(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
7−[(3S,4S)−3−{(シクロプロピルアミノ)メチル}−4−フルオロピロリジン−1−イル]−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸またはその塩、および無機塩、クエン酸塩又はグルタミン酸塩である塩析剤を含有する固形医薬組成物。
前記塩析剤が、クエン酸塩、リン酸塩、炭酸塩、金属塩化物、硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、又はグルタミン酸塩である、請求項1に記載の固形医薬組成物。
単糖類、二糖類、デンプン類および糖アルコールからなる群から選ばれる1種または2種以上の非セルロース系賦形剤を含有する、請求項1乃至3のいずれか1つに記載の固形医薬組成物。
7−[(3S,4S)−3−{(シクロプロピルアミノ)メチル}−4−フルオロピロリジン−1−イル]−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸またはその塩、および前記非セルロース系賦形剤を含む粒状体、並びに前記塩析剤を含有する請求項4に記載の固形医薬組成物。
7−[(3S,4S)−3−{(シクロプロピルアミノ)メチル}−4−フルオロピロリジン−1−イル]−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸またはその塩、前記非セルロース系賦形剤、並びに前記塩析剤を含有し、均一組成物の状態にある請求項4に記載の固形医薬組成物。
7−[(3S,4S)−3−{(シクロプロピルアミノ)メチル}−4−フルオロピロリジン−1−イル]−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸の塩として、塩酸塩を含有する請求項1乃至11のいずれか1項に記載の固形医薬組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ゲル化による一般式(1)で表される化合物またはその塩の放出遅延を抑制可能な新規な医薬組成物を提供する。
【0010】
【化2】
【0011】
式(1)中、R
1はハロゲン原子、アミノ基またはシアノ基で1または2以上置換されていてもよい炭素数1から3のアルキル基を示し、R
2は炭素数1から3のアルキル基、水素原子、ハロゲン原子、水酸基またはアミノ基を示し、R
3は水素原子またはハロゲン原子を示し、R
4は水素原子またはフッ素原子を示し、Xはハロゲン原子を示す。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、固形医薬組成物中に一般式(1)で表される化合物またはその塩とともに塩析剤を含有させることにより、一般式(1)で表される化合物の放出遅延を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
本発明の要旨は以下の通りである。
【0013】
〔1〕一般式(1):
【化3】
(式中、R
1はハロゲン原子、アミノ基またはシアノ基で1または2以上置換されていてもよい炭素数1から3のアルキル基を示し、R
2は炭素数1から3のアルキル基、水素原子、ハロゲン原子、水酸基またはアミノ基を示し、R
3は水素原子またはハロゲン原子を示し、R
4は水素原子またはフッ素原子を示し、Xはハロゲン原子を示す)で表される化合物またはその塩、および塩析剤を含有する固形医薬組成物。
〔2〕 さらに非セルロース系賦形剤を含有する、〔1〕に記載の固形医薬組成物。
〔3〕
(i)前記一般式(1)で表される化合物またはその塩、および前記非セルロース系賦形剤を含有する造粒物と、
(ii)前記塩析剤、との混合物を圧縮成形して得られる、〔2〕に記載の固形医薬組成物。
〔4〕 さらに崩壊剤を含有する、〔1〕乃至〔3〕のいずれか1項に記載の固形医薬組成物。
〔5〕 前記崩壊剤として、膨潤性崩壊剤を含有する〔4〕に記載の固形医薬組成物。
〔6〕 前記一般式(1)で表される化合物またはその塩、前記非セルロース系賦形剤、および前記塩析剤の混合物を直接圧縮成形して得られる〔2〕に記載の固形医薬組成物。
〔7〕 前記非セルロース系賦形剤として、糖アルコールを含有する〔6〕に記載の固形医薬組成物。
〔8〕 前記非セルロース系賦形剤として、イソマルおよび/またはキシリトールを含有する〔6〕または〔7〕に記載の固形医薬組成物。
〔9〕 前記塩析剤として、塩化ナトリウムを含有する〔6〕乃至〔8〕のいずれか1項に記載の固形医薬組成物。
〔10〕 前記一般式(1)で表される化合物の塩として、塩酸塩を含有する〔1〕乃至〔9〕のいずれか1項に記載の固形医薬組成物。
〔11〕 〔2〕に記載の固形医薬組成物の製造方法であって、
前記固形医薬組成物が錠剤であり、
(i)前記一般式(1)で表される化合物またはその塩、および前記非セルロース系賦形剤を含む造粒物と塩析剤とを混合し、
(ii)得られた混合物を圧縮成形することを含む、固形医薬組成物の製造方法。
〔12〕 〔2〕に記載の固形医薬組成物の製造方法であって、
前記固形医薬組成物が錠剤であり、
(i)前記一般式(1)で表される化合物またはその塩と、前記非セルロース系賦形剤と、塩析剤とを混合し、
(ii)得られた混合物を圧縮成形することを含む、固形医薬組成物の製造方法。
〔13〕 一般式(1):
【化4】
(式中、R
1はハロゲン原子、アミノ基またはシアノ基で1または2以上置換されていてもよい炭素数1から3のアルキル基を示し、R
2は炭素数1から3のアルキル基、水素原子、ハロゲン原子、水酸基またはアミノ基を示し、R
3は水素原子またはハロゲン原子を示し、R
4は水素原子またはフッ素原子を示し、Xはハロゲン原子を示す)で表される化合物またはその塩、および非セルロース系賦形剤を含有する粒状体、および
塩析剤を含有する固形医薬組成物。
〔14〕 一般式(1):
【化5】
(式中、R
1はハロゲン原子、アミノ基またはシアノ基で1または2以上置換されていてもよい炭素数1から3のアルキル基を示し、R
2は炭素数1から3のアルキル基、水素原子、ハロゲン原子、水酸基またはアミノ基を示し、R
3は水素原子またはハロゲン原子を示し、R
4は水素原子またはフッ素原子を示し、Xはハロゲン原子を示す)で表される化合物またはその塩、非セルロース系賦形剤および塩析剤を含有し、実質的に均一な組成物の状態にある固形医薬組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ゲル化による一般式(1)で表される化合物またはその塩の放出遅延を抑制できる新規な医薬組成物を提供することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態の1つについて詳細に説明する。
本実施形態は、一般式(1)で表される化合物またはその塩、および塩析剤を含有する固形医薬組成物に関する。
本明細書において、固形医薬組成物とは、固体である含有成分により構成される医薬組成物をいう。
【0018】
