(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を図に基づき説明する。なお、以下の説明では、同一の部材には同一の符号を付し、一度説明した部材については適宜その説明を省略する。
また、以下の説明において、n
+、n、n
−及びp
+、p、p
−の表記は、各導電形における不純物濃度の相対的な高低を表す。すなわち、n
+はnよりもn形の不純物濃度が相対的に高く、n
−はnよりもn形の不純物濃度が相対的に低いことを示す。また、p
+はpよりもp形の不純物濃度が相対的に高く、p
−はpよりもp形の不純物濃度が相対的に低いことを示す。
【0009】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る半導体装置の構成を例示する模式的断面図である。
図1に表した第1の実施形態に係る半導体装置110は、基板200と、第1半導体領域202と、第2半導体領域210と、第3半導体領域230と、第4半導体領域220と、第1電極240と、第2電極262と、制御電極260と、絶縁膜250と、を備える。
【0010】
半導体装置110において、基板200、第1半導体領域202、第2半導体領域210、第3半導体領域230及び第4半導体領域220は、SiC(炭化珪素)を含む。半導体装置110は、例えば、DiMOSFET(Double Implanted Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)である。
【0011】
基板200は、n形(n
+)の例えばSiC基板である。第1半導体領域202は、基板200の上に形成されたn形(n
−)のSiC半導体層である。第1半導体領域202は、DiMOSFETの例えば耐圧保持層である。
【0012】
第2半導体領域210は、第1半導体領域202の一部の上に設けられる。第2半導体領域210は、p形(p
−)のSiC半導体層である。第2半導体領域210は、DiMOSFETの例えばベース領域である。
【0013】
第3半導体領域230は、第2半導体領域210の一部の上に設けられる。第3半導体領域230は、n形(n
+)のSiC半導体層である。第3半導体領域230は、DiMOSFETの例えばソース領域である。
【0014】
第4半導体領域220は、第2半導体領域210の一部の上に設けられる。第4半導体領域220は、第3半導体領域230と並置される。第4半導体領域220は、p形(p
+)のSiC半導体層である。第4半導体領域220は、第2半導体領域210(ベース領域)とのコンタクト領域である。
【0015】
本実施形態では、基板200と第1半導体領域202とを結ぶ方向をZ方向(第1方向)、Z方向に直交する方向の1つをX方向(第2方向)、Z方向及びX方向に直交する方向をY方向(第3方向)ということにする。
【0016】
半導体装置110では、第1半導体領域202、第2半導体領域210、第3半導体領域230及び第4半導体領域220によって構造体100が構成される。
【0017】
構造体100は、第1面100aを有する。第1面100aは、構造体100の基板200とは反対側の面である。構造体100は、X方向に第1半導体領域202、第2半導体領域210及び第3半導体領域230がこの順に並ぶ部分を有する。構造体100は、Z方向に第1半導体領域202、第2半導体領域210及び第3半導体領域230がこの順に並ぶ部分を有する。
【0018】
第1半導体領域202、第2半導体領域210及び第3半導体領域230は、この順にZ方向に積層される。第1半導体領域202の一部は第1面100aに露出する。第2半導体領域210の一部は第1面100aに露出する。第3半導体領域230の一部は第1面100aに露出する。構造体100の第1面100a側においては、第1半導体領域202の一部、第2半導体領域210の一部及び第3半導体領域230の一部がX方向に並ぶ。第2半導体領域210の一部は、第1半導体領域202の一部と、第3半導体領域230の一部と、の間に設けられる。
【0019】
構造体100を製造する際には、第1半導体領域202の表面側の一部に第2半導体領域210が形成され、第2半導体領域210の表面側の一部に第3半導体領域230が形成される。
【0020】
第1面100a側において第1半導体領域202の一部と、第3半導体領域230の一部との間に設けられた第2半導体領域210の一部は、DiMOSFETのチャネルとして機能する部分になる。
【0021】
第1電極240は、第3半導体領域230及び第4半導体領域220と接する。第1電極240は、導電性材料を含む。第1電極240は、DiMOSFETの例えばソース電極である。
