(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018354
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】合金組成物及びそれを含んでなる物品
(51)【国際特許分類】
B23K 35/30 20060101AFI20161020BHJP
C22C 19/05 20060101ALI20161020BHJP
C22C 19/07 20060101ALI20161020BHJP
C23C 4/06 20160101ALI20161020BHJP
F01D 5/28 20060101ALI20161020BHJP
F01D 9/02 20060101ALI20161020BHJP
F01D 25/00 20060101ALI20161020BHJP
F02C 7/00 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
B23K35/30 340L
B23K35/30 340M
C22C19/05 B
C22C19/07 G
C23C4/06
F01D5/28
F01D9/02 102
F01D25/00 L
F02C7/00 C
F02C7/00 D
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2008-236(P2008-236)
(22)【出願日】2008年1月7日
(65)【公開番号】特開2008-168346(P2008-168346A)
(43)【公開日】2008年7月24日
【審査請求日】2011年1月6日
【審判番号】不服2015-10834(P2015-10834/J1)
【審判請求日】2015年6月9日
(31)【優先権主張番号】11/621,297
(32)【優先日】2007年1月9日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390041542
【氏名又は名称】ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ
(74)【代理人】
【識別番号】100137545
【弁理士】
【氏名又は名称】荒川 聡志
(74)【代理人】
【識別番号】100105588
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 博
(74)【代理人】
【識別番号】100129779
【弁理士】
【氏名又は名称】黒川 俊久
(74)【代理人】
【識別番号】100113974
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 拓人
(72)【発明者】
【氏名】キャナン・ウスル・ハードウィック
(72)【発明者】
【氏名】ガンチャン・フェン
(72)【発明者】
【氏名】ウォーレン・マーティン・ミグリエッティ
【合議体】
【審判長】
鈴木 正紀
【審判官】
河野 一夫
【審判官】
板谷 一弘
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/30
C22C 19/00 - 19/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MCrAlY組成物(式中、Mはコバルトとニッケルとの組合せであり、Crはクロムであり、Alはアルミニウムであり、Yはイットリウムである。)と、
ハフニウム、ジルコニウム、チタン及びこれらの組合せからなる群から選択される4族金属と、
ルテニウム又はルテニウムとレニウムの組合せからなる拡散制限金属と、
ケイ素から選択される14族元素と
からなる、ガスタービンエンジンでオーバーレイ皮膜及び/又はボンドコートとして使用できる組成物であって、
当該組成物の総重量を基準にして、16〜50重量%のコバルトと、25〜35重量%のニッケルと、15〜25重量%のクロムと、7〜15重量%のアルミニウムと、0.1〜3重量%のイットリウムと、0.1〜1重量%のハフニウムと、ルテニウム又はルテニウムとレニウムの組合せからなる1〜10重量%の拡散制限金属と、0.5〜3重量%のケイ素とからなる、組成物。
【請求項2】
