法。
2)金型そのものを昇温させ、金型の内表面に触れた半凝固材料の急激な温度低下を抑制して流動性(湯回り)を確保し、金型の空間部内全体に半凝固材料を充填させる方法。
3)成形する半凝固材料(製品)の体積と金型の空間部の容積とを合致させることで、パーティング面への半凝固材料の差し込みを抑制しようとする、計量方法に焦点を絞った方法(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかし、上記した1)〜3)の方法を用いても、以下の問題があった。
1)の方法では、固体状態の材料を鍛造する従来法との差異が小さくなるため、金型のパーティング面へ半凝固材料が差し込む障害を、一定程度抑制することは可能となる。しかし、半凝固材料の特性である流動性を損なうことから、加圧による半凝固材料の移動距離が制約されるため、従来法と同様、大きな加圧力で半凝固材料の移動距離を確保することが必要となり、機械設備の大型化を免れず、これが製品コストの増加に直結する。
更に、複雑な形状を成形し難いことなど、従来の鍛造設備が抱えていた課題も解決できない。
【0006】
2)の方法では、半凝固材料の温度低下が抑制されるため、前記した金型のパーティング面への半凝固材料の差し込みという課題を増幅させるばかりでなく、金型への加温や冷却ラインの配置など金型構成を複雑化させ、また、鍛造の操業方法も複雑化させるなど、製造コストが増大して製品コストの上昇に繋がる。
更に、合金の機械的性能の向上に最も求められる、半凝固材料の急速冷却を行うことができず、その結果、半凝固材料内部の結晶粒を肥大化(粗大化)させてしまい、求められた製品品質の確保が困難となる。
【0007】
3)の方法では、金型の空間部内への半凝固材料の適正な量の充填が、重要な要素であることに間違いないものの、パーティング面への半凝固材料の差し込み、金型内で半凝固材料が局部冷却されることで生じる未成形部位(欠損)の発生、半凝固材料全体への加圧不足による不良品の発生、を防ぐことができない。
なお、加圧については、例えば、成形開始から製品が完成するまで、材料に直接圧力を加え続ける方法(例えば、特許文献2参照)や、半凝固材料を加圧成形した後、固体状態となった材料に対して更に加圧成形する方法(例えば、特許文献3参照)もある。しかし、この方法を用いても、上記した従来の鍛造設備が抱えていた課題を解決できない。
【0008】
前記した半凝固材料の最大のメリットは、固体状態の材料と比較して流動性があることである。
これにより、従来の鋳造法が得意とする、複雑な形状や薄い形状の成形が求められる部位の隅々まで、材料を送り込むことが可能となる上に、鋳造法では必ず課題となる引け巣(鋳巣や巻き込み巣ともいう)の発生を抑制でき、また、鍛造特有の加圧による強度向上も可能となる。
【0009】
しかし、その反面として、従来技術である溶湯の鋳造や固体の鍛造では問題とならなかった点、例えば、半凝固材料の表面と内部の性質(酸化など)の差や、内外温度差から派生する流動性の差、更には加圧方向と半凝固材料の流れ方向が異なる場合の半凝固材料への圧力伝達率の違いによる加圧力不足、等を原因とした不良品の発生など、新たな課題となることが判明した。
このため、これらの課題の解決なくしては、安定した品質の製品を効率良く製造できないことが分かった。
【0010】
特に、製品形状ごとに行われる金型の計画時には、これらの課題を十分考慮し実行されなければならない。
しかし、前記した3)の半凝固材料の充填量の適正化のみならず、パーティング面への半凝固材料の差し込みや金型内の半凝固材料の湯回り(流動性)等の課題を個別に解決するだけでは、半凝固材料の鍛造により本来得られるメリット(機械的性能向上など)を十分に製品へ付与できないのが実状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
半凝固材料を用いた鍛造法では、
図10に示すように、流動性を保持した半凝固材料90を、下型(金型)91の凹部92内に投入し、上方に配置された上型(金型)93を下降させることで、下型91に据え置かれた半凝固材料90に圧力が加わり、半凝固材料90はその形状を保持できず容易に変形を始めて、下方や抵抗の最も少ない方向に移動を開始することとなる。詳細には、まず、上方からの圧力により、最も抵抗の少ない下方に移動した半凝固材料90は、下型91に接触した部位から凝固を開始し、下型91の凹部92内全面に行き渡ることなく、より抵抗の少ない上方にも移動を始め、最も抵抗が少ない上型93と下型91の合わせ面となるパーティング面94、95側へも移動する。
