(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
走行経路を分割した複数のルート区間のうち走行済みのルート区間のそれぞれについて、対象EV(Electric Vehicle:電気自動車)および他のEVの消費エネルギ、走行時間、開始端速度、終了端速度に関する情報である消費エネルギ関連データを記憶する第1記憶部と、
前記複数のルート区間のそれぞれのルート情報を格納する第2記憶部と、
前記対象EVが走行済みのルート区間である第1ルート区間の前記対象EVの消費エネルギ関連データと、前記対象EVが今後走行するルート区間である第2ルート区間を走行済みの他のEVの前記第2ルート区間の消費エネルギ関連データとの差分と、前記第2ルート区間と前記第1ルート区間の前記ルート情報の差分とに基づいて、前記第2ルート区間と前記第1ルート区間との第1類似度を計算し、
前記第1類似度に基づき前記第1ルート区間の中からルート区間を選択し、
前記選択したルート区間と前記第2ルート区間の消費エネルギ関連データと、前記ルート情報を用いて、前記第2ルート区間における前記対象EVの消費エネルギを推定する
EV消費エネルギ推定部と、
を備えた消費エネルギ推定装置。
前記EV消費エネルギ推定部は、前記選択したルート区間が前記第2グループに属するとき、前記第2グループに属するルート区間における前記対象EVの加減速時間に基づき、前記第2ルート区間での前記対象EVの加減速時間を推定する
請求項4または5に記載の消費エネルギ推定装置。
前記EV消費エネルギ推定部は、前記第1ルート区間における前記対象EVと前記他のEVの消費エネルギの差分および走行速度の差分に基づき、前記対象EVと前記他のEVとの第2類似度を計算し、前記第2類似度に基づいて前記他のEVから1台の適合EVを選択し、前記第2ルート区間の前記適合EVの開始端速度および終了端速度と、前記推定した加減速時間に基づき、前記加速度を推定する
請求項2ないし9のいずれか一項に記載の消費エネルギ推定装置。
前記EV消費エネルギ推定部は、前記第2ルート区間を前記適合EVが走行した速度と、前記第2ルート区間を過去に走行した前記他のEVの平均速度との差分をさらに用いて前記第3類似度を計算する
請求項11に記載の消費エネルギ推定装置。
前記EV消費エネルギ推定部は、前記第2ルート区間と前記第1ルート区間の傾斜および距離と、前記第2ルート区間における他のEVの平均速度と平均走行時間と、前記第1ルート区間の前記対象EVの平均速度と平均走行時間とに基づいて、前記第1類似度を計算する
請求項1ないし12のいずれか一項に記載の消費エネルギ推定装置。
走行経路を分割した複数のルート区間のうち走行済みのルート区間のそれぞれについて、対象EV(Electric Vehicle:電気自動車)および他のEVの消費エネルギ、走行時間、開始端速度、終了端速度に関する情報である消費エネルギ関連データを記憶する第1記憶部と、
前記複数のルート区間のそれぞれのルート情報を格納する第2記憶部と、
前記対象EVが走行済みのルート区間である第1ルート区間における前記対象EVと前記他のEVの消費エネルギの差分および走行速度の差分に基づき、前記対象EVと前記他のEVとの第1類似度を計算し、前記第1類似度に基づいて前記他のEVから1台以上の適合EVを選択し、
前記対象EVが今後走行するルート区間である第2ルート区間における前記選択した適合EVの消費エネルギの平均または最大値に基づき、前記第2ルート区間における前記対象EVの消費エネルギを推定する、EV消費エネルギ推定部と、
前記ルート区間の気温および湿度の少なくとも一方と時刻とを記憶する第3記憶部と、を備え、
前記EV消費エネルギ推定部は、前記第1類似度に基づき前記他のEVから複数の適合EVを選択し、選択した複数の適合EVについて、前記第2ルート区間の最新の気温および最新の湿度の少なくとも一方と、前記EVが前記第2ルート区間を走行したときの気温および湿度の少なくとも一方との差に基づいて第2類似度を計算し、前記第2類似度に基づいて前記複数の適合EVから1台以上の適合EVを選択する
消費エネルギ推定装置。
走行経路を分割した複数のルート区間のうち走行済みのルート区間のそれぞれについて、対象EV(Electric Vehicle:電気自動車)および他のEVの消費エネルギ、走行時間、開始端速度、終了端速度に関する情報である消費エネルギ関連データを記憶する第1記憶部と、
前記複数のルート区間のそれぞれのルート情報を格納する第2記憶部と、
前記対象EVが走行済みのルート区間である第1ルート区間における前記対象EVと前記他のEVの消費エネルギの差分および走行速度の差分に基づき、前記対象EVと前記他のEVとの第1類似度を計算し、前記第1類似度に基づいて前記他のEVから1台以上の適合EVを選択し、
