(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ばねを有する振動系は、ばね定数Kと、質量Mで定まる共振周波数f
RESを有する。
f
RES=√(K/M)/2π …(1)
電子機器の小型化にともない、スプリングリターン機構付きVCMの小型化が要求されている。VCMが小型化すると、コイルのインダクタンスが小さくなり、また可動子の重量も小さくなることから、スプリングの力によって可動子、つまりレンズが振動するという問題が発生する。
【0007】
レンズの振動を抑制するために、共振周波数f
RESの周波数成分が除去されたスペクトルを有する駆動電流によって、VCMを駆動する方法が提案されている。具体的には、(1)ステップ波形を、共振周波数を除去する帯域除去フィルタBEFによって波形整形し、駆動電流を生成する手法や、(2)波形整形された駆動信号をあらかじめ演算により計算してそれをメモリに格納しておき、駆動時に読み出す、といった手法が提案されている。これらの方法では、フィルタやメモリなどが必要となるため、ハードウェアの規模が大きくなるという問題がある。
【0008】
本発明は係る課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、スプリングリターン機構付きVCMの振動を抑制可能な制御技術の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある態様は、スプリングリターン機構付きボイスコイルモータの駆動回路に関する。駆動回路は、ボイスコイルモータの目標ストローク量を指示する指令値を受け、制御信号を生成する制御信号生成部と、ボイスコイルモータのコイルに、制御信号に応じた駆動電流を供給する駆動電流生成部と、を備える。ボイスコイルモータの共振周波数f
RESの逆数を共振周期T
0とするとき、制御信号は、駆動開始から第1期間T
0/2の間、現在のストローク量に対応する初期値Y
INITから中間値Y
MIDに向かって遷移し、続く第2期間T
0/2の間、中間値Y
MIDから目標ストローク量に対応する最終値Y
FINに向かって遷移し、初期値Y
INITと最終値Y
FINの差分(Y
FIN−Y
INIT)と初期値Y
INITと中間値Y
MIDの差分(Y
MID−Y
INIT)との比(Y
MID−Y
INIT)/(Y
FIN−Y
INIT)である係数Kが可変である。
【0010】
この態様によれば、係数Kを、レンズモジュール502の振動系の特性に応じて最適な値に設定することにより、可動子が目標位置に達するまでの時間を短くでき、および/または、可動子の振動を抑制することができる。
【0011】
係数Kは、ボイスコイルモータのQ値に応じて定められてもよい。この場合、Q値が異なるさまざまなスプリングリターン機構付きボイスコイルモータを、共通の駆動回路によって駆動できる。
【0012】
係数Kは、ボイスコイルモータのQ値が大きいほど小さく設定されてもよい。
【0013】
第1期間と第2期間それぞれの制御信号の波形は、共通の遷移波形X(t)にしたがっており、振幅方向に相似であってもよい。この場合、遷移波形X(t)を格納するメモリの容量を削減できる。
【0014】
駆動開始時の時刻tを0、振幅が正規化された所定の遷移関数をX(t)とするとき、第1期間の制御信号Y
1(t)および第2期間の制御信号Y
2(t)は、それぞれ式(1)〜(3)にしたがって遷移してもよい。
Y
1(t)=Y
INIT+K×(Y
FIN−Y
INIT)×X(t) …(1)
Y
2(t−T
0/2)=Y
MID+(1−K)×(Y
FIN−Y
INIT)×X(t−T
0/2) …(2)
Y
MID=Y
1(T
0/2) …(3)
【0015】
制御信号生成部は、遷移関数X(t)を示す波形データを格納するメモリと、係数Kを設定する係数設定部と、初期値Y
INIT、最終値Y
FIN、遷移関数X(t)、係数Kにもとづいて、第1、第2期間の前記制御信号を生成する波形演算部と、を含んでもよい。
【0016】
ある態様の駆動回路は、外部のプロセッサから、係数Kを指示するデータを受信するインタフェース回路と、係数Kを指示するデータを保持するレジスタと、をさらに備えてもよい。
【0017】