このはみ出した部位の材料分が、製品の欠損部位(材料が足りない状態)を生み出し、更に製品部より先に固化するため加圧力を受けてしまい、金型の下方への移動を妨げる要素となり、製品となる材料への加圧不足の原因となる。
【0013】
なお、材料投入当初から下型91に接触している半凝固材料90の一部は、この接触部位から熱を奪われ徐々に固化を開始するが、計画している製品の厚みよりも厚く固化してしまった場合、この局部的な固化部位が上型93の下降を妨げる要素となる。
従って、この場合においても、下型91に対して上型93は正常に閉じられず、加圧不足や製品の欠損部位を生み出し、不良品となるおそれがある。
【0014】
また、局部的な固化部位が発生せず、下型91に対して上型93が正常に閉じられ、金型内全域に半凝固材料が行き渡った(満充填状態)としても、製品への加圧不足が発生するおそれもある。この事例としては、材料の加圧方向に対する材料の流れ方向の違いにより材料への圧力伝達率が変化し、各方向へ移動しようとする材料の移動スピードに違いが生じ、材料の表面となって凝固を始めた部位が湯境となり、加圧不足による製品の内部欠陥の原因となる場合がある。なお、湯境とは、材料表面が製品内部に差し込み、この差し込んだ部分を境とする材料同士が融合できずに、境目が生じてしまう現象を意味する。
【0015】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、半凝固材料が流動性を維持している間に、半凝固材料を金型内全域に可能な限り素早く充填させ、全体に十分な圧力がかけられた良好な品質の製品を製造可能な半凝固合金の鍛造方法及びその鍛造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記目的に沿う第1の発明に係る半凝固合金の鍛造方法は、対となる
、固定配置した下型と、上下方向に昇降可能な上型を用いてAl合金又はMg合金からなる半凝固材料を加圧し成形する半凝固合金の鍛造方法において、
前記
下型には、前記半凝固材料を配置する凹部が形成され、前記
上型は、前記半凝固材料を加圧する加圧部と、該加圧部の加圧方向に移動可能に設けられた閉空間形成部とを有し、
前記
下型の凹部内に前記半凝固材料を配置した後、前記
下型のパーティング面と、前記閉空間形成部のパーティング面とを突き合わせ、これらパーティング面への前記半凝固材料の差し込みを抑制しながら、前記加圧部により前記凹部内の前記半凝固材料を加圧し成形する
に際し、
前記下型の凹部内に常時は突出状態で設けられた可動部材により、前記半凝固材料の下面の一部を支持し、前記可動部材の突出状態を維持して前記上型の加圧部を下降させ、該加圧部と前記閉空間形成部で形成される前記上型の凹部内に前記半凝固材料を行き渡らせた後、前記上型の加圧部の更なる下降に伴い前記可動部材を下降させる。
【0017】
【0018】
【0019】
ここで、前記可動部材で支持する前記半凝固材料の下面の一部は、成形後の前記半凝固材料の中で強度が必要な部分であるのがよい。
また、前記半凝固材料の成形後に、前記可動部材を前記下型の凹部の底面から上方へ突出させ、成形後の前記半凝固材料を前記下型の凹部から取外すこともできる。
【0020】
第1の発明に係る半凝固合金の鍛造方法において、前記上型の加圧部に設けられた調整手段により、前記加圧部による加圧後の前記半凝固材料を更に加圧することが好ましい。
【0021】
前記目的に沿う第2の発明に係る半凝固合金の鍛造装置は、Al合金又はMg合金からなる半凝固材料を加圧し成形する対となる
、固定配置した下型と、上下方向に昇降可能な上型を有する半凝固合金の鍛造装置において、
前記
下型には、前記半凝固材料を配置する凹部が形成され、
前記
上型は、前記半凝固材料を加圧する加圧部と、該加圧部の加圧方向に移動可能に設けられ、前記半凝固材料の前記加圧部による加圧前に前記
下型のパーティング面に突き合わせて、前記加圧部による加圧時の前記パーティング面への前記半凝固材料の差し込みを抑制する閉空間形成部とを有
し、
