(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
長尺状に形成されて可撓性を有する脊椎固定用補助部材を複数の脊椎の棘突起に沿って配置した状態で、前記脊椎固定用補助部材を挟持することによって、前記脊椎を仮固定する脊椎仮固定器具であって、
前記脊椎固定用補助部材を挟持する挟持部と、
前記挟持部の相対移動を固定する固定部と、
前記固定部による前記相対移動の固定を解除する解除部とを備え、
前記挟持部は、開閉可能に設けられた一対の挟持片部を備え、
前記固定部は、前記一対の挟持片部の相対移動を固定し、
前記挟持部は、回転軸をさらに備え、
前記一対の挟持片部は、前記回転軸を中心として互いに回転可能に連結している脊椎仮固定器具。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[第1の実施形態]
以下、本発明の実施の形態を添付の図により説明する。
図1及び
図2に第1の実施形態に係る脊椎仮固定器具1の斜視図を示す。
図1及び
図2に示すように、脊椎仮固定器具1には、開閉可能な挟持部2と、挟持部2の相対移動を固定する固定部3が設けられている。本実施形態において、固定部3は、挟持部2の相対移動の固定を解除する解除機能を備えているため、固定部3は解除部を兼ねている。
【0023】
挟持部2は、挟持部回転軸5と、第1の挟持片部2aと、第2の挟持片部2bとを備えている。第1の挟持片部2a及び第2の挟持片部2bは、挟持部回転軸5を中心として互いに回転可能に連結されている。第1の挟持片部2a及び第2の挟持片部2bは、挟持部回転軸5を中心として互いに近づく方向A1に回転移動することによって閉状態となり、互いに離れる方向B1に回転移動することによって開状態となる。なお、閉状態及び開状態は相対的に決定されるものであり、閉状態は、第1の挟持片部2a及び第2の挟持片部2bが接触している状態に限定されるものではない。
【0024】
挟持部回転軸5にはバネ6が取り付けられていて、このバネ6によって、第1の挟持片部2a及び第2の挟持片部2bが互いに近づくように脊椎仮固定器具1に力が加わっている。
【0025】
脊椎仮固定器具1には、さらに、挟持部2を開閉させる取手部7が設けられている。取手部7は、第1の挟持片部2aと一体的に形成された第1の取手部7aと、第2の挟持片部2bと一体的に形成された第2の取手部7bとから構成されている。第1の挟持片部2aと第1の取手部7aから構成された第1の挟持ユニット8aと、第2の挟持片部2bと第2の取手部7bから構成された第2の挟持ユニット8bは、挟持部回転軸5上で交差して連結されている。第1の挟持片部2a及び第2の挟持片部2bと、第1の取手部7a及び第2の取手部7bとは、挟持部回転軸5から径方向外方に向かって延びている。
【0026】
第1の取手部7a及び第2の取手部7bは、
図1に示すように、挟持部回転軸5を中心として互いに近づく方向A2に回転移動することによって、第1の挟持片部2aと第2の挟持片部2bを互いに近づく方向A1に回転移動させる。また、第1の取手部7a及び第2の取手部7bは、
図2に示すように、挟持部回転軸5を中心として互いに離れる方向B2に回転移動することによって、第1の挟持片部2aと第2の挟持片部2bを互いに離れる方向B1に回転移動させる。
【0027】
第1の挟持片部2a及び第2の挟持片部2bは、互いに対向する側の面に形成された内側面10a,10bと、内側面10a,10bと垂直に連結された正面側側面12a,12b及び背面側側面13a,13bと、正面側側面12a,12b及び背面側側面13a,13bと垂直に連結された外側面11a,11bとを備えている。正面側側面12a,12bは、少なくとも一部において挟持部回転軸5から第1及び第2の挟持片部2a,2bの先端部15a,15bに向かうにつれて細くなっている。なお、背面側側面13aは正面側側面12bと、背面側側面13bは、正面側側面12aと同一の構成であるため、その説明を省略する。
【0028】
第1の挟持片部2aにおける内側面10a、外側面11a及び背面側側面13aと、第2の挟持片部2bにおける内側面10b、外側面11b及び正面側側面12bとには、第1の挟持ユニット8aと第2の挟持ユニット8bを挟持部回転軸5を介して回転可能に連結させるための、連結用切り欠き部14a,14bがそれぞれ形成されている。
【0029】