式(1)中、R
1は炭素数1から3のアルキル基を示し、R
2は炭素数1から3のアルキル基、水素原子、ハロゲン原子、水酸基またはアミノ基を示し、R
3は水素原子またはハロゲン原子を示し、R
4は水素原子またはフッ素原子を示し、Xはハロゲン原子を示す。R
1として表される炭素数1から3のアルキル基は、ハロゲン原子、アミノ基またはシアノ基により1または2以上置換されていてもよい。
本明細書中に記載されている「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を示す。一般式(1)において、ハロゲン原子は、フッ素原子が好ましい。本明細書中に記載されている「炭素数1から3のアルキル基」とは、メチル基、エチル基、プロピル基または2−プロピル基を示す。
【0019】
本実施形態の固形医薬組成物に含有される一般式(1)で表される化合物またはその塩は、例えば国際公開第2005/026147号パンフレットに記載の方法により製造することができる。本実施形態の固形医薬組成物に含有される一般式(1)で表される化合物として、7−[3−{(シクロプロピルアミノ)メチル}−4−フルオロピロリジン−1−イル]−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸が好ましく、さらに好ましくは7−[(3S,4S)−3−{(シクロプロピルアミノ)メチル}−4−フルオロピロリジン−1−イル]−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸である。
【0020】
本実施形態の固形医薬組成物においては、水への溶解度の向上という点で、一般式(1)で表される化合物の塩が含有されることが好ましい。
本実施形態の組成物に含有され得る一般式(1)で表される化合物の塩としては薬理学的に許容される塩である限り、特に限定されない。一般式(1)で表される化合物の塩として、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸等の無機酸との塩、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、リンゴ酸、マロン酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、乳酸、シュウ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、酒石酸等の有機酸との塩、またはナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、セシウム、クロム、コバルト、銅、鉄、亜鉛、白金、銀等の金属との塩が挙げられる。このうち、化合物の安定性の観点から、特に好ましくは塩酸塩が挙げられる。一般式(1)で表される化合物の塩酸塩は、遊離型の一般式(1)で表される化合物や他の一般式(1)で表される化合物の塩と比較して光照射による当該化合物の分解が進みにくく、加速試験条件下保存した場合にも化学的な分解が少ない点で、優れている。本実施形態の固形医薬組成物に含有され得る一般式(1)で表される化合物の塩として、より好ましくは7−[3−{(シクロプロピルアミノ)メチル}−4−フルオロピロリジン−1−イル]−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩であり、さらにより好ましくは7−[(3S,4S)−3−{(シクロプロピルアミノ)メチル}−4−フルオロピロリジン−1−イル]−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩である。
【0021】
なお、7−〔(3S,4S)−3−{(シクロプロピルアミノ)メチル}−4−フルオロピロリジン−1−イル〕−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩の中でも、回折角を2θとして10.8、12.9、および24.7度(それぞれ±0.2度)で表されるピークを有する粉末X線回折パターンを有する結晶(A形結晶)は水との接触でゲル化しやすい。そのため、当該A形結晶が固形医薬組成物に含有される場合、本実施形態に係る技術を使用するのが有用である。A形結晶の粉末X線回折パターンを、
図1に示す。また、
図1に示す回折パターンに含まれるピークの相対強度について記載する表を、
図2に示す。A形結晶は、例えば国際公開第2013/069297号に記載されている方法により製造することができる。
ここで粉末X線回折は、例えば、理学電機製RINT2200を使用して行なうことができる。銅放射線を放射線として用い(CuKα放射)、測定条件は、管電流36mA、管電圧40kV、発散スリット1度、散乱スリット1度、受光スリット0.15mm、走査範囲1〜40度(2θ)、走査速度毎分2度(2θ)とすることができる。
【0022】
一般式(1)で表される化合物またはその塩の好ましい含有量としては、固形医薬組成物全体質量中10質量%以上75質量%以下が挙げられる。さらに好ましくは20質量%以上60質量%以下、特に好ましくは20質量%以上50質量%以下、より一層好ましくは35質量%以上45質量%以下が挙げられる。
なお、本実施形態の固形医薬組成物が錠剤である場合、「固形医薬組成物全体質量」とは素錠全体の質量を意味する。また、本明細書において「素錠」とは、原料を打錠したものであり、コーティングを施す前の錠剤を意味する。
【0023】
本実施形態の固形医薬組成物においては、一般式(1)で表される化合物またはその塩とともに、塩析剤を含有する。本実施形態の固形医薬組成物が塩析剤を含有することにより、一般式(1)で表される化合物またはその塩のゲル化を抑制し、放出遅延を抑制することが出来る。
【0024】
本明細書中に記載されている「塩析剤」とは、塩析作用を示す塩を意味する。本明細書に記載されている「塩析作用」とは、一般式(1)で表される化合物が水に接して、粘度の高いゲル状物を形成するのを防ぐ作用である。塩析剤が、一般式(1)で表される化合物と水の間に生じる水和を不安定化することによって生じる作用と考えられる。
【0025】
本実施形態の固形医薬組成物に含有される「塩析剤」の例として、有機酸塩、無機塩またはアミノ酸の塩が挙げられる。
有機酸塩として、例えば、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二ナトリウム若しくはクエン酸ナトリウム等のクエン酸塩、コハク酸二ナトリウム等のコハク酸塩、または酢酸カルシウム若しくは酢酸ナトリウム等の酢酸塩が挙げられる。
【0026】
無機塩として、例えば、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二カリウム、ポリリン酸ナトリウム若しくはピロリン酸ナトリウム等のリン酸塩、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム若しくは炭酸アンモニウム等の炭酸塩、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム若しくは塩化カルシウム等の金属塩化物、硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、または水酸化ナトリウムが挙げられる。好ましくは金属塩化物、さらに好ましくは塩化ナトリウムが挙げられる。