前記下型の凹部内には、常時は突出状態で設けられて前記半凝固材料の下面の一部を支持し、前記上型の加圧部の下降により該加圧部と前記閉空間形成部で形成される前記上型の凹部内に前記半凝固材料が行き渡るまで突出状態を維持し、かつ、前記上型の加圧部の更なる下降に伴って下降する可動部材が設けられている。
【0022】
第2の発明に係る半凝固合金の鍛造装置において、前記閉空間形成部は、弾性部材により、前記加圧部に対して相対移動可能となっていることが好ましい。
【0023】
【0024】
第2の発明に係る半凝固合金の鍛造装置において
、前記可動部材は更に、前記半凝固材料の成形後に、前記下型の凹部の底面から上方へ突出して、成形後の前記半凝固材料を前記下型の凹部から取外す機能を備えることもできる。
【0025】
第2の発明に係る半凝固合金の鍛造装置において、前記上型の加圧部には、該加圧部による加圧後の前記半凝固材料を更に加圧する調整手段が設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る半凝固合金の鍛造方法及びその鍛造装置は、
下型の凹部内に半凝固材料を配置した後、
下型のパーティング面と
上型の閉空間形成部のパーティング面を突き合わせ、このパーティング面への半凝固材料の差し込みを抑制しながら、加圧部により凹部内の半凝固材料を加圧し成形するので、半凝固材料が流動性を維持している間に、半凝固材料を金型内部(凹部)の隅々に行き渡らせ、全体に十分な圧力がかけられた良好な品質の製品を製造できる。これにより、例えば、量産時における良品率の向上が図れる。
特に、半凝固材料の流動性を保持させたままで、その成形を可能としているため、例えば、プレス機の小型化や省力化が図れ、簡単な構成で、合金性能の向上と製造コストの低下を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1〜
図4に示すように、本発明の一実施の形態に係る半凝固合金の鍛造装置(以下、単に鍛造装置とも記載)10は、Al合金(アルミニウム合金)又はMg合金(マグネシウム合金)からなる半凝固材料11を加圧し成形する対となる下型(一方の金型の一例)13と上型(他方の金型の一例)12を有するものであり、半凝固材料11から良好な品質の製品を製造可能な装置である。以下、詳しく説明する。
【0029】
下型13は、固定配置されたものであり、上型12は、この固定配置された下型13に対し、上下方向に昇降可能なものである。
上型12と下型13は、例えば、工具鋼製であるが、セラミックス製でもよく、また、半凝固材料11との接触面に耐摩耗材の表面処理を行ったものでもよい。
この上型12と下型13によって内部に形成される空間部14は、最終的に得られる製品の形状に対応(転写)した形状である。ここでは、下型13に形成され、半凝固材料11が配置される平面視して四角形の凹部15と、上型12の平坦な押圧面16とで、空間部14(即ち、製品形状)が形成されているが、例えば、上型に形成された平面視して四角形の凹部と下型の凹部とで空間部を形成することもできる。
【0030】
上型12は、断面が逆凹状となった加圧ベース17と、この加圧ベース17の中央に下方へ突出した状態で一体的に設けられ、凹部15内に配置された半凝固材料11を加圧する加圧部18と、半凝固材料11の加圧部18による加圧前に(加圧部18が半凝固材料11に加圧するよりも先に)、下型13のパーティング面19に突き合わせられる(当接させる)閉空間形成部20とを有している。
なお、ここでは、加圧ベース17、加圧部18、及び、閉空間形成部20のいずれも、平面視して四角形となっているが、例えば、空間部の形状(製品形状)に応じて、他の形状とすることもできる。
【0031】
閉空間形成部20は、加圧部18の外周面21に沿って加圧部18の加圧方向(ここでは、上下方向)に移動可能となるように、配置されている。具体的には、平面視して四角形の加圧部18の外周面21に対し、角筒状となった閉空間形成部20の内周面22が、摺動可能になっている。
また、加圧ベース17には、その外周に、断面L字状の吊持部23が、下方へ突出した状態で設けられ、この吊持部23によって閉空間形成部20が吊持(挟持)されている。具体的には、吊持部23の先端部(下端部)に、加圧部18側へ突出状態で設けられたスライド部24が、閉空間形成部20の側壁の周方向に渡って形成されたスライド溝25内に配置され、このスライド溝25に沿って上下方向に摺動可能になっている。
【0032】