【0022】
第2電極262は、基板200の下面に接する。第2電極262は、導電性材料を含む。第2電極262は、DiMOSFETの例えばドレイン電極である。第2電極262は、基板200とオーミック接続される。
【0023】
半導体装置110の構成のうち、第4半導体領域220は、例えば第1半導体部であり、第3半導体領域230は、例えば第2半導体部である。第4半導体領域220は、第2半導体部でもよい。第3半導体領域230は、第1半導体部でもよい。本実施形態では、第4半導体領域220を第1半導体部、第3半導体領域230を第2半導体部として説明する。
【0024】
絶縁膜250は、構造体100の第1面100aの上に設けられる。絶縁膜250は、DiMOSFETのゲート絶縁膜として機能する。絶縁膜250は、第1面100aに沿って設けられる。絶縁膜250、第1半導体領域202、第2半導体領域210及び第3半導体領域230の上に設けられる。
【0025】
制御電極260は、絶縁膜250の上に設けられる。制御電極260は、DiMOSFETのゲート電極として機能する。
【0026】
半導体装置110において、第4半導体領域220にはp形の不純物である元素が含有される。p形の不純物の元素としては、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)及びゲルマニウム(Ga)のうちの少なくとも1つである。第4半導体領域220において、p形の不純物の元素の面密度が極大となる部分は、第4半導体領域220と第1電極240との界面225から第4半導体領域220の深さ(Z方向の距離)1ナノメートル(nm)までの範囲に存在する。通常であれば、不純物は界面に集まることはない。後に示すように、特殊な作り方をすることで、不純物が通常とは逆のサイトに導入され、ピン止め状態を発現する。これにより、不純物は金属との相互作用によって界面に集まる。ここで、逆のサイトとは、通常Si位置に入る不純物(B、Al、Ga)がCサイトに入ることを意味している。例えば、界面のXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)測定を行うと、通常はAl−Cボンドがほとんどであり、Al−Siボンドは見えない。それに対し、本実施形態の構成では、Al−Siボンドが観測される。
【0027】
このような半導体装置110では、第4半導体領域220と第1電極240との間で低いコンタクト抵抗が得られる。
【0028】
半導体装置110において、第3半導体領域230にはn形の不純物である元素が含有される。n形の不純物の元素としては、窒素(N)、燐(P)及び砒素(As)のうちの少なくとも1つである。第3半導体領域230において、n形の不純物の元素の面密度が極大となる部分は、第3半導体領域230と第1電極240との界面225から第3半導体領域230の深さ(Z方向の距離)1nmまでの範囲(第1界面部)に存在する。通常であれば、不純物は界面に集まることはない。後に示すように、特殊な作り方をすることで、不純物が通常とは逆のサイトに導入され、ピン止め状態を発現する。これにより、不純物は金属との相互作用によって界面に集まる。ここで、逆のサイトとは、通常Si位置に入る不純物(P、As)がCサイトに入ることを意味している。または、通常C位置に入る不純物(N)がSiサイトに入ることを意味している。例えば、界面のXPS測定を行うと、通常はP−Cボンドがほとんどであり、P−Siボンドは見えない。それに対し、本実施形態の構成では、P−Siボンドが観測されることとなる。また、通常はN−Siボンドがほとんどであり、N−Cボンドは見えない。それに対し、本実施形態の構成では、N−Cボンドが観測される。
【0029】
このような半導体装置110では、第3半導体領域230と第1電極240との間で低いコンタクト抵抗が得られる。したがって、半導体装置110において、第1電極240は、第4半導体領域220及び第3半導体領域230の両方に対して低いコンタクト抵抗で形成される。
【0030】
第2電極262と接する基板200には、n形の不純物である元素が含有される。n形の不純物の元素としては、N、P及びAsのうちの少なくとも1つである。基板200において、n形の不純物の元素の面密度が極大となる部分は、基板200と第2電極262との界面205から基板200の深さ(Z方向の距離)1nmまでの範囲に存在する。通常であれば、不純物は界面に集まることはない。後に示すように、特殊な作り方をすることで、不純物が通常とは逆のサイトに導入され、ピン止め状態を発現する。これにより、不純物は金属との相互作用により界面に集まる。この点は、第3半導体領域230と第1電極240との界面225に不純物が集まることと同様である。
