(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記水溶性多糖類が、水溶性セルロース誘導体、キサンタンガム、ダイユータンガム、カラギーナンから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項3に記載の平版印刷インキ組成物。
【背景技術】
【0002】
湿し水を用いた平版印刷は、水と油(インキは油に相当する)との反発を利用して印刷版上に画像を形成する。版面上の画線部(親油性部分)にはインキが付着し、非画線部(親水性部分)は表面が湿し水で被覆されてインキを反発する。そして版面から用紙等へインキが転移し、用紙上に画像が形成される。
【0003】
印刷インキの原料の一つとして石油系有機溶剤が用いられるが、この溶剤の大部分は揮発性有機化合物(VOC)に属する。環境保全及び地球温暖化防止のために、温室効果ガスおよび揮発性有機化合物(VOC)の排出量を削減することへの社会的要望が高まっている。
尚、本明細書において揮発性有機化合物(VOC)とは、世界保健機構のVOC分類中のVVOC及びVOCを合わせたものをいう。これは印刷インキのエコマーク基準でもある。
VVOC・・・沸点範囲 0℃〜50−100℃
VOC・・・・沸点範囲 50−100℃〜240−260℃
【0004】
印刷インキに含まれるVOCを削減する方策の一つとして、印刷インキの原料である石油系溶剤を水に置換することが挙げられる。本発明では水をインキ中に保持するために水溶性の多糖類を用いるが、関連する技術として特許文献1〜4に記載された発明がある。
【0005】
特許文献1にはセルロースまたは非水溶性のセルロース誘導体を0.1〜15重量%含む平版印刷インキが記載されている。非画線部の感脂化を起こさず、印刷時に汚れの発生が無いとされている。但し本文献の印刷インキは水を含有しないため、VOCは削減されない。またセルロース誘導体は水溶性であることは好ましくないとされている。
【0006】
特許文献2には非水溶性の高吸水性樹脂からなる微粒子を含有し、その樹脂が自重の50倍以下の量の水を吸収していることを特徴とするインキが記載されている。このインキは、湿し水の供給量が不足ぎみになったときでも汚れを発生させないで良好な印刷適性を保持できるとされている。
【0007】
特許文献3には自重の100倍以上の水を吸収させた吸水性ポリマーをインキビヒクル中に分散せしめたことを特徴とする平版印刷インキが記載されている。このインキはインキの他の特性に影響を及ぼさずに、湿し水の適正供給量の幅を広げる(即ち湿し水が少な目でも多目でも広い範囲で適正に印刷が行える)ことができるとされている。この文献には該ポリマーの水溶性や、その水溶液の粘度に関する記載は無い。
【0008】
特許文献4には、ファウンテン溶液(湿し水)を用いない、オフセットリソグラフィー新聞印刷用の水性インクが記載されている。印刷インクからのVOC発生を減少させるために水及び水可溶性の樹脂や樹脂バインダーを含む。但し、本文献のインクは水なし印刷版でのみ印刷することができる。従来の湿し水を用いる平版印刷には用いることはできない。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において、原料配合の組成割合、部、%等は特記しない限り質量基準である。
(インキ組成の概要説明)
本発明の平版印刷インキ組成物の主要な成分として、色料、ビヒクル及び助剤が挙げられる。
【0017】
色料として顔料、染料等が挙げられるが、顔料にはほぼ無色の体質顔料と呼ばれるものが含まれる。
【0018】
(顔料)
本発明の平版印刷インキ組成物に用いられる顔料としては、任意の無機及び有機顔料が使用できる。無機顔料としては、黄鉛、亜鉛黄、紺青、カドミウムレッド、亜鉛華、弁柄、アルミナホワイト、群青、カーボンブラック、グラファイト、アルミニウム粉、ろう石クレー等のクレー、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、シリカ、ベントナイト、酸化チタンなどがあげられる。