前記対象EVが今後走行するルート区間である第2ルート区間における前記選択した適合EVの消費エネルギの平均または最大値に基づき、前記第2ルート区間における前記対象EVの消費エネルギを推定する、EV消費エネルギ推定部と、
前記ルート区間の気温および湿度の少なくとも一方と時刻とを記憶する第3記憶部と、を備え、
前記第1記憶部の前記消費エネルギ関連データは、前記対象EVおよび前記他のEVの車内の設定温度および車内の湿度の少なくとも一方を含み、
前記EV消費エネルギ推定部は、
前記第2ルート区間における前記選択した適合EVのエアコン消費エネルギを計算し、前記第2ルート区間における前記選択した適合EVの消費エネルギから前記エアコン消費エネルギを減算し、減算後の消費エネルギの平均を計算し、
前記第2ルート区間における前記対象EVのエアコン消費エネルギを推定し、
前記減算後の消費エネルギの平均と、前記対象EVのエアコン消費エネルギを加算することによって、前記第2ルート区間における前記対象EVの消費エネルギを推定する
消費エネルギ推定装置。
走行経路を分割した複数のルート区間のうち走行済みのルート区間のそれぞれについて、対象EV(Electric Vehicle:電気自動車)および他のEVの消費エネルギ、走行時間、開始端速度、終了端速度に関する情報である消費エネルギ関連データを記録するステップと、
前記複数のルート区間のそれぞれのルート情報を読み込むステップと、
前記対象EVが走行済みのルート区間である第1ルート区間の前記対象EVの消費エネルギ関連データと、前記対象EVが今後走行するルート区間である第2ルート区間を走行済みの他のEVの前記第2ルート区間の消費エネルギ関連データとの差分と、前記第2ルート区間と前記第1ルート区間の前記ルート情報の差分とに基づいて、前記第2ルート区間と前記第1ルート区間との第1類似度を計算するステップと、
前記第1類似度に基づき前記第1ルート区間の中からルート区間を選択するステップと、 前記選択したルート区間と前記第2ルート区間の消費エネルギ関連データと、前記ルート情報を用いて、前記第2ルート区間における前記対象EVの消費エネルギを推定するステップと
を備えた消費エネルギ推定方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
過去の走行ルート区間における、着目するEV(対象EV)のエネルギ消費データが収集される。過去の走行ルート区間が、一定速度走行ルート区間(開始端と終了端で速度の差が一定値以下のルート区間)と、加速/減速走行ルート区間(開始端と終了端で速度の差が一定より大きいルート区間、もしくは傾斜が閾値より大きいルート区間)の2つのグループに分割される。走行ルート区間のこれら2つのグループにおいて、対象EVの過去のエネルギ消費データを用いて、消費エネルギに影響する未知のパラメータ値を推定する。
【0017】
次に、これらのパラメータを用いた類似度(f1)を用いて、次の走行ルート区間に対して最も良く適合する過去の走行ルート区間を抽出する。また、上記とは別の類似度(fiまたはf2)を用いて、他のEV(参照EV)のうち、最も良く適合する参照EVが抽出される。抽出された走行ルート区間の類似度(類似度f1)と、抽出された参照EVの類似度(fiまたはf2)のうちより良い類似度に応じて、最も良く適合するルート区間のデータ、または最も良く適合する参照EVのデータが、対象EVの参照データとして用いられる。
【0018】
参照データを用いて、次の走行ルート区間における対象EVの速度、走行時間、加速度が計算される。次に、これらの値と、次の走行ルート区間における気温や湿度等の環境データを用いて、次の走行ルート区間における対象EVの消費エネルギを計算する。
【0019】
以上により、対象EVの特性およびドライバの運転パターン(たとえば加減速の運転パターン)が考慮された、次の走行ルート区間における対象EVの消費エネルギ推定を、高い精度で行うことができる。
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0021】
図1に、対象EVの消費エネルギを推定する消費エネルギ推定装置が示される。本消費エネルギ推定装置は、たとえば、高速道路おけるEV走行の消費エネルギの推定、あるいは走行経路に沿ったEVバスの消費エネルギの推定に関する。本装置の設置場所は特に限定されないが、たとえば高速道路の管理センターやITS(Intelligent Transport System)センター等に配置することが考えられる。
【0022】