第1の挟持片部2a及び第2の挟持片部2bの先端部15a,15bは、互いに内方に屈曲している。屈曲する先端部15a,15bの内側面10a,10bには、複数の長溝16a,16bが形成されている。長溝16a,16bは、挟持部回転軸5の軸方向に延び、第1及び第2の挟持片部2a,2bの先端から基端に向かって複数個連続して設けられている。なお、挟持部回転軸5の軸方向とは、第1及び第2の挟持片部2a,2bの厚さ方向であり、脊椎仮固定器具1を複数個設置するときの設置方向となる。
【0030】
第1の取手部7a及び第2の取手部7bは、互いに対向する側の面に形成された内側面17a,17bと、内側面17a,17bと垂直に連結された正面側側面19a,19b及び背面側側面20a,20bと、正面側側面19a,19b及び背面側側面20a,20bと垂直に連結された外側面18a,18bとを備えている。
【0031】
正面側側面19a,19bは、少なくとも一部において挟持部回転軸5から第1及び第2の取手部7a,7bの先端部21a,21bに向かうにつれて細くなっている。なお、背面側側面20aは正面側側面19bと、背面側側面20bは正面側側面19aと同一の構成であるため、その説明を省略する。
【0032】
第2の取手部7bの先端部21bには、固定部3を回転移動可能にする固定部回転軸22が第2の取手部7bの正面側から背面側に延びている。固定部回転軸22は、固定部3の一部を構成している。固定部回転軸22は挟持部回転軸5と平行に設けられている。また、第2の取手部7bの先端部21bには、固定部回転軸22に取り付けられた固定部3の基端を格納するための開口23が形成されている。開口23は、第2の取手部7bの先端面25bから挟持部回転軸5に向かって且つ内側面17b及び外側面18bを貫通して形成されている。
【0033】
第1の取手部7aの先端部21aには、固定部3の先端を挿通させるための挿通孔26が形成されている。挿通孔26は、第1の取手部7aの内側面17aから外側面18aにわたって貫通した矩形状に形成されている。なお、第1の取手部7aの先端面25aには、第2の取手部7bとは異なって開口は形成されていない。
【0034】
固定部3は、前述の固定部回転軸22に加えて、挿通孔26と、固定部本体27と板バネ部28を備えている。固定部3と取手部7の拡大図を
図3に示す。固定部本体27は、第2の取手部7bから延ばされた長尺状部材であり、挟持部回転軸5の径方向Rの外方O側に凸とされて円弧状に湾曲している。すなわち、固定部本体27は、正面視した状態において挟持部回転軸5を中心として、第2の取手部7bに対して、第1の取手部7aを回転移動させたきの挿通孔26の回転軌跡上に配されるようになっている。
【0035】
固定部本体27の基端部27bは第2の取手部7bに設けられた固定部回転軸22に取り付けられて、固定部回転軸22の回転によって回転移動するように構成されている。固定部本体27の先端部27aは、第1の取手部7aの挿通孔26に挿通している。このような構成のもと、固定部本体27の先端部27aが挿通孔26に挿通した状態で第1及び第2の取手部7a,7bが挟持部回転軸5を中心に回転移動するようになっている。
【0036】
固定部本体27の先端部27aには、複数の爪部33が設けられている。爪部33は固定部本体27の内側面27cから、挟持部回転軸5の径方向Rの内方I側に突出している。爪部33は固定部本体27の先端部27aから基端部27bに向かって、固定部本体27の長さ方向中心C付近まで連続的に形成されている。
【0037】
挿通孔26の底面側内側面26aには、爪部33を係止する係止部34が形成されている。係止部34は、挿通孔26の底面側内側面26aから径方向Rの外方O側に突出していて、突出部分が固定部本体27における隣り合う爪部33の間の凹部に入り込む。これによって、固定部本体27を第1の取手部7aに固定することができる。なお、底面側内側面26aとは、挟持部回転軸5の径方向Rの内方I側の面をいい、固定部本体27の先端部27aが挿通孔26に挿通した状態において爪部33に対向する面をいう。
【0038】
固定部本体27の長さ方向におけるどの位置で爪部33を係止部34に係止させるかによって、第1の取手部7aと第2の取手部7bとの間の距離が決定する。第1の取手部7aと第2の取手部7bとの間の距離に応じて、第1の挟持片部2aと第2の挟持片部2bとの間の距離は変化する。したがって、第1及び第2の挟持片部2a,2bの間が所望の距離となったときの第1及び第2の取手部7a,7bの間の距離を保持するように、挿通孔26の係止部34に係止させる爪部33の位置を選択することによって、第1及び第2の挟持片部2a,2bを所望の位置関係において固定することができる。
【0039】
例えば、
