特許第6018360号(P6018360)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018360
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】化合物半導体装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/338 20060101AFI20161020BHJP
   H01L 29/778 20060101ALI20161020BHJP
   H01L 29/812 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   H01L29/80 H
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2010-269714(P2010-269714)
(22)【出願日】2010年12月2日
(65)【公開番号】特開2012-119586(P2012-119586A)
(43)【公開日】2012年6月21日
【審査請求日】2013年9月4日
【審判番号】不服2015-10524(P2015-10524/J1)
【審判請求日】2015年6月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】清水 さなえ
(72)【発明者】
【氏名】今西 健治
(72)【発明者】
【氏名】山田 敦史
(72)【発明者】
【氏名】宮島 豊生
【合議体】
【審判長】 鈴木 匡明
【審判官】 須藤 竜也
【審判官】 加藤 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−232293(JP,A)
【文献】 特開2007−273597(JP,A)
【文献】 特開2007−221001(JP,A)
【文献】 特開2009−289956(JP,A)
【文献】 特開2010−199321(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC H01L29/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上方に形成された電子走行層と、
前記電子走行層上方に形成された電子供給層と、
前記基板と前記電子走行層との間に形成され、AlxGa1-xN(0≦x≦1)を含むバッファ層と、
を有し、
前記xの値は、前記バッファ層の厚さ方向で複数の極大及び複数の極小を示し、
前記xの値は、前記バッファ層の厚さ方向のいずれにおいても変化し、
前記バッファ層中の厚さが1nmの任意の領域内では、xの値の変化量が0.5以下となっていることを特徴とする化合物半導体装置。
【請求項2】
前記xの値は、前記バッファ層の上面において最小となっていることを特徴とする請求項1に記載の化合物半導体装置。
【請求項3】
前記電子走行層は、前記バッファ層の上面と接するGaN層を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の化合物半導体装置。
【請求項4】
前記xの値の最大値及び最小値は、それぞれ、1及び0であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の化合物半導体装置。
【請求項5】
前記xの値の複数の極大のうちで隣り合うもの同士の距離の差を1周期としたとき、1周期内の前記xの値の平均値は、前記電子走行層に近づくほど小さくなっていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の化合物半導体装置。
【請求項6】
前記xの値の複数の極大のうちで隣り合うもの同士の距離の差を1周期としたとき、1周期内の前記xの値の変化の幅は、前記電子走行層に近づくほど小さくなっていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の化合物半導体装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の化合物半導体装置を有することを特徴とする電源装置。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の化合物半導体装置を有することを特徴とする高出力増幅器。
【請求項9】
基板上方にAlxGa1-xN(0≦x≦1)を含むバッファ層を形成する工程と、
前記バッファ層上方に電子走行層を形成する工程と、
前記電子走行層上方に電子供給層を形成する工程と、
を有し、