本消費エネルギ推定装置は、消費エネルギ関係データ格納部1、ルート情報格納部2、EV仕様情報格納部3、他EV走行データ格納部4、環境情報格納部5、EVパラメータ推定部6、EV消費エネルギ推定部7を備える。EVパラメータ推定部6は、分類部61、第1パラメータ推定部62、第2パラメータ推定部63を備える。EV消費エネルギ推定部7は、EV速度推定部71、第1消費エネルギ推定部72、第2消費エネルギ推定部73を備える。
【0023】
消費エネルギ関係データ格納部1は、対象EVの過去のエネルギ消費データを格納している。そのデータの例が
図2に示される。EV識別子が当該データに含まれても良い。消費エネルギ関係データは、EVパラメータ推定部6およびEV消費エネルギ推定部7によって読み込まれる。
【0024】
図2に示すデータは、ルート区間の両端を示す2つのポイントの情報を含む。開始端をルートポイント1、終了端をルートポイント2と呼ぶ。EVの走行経路は複数のルート区間によって区分されている。各ルート区間はルートポイント1とルートポイント2の組によって識別される。
【0025】
また
図2に示すデータは、そのルート区間におけるEVによる消費エネルギと、走行時間と、当該両端ポイント1,2でのEVの速度と、外気温と、外湿度と、エアコンの設定温度(EV内気温)と、EV内の湿度とを含む。ルートポイントにおけるこれらの情報は、たとえばITSスポットなどルートポイントに配置された通信装置が、EVによるルートポイントの通過時にEVから読み取って取得してもよいし、GPS(Global Positioning System)を利用してEVから取得してもよい。ルート区間の開始端を通過した時点で開始端速度、外気温、外湿度、AC温度、EV内湿度を記録してもよい。
【0026】
ルート情報格納部2は、ルート区間に関する種々の情報(ルート情報)を格納している。ルート情報の例が
図3に示される。ルート情報は、ルート区間を表す2つの両端ポイントと、当該ルート区間の距離と、当該ルート区間の勾配(傾斜)とを含む。ルート区間の全体が当該勾配を有する場合や、ルート区間内の一部が当該勾配を有する場合がある。ルート情報は、EVパラメータ推定部6およびEV消費エネルギ推定部7によって読み込まれる。
【0027】
EV仕様情報格納部3は、EV仕様情報を記憶している。EV仕様情報の例が
図4に示される。この情報は、EVタイプ、EVの標準重量m
cと、抵抗係数(drag coefficient)C
D、EVのフロント面積Aを含む。対象EVおよび参照EVは各々、これらのいずれかのEVタイプに該当する。EV仕様情報は、EVパラメータ推定部6およびEV消費エネルギ推定部7によって読み込まれる。
【0028】
他EV走行データ格納部4は、他のEV(参照EV)の消費関連エネルギデータを、他走行EVデータとして記憶している。当該データの例が
図5に示される。当該データは、EVタイプ、ルート区間の2つの両端ポイント、そのルート区間におけるEVによる消費エネルギ、走行時間、当該2つの両端ポイントでのEVの速度を含む。
図2のデータベースのように、外気温と、外湿度と、エアコンの設定温度(EV内気温)と、EV内の湿度とをさらに含んでも良い。ここでは省略しているが、各データには、EV識別子が含まれている。本実施例では
図2のデータベースと
図5のデータベースを分けて設けているが、これらをまとめて1つのデータベースとして管理してもよい。
【0029】
環境情報格納部5は、ルート区間毎の環境情報を格納している。環境情報は、たとえば気温および湿度等の天気情報である。環境情報のデータ例が
図6に示される。当該データは、ルート区間の2つの両端ポイント、そのルート区間の気温および湿度を含む。環境情報は、たとえば一定時間毎に記録される。環境情報には、図示しないが時刻が付与されている。
【0030】
EVパラメータ推定部6は、対象EVの消費エネルギに影響する対象EVの未知のパラメータの値を推定する。EVパラメータ推定部6は、分類部61、第1パラメータ推定部62、第2パラメータ推定部63を備える。
【0031】
分類部61は、対象EVが過去に走行した走行ルート区間を、定速度走行ルート区間と、加速/減速走行ルート区間の2つのグループに分類する。この分類における処理の流れを
図7に示す。この処理は、たとえば対象EVが現在走行しているルート区間の終端点に達したときに行われる。この場合、当該ルート区間も、過去に走行したルート区間として扱われてよい。
【0032】
まず、
図3のデータベースから、そのルート区間の傾斜(勾配)を得る(ステップS611)。
【0033】
もし傾斜が閾値τより大きい場合は(S612のYES)、EVはその傾斜を登るために加速をしなければならないと想定される(S613)。したがって、そのルート区間を、加速/減速走行ルート区間のグループに分類する。
【0034】