【0027】
アミノ酸の塩として、例えば、L−グルタミン酸塩酸塩またはグルタミン酸ナトリウム等のグルタミン酸塩が挙げられる。好ましくはL−グルタミン酸塩酸塩が挙げられる。
【0028】
本実施形態の固形医薬組成物においては、例えばこれらのうち1種または2種以上の化合物が塩析剤として含有されるようにしてもよい。
また、本実施形態の一例としての固形医薬組成物は、後述するとおり、一般式(1)で表される化合物またはその塩、および非セルロース系賦形剤等の賦形剤を含有する造粒物と、塩析剤との混合物を圧縮成形して錠剤として得ることができる。この場合、得られる固形医薬組成物において造粒物(粒状体)外に塩析剤が存在することになるが、造粒物中に別途同一のまたは異なる種類の塩析剤を含有してもよい。また、造粒物が素錠中に複数含まれる態様である場合、例えば造粒物と添加剤が混合された状態とすることができ、素錠表面に造粒物の一部が露出していてもよい。
なお、本明細書において、造粒物(粒状体)とは、固体である構成成分を固めて得られる粒状の成形体をいう。
本実施形態の固形医薬組成物に含有される塩析剤として、ゲル化による放出遅延をより抑える観点から、好ましくはクエン酸塩、グルタミン酸塩、金属塩化物が挙げられ、より好ましくはL−グルタミン酸塩酸塩、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、塩化ナトリウムが挙げられる。より好ましくはクエン酸二水素ナトリウムが挙げられる。
また、固形医薬組成物が錠剤であるときのその製造において非セルロース系賦形剤を用いるとともに直接打錠法を用いて当該固形医薬組成物の製造を行う場合には、溶出率の改善という点で、塩析剤として塩化ナトリウムを用いることが好ましい。
【0029】
本実施形態の医薬組成物において塩析剤の含有量は特に限定されず、当業者が適宜設定できる。一方で、本実施形態の医薬組成物が錠剤である場合に、一般式(1)で表される化合物またはその塩のゲル化をさらに抑制し、溶出率を改善するという点から、好ましい塩析剤の量を、例えば以下の通りに設定してもよい。
1) 本実施形態の固形医薬組成物が造粒物を含んでおり当該造粒物とその他の成分との混合物とを圧縮成形することにより得られ、塩析剤が造粒物外に存在する場合
一般式(1)で表される化合物またはその塩を含有する「造粒物」と「塩析剤」を混合して用いる場合であり、塩析剤の割合は、当該造粒物1質量部に対し、0.10質量部以上0.50質量部以下が好ましい。さらに好ましくは0.15質量部以上0.40質量部以下、特に好ましくは0.20質量部以上0.30質量部以下が挙げられる。
2) 本実施形態の固形医薬組成物が造粒物を含んでおり当該造粒物とその他の成分との混合物とを圧縮成形することにより得られ、塩析剤が造粒物内に存在する場合
塩析剤を造粒物内に配合する場合であり、塩析剤の割合は、一般式(1)で表される化合物またはその塩1質量部に対し、0.05質量部以上0.40質量部以下が好ましい。さらに好ましくは0.10質量部以上0.30質量部以下、特に好ましくは0.10質量部以上0.20質量部以下が挙げられる。
3) 直接打錠法を用いる場合
塩析剤は、一般式(1)で表される化合物またはその塩1質量部に対し、0.20質量部以上1.0質量部以下が好ましい。さらに好ましくは0.25質量部以上0.70質量部以下、特に好ましくは0.30質量部以上0.50質量部以下が挙げられる。
【0030】
本実施形態の固形医薬組成物においては、一般式(1)で表される化合物またはその塩および塩析剤とともに、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤等の添加剤を含有するようにしてもよい。含有される添加物は医薬品製剤の製造に使用可能なものであれば特に限定はなく、例えば、医薬品添加物事典[日本医薬品添加剤協会、薬事日報社(2007年)]に記載されているものを適宜使用できる。
【0031】
本明細書中に記載されている賦形剤には、「セルロース系賦形剤」と「非セルロース系賦形剤」が含まれる。
本明細書中に記載されている「セルロース系賦形剤」とは、セルロースまたはその誘導体を構成成分とする賦形剤である。セルロース系賦形剤として、例えば結晶セルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなどのうち1種または2種以上が本実施形態の固形医薬組成物に含有されるようにすることができる。このうち、本実施形態の固形医薬組成物に含有されるセルロース系賦形剤として、錠剤に成形した際に高い硬度が出せるという点で、結晶セルロースが好ましい。
【0032】
本明細書中に記載されている「非セルロース系賦形剤」とは、構造中にセルロース骨格を有しない化合物を構成成分とする賦形剤であり、例えばブドウ糖、果糖(フルクトース)等の単糖類、乳糖(ラクトース)、ショ糖(スクロース)、麦芽糖(マルトース)、トレハロース、マルトース等の二糖類、トウモロコシデンプン等のデンプン類、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール等の単糖アルコール若しくはイソマル、マルチトール、ラクチトール等の二糖アルコール等の糖アルコール、等が挙げられる。例えばこのうち1種または2種以上が本実施形態の固形医薬組成物に含有されるようにすることができる。
【0033】
固形医薬組成物が錠剤であるときのその製造において、非セルロース系賦形剤を用いるとともに造粒工程を経て製造する場合、造粒および圧縮成形が容易であるという点で、好ましい非セルロース形賦形剤として二糖類、さらに好ましくは乳糖が挙げられる。
【0034】
固形医薬組成物が錠剤であるときのその製造において非セルロース系賦形剤を用いるとともに直接打錠法を用いて当該固形医薬組成物の製造を行う場合、溶出率の改善という点で、好ましい非セルロース形賦形剤として糖アルコールが挙げられる。糖アルコールの中でも、さらに好ましくは二糖アルコールまたは25℃における水への溶解度が25%以上である単糖アルコールが挙げられる。二糖アルコールのうち、さらに好ましくはイソマルが挙げられる。25℃における水への溶解度が25%以上である単糖アルコールとして、さらにより好ましくは、当該溶解度が25%以上80%以下の単糖アルコールが挙げられる。当該溶解度が25%以上80%以下の単糖アルコールとして、ソルビトール、キシリトールまたはエリスリトールが挙げられ、特に好ましくはキシリトールが挙げられる。
【0035】
本明細書中に記載されている「水への溶解度」とは、水100gに対し溶質が溶解する質量(g)に基づき、以下の(式)を用いて計算して得られる値である。
水への溶解度(%)=溶質の質量(g)/(100g+溶質の質量(g))×100
【0036】