前記xの値は、前記バッファ層の厚さ方向で複数の極大及び複数の極小を示し、
前記xの値は、前記バッファ層の厚さ方向のいずれにおいても変化し、
前記バッファ層中の厚さが1nmの任意の領域内での、xの値の変化量を0.5以下とすることを特徴とする化合物半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、基板上方にGaN層及びAlGaN層を順次形成し、GaN層を電子走行層として用いる電子デバイス(化合物半導体装置)の開発が活発である。このような化合物半導体装置の一つとして、GaN系の高電子移動度トランジスタ(HEMT:high electron mobility transistor)が挙げられる。GaN系HEMTを電源用のインバータのスイッチとして使用すると、オン抵抗の低減及び耐圧の向上の両立が可能である。また、Si系トランジスタと比較して、待機時の消費電力を低減することも可能であり、動作周波数を向上させることも可能である。このため、スイッチングロスを低減することができ、インバータの消費電力を低減することが可能となる。また、同等の性能のトランジスタであれば、Si系トランジスタと比較して小型化が可能である。
【0003】
そして、GaN層を電子走行層として用い、AlGaNを電子供給層として用いたGaN系HEMTでは、AlGaN及びGaNの格子定数の差に起因したひずみがAlGaNに生じる。このため、ピエゾ分極が発生し、高濃度の二次元電子ガス(2DEG)が得られる。従って、このGaN系HEMTは高出力デバイスに適用される。
【0004】
但し、結晶性が良好なGaN基板を製造することは極めて困難である。このため、従来、主として、Si基板、サファイア基板及びSiC基板上方に、GaN層及びAlGaN層等をヘテロエピタキシャル成長によって形成している。特にSi基板は、大口径で高品質のものを低コストにて入手しやすい。このため、Si基板上方にGaN層及びAlGaN層を成長させた構造についての研究が盛んに行われている。
【0005】
しかし、GaN層及びAlGaN層とSi基板との間には大きな熱膨張係数の差が存在する。その一方で、GaN層及びAlGaN層のエピタキシャル成長には、高温での処理が必要とされる。このため、この高温での処理の際に、熱膨張係数の差に起因するSi基板の反り及びクラック等が発生することがある。このような熱膨張係数の差に起因する問題は、GaN層及びAlGaN層とSi基板との間に、組成が異なる2種類の化合物半導体層を交互に積層した超格子構造のバッファ層を設けることにより、抑制することが可能である。
【0006】
しかしながら、超格子構造をバッファ層に採用した従来の化合物半導体装置では、その上の電子走行層及び電子供給層の結晶性を良好なものとすることが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−258230号公報
【特許文献2】特開2010−245504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、材料の熱膨張係数の差に起因する反り等を抑制しつつ良好な結晶性の電子走行層及び電子供給層を得ることができる化合物半導体装置及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
化合物半導体装置の一態様には、基板と、前記基板上方に形成された電子走行層と、前記電子走行層上方に形成された電子供給層と、前記基板と前記電子走行層との間に形成され、AlxGa1-xN(0≦x≦1)を含むバッファ層と、が設けられている。前記xの値は、前記バッファ層の厚さ方向で複数の極大及び複数の極小を示し、前記xの値は、前記バッファ層の厚さ方向のいずれにおいても変化し、前記バッファ層中の厚さが1nmの任意の領域内では、xの値の変化量が0.5以下となっている。
【0010】
化合物半導体装置の製造方法では、基板上方にAlxGa1-xN(0≦x≦1)を含むバッファ層を形成し、前記バッファ層上方に電子走行層を形成し、前記電子走行層上方に電子供給層を形成する。前記xの値は、前記バッファ層の厚さ方向で複数の極大及び複数の極小を示し、前記xの値は、前記バッファ層の厚さ方向のいずれにおいても変化し、前記バッファ層中の厚さが1nmの任意の領域内での、xの値の変化量を0.5以下とする。
【発明の効果】
【0011】
上記の化合物半導体装置等によれば、適切な組成のバッファ層が設けられているため、材料の熱膨張係数の差に起因する反り等を抑制しつつ良好な結晶性の電子走行層及び電子供給層を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1の実施形態に係るGaN系HEMTの構造を示す図である。