もし、傾斜が閾値τ以下である場合は(S612のNO)、すなわち、そのルート区間は平坦であると考えられるならば、そのルート区間の両端におけるEVの速度(v1、v2)を得る(S614)。そして、そのルート区間におけるEVの走行時間tと走行距離(ルート区間の距離)dを得る(S615)。
【0035】
次に、|d/t-(v1+v2)/2|を計算し、その値が閾値Δ以下かどうかを検査する(S616)。もし、その値が閾値Δ以下であれば、そのルート区間における速度は、定速度であると見なす(S617)。したがって、そのルート区間を定速度ルート区間のグループに分類する。一方、その値が閾値Δより大きければ、そのルート区間における速度は、加速/減速を含むと想定される(S618)。したがって、そのルート区間を加速/減速走行ルート区間のグループに分類する。
【0036】
第1パラメータ推定部62は、走行する種々のルート区間で変化しない(ルート区間に依存しない)未知のパラメータのいくつかの値を推定する。推定には、定速度ルート区間のグループのエネルギ消費データを用いる。
【0037】
第2パラメータ推定部63は、走行する種々のルート区間で変化する未知のパラメータのいくつかの値を推定する。推定には、加速/減速走行ルート区間のグループのエネルギ消費データを用いる。
【0038】
EVのエネルギ消費の主な構成要素は、エアコンおよびライト等の電気機器、加速/減速、空気抵抗、回転抵抗、傾斜を含む。EV電池の放電効率η
1とEVの機械効率η
2もEVの消費エネルギに影響する。
【0039】
暖房の間のエアコンの消費エネルギE
hと、冷房の間のエアコンの消費エネルギE
cは以下のように計算される。エアコンの消費エネルギを暖房か冷房かを区別しないでE
ACと表記する。
【数1】
【0040】
ρ は、空気密度(air density)である。
Cp は、空気の比熱(specific heat capacities of air)である。
λは、水の蒸熱潜熱(enthalpy (heat) of vaporization of water)である。
△T は、吸込・吹出空気温度の差(temperature difference of air flow)である。
△X は、外気・室内絶対湿度の差(absolute humidity difference)である。
Uは、空気量(air content)である。
COP は、エアコンまたはクーラーの成績係数(Coefficient Of Performance)である。
t はエアコンの運転時間である。
【0041】
また、式(1)および式(2)におけるy、α、βは以下のように定義される。
y=ρU/COP
α= Cp
β=λ
【0042】
EVが加速/減速している間の消費エネルギは、以下のように計算される。
【数2】
【0043】
v1は加速/減速前の速度、v2は加速/減速後の速度であり、mはEVの重量 (mass)であり、η
1とη
2は、EVの電気効率および機械効率である。この重量mは、EV自体の重量m
cのみならず、EVに乗っている人の重量等も含んだ全重量を意味する。
【0044】
空気抵抗によるエネルギ消費は、以下のように計算される。
【数3】
【0045】
ρは、空気密度(air density)である。AはEVのフロント面積である。C
D は抵抗係数である。v はEVの速度である。dは、区間の距離である。
【0046】
回転抵抗によるエネルギ消費は、以下のように計算される。
【数4】
【0047】
C
R は回転抵抗係数である。gは、重力加速度である。
【0048】
ルート区間の傾斜によるエネルギ消費は、以下のように計算される。
【数5】
【0050】
また、EVの補助機器(ライトやワイパーなど)のエネルギ消費は、以下のように計算される。
【数6】
【0051】
Pauxは、補助機器の消費電力であり、tは運転時間である。
【0052】
したがって、EVのエネルギ消費は、上述したエネルギ消費の合計によって、以下のように与えられる。
【数7】
【0053】
図8に、一定で既知のパラメータと、測定可能で未知のパラメータを示す。これらのパラメータの意味は、上述した通りである。既知のパラメータには、測定により得られる値(V,d,t,ΔT、ΔX)、事前に定められた定数(ρ、α、β)、EV仕様情報(スペックシート)から得られる値(A、C
D)がある。未知のパラメータは、m,C
R,y,P
AUX,η
1,η
2,djである。
【0054】
未知のパラメータのいくつかは、走行するルート区間に依存せず一定のままである。また未知のパラメータの別のいくつかは、走行するルート区間に依存して変化する。これらのパラメータのうち、m, C
R, y,P
AUX, η
1,η