図2に示すように、固定部本体27の先端部27aのうち先端側において、爪部33を係止部34に係止させた場合には、第1及び第2の取手部7a,7bの間の距離はより離れることになり、これに応じて、第1及び第2の挟持片部2a,2bも互いにより離れた状態で固定される。一方、
図1に示すように、先端部27aのうち、より基端側において爪部33を係止部に係止させた場合には、第1及び第2の取手部7a,7bの間の距離は、
図2に示す場合よりも近くなり、これに応じて、第1及び第2の挟持片部2a,2bも互いにより近づいた状態で固定される。
【0040】
上記のように、固定部本体27の爪部33を所定の位置で挿通孔26の係止部34に係止させることによって、第1及び第2の挟持片部2a,2bの相対移動を固定することができる。
【0041】
固定部3の板バネ部28は、可撓性を有した長尺状部材である。板バネ部28の基端部30は、固定部本体27の長さ方向中心Cよりも固定部本体27の基端側に寄った位置において固定部本体27に固定されている。板バネ部28は、その基端部30から先端部31に向かって固定部本体27の湾曲と同方向に湾曲している。
【0042】
固定部本体27及び板バネ部28を挿通孔26に挿通していない状態において、板バネ部28の先端部31は固定部本体27の先端部27aから径方向Rに所定の距離離れている。固定部本体27及び板バネ部28の先端において、板バネ部28の外側縁31aから爪部33の先端33aまでの径方向Rにおける距離をh1(
図3)とすると、固定部本体27及び板バネ部28を第1の取手部7aの挿通孔26に挿通していない状態において、距離h1は、第1の取手部7aに形成された挿通孔26の高さ寸法h2(
図1)よりも大きい。
【0043】
固定部本体27及び板バネ部28を挿通孔26に挿通する際には、板バネ部28を固定部本体27側に押して弾性変形させ、板バネ部28の外側縁31aから爪部33の先端33aまでの距離h1を挿通孔26の高さ寸法h2よりも小さくして挿通させる。
【0044】
挿通孔26に挿通された板バネ部28は、弾性変形された復元力により、固定部本体27から離れる方向に移動しようとするため、径方向Rの外方O側に向かう力が挿通孔26の天井側内側面26bに加わる。なお、天井側内側面26bとは、底面側内側面26aと対向する面をいう。これによって、固定部本体27は、径方向Rの内方I側に押圧される。そのため、爪部33と挿通孔26が係止された状態になり、その状態が保持される。これにより、第1及び第2の取手部7a,7bの回転移動が固定され、そのため、第1及び第2の挟持片部2a,2bの相対移動が固定される。
【0045】
板バネ部28の復元力に抗して、固定部本体27を径方向Rの外方O側に向かって押し上げることにより、爪部33と係止部34との係止が解除される。したがって、第1及び第2の取手部7a,7bの回転移動の固定が解除され、そのため、第1及び第2の挟持片部2a,2bの相対移動の固定が解除される。本実施形態においては、固定部回転軸22、固定部本体27、板バネ部28及び係止部34によって、挟持部2の相対移動の固定及びその解除を行っている。爪部33と係止部34との係止が解除されると、固定部本体27と板バネ部28を挿通孔26から抜き出すこともできる。
【0046】
図4に、脊椎固定用補助部材40の平面図を示す。脊椎固定用補助部材40は、可撓性を有する一対の長尺状部材40a,40bである。本実施形態においては、長尺状部材40a,40bとして、直線状に延び円柱形状のロッドを採用している。長尺状部材40a,40bの表面には、滑り止めとして複数の細かい凹凸部41が形成されている。
【0047】
図1から
図3に示す脊椎仮固定器具1と、
図4に示す脊椎固定用補助部材40とによって、脊椎仮固定器具ユニットが構成される。脊椎仮固定器具1と脊椎固定用補助部材40は、一例として、チタン合金製である。
【0048】
図5及び
図6に、手術中の脊椎仮固定器具ユニットの使用状態を示す。
図5は、脊椎仮固定器具ユニットを患者に取り付ける直前の状態を示す。まず、患者の背中を切開して、患者の脊椎を露出させる。なお、
図5では、脊椎50及び棘突起51を模式的に図示している。脊椎50の棘突起51に沿って、脊椎固定用補助部材40を設置する。
【0049】
脊椎固定用補助部材40の一方の長尺状部材40aを棘突起51の一方の側に配置し、脊椎固定用補助部材40の他方の長尺状部材40bを棘突起51の他方の側に配置する。すなわち、棘突起51を中心に、一対の長尺状部材40a,40bによって、棘突起51を両側から挟み込むように、脊椎固定用補助部材40を配置する。
【0050】
