特許第6018488号(P6018488)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6018488薬剤揮散体、及びこれを用いた飛翔害虫の防虫方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018488
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】薬剤揮散体、及びこれを用いた飛翔害虫の防虫方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/18 20060101AFI20161020BHJP
   A01N 25/10 20060101ALI20161020BHJP
   A01N 25/00 20060101ALI20161020BHJP
   A01N 25/34 20060101ALI20161020BHJP
   A01N 53/06 20060101ALI20161020BHJP
   A01N 53/02 20060101ALI20161020BHJP
   A01P 7/04 20060101ALI20161020BHJP
   A01M 1/20 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   A01N25/18 102D
   A01N25/10
   A01N25/00 101
   A01N25/34 B
   A01N53/00 506Z
   A01N53/00 502A
   A01P7/04
   A01M1/20 C
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-255756(P2012-255756)
(22)【出願日】2012年11月22日
(65)【公開番号】特開2014-31362(P2014-31362A)
(43)【公開日】2014年2月20日
【審査請求日】2015年10月6日
(31)【優先権主張番号】特願2012-156040(P2012-156040)
(32)【優先日】2012年7月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000207584
【氏名又は名称】大日本除蟲菊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 誠一
(72)【発明者】
【氏名】柿木 智宏
(72)【発明者】
【氏名】浮田 涼子
(72)【発明者】
【氏名】川尻 由美
(72)【発明者】
【氏名】中山 幸治
【審査官】 中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−132581(JP,A)
【文献】 特表2002−507216(JP,A)
【文献】 特開平03−193413(JP,A)
【文献】 特開2006−256997(JP,A)
【文献】 特開2010−193817(JP,A)
【文献】 特開2009−165686(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温揮散性ピレスロイド系防虫成分と沸点が250℃以上400℃以下の持続性香料成分とが担持された樹脂の押出成形体又は射出成形体として構成され、
前記沸点が250℃以上400℃以下の持続性香料成分が、ガラクソリド、ムスクケトン、ヘキシルシンナミックアルデヒド、エチレンブラシレート、メチルアトラレート、ヘキシルサリシレート、トリシクロデセニルアセテート、オレンジャークリスタル、アンブロキサン、キャシュメラン、カロン、ヘリオトロピン、インドールアロマ、インドール、メチルセドリルケトン、メチルβ−ナフチルケトン、メチルジヒドロジャスモネート、ローズフェノン、及び7−アセチル−1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロ−1,1,6,7−テトラメチルナフタレンの少なくとも1種であることを特徴とする薬剤揮散体。
【請求項2】
前記常温揮散性ピレスロイド系防虫成分が、メトフルトリン、プロフルトリン、トランスフルトリン、及びエムペントリンの少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の薬剤揮散体。
【請求項3】
前記押出成形体又は前記射出成形体が、メッシュ状で、かつ、フィラメントの直径が0.1〜3mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の薬剤揮散体。
【請求項4】
常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を含有する防虫成分含有樹脂ペレットと、沸点が250℃以上400℃以下の持続性香料成分を含有する香料成分含有樹脂ペレットを混練して樹脂組成物となし、これを押出成形又は射出成形することによって、前記常温揮散性ピレスロイド系防虫成分と前記沸点が250℃以上400℃以下の持続性香料成分を樹脂担体に共に担持させ、
前記沸点が250℃以上400℃以下の持続性香料成分が、ガラクソリド、ムスクケトン、ヘキシルシンナミックアルデヒド、エチレンブラシレート、メチルアトラレート、ヘキシルサリシレート、トリシクロデセニルアセテート、オレンジャークリスタル、アンブロキサン、キャシュメラン、カロン、ヘリオトロピン、インドールアロマ、インドール、メチルセドリルケトン、メチルβ−ナフチルケトン、メチルジヒドロジャスモネート、ローズフェノン、及び7−アセチル−1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロ−1,1,6,7−テトラメチルナフタレンの少なくとも1種であることを特徴とする薬剤揮散体の製造方法。
【請求項5】
前記防虫成分含有樹脂ペレットが、
10質量%以上40質量%以下の常温揮散性ピレスロイド系防虫成分と、
10質量%以上90質量%以下のエチレン−ビニルアセテート共重合体とを含有することを特徴とする請求項4に記載の薬剤揮散体の製造方法。
【請求項6】
前記防虫成分含有樹脂ペレットが、
10質量%以上60質量%以下の常温揮散性ピレスロイド系防虫成分と、
10質量%以上30質量%以下の微粉末担体と、
10質量%以上60質量%以下のエチレン−ビニルアセテート共重合体とを含有することを特徴とする請求項4に記載の薬剤揮散体の製造方法。
【請求項7】
前記常温揮散性ピレスロイド系防虫成分が、メトフルトリン、プロフルトリン、トランスフルトリン、及びエムペントリンの少なくとも1種であることを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1項に記載の薬剤揮散体の製造方法。