さらに、それぞれ3重量%未満のパラジウム、白金、ロジウム、ランタニド金属又はこれらの組合せを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の組成物を含んでなる物品であって、該組成物が物品の表面上に配設されており、該表面が物品の裸の表面であるか、或いは予備配設された組成物を含む表面であり、当該物品がガスタービン部品である、物品。
【請求項4】
当該物品が、パラジウム、白金、ロジウム、4族金属、ケイ素及びゲルマニウムを実質的に含まない組成物を含んでなる他の点では全く同一の物品に比べて向上した耐酸化性を有する、請求項3記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービンエンジンでオーバーレイ皮膜及び/又はボンドコートとして使用できる合金組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンエンジンの高温領域で使用される合金表面の保護は、オーバーレイ皮膜及び/又はボンドコート上に堆積させた遮熱コーティング(TBC)の使用で達成できる。オーバーレイ皮膜及びTBCは、下方に位置する合金基体を熱及び高温ガスの腐食性環境から保護する。通例はTBC及びオーバーレイ皮膜で被覆されるガスタービン部品には、タービン動翼及び静翼、ガス混合導管、タービンシュラウド、バケット、ノズル、燃焼器内筒及び反らせ板並びに高熱及び腐食性ガスの条件に暴露される他の部品のような可動部品及び静止部品の両方が含まれる。TBC及びオーバーレイ皮膜は、通例、これらの部品の外側部分又は外面を構成する。TBC及び/又はオーバーレイ皮膜の存在は、高温燃焼ガスと合金基体との間に遮熱バリヤーを提供し、熱、腐食及び/又は酸化で誘起されることのある基体の損傷を防止、軽減又は低減することができる。
【0003】
合金タービン部品を保護するために最も効果的な皮膜は、MCrAlY皮膜として知られるものであり、式中のMは通例はコバルト、ニッケル、鉄又はこれらの組合せである。これらの皮膜は、オーバーレイ皮膜及びボンドコートのいずれにも有用である。
【0004】
合金皮膜中に存在するアルミニウムは合金基体中に拡散することがあるが、これは望ましくない。かかる拡散は合金組成物中のアルミニウム含量を減少させるが、アルミニウムは保護酸化アルミニウム表面の形成を可能にするために必要である。表面皮膜及び基体中の他の元素(例えば、ニッケル、コバルト又はクロム)の相互拡散も起こるが、やはり望ましくない。
【0005】
かかる合金組成物は、とりわけ、TBCと合金基体との間のボンドコートとして有用である。TBCは、ガスタービン運転中に離層及びスポーリングを受けやすい。スポーリング及び離層は、TBCとボンドコートとの界面に形成し得る熱成長酸化物層(TGO)の存在をはじめとする幾つかの要因で引き起こされることがある。TGOの形成は、ボンドコートのアルミニウムの酸化の結果であり得ると共に、ボンドコートからTBCへのアルミニウム拡散によって促進され得る。かかる拡散はボンドコートの組織の変化を引き起こし、これがさらにTBCとボンドコートとのひずみ不整合を引き起こすことがある。TBCが剥がれ落ちた後、系の酸化はボンドコート中のアルミニウム含量が酸化アルミニウム保護層を形成することで保護される。
【特許文献1】米国特許第3918139号明細書
【特許文献2】米国特許第4034142号明細書
【特許文献3】米国特許第4419416号明細書
【特許文献4】米国特許第4585481号明細書
【特許文献5】米国特許第4861618号明細書
【特許文献6】米国特許第6979498号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2005/0214563号明細書
【特許文献8】国際公開第2005/056852号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、ボンドコートで使用するための向上した拡散特性を有する合金組成物に対するニーズが存在している。向上した拡散特性を有するボンドコートは、TBCのスポーリング及び離層の開始を低減又は遅延させ得るので望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