2の6個は、走行するルート区間に依存せず一定のままである。djのみが走行するルート区間に依存して変化する。djは、ルート区間を複数の区間に分割したときの各部分区間の距離である。たとえば、1つめの部分区間が速度が一定の部分区間、2つめの部分区間が加速/減速がある部分区間(加減速区間)、3つめの部分区間が速度が一定の部分区間のように分割される。各部分区間の走行時間はtjと表記する。
【0055】
ここで、定速度ルート区間では、消費エネルギは以下のようになる。
【数8】
【0056】
したがって、第1パラメータ推定部62は、定速度ルート区間のエネルギ消費データを6個以上用いて、これら6個の一定のパラメータの値を推定する。これらの6個のエネルギ消費データは、消費エネルギ関係データ格納部1(
図2のデータベース)から取得する。
【0057】
具体的に、上記式(1),(2),(4),(5),(6),(7)で定義される式を式(9)に適用した上、6個のエネルギ消費データと式(9)とから、6個の方程式を作成する。これら6個の方程式からなる連立方程式を解くことで、m, C
R, y,P
AUX,η
1,η
2の値を算出する。
【0058】
第2パラメータ推定部63は、ルート区間に応じて変化する対象EVの未知のパラメータの値を推定する。推定には、加速/減速走行ルート区間のグループのエネルギ消費データを用いる。
【0059】
図9に示されるようなパターンでルート区間(加速/減速走行ルート区間)を走行する場合を考える。このルート区間は3つの部分区間からなる。1つめの部分区間は、速度v1,距離d1、走行時間t1である。3つめの部分区間は、速度v2,距離d3、走行時間t3である。1つめと3つめの部分区間は定速度である。2つめの部分区間は、加速区間であり、距離d2,走行時間t2である。この2つめの部分区間で、速度がv1からv2まで加速されている。
【0060】
空気抵抗、回転抵抗および傾斜に起因するエネルギ消費Eair、Eroll、Eslopeは、距離d1, d3に対して別個に計算される。そこでは、EVの速度は一定のままであり、式(4)-(6)を用いる。したがって、各部分区間でそれぞれ2つの未知のパラメータdj,tjが残ったままである。これらのパラメータの値を推定するため、この第2パラメータ推定部63は運動方程式(equation of motion)を用いる。6個のパラメータd1,d2,d3,t1,t2,t3は、3つの運動方程式(10),(11),(12)と、距離と時間の2つの式(13),(14)、消費エネルギ等価式(15)を用いることによって解決できる。
【数9】
【0061】
第1および第2パラメータ推定部62、63によって推定された、対象EVの未知のパラメータの推定値は、パラメータ格納部64に格納される。
【0062】
対象EVのパラメータの未知の値の推定後、次に行うことは、次のルート区間における対象EVの速度を推定することである。EV速度推定部71は、次のルート区間における対象EVの速度を予測する。
【0063】
図10にEV速度推定部71により行われる処理の各ステップの流れを示す。本処理はたとえば現在走行しているルート区間の終端で行う。
【0064】
まず、次のルート区間において加速/減速を行う時間の長さである加速/減速時間taを得る(ステップS711)。加速/減速時間taの取得方法として、運転者の運転パターンが利用できる。たとえば、当該運転者の、過去に走行済みの複数のルート区間(加速/減速走行ルート区間)での加速/減速時間の平均をとる。これにより、当該運転者の運転パターンとして、加速/減速時間taが得られる。
【0065】
次に、対象EVの現在の速度v1を得る(S712)。たとえば現在走行しているルート区間の終了端での速度を、現在の速度v1として得る。この速度v1は、次のルート区間の始点の速度として用いることができる。
【0066】
次の走行ルート区間に対して、過去に走行した各ルート区間との類似度f1をそれぞれ計算し、最も良い類似度のルート区間を抽出する(S713)。類似度は適合度とも言うことができる。与えられた2つのルート区間の類似度の計算には、各ルート区間の傾斜と距離と、第2グループの参照EVの平均速度と平均走行時間を用いることができる(第1グループの参照EVも存在するが、これについては後述する)。第2グループの参照EVは、次の走行ルート区間を既に走行したEVである。これらのEVの走行情報は、他EV走行データ格納部4に格納されている。なお、類似度は正規化されてもよい。
【0067】
まず、これらのパラメータ(傾斜、距離、平均速度、平均走行時間)のそれぞれの値が正規化される。次に、2つのルート区間の類似度f1が以下のように計算される。
【数10】
【0068】
ここでθ
r1 と θ
r2は過去の走行ルート区間と次の走行ルート区間の傾斜である。
d
r1 と d
