特許第6018464号(P6018464)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018464
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】電子制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 11/10 20060101AFI20161020BHJP
   F02D 9/02 20060101ALI20161020BHJP
   F02D 41/20 20060101ALI20161020BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20161020BHJP
   G05B 13/00 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   F02D11/10 K
   F02D9/02 351M
   F02D41/20 310A
   F02D45/00 358H
   G05B13/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-205427(P2012-205427)
(22)【出願日】2012年9月19日
(65)【公開番号】特開2014-58934(P2014-58934A)
(43)【公開日】2014年4月3日
【審査請求日】2015年6月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000141901
【氏名又は名称】株式会社ケーヒン
(74)【代理人】
【識別番号】100145023
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 学
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【弁理士】
【氏名又は名称】来山 幹雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153349
【弁理士】
【氏名又は名称】武山 茂
(72)【発明者】
【氏名】杉森 滋彦
(72)【発明者】
【氏名】神保 宏
【審査官】 藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−189784(JP,A)
【文献】 特開2008−255790(JP,A)
【文献】 特開2003−216206(JP,A)
【文献】 特開2004−011564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 11/10
F02D 9/00 〜 9/02
F02D 41/00 〜 45/00
G05B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御量検出器が検出した制御対象機器の制御量が、所定の制御範囲内で所定の目標量になるように、前記制御対象機器への操作量を演算するフィードバック制御部を備え、
前記フィードバック制御部は、前記目標量に対する前記制御量のオーバーシュートを抑制するダンピング入力量を、前記制御量の変化量に基づいて算出すると共に、前記ダンピング入力量を含む制御入力量を算出し、前記制御入力量に基づく前記操作量を前記制御対象機器に出力する電子制御装置であって、
前記フィードバック制御部は、前記ダンピング入力量のゲイン特性値として、前記目標量と前記制御量との差である制御偏差量がゼロに近づくにつれて前記ダンピング入力量が大きくなるような第1ゲイン特性値を設定し、かつ、前記ダンピング入力量のゲイン特性値として、前記目標量が前記制御範囲の最小値又は最大値に近づくにつれて前記ダンピング入力量が大きくなるような第2ゲイン特性値を設定することを特徴とする電子制御装置。
【請求項2】
前記フィードバック制御部は、前記目標量が前記最小値に近づく際の前記ダンピング入力量が、前記目標量が前記最大値に近づく際の前記ダンピング入力量より大きくなるような前記第2ゲイン特性値を設定することを特徴とする請求項に記載の電子制御装置。
【請求項3】