脊椎仮固定器具1については、第1の挟持片部2aと第2の挟持片部2bを開いた状態で、第1の取手部7aと第2の取手部7bを指で把持する。次いで、一対の長尺状部材40a,40bが、第1及び第2の挟持片部2a,2bにおける先端部15a,15bの内方に屈曲した部分の間に配されるように、第1及び第2の挟持片部2a,2bを移動する。その状態で、指で力を加えて、第1の取手部7aと第2の取手部7bを互いに近づく方向A2(
図1)に回転移動させると、第1の挟持片部2aと第2の挟持片部2bが互いに近づく方向A1に回転移動して、一対の長尺状部材40a,40bを挟持していく。このとき、方向A2に加えられている力によって、爪部33は、係止部34に連続的に噛み合いながら、挿通孔26内を移動していく。そして、さらに第1の挟持片部2aと第2の挟持片部2bとが互いに近づいていくと、一対の長尺状部材40a,40bには互いに近づく力が加わっていく。このとき、一対の長尺状部材40a,40bは可撓性を有していることから、脊椎50及び棘突起51の形状及び寸法に合わせて変形していく。
【0051】
そして、第1の取手部7aと第2の取手部7bの回転移動が停止すると、第1の挟持片部2aと第2の挟持片部2bの回転移動も停止する。このとき、板バネ部28に押圧されて、爪部33と係止部34が係止された状態になり、その状態が保持される。ここで、第1の挟持片部2aと第2の挟持片部2bとの間の距離は、患者ごとの脊椎50及び棘突起51の形状や寸法に応じて調節する。なお、
図6では一例として、一対の長尺状部材40a,40bの長さ方向と挟持部回転軸5の軸方向が平行になる位置関係において、脊椎仮固定器具1によって一対の長尺状部材40a,40bを挟持している。脊椎仮固定器具1は必要に応じて複数個設置する。本実施形態では、
図6に示すように、一例として、3個の脊椎仮固定器具1によって、各挟持部2を介して脊椎固定用補助部材40を挟持している。
【0052】
図6に示すように、脊椎固定用補助部材40を脊椎50の棘突起51に沿って配置した状態で、脊椎仮固定器具1によって脊椎固定用補助部材40を挟持することにより、複数の棘突起51が脊椎固定用補助部材40を介して固定され、複数個の脊椎50が一体的に仮固定される。
【0053】
このように、本実施形態に係る脊椎仮固定器具1によって複数個の脊椎50が一体的に仮固定された状態で、脊椎固定器(不図示)の椎弓根スクリュー等の脊椎取付具52(
図7を参照して後述する)を脊椎50に刺入する。脊椎固定器(不図示)は、不安定性を伴う脊椎疾患や脊椎側弯症等の脊椎の変形を治療するために、外科的手術によって脊椎に取り付けられる器具であり、手術後も一定期間継続的に患者の体内で脊椎50を固定している。脊椎仮固定器具1による脊椎50の固定は、脊椎取付具52の刺入のために行われる手術中のみの仮固定であるため、脊椎取付具52の脊椎50への刺入工程が完了したら、脊椎仮固定器具1及び脊椎固定用補助部材40を脊椎50から取り外す。このとき、固定部本体27を径方向Rの外方O側に向かって押し上げることによって、爪部33と係止部34との係止を解除し、脊椎仮固定器具1を取り外す。その後、脊椎取付具52を介して脊椎固定器(不図示)を脊椎50に取り付けることによって、脊椎固定器(不図示)の装着が完了する。
【0054】
ここで、本実施形態に係る脊椎仮固定器具1を用いて脊椎50を仮固定しなかった場合の脊椎取付具52の刺入について、
図7に模式的に示す。
図7(A)に示すように、ネジ部52aを有する脊椎取付具52を脊椎50aに刺入しようとすると、脊椎50aにネジ部52aを挿入するための孔を形成する必要がある。したがって、脊椎50aに局所的に強い力が加わってしまい、これによって、
図7(B)に示すように、脊椎50aが下方に押されて移動し、脊柱が撓んでしまう。
図7(B)に示すように、手術中に脊柱が撓むことによって、当初予定されていた位置から脊椎50がずれてしまい、これに起因して脊椎取付具52の刺入位置がずれてしまう場合がある。
【0055】
しかしながら、
図6に示すように、本実施形態に係る脊椎仮固定器具1を用いて複数個の脊椎50を一体的に仮固定することによって、脊椎50に力が加わった場合であっても脊椎取付具52からの力を脊椎50全体に分散させることができ、脊柱が撓むことを防止することができる。したがって、神経組織を保護しつつ、椎弓根スクリュー等の脊椎取付具52を適正に刺入することができる。
【0056】
上記のように、本実施形態に係る脊椎仮固定器具1によれば、固定部3によって挟持部2の相対移動を固定できることから、脊椎固定用補助部材40を介して複数の脊椎50を一体的に仮固定することができ、脊柱の撓みを抑制することができる。そのため、神経組織を保護しつつ、椎弓根スクリュー等の脊椎取付具52を適正に刺入することができる。また脊椎仮固定器具1は、解除部(本実施形態においては、固定部3と兼用)を備えることによって、挟持部2の相対移動の固定を解除できるため、脊椎仮固定器具1を手術中に迅速且つ容易に取り外すことができる。
