(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
硫酸は高い活性を有し、炭化水素化合物を反応させる際の触媒としても広く利用される。硫酸は触媒として各種の反応促進に寄与した後、中和、洗浄され、その都度消費されていた。硫酸は液体であるため回収が容易ではない。回収処理と新規投入との経費差から、現状は使い捨てが主流である。しかし、使用済みの硫酸の中和、洗浄に加え、環境基準に準拠した排水処理までを考慮すると、この負担は大きい。このことから、触媒として連続使用に耐えうるとともに、反応後の分離、回収に容易なより利便性の高い触媒が求められるようになってきた。
【0003】
そのような触媒として固体酸が挙げられる。例えば、硫酸処理を施したジルコニア、PTFEにスルホン酸基を導入したフッ素樹脂である。前記のジルコニアの場合、単位重量あたりのスルホン酸基濃度が低いため、触媒活性が低い欠点がある。また、前記のフッ素樹脂に関しては、熱に弱く、適用できる反応種が限られている問題がある。そこで、十分な触媒活性と耐熱性も併せ持つ固体酸として、炭素系固体酸が提案された(特許文献1、特許文献2参照)。例えば、特許文献1の固体酸は、多環式芳香族炭化水素を濃硫酸中で加熱処理して得ることができる。
【0004】
特に炭素系固体酸は、十分な触媒活性と耐熱性を併せ持ち、さらには、固体酸がその内部に細孔構造による適度な表面積(比表面積)を有していればより触媒反応が優位にはたらく。このため、吸着界面における濃度がバルク相における濃度よりも高くなる。このことから、固体酸内部の触媒反応界面では溶液中の溶質濃度が固体酸表面と比較して高くなり、細孔構造を有する固体酸の方が反応を加速することができる。
【0005】
その後、炭素系固体酸の性能向上とともに、安価かつ量産に適した原料、並びにその調製条件が提案されている(特許文献3参照)。この固体酸によれば、固体酸触媒として好適となるとともに、耐熱性、耐酸性あるいは化学的安定性にも優れ、コスト低減も図られることから、各種の化学反応の触媒として非常に有用である。
【0006】
固体酸を触媒として用いる場合、触媒として反応対象物に混入した後、撹拌等により固体酸は拡散され、反応が促進する。しかしながら、従前の炭素系固体酸の場合、粉末であることから、反応後の固体酸はフィルターやメッシュ等を用いて反応系から適宜回収する必要があった。
【0007】
そこで、粉末状の固体酸であっても通液による圧力損失の低い安定的な凝集体としてひとつの部材とすることができれば、取り扱いの利便性が向上し、さらには装置設計も大きく改善されるといえる。従って、固体酸を含みながらも活性を低下させることのない固体酸のリアクターが望まれるに至った。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の固体酸リアクターの形状、形態は、その用途に応じて適宜設計される。通液時に固体酸リアクターの表面積が最も有利に利用でき、かつ均等に液体を通過させることができるため、
図1に示すように中心に空洞を有する円筒体構造や円柱構造が多く用いられる。
【0018】
はじめに
図1を用い構造面から説明する。
図1(a)の固体酸リアクター1の本体部10は、適宜の透過孔を有した中空円筒形芯部材12の表面に反応能力を有する反応部11を凝集させた構造体である。一般には、
図1(b)の固体酸リアクター1Aのように、キャップ14等の付属品が取り付けられ、取り扱いの利便性が図られる。同図において、本体部10の反応部11の表面は、不織布等の透過性の高い布状物13により被覆、保護される。そして、反応部11の上下を保護するキャップ14が被せられる(キャップの形状、材質は用途により異なる。)。通常、