当技術分野における上記の欠点は、一実施形態では、MCrAlY組成物、ハフニウム、ジルコニウム、チタン及びこれらの組合せからなる群から選択される4族金属、並びにルテニウム、レニウム及びこれらの組合せからなる群から選択される拡散制限金属を含んでなる組成物であって、Mはニッケル又はニッケルと、コバルト、鉄及びコバルトと鉄の組合せからなる群から選択される金属との組合せであり、Crはクロムであり、Alはアルミニウムであり、Yはイットリウムである組成物によって緩和される。
【0008】
一実施形態では、当該組成物の総重量を基準にして、約16〜約50重量%のコバルト、約25〜約35重量%のニッケル、約15〜約25重量%のクロム、約7〜約15重量%のアルミニウム、約0.1〜約3重量%のイットリウム、約0.1〜約1重量%のハフニウム、ルテニウム、レニウム及びこれらの組合せからなる群から選択される約1〜約10重量%の拡散制限金属、並びに約0.5〜約3重量%のケイ素を含んでなる組成物が開示される。
【0009】
一実施形態では、上記の組成物からなるオーバーレイ皮膜又はボンドコートを含んでなるガスタービン部品が開示される。
【0010】
上記その他の特徴は、以下の詳細な説明によって例示される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
意外にも、MCrAlY組成物及び約0.05〜約5重量%の4族金属(詳しくはハフニウム、ジルコニウム、チタン又はこれらの組合せ)を含んでなる組成物に約0.1〜約15重量%の拡散制限金属(詳しくはルテニウム、レニウム又はこれらの組合せ)を添加すれば、含有アルミニウムについて低い拡散率を有する組成物が得られることが判明した。かかる組成物はさらに約0.1〜約5重量%のケイ素及び/又はゲルマニウムを含み得るが、ケイ素及び/又はゲルマニウムの存在はアルミニウムの拡散をさらに向上(即ち、遅延及び/又は低減)させることができる。各々の重量百分率は組成物の総重量を基準にしている。かかる組成物は、ボンドコート及びオーバーレイ皮膜として使用するのに有利である。
【0012】
本明細書中に開示される組成物は、MCrAlY組成物、ハフニウム、ジルコニウム、チタン及びこれらの組合せからなる群から選択される4族金属、並びにルテニウム及び/又はレニウムから選択される拡散制限金属を含んでなる。本明細書中で使用する「MCrAlY組成物」とは、クロムと、アルミニウムと、イットリウムと、ニッケル並びにニッケルとコバルト及び/又は鉄との組合せから選択される金属Mとを含む組成物をいう。一実施形態では、本組成物はさらに14族元素(詳しくはケイ素及び/又はゲルマニウム)を含み得る。
【0013】
金属Mは、ニッケル並びにニッケルとコバルト及び/又は鉄との組合せから選択される。これは、組成物の総重量を基準にして約10〜約80重量%、詳しくは約12〜約75重量%、さらに詳しくは約14〜約70重量%、さらに一段と詳しくは約16〜約65重量%の量で組成物中に存在する。一実施形態では、Mはニッケルである。別の実施形態では、Mはニッケルとコバルトの組合せである。別の実施形態では、Mはニッケルと鉄の組合せである。さらに別の実施形態では、Mはニッケルと鉄とコバルトの組合せである。
【0014】
Mがニッケルである場合、ニッケルは組成物の総重量を基準にして約20〜約80重量%、詳しくは約30〜約75重量%、さらに詳しくは約40〜約70重量%で組成物中に存在する。Mがニッケルと鉄及び/又はコバルトとの組合せである場合、ニッケルは組成物の総重量を基準にして約20〜約40重量%、詳しくは約22〜約38重量%、さらに詳しくは約25〜約35重量%の量で存在するのに対し、組成物中のコバルト及び鉄の総量は組成物の総重量を基準にして約10〜約60重量%、詳しくは約12〜約53重量%、さらに詳しくは約14〜約45重量%、さらに一段と詳しくは約16〜約40重量%である。
【0015】
クロムは、組成物の総重量を基準にして約5〜約30重量%、詳しくは約10〜約28重量%、さらに詳しくは約15〜約25重量%の量で組成物中に存在する。
【0016】
本組成物はまた、組成物の総重量を基準にして約5〜約20重量%、詳しくは約6〜約18重量%、さらに詳しくは約7〜約15重量%の量でアルミニウムを含んでいる。
【0017】