r2 は 過去の走行ルート区間と次の走行ルート区間のそれぞれの距離である。
v
r1 とt
r1は、過去の走行ルート区間における対象EVの平均走行速度および平均走行時間である。
v
r2とt
r2は、次の走行ルート区間における(第2グループの参照EVからの)参照EVの平均速度および平均走行時間である。
【0069】
類似度f1を用いて、対象EVの過去に走行したルート区間の中から最もよい(たとえばf1の値が最も小さい)ルート区間を選択する。f1を算出する過去の走行ルート区間の個数は、一定数でもよいし、
図2のデータに記録されている過去に走行したすべての走行ルート区間でもよい。一定数の走行ルート区間を選択する方法は、任意の方法でよい。たとえば現在走行しているルート区間から遡って当該一定数のルート区間を選択してもよいし、ランダムに当該一定数のルート区間を選択してもよい。
【0070】
次に、第1グループの参照EVとの類似度(適合度)f2を計算し、最も良い類似度の参照EVを選択する(S714)。本ステップは、以下の2つのステップを含む。第1グループの参照EVは、対象EVと同じ過去の走行ルート区間を走行した他のEVである。第1グループと第2グループとに同じEVが属することも当然にあり得る。
【0071】
第1ステップでは、過去の走行ルート区間において対象EVと類似するエネルギ消費データおよび速度、および類似する仕様をもつEVを、類似度fiに基づき、第1グループの参照EVの中から見つける。第1グループから見つけた参照EVを、第1グループの適合EVと定義する。
【0072】
対象EVと(第1グループの参照EVからの)参照EVの類似度fiを計算するために、エネルギ消費データ、速度、推定されたパラメータ、EVの抵抗係数やフロント面積といった多数のEVパラメータが用いられる。類似度fiが一定値以下の参照EVを第1グループの適合EVとして選択してもよいし、類似度fiが小さい順に所定数の参照EVを第1グループの適合EVとして選択してもよい。
【数11】
【0073】
ここでqは過去の走行ルート区間の個数である。
n は、EVパラメータの個数である。
E
tjとE
ij は、過去の走行ルート区間jにおける対象EVと参照EVの消費エネルギである。
v
tjとv
ij は過去の走行ルート区間jにおける対象EVと参照EVの平均速度である。
x
tkとx
ik は、EVパラメータkである。EVパラメータとして、たとえば対象EVおよび参照EVの重量のようなものが挙げられる。
【0074】
これらのすべての項目を用いることなく、一部の項目を用いてfiを計算してもよい。たとえばE
tjとE
ij と、v
tjとv
ijを用い、x
tkとx
ikを用いずに、fiを計算することも可能である。
【0075】
第2ステップでは、第1グループの適合EVについて、次の走行ルート区間における環境データと他のEV(第2グループの参照EV)の速度とを利用して、類似度f2を計算する。類似度f2に基づき、第1グループの適合EVの中から、最も良く適合するEVを、見つける。
【数12】
【0076】
T
c と T
p は、次の走行ルート区間の現在の気温(環境情報格納部5に記憶されている最新の気温)、および第1グループの該当適合EVが次の走行ルート区間を走行したときの過去の気温である。
X
c と X
p は、次の走行ルート区間の現在の湿度(環境情報格納部5に記憶されている最新の湿度)、および第1グループの該当適合EVが当該次の走行ルート区間を走行したときの過去の湿度である。
v
g1 と v
g2 は、第1グループの該当適合EVの速度(たとえば開始端速度と終了端速度の平均速度でもよい)、次の走行ルート区間における第2グループの参照EVの平均速度(たとえば個々の参照EVの開始端速度と終了端速度の平均値を参照EV間で平均した値でもよい)である。当該第2グループの参照EVには、第1グループに属する当該適合EVが含まれて良い。
【0077】
なお、本実施形態では類似度fiにより選択した適合EVから、さらに類似度f2により最も適合するEVを選択したが、別の方法として以下の方法を採用してもよい。この方法では、類似度fiに基づき、最も適合する1台のEVを選択する。類似度f2の計算は省略してよい。この場合、以降の処理では、類似度f2の代わりに、類似度fiを用いればよい。
【0078】
以下では、類似度f2を用いて最も適合するEVを第1グループの適合EVから選択した場合を想定して、説明を続ける。
【0079】
次に、最も良く適合する参照EVの類似度f2が、対象EVの最も良く適合する走行ルート区間の類似度f1よりも大きいかを判断する(S715)。類似度f2が類似度f1よりも大きいならば、次の走行ルート区間において最も良く適合する参照EVの両端ポイントの走行速度(v3、v4)を選択する(S716)。一方、類似度f2がf1以下であれば、最も良く適合する走行ルート区間を対象EVが走行したときの当該走行ルート区間の両端ポイントの走行速度(v3、v4)を選択する(S717)。