図1(b)の形態で販売、使用される。中空円筒形芯部材12は本体部10内に残存させても取り外してもよい。用途等により適宜ではあるものの本体部10の保形性を重視して中空円筒形芯部材12は本体部10内に残存される。
【0019】
固体酸リアクターの主体となる反応部11は、請求項1の発明に規定し、
図2に示すように、炭素系固体酸21、構造維持繊維状物22、及びフィブリル化繊維バインダー23とを有し一体化形成される。このように、炭素系固体酸を触媒としつつ、他の2種類の繊維状成分により反応部11の保形性を確保した構造体である。
【0020】
一般的な製法から得られる炭素系固体酸は、粒径3ないし100μm程度の粉末状物である。しかし、前述のように粉末状の炭素系固体酸では回収等の作業が適宜必要であるため、繊維状物とともに凝集して一体化する形成手法が有効である。そこで、炭素系固体酸21とこれに添加する繊維状成分の材質、割合について順に説明する。
【0021】
炭素系固体酸21は、各種の合成樹脂や使用済みタイヤ等の炭化物をはじめ植物等の天然物の炭化物を主材料とする。原料調達の利便性や価格面から、木材の製材、加工時に生じるオガコ(または大鋸屑や鉋屑等)、廃材や間伐材、廃竹、伐採竹、ヤシ殻等のセルロース分に富む木質の植物原料の粉砕物が好ましく用いられる。実際の使用に際し、炭素系固体酸21は加工時の品質安定性から、一定の粒径に揃えられる。
【0022】
例えばオガコを例にとると、粒径を揃えるため篩別の後、必要により塩化亜鉛の含浸が行われる。そして焼成により木質は炭化される。その後、硫酸や発煙硫酸に浸漬して加熱される。この過程を通じて、炭化物の表面に、スルホ基と称される酸性の官能基が導入される。具体的には、前掲の特許文献3(特開2011−011201号公報)等が参照される。炭素系固体酸の調製法は、上記の方法に限られることはなく、炭素源となる材料、活性炭に加工する際の加熱の条件、スルホ化時のスルホ基の導入量等は最適に調整される。
【0023】
構造維持繊維状物22は後記のフィブリル化繊維バインダーと絡むことによって炭素系固体酸21を固体酸リアクター内に取り込み保持する。この構造維持繊維状物22には公知の樹脂繊維が用いられ、特には
、合成樹脂繊維もしくは炭素繊維が用いられる。合成樹脂繊維の場合、例えば、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、塩化ビニル繊維等が挙げられる。構造維持繊維状物22は炭素系固体酸21と常時接触するため、耐触性の高い樹脂繊維とすることが望ましい。炭素繊維の場合、もとより炭素のみの結合であるため、極めて耐薬品性に優れており、より好適である。
【0024】
構造維持繊維状物22の繊維長は、後述する水中での分散性を考慮して0.1ないし5mm程度の範囲であることが望ましい。0.1mm以下の極端に短ければ炭素系固体酸21と絡まりあうことが難しく、最終的に本体部10の保形性に寄与しないことがある。また、5mmを超過する場合も炭素系固体酸21と絡まりあいが悪くなる。ただし、構造維持繊維状物22の長さは必ずしも厳密ではなく、裁断、混合時の誤差等は許容される。
【0025】
本体部10内に占める重量割合について、炭素系固体酸21の重量割合を100重量部とした場合、構造維持繊維状物22は、5重量部以上の重量割合の組成である。後記の実施例に開示のとおり、5重量部以上の重量割合の組成により固体酸リアクターとして形成できたためである。構造維持繊維状物22が5重量部を下回る重量割合では相対的に炭素系固体酸21の割合が多くなり緻密化が進む。その結果、反応液の通過時の流通圧力が過大となる。構造維持繊維状物22が100重量部を上回る重量割合では固体酸リアクターにおける炭素系固体酸21の割合が少なり、固体酸リアクターの容積がきわめて増加することから好ましくない。このことから、5〜100重量部
、特には5〜50重量部の割合の組成範囲が妥当と勘案することができる。
【0026】
