【実施例】
【0044】
〔固体酸の試作〕
発明者らは、ビスコース由来の再生セルロースを原料として、以下のとおり固体酸を作成した(試作例1ないし22)。また、ビスコース由来の再生セルロース以外の原料として木材(ベイマツ:米松)から生じたオガコ(大鋸粉)、メチルセルロースからも固体酸を作成した。詳細は、後出の表1ないし4に示す。
【0045】
〈粒状セルロース原料の調製〉
パルプを原料に水酸化ナトリウム、二硫化炭素を添加し常法により調製したビスコース(セルロースキサントゲン酸ナトリウム)の水溶液を用意した。このビスコース水溶液は、セルロース分:8.3ないし9.3重量%、総アルカリ分:5.6ないし6.6重量%、水分:84.1ないし86.1重量%の組成であった。
【0046】
前記のビスコース水溶液1kgに濃度6重量%の水酸化ナトリウム水溶液1kgを添加、混合してビスコース希釈液とした。再生セルロースに転化するための凝固液は、2Nの硫酸10L中に硫酸ナトリウム800gを溶解した希酸液を用意した。内径1mmのチューブを取り付けたチューブポンプ(Core−Parmer社製,品名:Masterflex C/L Tubing Pumps)を用いてビスコース希釈液を凝固液中に滴下した。ビスコース希釈液は凝固液中で粒状の液滴になるとともに凝固してセルロースに転化した。セルロースに転化した粒状物を凝固液から回収した。次に4.5重量%硫化ナトリウムと1重量%水酸化ナトリウムの混合水溶液からなる脱硫液に前記の粒状物を浸して攪拌、回収して水洗を繰り返した。最終的な水洗後、100℃に調温した恒温槽に移し温度変化がなくなるまで乾燥して粒径0.9ないし1.4mmとなる粒状セルロース原料を得た。
【0047】
大径の粒状物を成形するため、内直径25mm、全長20mmの短管の両端が開口した円筒物を複数用意し、それぞれの開口部を上下にして金属製バット内に並べた。前出のビスコース水溶液を円筒物の上面まで注入して充填した。前出の調整による凝固液を円筒物が完全に浸るまでバット内へ注入してセルロースへ転化させた。セルロースに転化した大径粒状物を凝固液から回収した。次に、前出の調製による脱硫液に前記の大径粒状物を浸して攪拌、回収して水洗を繰り返した。最終的な水洗後、100℃に調温した恒温槽に大径粒状物を移し温度変化がなくなるまで乾燥して粒径10ないし15mmとなる円柱状の粒状セルロース原料を得た。
【0048】
〈焼成・炭化〉
粒状セルロース原料を金属板上に配しマッフル炉(光洋サーモシステム株式会社製,型式:INH−51N1)を用い、窒素ガスにより不活性雰囲気状態を維持し、表1,2の加熱温度まで昇温して当該温度を60分間維持した。加熱が終了して冷却後、マッフル炉から取り出して粒状炭化物を得た。滴下により転化した粒状炭化物は概ね0.7ないし1mmの粒径であった。細かい粒径の粒状物については、滴下により転化した粒状炭化物を乳鉢で砕き83〜200mesh(粒径0.075〜0.18mm相当)の篩いで篩別した。筒状物を用い大径の粒状セルロース原料から転化して得た円柱状の粒状炭化物は概ね8ないし12mmの粒径であった。粒径3mm、5mmの粒状炭化物は、円柱状の粒状炭化物を適宜乳鉢で砕き篩別して目的の粒径の粒状炭化物を回収した。
【0049】
〈スルホ化〉
粒状炭化物を10g秤量して500mLの三つ口フラスコ内に投入し、ここに11.3%の発煙硫酸100mLを添加した。80℃の反応温度を維持しながら10時間、攪拌した。その後、蒸留水で繰り返し洗浄した。洗浄後の蒸留水中の硫酸イオンが検出限界以下になるまで洗浄を繰り返し、これを乾燥して粒状固体酸を得た。
【0050】
〔その他の原料例による固体酸の試作〕
ビスコース由来の再生セルロースをベイマツ(米松)のオガコに変更した。ここで使用したオガコの形状は破砕状とした。オガコを105±5℃に保った乾燥機内で8時間乾燥後、4.7ないし83meshの篩(粒径180ないし4000μmに相当)により篩別し木粉を得た。木粉を坩堝に入れ、マッフル炉を用い窒素ガスにより不活性雰囲気状態を維持し、表3の加熱温度まで昇温して当該温度を60分間維持して炭化物を得た。炭化物に対するスルホ化は粒状固体酸と同様とした。こうして、対照例1ないし5のオガコ由来の固体酸を得た。