遷移関数X(t)は、ステップ波形をフィルタによりフィルタリングした波形であってもよい。フィルタは、ローパスフィルタまたはバンド除去フィルタであってもよい。フィルタは、共振周波数の成分を1〜5dBの範囲で減衰させてもよい。
この場合、共振周波数のバラツキに対する安定性を高めることができる。
【0018】
本発明の別の態様は、レンズモジュールに関する。レンズモジュールは、フォーカシングレンズと、その可動子がフォーカシングレンズに連結されたリターン機構付きボイスコイルモータと、ボイスコイルモータを駆動する上述のいずれかの態様の駆動回路と、を備える。
【0019】
本発明の別の態様は、レンズモジュールに関する。レンズモジュールは、手ぶれ補正用レンズと、その可動子が手ぶれ補正用レンズに連結されたリターン機構付きボイスコイルモータと、ボイスコイルモータを駆動する上述のいずれかの態様の駆動回路と、を備える。
【0020】
本発明の別の態様は電子機器に関する。電子機器は、上述のいずれかのレンズモジュールと、レンズモジュールを通った光を撮像する撮像素子と、を備える。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、可動子の振動を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
` 以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0024】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0025】
図1は、実施の形態に係る駆動回路100を備える電子機器1の全体構成を示すブロック図である。電子機器500は、撮像機能付きの携帯電話、あるいはデジタルカメラ、ビデオカメラ、WEBカメラ、タブレットPC(Personal Computer)などであり、レンズモジュール502、撮像素子504、画像処理プロセッサ506、CPU(Central Processing Unit)508、を備える。
【0026】
レンズモジュール502は、いわゆるオートフォーカス機能を実現するために設けられ、フォーカシングレンズ512およびアクチュエータ510を含む。レンズ512は、光軸方向に移動可能に支持される。アクチュエータ510は、CPU508からの指令値S1にもとづいて、レンズ512の位置を制御する。
【0027】
撮像素子504には、レンズ512を通過した光(画像)が入射する。画像処理プロセッサ506は、撮像素子504から画像データを読み出す。
【0028】
CPU508は、画像処理プロセッサ506により読み出された画像にもとづき、フォーカシングレンズ512を通過した像が、撮像素子504上で結像するように、フォーカシングレンズ512の目標位置を決定し、その目標位置に応じた指令値S1をアクチュエータ510に出力する。
【0029】
以上が電子機器500の全体構成である。続いてレンズモジュール502の具体的な構成を説明する。
【0030】
図2は、実施の形態に係るレンズモジュール502の構成を示すブロック図である。
レンズモジュール502は、ボイスコイルモータ(VCM)200、スプリング202、駆動回路100を備える。
【0031】
ボイスコイルモータ200は、フォーカシングレンズ512を位置決めするアクチュエータであり、その可動子は、フォーカシングレンズ512と連結されている。ボイスコイルモータ200は、リターンスプリング機構を備え、その可動子はスプリング202と連接されている。
【0032】
駆動回路100は、ボイスコイルモータ200のコイルL1に駆動電流I
DRVを供給し、レンズ512の位置を制御する。具体的には、駆動回路100はコイルL1に駆動電流I
DRVを流すことにより、可動子を第1の方向に変位させる。スプリング202は、可動子を第1の方向と反対の第2の方向に押し戻すように作用する。
【0033】
駆動回路100は、駆動端子102、駆動電流生成部10、制御信号生成部20、インタフェース回路30を備え、ひとつの半導体基板上に一体集積化される。
「一体集積化」とは、回路の構成要素のすべてが半導体基板上に形成される場合や、回路の主要構成要素が一体集積化される場合が含まれ、回路定数の調節用に一部の抵抗やキャパシタなどが半導体基板の外部に設けられていてもよい。
【0034】
駆動端子102は、コイルL1の一端と接続される。コイルL1の他端は、固定電圧端子(たとえば電源端子V