【請求項8】
前記香料成分含有樹脂ペレットが、
10質量%以上40質量%以下の沸点が250℃以上400℃以下の持続性香料成分と、
12質量%以上40質量%以下の微粉末担体と、
10質量%以上60質量%以下のエチレン−ビニルアセテート共重合体とを含有することを特徴とする請求項4に記載の薬剤揮散体の製造方法。
【請求項9】
前記樹脂担体が、メッシュ状で、かつ、フィラメントの直径が0.1〜3mmであることを特徴とする請求項4乃至8のいずれか1項に記載の薬剤揮散体の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の薬剤揮散体を用い、この薬剤揮散体から前記常温揮散性ピレスロイド系防虫成分と前記沸点が250℃以上400℃以下の持続性香料成分を揮散させて芳香を伴った防虫効果を発現せしめるとともに、この芳香の消失を前記薬剤揮散体の使用終期と連動させたことを特徴とする飛翔害虫の防虫方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蚊、ブユ等の飛翔害虫を駆除および忌避するための薬剤揮散体、及びこの薬剤揮散体を用いた飛翔害虫の防虫方法に係り、更に詳しくは、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分と沸点が250℃以上400℃以下の持続性香料成分を揮散させて芳香を伴った防虫効果を発現せしめるとともに、この芳香の消失を前記薬剤揮散体の使用終期と連動させた薬剤揮散体、及びこの薬剤揮散体を用いた飛翔害虫の防虫方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、常温揮散性の防虫剤を空気中に揮散させることによって、害虫の駆除や忌避を行う防虫剤が知られている。
例えば、特許文献1には、撚った糸で作製したネット状物に防虫剤成分を含浸させたものを複数枚用いた薬剤揮散体が開示されている。
また、特許文献2には、2種の防虫剤成分を同一の樹脂に混錬することによって作製した担体を用いた薬剤揮散体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−200239号公報
【特許文献2】特開2009−7382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の薬剤揮散体は、防虫剤成分を含浸したネット状物を複数用いていることから、より多くの防虫剤成分を含有させることができるという長所があるものの、防虫剤成分が撚った糸に含浸しているだけの状態で保持されていることから、防虫剤成分の揮散速度が速いという短所がある。従って、使用の初期段階においては高い防虫効果を発現するものの、200日に至るような長期間の使用には耐えることができないという課題があった。
【0005】
一方、特許文献2に記載の薬剤揮散体は、防虫剤成分が樹脂担体に混錬した状態で保持されているため、特許文献1に記載の薬剤揮散体に比べて防虫剤成分の揮散速度を抑制することができるという特徴がある。
しかし、特許文献2に記載の薬剤揮散体は、2種類の防虫剤成分(メトフルトリン及びプロフルトリン)を同一の樹脂に混錬していることから、それぞれの防虫剤成分の特徴を十分に発現させることができないという問題を生じることがあった。すなわち、蒸気圧(揮散性能)が異なる防虫剤成分を同一の樹脂に混錬してしまうと、例えば、蒸気圧の高い方の防虫剤成分は揮散するが、低い方の防虫剤成分はあまり揮散しない場合や、逆に低い方の防虫剤成分は安定して揮散するが、高い方の防虫剤成分が揮散しすぎる場合などが起こりうる。また、2種類の防虫剤成分の配合割合によっては、蒸気圧の低い方の防虫剤成分によって、蒸気圧の高い方の防虫剤成分の揮散が阻害されてしまう場合があり、初期段階から終期段階に至るまで安定した防虫効果を発現させることが難かしいケースもあった。
一方、2種類の防虫剤成分ではなく、防虫成分と香料成分を組合わせた場合、両者の性状が異なるためそれらの揮散挙動については個別のケースごとに実際に試験を行ってはじめて知り得るのが実情であった。
【0006】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであって、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分と沸点が250℃以上400℃以下の持続性香料成分を揮散させて芳香を伴った防虫効果を発現せしめるとともに、この芳香の消失を前記薬剤揮散体の使用終期と連動させた薬剤揮散体、及びこの薬剤揮散体を用いた飛翔害虫の防虫方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成が上記目的を達成するために優れた効果を奏することを見出したものである。
(1)常温揮散性ピレスロイド系防虫成分と沸点が250℃以上400℃以下の持続性香料成分を含有する樹脂組成物を押出成形又は射出成形することによって、前記防虫成分と前記持続性香料成分を樹脂担体に共に担持させた薬剤揮散体。
(2)常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を含有する防虫成分含有樹脂ペレットと、沸点が250℃以上400℃以下の持続性香料成分を含有する香料成分含有樹脂ペレットを混練して樹脂組成物となし、これを押出成形又は射出成形することによって、前記常温揮散性ピレスロイド系防虫成分と前記持続性香料成分を樹脂担体に共に担持させた(1)に記載の薬剤揮散体。
(3)前記防虫成分含有樹脂ペレットが、
10質量%以上40質量%以下の常温揮散性ピレスロイド系防虫成分と、
10質量%以上90質量%以下のエチレン−ビニルアセテート共重合体とを含有する(2)に記載の薬剤揮散体。
(4)前記防虫成分含有樹脂ペレットが、
10質量%以上60質量%以下の常温揮散性ピレスロイド系防虫成分と、
10質量%以上30質量%以下の微粉末担体と、
10質量%以上60質量%以下のエチレン−ビニルアセテート共重合体とを含有する(2)に記載の薬剤揮散体。
(5)前記常温揮散性ピレスロイド系防虫成分が、メトフルトリン、プロフルトリン、トランスフルトリン、及びエムペントリンの少なくとも1種である(1)乃至(4)のいずれか1に記載の薬剤揮散体。
(6)前記香料成分含有樹脂ペレットが、
10質量%以上40質量%以下の沸点が250℃以上400℃以下の持続性香料成分と、
12質量%以上40質量%以下の微粉末担体と、
10質量%以上60質量%以下のエチレン−ビニルアセテート共重合体とを含有する(2)に記載の薬剤揮散体。