【0019】
有機顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アントラキノン系、ジオキサジン系などオフセットインキに用いられる顔料が挙げられる。有機顔料に関しては、例えば、銅フタロシアニン系顔料(C.I.Pigment Blue 15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、C.I.Pigment Green 7、36)、モノアゾ系顔料(C.I.Pigment Red 3、4、5、23、48:1、48:2、48:3、48:4、49:1、49:2、53:1、57:1)、ジスアゾ系顔料(C.I.Pigment Yellow 12、13、14、17、83)、アントラキノン系顔料(C.I.Pigment Red177)、キナクリドン系顔料(C.I.Pigment Red 122、C.I.Pigment Violet 19)、ジオキサジン系顔料(C.I.Pigment Violet 23)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
(ビヒクルについて)
ビヒクルは植物油、植物油脂肪酸エステル、植物油を原料とするエーテル、鉱物油等の油、天然樹脂及び又は合成樹脂、可塑剤、ワックス及び溶剤等から成る。溶剤には有機溶剤等が含まれる。本発明の平版印刷インキ組成物は、溶剤を構成する成分の一つとして水を含有する。
【0021】
天然樹脂及び又は合成樹脂としては、少なくともロジン変性フェノール樹脂を含有し、それを用いたロジン変性フェノール樹脂ワニスを含有する。
【0022】
ロジン変性フェノール樹脂以外のバインダー樹脂としては、石油樹脂、アルキッド樹脂、ロジン変性アルキッド樹脂、石油樹脂変性アルキッド樹脂、ロジンエステル等が挙げられる。
【0023】
(ロジン変性フェノール樹脂ワニス)
本発明の平版印刷インキ組成物に使用されるロジン変性フェノール樹脂ワニスは、n−ヘプタントレランス値が5〜50(mL/3g)であることが好ましい。Lはリットルである。
【0024】
トレランス値は一般的な方法で測定することができる。例えば、ワニス3gを25℃に保ちながら、n−ヘプタンを滴下してワニスと混合撹拌し、完全に白濁した時のn−へプタンの添加量(mL)がn−ヘプタントレランスである(単位はmL/3g)。
【0025】
本発明の平版印刷インキ組成物に用いるロジン変性フェノール樹脂ワニスは、公知の合成方法によって得られる。例えば公知のロジン変性フェノール樹脂に植物油、有機溶剤を添加して加熱溶解し、植物油成分とのエステル交換反応及び又はアルミキレートを用いたキレーション反応を行う方法である。
【0026】
この際、分子量の異なるロジン変性フェノール樹脂を選定することや、その他のバインダー樹脂として、石油樹脂、アルキッド樹脂、ロジン変性アルキッド樹脂、石油樹脂変性アルキッド樹脂、ロジンエステル等を一緒に加熱溶解すること、エステル交換の温度を変更する手法などを用いることにより、所定のトレランス値への調整が可能になる。
【0027】
(植物油)
本発明の平版印刷インキ組成物に使用される植物油成分としては、大豆油、亜麻仁油、米油、キリ油、ひまし油、脱水ひまし油、コーン油、サフラワー油、南洋油桐油、カノール油等の油類及びこれらの熱重合油、酸化重合油がある。
【0028】