図2】xの値の分布を示す図である。
図3】参考例におけるxの値の変化を示す図である。
図4】第2の実施形態に係るGaN系HEMTの構造を示す図である。
図5】xの値の分布を示す図である。
図6A】第2の実施形態に係るGaN系HEMTの製造方法を工程順に示す断面図である。
図6B図6Aに引き続き、GaN系HEMTの製造方法を工程順に示す断面図である。
図7】第2の実施形態の変形例を示す断面図である。
図8】高出力増幅器の外観の例を示す図である。
図9】電源装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、超格子構造をバッファ層に採用した従来の化合物半導体装置において、その上のGaN層及びAlGaN層の結晶性を良好なものとすることが困難な原因について鋭意検討を行った結果、以下の事項を見出した。即ち、バッファ層に含まれる隣り合う2層の間に存在する急峻な組成の変化が、これら2層の界面近傍に微小な欠陥を発生しやすくしており、微小な欠陥が起点となって結晶面が大きくずれることがある。そして、GaN層及びAlGaN層の結晶性が低下してしまう。
【0014】
以下、実施形態について添付の図面を参照しながら具体的に説明する。
【0015】
(第1の実施形態)
先ず、第1の実施形態について説明する。図1は、第1の実施形態に係るGaN系HEMT(化合物半導体装置)の構造を示す図である。
【0016】
第1の実施形態では、図1(a)に示すように、基板1上にバッファ層2が形成され、バッファ層2上に電子走行層3が形成され、電子走行層3上に電子供給層4が形成されている。また、電子供給層4上にゲート電極5g、ソース電極5s及びドレイン電極5dが、ソース電極5s及びドレイン電極5dがゲート電極5gを間に挟むようにして形成されている。
【0017】
本実施形態では、バッファ層2には、AlxGa1-xN(0≦x≦1)が含まれている。そして、xの値(Al組成)は、図1(b)に示すように、バッファ層2の厚さ方向で変化している。図1(b)の横軸はバッファ層2の基板1との界面からの厚さ方向の距離を示し、縦軸はxの値を示している。また、バッファ層2の厚さはdである。そして、バッファ層2中の厚さが1nmの任意の領域内では、xの値の変化量Δxが0.5以下となっている。つまり、xの値は減少及び増加を繰り返している。なお、xの値の変化量Δxは0.01以上であることが好ましい。xの値の変化量Δxが0.01未満であると、反り等を抑制しにくくなることがあるからである。
【0018】
本実施形態では、xの値が厚さ方向で変化するバッファ層2が設けられているため、基板1と電子走行層3及び電子供給層4との間に大きな熱膨張係数の差が存在する場合であっても、これらの間に生ずる熱ひずみの差がバッファ層2により緩和される。従って、熱膨張係数の差に起因する反り及びクラック等を抑制することが可能である。また、変化量Δxが0.5以下となっており、バッファ層2の組成の変化が緩やかであるため、バッファ層2内にも微小な欠陥を生じにくくすることができる。従って、電子走行層3及び電子供給層4の結晶性を良好なものとすることができる。
【0019】
なお、参考例の一つでは、例えば、図2(a)に示すように、極大又は極小となる領域でxの値が一定となっている。他の参考例では、図2(b)に示すように、xの値が段階的に変化している。
【0020】
但し、xの値が段階的に変化している場合であっても、変化量Δxが0.5を超える厚さが1nmの領域が存在すると、この領域の近傍で微小な欠陥が発生しやすく、結晶面に大きなずれが生じることがある。例えば、図3に示す参考例のように、xの値が異なる2種類の化合物半導体層が交互に積層されている場合、ある領域での変化量Δx5が0であっても、他に変化量Δx6が0.5を超えている領域が存在すると、そこを起点に結晶面のずれが生じることがあり、所望の効果を得ることができない。
【0021】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。図4は、第2の実施形態に係るGaN系HEMT(化合物半導体装置)の構造を示す図である。
【0022】
第2の実施形態では、図4(a)に示すように、Si基板11上に、厚さが10nm〜1μm程度(例えば50nm)のAlN層21が形成されている。AlN層21上に、厚さが1μm〜10μm程度(例えば2μm)のAlGaN層12が形成されている。AlGaN層12の組成はAlxGa1-xN(0≦x≦1)で表わされ、xの値(Al組成)は、図5(a)、(b)、(c)又は(d)に示すように、AlGaN層12の厚さ方向で変化している。つまり、xの値は減少及び増加を繰り返している。図5の横軸はAlGaN層12のSi基板11との界面からの厚さ方向の距離を示し、縦軸はxの値を示している。また、AlGaN層12の厚さはdである。