(7)前記沸点が250℃以上の持続性香料成分が、ガラクソリド、ムスクケトン、ヘキシルシンナミックアルデヒド、エチレンブラシレート、メチルアトラレート、ヘキシルサリシレート、トリシクロデセニルアセテート、オレンジャークリスタル、アンブロキサン、キャシュメラン、カロン、ヘリオトロピン、インドールアロマ、インドール、メチルセドリルケトン、メチルβ−ナフチルケトン、メチルジヒドロジャスモネート、ローズフェノン、及び7−アセチル−1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロ−1,1,6,7−テトラメチルナフタレンの少なくとも1種である(6)に記載の薬剤揮散体。
(8)前記樹脂担体が、メッシュ状で、かつ、フィラメントの直径が0.1〜3mmである(1)乃至(7)のいずれか1に記載の薬剤揮散体。
(9)(1)乃至(8)のいずれか1に記載の薬剤揮散体を用い、この薬剤揮散体から前記常温揮散性ピレスロイド系防虫成分と前記沸点が250℃以上400℃以下の持続性香料成分を揮散させて芳香を伴った防虫効果を発現せしめるとともに、この芳香の消失を前記薬剤揮散体の使用終期と連動させたことを特徴とする飛翔害虫の防虫方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の薬剤揮散体は、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分と沸点が250℃以上400℃以下の持続性香料成分を揮散させて芳香を伴った防虫効果を発現せしめるとともに、この芳香の消失を前記薬剤揮散体の使用終期と連動させたのでその有用性は極めて高い。そして、この薬剤揮散体を用いた飛翔害虫の防虫方法も顕著な実用性を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】(a)実施例で製造した薬剤揮散体の斜視図、(b)(a)の正面図、(c)(b)のc−c断面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明では、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分と沸点が250℃以上400℃以下の持続性香料成分を同一の樹脂担体に保持させて薬剤揮散体を調製し、通常この薬剤揮散体は開口部を有するプラスチック容器に収納して用いられる。
前者の常温揮散性ピレスロイド系防虫成分としては、常温において空気中に揮散する性質を有し、25℃における蒸気圧が0.001Pa以上0.1Pa以下程度であるものが好ましい。具体的には、揮散性能と安全性等の点から、メトフルトリン、プロフルトリン、トランスフルトリン、及びエムペントリンの少なくとも1種があげられる。
なお、これらの防虫成分については、各種の光学異性体または幾何異性体が存在するが、単独、混合物であれ、いずれの異性体類も使用することができる。
【0011】
本発明は、これら常温揮散性ピレスロイド系防虫成分とともに沸点が250℃以上400℃以下の持続性香料成分を併用し、同一の樹脂担体に保持させて薬剤揮散体を構成することを特徴とする。持続性香料成分の沸点が250℃未満であると芳香の持続性が十分でなく、一方、400℃を越えると香り立ちが期待できない。
沸点が250℃以上400℃以下の持続性香料成分としては、ガラクソリド、ムスクケトン、ヘキシルシンナミックアルデヒド、エチレンブラシレート、メチルアトラレート、ヘキシルサリシレート、トリシクロデセニルアセテート、オレンジャークリスタル、アンブロキサン、キャシュメラン、カロン、ヘリオトロピン、インドールアロマ、インドール、メチルセドリルケトン、メチルβ−ナフチルケトン、メチルジヒドロジャスモネート、ローズフェノン、及び7−アセチル−1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロ−1,1,6,7−テトラメチルナフタレン、アセト酢酸−m−キシリダイド、アセト酢酸−o−トルイダイド、アセトシリンゴン、アセチルトリエチルシトレート、ベンゾフェノン、ベンジルベンゾエート、ベンジルカプリレート、ベンジルシンナメート、ベンジルオイゲノール、ベンジルラウレート、ベンジルメチルチグレート、ベンジルフェニルエーテル、ベンジルフェニルアセテート、ベンジルサリチレート、ゲラニルアントラニレ−ト、ゲラニルヘキサノエート、ゲラニルシクロペンタノン、ゲラニルフェニルアセテート、ヘキシルフェニルアセテート、イコサン、インダン、シンナミルブチレート、シンナミルフェニルアセテート、ヘキセニルベンゾエート、シトラールジエチルアセタール、イオノン、イソアミルベンゾエート、リナリルオクタノエート、1−メンチルサリチレート、シトロネリルアントラニレート、ジメチルフェネチルカルビニルイソブチレート、ジフェニルオキシド、ドデシルブチレート、エチルバニレート、エチルバニリン、メンチルイソバレレート、メトキシエチルフェニルグリシデート、メチル2,4−ジヒドロキシ−3,6−ジメチルベンゾエート、ネロリジルアセテート、ネリルイソバレレート、オクテニルシクロペンタノン、オクチルカプリレート、フェネチルイソアミルエーテル、フェネチルオクタノエート、フェネチルフェニルアセテート、エチルバニリンアセテート、エチルバニリンプロピレングリコールアセタール、エチルヘキシルパルミテート、オイゲニルベンゾエート、ファルネソール、ファルネシルアセテート、ファルネシルメチルエーテル、ホルムアルデヒドシクロドデシルメチルアセタール、ホルミルエチルテトラメチルテトラリン、フルフリルベンゾエート、γ−ドデカラクトン、フェネチルサリチレート、フェノキシエチルプロピオネート、フェニルベンゾエート、フェニルジスルフィド、サンタリルブチレート、テトラヒドロ−プソイド−イオノン、テオブロミン、バレンセン等があげられるが、これらに限定されない。
【0012】
かかる持続性香料成分は、長期間にわたって芳香を醸し出すとともに、ある程度の飛翔害虫忌避効果も兼備するので、このような構成を採用することによって、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分と連動して防虫効果を補強する結果、使用の初期段階から終期段階に至るまで安定した防虫効果を発現させることができ、より効果的な防虫効果を発現させ得るのである。なお、本発明では、前記防虫成分による駆除効果や忌避効果、並びに前記持続性香料成分や後記する飛翔害虫忌避香料組成物による忌避効果を総合して防虫効果と称することとする。
しかも前記持続性香料成分が揮散して醸し出す芳香は、香りの付与と共に防虫効果の表示機能ともなり、芳香の消失を前記薬剤揮散体の使用終期と連動させ得るので本発明のメリットは大きい。
【0013】
本発明の薬剤揮散体は、特に使用の初期段階における香りの付与と防虫効果の補強を目的として、持続性香料成分に加えて、幾分揮散性の高い飛翔害虫忌避香料組成物を配合することができる。ここで、飛翔害虫忌避香料組成物は、飛翔害虫忌避香料として、(a)一般式(I)