植物油脂肪酸エステルとして、アマニ油脂肪酸メチルエステル、アマニ油脂肪酸エチルエステル、アマニ油脂肪酸プロピルエステル、アマニ油脂肪酸ブチルエステル、大豆油脂肪酸メチルエステル、大豆油脂肪酸エチルエステル、大豆油脂肪酸プロピルエステル、大豆油脂肪酸ブチルエステル、パーム油脂肪酸メチルエステル、パーム油脂肪酸エチルエステル、パーム油脂肪酸プロピルエステル、パーム油脂肪酸ブチルエステル、ひまし油脂肪酸メチルエステル、ひまし油脂肪酸エチルエステル、ひまし油脂肪酸プロピルエステル、ひまし油脂肪酸ブチルエステル、南洋油桐油のエステル等も同様に用いることができる。 植物油を原料とするエーテルとして、ジ−n−オクチルエーテル、ジ−ノニルエーテル、ジヘキシルエーテル、ノニルヘキシルエーテル、ノニルブチルエーテル、ジヘプチルエーテル、ジデシルエーテル、ノニルオクチルエーテル等も同様に用いることができる。
【0029】
また前記の植物油成分は、再生植物油であっても使用することができる。再生植物油とは、調理等に使用された油を回収し、再生処理された植物油のことである。再生植物油としては、含水率を0.3質量%以下、ヨウ素価を90以上、酸価を3以下として再生処理した油が好ましく、より好ましくはヨウ素価100以上である。含水率を0.3質量%以下にすることにより水分に含まれる塩分等のインキの乳化挙動に影響を与える不純物を除去することが可能となり、ヨウ素価を90以上として再生することにより、乾燥性、すなわち酸化重合性の良いものとすることが可能となり、さらに酸価が3以下の植物油を選別して再生することにより、インキの過乳化を抑制することが可能となる。回収植物油の再生処理方法としては、濾過、静置による沈殿物の除去、および活性白土等による脱色といった方法が例示される。
【0030】
(有機溶剤)
本発明の平版印刷インキ組成物に使用される有機溶剤は、一般に印刷インキに用いられるものを用いることができる。沸点範囲が230〜320℃であることが好ましい。この有機溶剤として、JX日鉱日石エネルギー製AFソルベント4号、5号、6号、7号、ISUケミカルCo.LTD製DSOL240、260SP、260Cなどが例示される。
【0031】
(助剤について)
助剤に属するものとして、ドライヤー、粘度調節のためのコンパウンド、ワックス、乾燥防止剤、消泡剤、乳化適性を調節するための界面活性剤(乳化剤)、防腐剤及び殺菌剤等が例示される。本発明の平版印刷インキ組成物は助剤の一つとして後述する水溶性多糖類を含有する。
【0032】
ワックスは印刷インキ皮膜のこすれ防止等のために添加される。ワックスとしては、印刷インキに用いられている一般的なものを使用できる。例えば、カルナバワックス、みつろう、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、脂肪酸アマイド、ポリテトラフルオロエチレン等がある。
【0033】
乳化適性を調節するために、後述する水溶性多糖類とともに界面活性剤(乳化剤)を用いてもよい。乳化剤としては水溶性、非水溶性のいずれであっても用いることができこれらを併用してもよいが、非水溶性乳化剤を用いる場合はその含有量を平版印刷インキ組成物の1質量%未満とすることが好ましく、0.6質量%以下とすることがより好ましい。印刷時に、非水溶性乳化剤は水溶性乳化剤と異なり湿し水に溶出することなく印刷インキ中に残存する。水溶性多糖類と非水溶性乳化剤が本発明のように印刷前から水を含む印刷インキ組成物中で共存すると、湿し水を過剰に取り込んで印刷インキ組成物が過乳化し、水棒に絡んで湿し水の転移を阻害するなどして耐汚れ性が低下するおそれがある。非水溶性の界面活性剤(乳化剤)の含有量を上記の範囲とすることにより、このような不具合を防止することができる。
【0034】
水溶性の乳化剤としては、従来公知のものを用いることができ特に限定されないが、一例としてトリデカノール、2−ヘキシルオクタノール、2−ヘキシルデカノール、2−オクチルデカノール、又はヘキシルジグリコールなどが挙げられる。
非水溶性の乳化剤としては、モノオレイン酸ソルビタン、モノオレイン酸グリセリン、ポリオキシエチレンクミルフェニルエーテル等が例示される。このような乳化剤は市販品としても入手可能であり、例えば花王製レオドールSP−010V、レオドールSP−030Vや、日本乳化剤社製ニューコールCMP−1が挙げられる。
【0035】