【0057】
これに対して、仮に、脊椎仮固定器具1による挟持ではなくワイヤー等によって、脊椎固定用補助部材40の一対の長尺状部材40a,40bを締結して挟持した場合には、挟持力の調整及び解除を容易に行うことができない。
【0058】
また、挟持部2は、開閉可能に設けられた第1及び第2の挟持片部2a,2bを備え、固定部3は、第1及び第2の挟持片部2a,2bの相対移動を固定するように構成されている。これにより、脊椎仮固定器具1の取付後に第1及び第2の挟持片部2a,2b間の距離が変動しないため、脊椎仮固定器具1の挟持力が弱まって脊椎固定用補助部材40から外れてしまったり、脊椎固定用補助部材40に加わる挟持力が強くなりすぎたりすることを防止できる。
【0059】
挟持部2は、挟持部回転軸5をさらに備え、第1及び第2の挟持片部2a,2bは、挟持部回転軸5を中心として互いに回転可能に連結している。これにより、第1及び第2の挟持片部2a,2bを容易に開閉させることができる。
【0060】
脊椎仮固定器具1は、第1及び第2の挟持片部2a,2bのそれぞれと一体的に形成され、第1及び第2の挟持片部2a,2bを開閉させる第1及び第2の取手部7a,7bをさらに備える。これにより、第1及び第2の挟持片部2a,2b間の距離を容易に調整することができる。
【0061】
固定部3は、第1の取手部7aに形成された挿通孔26と、第2の取手部7bから延びて、挿通孔26に挿通される長尺状の固定部本体27とを備え、固定部本体27は、挿通孔26に挿通された状態で、第1の取手部7aに固定される。これにより、第1及び第2の取手部7a,7b間の距離を一定に保持することができ、したがって、第1及び第2の挟持片部2a,2b間の距離を一定に保持することができる。
【0062】
固定部本体27には、複数の爪部33が形成され、挿通孔26の底面側内側面26aには、爪部33を係止する係止部34が形成されている。これにより、固定部本体27を第1の取手部7aに、より確実に固定することができる。
【0063】
挟持部2の内側面10a,10b(挟持面)に複数の長溝16a,16bが形成されている。これにより、脊椎固定用補助部材40をより安定して挟持することができる。また、
【0064】
第1及び第2の挟持片部2a,2bの先端部15a,15bが互いに内方に屈曲していてもよい。これにより、脊椎固定用補助部材40の挟持状態をさらに安定させることができる。当該屈曲部分において脊椎固定用補助部材40を容易に挟持させることができるだけでなく、脊椎固定用補助部材40に接する挟持面領域をより大きくすることができるからである。
【0065】
脊椎固定用補助部材40は、可撓性を有する一対の長尺状部材40a,40bであり、脊椎固定用補助部材40は、一方の長尺状部材40aと他方の長尺状部材40bの間に棘突起51が位置するように、棘突起51に沿って配置されるものであり、脊椎仮固定器具1は、棘突起51を挟んで一対の長尺状部材40a,40bを共に挟持するものである。これにより、脊椎固定用補助部材40をより簡単に棘突起51に沿って配置できると共に、脊椎50をより確実に仮固定することができる。
【0066】
また、脊椎固定用補助部材40は可撓性を有している。したがって、脊椎仮固定器具1の挟持力によって、患者ごとの脊椎50及び棘突起51の形状や寸法に応じて脊椎固定用補助部材40が適宜変形することにより、棘突起51又は脊椎50の他の部分が削れたり変形したりせずに、また、脊椎50の固定位置が変化することなく、脊椎50を適正に仮固定することができる。
【0067】
これに対して、仮に、脊椎固定用補助部材40として可撓性のない部材を用いた場合には、脊椎固定用補助部材40を棘突起51の形状に沿って波型に形成していた場合であっても、患者によって脊椎50及び棘突起51の形状は異なるため、予め形成された波型と実際に手術される患者の脊椎50及び棘突起51の形状が対応しない場合もあり得る。このような場合、可撓性のない長尺状部材を無理に固定しようとすると、棘突起51又は脊椎50の他の部分が削れたり変形したりしてしまうことも考えられる。また、予め形成された波型に合致するように隣り合う脊椎50間の距離が伸縮して脊椎50の固定位置が変化してしまうおそれもある。
【0068】