【0023】
図5(a)に示す例では、xの値が0と1との間で周期的に変化している。図5(b)に示す例では、xの値が0.3と0.7との間で周期的に変化している。なお、極大及び極小の差は、0.1以上であることが好ましい。図5(c)に示す例では、xの値の極大から次の極大までの距離の差を1周期としたとき、1周期内のxの値の平均値が、i−GaN層13に近づくほど小さくなっている。図5(d)に示す例では、図5(c)に示す例と同様に、1周期内のxの値の平均値が、i−GaN層13に近づくほど小さくなっている。更に、xの値の極小が常に0であり、1周期内のxの値の変化の幅が、i−GaN層13に近づくほど小さくなっている。なお、図5(a)〜(d)のいずれにおいても、距離(nm)に対するxの値の変化の勾配は0.5以下となっている。また、距離dでは、xの値が極小となっていることが好ましい。1周期に相当する厚さは、例えば20nm〜30nmであり、AlGaN層12には、100周期程度のxの値の変化が含まれている。なお、xの値は、1次関数的に変化している必要はなく、xの値の変化の勾配が0.5以下となっていれば、2次関数的に変化していてもよく、指数関数的に変化していてもよい。
【0024】
AlGaN層12上に、厚さが1μm〜4μm程度(例えば3μm)のノンドープのi−GaN層13が形成され、その上に、厚さが1nm〜30nm程度(例えば5nm)のノンドープのi−AlGaN層14aが形成され、その上に、厚さが3nm〜30nm程度(例えば30nm)のn型のn−AlGaN層14bが形成されている。i−AlGaN層14a及びn−AlGaN層14bのAl組成は0.1〜0.5程度(例えば0.2)である。n−AlGaN層14bには、Siが1×1018cm-3〜1×1020cm-3程度(例えば5×1018cm-3)ドーピングされている。
【0025】
n−AlGaN層14b上に、厚さが2nm〜20nm程度(例えば10nm)のn型のn−GaN層22が形成されている。n−GaN層22には、Siが1×1018cm-3〜1×1020cm-3程度(例えば5×1018cm-3)ドーピングされている。
【0026】
n−GaN層22上に、ソース電極15s及びドレイン電極15dが形成されている。ソース電極15s及びドレイン電極15dはn−GaN層22にオーミック接触している。ソース電極15s及びドレイン電極15dには、例えば、Ti膜とその上に形成されたAl膜とが含まれている。n−GaN層22上には、ソース電極15s及びドレイン電極15dを覆うパッシベーション膜23も形成されている。パッシベーション膜23としては、例えばシリコン窒化膜が形成されている。パッシベーション膜23の、ソース電極15s及びドレイン電極15dの間に位置する部分に、ゲート電極用の開口部23aが形成されている。そして、パッシベーション膜23上に、開口部23aを介してn−GaN層22とショットキー接触するゲート電極15gが形成されている。ゲート電極15gには、例えば、Ni膜とその上に形成されたAu膜とが含まれている。パッシベーション膜23上には、ゲート電極15gを覆うパッシベーション膜24も形成されている。パッシベーション膜24としては、例えばシリコン窒化膜が形成されている。パッシベーション膜23及び24には、外部端子等の接続のための開口部が形成されている。
【0027】
なお、Si基板11の表面側から見たレイアウトは、例えば図4(b)のようになる。つまり、ゲート電極15g、ソース電極15s及びドレイン電極15dの平面形状が櫛歯状となっており、ソース電極15s及びドレイン電極15dが交互に配置されている。つまり、複数のゲート電極15gがゲート配線25gにより共通接続され、複数のソース電極15sがソース配線25sにより共通接続され、複数のドレイン電極15dがドレイン配線25dにより共通接続されている。そして、これらの間にゲート電極15gが配置されている。このようなマルチフィンガーゲート構造を採用することにより、出力を向上させることができる。なお、図4(a)に示す断面図は、図4(b)中のI−I線に沿った断面を示している。また、活性領域30には、AlN層21、AlGaN層12及びi−GaN層13等が含まれており、活性領域30の周囲はイオン注入又はメサエッチング等により不活性領域とされている。
【0028】