CH3−COO−R1 (I)
(式中、R1は炭素数が6〜12のアルコール残基を示す。)で表される酢酸エステル化合物及び/又は一般式(II)
2−CH2−COO−CH2−CH=CH2 (II)
(式中、R2は炭素数が4〜7のアルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、シクロアルコキシ基、又はフェノキシ基を示す。)で表されるアリルエステル化合物から選ばれる1種又は2種以上の香料成分と、(b)モノテルペン系アルコールもしくは炭素数が10の芳香族アルコールから選ばれる1種又は2種以上の香料成分を含有し、
更に、飛翔害虫忌避成分の揮散後の忌避効果持続成分として、20℃における蒸気圧が0.2〜20Paのグリコール及び/又はグリコールエーテルの1種又は2種以上を配合するのが好ましい。
【0014】
飛翔害虫忌避香料を例示すれば、例えば、(a)一般式(I)
CH3−COO−R1 (I)
(式中、R1は炭素数が6〜12のアルコール残基を示す。)で表される酢酸エステル化合物としては、具体的には、p−tert−ブチルシクロヘキシルアセテート、o−tert−ブチルシクロヘキシルアセテート、p−tert−ペンチルシクロヘキシルアセテート、ベンジルアセテート、フェニルエチルアセテート、スチラリルアセテート、アニシルアセテート、シンナミルアセテート、テルピニルアセテート、ジヒドロテルピニルアセテート、リナリルアセテート、エチルリナリルアセテート、シトロネリルアセテート、ゲラニルアセテート、ネリルアセテート、ボルニルアセテート、及びイソボルニルアセテート等があげられる。
【0015】
また、一般式(II)
2−CH2−COO−CH2−CH=CH2 (II)
(式中、R2は炭素数が4〜7のアルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、シクロアルコキシ基、又はフェノキシ基を示す。)で表されるアリルエステル化合物の具体例としては、アリルヘキサノエート、アリルヘプタノエート、アリルオクタノエート、アリルイソブチルオキシアセテート、アリルn−アミルオキシアセテート、アリルシクロヘキシルアセテート、アリルシクロヘキシルプロピオネート、アリルシクロヘキシルオキシアセテート、アリルフェノキシアセテート等を例示できる。
【0016】
更に、(b)モノテルペン系アルコールもしくは炭素数が10の芳香族アルコールも有用であり、例えば、テルピネオール、ゲラニオール、ジヒドロミルセノール、ボルネオール、メントール、シトロネロール、ネロール、リナロール、エチルリナロール、チモール、オイゲノール、及びp−メンタン−3,8−ジオール等が代表的である。
【0017】
本発明では、(a)一般式(I)で表される酢酸エステル化合物及び/又は一般式(II)で表されるアリルエステル化合物から選ばれる1種又は2種以上の香料成分と、(b)モノテルペン系アルコールもしくは炭素数が10の芳香族アルコールから選ばれる1種又は2種以上の香料成分は併用するのが好ましく、後で詳述する忌避効果持続成分との組合わせを検討した結果によれば、(a)の(b)に対する配合比率は0.1〜1.0倍量が特に好ましいことが認められた。
【0018】
なお、飛翔害虫忌避香料として、上記以外の香料成分、例えば、リモネン等のモノテルペン系炭化水素、メントン、カルボン、プレゴン、カンファー、ダマスコン等のモノテルペン系ケトン、シトラール、シトロネラール、ネラール、ペリラアルデヒド等のモノテルペン系アルデヒド、シンナミルフォーメート、ゲラニルフォーメート等のエステル化合物、フェニルエチルアルコール、更には、上記香料成分を含む種々精油類、例えば、ジャスミン油、ネロリ油、ペパーミント油、ベルガモット油、オレンジ油、ゼラニウム油、プチグレン油、レモン油、シトロネラ油、レモングラス油、シナモン油、ユーカリ油、レモンユーカリ油、タイム油等も適宜添加しても構わない。
【0019】
本発明で用いる飛翔害虫忌避香料組成物は、飛翔害虫忌避香料の揮散後の忌避効果持続成分として、20℃における蒸気圧が0.2〜20Paのグリコール及び/又はグリコールエーテルの1種又は2種以上を配合するのが好ましい。従来、グリコール及び/又はグリコールエーテルは、エタノール、イソプロパノールや灯油等と同列に溶剤として羅列され、また、飛翔害虫に対する効果は何ら言及されていないのであるが、本発明者らは、当該グリコール及び/又はグリコールエーテルが溶剤としてのみならず、飛翔害虫忌避香料に対して特異的に忌避効果の持続作用を奏し、芳香性の飛翔害虫忌避香料を用いた場合には初期の香調をも持続させ得ることを知見したものである。
なお、かかる忌避効果持続成分は、飛翔害虫忌避香料に対してのみならず、本発明における持続性香料成分に対しても少なからず持続作用の向上に寄与し得るものである。
【0020】
その具体的代表例(20℃における蒸気圧を併記)としては、プロピレングリコール(10.7Pa)、ジプロピレングリコール(1.3Pa)、トリプロピレングリコール(0.67Pa)、ジエチレングリコール(3Pa)、トリエチレングリコール(1Pa)、1,3−ブチレングリコール、ヘキシレングリコール(6.7Pa)、ベンジルグリコール(2.7Pa)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(3Pa)、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、及びトリプロピレングリコールモノメチルエーテルがあげられ、なかんずく、ジプロピレングリコールが好適である。
なお、グリコール及び/又はグリコールエーテルの飛翔害虫忌避香料に対する配合比率は、0.2〜10倍程度が適当である。
【0021】
次に、本発明の薬剤揮散体で用いる樹脂成分等について説明する。
本発明の薬剤揮散体は、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分と沸点が250℃以上400℃以下の持続性香料成分を含有する樹脂組成物を押出成形又は射出成形することによって調製される。好ましくは、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を樹脂担体に含有させた防虫成分含有樹脂ペレットと、沸点が250℃以上400℃以下の持続性香料成分を樹脂担体に含有させた香料成分含有樹脂ペレットを、必要ならば別途加えるポリオレフィン系樹脂とともに混練して樹脂組成物となし、これを押出成形又は射出成形して製するのが良い。
用いる樹脂担体は、担体の内部に混入された常温揮散性ピレスロイド系防虫成分や持続性香料成分が徐々に表面にブリードして揮散することができるものであれば特に限定されない。そして、防虫成分含有樹脂ペレット用の樹脂担体と持続性香料成分含有樹脂ペレット用の樹脂担体とは、樹脂担体の組成や仕様が同一でも異なっても構わない。