本実施形態において、脊椎固定用補助部材40と脊椎仮固定器具1はチタン製合金で形成されている。したがって、脊椎固定用補助部材40と脊椎仮固定器具1は、生体組織に容易に適用することができ、オートクレービング又は熱滅菌に対して安定であり、適度な強度を保持することができる。また、手術中にCTやX線撮影を行った場合であっても、アーチファクトの発生を低減させることができるため、脊椎取付具52の刺入操作において画像評価に与える悪影響を抑制できる。
【0069】
本実施形態に係る脊椎仮固定器具1によって脊椎50を仮固定した状態で、脊椎取付具52を取り付ける際に、手術される患者の脊椎位置等の座標を数値計算し、手術中に位置確認を行うことのできるナビゲーションシステムを利用して、脊椎取付具52の取付位置を確認してもよい。
【0070】
[第2の実施形態]
図8及び
図9に、第2の実施形態に係る脊椎仮固定器具60の斜視図を示す。
図9では、
図8に示す構成の一部を仮想的に示すことによって、内部構造を明示している。脊椎仮固定器具60は、第1の実施形態に係る脊椎仮固定器具60と同様に、開閉可能な挟持部62と、挟持部62の相対移動を固定する固定部90が設けられている。本実施形態において、固定部90は、挟持部62の相対移動の固定を解除する解除機能を備えているため、固定部90は解除部を兼ねている。挟持部62は、挟持部回転軸65と、第1の挟持片部62aと、第2の挟持片部62bとを備えている。第1の挟持片部62a及び第2の挟持片部62bは、挟持部回転軸65を中心として互いに回転可能に連結し、第1の実施形態と同様に、開閉可能に構成されている。第1及び第2の挟持片部62a,62bの先端部は互いに内方に屈曲し、挟持面には複数の長溝76a,76bが形成されている。
【0071】
挟持部回転軸65にはバネ(不図示)が取り付けられていて、このバネによって、第1の挟持片部62a及び第2の挟持片部62bが互いに離れるように脊椎仮固定器具60に力が加わっている。
【0072】
脊椎仮固定器具60には、さらに、挟持部62を開閉させる取手部67が設けられている。第1の実施形態と同様に、取手部67は、第1の挟持片部62aと一体的に形成された第1の取手部67aと、第2の挟持片部62bと一体的に形成された第2の取手部67bとから構成されている。
【0073】
しかしながら、
図9に示すように、第1の挟持片部62aと第1の取手部67aから構成された第1の挟持ユニット68aと、第2の挟持片部62bと第2の取手部67bから構成された第2の挟持ユニット68bは、挟持部回転軸65上で交差していない。第1の挟持ユニット68aは挟持部回転軸65上で屈曲するくの字形状に構成されている。第2の挟持ユニット68bは第1の挟持ユニット68aを反転させたくの字形状に構成され、それぞれ屈曲部が挟持部回転軸65によって連結されている。そのため、第1の取手部67aと第2の取手部67bを近づけると、第1の挟持片部62aと第2の挟持片部62bが離れ、第1の取手部67aと第2の取手部67bを離すと、第1の挟持片部62aと第2の挟持片部62bが近づくようになっている。
【0074】
図8に示すように、固定部90は、当接部材91と、進退軸部92と、持ち手部93と、進退軸部92を支持する支持部80とを備えている。
図9では、支持部80を説明のため透過的に示して進退軸部92等の構成を明示している。
図9に示すように、進退軸部92は、円柱形状に形成されて、第1の取手部67aと第2の取手部67bとの間において、挟持部回転軸65に対して進退可能に設けられている。すなわち、進退軸部92は、挟持部回転軸65に近づくように移動可能であり、且つ、挟持部回転軸65から離れるように移動可能である。進退軸部92の一方の端部92aには当接部材91が設けられ、他方の端部92bには持ち手部93が固定されている。進退軸部92の外周面92cには全周に亘って雄ネジ95が形成されている。
【0075】
挟持部回転軸65に近い方の端部92aに設けられた当接部材91は、第1及び第2の取手部67a,67bの内側面69a,69bに当接する。本実施形態において、当接部材91は略球形状である。持ち手部93は、回転力をより伝達させ易くするために、進退軸部92の直径よりも大きな直径を有する円柱形状である。
【0076】
次に、
図8を参照して支持部80について説明する。
図8に示すように、支持部80は、進退軸部92の少なくとも一部をその内部空間Sに格納して、進退軸部92を支持している。
【0077】
支持部80の正面側壁部81aと背面側壁部81bは、第1及び第2の挟持ユニット68a,68bの外側から挟持部回転軸65に固定されている。正面側壁部81aと背面側壁部81bは対向して互いに平行に延び、正面側壁部81aと背面側壁部81bの間には、正面側壁部81a及び背面側壁部81bと垂直に連結された外側壁82が形成されていて、この外側壁82によって、支持部80の上面82a及び側面82bが構成されている。