前記フィードバック制御部は、スライディングモード制御部であって、複数の状態量を変数とする切換関数により切換線又は切換平面を規定して、前記複数の状態量が前記切換線又は切換平面において平衡状態に収束するように前記制御入力量を算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の電子制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子制御装置に関し、特に、車両の制御対象に対してフィードバック制御を実行する電子制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動二輪車等の車両の内燃機関用の電子制御装置、例えば、電子制御スロットル装置においては、スロットルバルブを駆動することで、その制御に関する制御量を所望の目標値にフィードバック制御することが行われるようになってきている。
【0003】
かかるフィードバック制御の処理において、例えばPID(Proportional−Integral−Derivative)制御を用いることが一般的であるが、そのPID制御は、一般に、外乱等に影響に対する制御の安定性を確保することが困難であったり、入力項に係わるゲイン設定が難しい等の傾向が見受けられる。
【0004】
そこで、車両の内燃機関用の電子制御装置において、切換関数を用いて、その制御に関する制御量を所望の目標値に制御するスライディングモード制御を適用することが提案されてきている。例えば、スライディングモード制御を適用した電子制御スロットル装置においては、スロットルバルブのスロットル開度量(実スロットル開度量)を目標スロットル開度量に収束するように制御するために、スライディングモード制御により制御入力量を生成し、生成された制御入力量に基づいてスロットルバルブのアクチュエータの操作量を制御する構成を有する。
【0005】
ここで、スロットルバルブの開度量の制御においては、スロットルバルブを全開(機構全開)位置又は全閉(機構全閉)位置に移動させる際、スロットルレバーがストッパに衝突すると、スロットルバルブが急停止させられたり、逆方向に動かされる傾向が考えられる。かかる場合、スロットルバルブのアクチュエータとしてDC電動モータが採用されている場合、スロットルバルブの動きがギヤ系を介してDC電動モータに伝達されて、DC電動モータの内部やその駆動回路に逆起電力が発生し、逆起電力によってDC電動モータの内部やその駆動回路に影響が出ることも考えられる。このような現象は、ギヤ系のギヤ比に応じてより顕在化する場合も考えられる。このため、スロットルバルブの開度量の制御では、スロットルバルブを全開位置又は全閉位置に移動させる際、スロットルレバーがストッパに衝突することを回避することが好ましい。
【0006】
また、スロットルバルブの開度量の制御においては、内燃機関の駆動力が運転者が要求している大きさ以上になることを抑制する必要がある。ここで、スライディングモード制御は、高速の応答性を有するが、スロットルバルブの開度が目標スロットル開度量に対してオーバーシュートしやすいという特性を有している。そこで、スロットルバルブの開度がオーバーシュートすることを抑制するための制御入力量として、ダンピング入力量を付加することが好ましい。
【0007】
かかる状況下で、特許文献1は、プラントの制御装置に関し、実スロットル開度量の偏差に対するダンピング入力量を付加しており、そのゲイン特性値は、実スロットル開度量及び目標スロットル開度量の変化量の移動平均値から算出される構成を開示する。
【0008】
また、特許文献2は、駆動量制御装置に関し、切換関数の偏差に対するダンピング入力量を付加しており、そのゲイン特性値は、目標スロットル開度量及び切換関数値から算出される構成を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−216206号公報
【特許文献2】特開2008−255790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、本発明者の検討によれば、自動二輪車においては、運転者がアクセルグリップを開閉操作することによって自動二輪車の挙動を制御することが行われており、運転者がアクセルグリップの開閉操作が繰り返し行った場合、目標スロットル開度量が開方向又は閉方向に繰り返して変動する傾向が考えられる。また、運転者がアクセルグリップを急開操作して自動二輪車を加速させた場合には、目標スロットル開度量が大きく開方向に変化する傾向も考えられる。
【0011】
このため、特に自動二輪車に対して、特許文献1が開示するダンピング入力量のゲイン特性値を採用すると、目標スロットル開度量の変化量の移動平均値がゲイン特性値の算出に用いられているために、移動平均値が0である時にアクセルグリップが急開操作された場合、スロットルバルブの開度がオーバーシュートすることを抑制できない事態も考えられる。
【0012】
また、特許文献2が開示するダンピング入力量には切換関数値が含まれているために、実スロットル開度量に対して目標スロットル開度が大きく離れていると、実スロットル開度量を目標スロットル開度に追従させようとする制御入力量が抑制されて、目標スロットル開度に対する実スロットル開度量の応答性や追従性が低下する事態も考えられる。