本組成物は、組成物の総重量を基準にして約0.05〜約5重量%、詳しくは約0.1〜約4重量%、さらに詳しくは約0.1〜約3重量%の量でイットリウムを含んでいる。
【0018】
本組成物はまた、ハフニウム、ジルコニウム、チタン及びこれらの組合せからなる群から選択される4族金属を含んでいる。4族金属は、組成物の総重量を基準にして約0.05〜約5重量%、詳しくは約0.1〜約3重量%、さらに詳しくは約0.1〜約1重量%の量で組成物中に存在する。特定の実施形態では、使用される4族金属はハフニウムである。別の特定の実施形態では、使用される4族金属はジルコニウムである。さらに別の特定の実施形態では、使用される4族金属はチタンである。一実施形態では、ハフニウムとジルコニウム及び/又はチタンとの組合せが使用される。一実施形態では、本組成物はジルコニウム及びチタンを実質的に含まない。本明細書中で組成物がある成分を「実質的に含まない」という場合には、特記しない限り、組成物の総重量を基準にして0.04重量%未満、詳しくは0.01重量%未満、さらに詳しくは0.001重量%未満の量を有することを意味する。
【0019】
本組成物はさらに、ルテニウム、レニウム及びこれらの組合せからなる群から選択される拡散制限金属を含んでいる。ルテニウム、レニウム又はこれらの組合せは、組成物の総重量を基準にして約0.1〜約15重量%、詳しくは約0.5〜約13重量%、さらに詳しくは約1〜約10重量%の量で組成物中に存在する。一実施形態では、本組成物は約1〜約10重量%のルテニウムを含んでいる。別の実施形態では、本組成物は約2〜約6重量%のレニウムを含んでいる。さらに別の実施形態では、本組成物は約2〜約7重量%のルテニウム及び約1〜約5重量%のレニウムを含んでいる。
【0020】
本組成物はさらに、追加量の14族元素(詳しくはケイ素及び/又はゲルマニウム)を含み得る。存在する場合、ケイ素及び/又はゲルマニウムは、組成物の総重量を基準にして約0.1〜約5重量%、詳しくは約0.3〜約4.5重量%、さらに詳しくは約0.5〜約4.0重量%の量で含有され得る。一実施形態では、ケイ素は組成物の重量を基準にして約0.5〜約4重量%の量で組成物中に存在する。別の実施形態では、本組成物は14族元素を実質的に含まない。
【0021】
14族元素の使用量を開示された範囲内に保つことが有利である。過剰のケイ素を使用すれば、かかる組成物から形成された皮膜はケイ化物の生成によってケイ素を失い、皮膜の寿命の短縮を招く。
【0022】
本組成物はさらに、パラジウム、白金、ロジウム及びランタニド(又はランタノイド)元素のような他の金属を含み得る。存在する場合、かかる他の金属はそれぞれ組成物の総重量を基準にして約3重量%未満の量で存在する。
【0023】
加えて、その存在が組成物の所望の性質に顕著な悪影響を及ぼさないことを条件にすれば、他の微量成分が少ない量(例えば、組成物の総重量を基準にしてそれぞれ0.1重量%以下の量)で存在してもよい。かくして、一実施形態では、本組成物はコバルト、鉄、ニッケル、クロム、アルミニウム、イットリウム、ルテニウム及びハフニウムから本質的になる。別の実施形態では、本組成物はコバルト、ニッケル、クロム、アルミニウム、イットリウム、ルテニウム及びハフニウムから本質的になる。別の実施形態では、本組成物はコバルト、ニッケル、クロム、アルミニウム、イットリウム、ルテニウム、ハフニウム及びケイ素から本質的になる。さらに別の実施形態では、本組成物はコバルト、ニッケル、クロム、アルミニウム、イットリウム、ルテニウム、レニウム及びハフニウムから本質的になる。さらに別の実施形態では、本組成物はコバルト、ニッケル、クロム、アルミニウム、イットリウム、ルテニウム、レニウム、ハフニウム及びケイ素から本質的になる。一実施形態では、本組成物はニッケル、クロム、アルミニウム、イットリウム、ルテニウム、レニウム、ハフニウム及びケイ素から本質的になる。別の実施形態では、本組成物はニッケル、クロム、アルミニウム、イットリウム、ルテニウム及びケイ素から本質的になる。さらに別の実施形態では、本組成物はニッケル、クロム、アルミニウム、イットリウム及びルテニウムから本質的になる。
【0024】