平版印刷インキ組成物には、リン酸類やその塩、クエン酸やその塩といった酸類やその塩がしばしば添加される。このような無機酸、有機酸類やその塩を添加する目的の一つは印刷版の非画線部への印刷インキ組成物の付着を防止することにある。しかしながら本発明の平版印刷インキ組成物にこのような酸類やその塩類を添加すると、水溶性多糖類の水への溶解性が低下して不溶化し、保存安定性や耐汚れ性が低下するおそれがある。このため本発明の印刷インキ組成物における無機酸、有機酸類やその塩の含有量の合計は平版印刷インキ組成物の0.2質量%以下とすることが好ましく、0.1質量%以下とすることがより好ましく、0.05質量%以下とすることがさらに好ましい。これにより上記のような不具合を防止することができる。
【0036】
なお、上述した無機酸、有機酸類やその塩の具体例としては、リン酸、ピロリン酸、メタリン酸、ヘキサメタリン酸、ポリリン酸等のリン酸類、これらリン酸類のアンモニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属二水素塩、クエン酸、クエン酸のアンモニウム塩、アルカリ金属塩、マグネシウム塩などが挙げられる。
【0037】
(インキ中の水分量について)
インキ中の水分量は、良好な印刷適性を保持するために1〜30%が好ましい。水分量が30%を超えると、印刷適性の悪化や後述するインキの保存安定性の悪化が見られる。
水分量が1%以下では印刷適性の改善効果が得られにくくなる。水分量は1〜20%がより好ましく、さらに好ましくは1〜15%である。
【0038】
(水溶性多糖類について)
水溶性多糖類は印刷インキ組成物中で安定的に水を保持する一方、印刷時には湿し水中に徐々に溶出するため印刷インキ組成物の過乳化や、これに起因する耐汚れ性の低下を抑制することができる。
本発明に使用される水溶性多糖類として、水溶性セルロース誘導体、アラビアガム、カラギーナン、グアガム、ペクチン、トラガント、サクラン、スピルラン、グルコマンナン、アミロース、ウェランガム(ジェランガム)、タラガム(スピノガム)、ローカストビーンガム、プルラン、ダイユータンガム、キサンタンガム、コンドロイチン硫酸ナトリウム等が挙げられる。水溶性セルロース誘導体、キサンタンガム、ダイユータンガム、カラギーナンが好ましく、水溶性セルロース誘導体が特に好ましい。
【0039】
(水溶性セルロース誘導体について)
水溶性セルロース誘導体としてはメチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、これらセルロースにカチオン化剤を付加したカチオン化セルロース等が例示され、中でもカルボキシメチルセルロースナトリウム(以下CMCとも記載する)が好ましく用いられる。
【0040】
(インキ中の水溶性多糖類の量について)
良好な水保持能力及び良好な印刷適性を備えるために、本発明の平版印刷インキ組成物中の水溶性多糖類の含有量は0.01〜3%が好ましい。
水溶性多糖類が3%を超えると印刷中にインキ中に過剰の水分を取り込み、印刷機のローラー間でのインキの転移性や、ブランケットから版へのインキの転移性が低下し、濃度ムラ・カスレ等の品質不良が起きやすくなり、印刷適性が損なわれる。
水溶性多糖類が0.01%以下では適切な水保持能力が得られない。
水溶性多糖類の含有量は、より好ましくは0.01〜2%であり、さらに好ましくは0.01〜1%である。
【0041】
(水溶性多糖類の粘度について)
水溶性多糖類の粘度は、蒸留水に溶解した2%水溶液の粘度が2.5から1500mPa・sであるか、若しくはその1%水溶液の粘度が10〜8000mPa・sであることが好ましい。
より好ましくは、水溶性多糖類の1%水溶液の粘度が10〜4000mPa・sである。
さらに好ましくは、水溶性多糖類の1%水溶液の粘度が10〜2000mPa・sである。
水溶性多糖類の粘度が前記の範囲から外れる場合は印刷適性の悪化や後述するインキの保存安定性の悪化が見られる。
【0042】