【0013】
本発明は、以上の検討を経てなされたものであり、制御量が目標量に対してオーバーシュートすることを抑制しつつ、目標量に対する制御量の応答性や追従性を向上可能な電子制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
以上の目的を達成するべく、本発明は、第1の局面において、制御量検出器が検出した制御対象機器の制御量が、所定の制御範囲内で所定の目標量になるように、前記制御対象機器への操作量を演算するフィードバック制御部を備え、前記フィードバック制御部は、前記目標量に対する前記制御量のオーバーシュートを抑制するダンピング入力量を、前記制御量の変化量に基づいて算出すると共に、前記ダンピング入力量を含む制御入力量を算出し、前記制御入力量に基づく前記操作量を前記制御対象機器に出力する電子制御装置であって、前記フィードバック制御部は、前記ダンピング入力量のゲイン特性値として、前記目標量と前記制御量との差である制御偏差量がゼロに近づくにつれて前記ダンピング入力量が大きくなるような第1ゲイン特性値を設定し、かつ、前記ダンピング入力量のゲイン特性値として、前記目標量が前記制御範囲の最小値又は最大値に近づくにつれて前記ダンピング入力量が大きくなるような第2ゲイン特性値を設定する電子制御装置である。
【0016】
また、本発明は、かかる第の局面に加えて、前記フィードバック制御部は、前記目標量が前記最小値に近づく際の前記ダンピング入力量が、前記目標量が前記最大値に近づく際の前記ダンピング入力量より大きくなるような前記第2ゲイン特性値を設定することを第の局面とする。
【0017】
また、本発明は、かかる第1又は第2の局面に加えて、前記フィードバック制御部は、スライディングモード制御部であって、複数の状態量を変数とする切換関数により切換線又は切換平面を規定して、前記複数の状態量が前記切換線又は切換平面において平衡状態に収束するように前記制御入力量を算出することを第の局面とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の第1の局面における電子制御装置においては、フィードバック制御部が、制御対象機器に与える操作量を算出するための制御入力量の一部を成すダンピング入力量のゲイン特性値として、目標量と制御量との差である制御偏差量がゼロに近づくにつれてダンピング入力量が大きくなるような第1ゲイン特性値を設定することにより、制御量が目標量に対してオーバーシュートすることを抑制しつつ、目標量に対する制御量の応答性や追従性を向上することができる。
【0019】
また、本発明の第の局面における電子制御装置においては、フィードバック制御部が、ダンピング入力量のゲイン特性値として、目標量が制御範囲の最小値又は最大値に近づくにつれてダンピング入力量が大きくなるような第2ゲイン特性値を設定することにより、目標量に対する制御量の応答性や追従性を損なうことなく、制御対象機器の可動部材が機械的な規制部材に不要に衝突することを抑制することができる。
【0020】
また、本発明の第の局面における電子制御装置においては、フィードバック制御部が、目標量が最小値に近づく際のダンピング入力量が、目標量が最大値に近づく際のダンピング入力量より大きくなるような第2ゲイン特性値を設定することにより、目標量に対する制御量の応答性や追従性を損なうことなく、制御対象機器の可動部材が機械的な規制部材に不要に衝突することをより確実に抑制することができる。
【0021】
また、本発明第の局面におけるにおける電子制御装置においては、フィードバック制御が、スライディングモード制御部であることにより、ダンピング入力量におけるゲインの設定を簡便にしながら、外乱等に影響に対する制御の安定性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の実施形態における電子制御装置の構成を示すブロック図であり、併せてスロットルバルブ装置の模式図をも示す。
図2図2は、本実施形態における電子制御装置による減衰則入力量算出処理の流れを示すフローチャートである。
図3図3(a)は、本実施形態の電子制御装置における第1ゲイン特性値を示すテーブル形式のデータの図であり、図3(b)は、本実施形態の電子制御装置における第2ゲイン特性値を示すテーブル形式のデータの図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を適宜参照して、本発明の実施形態における電子制御装置につき、詳細に説明する。なお、本実施形態では、スライディングモード制御を適用した例について説明するが、その他のハイゲインのフィードバック制御をも原理的には適用自在である。