【0051】
また、ビスコース由来の再生セルロースをメチルセルロース粉末(信越化学株式会社製,品名:メトローズSM−4000)に変更した。メチルセルロース粉末を坩堝に入れてマッフル炉を用い窒素ガスにより不活性雰囲気状態を維持し、表4の加熱温度まで昇温して当該温度を60分間維持して炭化物を得た。その後のスルホ化は粒状固体酸と同様とした。こうして、対照例6ないし9のメチルセルロース由来の固体酸を得た。
【0052】
〔スルホ基量の測定〕
試作例並びに対照例の固体酸を100℃に加熱して乾燥した。それぞれの炭素系固体酸に含まれる元素組成について、自動燃焼イオンクロマトイオンクロマトグラフ:DIONEX製ICS−1000、燃焼装置:株式会社三菱化学アナリテック製AQF−100、吸収装置:株式会社三菱化学アナリテック製GA−100、送水ユニット:株式会社三菱化学アナリテック製WS−100、燃焼温度1000℃)により分析した。得られた硫黄分(mmol/g)は、スルホ基と等価であるとして、単位重量当たりの固体酸におけるスルホ基量(mmol/g)を求めた。
【0053】
〔触媒活性の測定〕
〈加水分解反応の測定〉
試作例並びに対照例の固体酸を100℃に加熱して乾燥した。サンプル瓶に固体酸0.1gを分取し、セロビオース0.12g、水0.7mLを添加し、90℃の温度を維持しながら1時間反応させた。反応後冷却して水2.3mLを添加しシリンジフィルターにより濾過した。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(株式会社島津製作所製,RID−10A)、カラム(BIO−RAD社製,品名:AminaxHPX−87Hカラム)を使用し、濾過液を当該HPLCに装填し、グルコース等の単糖類のピーク面積比よりセロビオースから分解されて生成した糖類量を求めた。そして、1g固体酸当たりの1時間の反応による分解量(μmol)に換算した(μmol・g
-1・h
-1)。
【0054】
〈エステル化反応の測定〉
試作例並びに対照例の固体酸を100℃に加熱して乾燥した。固体酸0.2gをフラスコに分取して150℃で1時間、真空乾燥(0.4Pa以下)した。真空乾燥を終えた固体酸にエタノール58.5mL、酢酸5.742mLを添加し、70℃の温度を維持しながら1時間反応させた。反応後冷却してシリンジフィルターにより濾過した。濾液中に含まれる酢酸エチルの生成量をガスクロマトグラフィー(GC)(株式会社島津製作所製,GC−2014 FID−ガスクロマトグラフィー)、カラム(アジレント・テクノロジー株式会社製,J&W GCカラム DB−WAXキャピラリーカラム)を使用して求めた。そして、1g固体酸当たりの1分間の反応による分解量(mmol)に換算した(mmol・g
-1・min
-1)。
【0055】
〔総合評価〕
前述の評価項目毎の良否、粒状炭化物の形状、粒状固体酸としての取り扱い易さ等を総合的に考慮して、個々の試作例について良否を判定した。各評価項目に優れており極めて優良な試作例を総合評価「A」とした。概ね良好な試作例を総合評価「B」とした。触媒活性を示した試作例を総合評価「C」とした。不可の試作例を総合評価「D」とした。実需要の観点から総合評価AとBが望ましい。
【0056】
各試作例並びに各対照例について、使用した原料(種類,形状,粒度(mm))、炭化条件(炭化温度(℃),形状,粒度(mm))、触媒評価(形状,粒度(μm),硫黄含有量(重量%),スルホ基量(mmol/g),加水分解反応速度,エステル化反応速度,総合評価の結果は、表1ないし表6となった。なお、5個の試作例について熱重量変化(Rw(%))も付した。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】
【0061】
【表5】
【0062】
【表6】
【0063】
同時に、既存のスルホ基担持樹脂のパーフルオロカーボン材料としてDu Pont社製,Nafion(登録商標) NR50(粒状)を選択し、同樹脂材料(参考材料)を用い前述の試作例と同様の触媒評価を行った。加水分解反応速度は96μmol・g