【0022】
常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を担持する樹脂担体としては、例えば、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂のようなポリオレフィン系樹脂、あるいはこれらにカルボン酸エステル等の単量体を重合させて成形したものが代表的である。ここでカルボン酸エステル等の単量体は、前記防虫成分の樹脂担体表面からの揮散をコントロールするのに効果的なものであり、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、酢酸ビニル等が挙げられる。
なお、ポリオレフィン系樹脂に対するこれらのカルボン酸エステル単量体の配合比率は、一般に、カルボン酸エステル単量体配合比率が高くなるほど防虫成分のブリードの速度を遅らせる傾向があることから、使用する防虫成分の種類や含有量、あるいは使用目的等に応じて、ポリオレフィン系樹脂に対して1〜30質量%の範囲で適宜調整すればよい。
また、樹脂担体は、あらかじめカルボン酸エステル単量体を多く含有するポリオレフィン系共重合体とオレフィンの単独重合体を、その含有比率を調整して混合したポリマーブレンドを用いることもできるし、さらには必要に応じて、スチレン系熱可塑性エラストマー等の他の高分子化合物を含有させることもできる。
【0023】
これらの共重合体の配合量は、樹脂ペレット全体に対して10質量%以上含有すると好ましく、20質量%以上であるとより好ましい。10質量%未満では、樹脂ペレット状態においてブリードを抑制する効果が不十分になってしまう。一方、上限は90質量%以下であると好ましく、60質量%以下であるとより好ましい。多すぎると、樹脂ペレットをマスターバッチとして用い、他の樹脂と混練して得られた樹脂成形体においてもブリードを抑制しすぎてしまい、本来の目的である常温揮散性ピレスロイド系防虫成分の揮散による防虫効果が過度に低減される恐れを有するためである。本発明によれば、10質量%以上90質量%以下のエチレン−ビニルアセテート共重合体及び/又はエチレン−メタクリル酸メチル共重合体と混練させることにより、得られる樹脂ペレットのブリードを適度な範囲で調整することが可能となる。
【0024】
本発明では、性能や使用性等の点から、エチレン−ビニルアセテート共重合体が好適であり、その中のエチレン単位とビニルアセテート単位との数比は、90:10〜70:30であると好ましい。ビニルアセテート単位が少なすぎると、ポリエチレンとほとんど物性が変わらなくなってしまい、本発明で必要とするブリード調整効果がほとんど期待できなくなってしまうからである。一方、ビニルアセテート単位が多すぎると樹脂ペレット状に成形しづらくなる。
また、上記のエチレン−ビニルアセテート共重合体のメルトマスフローレイト(MFR)は、5g/10min以上、50g/10min以下であると好ましい。MFRが小さすぎるとブリード調整剤としての効果が期待できなくなり、MFRが大きすぎると樹脂ペレットの物性に与える影響が無視できなくなってしまう恐れがある。
【0025】
更に、樹脂ペレットの重量調整や物性の調整のために、上記のエチレン−ビニルアセテート共重合体の他に、ポリオレフィン系樹脂やスチレン系樹脂を含有していてもよい。前記ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などがあげられるが、エチレン−ビニルアセテート共重合体やエチレン−メタクリル酸メチル共重合体との親和性から、ポリエチレンが好ましく、成形性の点で特に低密度ポリエチレン、具体的には分岐低密度ポリエチレン(LDPE)、鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)が好ましい。
【0026】
一方、持続性香料成分を担持する樹脂担体についても、上記した常温揮散性ピレスロイド系防虫成分の場合に準じた樹脂組成や仕様を適宜選択することができる。しかしながら、前記持続性香料成分の化学構造や揮散性は、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分と較べて非常に異なるので、通常、樹脂組成や仕様を調整・変更して採用するのが好ましい。
また、樹脂担体として、スチレン系ジブロックポリマーやスチレン系トリブロックポリマー等を主体としたものがしばしば好適とされる。
【0027】
本発明で用いる微粉末担体は、樹脂ペレット内に常温揮散性ピレスロイド系防虫成分や持続性香料成分を担持するために添加する成分である。例えば、いわゆるホワイトカーボンとよばれる微結晶シリカや微粉末ケイ酸、珪藻土、ゼオライト類、粘度鉱物、木粉等が挙げられる。この微粉末担体の含有量は、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分の場合、樹脂ペレット全体に対して、10質量%以上30質量%以下であると好ましく、15質量%以上25質量%以下であるとより好ましい。10質量%未満では担体として少なすぎて、防虫成分や持続性香料成分を担持しきれず、防虫成分や持続性香料成分のブリードが過大になる恐れがある。一方、30質量%を超えると、樹脂成分との配合比上、樹脂ペレットとしての形を維持するのが難しくなってしまう。また、樹脂ペレットを用いた成形品にも含有されることになるので、多すぎると薬剤揮散体の物性に影響を及ぼす危惧が避けられない。
これに対し、持続性香料成分の場合、微粉末担体の含有量は成形上の問題から常温揮散性ピレスロイド系防虫成分の場合よりも幾分多く設定し、12質量%以上40質量%以下であるのが好ましい。
【0028】
また、上記の微粉末担体の大きさは、数平均粒子径が1μm以上30μm以下であると好ましく、5μm以上20μm以下であるとより好ましい。数平均粒子径が30μmを超えると、上記範囲の含有率で存在していたとしても表面積が不足するため、担体として防虫成分や持続性香料成分を担持しにくくなり、得られる樹脂ペレットがべたつきやすくなる。一方、1μm未満の微粒子は現実的には難しく、物性が大きく変わってくるため好ましくない。
ホワイトカーボンのような微結晶シリカなどの微粉末担体は、防虫成分や持続性香料成分と反応せず、表面積の広い微粉末を用いることができる。これらの微粉末担体は防虫成分や持続性香料成分を担持してべとつきを抑え、その結果、樹脂成分と共に混練して得られる樹脂ペレットも、全体がべとつきにくくなりマスターバッチとして好適に利用できるものとなる。
【0029】
上記を踏まえ、防虫成分含有樹脂ペレットと持続性香料成分含有樹脂ペレットの代表的な組成は次のとおりである。