【0024】
〔電子制御装置の構成〕
まず、図1を参照して、本実施形態における電子制御装置の構成につき、詳細に説明する。
【0025】
図1は、本実施形態における電子制御装置の構成を示すブロック図であり、併せてスロットルバルブ装置の模式図をも示す。
【0026】
図1に示すように、本実施形態における電子制御装置1は、図示を省略する車両、典型的には自動二輪車や自動四輪車に搭載され、車両に搭載されたバッテリから供給される電力を利用して動作し、車両の各種構成要素を制御自在な制御装置であり、図示を省略するメモリ等を備える。また、電子制御装置1は、スライディングモード制御部10を備えている。スライディングモード制御部10は、切換関数算出部12、制御入力算出部14、及び操作量処理部16を備えている。スライディングモード制御部10、切換関数算出部12、制御入力算出部14、及び操作量処理部16はいずれも演算処理装置の機能ブロックとして示す。
【0027】
電子制御装置1は、制御対象機器、典型的には、図示を省略する自動二輪車や自動四輪車等の車両に搭載された内燃機関に対して空気量を制御する電子制御スロットル装置Sに電気的に接続される。電子制御スロットル装置Sは、スロットルバルブ20を駆動してその開度を可変とするアクチュエータである電動モータMと、スロットルバルブ20の動作位置である開度を検出するスロットル開度センサ21と、を備える。スロットルバルブ20は、内燃機関の燃焼室に連絡する吸気管22の内部に配設されており、スロットルバルブ20に接続されたスロットルシャフト23がスロットルレバー23aを介して全開位置ストッパ24と全閉位置ストッパ25との間の所定の制御範囲θ内でその軸周りに回動することにより、吸気管22の内壁面とスロットルバルブ20との間に形成される空隙を変化させて燃焼室に供給される空気流量を調節自在である。スロットルシャフト23は、ギヤG1、G2を介して電動モータMに接続され、電動モータMによってこれらは駆動される。また、スロットルレバー23aには、スロットルバルブ20を全閉位置ストッパ25に向かって回動するように付勢するリターンスプリング26が配設されている。なお、図1中では、スロットルレバー23aが全閉位置ストッパ25に当接した状態を実線で示し、スロットルレバー23aが全開位置ストッパ24に当接した状態を点線で示す。
【0028】
また、電子制御装置1は、それが自動二輪車や自動四輪車といった車両に搭載される場合には、典型的には、運転者がアクセル操作量を与える入力機器であるアクセルグリップやアクセルペダルのアクセル開度を電気的に検出し図示を省略する入力量検出器に電気的に接続される。つまり、入力量検出器は、電子制御装置1の図示を省略する目標量算出部に電気的に接続して、かかる目標量算出部は、入力検出器からの入力検出値、典型的には、アクセルグリップやアクセルペダルに印加されたアクセル操作量に応じてスロットルバルブ20の目標開度量を算出する。
【0029】
より詳しくは、電子制御装置1において、切換関数算出部12は、目標開度算出部及びスロットル開度センサ21からの各々の電気信号を受け、目標開度算出部が算出したスロットルバルブ20の目標開度量及びスロットル開度センサ21が検出したスロットルバルブ20の開度に応じて切換関数σを具体的に規定し、切換関数σの値を算出する。この際、スライディングモード制御において、目標開度算出部により算出されたスロットルバルブ20の目標開度量は、目標量として取り扱われ、スロットル開度センサ21によって検出されたスロットルバルブ20の開度は、制御対象量となる制御量として取り扱われる。ここで、切換関数σは、各々が状態量である制御偏差量e及び制御偏差量eの偏差変化速度Δe/Δt、並びに係数gを用いて以下に示す数式(数1)で与えられ、かかる切換関数で規定される切換線上に拘束された偏差量e及びそれに対応する偏差変化速度Δe/Δtが、スライディングモード制御における平衡状態を各々示す値であるゼロに収束するようにかかる制御が実行される。なお、切換関数σの数式やそれに関連する演算式は、電子制御装置1内のメモリに予めデータやプログラムとして格納されている。また、数式(数1)は切換線を示すが、状態量の数を増やして切換平面等を示す数式を用いてもかまわない。
【0030】
【数1】
【0031】