-1・h
-1、エステル化反応速度は0.4mmol・g
-1・min
-1であった。
【0064】
〈粒状炭化物の熱重量変化〉
粒状セルロース原料に対する焼成、炭化時の温度とスルホ基量との影響を確信した発明者らは、スルホ化される前段階の粒状炭化物にどのような違いが存在するのかについて、熱重量変化(TG:Thermogravimetry)を計測し、重量変化の挙動を調べた。測定機器は、株式会社島津製作所製,品名:熱重量測定装置TGA−50を使用した。
【0065】
図3ないし
図7は熱重量変化のグラフであり、図順に試作例1(炭化温度250℃)、試作例5(炭化温度290℃)、試作例7(炭化温度350℃)、試作例10(炭化温度420℃)、及び試作例12(炭化温度450℃)の粒状炭化物についての熱重量変化の結果である。順番は炭化温度の低い方からの並びである。各グラフ中、右上がりの破線の直線は温度上昇を示し、右下がりの実線の曲線は加熱に伴う粒状炭化物の熱重量の変化を示す。各図の全体傾向のとおり、温度上昇と逆にいずれも重量は減少した。
【0066】
次に、個々のグラフの変化を見た場合、炭化温度の低い試料ほど、低温加熱温度域における重量減少が著しい。この差異は出来上がる固体酸の触媒活性を大きく左右すると考えることができる。そこで、温度と重量変化の動態変化を把握するべく、加熱温度300℃から400℃までの間に、どれほどの重量(相対比)が減少したのか(重量減少率(%))を算出して、指標とした。
具体的に、室温から300℃まで加熱した時点の粒状炭化物重量(W
1(mg))及び300℃から400℃まで加熱した時点の粒状炭化物重量(W
2(mg))から、加熱温度300℃から400℃までの間の重量変化率(Rw(%))を下記の数式(i)のとおり求めた。重量差は絶対値とした。
【0067】
【数2】
【0068】
〔結果,考察〕
〈原料の選択〉
ビスコース由来の再生セルロースから調製した固体酸は、焼成、炭化後であっても均一な炭化物となり、球状物(粒状物)を容易に得ることができた。これに対し、オガコやメチルセルロースの場合、不定形な粉末状となった。試作例の範囲によると、0.075mmから10mmの粒状炭化物までの作り分けが可能である。
【0069】
また、単位重量当たりに換算した触媒活性の評価においても、試作例のビスコース由来の再生セルロースから調製した固体酸は、他原料の対照例と比較して良好な結果を示した。例えば、試作例3ないし10,15ないし22、特には試作例3ないし9、15,16,18,19,21,22と、対照例との比較から明らかである。従って、高い触媒活性を発揮し、途中の加工の簡便さ等を勘案すると、再生セルロースを出発原料とすることが望ましく、特にはビスコースに由来する原料がより好適である。また、粒状固体酸はそれぞれの粒径の大小にかかわらず触媒活性を示したことから、粒状固体酸の粒径設計の自由度も極めて高い。
【0070】
〈焼成、炭化温度の範囲〉
粒状セルロース原料に対する焼成、炭化温度について、試作例1ないし5の触媒活性を比較した場合、試作例1,2の炭化温度250℃,260℃ではスルホ化段階で粒状炭化物が分解して固形分を回収することができなかった。試作例3,4の炭化温度270℃,280℃ではスルホ化は可能であるものの形状が崩れて粒状物としては回収することはできなかった。しかし、試作例5の炭化温度290℃の場合、粒状固体酸として回収することができた。この結果から、低温度側の焼成、炭化温度では良好な炭化が困難といえる。そこで、焼成、炭化温度の下限は290℃となる。
【0071】
次に、試作例3ないし11の粒状固体酸と、一般に触媒用途に使用される前出のスルホ基担持樹脂のパーフルオロカーボン材料の触媒活性を比較した場合、試作例10の炭化温度(420℃)までは既存の樹脂固体酸よりも高い触媒活性を示した。しかしながら、試作例11の炭化温度(430℃)からは触媒活性が下回った。この結果から、試作例10と11の炭化温度の境界を踏まえて焼成、炭化温度の上限は420℃と想定することができる。一般に高温度域の焼成、炭化温度では活性炭にグラフェンシート様構造が生成することが知られている。そのため、試作例においても活性炭表面に変化が生じ、スルホ基の導入量が低下したことを示唆する。従って、焼成、炭化温度の上限は420℃、より好ましくは410℃となる。