DD)と接続される。駆動回路100が負電源を受けて動作する場合、固定電圧端子は接地端子であってもよい。また
図1の駆動回路100はコイルL1から駆動電流を吸い込むシンク型で構成されるが、当業者であれば、コイルL1に駆動電流I
DRVを流し込むソース型としても構成できることが理解できよう。ソース型の場合、コイルL1の他端は接地端子と接続される。
【0035】
インタフェース回路30は、
図1のCPU508からボイスコイルモータ200の目標ストローク量を指示する指令値S1を受ける。制御信号生成部20は、指令値S1にもとづいて、駆動電流I
DRVの大きさおよび波形を記述するデジタルの制御信号S2を生成する。
【0036】
駆動電流生成部10は、制御信号S2に応じた、具体的には制御信号S2に比例した駆動電流I
DRVを生成する。駆動電流生成部10は、D/Aコンバータ12および電流ドライバ14を含む。
【0037】
D/Aコンバータ12は、デジタルの制御信号S2をアナログの制御信号V2に変換する。電流ドライバ14は、電圧/電流変換回路であり、制御信号V2を、それに比例した駆動電流I
DRVに変換し、ボイスコイルモータ200のコイルL1に供給する。
【0038】
たとえば電流ドライバ14は、演算増幅器16、トランジスタ18、抵抗R2を含む。
トランジスタ18および抵抗R2は、駆動端子102と固定電圧端子(接地端子)の間に、つまりコイルL1に流れる駆動電流I
DRVの経路上に直列に設けられる。制御信号V2は、演算増幅器16の非反転入力端子へと入力される。トランジスタ18と抵抗R2の接続点の電圧は、演算増幅器16の反転入力端子にフィードバックされる。電流ドライバ14により生成される駆動電流I
DRVは、以下で与えられる。
I
DRV=V2/R2
【0039】
なお電流ドライバ14の構成は、
図2のそれには限定されず、その他の形式の電流源あるいは電圧源を用いてもよい。
【0040】
以上が駆動回路100の構成である。続いて、制御信号生成部20による制御信号S2の生成について説明する。
【0041】
ボイスコイルモータ200およびスプリング202、フォーカシングレンズ512からなるアクチュエータ510は振動系であり、ばね定数Kと、質量Mで定まる共振周波数f
RESを有する。
f
RES=√(K/M)/2π …(2)
【0042】
駆動回路100には、共振周波数f
RESもしくはその逆数1/f
RES(以下、共振周期T
0ともいう)を示すデータが予め格納されており、あるいは、そのデータをCPU508から受信可能となっている。
【0043】
制御信号生成部20は、ボイスコイルモータ200の可動子の振動が抑制されるように、以下のようにして共振周波数f
RESに応じて制御信号S2を生成する。
【0044】
制御信号生成部20は、指令値S1が入力されると、駆動電流I
DRVを、現在のストローク量に応じた量から、目標ストローク量に応じた量に、共振周期T
0にわたって変化させる。共振周期T
0は、前半の第1期間T1と、それに続く後半の第2期間T2に分割される。
【0045】
制御信号S2は、駆動開始t=0からt=T
0/2までの第1期間T1の間、現在のストローク量に対応する初期値Y
INITから中間値Y
MIDに向かって遷移する第1波形を有する。また制御信号S2は、それに続くt=T
0/2からt=T
0までの第2期間T2の間、中間値Y
MIDから目標ストローク量に対応する最終値Y
FINに向かって遷移する第2波形を有する。
【0046】
図3は、係数Kと制御信号S2の関係を示す波形図である。本実施の形態において、初期値Y
INITと最終値Y
FINの差分(Y
FIN−Y
INIT)と、初期値Y
INITと中間値Y
MIDの差分(Y
MID−Y
INIT)との比(Y
MID−Y
INIT)/(Y
FIN−Y
INIT)を係数Kとする。本実施の形態において、この係数Kは可変である。可変可能とは、駆動回路100にあらかじめ定義された複数の値から任意のひとつが選択される場合や、外部から、任意の値を設定可能な場合を含む。
【0047】
より好ましくは、係数Kは、ボイスコイルモータ200を含む振動系のQ値に応じて定められる。係数Kは、ボイスコイルモータ200のQ値が大きいほど小さいことが望ましい。
図4は、Q値と係数Kの対応関係の一例を示す図である。
図3の場合、係数Kは、4つの値0.5、0.52、0.54、0.56から選択される。