水溶性多糖類の水溶液の粘度はJIS K7117−1に記載のブルックフィールド形回転粘度計(以下B形回転粘度計とも記載する)を用いて測定する。このタイプの粘度計として東京計器株式会社製B形回転粘度計(型式BM)が挙げられる。
具体的な測定手順は次の通りである。
1)水溶性多糖類中の水分量の測定
水溶性多糖類の試料1〜2gを秤量ビンに精密にはかりとり、105+−2℃の定温乾燥機中において4時間乾燥し、デシケーター中で冷却したのち重さを量り、その減量から次の式によって水分量(%)を算出する。
水分量(%)=(減量(g)/試料(g))×100
2)水溶液の調整
共栓付300mL(ミリリットル)の三角フラスコに、濃度2%とする場合は約4.4g、濃度1%の場合は約2.2gの試料を精密にはかりとり、次式で求めた蒸留水を加えて溶解する。
2%水溶液を作る場合:
加える蒸留水(g)=試料(g)×(98−水分量(%))/2
1%水溶液を作る場合:
加える蒸留水(g)=試料(g)×(99−水分量(%))
3)測定
前記の水溶液を一夜間放置後、マグネチックスターラーで約5分間かきまぜ、完全な溶液とする。
次にその溶液を口径約45mm、高さ約145mmのフタつき容器に移す。
次にその容器を25+−0.2℃に設定した恒温槽に30分間入れる。
溶液が25℃になればガラス棒でゆるくかきまぜて、B形回転粘度計の適当なローター(スピンドル)およびガードをとり付け、ローターを回転させてから3分後の目盛りを読み取る。ローターの回転数は粘度により、毎分30回転又は60回転とする。
粘度は次式により求める。
粘度(mPa・s)=読み取り目盛×係数
前式の係数は使用したローターの番号及び回転数に基づき表1から求める。
【0044】
(CMCのエーテル化度について)
水溶性多糖類としてCMCを用いる場合は、エーテル化度は0.45〜1.00であることが好ましい。エーテル化度が0.45より小さいと水溶性が低下し、1.00を超えるとインキの印刷適性が低下する。エーテル化度はより好ましくは0.45〜0.80であり、さらに好ましくは0.45〜0.70である。
【0045】
ここでエーテル化度とは、無水グルコース1単位当たりのカルボキシメチル基の数をいう。無水グルコース1単位当たりのカルボキシメチル基の数が1個の場合、エーテル化度は1.0である。
エーテル化度の測定方法の一例は次の通りである。
試料(無水物)0.5〜0.7gを精密にはかり、ろ紙に包んで磁製ルツボ中で灰化する。冷却したのち、これを500mL(ミリリットル)ビーカーに移し、水を約250mL、さらにピペットで0.05モル/L硫酸35mLを加えて30分間煮沸する。
これを冷却し、フェノールフタレイン指示薬を加えて、過剰の酸を0.1モル/L水酸化カリウムで逆滴定して、次の式によってエーテル化度を算出する。
A=(af−bg)/試料(無水物)(g)−アルカリ度(または+酸度)
エーテル化度=162×A/(10000−80A)
(記号の説明)
A:試料1g中の結合アルカリに消費された0.05モル/L硫酸のmL
a:0.05モル/L硫酸の使用mL
f:0.05モル/L硫酸の力価
b:0.1モル/L水酸化カリウムの滴定mL
g:0.1モル/L水酸化カリウムの力価
162:グルコースの分子量
80:CH2COONa−Hの分子量
(アルカリ度または酸度の求め方)
試料(無水物)約1gを300mL三角フラスコに精密にはかりとり、水を約200mL加えて溶かす。
これに0.05モル/L硫酸5mLをピペットで加え、10分間煮沸したのち冷却して、フェノールフタレイン指示薬を加え、0.1モル/L水酸化カリウムで滴定する(SmL)。同時に空試験を行い(BmL)、次の式によって算出する。
アルカリ度=(B−S)h/試料無水物(g)
h:0.1モル/L水酸化カリウムの力価
なお(B−S)hの値が負のときにはアルカリ度を酸度と読み替える。
【0046】
(インキの製造方法について)