【0078】
進退軸部92の内部空間Sは、支持部80の正面側壁部81a、背面側壁部81b及び外側壁82によって確定されている。正面側壁部81a及び背面側壁部81bには、各壁部81a,81bの中心から長さ方向に延びる位置確認用開口84が形成されていて、この位置確認用開口84から進退軸部92の進退位置を確認することができる。
【0079】
支持部の上面82aには、貫通孔83が設けられ、進退軸部92が挿通されている。支持部80の側面82bには挟持ユニット格納用開口85が形成されていて、第1及び第2の挟持ユニット68a,68bの端部が挟持ユニット格納用開口85から外側に向かって突出している。
【0080】
図9に説明のため透過的に図示した支持部80を参照して、貫通孔83の構成を述べる。支持部80の上面82aに設けられた貫通孔83の内周面83aには全周に亘って雌ネジ96が形成されている。本実施形態においては、貫通孔83を画定して貫通孔83の内周面83aを構成する貫通孔内壁部83bが、支持部80の上面82aを構成する外側壁82から挟持部回転軸65に向かって、位置確認用開口84及び挟持ユニット格納用開口85の上端位置まで延びている。したがって、貫通孔83は、支持部の上面82aから位置確認用開口84及び挟持ユニット格納用開口85の上端位置までの高さ寸法h3を有する。貫通孔83の開口形状は、進退軸部92の直径とほぼ同一の直径を有する円形である。
【0081】
貫通孔83に挿通された進退軸部92の外周面92cに形成された雄ネジ95は、貫通孔83の内周面83aに形成された雌ネジ96と係合するように構成されている。持ち手部93を回転させることによって、進退軸部92を回転させると、雄ネジ95の回転によって、進退軸部92の位置が変化する。進退軸部92は、回転方向に応じて、挟持部回転軸65に近づくように、又は、挟持部回転軸65から離れるように移動する。
【0082】
進退軸部92が挟持部回転軸65に近づくように移動していくことによって、第1及び第2の取手部67a,67b間は、当接部材91によって徐々に押し広げられ、これに応じて、第1及び第2の挟持片部62a,62bの間の距離は小さくなっていく。このとき、当接部材91は球状であることから、第1及び第2の取手部67a,67bに均一に当接させることができ、第1及び第2の取手部67a,67bを広げる力を両方の取手部67a,67bにバランス良く効果的に伝えることができる。また、進退軸部92が挟持部回転軸65から遠ざかるように移動していくことによって、前述したバネ(不図示)の力に起因して、第1及び第2の取手部67a,67bの間の距離は小さくなっていく。これに応じて、第1及び第2の挟持片部62a,62bの間の距離は大きくなっていく。
【0083】
図10に第2の実施形態に係る脊椎仮固定器具60の使用状態を示す。第1の実施形態と同様に、
図4に示した脊椎固定用補助部材40である一対の長尺状部材40a,40bを脊椎の棘突起51の両側に棘突起51に沿って配置する。第1の実施形態と同様に、脊椎仮固定器具60によって、挟持部62を介して脊椎固定用補助部材40を挟持する。この際、持ち手部93(
図8及び
図9)を回転させて進退軸部92の進退位置を調整することによって、第1及び第2の挟持片部62a,62bの間の距離を調整する。進退軸部92の進退位置が決定すると、進退軸部92の雄ネジ95と貫通孔83の雌ネジ96の係合によって、進退軸部92は固定されるため、第1及び第2の挟持片部62a,62bの相対移動が固定される。
【0084】
脊椎50が固定された状態で、脊椎取付具52の脊椎50への刺入工程が完了したら、脊椎仮固定器具60を取り外す。この際、持ち手部93を回転させて進退軸部92が挟持部回転軸65から遠ざかるように移動させる。これにより、第1及び第2の挟持片部62a,62bの固定状態が解除されて、第1の挟持片部62aと第2の挟持片部62bが互いに離れ、脊椎仮固定器具60が取り外される。
【0085】
第2の実施形態に係る脊椎仮固定器具60は、第1の実施形態に係る脊椎仮固定器具1と同様の効果を奏する。また、固定部90は、第1及び第2の取手部67a,67bの間において進退可能に設けられた進退軸部92と、進退軸部92の先端部(一方の端部92a)に設けられ、第1及び第2の取手部67a,67bに当接する当接部材91とを備える。これにより、進退軸部92の進退位置を調整することによって、第1及び第2の挟持片部62a,62bの間の距離を調整することができる。
【0086】