このように構成された第2の実施形態では、i−GaN層13とi−AlGaN層14aとの間のヘテロ接合界面に、ピエゾ分極に伴う高濃度のキャリアが発生する。つまり、格子不整合に起因するピエゾ効果により、i−GaN層13のi−AlGaN層14aとの界面近傍に電子が誘起される。この結果、2次元電子ガス層(2DEG)が現れ、この部分が電子走行層(チャネル)として機能する。また、i−AlGaN層14a及びn−AlGaN層14bが電子供給層として機能する。
【0029】
更に、第2の実施形態では、AlGaN層12がバッファ層として機能する。従って、Si基板11と、i−GaN層13、i−AlGaN層14a及びn−AlGaN層14bとの間に大きな熱膨張係数の差が存在する場合であっても、これらの間に生ずる熱ひずみの差がAlGaN層12により緩和される。従って、熱膨張係数の差に起因する反り及びクラック等を抑制することが可能である。また、変化量Δxが0.5以下となっており、AlGaN層12の組成の変化が緩やかであるため、AlGaN層12内にも微小な欠陥を生じにくくすることができる。従って、i−GaN層13、i−AlGaN層14a及びn−AlGaN層14bの結晶性を良好なものとすることができる。
【0030】
次に、第2の実施形態に係るGaN系HEMT(化合物半導体装置)を製造する方法について説明する。図6A乃至図6Bは、第2の実施形態に係るGaN系HEMT(化合物半導体装置)の製造方法を工程順に示す断面図である。
【0031】
先ず、図6A(a)に示すように、Si基板11上にAlN層21、AlGaN層12、i−GaN層13、i−AlGaN層14a、n−AlGaN層14b及びn−GaN層22を形成する。AlGaN層12、i−GaN層13、i−AlGaN層14a、n−AlGaN層14b及びn−GaN層22の形成は、例えば有機金属気相成長(MOVPE)法等の結晶成長法により行う。この場合、原料ガスを選択することにより、これらの層を連続して形成することができる。アルミニウム(Al)の原料、ガリウム(Ga)の原料としては、例えば、夫々トリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルガリウム(TMG)を使用することができる。また、窒素(N)の原料として、例えばアンモニア(NH3)を使用することができる。また、n−AlGaN層14b及びn−GaN層22に不純物として含まれるシリコン(Si)の原料としては、例えばシラン(SiH4)を使用することができる。AlGaN層12の形成の際には、TMA及びTMGの流量を制御することにより、例えば、図5(a)〜(d)のいずれかのようにxの値(Al組成)を周期的に調整する。
【0032】
n−GaN層22の形成後には、例えばリフトオフ法により、図6A(b)に示すように、ソース電極15s及びドレイン電極15dをn−GaN層22上に形成する。ソース電極15s及びドレイン電極15dの形成では、ソース電極15s及びドレイン電極15dを形成する領域を開口するレジストパターンを形成し、Ti及びAlの蒸着を行い、その後、レジストパターン上に付着したTi及びAlをレジストパターンごと除去する。そして、窒素雰囲気中で400℃〜1000℃(例えば600℃)で熱処理を行い、オーミック接触を確立する。
【0033】
次いで、図6A(c)に示すように、n−GaN層22上に、ソース電極15s及びドレイン電極15dを覆うようにしてパッシベーション膜23を形成する。パッシベーション膜23としては、例えばプラズマCVD(chemical vapor deposition)法によりシリコン窒化膜を形成する。
【0034】
その後、開口部23aを形成する予定の領域を開口するレジストパターンを形成する。続いて、レジストパターンを用いたエッチングを行うことにより、図6B(d)に示すように、パッシベーション膜23に開口部23aを形成する。次いで、パッシベーション膜23上に、開口部23aを介してn−GaN層22と接するゲート電極15gをリフトオフ法により形成する。ゲート電極15gの形成では、開口部23aを形成する際に用いたレジストパターンを除去した後、ゲート電極15gを形成する領域を開口する新たなレジストパターンを形成し、Ni及びAuの蒸着を行い、その後、レジストパターン上に付着したNi及びAuをレジストパターンごと除去する。
【0035】
その後、図6B(e)に示すように、パッシベーション膜23上に、ゲート電極15gを覆うようにしてパッシベーション膜24を形成する。パッシベーション膜24としては、例えばプラズマCVD法によりシリコン窒化膜を形成する。
【0036】