本発明の平版印刷インキ組成物は、前記の色料、ビヒクル及び助剤を混合し、三本ロールミル等の練肉分散機を用いて製造される。
【0047】
水及び水溶性多糖類はインキ製造時の任意のタイミングで添加する事ができる。それぞれ別個に添加することができ、また水及びCMCを混合撹拌して均一な溶液とし、これをCMC以外の原料で別途製造した印刷インキ(ベースインキ)に添加して、全体を均一に混合することにより印刷インキとして仕上げることもできる。
【0048】
本発明の平版印刷インキ組成物は、下記に配合を示す原料を三本ロールミル等を用いて公知の方法で練肉分散してインキ中の粗大粒子の粒径が5μm以下になるように調製し、目的とするインキを得ることができる。
前記のインキ中の粗大粒子の粒径とは、JIS K5701−1に記載の練和度試験における練和度を指す。
【0049】
JIS K5701−1(平成12年1月20日制定)の4.3練和度に規定された試験方法は次の通りである。
溝の深さ(溝の目盛)が25μmから0μmまで直線的に変化しているグラインドメータのゲージ盤上の深いところにインキ等の試料を置き、スクレーパーを用いて掻き取るようにして溝内に試料の膜を作る。ゲージ盤上には溝の深さを示す目盛が刻まれている。
【0050】
試料中に粒子が存在すると、その粒子がスクレーパーで掻き取られて移動することにより、その粒子の大きさ(直径等)より浅い溝内に線が生じる。その線を観察し、10mm以上連続した線が、一つの溝について3本以上現れたところの目盛の値をAとし、10本以上現れたところの目盛の値の位置をBとする。
前記のインキ中の粗大粒子の粒径とは、前記位置Aにおける目盛の値である。
【0051】
本発明の平版印刷インキ組成物は、湿し水を用いる平版印刷、及び湿し水を用いない、水なし平版印刷のいずれにも好適に用いることができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例及び比較例により、本発明をより詳細に説明する。
(インキの調製のために用いるワニスの調製)
ロジン変性フェノール樹脂F−8305(DIC(株)製)・・・30部
大豆油(日清オイリオ(株)製)・・・24部
石油樹脂(東ソー(株)製)ペトコール120・・・10部
AFソルベント7号(JX日鉱日石エネルギー(株)製)・・・35部
以上の合計99部を加熱して溶解し、その後ALCH(アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート、川研ファインケミカル(株)製)1部を添加してキレーションを行って、トレランスが10(mL/3g)であるワニスを調製した。
なお、F−8305の重量平均分子量は38,000、酸価は16.5、n−ヘプタントレランスが400%のロジン変性フェノール樹脂である。n−ヘプタントレランスはロジン変性フェノール樹脂とトルエンとを質量比が1:1で混合した溶液1gを25℃に保ちながらn−ヘプタンを滴下し、溶液が白濁するまでに添加されたn−ヘプタンの量(mL)に100を乗じた値である。
【0053】
(ベースインキの調製)
有機顔料FASTOGENBlue FA5375(DIC(株)製)・・13部
炭酸カルシウム白艶華T−DD(白石工業(株)製)・・・3部
前記ワニス・・・40部
ワックスコンパウンド・・・1部
AFソルベント7号(JX日鉱日石エネルギー(株)製)・・・3部
以上合計60部を混合し、三本ロールミルを用いて練肉分散して実施例及び比較例で用いるベースインキを調製した。
尚、上記のワックスコンパウンドは、ポリテトラフルオロエチレンワックスを前記ワニス中に濃度30%で分散したものである。
【0054】
さらに表2−4に示す配合割合に従ってベースインキ、ワニス及びその他の成分を配合し、ミキサー等を用いて均一に混合分散して実施例1〜20に示すインキを作成した。
また同様に表5−7に示す配合割合に従って比較例1〜15及び参考例のインキを作成した。
水溶性多糖類は配合量により、直接添加するか、又は水溶液を作ってから添加した。