【0072】
〈スルホ基量の範囲〉
参考材料として開示の既存の樹脂固体酸と同等もしくはそれ以上の触媒活性作用を発揮するスルホ基量を勘案した場合、試作例10,17より、下限については0.7mmol/g以上、好ましくは、1.0mmol/g以上(試作例20)、より好ましくは2.1mmol/g以上(試作例16)が必要といえる。次に、試作例5,6を考慮して2.7mmol/gが上限であると考える。粒状炭化物の比表面積等の物性上の制約を超えてスルホ基を導入することは事実上不可能である。そこで、変動幅を含めても前記の値を上限として考えた。なお、試作例のビスコース由来の再生セルロースから調製した固体酸のいくつかについては、同等のスルホ基導入量であっても、対照例の固体酸よりも触媒活性が高くなっていた。この原因は必ずしも明らかではないものの、再生セルロースの均一な成分と粒状形状を維持したことが一定の効果を与えているといえる。
【0073】
〈熱重量変化の挙動〉
図3ないし
図7の粒状炭化物の重量変化率は次のとおりであった。W
1は室温から300℃まで加熱した時点の重量であり、W2は300℃から400℃まで加熱した時点の重量である。
図3:試作例1 (炭化温度250℃)の重量変化率Rw=54.08%
試作例1 :{W
1=17.580mg,W
2=8.073mg}
図4:試作例5 (炭化温度290℃)の重量変化率Rw=18.19%
試作例5 :{W
1=17.910mg,W
2=14.653mg}
図5:試作例7 (炭化温度350℃)の重量変化率Rw= 2.91%
試作例7 :{W
1=18.508mg,W
2=17.969mg}
図6:試作例10(炭化温度420℃)の重量変化率Rw= 1.56%
試作例10:{W
1=18.706mg,W
2=18.415mg}
図7:試作例12(炭化温度450℃)の重量変化率Rw= 1.34%
試作例12:{W
1=18.508mg,W
2=17.969mg}
【0074】
炭化温度の昇順に並べた
図3ないし
図7のグラフ及び前掲の重量変化率Rw(%)の傾向から、粒状炭化物を調製する際の炭化温度が低い場合、焼成により完全に炭化しきれていない成分が残留しているため、熱重量変化測定(TG)の加熱により揮発し、大きな重量変化となったと考えることができる。逆に粒状炭化物を調製する際の炭化焼成温度が高い場合、既に焼成により炭化が進行し残留成分は減少しており、熱重量変化測定(TG)の加熱時においても重量変化は少なくなったと考えることができる。
【0075】
前述のとおり、スルホ基の導入量、すなわち触媒活性の多少から導き出された炭化温度の範囲(290ないし420℃)に、300℃加熱時点と400℃加熱時点との重量変化率Rw(%)の数値を重ね合わせることができる。すなわち、試作例5(炭化温度290℃)の重量変化率Rw(18.19%)と試作例10(炭化温度420℃)の重量変化率Rw(1.56%)との重量変化率が妥当である。よって、加熱温度300℃から400℃までの間の粒状炭化物の重量変化率Rw(%)は、1.5以上とすることで触媒活性を確保することができ好ましい。さらに、粒状化を考慮すれば1.5ないし18%の範囲が好ましい。重量変化率の傾向からわかるように、ある特定の温度域における粒状炭化物の重量減少の挙動を把握することにより、その後のスルホ基の付加量、さらには触媒活性性能の推定に役立てることができるため、良好な粒状固体酸を製造する上での指標として好適である。
【0076】
〈総合評価について〉
総合評価Aの試作例は、粒状の安定した形状の固体酸として作成することができ、また触媒活性も非常に良好である。総合評価Bの試作例は、Aよりは触媒活性等が下がるものの、既存の固体酸より良好である。よって、総合評価AやBの固体酸については十分に使用可能である。総合評価CやDについては性能が不十分もしくは製造不能等であるため、使用に向かない。そこで、総合評価AやBの固体酸を中心に開発することが望ましい。