【0048】
図5は、制御信号生成部20の構成例を示すブロック図である。
制御信号生成部20は、波形メモリ22、係数設定部24、演算部26を備える。
本実施の形態において、第1波形と第2波形は、振幅方向に相似である。波形メモリ22には、第1波形および第2波形の基準となる遷移関数X(t)を記述するデジタルデータが格納される。
【0049】
波形メモリ22からは、第1期間、第2期間それぞれにおいて、遷移関数X(t)が読み出される。
【0050】
図2のインタフェース回路30は、CPU508から、係数Kを指示するデータを受信する。たとえば係数設定部24は、CPU508から指示された係数Kを保持するレジスタである。
【0051】
演算部26は、初期値Y
INIT、最終値Y
FIN、遷移関数X(t)、係数Kにもとづいて、第1期間、第2期間の制御信号S2を生成する。
駆動開始を時刻t=0とするとき、X(0)=0であり、X(T
0/2)=FSである。FSは正規化された振幅を表す。
【0052】
第1期間T1の制御信号S2は、式(3)で表される。
Y
1(t)=Y
INIT+K×(Y
FIN−Y
INIT)×X(t) …(3)
【0053】
第2期間T2の制御信号S2は、式(4)、(5)で表される。
Y
2(t)=Y
MID+(1−K)×(Y
FIN−Y
INIT)×X(t−T
0/2) …(4)
Y
MID=Y
1(T
0/2) …(5)
【0054】
演算部26は、汎用的なプロセッサとプログラムの組み合わせで実現することができる。あるいは演算部26は、専用設計されたデジタル回路で構成することもできる。
図5の演算部26は、第1乗算器40、係数選択部42、第2乗算器44、振幅計算部46、加算器48、開始点計算部50を含む。
【0055】
係数選択部42は、第1期間T1(t<T
0/2)において係数Kを出力し、第2期間T2(T
0/2<t<T
0)において係数(1−K)を出力する。
第1乗算器40は、波形メモリ22から読み出される遷移関数X(t)に、係数選択部42の出力値を乗算する。具体的には第1乗算器40は、第1期間T1において、波形メモリ22から読み出される遷移関数X(t)に係数Kを乗算する。また第1乗算器40は、第2期間T2において、波形メモリ22から読み出される遷移関数X(t)に係数(1−K)を乗算する。
【0056】
振幅計算部46は、最終値Y
FINと初期値Y
INITの差分ΔYを算出する。第2乗算器44は、第1乗算器40の出力に差分ΔYを乗算する。第1乗算器40と第2乗算器44による乗算の順序は入れ替えてもよい。
【0057】
開始点計算部50は、第1期間T1において初期値Y
INITを出力し、第2期間T2において中間値Y
MIDを出力する。加算器48は、第2乗算器44の出力と開始点計算部50の出力を加算する。
【0058】
図6は、遷移関数X(t)の一例を示す波形図である。
図6の遷移関数X(t)は、ステップ波形を、バンド除去フィルタ(ノッチフィルタ)でフィルタリングした波形である。
図7(a)は、アクチュエータ510の振動系の周波数特性を示す図であり、
図7(b)は、バンド除去フィルタの周波数特性を示す図である。
【0059】
アクチュエータ510の振動系は、f
RES=100Hzに共振周波数を有するものとする。バンド除去フィルタは、共振周波数f
RES付近の成分を数dB(具体的には1〜5dB程度)減衰させるように設計される。
図7(b)では、共振周波数f
RES付近の周波数成分は3dB程度減衰される。バンド除去フィルタはノッチフィルタで構成することが好ましく、その除去帯域の中心周波数は、共振周波数f
RESよりも高く、具体的には300Hz程度に設定される。
【0060】
ステップ波形を、
図7(b)の周波数特性を有するバンド除去フィルタでフィルタリングすることにより、
図6の遷移関数X(t)が生成される。
【0061】
以上が駆動回路100の構成である。続いてその動作を説明する。
図8は、ボイスコイルモータ200および駆動回路100を含む系全体の周波数特性を示す図である。この周波数特性は、
図7(a)の周波数特性と
図7(b)の周波数特性を掛け合わせたものである。
【0062】
図9(a)〜(c)は、Q値が5であるときの、レンズモジュール502の動作波形図である。
図9(a)は正規化された駆動電流I
DRVを、
図9(b)はボイスコイルモータ200の可動子の位置POS(ストローク量)を、