加圧ベース17と閉空間形成部20との間には、複数の圧縮コイルばね(弾性部材の一例)26が配置され、常時は(自由状態では)、閉空間形成部20のパーティング面27(下面)が、加圧部18の押圧面16(下面)よりも下方へ突出した状態となっている。
この各圧縮コイルばね26により、閉空間形成部20は、加圧部18に対して相対移動可能となり、しかも、上型12の昇降に伴い、閉空間形成部20を加圧部18と共に昇降させることができる。なお、閉空間形成部20と加圧部18とが相対移動可能であれば、圧縮コイルばね26以外の機械的構造等を用いることもできる。
【0033】
このように構成することで、使用にあっては、下型13に対して上型12を下降させることにより、まず、下型13のパーティング面19に閉空間形成部20のパーティング面27が当接する(
図2参照)。更に上型12を下降させることで、加圧部18の下降を妨げることなく、パーティング面19、27同士の接触状態を維持した状態で、パーティング面19、27への半凝固材料11の差し込みを抑制しながら、加圧部18によって凹部15内の半凝固材料11を加圧し成形できる(
図3参照)。
従って、閉空間形成部20の下降時は、半凝固材料11の加圧を目的としないため、半凝固材料11の加圧力よりも低い圧力で十分である(高圧力が不要である)。
【0034】
上記した加圧部18の押圧面16の輪郭形状(平面形状)は、下型13の凹部15の平面形状(下型13のパーティング面19の内周輪郭形状)と同一形状となっている。なお、ここでは、加圧部18の押圧面16は平坦面であるが、例えば、製品の形状に応じて、凹凸を設けることもできる。
また、閉空間形成部20のパーティング面27の形状は、下型13のパーティング面19の形状と同一形状(各内周輪郭形状が同一形状)となっている。なお、ここでは、いずれのパーティング面19、27も平坦であるが、必要に応じて凹凸を設けることもできる。
【0035】
上記したように、加圧部18による加圧は、下型13のパーティング面19に対して行われることなく、半凝固材料11に対してのみ行われればよい。
このため、例えば、製品の形状によって、加圧部の押圧面の輪郭形状を、下型の凹部の平面形状よりも、小さな形状とすることもできる((加圧部の押圧面の面積)<(下型の凹部の平面形状の面積))。この場合、閉空間形成部のパーティング面の内周輪郭形状を、加圧部の押圧面の輪郭形状に合わせて、下型のパーティング面の内周輪郭形状よりも、小さくする。なお、このとき、閉空間形成部のパーティング面が半凝固材料を押圧しても構わないが、この押圧は、平面視して下型のパーティング面よりも内側に位置する半凝固材料に対してのみ行う。
これにより、加圧部の半凝固材料に対する加圧時に、パーティング面への半凝固材料の差し込みを抑制できるが、例えば、パーティング面にシール材(例えば、Oリング)を設けることで、差し込みの更なる抑制を図ることもできる。
【0036】
下型13の凹部15内には、下型13との接触による半凝固材料11の冷却固化を抑制するため、半凝固材料11の下面の一部を支持する可動ピン(可動部材の一例)28が設けられている。なお、可動ピン28は、例えば、工具鋼製やセラミックス製の断面円形のものであるが、材質や形状はこれに限定されるものではない。
可動ピン28は、下型13に組み込まれており、圧縮コイルばね(弾性体)29により、常時は、支持する半凝固材料11の重量に耐え、凹部15の底面30から突出した状態を維持するように、設けられている。ここで、常時とは、半凝固材料11を支持した状態で、かつ、上型12の加圧部18による半凝固材料11への加圧がない状態(無加圧状態)を意味する。
【0037】
使用にあっては、
図2、
図3に示すように、上型12の加圧部18の下降に伴って(半凝固材料11の押圧により)、可動ピン28の上面(支持面)31が、下型13の凹部15の底面30と同一高さレベルとなるまで下降する。
従って、可動ピン28を動作させることができれば、圧縮コイルばねの代わりに、例えば、油圧シリンダーを用いることもできる。この場合、上型の加圧部からの加圧力に対応して、油圧リリーフ弁により圧油を逃がす方法や、また、加圧部の下降位置に対応して、可動ピンの下げ位置を対応させるプログラム制御が、有効である。
【0038】
なお、可動ピン28の下型13への設置本数は、ここでは1本としているが、特に限定されるものではなく、半凝固材料(製品)の形状や体積に応じて、2本以上の複数本でもよい。