【0031】
このような半導体装置110では、第2電極262と基板200との間で低いコンタクト抵抗が得られる。
【0032】
ここで、半導体装置110において、SiCを含む半導体部と電極との間で低いコンタクト抵抗を得られる原理等について説明する。
上記のような半導体装置110において、各部のパターンの微細化が進むと、半導体装置110内の第3半導体領域230及び第4半導体領域220の両方に、単一の金属材料にてオーミック接続した電極を形成することが望ましい。
【0033】
一般に、第1電極240として同じ金属材料を用いてn形の第3半導体領域230とp形の第4半導体領域220の上に第1電極240を形成した場合、n形のSiCである第3半導体領域230ではオン抵抗が大きくなり、p形のSiCである第4半導体領域220では実効的に抵抗とキャパシタが形成されることになる。このため、スイッチング速度に問題が生じる。
【0034】
さらに、合わせ精度の制約やプロセスの簡略化の点から、同一製造工程によって低いコンタクト抵抗の電極を形成する技術が必要になる。つまり、同じ材料の電極によって、n形の第3半導体領域230とp形の第4半導体領域220との両方に、低抵抗なコンタクト電極を形成する技術が必要である。
【0035】
この点に関し、大きなn形のSiC領域へのコンタクトに関しては、高温プロセスでの界面反応層を用いることで、良好なコンタクト抵抗を得る。しかし、p形のSiC領域へのコンタクトに関しては、大きな領域であっても十分に低いコンタクト抵抗を得ることは困難である。それは、SiCという材料の材料特性に由来するものである。この材料が大きなバンドギャップを有しているからである。
【0036】
すなわち、n形のSiC領域に低抵抗でコンタクトする電極については、p形のSiC領域との障壁がバンドギャップ程度の大きさになる。したがって、特にSiよりもバンドギャップの広い半導体(ワイドギャップ半導体)において、p形のSiC領域と電極との間で低いコンタクト抵抗を得ることは困難である。
【0037】
p形のSiC領域へのコンタクト抵抗が大きいと、素子駆動時のRC時定数が大きくなるため、動作スピードの遅延を招く。また、p形のSiC領域に大量の電流が流れる素子(例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor))の場合は、大きな損失が発生する。
【0038】
特に、n形のSiC領域とp形のSiC領域とが隣接した構造において、同一の電位に保つ必要がある構造では、構造上npnバイポーラトランジスタが埋め込まれる。このバイポーラトランジスタの動作を制御するために、n形のSiC領域からp形のSiC領域へのキャリアの注入が起こらないようにしている。
【0039】
高濃度でのイオン打ち込み(p
+の作製、及び、n
+の作製)、犠牲酸化膜形成、高温での電極形成の各プロセスにおいて、SiC基板には、C欠陥が大量に発生する。
【0040】
本願発明者が行った電子状態計算手法である第一原理計算によると、Siの欠陥の生成には、放出するSiがSiバルクになるとした時を基準にすると、7〜8eVのエネルギーが必要である。SiC基板表面近傍でも、Si欠陥の生成には、およそ5eVのエネルギーが必要である。
【0041】
これに対し、C欠陥は、放出するCがCバルクになるとした時を基準にすると、およそ4eVのエネルギーで出現する。さらに、SiC基板表面では、0.75〜2eVという低いエネルギーでC欠陥が出現する。上記のプロセスにおいてC欠陥が大量に発生するのは、そもそも、SiCの基板表面、SiC領域と絶縁膜(例えば、SiO
2)との界面、SiC領域と金属との界面において、C欠陥が発生しやすいからである。
【0042】
ここで、第一原理計算は、局所密度近似による密度汎関数法に基づき、Siはノルム保存擬ポテンシャル、CなどSi以外の物質は、バンダービルトらによって開発された、ウルトラソフト擬ポテンシャルを用いて行った。
【0043】
図2は、状態密度を例示する図である。
図2において縦軸は状態密度(DOS:Density of states)を表している。
図2に表したように、C欠陥ができると、ギャップ中状態(in-gap state)の出現や伝導帯エッジのバンド構造の変化が発生し、局所的な抵抗変化領域ができることになる。つまり、C欠陥は、電流の面内不均一をもたらす。
【0044】