続いて、複数のゲート電極15gを共通接続するゲート配線25g、複数のソース電極15sを共通接続するソース配線25s、及び複数のドレイン電極15dを共通接続するドレイン配線25d等を形成する(図4(b)参照)。このようにして、図4に示す構造のGaN系HEMTを得ることができる。
【0037】
なお、図7に示すように、n−GaN層22に、ソース電極15s及びドレイン電極15d用の開口部を儲け、ソース電極15s及びドレイン電極15dをn−AlGaN層14bに接するようにして形成してもよい。この場合、開口部の深さに関し、n−GaN層22の一部を残してもよく、また、n−AlGaN層14bの一部を除去してもよい。つまり、開口部の深さがn−GaN層22の厚さと一致している必要はない。
【0038】
また、抵抗体及びキャパシタ等をもSi基板11上に実装してモノリシックマイクロ波集積回路(MMIC)としてもよい。
【0039】
これらの実施形態に係るGaN系HEMTは、例えば高出力増幅器として用いることができる。図8に、高出力増幅器の外観の例を示す。この例では、ソース電極に接続されたソース端子81sがパッケージの表面に設けられている。また、ゲート電極に接続されたゲート端子81g、及びドレイン電極に接続されたドレイン端子81dがパッケージの側面から延出している。
【0040】
また、これらの実施形態に係るGaN系HEMTは、例えば電源装置に用いることもできる。図9(a)は、PFC(power factor correction)回路を示す図であり、図9(b)は、図9(a)に示すPFC回路を含むサーバ電源(電源装置)を示す図である。
【0041】
図9(a)に示すように、PFC回路90には、交流電源(AC)が接続されるダイオードブリッジ91に接続されたコンデンサ92が設けられている。コンデンサ92の一端子にはチョークコイル93の一端子が接続され、チョークコイル93の他端子には、スイッチ素子94の一端子及びダイオード96のアノードが接続されている。スイッチ素子94は上記の実施形態におけるHEMTに相当し、当該一端子はHEMTのドレイン電極に相当する。また、スイッチ素子94の他端子はHEMTのソース電極に相当する。ダイオード96のカソードにはコンデンサ95の一端子が接続されている。コンデンサ92の他端子、スイッチ素子94の当該他端子、及びコンデンサ95の他端子が接地される。そして、コンデンサ95の両端子間から直流電源(DC)が取り出される。
【0042】
そして、図9(b)に示すように、PFC回路90は、サーバ電源100等に組み込まれて用いられる。
【0043】
このようなサーバ電源100と同様の、より高速動作が可能な電源装置を構築することも可能である。また、スイッチ素子94と同様のスイッチ素子は、スイッチ電源又は電子機器に用いることができる。更に、これらの半導体装置を、サーバの電源回路等のフルブリッジ電源回路用の部品として用いることも可能である。
【0044】
いずれの実施形態においても、基板として、炭化シリコン(SiC)基板、サファイア基板、シリコン基板、GaN基板又はGaAs基板等を用いてもよい。基板が、導電性、半絶縁性又は絶縁性のいずれであってもよい。
【0045】
また、ゲート電極、ソース電極及びドレイン電極の構造は上述の実施形態のものに限定されない。例えば、これらが単層から構成されていてもよい。また、これらの形成方法はリフトオフ法に限定されない。更に、オーミック特性が得られるのであれば、ソース電極及びドレイン電極の形成後の熱処理を省略してもよい。また、ゲート電極に対して熱処理を行ってもよい。
【0046】
また、各層の厚さ及び材料等も上述の実施形態のものに限定されない。
【0047】
以下、本発明の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0048】
(付記1)
基板と、
前記基板上方に形成された電子走行層と、
前記電子走行層上方に形成された電子供給層と、
前記基板と前記電子走行層との間に形成され、AlxGa1-xN(0≦x≦1)を含むバッファ層と、
を有し、
前記xの値は、前記バッファ層の厚さ方向で複数の極大及び複数の極小を示し、
前記バッファ層中の厚さが1nmの任意の領域内では、xの値の変化量が0.5以下となっていることを特徴とする化合物半導体装置。
【0049】
(付記2)
前記xの値は、前記バッファ層の厚さ方向で連続して変化していることを特徴とする付記1に記載の化合物半導体装置。
【0050】
(付記3)
前記xの値は、前記バッファ層の上面において最小となっていることを特徴とする付記1又は2に記載の化合物半導体装置。
【0051】
(付記4)
前記電子走行層は、前記バッファ層の上面と接するGaN層を含むことを特徴とする付記1乃至3のいずれか1項に記載の化合物半導体装置。
【0052】