【0080】
次に、加速度(加速/減速率)が、a=(v4-v3)/t
aにより、計算される(S718)。t
aは、S711で計算した加速時間/減速時間(加減速時間)である。なお、v3,v4が同じ、またはv3,v4の差が一定値以下のときは、次の走行ルート区間は、速度v3、または速度v4、または速度(v3+v4)/2の定速度とみなして、消費エネルギ推定を行っても良い(この場合、以降のステップS719〜S723は省略し、後述する消費エネルギ推定処理に進めばよい)。
【0081】
次の速度v2(すなわち次の走行ルート区間での加速/減速後の速度)が、加速度aおよび加速時間t
aを用いて、v2=v1+a *t
aにより、計算される(S719)。なお、ここでは、次の走行ルート区間の開始端の速度は、現在の走行ルート区間の終端速度であるとして扱う。
【0082】
次に、次の走行ルート区間の走行時間が決定される。もし、時間t内に次の走行ルート区間の終端に到着するとの時間制約がある場合は(S720のYES)、その時間が用いられる(S721)。そのような時間制約がない場合は(S720のNO)、上記適合するデータに基づいて、走行時間が計算される(S722)。
【0083】
たとえば、ステップS715で最も良く適合する参照EVの類似度f2が、最も良く適合するルート区間の類似度f1より良ければ、最も良く適合する参照EVが次のルート区間の走行に要した走行時間が、次のルート区間の対象EVの期待走行時間として用いることができる。
【0084】
一方、類似度f1が類似度f2より良ければ、走行時間は、距離データを用いて、t=t
m*d/d
mにより計算される。t
mとd
mは、対象EVが過去に走行した最も良く適合する走行ルート区間の走行時間と距離である。
【0085】
最後に、次の走行ルート区間について、加速時間ta、走行時間t、加速度a、開始端速度v1、終了端速度(加速/減速後の速度)v2が返される(S723)。次の走行ルート区間の距離dが与えられ、かつ、対象EVが時間t内に当該ルート区間を走行するとの時間制約が存在するならば、d
jとt
jの6個の未知のパラメータ(
図9参照)が、式 (10)〜(14)の連立方程式を解くことで計算できる。より正確には、t2=taであるとし、d1,d2,d3,t1,t3(
図9参照)の未知のパラメータを求める。
【0086】
ステップS723の後、第1消費エネルギ推定部72は、推定されたパラメータの値と、推定された速度と、式(3)−(6)を用いて、次の走行ルート区間における対象EVの走行に関わる消費エネルギを推定する。
【0087】
第2消費エネルギ推定部73は、推定されたパラメータと、環境データと、式(1)または(2)と、式(7)とを用いて、対象EVの電気機器(空調・補助機器)に関連する消費エネルギを推定する。当該消費エネルギは、E
ele=E
AC+E
auxにより与えられる。
【0088】
第2消費エネルギ推定部73は、当該消費エネルギE
eleと、第1消費エネルギ推定部72が推定した消費エネルギを合計することで、次の走行ルート区間で消費する総消費エネルギを計算する。本推定部73は、計算した総消費エネルギを外部に出力する。総消費エネルギのデータを、予め指定された装置に送信してもよいし、表示装置に表示してもよい。
【0089】
図11は、
図1に示す消費エネルギ推定装置が、対象EVの消費エネルギを推定する動作例を示す。
【0090】
対象EVは、既にルート区間A、B、C、D、E、F、G、H(第1ルート区間)を走行し、次にルート区間I、J(第2ルート区間)をこの順で走行する。対象EVは、ルート区間Hとルート区間Iの境界に位置する。
【0091】
過去に走行したルート区間(A-H)において、対象EVは、ルート区間A, B, C, E, G, H では定速度走行を行い、一方、ルート区間D、Fでは加速/減速を含む走行を行った。6個のルート区間A, B, C, E, G, Hのエネルギ消費データを用いて、対象EVの6個の未知のパラメータm, Y, P
aux, C
R, η
1, η
2が推定される。
【0092】
次に、ルート区間D,Fのエネルギ消費データを用いて、これら2つのルート区間のパラメータd
jとt
j(
図9参照)が計算される。対象EVのすべての未知のパラメータの値が求まると、次の処理は、今後走行するルート区間I,Jにおけるエネルギ消費を予測することである。
【0093】
本例では、対象EVの加速/減速時間t