本組成物を基体上に施工するためには、本組成物を溶融状態でブレンドし、凝固させ、固体を粉末状にすることができる。別法として、本組成物の粉末状の各成分を使用し、適当な方法(例えば、粉末ミキサーを用いた混合)で合わせることもできる。本組成物は、特に限定されないが、溶射、物理蒸着法、プラズマ法、電子ビーム法、スパッタリング、スラリー塗布、直接書込み又はめっきをはじめとする方法を用いて基体上に配設できる。
【0025】
本組成物の蒸着を使用する場合、単一又は多重蒸発源方法を用いて基体上に本組成物を堆積させることができる。ハフニウム、ルテニウム及びレニウムのような成分金属の蒸気圧は他の成分に比べて低いので、ハフニウム、ルテニウム及びレニウムをそれぞれ含む蒸発源並びに組成物の残部を含む蒸発源を用いる多重蒸発源方法を使用するのが有利である。
【0026】
一実施形態では、本組成物は、空気プラズマ溶射(APS)、低圧プラズマ溶射(LPPS)、真空プラズマ溶射(VPS)及び高速ガスフレーム溶射(HVOF)のような溶射法を用いて基体上に配設される。本発明ではHVOFを使用するのが有利である。それによれば、ノズルに取り付けた高圧冷却燃焼室に、灯油、アセチレン、プロピレン、水素など及びこれらの組合せから選択される燃料を供給する。粉末状の本組成物を高圧下で燃焼室内に供給するか、又はノズル側面の入口を通して供給することができる。HVOF法が有利であり、当業者は当面の用途に応じてパラメーターを調整することができる。
【0027】
本組成物は、任意の目的のため(例えば、新しい層の形成又は既存の層の補修のため)、基体上に配設できる。この場合、かかる層はとりわけオーバーレイ皮膜又はボンドコートであり得る。本組成物は、金属基体の任意の表面上に配設できる。それは基体の裸の表面上に直接配設するか、或いは予備配設された組成物を含む表面上に配設することができる。本明細書中で使用する「裸の表面」とは、熱保護又は酸化保護を得るため表面に施工された皮膜を含まない基体表面をいう。本明細書中で使用する「予備配設された」組成物を含む表面とは、該表面上に配設された皮膜を含む表面をいう。有利な実施形態では、予備配設された組成物を含む物品表面上に本組成物を施工することで物品が補修される。
【0028】
一実施形態では、超合金基体を開示組成物で被覆できる。超合金は、高温用途(即ち、1200℃もの温度での使用)のために向けられる合金である。超合金は、化学的及び機械的安定性、酸化及び腐食が物品の有効寿命に影響を及ぼす場合、並びに(例えば、ガスタービン用部品のように)顕著な高温耐久性が要求される場合に有用である。例示的な実施形態では、超合金はMCrAlY合金(式中、Mは鉄、コバルト、ニッケル又はこれらの組合せである)であり得る。(MがNiからなる)高Ni超合金が特に有用である。例示的な市販のNi含有超合金には、例えば、Inconel(登録商標)、Nimonic(登録商標)、Rene(登録商標)、GTD−111(登録商標)及びUdimet(登録商標)合金の商品名で販売されているものがある。開示組成物用の基体を得るためには、任意適宜の方法で製造された超合金が使用できる。多結晶質柱状結晶及び単結晶基体を含む鋳造超合金のすべてが開示組成物用の基体として使用でき、薄板金属部品のような鍛錬物品も同様である。開示組成物を超合金基体上に配設した場合、基体(被覆又は未被覆)の表面上に組成物の層が形成される。かかる層はオーバーレイ皮膜、ボンドコート又はその他の皮膜であり得る。
【0029】
オーバーレイ皮膜又はボンドコートは基体と反対側の表面にアルミナ含有層(即ち、TGO)を連続的に形成し、それによって環境と超合金基体との反応を最小限に抑えることが判明した。アルミナ含有層は数分子ないし数マイクロメートルの厚さを有し得るが、高酸化性環境条件に対するオーバーレイ皮膜又はボンドコートの連続暴露に伴って厚くなる。ボンドコート中のアルミニウムの酸化又は反応によるアルミナ含有層の形成の結果として、ボンドコート自体は熱成長酸化物(TGO)に隣接した部分において比例的な性質変化を受けることがある。一実施形態では、環境が高温及び/又は腐食性の燃焼ガスを含むことがある。熱サイクルに際して、アルミナとオーバーレイ皮膜との間に応力が生じることがある。アルミナはオーバーレイ皮膜に比べて脆いので、亀裂及び剥落を生じて皮膜の新しい表面を環境に暴露し、次いでこれが新しいアルミナ層を形成することがある。ボンドコート上に追加の層を配設した場合、ボンドコート及び基体に対する追加の層(例えば、遮熱コーティング)の中間層密着性が弱くなり、したがって追加の層も亀裂及びスポーリングを受けやすくなることがある。