[防虫成分含有樹脂ペレット]
10質量%以上60質量%以下の常温揮散性ピレスロイド系防虫成分と、
10質量%以上30質量%以下の微粉末担体と、
10質量%以上60質量%以下のエチレン−ビニルアセテート共重合体とを含有。
[持続性香料成分含有樹脂ペレット]
10質量%以上40質量%以下の沸点が250℃以上400℃以下の持続性香料成分と、
12質量%以上40質量%以下の微粉末担体と、
10質量%以上60質量%以下のエチレン−ビニルアセテート共重合体とを含有。
【0030】
防虫成分や持続性香料成分を樹脂担体に保持させる方法としては、樹脂担体の内部に混入された防虫成分や持続性香料成分が徐々に樹脂担体の表面にブリードして揮散するように保持できる方法であれば特に限定されず、例えば、ポリオレフィン系樹脂に防虫成分や持続性香料成分を練り込んで成形することによって保持させる方法などが挙げられる。
また、その樹脂担体の形状としては、防虫成分や持続性香料成分が樹脂担体の表面から自然に揮散する状態になっていればよく、揮散効率の点からメッシュ状にすることが好ましい。樹脂メッシュは平面状のネットでもよいし、あるいは、図1に示すように、棒状体を波状に形成して波状体とし、複数本の波状体をその頂部同士で交差させて接合させることにより構成した立体構造体であってもよい。後者の立体構造体によれば、一定範囲内における表面積が増大し、防虫成分や持続性香料成分の揮散量を高めることができる。
【0031】
ここで、樹脂メッシュのフィラメントの直径としては、同じく揮散効率の点から0.1〜3mmの範囲にすることが好ましいが、防虫成分や持続性香料成分の種類や使用期間に応じ上記範囲内で適宜設定すればよい。例えば、薬剤揮散体の周縁部のフィラメント直径を大きくすることによって揮散を抑えるように調整し、一方、内部のフィラメント直径を小さくすることによって揮散を促すようにすれば、長期間を通した揮散調整が可能となる。
【0032】
また、樹脂メッシュの網目(目開き)の大きさ(開孔率)は、揮散効率と通気性の点から40〜85%の範囲にすることが好ましく、更には50〜75%にすることが好ましい。また、樹脂メッシュの網目の形状についても特に限定されず、必要に応じて角形、ひし形、六角形など適宜設定することができる。
【0033】
薬剤揮散体の樹脂担体に担持される常温揮散性ピレスロイド系防虫成分の含有量は、使用する防虫成分の種類、使用環境、使用条件などによって変動することから、特に限定されるものではない。しかしながら、防虫効果に必要な防虫成分量を確保し、また防虫成分を練り込んだ後の成形を容易にするため、さらに樹脂担体の表面に防虫成分が過剰にブリードしてべたつきを起こすことを防止するために、0.5〜20質量%の範囲にすることが好ましい。
すなわち、防虫成分の含有量が0.5質量%未満の場合には、防虫に必要な防虫成分量を確保することが困難となり、一方、防虫成分の含有量が20質量%を超える場合には、防虫成分を練り込んだ後の成型が困難となり、さらに樹脂担体の表面に防虫成分が過剰にブリードしてべたつきを起こしやすくなる。
【0034】
ここで、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分の含有量を例示すれば、30〜200日程度の使用期間に対応して30〜1400mg程度である。
即ち、含有量を設定するに当たっては、使用する防虫成分の種類により異なるものの、例えば、メトフルトリン単独を使用した場合では、防虫効果が発現するのに必要な最低の揮散量は0.03mg/hr以上であり、プロフルトリン単独では0.03mg/hr以上であり、トランスフルトリン単独では0.06mg/hr以上であることから、30日〜200日における含有量についてはメトフルトリンでは30〜700mg、プロフロトリンでは30〜700mg、トランスフルトリンでは60〜1400mgの範囲で設定すればよいことになる。
【0035】
一方、樹脂担体に保持される持続性香料成分の含有量についても、使用する持続性香料成分の種類、使用環境、使用条件などによって変動することから、特に限定されるものではない。しかしながら、香りの付与に必要な持続性香料成分量を確保し、また持続性香料成分を練り込んだ後の成形を容易にするため、さらに樹脂担体の表面に持続性香料成分が過剰にブリードしてべたつきを起こすことを防止するために、2.0〜30質量%の範囲にすることが好ましい。
すなわち、持続性香料成分量が2.0質量%未満の場合には、必要な持続性香料成分量を確保することが困難となり、一方、持続性香料成分の含有量が30質量%を超える場合には、持続性香料成分を練り込んだ後の成形が困難となり、さらに樹脂担体の表面に持続性香料成分が過剰にブリードしてべたつきを起こしやすくなる。
【0036】
ここで、持続性香料成分の含有量を例示すれば、30〜200日程度の使用期間に対応して100〜2000mg程度である。即ち、持続性香料成分の使用は、安定した防虫効果を具現させ、しかも芳香を付与して使用感を向上させることにあるので、この点を考慮して含有量を決定すればよい。
【0037】
本発明の薬剤揮散体は、前述したとおり、特に使用の初期段階における香りの付与と防虫効果の補強を目的として、持続性香料成分に加えて、幾分揮散性の高い飛翔害虫忌避香料組成物を配合することができるのであるが、更に、共力剤、忌避剤、抗菌剤、防黴剤、他の機能性成分等も同時に使用可能である。
例えば、共力剤としては、イソボルニルチオシアノアセテート(商品名IBTA)、N−オクチルビシクロヘプテンカルボキシイミド(商品名サイネピリン222)、N−(2−エチルヘキシル)−1−イソプロピル−4−メチルビシクロ〔2,2,2〕オクト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド(商品名サイネピリン500)が挙げられる。
忌避剤としては、N,N−ジエチル−m−トルアミド(商品名ディート)、ジメチルフタレート、ジブチルフタレート、2−エチル−1,3−へキサンジオール、1,4,4a,5a,6,9,9a,9b−オクタヒドロジベンゾフラン−4a−カルバルデヒド、p−メンタン−3,8−ジオール等が挙げられる。
抗菌剤としては、ヒノキチオール、テトラヒドロリナロール、オイゲノール、シトロネラール、アリルイソチオシアネート等が挙げられる。
防黴剤としては、イソプロピルメチルフェノール、オルトフェニルフェノール等が挙げられる。
他の機能性成分としては、「緑の香り」と呼ばれる青葉アルコールや青葉アルデヒド配合のストレス軽減成分などが挙げられる。
更に、着色剤、帯電防止剤などを適宜配合してもよく、色彩を付加したり、タイムインジケーターを装着して使用終了時点を視認できるようにすれば、商品価値をより高めることができる。
【0038】