フィブリル化繊維バインダー23は、繊維に毛羽立ち形成(フィブリル化)が可能な合成樹脂繊維であれば、適宜使用可能である。例えば、フィブリル化したポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、アラミド繊維等である。これらについても、炭素系固体酸21と常時接触するため、耐触性の高い樹脂繊維から選択することが望ましい。さらに
、アクリル繊維バインダーが好ましく用いられる。前述の説明のとおり、炭素系固体酸21や構造維持繊維状物22のみの場合、各成分同士を結着させる力が弱い。そこで、フィブリル化繊維バインダー23を配合することにより、繊維の毛羽立ちを通じて効率よく炭素系固体酸21を固体酸リアクター内に取り込むことができる。
【0027】
フィブリル化繊維バインダー23の重量配合割合は特段規定されないものの、固体酸リアクターの保形が可能な程度で配合される。後記の実施例においては炭素系固体酸21の重量割合を100重量部としたときにフィブリル化繊維バインダー23は10重量部である。むろん、極端に少なすぎれば、フィブリル化繊維バインダーの結合性が生じない。なお、反応液の流通時の流体圧力を考慮してフィブリル化繊維バインダーの配合量を増減して固体酸リアクターの構造強度は調整される。
【0028】
次に、
図2の概略工程図を用い固体酸リアクターの製造過程を説明する。請求項
3の発明に規定するように、炭素系固体酸21、構造維持繊維状物22、及びフィブリル化繊維バインダー23は水中に投入される。これらは水中で十分に混合されて混合スラリー状物20が調製される。
【0029】
中空円筒形芯部材12の内部に、混合スラリー状物を減圧吸引するための多孔の金型棒状部材26が挿入される。中空円筒形芯部材12には透過のための細孔(図示省略)が形成されており、金型棒状部材26は多孔形状のステンレス製である。中空円筒形芯部材12と金型棒状部材26の一体化物が混合スラリー状物20内に降ろされた後、金型棒状部材26を介して減圧吸引することにより、混合スラリー状物20は中空円筒形芯部材12の側面に引き寄せられて被着(凝集)する。図示の切り欠き部分参照のとおり、中空円筒形芯部材の表面にスラリー被着部27が形成される。所定量のスラリー被着部27が形成された後、混合スラリー状物から引き上げられ、金型棒状部材26が取り外される。こうして中空円筒形芯部材12の表面にスラリー被着部27を備えた吸着被着物25が得られる。その後、吸着被着物25は乾燥機内で適宜乾燥される。
【0030】
炭素系固体酸はスルホ化によりスルホ基を導入していることから、長時間の加熱乾燥を行うとスルホ基が分解し触媒としての活性が低下する。そこで、必要により固体酸リアクターでは、水気を切ることを目的として水分調整が行われる。この水分調整は、フィブリル化繊維バインダーを溶融して炭素系固体酸や構造維持繊維状物と融着させることを目的とした工程ではない。
【0031】
当該湿式成形法による成形によると、炭素系固体酸21の性質に影響を与えることなく比較的容易に通気性(通液性)ある部材を形成できる、しかも、混合スラリー状物20を多量に用意しておくことができ、量産に適している。また、所望の固体酸リアクターの大きさ、反応系等を勘案して最適に設定することが可能である。
【0032】
これまでに述べた固体酸リアクターについて、その用途は特段限定されない。例えば、スルホ基に起因する加水分解、エステル化反応、アルキル化反応等を促進する触媒作用である。固体酸リアクターは凝集化した部材として構成されていることから、原料(未反応物)を通過させている段階で触媒として作用して別の反応生成物を得ることができる。しかも、リアクター自体の損壊、漏出等はほとんど生じない。従って、常時原料を供給し続けることができ、従前の固体酸のみを用いた設備よりも飛躍的に反応生成物の生産性が高まる。また、保形性が高められていることから原料供給時の流体圧力が高い条件下での使用にも耐え得る。加えて、規定の耐用期間経過後においては、固体酸リアクターごと交換できるため、設備の保守面においても簡便である。