一般式(1)で表される化合物またはその塩は、例えばその製造工程において加圧されることにより分解され、以下の式(2)で表される化合物等が生じる。賦形剤として非セルロース系賦形剤を使用することにより、当該一般式(1)で表される化合物またはその塩の分解を抑制することができ、好ましい。
【0038】
式(2)中、R
1、R
2、R
3およびXは、上記定義と同じである。
【0039】
本実施形態の固形医薬組成物において一般式(1)で表される化合物またはその塩および塩析剤とともに非セルロース系賦形剤が含有される場合、一般式(1)で表される化合物またはその塩のゲル化をさらに抑制し、溶出率を改善するという点から、好ましい非セルロース系賦形剤の量は以下の通りである。
1) 本実施形態の固形医薬組成物が造粒物を含んでおり、非セルロース系賦形剤が造粒物外に存在する場合
造粒物外の非セルロース系賦形剤の含有量は、造粒物1質量部に対し0.1質量部以上0.7質量部以下が好ましい。さらに好ましくは0.15質量部以上0.6質量部以下、特に好ましくは0.2質量部以上0.5質量部以下が挙げられる。
2) 本実施形態の固形医薬組成物が造粒物を含んでおり、非セルロース系賦形剤が造粒物内に存在する場合
造粒物内の非セルロース系賦形剤の含有量は、造粒物の全体量中5質量%以上50質量%以下が好ましい。さらに好ましくは5質量%以上40質量%以下、特に好ましくは5質量%以上30質量%以下、より一層好ましくは10質量%以上30質量%以下が挙げられる。
3) 直接打錠法を用いる場合
直接打錠法を用いる場合、非セルロース系賦形剤の含有量は、固形医薬組成物全体量中10質量%以上80質量%以下が好ましい。さらに好ましくは20質量%以上75質量%以下、特に好ましくは40質量%以上70質量%以下、より一層好ましくは45質量%以上65質量%以下が挙げられる。
【0040】
本実施形態の固形医薬組成物は、例えば崩壊剤を含む経口用組成物とすることができる。医薬組成物の崩壊性を高めるという点で本実施形態の固形医薬組成物は一般式(1)で表される化合物またはその塩を含有する造粒物を含んでおり、崩壊剤は、造粒物の外に含有することが好ましい。
本明細書中に記載されている「崩壊剤」は、膨潤性崩壊剤と導水性崩壊剤に分類される。硬度が高く、摩損度の低い組成物が得られるという点で、膨潤性崩壊剤を用いることが好ましい。
【0041】
膨潤性崩壊剤は、水を吸収し膨潤することにより、経口固形製剤を崩壊に導く崩壊剤である。膨潤性崩壊剤として、例えば、ヒドロキシプロピルスターチ、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスカルメロース、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドンが挙げられ、より好ましくは低置換度ヒドロキシプロピルセルロースが挙げられる。
なお、本明細書において、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースとは、ヒドロキシプロポキシル基の含有量が5.0〜16.0重量%のヒドロキシプロピルセルロースをいう。ヒドロキシプロポキシル基の含有量は、第十六改正日本薬局方の「低置換度ヒドロキシプロピルセルロース」の項に記載された方法により定量することができる。
【0042】
導水性崩壊剤は、毛管現象により経口固形製剤を崩壊に導く崩壊剤である。導水性崩壊剤が空隙を介して吸水することで、経口固形製剤内の粒子間結合力を低下させ、経口固形製剤を崩壊させる。導水性崩壊剤として、例えば、カルメロース、カルメロースナトリウム、結晶セルロース・カルメロースナトリウム、酢酸フタル酸セルロース、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、α化デンプン、部分α化デンプン、結晶セルロースが挙げられる。より好ましくは、カルメロースが挙げられる。
【0043】
本実施形態の固形医薬組成物は例えば経口用組成物とすることが挙げられる。具体的には、本実施形態の固形医薬組成物は、錠剤、顆粒剤(細粒剤)、カプセル剤、散剤などの経口用固形製剤とすることができ、好ましくは錠剤とすることができる。
【0044】
本実施形態の固形医薬組成物は、剤形に応じた通常の方法に従って製造することができ、製造方法は当業者が適宜選択することができる。
【0045】
ここで、本実施形態の固形医薬組成物が錠剤である場合、その製造は、乾式造粒法を用いて造粒物を製造する工程を含む方法(以下、乾式造粒法を含む方法ともいう)または直接打錠法により行われることが好ましい。本明細書中に記載されている「乾式造粒法」とは、原料粉体を圧縮成形した後に適当な大きさの粒子に破砕分級し、造粒物を得る方法である。「直接打錠法」とは、活性成分を含む原料に賦形剤等の必要な添加剤を加えた混合物を、造粒処理を行うことなく圧縮して成形し(直接圧縮成形)、素錠を得る方法である。乾式造粒法を含む方法および直接打錠法は、水を使用せずに固形医薬組成物を得ることが可能なため、水の影響による一般式(1)で表される化合物またはその塩のゲル化を抑制することができる。
【0046】
以下に本実施形態の固形医薬組成物を錠剤として製造する場合の製造方法の一例を示して、本実施形態の固形医薬組成物の内容を更に詳細に説明するが、これらにより本発明の範囲を限定するものではない。
【0047】
(一般的製造方法1)
1. 以下に示すA成分および賦形剤を混合する。さらに、B成分が混合されるようにしてもよい。混合により得られた粉末には、さらに、ステアリン酸、ステアリン酸塩(アルミニウム、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム等の金属塩)、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑沢剤を加えてもよい。
A成分:式(1)で表される化合物またはその塩
B成分:クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二ナトリウム若しくはクエン酸ナトリウム等のクエン酸塩、コハク酸二ナトリウム等のコハク酸塩、酢酸カルシウム若しくは酢酸ナトリウム等の酢酸塩、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二カリウム、ポリリン酸ナトリウム若しくはピロリン酸ナトリウム等のリン酸塩、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム若しくは炭酸アンモニウム等の炭酸塩、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム若しくは塩化カルシウム等の金属塩化物、硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウムおよびグルタミン酸塩酸塩若しくはグルタミン酸ナトリウム等のグルタミン酸塩、からなる群から選ばれる1種または2種以上の塩析剤