具体的には、数式(数1)において、制御偏差量eは、スライディングモード制御の各制御サイクル(時間に関する周期)における目標量と制御量との差、つまり、スライディングモード制御の各制御サイクルにおいて、目標量から制御量を引いて算出される値である。制御偏差量eの偏差変化速度Δe/Δtは、スライディングモード制御の各制御サイクルにおいて、制御偏差量eを時間微分して算出される値である。また、係数gは、切換関数σの傾き、つまり横軸を制御偏差量e及び縦軸を制御偏差量eの偏差変化速度Δe/Δtとした直交座標系で切換関数σをその直交座標系の原点を通るように表した切換線の傾きを与える係数である。なお、必要に応じて、制御偏差量eの偏差変化速度Δe/Δtに代えて、特定の制御サイクルにおける制御偏差量とその特定の制御サイクルから所定の過去の制御サイクルにおける制御偏差量との差である制御偏差変化量Δeを状態量として用いてもかまわない。
【0032】
つまり、切換関数算出部12は、スライディングモード制御の各制御サイクルにおいて、切換関数σを具体的に規定し、切換関数σの値を算出する。切換関数算出部12は、算出した切換関数σの値、及びその算出時に算出した状態量である制御偏差量e等を電気信号として制御入力算出部14に各々出力する。
【0033】
制御入力算出部14は、目標開度算出部、切換関数算出部12、及びスロットル開度センサ21に電気的に接続され、これらからの各々の電気信号を受け、目標開度算出部がアクセルペダルやアクセルグリップの操作量に応じて算出したスロットルバルブ20の目標開度量である目標量、切換関数算出部12が算出した切換関数σの値及び制御偏差量e、並びにスロットル開度センサ21が検出したスロットルバルブ20の開度である制御量等に応じて制御入力量を算出する。ここで、制御入力量には、等価則入力量、到達則入力量、非線形則入力量、及び減衰則入力量が含まれる。
【0034】
具体的には、等価則入力量は、各々が状態量である制御偏差量e及びそれに対応する偏差変化速度Δe/Δtを切換線上に拘束するための制御入力量の成分である。到達則入力量は、各々が状態量である制御偏差量e及びそれに対応する偏差変化速度Δe/Δtを切換線に近づけてそれに到達させるための制御入力量の成分である。非線形則入力量は、切換関数σに関するモデル化誤差を抑制するための制御入力量の成分である。また、減衰則入力量は、ダンピング入力量とも呼ばれ、制御量が目標量を過剰に超えてしまうような目標量に対する制御量のオーバーシュートを確実に抑制するために導入された制御入力量の成分である。
【0035】
つまり、制御入力算出部14は、スライディングモード制御の各制御サイクルにおいて、目標開度算出部が算出した目標量、切換関数算出部12が算出した切換関数σの値及び制御偏差量e、並びにスロットル開度センサ21が検出した制御量を対応して用いて、等価則入力量、到達則入力量、非線形則入力量、及び減衰則入力量を各々算出し、これらの和を用いて制御入力量を算出する。制御入力算出部14は、算出した制御入力量を電気信号として操作量処理部16に出力する。
【0036】
操作量処理部16は、制御入力算出部14に電気的に接続されており、制御入力算出部14からの電気信号を受け、電動モータMを駆動してスロットルバルブ20を動作させるための操作量を算出する。この操作量は、電動モータMがスロットルバルブ20を目標量に対応する目標位置に向かって収束するように動かす移動量であり、制御入力算出部14
が算出した制御入力量に対応する値である。操作量処理部16は、算出した操作量を電気信号として電動モータMに出力する。
【0037】
電動モータMは、操作量処理部16に電気的に接続されており、操作量処理部16からの電気信号を受け、操作量処理部16が算出した操作量に応じてスロットルバルブ20を目標位置に向かって移動させ、対応して、スロットルバルブ20は、目標位置に向かって移動される。スロットル開度センサ21は、電動モータMによって移動させられたスロットルバルブ20の制御量を検出して、検出した制御量を電気信号として切換関数算出部12及び制御入力算出部14に出力する。
【0038】
さて、以上のような構成を有する電子制御装置1では、特に、制御入力算出部14が、以下に示す減衰則入力量算出処理を実行することにより、制御量が目標量に対してオーバーシュートすることを抑制しつつ、目標量に対する制御量の応答性や追従性を向上させる。以下、図2及び図3をも参照して、本実施形態における減衰則入力量算出処理について、詳細に説明する。
【0039】
〔減衰則入力量算出処理〕
図2は、本実施形態における電子制御装置による減衰則入力量算出処理の流れを示すフローチャートである。図3(a)は、本実施形態の電子制御装置における第1ゲイン特性値を示すテーブル形式のデータの図であり、図3(b)は、本実施形態の電子制御装置における第2ゲイン特性値を示すテーブル形式のデータの図である。なお、かかるフローチャートを実行するプログラムやデータは、電子制御装置1内のメモリに予め格納されている。
【0040】