【0033】
さらに、請求項
2の発明に規定する固体酸触媒反応装置について、
図3及び
図4を用い説明する。
図3は第1例に係る固体酸触媒反応装置30の模式図であり、バッチ式循環路型の反応装置である。
図4は第2例に係る固体酸触媒反応装置40の模式図であり、連続式多段型の反応装置である。
【0034】
図3において、反応中心となる触媒反応部31は、本発明の固体酸リアクター1,1A(
図1参照)を収容したリアクターユニット32、循環タンク33、循環ポンプ34を備え、これらは循環配管35により管路接続される。循環ポンプ34の作動により循環タンク33内の原料(未反応物)がリアクターユニット32に圧送される。同リアクターユニットを通過した反応生成物を含む原料は再び循環タンク33に戻る。この流れを所定時間繰り返すうちに、触媒反応を通じて出来上がった反応生成物の濃度は高められる。そこで、回収タンク36に循環液が送られる。その後、濾過、精製等を経て目的の反応生成物は回収される。
図3の固体酸触媒反応装置30は比較的小規模の生産に向いている。原料の切り換えることにより各種の触媒反応を行う場合に適する。
【0035】
図4において、反応中心となる触媒反応部41は、本発明の固体酸リアクター1,1A(
図1参照)を収容したリアクターユニット42a,42b,42cを複数配し、供給タンク43、圧送ポンプ44を備える。これらは循環配管45により管路接続される。
圧送ポンプ44の作動により
供給タンク43内の原料(未反応物)は、リアクターユニット42aから順に42b、42cと圧送される。同リアクターユニットを順に通過することにより、触媒反応を通じて出来上がった反応生成物の濃度は高められる。そこで、回収タンク46に反応生成物は集められる。その後、濾過、精製等を経て目的の反応生成物は回収される。
図4の固体酸触媒反応装置40は連続的に処理できるため、大規模の生産に向いている。特に、リアクターユニットの数の拡大、さらにはひとつのリアクターユニットに収容する固体酸リアクターを増やす等により、さらなる処理能力の拡大が見込まれる。
【0036】
この図から把握されるように、本発明の固体酸リアクターを備えた固体酸触媒反応装置では、たとえ粉末状の炭素系固体酸を用いたとしてもその回収に必要な装置を省略することができる。そこで、装置を構成する部材数の軽減を図ることができ、設備の小規模化及び設備経費の圧縮も可能となる。
【0037】
図中、符号37及び47は原料タンク、38及び48は供給ポンプ、39及び49は供給配管である。固体酸触媒反応装置30,40には、触媒反応を制御するための加温器、反応生成物を検出する濃度センサー、流量を計測する流量計等の各種機器も適式に備えられる(図示省略)。むろん、固体酸触媒反応装置は図示の施工例に限らず、本発明の固体酸リアクターを用いる限り反応系に応じて適宜変更可能である。
【実施例】
【0038】
〔炭素系固体酸の調製〕
本発明の固体酸リアクターに用いる炭素系固体酸は、炭素源となる植物系原料としてベイマツ(米松)のオガコを篩により篩別し、篩別したオガコの木粉を用い、以下の手順に基づいて塩化亜鉛の含浸、予備炭化、発煙硫酸によるスルホ化を行い、炭素系固体酸に調製した。
【0039】
オガコを105±5℃に保った乾燥機内で8時間乾燥後、4.7〜83meshの篩(粒径180〜4000μmに相当)により篩別し、木粉を得た。木粉をマッフル炉を用い窒素ガスにより不活性雰囲気状態を維持し、350℃の加熱温度まで昇温して当該温度を60分間維持して炭化物を得た。
【0040】