また、可動ピンの設置位置(昇降位置)は、成形後の半凝固材料の中で強度が必要となる部分(例えば、製品の底面等)に対して、可動ピンの上面が接触するように、調整することが好ましい。これは、可動ピンとの接触部分が急速冷却されることで、結晶粒を微細化でき、製品品質の更なる向上が図れることによる。
【0039】
更に可動ピンは、半凝固材料の成形後に、下型の凹部の底面から上方へ突出して、成形後の半凝固材料を下型の凹部から取外す機能を備える(即ち、押出しピンとして利用する)こともできる。
この場合、凹部に固着状態となっている製品を凹部から剥離するために要する加圧機構を、下型に設けることが必要である。
なお、上記した可動ピンは、必要に応じて下型に設ければよく、不要であれば設けなくてもよい。この場合、半凝固材料は下型の凹部に配置する。
【0040】
上型12の加圧部18には、加圧部18による加圧後の半凝固材料11を更に加圧する調整手段32が設けられている。この調整手段32は、加圧ピン33と、この加圧ピン33を動作させる油圧ライン34とを有している。
加圧ピン33は、側面視してT字状となった断面円形のものであり、加圧部18内に形成された空間35内を昇降可能となって、しかも、その加圧面36(下面)が、加圧部18の押圧面16から下方へ突出可能な状態(空間部14内の半凝固材料11を局部的に加圧可能な状態)で設けられている。
油圧ライン34は、空間35内への油の供給と空間35内からの油の排出を行って、加圧ピン33を昇降させるものである。
【0041】
使用にあっては、以下のように動作する。
加圧部18の下降時には、加圧ピン33の動作を停止して待機させた状態(即ち、加圧部18の押圧面16と加圧ピン33の加圧面36が同一高さレベルとなった状態)とする。
図4に示すように、加圧部18の下降が停止した後は、油圧ライン34により、加圧ピン33を動作させる(即ち、加圧部18の押圧面16から加圧ピン33の加圧面36を下方へ突出させる)。
これにより、空間部14内の半凝固材料11は、更に加圧状態に曝され、強度向上に結びつくのみならず、空間部14の容積に対する半凝固材料11の体積の誤差(10体積%以下程度)も調整できる。なお、加圧ピン33により得られる効果は、上記した誤差の調整(緩和)や強度の向上のみならず、鋳造や鍛造の技術で課題となる合金の冷却に伴う収縮を原因とした引け巣対策にも有効である。
【0042】
なお、加圧ピン33で加圧された部分には凹みが発生するため、成形後の半凝固材料11に後加工を施し、凹みを除去するのがよい。従って、加圧ピンは、最終製品の形状を考慮し、後加工を施すことが可能な部分(例えば、下型でもよい)に設置することが好ましい。
また、加圧ピン33の加圧部18への設置本数は、ここでは1本としているが、2本以上の複数本でもよい。このように、加圧ピンを複数本設けることで、1本のみ設けた場合と比較して、成形後の半凝固材料に生じる凹み深さを浅くすることもできる。
なお、上記した加圧ピンは、必要に応じて設ければよく、不要であれば設けなくてもよい。
【0043】
続いて、本発明の一実施の形態に係る半凝固合金の鍛造方法について、
図1〜
図4を参照しながら説明する。
<準備工程>
まず、
図1に示すように、下型13内に突出状態で配置された可動ピン28に、Al合金又はMg合金からなる半凝固材料11を載置する。ここで、Al合金とは、例えば、Al(アルミニウム)を60質量%以上含み、このAl、合金元素、及び、不可避的不純物で構成され、また、Mg合金は、例えば、Mg(マグネシウム)を60質量%以上含み、このMg、合金元素、及び、不可避的不純物で構成された合金である。
これにより、半凝固材料11の下面は、可動ピン28の上面31のみに接触することになり、下面が下型13の凹部15の底面30に接触することを防止できる。
【0044】
この半凝固材料11とは、予め合金元素を添加して溶製したAl合金又はMg合金を冷却して温度調整したものであり、固体状態の材料よりも流動性を保持した状態物である。
このような半凝固材料としては、固相率が、例えば、45%以上55%以下のものがあり、この場合、下型の凹部内に配置される半凝固材料の温度を、例えば、状態図に基づいて、上記した固相率となる温度に調整する。
なお、半凝固材料は、固体状態の材料よりも流動性を備え、例えば、可動ピンの上面に載置可能な状態であれば、上記した固相率のものに限定されるものではない。