デバイス特性の向上には、面内抵抗(バルク抵抗及び接触抵抗)が均一なセルを作ることが重要である。C欠陥が発生したままでは、局所的な破壊が発生して、十分に長い寿命を得ることができないデバイスになる。そこで、何らかの方法で、界面近傍のC欠陥の低減を図ることが必要である。
【0045】
そこで、SiCの基板中でのC欠陥の電子状態について考察するために、4H構造SiC(以下、「4H−SiC」と言う。)の中でのC欠陥の電子状態を第一原理計算により求めた。
図2には、4H−SiCの中でのC欠陥の状態密度が表されている。
【0046】
SiCの基板中にC欠陥ができると、C欠陥の周囲にある4つのSiがそれぞれ一つのダングリングボンドを持つことになる。Siのダングリングボンドは、SiCのバンドギャップの中間付近に状態を持っている。このため、C欠陥の周囲にある4つのSiが持つダングリングボンドが相互作用をすると、結合状態、反結合状態に分裂した状態をギャップ中に作る。
【0047】
ところが、SiCは構造によって、伝導帯、価電子帯のエネルギー位置が変わってくる。それ故に、Siが持つダングリングボンドの相互作用によって発生する、結合状態、反結合状態の、ギャップ中での位置関係は、SiCの構造に依存することになる。
【0048】
図2に表したように、4H構造では、伝導帯直下に反結合状態が発生している。この状態には、電子がトラップされるので、移動度を低下させる源となる。
【0049】
ここで、ドーパントの導入位置と活性化について説明する。
この第一原理計算により、p形ドーパントであるB、Al及びGa、n形ドーパントであるN、P及びAsを種々のサイトに導入した場合の電子状態について、計算を行った。
【0050】
簡単にまとめると、p形ドーパントであるB、Al及びGa、n形ドーパントであるP及びAsでは、Siサイトに入ると広がった状態を形成しドーパントとして機能する。また、n形ドーパントであるNだけは、Cサイトに入ると広がった状態を形成しドーパントとして機能する。つまり、通常の最安定構造では、それぞれドーパントとして機能している。
【0051】
しかし、本願発明者は、置換元素をドーパントとして機能する通常のサイトとは反対のサイトに導入した場合、p形ドーパントでは価電子帯直上に、n形ドーパントでは伝導帯直下に、それぞれ局在した状態を形成することを新たに見出した。
【0052】
つまり、p形ドーパントであるB、Al及びGa、n形ドーパントであるP及びAsでは、Cサイトに入ると局在状態を形成しドーパントとして機能しなくなる。また、n形ドーパントであるNでは、Siサイトに入ると局在状態を形成しドーパントとして機能しなくなる。つまり、ドーパントとして機能する通常のサイトとは反対のサイトに元素を置換する形で導入した場合、局在状態を形成し、ドーパントとしては機能しない。
【0053】
ここで、ドーパントとSiとを共ドープすれば、Cサイトにドーパントを導入することが可能となる。一方、ドーパントとCとを共ドープすれば、Siサイトにドーパントを導入することが可能となる。このことを利用して、ドーパントの状態を、局在状態にするか、広がった状態にするかの選択が行われる。
【0054】
局在状態を用いると、電極金属とSiC領域との間で電子のやり取りをすることが可能になる。その結果、電極金属のエネルギー位置を、SiC半導体ギャップのバンド端に固定(以下、「ピン止め」と言う。)することができる。
【0055】
n形のSiCでは、局在状態から電子が放出され、電極金属の実効仕事関数が浅くなる。こうして、伝導帯の端位置に電極金属のエネルギーがピン止めされ、n形のSiCと電極金属との間に低接触抵抗が実現される。
【0056】
p形のSiCでは、n形のSiCとは逆に、電極金属側から電子が局在状態に移動して、電極金属の実効仕事関数が深くなる。こうして、価電子帯の端位置に電極金属のエネルギーがピン止めされ、p形のSiCと電極金属との間に低接触抵抗が実現される。
【0057】
ここで、SiC領域の上に電極の金属が存在する状態でアニールを行うと、SiC領域と電極との界面近傍に局在状態が集まってくる。SiC領域の上に電極の金属があると、電子移動のエネルギー利得があるため、局在状態が、電極の金属と電子のやり取りができるように界面に集まってくる。しかし、SiC領域の上に電極の金属がない状態でアニールを行っても、電子移動のエネルギー利得がないので、SiC表面に局在状態が集まってくることはない。つまり、電極形成後に、アニールすることが重要である。このアニールは、電極形成アニールを兼ねてもよい。また、通常は、局在状態が無いので、電極形成後にアニールを行っても、不純物が界面に集まることはない。
【0058】
次に、C欠陥生成の機構について説明する。