【0030】
ボンドコートは、一般に遮熱コーティング(TBC)で被覆される。TBCは、他のランタニド(例えば、酸化セリウム、酸化ユウロピウムなど)のような他の金属酸化物を任意にドープしたセラミック皮膜(例えば、イットリア安定化ジルコニア)であって、下方に位置する金属基体への熱の流れを低減させる。TBCとボンドコートとの界面に生成し得る熱成長酸化物(TGO)の存在のため、TBCは高温で離層及びスポーリングを受けやすい。TGOの成長特性は、ボンドコートから基体へのアルミニウム拡散によって影響される。かかる拡散はボンドコート内に相変化を引き起こし、これがボンドコートとTBCとのひずみ不整合を誘起する。
【0031】
理論によって束縛されることは望まないが、オーバーレイ皮膜及びボンドコートからのアルミニウムの連続拡散はニッケル−アルミニウムβ相を欠乏させることがあり、これがアルミナ生成の原因となり、それにより保護層としてのオーバーレイ皮膜の有効性を低下させると考えられる。MCrAlY組成物は、上述のような基体上に配設された場合に2つの相を含んでいる。即ち、主としてNiCrからなるγ相及び主としてNiAlからなるβ相である。MCrAlY皮膜のβ−γ二相ミクロ組織を
図1に示す。β相は、上述のようにして表面にAlを供給することで基体に耐酸化性を与える。皮膜が苛酷な環境中で使用されると、皮膜の高温領域から始まってAl含有β相が枯渇し始め、結局はγ相(X1及びX3)に転化される。これら2つの相は、横断面の金属組織学的マウントを作製することで検出でき、光学顕微鏡下での画像分析技術で定量化できる。一実施形態では、上述のような改良組成物を1034℃(1900°F)で2000時間試験した後には、オーバーレイ皮膜中に約30〜約45%のNiAlβ相が残留する。
【0032】
意外にも、4族金属並びにルテニウム及び/又はレニウムの1種以上の組合せの添加は、ボンドコート及び/又はオーバーレイ皮膜からのアルミニウム拡散を効果的に遅くする。このようなアルミニウム拡散の遅延及び低減は、亀裂及び/又はスポーリングの発生率の低下、熱サイクル中におけるγ相への転移によるNiβ相の損失の減少、ボンドコートに対する遮熱コーティングの耐離層性の向上、並びに耐高温腐食性の向上によって定義されるような優れた性質を開示組成物に付与することが判明した。
【0033】
一実施形態では、物品は基体と、基体上に配設されかつ基体と少なくとも部分的に接触した本組成物からなる皮膜とを含んでいる。別の実施形態では、皮膜はボンドコート又はオーバーレイ皮膜である。皮膜がボンドコートである別の実施形態では、物品はさらに基体と反対側に位置するボンドコートの表面上に堆積させた遮熱コーティングを含んでいる。
【0034】
本組成物は、一実施形態では、超合金(特に、高温(特に、ガスタービンエンジン運転中に生じる高温)で使用され又はかかる高温に暴露されるもの)をはじめとする各種の金属及び合金からなる金属基体又は金属−セラミック複合基体から形成される多種多様のタービンエンジン部品及び部材において、TBCと共に使用するためのボンドコート又はオーバーレイ皮膜として使用できる。本組成物は、新たに製造されるガスタービンエンジン部品又はその他の物品上に配設できると共に、補修を必要とする既製及び/又は使用済みのものに対しても使用できる。これらのタービンエンジン部品及び部材は、ガスタービンエンジンにおける動翼及び静翼のようなタービン翼形、タービンシュラウド、タービンノズル、内筒及び反らせ板のような燃焼器部材、オーグメンターハードウェアなどを含み得る。開示組成物は金属基体の全部又は一部を被覆し得る。
【実施例】
【0035】
以下の実施例及び比較例によって本発明をさらに例証する。その開示内容は例示的なものであり、本発明をそれに限定するものと見なすべきでない。
【0036】
実施例1〜3及び比較例4
以下の実施例は、開示された組成物をオーバーレイ皮膜として使用した場合に得られる向上した性質を例示している。その開示内容は例示的なものであり、本発明をそれに限定するものと見なすべきでない。例1〜3は本発明の実施例であり、例4は比較例である。
【0037】