図9(c)はストローク量の拡大図を示す。共振周波数f
RESは100Hz、共振周期T
0は10msであり、第1期間T1、第2期間T2の長さはそれぞれ5msである。
【0063】
駆動回路100は、Q値に対応する係数Kを選択する。具体的には、Q=5のとき、K=0.56に設定される。駆動電流I
DRVすなわち制御信号S2の初期値はゼロであり、駆動電流I
DRVは、第1期間において、初期値0から中間値0.56に向かって遷移する。第2期間においては中間値0.56から最終値1に向かって遷移する。
【0064】
図9(b)、(c)には、それぞれ3つの波形(i)〜(iii)が示される。波形(i)は、共振周波数f
RESが設計値である100Hzである場合を示し、これは
図8のスペクトルを逆フーリエ変換した波形に相当する。可動子の位置POSが目標ストローク量の90%に達するまでの時間は12msである。
【0065】
図9(b)、(c)の波形(ii)、(iii)はそれぞれ、共振周波数f
RESが±8%変動したときの波形を示す。この場合であっても、可動子はわずかに振動するが、可動子の位置POSが目標ストローク量の90%に達するまでの時間は12msであり、(i)と同程度である。このように、実施の形態に係る駆動回路100によれば、共振周波数f
RESのばらつきに対して安定な制御を提供できる。
【0066】
共振周波数f
RESのばらつきに対する安定性は、
図6の遷移関数X(t)を用いたことにより実現されている。すなわち、遷移関数X(t)を生成するために利用されるバンド除去フィルタによって、共振周波数f
RES付近の周波数成分が数dB減衰され、これにより、共振周波数f
RESがばらついたとしても、そのばらつきが系全体に及ぼす影響が低減されるのである。
【0067】
図10(a)〜(c)は、Q値が100であるときの、レンズモジュール502の動作波形図である。Q値が50であるとき、係数Kは0.51に設定される。
図10(b)、(c)の波形(ii)、(iii)はそれぞれ、共振周波数f
RESが±8%変動したときの波形を示す。
【0068】
可動子の位置POSが目標ストローク量の90%に達するまでの時間は12.5msであり、共振周波数f
RESのばらつきに対して安定である。
【0069】
図9(a)〜(c)、
図10(a)〜(c)に示すように、Q値に応じて係数Kを適切に定めることにより、可動子が目標ストローク量に到達するまでの時間を短くでき、またその後の可動子の振動を抑制することができる。
【0070】
Q値にかかわらず、同じ係数K(たとえば0.5)を用いる比較技術について検討する。この場合、第1期間と第2期間とで、同じストローク量、可動子が移動する。比較技術では、あるQ値においては、遷移時間が短くなり振動も小さくなるが、Q値が別の値になると、遷移時間が長くなったり、振動が大きくなってしまう。実施の形態に係る駆動回路100によれば、係数Kを可変とし、Q値に応じて係数Kを設定可能としたことにより、Q値が異なるさまざまな系において、可動子の振動を抑制できる。
【0071】
最後に、電子機器500の具体例を説明する。
図11は、電子機器500の一例である携帯電話端末を示す斜視図である。電子機器500は、筐体501、レンズモジュール502、撮像素子504を備える。撮像素子504は、筐体501に内蔵される。筐体501には、撮像素子504とオーバーラップする箇所に開口部が設けられ、レンズモジュール502は開口部に設けられる。
図11の電子機器500によれば、オートフォーカスの時間を短縮できる。
【0072】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0073】
実施の形態では、フォーカシング用のレンズモジュールを説明したが、駆動回路100の用途はそれには限定されない。たとえばボイスコイルモータ200は、手ぶれ補正用のレンズを駆動してもよい。
【0074】
実施の形態では、遷移関数X(t)を生成する際に、バンド除去フィルタを用いる場合を説明したが、これに代えてローパスフィルタを用いてもよい。この場合、ローパスフィルタを、共振周波数f
RESの周波数帯域を数dB減衰させるように設計すればよい。
【0075】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が可能である。