2. 例えば乾式造粒法に基づき造粒を行う。具体的には、得られた混合物を、ローラーコンパクターまたは打錠機(スラッグマシン)等の圧縮成形機で圧縮成形した後、ロールグラニュレーターまたは篩等の整粒装置を用いて粉砕、整粒し、造粒物を得る。得られた造粒物には、さらに、B成分や、以下に示すC成分、賦形剤または滑沢剤を添加することもできる。
C成分:ヒドロキシプロピルスターチ、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスカルメロース、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン等の膨潤性崩壊剤または、カルメロース、カルメロースナトリウム、結晶セルロース・カルメロースナトリウム、酢酸フタル酸セルロース、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、α化デンプン、部分α化デンプン、結晶セルロース等の導水性崩壊剤からなる群から選ばれる1種または2種以上の崩壊剤
3. 得られた造粒物または造粒物と添加剤の混合物を、打錠機を用いて打錠することにより、錠剤(素錠)を得る。打錠後、得られた素錠を、ヒプロメロースやコリコートIR等のコーティング剤を用いて被覆してもよい。
【0048】
(一般的製造方法2)
1. 以下に示すA成分および賦形剤を混合する。賦形剤はD成分(非セルロース系賦形剤)を用いることが好ましい。なお、A成分および賦形剤に加えて、B成分(塩析剤)が混合されるようにしてもよい。混合により得られた粉末には、さらに滑沢剤を加えてもよい。
A成分:式(1)で表される化合物またはその塩
D成分:ブドウ糖、果糖(フルクトース)等の単糖類、乳糖(ラクトース)、ショ糖(スクロース)、麦芽糖(マルトース)、トレハロース、マルトース等の二糖類、トウモロコシデンプン等のデンプン類、および、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール等の単糖アルコール若しくはイソマル、マルチトール、ラクチトール等の二糖アルコール等の糖アルコールからなる群から選ばれる1種または2種以上の非セルロース系賦形剤
2. 例えば乾式造粒法に基づき造粒を行う。具体的には、得られた混合物を、ローラーコンパクターまたは打錠機(スラッグマシン)等の圧縮成形機で圧縮成形した後、ロールグラニュレーターまたは篩等の整粒装置を用いて粉砕、整粒し、造粒物を得る。得られた造粒物には、さらに、B成分(塩析剤)、C成分(崩壊剤)、賦形剤または滑沢剤を配合してもよい。
3. 得られた造粒物または造粒物と添加剤の混合物を、打錠機を用いて打錠することにより、錠剤(素錠)を得る。打錠後、得られた素錠を、ヒプロメロースやコリコートIR等のコーティング剤を用いて被覆してもよい。
【0049】
(一般的製造方法3)
1. A成分、B成分(塩析剤)および賦形剤を混合する。賦形剤はD成分(非セルロース系賦形剤)を用いることが好ましい。混合により得られた粉末には、さらに滑沢剤を加えてもよい。
2. 得られた混合物を、打錠機を用いて打錠することにより、錠剤(素錠)を得る。得られた素錠は均一組成物の状態にある。なお、本明細書において、均一組成物とは、含有されている成分が実質的に均一に分散して存在していることをいう。
打錠後、得られた素錠を、ヒプロメロースやコリコートIR等のコーティング剤を用いて被覆してもよい。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって本発明の範囲を限定するものではない。
【0051】
以下の実施例において、NMRスペクトルは、日本電子JNM−EX400型核磁気共鳴装置を使用し、内部標準としてテトラメチルシラン(TMS)を使用して測定した。MSスペクトルは日本電子JMS−T100LP型およびJMS−SX102A型質量分析計で測定した。元素分析はヤナコ分析CHN CORDER MT−6元素分析装置で行った。
粉末X線回折は、理学電機製RINT2200を使用して行なった。銅放射線を放射線として用い、測定条件は、管電流36mA、管電圧40kV、発散スリット1度、散乱スリット1度、受光スリット0.15mm、走査範囲1〜40度(2θ)、走査速度毎分2度(2θ)とした。
【0052】
(参考例1)
ビス(アセタト−O)−〔6,7−ジフルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボキシラト−O3,O4〕ボロン
窒素雰囲気下、無水酢酸21.4L(225mol)に、ホウ酸(触媒作成用)103g(1.67mol)を加え、70.0〜76.9°Cで30分間加熱撹拌した(撹拌速度69.5rpm)。内温24.6°Cまで冷却した後、1回目のホウ酸1.01kg(16.3mol)を加え、24.6〜27.4°Cで30分撹拌した。2回目のホウ酸1.01kg(16.3mol)を加え、24.7〜27.5°Cで30分撹拌した。3回目のホウ酸1.01kg(16.3mol)を加え、24.7〜27.7°Cで30分撹拌した。4回目のホウ酸1.01kg(16.3mol)を加え、25.4〜29.4°Cで30分撹拌した。さらに、50.0〜56.9°Cで30分撹拌し、ホウ酸トリアセテート調整液とした。当該調整液に、6,7−ジフルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸エチルエステル5.50kg(16.7mol)を加え、得られた混液を54.7〜56.9°Cで3時間撹拌した。当該混液を30.0°Cまで冷却し、室温で一夜放置した。混液を58.6°Cまで加熱し析出した化合物を溶解させ、アセトン16.5 Lを混液に加え、反応液(a)とした。
【0053】
窒素雰囲下、常水193Lおよびアンモニア水(28%)33.7 L(555mol)の混合液を、−0.6°Cまで冷却した。当該混合液に、前述の反応液(a)を添加し、アセトン11.0Lで洗い込んだ。15.0°Cまで冷却後、4.3〜15.0°Cで1時間撹拌した。析出した結晶をろ取し、常水55.0Lで洗浄し、湿潤粗結晶を14.1kg得た。設定温度65.0°Cで約22時間減圧乾燥し、粗結晶を6.93kg得た(収率96.7%)。
【0054】
得られた粗結晶に、窒素雰囲下、アセトン34.7Lを加え、加熱溶解した(温水設定温度57.0°C)。加熱時、ジイソプロピルエーテル69.3Lを晶析するまで滴下した(滴下量12.0 L)。晶析確認後、48.3〜51.7°Cで15分撹拌し、残りのジイソプロピルエーテルを滴下し、45.8〜49.7°Cで15分撹拌した。15°Cまで冷却後、6.5〜15.0°Cで30分撹拌した。析出した結晶をろ取し、アセトン6.93Lおよびジイソプロピルエーテル13.9Lで洗浄し、湿潤結晶を7.41kg得た。得られた湿潤結晶を設定温度65.0°Cで約20時間減圧乾燥し、ビス(アセタト−O)−〔6,7−ジフルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボキシラト−O
3,O
4〕ボロンを 6.47kg得た(収率90.3%)。
元素分析(%):C
17H
15BF
3NO
8として
計算値:C,47.58;H,3.52;N,3.26.