本発明で用いる常温揮散性ピレスロイド系防虫成分は、いずれも十分な安定性を有しているが、更に安定性を高めるため、酸化防止剤等の安定剤を添加することも可能であり、例えば、2,2´−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4´−メチレンビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール)、BHT、BHA、3,5−ジーt−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、メルカプトベンズイミダゾール等を用いることができる。
【0039】
また、紫外線吸収阻害剤としてパラアミノ安息香酸類、桂皮酸類、サリチル酸類、ベンゾフェノン類及びベンゾトリアゾール類などの紫外線吸収剤を用いることにより、保管時、使用時の耐光性を一段と向上させることができる。
【0040】
本発明において薬剤揮散体を収納するプラスチック容器としては、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分や持続性香料成分を安定的に揮散できるものであれば、特に形状や大きさには限定されないが、揮散効率の点から、開口部の容器に占める比率(開口率)が、容器の全表面積に対し、10〜50%の範囲となるようにすることが好ましい。
なお、開口部の面積が上記の範囲であれば、開口部が容器の正面、背面にあるものだけでなく側面や上面、下面に開口するものでもよく、また、開口部の形状についても特に限定されるものではない。
【0041】
プラスチック容器の形状についても特に限定されず、樹脂担体が円筒状であれば、これに対応させて容器も円筒状にしても構わないし、例えば、空気清浄機取付け用に適用するような場合には、容器を適宜簡略化し、樹脂担体を保持するだけで用いることもできる。
【0042】
プラスチック容器の構造としては、例えば、平面シート状のプラスチック部材を折り曲げたものが挙げられる。
この場合、容器は上記折り曲げた部材の2つを一組として用い、それぞれの部材の折り曲げ面が重なり合うように組み立てられる。
さらに、上記折り曲げた部材の折り曲げ面の端部には切り目を入れた舌片部を設けて、折り返し立上げが可能なようにフック部を延設することもできる。なお、この場合には、背面上方には前記フック部が折り込まれるための収納窓を設けていてもよい。これによって、各種の使用方法に応じた使い方が可能となる。
すなわち、ここで示したフック部の先端部分を上記の容器の、例えば上面部分に係止すると、屋外で使用の場合には容器が風などで飛ばされたり、屋内で吊るした場合には使用時に誤って落下するなどの問題がなくなり、使用したい場所で確実な効果を期待することができるのである。
【0043】
また、プラスチック容器の他の形状例としては、プラスチックの一体成形品を使用することも可能である。
ここでいうプラスチックの一体成形品とは、通常の射出成形または真空成形で成形したもの等であれば成形方法は問わないが、上面と下面、正面と背面をヒンジを用いて一体としたり、嵌合したりすることによって一体とすれば、製造工程をより簡略化することができる。また、この場合、容器の上面部分には立上げ可能にフック部が設けられているとより効果的に使用することができる。
すなわち、前述と同様に、ここで示したフック部の先端部分を使用時に上記の容器の一部、例えば上面に設けた開口部や凹部に係止できる構成にすると、屋外で使用の場合には容器が風などで飛ばされたり、屋内で吊るした場合には使用時に誤って落下するなどの問題がなくなり、使用したい場所で確実な効果を期待することができる。
また、容器のどの部分に係止するかは、製造する際に適宜選択する事項ではあるが、フック部が設けられている面と同一面上に係止すれば、使用時に容器が設置位置から移動してしまうことを防止することができるので好ましい。
【0044】
これら平面シート状のプラスチック部材やプラスチックの一体成型品に用いられるプラスチックの材質としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、ポリアミド等、種々のプラスチック材料が使用可能であるが、強度やその性質を考慮すると、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)を用いた方が好ましい。
【0045】
また、これらのプラスチックの厚みは、種々のものが使用可能であるが、樹脂担体の形状やその揮散性能との関係、経済性などの点から、0.05〜2mmのものを使用することが好ましい。
【0046】
本発明の薬剤揮散体は、一般的に薬剤非透過性フィルム袋に収容されて市販され、使用時に開袋して用いられる。ここで、薬剤非透過性フィルム袋の材質としては、ポリエステル(PET、PBTなど)、ポリアミド、ポリアセタール、ポリアクリルニトリルなどがあげられ、その肉厚は可撓性を損なわない範囲で決定される。なお、ヒートシール性を付与するために、これら薬剤非透過性フィルムの内面をポリエチレンやポリプロピレンフィルム等でラミネートすることもできる。
【0047】
本発明によって調製される薬剤揮散体は、使用直後からおよそ200日間までのその設計仕様に応じた所定期間にわたり、リビングや和室、玄関などの室内、倉庫、飲食店、工場や作業場内部やその出入り口、鶏舎、豚舎等の畜舎、犬小屋、ウサギ小屋等のペット小屋やその周辺、浄化槽やマンホールの内部、キャンプなどにおけるテント内部やその出入り口、バーベキュー、釣り、ガーデニング等の野外活動場所やその周辺などで、アカイエカ、チカイエカ、ヒトスジシマカ等の蚊類、ブユ、ユスリカ類、ハエ類、チョウバエ類、イガ類等に対して優れた防虫効果を奏する。また、室内と室外を隔てる窓やベランダ等の場所で、例えばそのフック部をカーテンレール等に引っ掛けたり、物干し竿に吊るして使用すれば、屋外から屋内へのこれら害虫の侵入を効果的に防ぐこともでき、極めて実用的である。
さらに、薬剤揮散体を円筒状に形成してペット犬のリード装着用としたり、適宜容器を簡略化して空気清浄機等の取付け用として用いることもできる。
【実施例】
【0048】
次に、実施例を用いて、本発明の薬剤揮散体および薬剤揮散体を用いた害虫の防虫方法を説明する。なお、以下に述べる実施例は本発明を具体化した一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものでない。
まず、使用した薬剤、及び性能の評価方法について説明する。
【0049】
<使用薬剤>
・メトフルトリン(住友化学(株)製:エミネンス)
・トランスフルトリン(住友化学(株)製:バイオスリン)
・プロフルトリン(住友化学(株)製:フェアリテール)
・微結晶シリカ(EVONIK社製:カープレックス#80、ホワイトカーボン、平均粒子径:15μm、以降「シリカ」と記す。)
