【実施例】
【0015】
[実験例1]
高性能な水ガラス含有砂型造型用離型剤を得るに当たり、プロトン供与性のある官能基を有する有機化合物を見出すために行った実験例を以下に示す。
実験方法
プロトン供与性のある官能基を異ならせた材料を含めて、ここでは、11種類の異なる有機化学物質で、各々製造した水ガラス含有砂型造形離型剤(試料薬剤)を用いて以下の手順で砂型造形試験を行い、砂型造形用の金型への付着物の観察を行った。
手順1
円筒型(砂型造形用の円筒状金型)と、この円筒型内に摺合せ挿入可能な銅合金からなる円柱状の上型及び下型(上型及び下型を円柱型と総称する。)とを用意する。そして、円筒型と上型及び下型とを所定温度、ここでは260℃に加熱して、上型及び下型の後述する造形物と当たる面及び円筒型の内面に上記試料薬剤(離型剤)を加圧式スプレーで塗布する。
手順2
塗布直後に円筒型内に下型を挿入し、砂型原料(鋳物砂に水ガラスを添加してなる混練物)を投入する。
手順3
円筒型内にその上部から上型を挿入し、上記砂型原料を挟み込む。
手順4
砂型原料の挟み込み直後に円筒型内の上型を上方より下方に向けて加圧する。
手順5
所定時間後、ここでは1分後に円筒型内の下型を円筒型の下部から抜き出す。
手順6
続いて、円筒型を裏返して(上下を反転し)、裏返された円筒型の下部から円筒型内の上型を抜き出す。
手順7
次に、円筒型内に残る造形物(砂型として製造すべく砂型原料を加熱、加圧して得られた造形物)を、裏返された円筒型の上方よりその円筒型内に挿入した押出し棒で下方に押出して円筒型内から抜き出す。
手順8
上記手順1~手順7を5回繰り返して5個の造形物を得て、各回の造形物を得た際の金型(円筒型や円柱型)への付着物の有無の観察を行った。
実験結果
上記実験によれば、次の観察結果が得られた。
a)プロトン供与性のあるカルボキシル基を有する鎖状有機化合物(脂肪酸)の場合。
円柱型側面に水ガラスの付着あり。
円柱型造形物接触面に造形材料の付着なし。
円筒型内面への水ガラスの付着なし。
金型の炭化物堆積なし。
b)プロトン供与性のあるカルボキシル基を有する鎖状有機化合物(ポリシロキサン)の場合。
円柱型側面に水ガラスの付着あり。
円柱型造形物接触面にエアーで容易に除去でき、固着はしていないカルボキシル基との反応で生成した白色粉末あり。
円筒型内面への水ガラスの付着なし。
金型の炭化物堆積なし。
c)プロトン供与性のあるカルボニル基を有する鎖状有機化合物(ポリシロキサン)の場合。
円柱型側面に水ガラスの付着あり。
円柱型造形物接触面に造形材料の付着なし。
円筒型内面への水ガラスの付着なし。
金型の炭化物堆積なし。
d)プロトン供与性のあるヒドロキシル基を有する鎖状有機化合物(ポリシロキサン)の場合
円柱型側面に水ガラスの付着なし。
円柱型造形物接触面に造形材料の付着なし。
円筒型内面への水ガラスの付着なし。
金型の炭化物堆積なし。
e)水のみの場合
円柱型側面に造形材料の砂の付着あり。
円柱型造形物接触面に造形材料の砂の付着あり。
円筒型内面への水ガラスの付着あり。
金型の炭化物堆積なし。
f)プロトン供与性のある官能基を有しない鎖状有機化合物A(ポリシロキサン)の場合
円柱型側面に水ガラスの付着なし。
円柱型造形物接触面に造形材料の砂の付着あり。
円筒型内面への水ガラスの付着あり。
金型の炭化物堆積なし。
g)プロトン供与性のある官能基を有しない鎖状有機化合物B(ポリシロキサン)の場合
円柱型側面に水ガラスの付着あり。
円柱型造形物接触面に造形材料の砂の付着あり。
円筒型内面への水ガラスの付着あり。
金型の炭化物堆積なし。
h)プロトン供与性のある官能基を有しない環状有機化合物(基油アルキルナフタレン)の場合
円柱型側面に水ガラスの付着なし。
円柱型造形物接触面に造形材料の砂の付着あり。
円筒型内面への水ガラスの付着なし。
金型の炭化物堆積なし。
i)プロトン供与性のある官能基を有しない鎖状有機化合物(基油ポリ−α−オレフィン)の場合
円柱型側面に水ガラスの付着なし。
円柱型造形物接触面に造形材料の付着なし。
円筒型内面への水ガラスの付着あり。
金型の炭化物堆積あり。
j)プロトン供与性のある官能基を有しない環状有機化合物(基油ナフテン系オイル)の場合
円柱型側面に水ガラスの付着あり。
円柱型造形物接触面に造形材料の付着あり。
円筒型内面への水ガラスの付着あり。
金型の炭化物堆積あり。