実測値:C,47.41;H,3.41;N,3.20.
1H−NMR(CDCl
3,400 MHz)δ:2.04(6H,s),4.21(3H, d,J=2.9Hz),4.88(2H,dt,J=47.0,4.4Hz),5.21(2H,dt,J=24.9,3.9Hz),8.17(1H,t,J=8.8Hz),9.10(1H,s).
ESI MS(positive) m/z:430(M+H)
+.
【0055】
(参考例2)
7−[(3S,4S)−3−{(シクロプロピルアミノ)メチル}−4−フルオロピロリジン−1−イル]−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩の製造
窒素雰囲気下、(3R,4S)−3−シクロプロピルアミノメチル−4−フルオロピロリジン3.56kg(15.4mol)、トリエチルアミン11.7 L(84.2mol)およびジメチルスルホキシド30.0Lの混液を、23.0〜26.3°Cで15分撹拌した。当該混液に23.0〜26.3°Cでビス(アセタト−O)[6,7−ジフルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボキシラト−O
3,O
4]ボロン6.00kg(14.0mol)を加え、反応液とした。反応液を23.7〜26.3°Cで2時間撹拌した。反応液に酢酸エチル120Lを加え、さらに常水120Lを加えた後、水酸化ナトリウム960g(2mol/Lとする量)および常水12.0Lの溶液を加え、5分間撹拌後、水層を分取した。水層に、酢酸エチル120Lを加え、5分間撹拌後、酢酸エチル層を分取した。酢酸エチル層を合わせて、常水120Lを加え、5分間撹拌後、静置し、水層を廃棄した。酢酸エチル層を減圧留去した。得られた残留物を、2−プロパノール60.0Lに溶解させ、室温で一夜放置した。当該溶液に塩酸5.24L(62.9mol)および常水26.2L(2mol/Lとする量)の溶液を加え、28.2〜30.0°Cで30分撹拌した。外温55.0°Cで加熱し、溶解後(47.1°Cで溶解確認)、冷却し晶析させた。39.9〜41.0°Cで30分撹拌し、冷却後(目安:20.0°Cまでは設定温度7.0°C、それ以下は−10.0°C)、2.2〜10.0°Cで1時間撹拌した。析出した結晶をろ取、2−プロパノール60Lで洗浄し、7−{(3S,4S)−3−[(シクロプロピルアミノ)メチル]−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩の湿潤粗結晶を9.57kg得た。
【0056】
(参考例3)
7−[(3S,4S)−3−{(シクロプロピルアミノ)メチル}−4−フルオロピロリジン−1−イル]−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩A形結晶(化合物1)の製造方法
7−{(3S,4S)−3−[(シクロプロピルアミノ)メチル]−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩の湿潤粗結晶9.57kgをエタノール60L、精製水10.8Lの混液に添加し、加熱溶解した。この溶解液を、フィルターを通すことによりろ過し、エタノール24.0Lおよび精製水1.20Lの混液で洗い込んだ。溶解を確認し、加熱したエタノール(99.5)96.0Lを71.2〜72.6°Cで添加した。その溶解液を冷却し(温水設定温度60.0°C)晶析確認後(晶析温度61.5°C)、59.4〜61.5°Cで30分撹拌した。段階的に冷却させ(50.0°Cまで温水設定温度40.0°C、40.0°Cまで温水設定温度30.0°C、30.0°Cまで温水設定温度20.0°C、20.0°Cまで設定温度7.0°C、15.0°Cまで設定温度−10.0°C、これ以降溜置き)、4.8〜10.0°Cで1時間撹拌した。析出した結晶をろ取し、エタノール30.0Lで洗浄し、7−[(3S,4S)−3−{(シクロプロピルアミノ)メチル}−4−フルオロピロリジン−1−イル]−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩の湿潤結晶を5.25kg得た。得られた湿潤結晶を設定温度50.0°Cで約13時間減圧乾燥し、化合物1を4.83kg得た(収率72.6%)。
【0057】
国際公開第2013/069297号に基づく化合物1の粉末X線回折の結果を
図1、2に示す。
図1、2から理解できるように4.9度、9.8度、10.8度、12.9度、14.7度、18.2度、21.7度、23.4度、24.7度および26.4度にピークが見られ、4.9度、10.8度、12.9度、18.2度、21.7度、24.7度および26.4度に特徴的なピークが確認できる。特に特徴的なピークが、10.8度、12.9度、および24.7度に確認できる。
元素分析値(%):C
21H
24F
3N
3O
4HClとして
計算値:C,53.00;H,5.30;N,8.83.
実測値:C,53.04;H,5.18;N,8.83.
1H NMR(DMSO−d
6,400MHz)δ(ppm):0.77−0.81(2H,m),0.95−1.06(2H,m),2.80−2.90(2H,m),3.21−3.24(1H,m),3.35−3.39(1H,m),3.57(3H,s),3.65−3.78(3H,m),4.13(1H,dd,J=41.8,13.1Hz),4.64−4.97(3H,m),5.14(1H,dd,J=32.7,15.6Hz),5.50(1H,d,J=53.7Hz),7.80(1H,d,J=13.7Hz),8.86(1H,s),9.44(2H,brs),15.11(1H,brs).