また、下型の凹部内に配置される半凝固材料の体積は、上型と下型とで形成される空間部の容積(製品の体積)と等しいことが望ましいが、例えば、半凝固材料の体積の計測が難しい場合にあっては、空間部の容積より半凝固材料の体積を若干多くしてもよい。
【0045】
<閉空間形成工程>
次に、
図2に示すように、下型13に対して上型12(加圧部18と閉空間形成部20)を下降させ、下型13のパーティング面19と、上型12の閉空間形成部20のパーティング面27とを突き合わせる。
これにより、上型12と下型13の内部が、外部から閉じられた状態となる。
ここで、加圧部18の押圧面16が、半凝固材料11に接触する場合は、半凝固材料11が下方へ押され、可動ピン28が下降し始める。
【0046】
<加圧工程>
引き続き、
図3に示すように、下型13に対して上型12を下降させる。
ここでは、圧縮コイルばね26の作用により、閉空間形成部20によって加圧部18の下降が妨げられることなく、加圧部18が下降する。このとき、加圧部18の下降に伴って、可動ピン28の上面31も、下型13の凹部15の底面30と同一高さレベルとなるまで下降する。
なお、ここでは、加圧部18の下降を、押圧面16が、閉空間形成部20のパーティング面27と同一高さレベルとなるまで行っているが、パーティング面27よりも高い位置でもよく、また、パーティング面27よりも低い位置でもよい。
【0047】
これにより、下型13のパーティング面19と、上型12の閉空間形成部20のパーティング面27とが接触した状態を維持しながら、即ち、パーティング面19、27間の半凝固材料11の差し込みを抑制しながら、加圧部18により空間部14内の半凝固材料11が加圧される。このため、パーティング面19、27間等の抵抗が少ない部位を塞がれた半凝固材料11は、抵抗の少ない場所を探しながら変形し、最終的に、空間部14内全域に行き渡り、製品形状に近い状態となる。
従って、パーティング面19、27間への半凝固材料11の差し込みを抑制しながら、加圧部18により空間部14内の半凝固材料11を加圧し成形できる。
【0048】
<調整工程>
空間部14内の半凝固材料11の体積が、空間部14の容積を下回ることは、製品欠陥の原因となることから、半凝固材料11の体積は常に、空間部14の容積以上となるように計画されなければならない。
しかし、前記したように、例えば、半凝固材料の体積の計測が難しい場合にあっては、空間部の容積より半凝固材料の体積を若干多くしてもよい。
【0049】
この場合、
図4に示すように、下型13のパーティング面19と、上型12の閉空間形成部20のパーティング面27とを突き合わせた状態で、かつ、加圧部18により半凝固材料11を加圧した状態で、加圧ピン33を動作させ、半凝固材料11に圧力を加える。
これにより、過剰に供給された半凝固材料の誤差の調整(緩和)や強度の向上を図ることができる。
【0050】
<最終工程>
そして、半凝固材料11を加圧状態で凝固させた後、上型12と下型13を分離し、必要に応じて可動ピン28を用い、凹部15から凝固させた半凝固材料11を取り出す。
この取り出した半凝固材料11に対し、必要に応じて後加工を施すことで、最終製品となる。
【0051】
次に、
図5〜
図9を参照しながら、変形例に係る半凝固合金の鍛造装置(以下、単に鍛造装置とも記載)40について説明するが、この鍛造装置40は、前記した鍛造装置10と略同様の構成であるため、同一部材には同一番号を付し、異なる構成について詳しく説明する。
【0052】
鍛造装置40は、半凝固材料11を加圧し成形する対となる下型(一方の金型の一例)42(下型13に相当)と上型(他方の金型の一例)41(上型12に相当)を有するものである。
この上型41と下型42によって内部に形成される空間部43(空間部14に相当)は、最終的に得られる製品の形状に対応した形状であり、ここでは、上型41の凹部44と下型42の凹部45(凹部15に相当)とで空間部43が形成されている。
【0053】
上型41は、加圧ベース17の中央に下方へ突出した状態で一体的に設けられ、凹部45内に配置された半凝固材料11を加圧する加圧部46(加圧部18に相当)と、半凝固材料11の加圧部46による加圧前に、下型42のパーティング面47(パーティング面19に相当)に突き合わせられる閉空間形成部48(閉空間形成部20に相当)とを有している。つまり、この加圧部46と閉空間形成部48により、上記した上型41の凹部44が形成される。