図2に示すフローチャートは、車両のイグニッションスイッチがオフ状態からオン状態に切り替えられて電子制御装置1の制御処理が開始したタイミングで開始となり、減衰則入力量算出処理はステップS1の処理に進む。かかる減衰則入力量算出処理は、電子制御装置1の制御処理が継続している間は、繰り返し実行される。
【0041】
ステップS1の処理では、制御入力算出部14が、今回の制御サイクルより(n−1)番目前の制御サイクルにおける制御量の値を、今回の制御サイクルよりn番目前の制御サイクルにおける制御量の値として繰り下げて更新する。ここで、nは1以上N以下の自然数であり、ステップS1の処理は、かかる範囲内の全てのnについて実行される。また、Nは実行された制御サイクルの回数である。これにより、ステップS1の処理は完了し、減衰則入力量算出処理はステップS2の処理に進む。
【0042】
ステップS2の処理では、制御入力算出部14が、今回の制御サイクルにおける制御量と今回の制御サイクルよりn番目前の制御サイクルにおける制御量との差分値を今回の制御サイクルにおける制御量の変化量DPOUDとして算出する。これにより、ステップS2の処理は完了し、減衰則入力量算出処理はステップS3の処理に進む。
【0043】
ステップS3の処理では、制御入力算出部14が、今回の制御サイクルにおける制御量と今回の制御サイクルにおける目標量との差分値を今回の制御サイクルにおける制御偏差量eとして算出する。これにより、ステップS3の処理は完了し、減衰則入力量算出処理はステップS4の処理に進む。
【0044】
ステップS4の処理では、制御入力算出部14が、図3(a)に示す制御偏差量eと第1ゲイン特性値MUDOEとの対応関係を示すテーブルから、ステップS3の処理によって算出された制御偏差量eに対応する第1ゲイン特性値MUDOEを読み出す。
【0045】
ここで、図3(a)に示すテーブルでは、制御偏差量eが正負両側のいずれかからゼロに近づくにつれて第1ゲイン特性値MUDOEの値が大きくなるように、第1ゲイン特性値MUDOEの特性が設定されている。このような特性を第1ゲイン特性値MUDOEに設定することにより、制御偏差量eの絶対値が大きいときには第1ゲイン特性値MUDOEの値が小さくなり、結果として減衰則入力量が小さくなるので、スロットルバルブ20の初動時や目標量に向けて駆動している過渡時には、スロットルバルブ20の応答性や追従性を向上させることができる。また、制御偏差量eの絶対値が小さいときには第1ゲイン特性値MUDOEの値が大きくなり、結果として減衰則入力量が大きくなるので、スロットルバルブ20の制御量が目標量を越えて、それに対してオーバーシュートすることを抑制することができる。これにより、ステップS4の処理は完了し、減衰則入力量算出処理はステップS5の処理に進む。
【0046】
ステップS5の処理では、制御入力算出部14が、図3(b)に示す目標量と第2ゲイン特性値MUDPRとの対応関係を示すテーブルから、今回の制御サイクルにおける目標量に対応する第2ゲイン特性値MUDPRを読み出す。
【0047】
ここで、図3(b)に示すテーブルでは、目標量がスロットルバルブ20の全閉位置又は全開位置に近づくにつれ、特に全閉位置の近傍又は全開位置の近傍に近づくと、第2ゲイン特性値MUDPRが大きくなるように、第2ゲイン特性値MUDPRが設定されている。このような特性を第2ゲイン特性値MUDPRに設定することにより、目標量が全閉位置又は全開位置に近づくように変化して、特に全閉位置の近傍又は全開位置の近傍になるように変化した場合に、第2ゲイン特性値MUDPRの値が大きくなり、結果として減衰則入力量が大きくなるので、スロットルレバー23aが全開位置ストッパ24又は全閉位置ストッパ25に衝突することを抑制することができる。また、目標量が全閉位置又は全開位置の近傍に位置していない場合には、第2ゲイン特性値MUDPRの値は一定値になるので、制御入力に対する無用な抑制が作用しないようにすることができる。
【0048】
また、スロットルバルブ20の全閉方向への駆動力には、リターンスプリング26によってスロットルバルブ20に閉じ方向の付勢力が加わるために、スロットルバルブ20の全閉方向への駆動力は、スロットルバルブ20の全開方向への駆動力よりも大きくなる。このため、図3(b)に示すテーブルでは、目標量が全閉位置の近く、特にその近傍に近づいたときの第2ゲイン特性値MUDPRの値は、目標量が全開位置の近く、特にその近傍に近づいたときの第2ゲイン特性値MUDPRの値よりも大きく設定されている。このように、全閉位置近傍と全開位置近傍とで第2ゲイン特性値MUDPRをそれぞれに適した値に設定することにより、スロットルバルブ20の応答性や追従性を損なうことなく、スロットルレバー23aが全開位置ストッパ24のみならず全閉位置ストッパ25に衝突することを抑制することができる。これにより、ステップS5の処理は完了し、減衰則入力量算出処理はステップS6の処理に進む。なお、ここで全閉位置の近傍や全開位置の近傍といった場合の近傍は、全閉位置と全開位置との間の角度に対して10から20%程度の角度で全閉位置や全開位置に近づいていることをいう。