aが、過去のルート区間D、Fにおける加速/減速時間の平均を取ることによって計算される。ここで、次に走行するルート区間Iが過去のルート区間Dと最も良く適合する類似度を持っていると想定する。過去の走行ルート区間Dにおける対象EVの速度(v
3, v
4)と加速時間t
aを用いて、加速度aが
図10のステップS718で計算される。
【0094】
走行ルート区間Hの終端での速度v
1と、加速時間t
aと、加速度aを用いて、ルート区間Iの終端における次の速度v
2が推定される(
図10のステップS719)。
【0095】
もし、次の走行ルート区間Iの距離dが与えられ、かつ、対象EVが時間t内にルート区間Iを走行するとの時間制約が存在するならば、d
jとt
jの6個の未知のパラメータ(
図9参照)が式 (10)〜(14)の連立方程式を解くことで計算できる。より正確には、t2=taであるとし、d1,d2,d3,t1,t3(
図9参照)の未知のパラメータを求める。
【0096】
ルート区間Iの気温と対象EVの内気温の差と、ルート区間Iの湿度と対象EVの内湿度の差とを用いて、対象EVのエアコンまたはクーラーによる消費エネルギが、式(1)または(2)を用いて、推定される。
【0097】
式(8)または式(9)とともに、式(15)を用いて、次に走行するルート区間Iに対する全消費エネルギが推定される。以上と同様にして、次の走行ルート区間Jに対する消費エネルギが推定される。次の走行ルート区間に対する消費エネルギは、ルート区間Iでの推定結果を利用して求めてもよい。このとき対象EVの車内の温度および湿度は、現在と同じ値を用いればよい。
【0098】
(第2の実施形態)
図12に示される第2の実施形態では、他の参照EVの消費エネルギを用いて、対象EVの消費エネルギが推定される。
【0099】
まず、対象EVと参照EV(第1グループの参照EV)の未知のパラメータの値が、消費エネルギ関係データ格納部1,ルート情報格納部2,EV仕様情報格納部3、他EV走行データ4、分類部61、第1パラメータ推定部62、第2パラメータ推定部63を用いて、計算される。他EV走行データ4には、消費エネルギ関係データ格納部1と同様に、外気温と、外湿度と、エアコンの設定温度(EV内気温)と、EV内の湿度といったデータも格納されているとする。
【0100】
次に、第1抽出部81が、類似度(f1)を用いて、第1グループの参照EVから、第1グループの適合EVを抽出する。適合EVは、過去の走行ルート区間において対象EVとエネルギ消費および速度に関し類似のパターンを有し、対象EVと類似の仕様を有する。第1グループの適合EVを選択するために、式(17)を用いて計算される類似度が用いることができる。
【0101】
次に、第2抽出部82が、他のEV(第2グループの参照EV)の走行データおよび環境データにおける類似度を用いて、第1グループの適合EVから、第2グループの適合EVを抽出する。この第2グループの適合EVを選択するために、式(18)を用いて計算される類似度f2が用いることができる。たとえば第1グループの適合EVのうち当該類似度が一定値以下の適合EV、または当該類似度が最も小さいものから一定数の適合EVを、第2グループの適合EVとして選択してもよい。別の方法として、式(17)の類似度fiを用いて、同様にして第2グループの適合EVを選択してもよい。
【0102】
消費エネルギ推定部83が、第2グループの適合EVのエネルギ消費データを用いて、対象EVの消費エネルギを推定する。
【0103】
次の走行ルート区間における消費エネルギを計算するために、多数の戦略を用いることができる。
【0104】
1つの戦略として、次の走行ルート区間における第2グループの適合EVの消費エネルギの平均または最大を取ることによって、消費エネルギを推定することができる。
【0106】
外の気温および湿度が分かっているため、まず、式(1)または式(2)を用いて、対象EVおよび第2グループの適合EVのそれぞれのエアコンまたはクーラーによるエネルギ消費を計算する。
【0107】
次に、第2グループの適合EVのそれぞれについて、全体のエネルギ消費からエアコンまたはクーラーによるエネルギ消費を減算することによって、EVの他のコンポーネント(エアコンまたはクーラー以外のコンポーネント)による残りのエネルギ消費を計算する。そして、第2グループの適合EV間で当該残りのエネルギ消費の平均を取る。
【0108】
最後に、対象EVのエアコンまたはクーラーによるエネルギ消費と、第2グループの適合EVの上記残りのエネルギ消費の平均とを、総和することによって、対象EVの全体エネルギ消費を計算する。
【0109】
以上のように、第1および第2実施形態によれば、対象EVの特性およびドライバの運転パターン(たとえば加減速の運転パターン)を考慮して、次の走行ルート区間における対象EVの消費エネルギ推定を、高い精度で行うことができる。