(付記5)
前記xの値の最大値及び最小値は、それぞれ、1及び0であることを特徴とする付記1乃至4のいずれか1項に記載の化合物半導体装置。
【0053】
(付記6)
前記xの値の複数の極大のうちで隣り合うもの同士の距離の差を1周期としたとき、1周期内の前記xの値の平均値は、前記電子走行層に近づくほど小さくなっていることを特徴とする付記1乃至5のいずれか1項に記載の化合物半導体装置。
【0054】
(付記7)
前記xの値の複数の極大のうちで隣り合うもの同士の距離の差を1周期としたとき、1周期内の前記xの値の変化の幅は、前記電子走行層に近づくほど小さくなっていることを特徴とする付記1乃至6のいずれか1項に記載の化合物半導体装置。
【0055】
(付記8)
前記基板は、Si基板、SiC基板又はサファイア基板であることを特徴とする付記1乃至7のいずれか1項に記載の化合物半導体装置。
【0056】
(付記9)
隣り合う前記xの値の極大と極小との差は、0.1以上であることを特徴とする付記1乃至8のいずれか1項に記載の化合物半導体装置。
【0057】
(付記10)
付記1乃至9のいずれか1項に記載の化合物半導体装置を有することを特徴とする電源装置。
【0058】
(付記11)
付記1乃至9のいずれか1項に記載の化合物半導体装置を有することを特徴とする高出力増幅器。
【0059】
(付記12)
基板上方にAlxGa1-xN(0≦x≦1)を含むバッファ層を形成する工程と、
前記バッファ層上方に電子走行層を形成する工程と、
前記電子走行層上方に電子供給層を形成する工程と、
を有し、
前記xの値は、前記バッファ層の厚さ方向で複数の極大及び複数の極小を示し、
前記バッファ層中の厚さが1nmの任意の領域内での、xの値の変化量を0.5以下とすることを特徴とする化合物半導体装置の製造方法。
【0060】
(付記13)
前記xの値を、前記バッファ層の厚さ方向で連続して変化させることを特徴とする付記12に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【0061】
(付記14)
前記xの値を、前記バッファ層の上面において最小とすることを特徴とする付記12又は13に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【0062】
(付記15)
前記電子走行層を形成する工程は、前記バッファ層の上面と接するGaN層を形成する工程を有することを特徴とする付記12乃至14のいずれか1項に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【0063】
(付記16)
前記xの値の最大値及び最小値を、それぞれ、1及び0とすることを特徴とする付記12乃至15のいずれか1項に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【0064】
(付記17)
前記xの値の複数の極大のうちで隣り合うもの同士の距離の差を1周期としたとき、1周期内の前記xの値の平均値を、前記電子走行層に近づくほど小さくすることを特徴とする付記12乃至16のいずれか1項に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【0065】
(付記18)
前記xの値の複数の極大のうちで隣り合うもの同士の距離の差を1周期としたとき、1周期内の前記xの値の変化の幅を、前記電子走行層に近づくほど小さくすることを特徴とする付記12乃至17のいずれか1項に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【0066】
(付記19)
前記基板として、Si基板、SiC基板又はサファイア基板を用いることを特徴とする付記12乃至18のいずれか1項に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【0067】
(付記20)
隣り合う前記xの値の極大と極小との差を、0.1以上とすることを特徴とする付記12乃至19のいずれか1項に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【符号の説明】
【0068】
1:基板
2:バッファ層
3:電子走行層
4:電子供給層
5g:ゲート電極
5s:ソース電極
5d:ドレイン電極
11:Si基板
12:AlGaN層
13:i−GaN層
14a:i−AlGaN層
14b:n−AlGaN層
15g:ゲート電極
15s:ソース電極
15d:ドレイン電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9