参考例は、水溶性多糖類及び水を含有しない、従来一般に使われている印刷インキであり、このインキの印刷適性を2(標準レベル)とした。印刷適性が2以上を良とし、2未満は不良である。
比較例9及び参考例の印刷インキは水を含有しないため、保存安定性の評価は行っていない。
【0055】
尚、表2−7に示す実施例及び比較例では、水溶性多糖類として各例に示す粘度及びエーテル化度(CMCの場合)のものを用いた。表中のHECはヒドロキシエチルセルロースであり、HPCはヒドロキシプロピルセルロースであり、HPMCはヒドロキシプロピルメチルセルロースである。CMCのメーカーとしてダイセルファインケム株式会社、第一工業製薬株式会社、ニチリン化学工業株式会社、日本製紙株式会社、CP kelco社等が挙げられる。
各表の水溶性多糖類粘度(1%)は、水溶性多糖類濃度1%の水溶液の粘度を表す。水溶性多糖類粘度(2%)は、水溶性多糖類濃度2%の水溶液の粘度を表す。
リン酸は85%濃度の水溶液(和光純薬製)を使用した。また、表中のリン酸の配合量は、85%水溶液の配合量を意味する。
非水溶性乳化剤は、モノオレイン酸グリセリン(花王製 レオドール SP−030V)を用いた。
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
【表4】
【0059】
【表5】
【0060】
【表6】
【0061】
【表7】
【0062】
上記で調製した実施例及び比較例のインキを下記の評価法により評価を行った。
(保存安定性の評価方法)
インキの調製後、25℃、相対湿度50%でインキを3カ月間保管した後、そのインキ1.0gをフーバーマラーに置き、1.1kgの重量でインキを100回転練肉した。練肉後のインキをインキナイフでこすり取り、このインキを以下のように観察した。
インキから分離した水滴はほとんど見られない・・・3(良好)
インキから分離した微小な水滴が見られる・・・2(実用上問題は無い)
インキから分離した水滴が多く見られる・・・1(実用できない)
【0063】
(印刷適性の評価方法)
印刷機・・・ローランドR700印刷機(マンローランド社製)
印刷速度・・・10000枚/時
印刷版・・・ExThermo TP−W(コダック合同会社製)
H液・・・プレサートWD100(DIC株式会社製)
用紙・・・OKトップコート+(米坪 104.7g/m
2 王子製紙株式会社製)
H液は水で濃度1%に希釈したものを湿し水として用いた。
汚れ性の評価は、1万部印刷時の紙面の50%網点部分を顕微鏡で拡大観察して、非画線部の汚れ度合いを次の3段階で評価した。
汚れはほとんど見られない・・・3(良好)
汚れは僅かに見られるが実用上問題は無い・・・2
汚れがかなり発生しており、実用上問題がある・・・1
【0064】
(VOC削減率)
次の式によってVOC削減率(%)を計算した。
VOC削減率=100−(各インキのVOC量/参考例インキのVOC量)×100
各インキ中のVOC量はAFソルベント7号(AF−7)の合計量であり、ワニス及びベースインキ中のAF−7の量と、表2−7に示す配合中のAF−7とを合計して求めた。
【0065】
以上の実施例、比較例の結果から、本発明を構成する要件から外れたインキでは、発明
の課題を解決することはできず、本発明の構成をもって初めて課題解決に至ることが明ら
かである。
次の(a)〜(d)の条件をすべて満足する平版印刷インキ組成物である。(a)水溶性のセルロース誘導体を0.01〜3質量%含有する。(b)水を1〜30質量%含有する。(c)前記のセルロース誘導体の2%水溶液の粘度が2.5から1500mPa・sであるか、若しくはその1%水溶液の粘度が10〜8000mPa・sである。(d)前記のセルロース誘導体のエーテル化度が0.45〜1.00である。
さらに本発明は、湿し水を用いた印刷方式に用いられる前記の平版印刷インキ組成物である。さらに本発明は、前記の平版印刷インキ組成物を用いて印刷された印刷物である。