(General Electric Co.から入手し得る)GTD−111(登録商標)鋳造スラブから、厚さ3.18ミリメートル(0.125インチ)で直径25.4ミリメートル(1インチ)の円板試験片を機械加工した。かかる試験片は、試験片の総重量を基準にして14重量%(wt%)のクロム、9wt%のコバルト、3wt%のアルミニウム、4.9wt%のチタン、3wt%のタンタル、3.7wt%のタングステン、1.5wt%のモリブデン及び60.9wt%のニッケルからなる公称組成を有していた。
【0038】
高速ガスフレーム(HVOF)法を用いて、それぞれ異なる組成を有する4種の皮膜を個々の試験片上に約0.25ミリメートル(0.01インチ)の厚さで配設した。空気炉内において、被覆試験片を約1034℃(1900°F)及び約1093℃(2000°F)で最大2000時間にわたり試験した。
【0039】
表1は、実施例1、2及び3並びに比較例4の各種成分を示している。すべての成分量は、組成物の総重量を基準にした重量パーセントで報告されている。
【0040】
【表1】
比較例4は、ケイ素もハフニウムも拡散制限金属も添加しない基線組成物である。実施例1、2及び3はそれぞれ、表中に示すように、同じ量のケイ素及びハフニウム、異なる量の拡散制限金属(ルテニウム及び/又はレニウム)、並びに可変量のコバルトを含んでいる。
【0041】
NiAlβ相層及び相互拡散ゾーンの厚さの評価。実施例1、実施例2、実施例3及び比較例4を用いてオーバーレイ皮膜層を調製し、約0.25ミリメートル(0.01インチ)の厚さに施工した。横断面の光学的金属組織学検査を行うことで、上述のようにして空気炉内で処理した後の試料に関し、NiAlβ相層(
図1中のX2)及び相互拡散層(
図1中のX4)の厚さを測定した。残留する層の厚さを
図2に示す。
【0042】
図2からわかる通り、ケイ素、ハフニウム並びにルテニウム及び/又はレニウムを含む皮膜(実施例1〜3)は、ケイ素、ハフニウム、ルテニウム及び/又はレニウムを含まない皮膜(比較例4)に比べ、NiAlβ相の厚さの損失の減少を示すと共に優れた酸化寿命を与える。実施例3はまた、レニウムの添加が基体の拡散ゾーンを最小にすると共に耐酸化性を向上させることを示している。理論によって束縛されることは望まないが、ハフニウム及びケイ素と組み合わされたルテニウム及び/又はレニウムはアルミニウム拡散を遅くし、これがボンドコート中におけるニッケル−アルミニウムβ相の保持量の増加及びニッケル−アルミニウムβ相からγ相への転移速度の低下をもたらすと考えられる。データに見られる通り、Ru及びReの組合せを添加した実施例3は、NiAlβ相の最大保持量及び最も薄い相互拡散層の両方を示している。これは、向上した有効寿命を有する皮膜(例えば、ボンドコート及びオーバーレイ皮膜)を提供することができる。
【0043】
本明細書中で使用する「ボンドコート」という用語は、皮膜(例えば、遮熱コーティング(TBC))の堆積に先立って基体上に堆積させた金属層である。
【0044】
本明細書中で使用する「遮熱コーティング」(「TBC」と略記されることもある)という用語は、物品の下方に位置する金属基体への熱の流れを低減させ得る(即ち、遮熱層を形成する)セラミック皮膜をいう。
【0045】
基体又は他の層上に層を形成することを記述するために使用する「堆積させる」、「堆積させること」、「堆積させた」、「施工する」、「施工した」などの用語は、該層が基体又は他の層上に配設されるか、或いは基体又は他の層に部分的に接触して配設されることを意味する。
【0046】
単数形で記載したものであっても、前後関係から明らかでない限り、複数の場合も含めて意味する。
【0047】
同一の特性を記載しているすべての範囲の端点は結合可能であり、記載された端点を含んでいる。
【0048】
以上、例示を目的として典型的な実施形態を説明してきたが、上記の記載は本発明の技術的範囲を限定するものと解すべきでない。したがって、当業者には、本発明の技術思想及び技術的範囲から逸脱することなしに様々な修正例、適応例及び代替例が想起できよう。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】MCrAlY皮膜のβ−γ二相ミクロ組織を示している。
【
図2】実施例1〜3及び比較例4で得られたボンドコートの比較である。