炭化物を10g秤量して500mLの三つ口フラスコ内に投入し、ここに11.3%の発煙硫酸100mLを添加した。80℃の反応温度を維持しながら10時間、攪拌した。その後、蒸留水で繰り返し洗浄した。洗浄後の蒸留水中の硫酸イオンが検出限界以下になるまで洗浄を繰り返し、固体酸を得た。
【0041】
〔固体酸リアクターの作成〕
構造維持繊維状物として炭素繊維と合成樹脂繊維を使用した。炭素繊維は大阪瓦斯ケミカル株式会社製,品番S−23,繊維長5mm、合成樹脂繊維はポリエチレン繊維(三井化学株式会社製,品番ESS−5,繊維長0.1mm)、フィブリル化繊維バインダーはアクリル繊維(東洋紡績株式会社製,品番Bi−PUL50TWF)を使用した。また、バインダー性能の比較のため、溶融性バインダーの粉末ポリエチレン(住友精化株式会社製,品番UF‐1.5N)も使用した。
【0042】
表1に基づく原料とその配合(単位:重量部)に従い、炭素系固体酸、構造維持繊維状物として、炭素繊維もしくは合成樹脂繊維としてポリエチレン繊維、フィブリル化繊維バインダーとなるアクリル繊維バインダーを水中で十分に混合し、実施例1ないし4に対応した混合スラリー状物を調製した。混合スラリー状物における水は添加した固形分の10倍重量部とした。
【0043】
本実施例においては実験の簡略化のために小規模の試験装置での評価が容易な円柱形に成形した固体酸リアクターを用いて評価を行った。はじめに、直径27mm、高さ50mmの円柱形に空隙の開いたステンレス製の金属部材(以後金型とする)を用意した。金型の内側面はステンレス製のメッシュが貼られている。実施例ごとの混合スラリー状物内に投入し、減圧吸引により混合スラリー状物内から固形分を引き寄せて空隙部分に被着させ、金型より被着物を取り出し円柱形の固体酸リアクターを得た。
【0044】
そして、水分調整を行い、実施例1ないし6の固体酸リアクターを試作した。各固体酸リアクターの寸法は、外径27mm、全長20mmの円柱体である。
なお、実施例4,5,6は参考例とする。
【0045】
比較例1は実施例と同一の炭素系固体酸のみであるため、実施例の固体酸リアクターの寸法と同様の円筒容器内に充填して封止した。比較例2は溶融性バインダー20重量部を添加し、実施例の固体酸リアクターの寸法と同様の金型内に充填し乾燥機を用いて150℃前後で加熱、乾燥を行い、粉末ポリエチレンを溶融して各成分同士を一体化した。比較例3は構造維持繊維状物が少なすぎるために成形ができずリアクターとしての機能が発揮されず不適格である。比較例4は作成方法は実施例と同様であるが、フィブリル化繊維バインダーを配合していない。これにより、成形ができないため不適格である。
【0046】
〔評価項目〕
実施例並びに比較例の各固体酸リアクターについて、成形性、通水抵抗(圧力損失)、触媒活性性能、堆積増加率を測定し評価した。また、これらの測定、評価に基づいて良否の総合評価も行った。表1,2中の「非絶乾」とは完全に乾燥しておらず水分含量10〜20%の状態をいい、「絶乾」とは水分含量を5%以下に乾燥した状態をいう。成形方法の「湿式」とは前述の混合スラリー状物を経た作成例であり、「乾式」とは混合スラリー状物を経ていない作成例である。
【0047】
〈成形性〉
所定の被着が可能であった固体酸リアクターを「○」、所定量の被着が不能であった固体酸リアクターを「×」とした。
【0048】
〈通水性〉
実施例及び比較例の固体酸リアクターのそれぞれに対し、水4mL/minの流量にて通液し、固体酸リアクターに加わる動水圧を測定した。
通水方向は固体酸リアクター上方から下方とした。4mL/minの流量の通水条件における動水圧が0.01MPa以下の固体酸リアクターを「○」、同通水条件における動水圧が0.01〜0.05MPaの固体酸リアクターを「△」、同通水条件における動水圧が0.05MPa以上の固体酸リアクターを「×」とした。
【0049】
〈触媒活性性能〉