【0054】
なお、閉空間形成部48は、加圧部46に沿って加圧部46の加圧方向に移動可能となるように配置され、しかも、加圧ベース17に設けられた吊持部23によって吊持されている。
この加圧ベース17と閉空間形成部48との間には、複数の圧縮コイルばね(弾性部材の一例)49(圧縮コイルばね26に相当)が配置され、常時は、閉空間形成部48のパーティング面50(パーティング面27に相当)が、加圧部46の押圧面51(押圧面16に相当)よりも下方へ突出した状態となっている。なお、加圧部46の下端部には凸部52が設けられ、加圧部46の押圧面51が階段状になっている。
【0055】
下型42の凹部45内には、半凝固材料11の下面の一部を支持する可動板(可動部材の一例)53が設けられている。なお、可動板53は、例えば、工具鋼製やセラミックス製の板状のものであるが、材質や形状はこれに限定されるものではない。
可動板53は、下型42に組み込まれており、圧縮コイルばね54(圧縮コイルばね29に相当)により、常時は、支持する半凝固材料11の重量に耐え、凹部45の底面55とは間隔を有して突出した状態を維持するように、設けられている。
【0056】
この圧縮コイルばね54を圧縮状態にするには、上記した圧縮コイルばね49を圧縮状態にするよりも、大きな荷重が必要である。つまり、上型41を下降させるに際しては、圧縮コイルばね49が圧縮状態となった後、圧縮コイルばね54が圧縮状態となる。
このような動作が可能であれば、圧縮コイルばねの代わりに、例えば、油圧シリンダーを用いることもできる。この場合、前記した油圧リリーフ弁により圧油を逃がす方法やプログラム制御が有効である。
【0057】
以上の構成により、使用にあっては、下型42に対して上型41を下降させることで、まず、下型42のパーティング面47に閉空間形成部48のパーティング面50が当接する(
図6参照)。
更に上型41を下降させることで、加圧部46の下降を妨げることなく、パーティング面47、50同士の接触状態を維持した状態で、かつ、可動板53の突出状態を維持した状態で、上型41の加圧部46が下降する。これにより、パーティング面47、50への半凝固材料11の差し込みを抑制しながら、半凝固材料11が最も移動しずらい上型41の凹部44内に、半凝固材料11を素早く充填し行き渡らせることができる(
図7参照)。
更に上型41を下降させることで、加圧部46の更なる下降に伴い、可動板53を下降させて、パーティング面47、50への半凝固材料11の差し込みを抑制しながら、加圧部46により下型42の凹部45内の半凝固材料11を加圧し成形できる(
図8参照)。
【0058】
なお、この可動板に、前記した可動ピン28を設け、可動板との接触による半凝固材料の冷却固化を抑制することもできる。
また、可動板は、半凝固材料の成形後に、下型の凹部の底面から上方へ突出させて、成形後の半凝固材料を下型の凹部から取外す機能を備える(即ち、押出し板として利用する)こともできる。
【0059】
上型41の加圧部46には、加圧ピン56(加圧ピン33に相当)と油圧ライン34とを有する調整手段57(調整手段32に相当)が設けられている。
使用にあっては、以下のように動作する。
加圧部46の下降時には、加圧ピン56の動作を停止して待機させた状態(即ち、加圧部46の押圧面51と加圧ピン56の加圧面58(加圧面36に相当)が同一高さレベルとなった状態)とする。そして、
図9に示すように、加圧部46の下降が停止した後は、油圧ライン34により、加圧ピン56を動作させ、加圧部46の押圧面51から加圧ピン56の加圧面58を下方へ突出させる。
これにより、空間部43内全域に行き渡った半凝固材料11に対し、加圧部46による圧力に加えて更に、加圧ピン56による適正な圧力を加えることができ、半凝固材料11全体を融合させ、前記した湯境などの欠陥要因を排除できる。
【0060】
続いて、変形例に係る半凝固合金の鍛造方法について、
図5〜
図9を参照しながら説明するが、前記した実施の形態に係る半凝固合金の鍛造方法と略同様であるため、異なる構成について詳しく説明する。
<準備工程>
まず、
図5に示すように、下型42内に突出状態で配置された可動板53に、Al合金又はMg合金からなる半凝固材料11を載置する。
【0061】
<閉空間形成工程>
次に、