【0049】
ステップS6の処理では、制御入力算出部14が、前回の制御サイクルにおける電動モータMのデューティ比から求められる所定値B1、ステップS4の処理によって得られた第1ゲイン特性値MUDOE、ステップS5の処理によって得られた第2ゲイン特性値MUDPR、及びステップS2の処理によって算出された今回の制御サイクルにおける制御量の変化量DPOUDを以下に示す数式(数2)に代入することによって、減衰則入力量UDを算出する。これにより、ステップS6の処理は完了し、今回の一連の減衰則入力量算出処理は終了する。
【0050】
【数2】
【0051】
以後、制御入力算出部14は、減衰則入力量に加えて、等価則入力量、到達則入力量及び非線形則入力量を算出してこれらの和を制御入力量として算出し、算出した制御入力量を電気信号として操作量処理部26に出力することになる。
【0052】
以上の説明から明らかなように、本実施形態における電子制御装置1では、制御入力算出部14が、制御入力量のゲイン特性値として、目標量と制御量との制御偏差量eがゼロに近づくにつれて減衰則入力量が大きくなる第1ゲイン特性値MUDOEを設定する。これにより、制御偏差量eが大きい場合は減衰則入力量が小さくなり、制御偏差量eが小さい場合には減衰則入力量が大きくなるので、制御量が目標量に対してオーバーシュートすることを抑制しつつ、目標量に対する制御量の応答性や追従性を向上させることができる。併せて、制御偏差量eがゼロに近い値のときには第1ゲイン特性値MUDOEの値が大きくなり、結果として減衰則入力量が大きくなるので、スロットルバルブ20の制御量が目標量を越えて、それに対してオーバーシュートすることを抑制することができる。
【0053】
また、本実施形態における電子制御装置1では、制御入力算出部14が、制御入力量のゲイン特性値として、目標量が全開位置又は全閉位置に近づくにつれ減衰則入力量が大きくなる第2ゲイン特性値MUDPRを設定する。これにより、全開位置又は全閉位置に接近するように目標量が変化した場合に制御入力量が抑制されるので、制御対象機器の可動部材が全開位置ストッパ24又は全閉位置ストッパ25に衝突することを抑制することができる。
【0054】
また、本発明の実施形態における電子制御装置1では、制御入力算出部14が、目標量が全閉位置に近づいたときの減衰則入力量が目標量が全開位置に近づいたときの減衰則入力量より大きくなるように第2ゲイン特性値MUDPRを設定する。これにより、全開位置の近くと全閉位置の近くとのそれぞれに適したゲイン特性値が設定されるので、目標量に対する制御量の応答性や追従性を損なうことなく、制御対象機器の可動部材が全開位置ストッパ24又は全閉位置ストッパ25に衝突することを抑制することができる。
【0055】
また、本発明の実施形態における電子制御装置1では、フィードバック制御としてスライディングモード制御を適用することにより、減衰則入力量におけるゲインの設定を簡便にしながら、外乱等に影響に対する制御の安定性を確保することができる。
【0056】
また、本発明においては、構成要素の種類、配置、個数等は前述の実施形態に限定されるものではなく、その構成要素を同等の作用効果を奏するものに適宜置換する等、発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることはもちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上のように、本発明においては、制御量が目標量に対してオーバーシュートすることを抑制しつつ、目標量に対する制御量の応答性や追従性を向上可能な電子制御装置を提供することができ、その汎用普遍的な性格から自動二輪車等の車両におけるスライディングモード制御を行う電子制御装置に広範に適用され得るものと期待される。
【符号の説明】
【0058】
1…電子制御装置
10…スライディングモード制御部
12…切換関数算出部
14…制御入力算出部
16…操作量処理部
20…スロットルバルブ
21…スロットル開度センサ
22…吸気管
23…スロットルシャフト
23a…スロットルレバー
24…全開位置ストッパ
25…全閉位置ストッパ
26…リターンスプリング
G1、G2…ギヤ
M…電動モータ
S…電子制御スロットル装置
θ…所定の制御範囲
図1
図2
図3