固定部90は、進退軸部92を支持する支持部80をさらに備え、支持部80には、内周面83aに雌ネジ96が形成された貫通孔83が設けられ、外周面92cに雄ネジ95が形成された進退軸部92が貫通孔83に挿通されるように構成されている。これにより、進退軸部92を回転させることによって、進退軸部92の進退位置を容易に変化させることができる。
【0087】
[他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について述べたが、本発明は既述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。例えば、第1及び第2の実施形態において、固定部3,90は解除部を兼ねているがこれに限定されない。固定部と解除部とを別個の構成要素によって構成してもよい。
【0088】
第1の実施形態に係る脊椎仮固定器具1において、固定部本体27は可撓性を有していてもよいし、可撓性がなくてもよい。第1の実施形態において、爪部33は固定部本体27の内側面27cに設けられ、係止部34は挿通孔26の底面側内側面26aに設けられているがこれに限定されない。例えば、係止部34を挿通孔26の天井側内側面26b又は貫通方向側内側面に形成し、形成した係止部34と対応する位置に爪部33を設けてもよい。
【0089】
第1及び第2の実施形態に係る脊椎仮固定器具1,60において、挟持面に設けられた複数の長溝16a,16b,76a,76bは、挟持部回転軸5,65の軸方向に延びて形成されているが、これに限定されない。例えば、挟持面における複数の長溝16a,16b,76a,76bが、挟持部回転軸5,65の軸方向に対して、20度程度傾斜して形成されていてもよい。棘突起51は脊椎50の長軸から約10度から30度、尾側に傾斜している。また、棘突起51同士の間隙が狭い症例もある。したがって、症例によっては、一対の長尺状部材40a,40bの長さ方向に対して、脊椎仮固定器具1,60を20度程度傾斜させて挟持しなければならない場合がある。このような場合には、前述のように、複数の長溝16a,16b,76a,76bが、挟持部回転軸5,65の軸方向に対して、20度程度傾斜して形成されている脊椎仮固定器具が適している。また、複数の長溝16a,16b,76a,76bが、挟持部回転軸5,65の軸方向と平行に形成されている脊椎仮固定器具1,60と、挟持部回転軸5,65の軸方向に対して20度程度傾斜している他の脊椎仮固定器具とを共に用意しておき、この2種類の脊椎仮固定器具を症例に応じて術中に選択可能としてもよい。なお、傾斜角度は20度に限定されることなく、適宜変更可能である。例えば、約10度から30度に設定することができる。
【0090】
上述した脊椎固定用補助部材40は、一対の長尺状部材40a,40bであるが、これに限定されない。例えば、長さ方向に亘って延びる開口を有する1個の長尺状部材であってもよい。この場合、開口に棘突起51を挿入することによって、棘突起51の両側に脊椎固定用補助部材40を配置することができる。また、脊椎固定用補助部材40は可撓性を有していれば、直線状のロッドに限定されず、波型に形成された長尺状部材であってもよい。
【0091】
第2の実施形態に係る固定部90において、進退軸部92の端部92aに設けられた当接部材91は、例えば、進退軸部92の端部92aに固定されて、進退軸部92の回転と共に回転するように構成されてもよい。また、他の例として、当接部材91を、進退軸部92の端部92aに回転可能に連結し、進退軸部92を回転させた場合であっても、第1及び第2の取手部67a,67bと当接する当接部材91は回転せずに進退移動するように構成してもよい。
【0092】
脊椎仮固定器具1及び脊椎固定用補助部材40はチタン合金製であるが、これに限定されない。脊椎仮固定器具1,60及び脊椎固定用補助部材40の素材としては生体組織に容易に適用することができ、オートクレービング又は熱滅菌に対して安定であり、適度な強度を有する素材を選択することが望ましい。さらに、CT及びX線撮影の際にアーチファクトを発生させにくい素材を選択することが望ましい。
【0093】
第1及び第2の実施形態に係る脊椎仮固定器具1,60は、脊椎取付具52を脊椎50の所定位置に正確に刺入するために用いられたが、適用目的はこれに限定されない。例えば、外傷や腫瘍などによって脊椎の不安定性が高い場合に、脊椎仮固定器具1,60を用いて脊椎を仮固定し、所望の手術を行うこともできる。
なお、これまでに腰椎変性疾患の8例(2椎間以下の固定例)に対し、術中に本発明を使用し、制動効果をレントゲン透視で確認してきた。これらの症例で螺子の誤刺入はなかった。