図6に示すように、下型42に対して上型41(加圧部46と閉空間形成部48)を下降させ、下型42のパーティング面47と、上型41の閉空間形成部48のパーティング面50とを突き合わせる。
これにより、上型41と下型42の内部が、外部から閉じられた状態となる。
このとき、加圧部46の押圧面51が半凝固材料11に接触し、半凝固材料11が下方へ押されても、可動板53は突出状態(現状の高さレベル)を維持する。
【0062】
<第1の加圧工程>
引き続き、
図7に示すように、下型42に対して上型41を下降させる。
ここでは、圧縮コイルばね49の作用により、閉空間形成部48によって加圧部46の下降が妨げられることなく、加圧部46が下降する。具体的には、下型42のパーティング面47と、上型41の閉空間形成部48のパーティング面50とが接触した状態を維持しながら、即ち、パーティング面47、50間の半凝固材料11の差し込みを抑制しながら、かつ、可動板53の突出状態を維持した状態で、上型41の加圧部46が下降する。
これにより、パーティング面47、50間等の抵抗が少ない部位を塞がれた半凝固材料11を、半凝固材料11が最も移動しずらい上型41の凹部44内に、素早く充填し行き渡らせることができる。
【0063】
<第2の加圧工程>
更に、
図8に示すように、下型42に対して上型41を下降させる。
ここでは、加圧部46の更なる下降に伴い、可動板53が下降する。具体的には、下型42のパーティング面47と、上型41の閉空間形成部48のパーティング面50とが接触した状態を維持しながら、即ち、パーティング面47、50間の半凝固材料11の差し込みを抑制しながら、可動板53が下降する。
これにより、パーティング面47、50間等の抵抗が少ない部位を塞がれた半凝固材料11は、抵抗の少ない場所を探しながら変形し、最終的に、空間部43内全域に行き渡り、製品形状に近い状態となる。
従って、加圧部46により空間部43内の半凝固材料11を加圧し成形できる。
【0064】
<調整工程>
図9に示すように、下型42のパーティング面47と、上型41の閉空間形成部48のパーティング面50とを突き合わせた状態で、かつ、加圧部46により半凝固材料11を加圧した状態で、加圧ピン56を動作させ、半凝固材料11に圧力を加える。
これにより、半凝固材料11全体を融合させ、前記した湯境などの欠陥要因を排除できる。
【0065】
<最終工程>
そして、半凝固材料11を加圧状態で凝固させた後、上型41と下型42を分離し、必要に応じて可動板53を用い、凹部45から凝固させた半凝固材料11を取り出す。
この取り出した半凝固材料11に対し、必要に応じて後加工を施すことで、最終製品となる。
【0066】
以上のことから、本発明の半凝固合金の鍛造方法及びその鍛造装置を用いることで、半凝固材料が流動性を維持している間に、半凝固材料を金型内全域に可能な限り素早く充填させることができ、全体に十分な圧力がかけられた良好な品質の製品を製造できる。
なお、本発明者らが、本発明の半凝固合金の鍛造方法及びその鍛造装置を用いて半凝固材料の鍛造を行ったところ、欠陥のない製品が得られることを確認できた。この欠陥のない製品とは、パーティング面への半凝固材料の差し込みに起因したバリの発生がなく、形状が整った製品を意味する。
【0067】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明の半凝固合金の鍛造方法及びその鍛造装置を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる
。
【課題】半凝固材料が流動性を維持している間に、半凝固材料を金型内全域に可能な限り素早く充填させ、全体に十分な圧力がかけられた良好な品質の製品を製造可能な半凝固合金の鍛造方法及びその鍛造装置を提供する。
【解決手段】対となる金型12、13を用いてAl合金又はMg合金からなる半凝固材料11を加圧し成形する半凝固合金の鍛造方法及びその鍛造装置10であり、一方の金型13には、半凝固材料11を配置する凹部15が形成され、他方の金型12は、半凝固材料の加圧部18と、その加圧方向に移動可能に設けられた閉空間形成部20とを有し、金型13の凹部15内に半凝固材料11を配置した後、この金型13のパーティング面19と閉空間形成部20のパーティング面27とを突き合わせ、これらパーティング面19、27への半凝固材料11の差し込みを抑制しながら、加圧部18により凹部15内の半凝固材料11を加圧し成形する。