k)プロトン供与性のある官能基を有しないポリエステル有機化合物(ポリエステル)の場合
円柱型側面に水ガラスの付着あり。
円柱型造形物接触面に造形材料の付着なし。
円筒型内面への水ガラスの付着あり。
金型の炭化物堆積あり。
以上の実験結果を表1にまとめて示す。
【表1】
この実験結果より次のような評価結果が得られた。
I)プロトン供与性にある官能基を有する試料材料には、金型造形面へ造形材料付着(固着)がない。
II)プロトン供与性がない試料材料においても、金型造形面に造形材料付着(固着)がない試料材料があるが、円筒型への水ガラス付着があり、さらに金型に有機物の炭化堆積があるので、連続して使用する離型剤材料としては適さない。
III)以上のI)II)より、プロトン供与性のある官能基を有する有機化合物が上記の課題を解決可能な水ガラス含有砂型造形用離型剤として提供できるとの検証結果が得られた。
【0016】
[実験例2]
プロトン供与性のある官能基としてのカルボキシル基を有する有機化合物を含む高性能な水ガラス含有砂型造型用離型剤を得るに当たり、好適量のカルボキシル基を見い出すべく行った実験例を以下に示す。
実験方法
カルボキシル基の量(離型剤単位重量当たりのモル数)を異ならせて、ここでは6種類の異なる量で、各々製造した水ガラス含有砂型造型用離型剤(試料薬剤)を用いて実験例1と同様の手順で砂型造型試験を行い、砂型造型用の金型への付着物の観察を行った。
実験結果
上記実験によれば、次のような観察結果が得られた。
a)カルボキシル基の量(カルボキシル基の離型剤単位重量当たりのモル数。以下、同じ。)が0.1500mol/kg の場合。
カルボキシル基を含有する成分の有機鎖による堆積が多量あり。
造型物にはカルボキシル基との反応で生成した白色物の付着あり。
b)カルボキシル基の量が0.1000mol/kg の場合。
カルボキシル基を含有する成分の有機鎖による堆積が多量あり。
造型物にはカルボキシル基との反応で生成した白色物の付着あり。
c)カルボキシル基の量が0.0500mol/kg の場合。
円柱型側面に水ガラスの付着が多量あり。円筒型内面への水ガラス付着なし。
造型物にはカルボキシル基との反応で生成した白色物の付着あり。
d)カルボキシル基の量が0.0100mol/kg の場合。
円柱型側面に水ガラスの付着あり。
円筒型内面への水ガラスの付着なし。
e)カルボキシル基の量が0.0010 mol/kg の場合。
円柱型側面に水ガラスの付着あり。
円筒型内面への水ガラスの付着なし。
f)カルボキシル基の量が0.0001 mol/kg の場合。
円柱型側面に
砂の付着あり。
円筒型内面への水ガラスの付着
あり。
以上の実験結果をまとめて表2に示す。
【表2】
この実験結果により次のような評価結果が得られた。
I) カルボキシル基の量は、0.0001mol/kg 以下では、円柱型に造型材料の砂付着あり、円筒型に水ガラスの付着(固着)があり、反応の効果(離型性)がない。このことから、カルボキシル基の量が不足していると推測される。
II) カルボキシル基の量が0.0001mol/kg 超えから、0.0500mol/kg以下では、円筒型内面に水ガラスの付着はない。円柱型の水ガラスの付着は、付着差(試験結果)を顕著にするために水ガラス成分を増量しており、その増量成分によるものである。造型物の反応の効果(離型性)は良好で、カルボキシル基の量は好ましい量である。
III) カルボキシル基の量が0.0100 mol/kg 超えでは、カルボキシル基以外の熱特性に由来した物質の堆積や熱劣化の影響が顕著となり、カルボキシル基と水ガラス成分との反応はしているが、好ましい離型剤としての使用には他の要因の確認が必要である。
IV) 以上の I)〜 III)により、カルボキシル基の量が、0.0001mol/kg 超えから0.0500mol/kg以下の場合が好適量であると検証された。すなわち、この量のカルボキシル基を有する有機化合物を含む水ガラス含有砂型造型用離型剤が、上記の課題を解決可能な水ガラス含有砂型造型用離型剤として提供できるとの検証結果が得られた。
【0017】
以上述べたように本発明の実施形態によれば、水ガラスをバインダーとした砂型(主型や中子)の造型において、水ガラスの金型への付着(固着)や堆積を防止できる高性能な、つまり離型性の高い水ガラス含有砂型造型用離型剤を提供することができる。