ESI MS(positive) m/z:440(M+H)
+.
【0058】
(実施例1)
表1記載の処方に従い、ワンダーブレンダー(商品名)(WB−1、大阪ケミカル社製)を用いて45秒間粉砕した化合物1と、L−グルタミン酸塩酸塩を、乳棒乳鉢で3分間混合した。得られた混合品および結晶セルロースをポリエチレン袋中で3分間混合した。さらに、当該混合品にフマル酸ステアリルナトリウムを加え、ポリエチレン袋中で30秒間混合した。当該混合品を打錠機(HT―AP―18SS−II、畑鉄工所、直径8.5mmの臼、曲率半径10mmのR面杵)を用いて質量200mgとなるように圧縮成形した後、乳棒乳鉢で粉砕し造粒物を得た。得られた造粒物のうち、850μm篩を通過し、106μm篩上に残った顆粒を主薬顆粒とした。次に主薬顆粒、結晶セルロースおよび低置換度ヒドロキシプロピルセルロースをポリエチレン袋中で3分間混合した。さらに、当該混合品にステアリン酸マグネシウムを加え、ポリエチレン袋中で30秒間混合した。当該混合品を打錠機(HT―AP―18SS−II、畑鉄工所、直径8.5mmの臼、曲率半径10mmのR面杵)を用いて質量250mg、錠厚4.2mmとなるように打錠し、錠剤(素錠)を得た。
【0059】
(実施例2)
表1記載の処方に従い、L−グルタミン酸塩酸塩の代わりにクエン酸二水素ナトリウムを用いた以外は、実施例1と同様に操作を行った。
【0060】
(実施例3)
表1記載の処方に従い、L−グルタミン酸塩酸塩の代わりにクエン酸二ナトリウムを用いた以外は、実施例1と同様に操作を行った。
【0061】
(比較例1)
表1記載の処方に従い、ワンダーブレンダー(商品名)(WB−1、大阪ケミカル社製)を用いて45秒間粉砕した化合物1と、結晶セルロースを、ポリエチレン袋中で3分間混合した。さらに、当該混合品にフマル酸ステアリルナトリウムを加え、ポリエチレン袋中で30秒間混合した。当該混合品に打錠機(HT―AP―18SS−II、畑鉄工所、直径8.5mmの臼、曲率半径10mmのR面杵)を用いて質量200mgとなるように圧縮成形した後、乳棒乳鉢で粉砕し造粒物を得た。得られた造粒物のうち、850μm篩を通過し、106μm篩上に残った顆粒を主薬顆粒とした。次に主薬顆粒、結晶セルロースと低置換度ヒドロキシプロピルセルロースをポリエチレン袋中で3分間混合した。さらに、当該混合品にステアリン酸マグネシウムを加え、ポリエチレン袋中で30秒間混合した。当該混合品を打錠機(HT―AP―18SS−II、畑鉄工所、直径8.5mmの臼、曲率半径10mmのR面杵)を用いて質量250mg、錠厚4.2mmとなるように打錠し、錠剤を得た。
【0062】
【表1】
【0063】
(試験例1)溶出試験(第一液)
実施例と比較例の各組成物(錠剤)を評価するために第十六改正日本薬局方溶出試験法装置2(パドル法)に準じて溶出試験を実施した。溶出試験の詳細な条件は下記の通りである。溶出試験の結果を
図3に示す。
パドル回転数: 50rpm
試験液の温度: 37℃
試験液 : 第十六改正日本薬局方 溶出試験第一液 900mL
【0064】
塩析剤を含有しない比較例1の錠剤では、溶出性が極めて悪く、60分後の溶出率でも25%以下に留まる。これは、錠剤表面上にある化合物1が、水と接するとゲル化してしまい、錠剤内部への速やかな水の浸透を阻害することが原因と考えられる。実際に、溶出試験後の残骸を観察してみると、錠剤の内部まで溶液が浸透しておらず、錠剤の崩壊が起きていないことが視認された。
【0065】
その一方で、L−グルタミン酸塩酸塩(実施例1)、クエン酸二水素ナトリウム(実施例2)またはクエン酸二ナトリウム(実施例3)などの塩析剤を含有する実施例1〜3の錠剤においては、溶出率は著しく改善された。実施例1〜3の錠剤はいずれも、10分後に70%以上、60分後には90%程の溶出率を示していることが分かる(
図3)。なお、実施例1〜3においては、塩析剤を主薬顆粒中に含有させているが、塩析剤は主薬顆粒の外において含有されるようにしてもよい。
【0066】
(実施例4)
表2記載の処方に従い、化合物1と乳糖水和物をポリエチレン袋中で3分間混合した。さらに、当該混合品にステアリン酸マグネシウムを加え、ポリエチレン袋中で1分間混合した。当該混合品をローラーコンパクター(TF−MINI、フロイント産業社製、ロール圧力:70kgf、ロール回転数:3min
−1)を用いて圧縮成形した後、ロールグラニュレーター(GRN−T−54−S、日本グラニュレーター社製)を用いて整粒し造粒物を得た(ピッチ幅6mm、2mm、1.2mm、0.6mmの4種類のロールを使用した。)。得られた造粒物を目開き850μm篩を用いて篩過し、得られた篩過品を主薬顆粒とした。次に主薬顆粒、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースと目開き212μm篩を用いて篩過したクエン酸二水素ナトリウムをポリエチレン袋中で3分間混合した。さらに、当該混合品にステアリン酸マグネシウムを加え、ポリエチレン袋中で1分間混合した。打錠機(HT―AP―18SS−II、畑鉄工所、直径8.5mmの臼、曲率半径10mmのR面杵)を用いて質量250mg、錠厚4.2mmとなるように、打錠し、錠剤を得た。
【0067】
(比較例2)
表2記載の処方に従い、クエン酸二水素ナトリウムを使用していない以外は、実施例4と同様に操作を行い、錠剤を得た。
【0068】
【表2】
【0069】
(試験例2)崩壊試験(第一液)
実施例4および比較例2で得られた錠剤について、第十六改正日本薬局方一般試験法崩壊試験法に準拠して、崩壊試験を実施した。崩壊試験の詳細な条件は下記の通りである。試験液の温度: 37℃
試験液 : 第十六改正日本薬局方 崩壊試験第一液