実施例及び比較例の固体酸リアクターのそれぞれに対し、液温90℃、5重量%に調製したセロビオース溶液を4mL/minの流量で通液した。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(株式会社島津製作所製,RID−10A)、カラム(BIO−RAD社製,品名:AminaxHPX−87Hカラム)を使用し、濾過液を当該HPLCに装填し、グルコース等の単糖類のピーク面積比よりセロビオースから分解されて生成した糖類量を求めた。
【0050】
そこで、ろ過液のグルコース濃度より、固体酸触媒1gが1時間あたりにセロビオースを加水分解して、生じたグルコース量(μmol・g
-1・h
-1)の多少により触媒活性性能の良否を評価した。グルコース生成量が200〜250μmol・g
-1・h
-1の固体酸リアクターを「○」、グルコース生成量が100〜200μmol・g
-1・h
-1の固体酸リアクターを「△」、グルコース生成量が100μmol・g
-1・h
-1以下の固体酸リアクターを「×」とした。
【0051】
さらに、構造維持繊維状物およびフィブリル化繊維バインダーが含まれない炭素系固体酸の体積に対するリアクター化による体積増化率を評価した。体積増化率100%以下の固体酸リアクターを「○」、体積増化率100〜200%の固体酸リアクターを「△」、体積増化率200%以上の固体酸リアクターを「×」とした。
【0052】
〈総合評価〉
実施例及び比較例の固体酸リアクターについて、実需用上の観点を勘案して総合評価を行った。表中の評価項目において、「「×」および「△」が0個の固体酸リアクターは優良品として『A』の総合評価とした。「×」が0個かつ「△」が1個以上の固体酸リアクターは良品として『B』の総合評価とし、「×」が1個以上の固体酸リアクターは不可品として『C』の総合評価とした。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
〔結果と考察〕
表に開示の結果より、実施例1ないし6の固体酸リアクターはいずれの項目においても比較例の固体酸リアクターよりも有意に優れている
。構造維持繊維状物とフィブリル化繊維バインダーを欠く比較例1は、成形性を有さず、リアクターの構造体としては不適格である。また、熱溶融性の粉末ポリエチレンバインダーを添加して作成した比較例2については、成形性を有するものの成形時に粉末ポリエチレンバインダーを加熱溶融して融着させることから全体に目詰まりが生じて通水抵抗が大きくなり使用に向かない。併せて、溶融したポリエチレンバインダーに固体酸表面が被覆される為触媒活性性能が低下したといえる。また、加熱溶融時の熱条件によりスルホ基の分解も勘案されるため、不適切といえる。
【0056】
比較例3では、構造維持繊維状物が少なすぎるために成形ができないため不適格である。フィブリル化繊維バインダーを欠く比較例4についても成形が出来ないため不適格である。実施例1ないし6は構造維持繊維状物として炭素繊維の配合量を増加させたため成形性が高まる。構造維持繊維状物の配合量が一定重量部以上であれば成形性を有することがわかる。さらに、構造維持繊維状物の種類を代えた実施例5及び6も成形性を具備することから、使用繊維の幅が広がる。
【0057】
実施例1ないし6と、比較例3との構造維持繊維状物の重量配合割合から、構造維持繊維状物は3重量部では不足であり、5重量部を超えると成形性が好転する。従って、構造維持繊維状物の配合の下限は5重量部であると推測する。構造維持繊維状物の配合の上限については特別規定する必要性は乏しい。しかしながら、構造維持繊維状物が過剰であれば、相対的に炭素系固体酸の重量割合が抑えられてしまうため、リアクター1本当たりの触媒活性を低下させることとなり望ましくない。そこで、実施例4に示すとおりおおよそ100重量部が上限となる。構造維持繊維状物の配合割合は、反応系や反応装置における通液量、流速、耐性等を勘案して規定できる。