・エチレン−ビニルアセテート共重合体(東ソー(株)製:ウルトラセン710、エチレン:酢酸ビニル単位比=72:28、以降「EVA−A」と記す。)
・エチレン−ビニルアセテート共重合体(東ソー(株)製:ウルトラセン541、エチレン:酢酸ビニル単位比=90:10、以降「EVA−B」と記す。)
・エチレン−メタクリル酸メチル共重合体(住友化学(株)製:アクリフトWK307、以降「EMMA」と記す。)
・低密度ポリエチレン(旭化成(株)製:サンテックLDM6520、以降「LDPE−A」と記す。)
・低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン(株)製:ノバテックLDLJ802、以降「LDPE−B」と記す。)
【0050】
<ブリード性試験>
樹脂ペレット約10gを直径7cmのガラスシャーレに入れ、まんべんなく拡げた後蓋をして密封した。40℃で7日間保存後、樹脂ペレットの表面に染み出した油浮きの状況を目視で観察し、下記の基準で評価した。
油浮きなし;○、 表面がテカる程度;△、 はっきりした油浮き;×。
【0051】
<揮散性薬剤の揮散性評価試験>
常温揮散性ピレスロイド系防虫成分の揮散量は、所定期間経過後に薬剤揮散体に含まれる防虫成分量をガスクロマトグラフィにより分析して測定した。一方、持続性香料成分については、芳香の有無を経時的に官能試験により調べた。
芳香がはっきり認められる;○、 僅かに認められる;△、 殆ど認められない;×。
【0052】
<防虫効力試験>
8畳(33m3)の部屋に供試薬剤揮散体を置き、25℃で風を循環させながら、アカエイカ雌成虫100匹を放ち、その後の経時的なノックダウン数を2時間後まで観察し、プロビット法によりKT50値を求めた。
【実施例1】
【0053】
<樹脂ペレットの製造方法>
下記に記載の混合比で、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分又は持続性香料成分、微粒末担体、エチレン−ビニルアセテート共重合体及び/又はエチレン−メタクリル酸メチル共重合体、及びその他の樹脂を混合した。即ち、50℃に加温したメトフルトリン28重量部をホワイトカーボン12重量部に担持させた後、これにエチレン−ビニルアセテート共重合体(EVA−A)44重量部、及びLDPE(LDPE−A)16重量部を、(株)テクノベル製:二軸押出し成形機を用いて、120〜140℃で混練・押出成形し、直径3mm、長さ5mmのメトフルトリン含有樹脂ペレットを製造した。
一方、持続性香料成分(ガラクソリド、ヘキシルシンナミックアルデヒド、エチレンブラシレート、7−アセチル−1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロ−1,1,6,7−テトラメチルナフタレンを含む)30重量部をホワイトカーボン16重量部に担持させた後、これにエチレン−ビニルアセテート共重合体(EVA−A)30重量部、及びLDPE(LDPE−A)24重量部を加え、(株)テクノベル製:二軸押出し成形機を用いて、120〜140℃で混練・押出成形し、直径3mm、長さ5mmのメトフルトリン含有樹脂ペレットを製造した。
これらの樹脂ペレットについて、ブリード状態を測定したところ、油浮きがなく良好であった。
【0054】
<成形体の製造>
上記メトフルトリン含有樹脂ペレット100重量部、持続性香料成分含有樹脂ペレット100重量部とLDPE(LDPE−B)200重量部(着色剤ペレット10重量部を含む)を120〜140℃で混練後、インジェクション成形機に投入し、図1に示す立体構造体からなる薬剤揮散体(10g)を得た。
この立体構造体を構成する矩形波状体1(1a,1b)及び補強材2の断面は、約1.3mm×1.3mmの正方形であり、この立体構造体を構成する矩形波状体1の第1頂部1aと第2頂部1bとの間の距離は10mm、第1頂部1a及び第2頂部1bの長さは、いずれも8mmとした。また、揮散性薬剤含有構造体全体の大きさを、95mm×160mm×12mmとした。
得られた薬剤揮散体を開口部を有するプラスチック容器に入れて室内に吊るし、25℃、風速0.5mの条件下で、揮散性薬剤の揮散量ならびに揮散時間を測定した。 その結果、メトフルトリンの揮散時間はおよそ200日で、全期間を通じた平均の揮散量は2.4mg/日であった。一方、持続性香料成分の芳香も150〜200日間にわたり持続し、メトフルトリンと持続性香料成分の揮散性は連動した。更に、150日経過後の防虫効力試験の結果も、KT50値が34分で優れたものであった。
【実施例2】
【0055】
実施例1に準じ、表1に示す防虫成分含有ペレット、及び持続性香料成分含有ペレットを調製した。なお、防虫成分がトランスフルトリンの場合は、薬剤揮散体保存時の結晶析出防止成分としてジブチルサクシネートを配合した。各供試ペレットにつき、ブリード状態を調べた結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
試験の結果、本発明の防虫成分含有ペレット及び持続性香料成分含有ペレットの調製に際し、シリカのような微粉末担体の使用は好ましかった。また、樹脂担体については、EVAが防虫成分及び持続性香料成分のいずれにもブリード性が良好であったのに対し、EMMAを用いた持続性香料成分含有ペレットのブリード性は防虫成分含有ペレットの場合に較べて幾分劣り、両者間で差が認められた。即ち、持続性香料成分含有ペレットに適した樹脂成分の仕様等は、防虫成分含有ペレットの場合と異なり、試験の実施による検証が不可欠であることを示した。
【0058】
前記表1のペレットを用い、実施例1に準じて表2に示す薬剤揮散体(10g)を調製した。各供試薬剤揮散体につき、所定期間経過後、揮散性評価試験及び殺虫効力試験を行った。その結果を併せて表2に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
試験の結果、本発明の薬剤揮散体は、130日以上の長期間にわたって防虫成分の揮散性能、及び防虫効力に優れ、持続性香料成分を併用することによって、前記防虫効力を補強するとともに、使用終期まで芳香を持続しえることが確認された。
これに対し、防虫成分を含有しない比較4や揮散性の乏しい防虫成分を使用した比較5は、十分な防虫効力が得られず、また、持続性香料成分を含有しない比較6は芳香が所定期間持続しなかった。従って、本発明が極めて高い有用性を有することは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、薬剤揮散体を用いた害虫防除分野において須らく利用可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 矩形波状体
1a 第1頂部
1b 第2頂部
2 補強材
図1