崩壊試験の結果を表3に示す。
【0070】
【表3】
【0071】
塩析剤を含有しない比較例2の錠剤は、60分経過後も錠剤が崩壊しない。錠剤表面上にある化合物1が、水と接するとゲル化してしまい、錠剤内部への速やかな水の浸透を阻害することが原因と考えられる。一方、実施例4の崩壊時間から分かる通り、クエン酸二水素ナトリウムなどの塩析剤を添加することにより、崩壊時間が2分以内と、高度に崩壊性が改善された錠剤が得られる。なお、実施例4においては、塩析剤を主薬顆粒外に含有させているが、主薬顆粒中に塩析剤が含有されるようにしてもよい。
【0072】
(実施例5)
表4記載の処方に従い、ワンダーブレンダー(商品名)(WB−1、大阪ケミカル社製)を用いて45秒間粉砕した化合物1と、乳棒乳鉢を用いて粉砕した塩化ナトリウムと、キシリトール、軽質無水ケイ酸を、ガラス瓶の中で2分間混合した。当該混合品を打錠機(HT―AP―18SS−II、畑鉄工所、直径8.5mmの臼、曲率半径10mmのR面杵)を用いて表4に記載の質量、かつ錠剤硬度が5kg以上となるように打錠し、錠剤を得た。
【0073】
(実施例6)
表4記載の処方に従い、実施例5と同様に操作を行い、錠剤を得た。
【0074】
【表4】
【0075】
(試験例3)溶出試験(第一液)
試験例1と同様に溶出試験を行った。溶出試験の結果を
図4に示す。
実施例5と実施例6は、塩析剤の量のみが異なる処方である。
図4の結果から分かる通り、塩析剤を増量することにより、溶出率が改善されている。実施例5および実施例6は、直接打錠法により調製した製剤であるが、塩析剤のゲル化抑制効果が、直接打錠法で調製した製剤でも発揮されていることが分かる。
【0076】
(実施例7)
表5に記載の処方に従い、ワンダーブレンダー(商品名)(WB−1、大阪ケミカル社製)を用いて45秒間粉砕した化合物1と、乳棒乳鉢を用いて粉砕した塩化ナトリウムと,イソマルを、ガラス瓶の中で2分間混合した。当該混合品を打錠機(HT―AP―18SS−II、畑鉄工所、直径8.5mmの臼、曲率半径10mmのR面杵)を用いて表5に記載の質量,かつ錠剤硬度が5kg以上となるように打錠し、錠剤を得た。
【0077】
(実施例8)
表5に記載の処方に従い、実施例7と同様に操作を行い、錠剤を得た。
【0078】
(実施例9)
表5に記載の処方に従い、実施例7と同様に操作を行い、錠剤を得た。
【0079】
【表5】
【0080】
(試験例4)溶出試験(第一液)
試験例1と同様に溶出試験を行った。溶出試験の結果を
図5に示す。
直接打錠法により錠剤を調製すると、造粒法で製造した錠剤のような速やかな溶出は示さないが(
図3参照)、賦形剤としてイソマルのような糖アルコールを用い、糖アルコールの量を増量することにより、溶出率の改善効果が認められる(実施例7〜9)。
【0081】
(参考例1)
表6記載の処方に従い、化合物1と結晶セルロースをポリエチレン袋中で3分間混合した。当該混合品を打錠機(HT―AP―18SS−II、畑鉄工所、直径8.5mmの臼、曲率半径10mmのR面杵)を用いて質量250mg、打錠圧力が1000kgfとなるように、打錠し、錠剤を得た。
【0082】
(参考例2)
表6記載の処方に従い、化合物1とイソマルをポリエチレン袋中で3分間混合した。当該混合品を打錠機(HT―AP―18SS−II、畑鉄工所、直径8.5mmの臼、曲率半径10mmのR面杵)を用いて質量250mg、打錠圧力が1000kgfとなるように、打錠し、錠剤を得た。
(参考例3)
表6記載の処方に従い、化合物1と乳糖水和物をポリエチレン袋中で3分間混合した。当該混合品を打錠機(HT―AP―18SS−II、畑鉄工所、直径8.5mmの臼、曲率半径10mmのR面杵)を用いて質量250mg、打錠圧力が1000kgfとなるように、打錠し、錠剤を得た。
【0083】
(参考例4)
表6記載の処方に従い、化合物1とマンニトールをポリエチレン袋中で3分間混合した。当該混合品を打錠機(HT―AP―18SS−II、畑鉄工所、直径8.5mmの臼、曲率半径10mmのR面杵)を用いて質量250mg、打錠圧力が1000kgfとなるように、打錠し、錠剤を得た。
【0084】
【表6】
【0085】
(試験例5)安定性試験
参考例1〜参考例4の錠剤をガラス瓶に充填し、開栓および密栓した状態で40℃75%RH条件下、4週間保存した。保存後における 7−{(3S,4S)−3−アミノメチル−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸(化合物2)の含有量と、化合物1の含有量を液体クロマトグラフィーで測定し、化合物2の含量を化合物1の含量に対する百分率で表した。
【0086】
液体クロマトグラフィーによる試験条件
カラム:内径4.6mm、長さ150mmのそれぞれのステンレス管に3μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填し、分離カラムとした(ジーエルサイエンス、 Inertsil ODS−3)。
A液:1−オクタンスルホン酸ナトリウム2.16g を薄めたりン酸(1→1000)に溶かして1000mLとした。
B液:液体クロマトグラフィー用メタノール
送液:A液およびB液の混合比を変えて濃度勾配を制御した。
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:294 nm)
化合物2の化合物1に対する保持時間:0.70
【0087】
参考例1〜参考例3の安定性試験結果を表7に示す。イソマル(参考例2)、乳糖水和物(参考例3)またはマンニトール(参考例4)を配合した錠剤は、結晶セルロースを配合した錠剤(参考例1)と比べ、分解物の生成が抑制される傾向が認められた。
【0088】
【表7】