SiC基板の表面の近傍での欠陥発生の機構を解明するために、SiC基板の表面での欠陥の生成エネルギーを第一原理計算により求めた。SiC基板のC面の最表面のC欠陥生成に必要なエネルギーは0.75eV、SiC基板のSi面の最表面のSi欠陥生成に必要なエネルギーは4.6eVである。水素終端のとれたSiC基板の最表面の元素は、ダングリングボンドを有している。したがって、最表面の元素は高いエネルギー状態にあり、簡単に離脱して欠陥を発生させることが分かる。
【0059】
次に、SiC基板中での欠陥の生成エネルギーを第一原理計算により求めた。C欠陥生成に必要なエネルギーは4.0eV、Si欠陥生成に必要なエネルギーは7.5eVである。したがって、SiC基板では、C欠陥が最も発生しやすいことが分かる。
【0060】
金属とSiC基板との界面の近傍、及び絶縁膜(SiO
2)とSiC基板との界面の近傍では、内部元素(C及びSi)と表面にできた欠陥とが入れ替わりながら欠陥がSiC基板内に拡散していくことになる。このようにして、金属とSiC基板との界面の近傍、及び絶縁膜(SiO
2)とSiC基板との界面の近傍のSiC基板中には、多くの欠陥が発生することが分かる。
【0061】
上記C欠陥、及びSi欠陥の生成エネルギーから分かるように、イオン打ち込みにより、ドーパントなどを導入すると、C欠陥が大量に発生する。いずれにしても、通常のMOSFET作製プロセスを経るだけで、少なくともC欠陥は10
17/cm
3以上できる。多くの場合、C欠陥は10
18/cm
3以上できると考えてよい。
【0062】
このようにして、金属とSiC基板との界面の近傍、及び絶縁膜(SiO
2)とSiC基板との界面の近傍には、多くの界面C欠陥が発生し、4H−SiC基板を用いたMOSFETでは電極を通過する電流に変動をもたらす。
【0063】
エピタキシャル成長によるSiC基板では、10
13/cm
3程度のC欠陥しか発生しない。一方、このSiC基板にドーパントなどのイオンを打ち込むと、C欠陥が急激に増える。低ドーズであっても、C欠陥は×10
17/cm
3に達する。つまり、高ドーズにすると、C欠陥は簡単に10
18/cm
3に達することになる。
【0064】
また、4H−SiC基板を用いたMOSFETでは、1×10
18/cm
3以上の界面状態が報告されている。SiC基板内のC欠陥は、電子を最大4つ出し入れする能力がある。したがって、C欠陥量にして、2.5×10
17/cm
3以上に相当する。例えば、8.9×10
16/cm
3(面密度2×10
11/cm
2換算)以上、8.9×10
19/cm
3(面密度2×10
13/cm
2換算)以下程度に分布している。これは、C欠陥量にして、2.2×10
16/cm
3以上、2.3×10
19/cm
3以下に相当する。ただし、最大値としては、上記の8.9×10
19/cm
3以下と考えておくべきである。これは、絶縁膜(SiO
2)の成膜にも依存している。絶縁膜(SiO
2)の成膜、絶縁膜(SiO
2)の剥離、電極金属成膜(Ni、Ti、Alなど)によっても、同様にC欠陥が生成される。
【0065】
以上のことから、C欠陥量は、2.2×10
16/cm
3以上、8.9×10
19/cm
3以下である。より良いプロセスでは、C欠陥量は、2.2×10
16/cm
3以上、2.3×10
19/cm
3以下に抑制される。
【0066】
本実施形態では、ドーパント(p形のB、Al、Ga、或いは、n形のP、As)とSiとの共ドープによって、SiC基板のCサイトをドーパントにて埋める。このとき、C欠陥の多くを埋めることができ、エピタキシャル成長によって成膜したSiCと遜色の無いほどに、C欠陥量が抑制される。これらのドーパントは、通常のSiサイトには入らず、Cサイトに入っており、局在状態を形成して界面に集まり、ピン止めサイトとなる。
【0067】
また、Nの場合には、Cとの共ドープを行う。共ドープしたCはC欠陥を埋めてくれるので、やはり、エピタキシャル成長によって成膜したSiCと遜色の無いほどに、C欠陥量が抑制される。いずれにしても、本実施形態では、C欠陥量は十分に抑制される。
【0068】
以上の検討の結果、p形のSiCの半導体部と、導電性材料を用いた電極とを接続した半導体装置において、電極とこれに接続されたp形のSiCの半導体部との界面部において、p形のドーパント(B、Al及びGaの少なくともいずれか)の面密度が極大値になるようにすることによって、p形のSiCの半導体部と、金属の電極との低いコンタクト抵抗が得られる。ここで、半導体部と電極との界面部は、半導体部と電極との界面から半導体部の深さ1nm程度の範囲のことである。なお、界面部は、半導体部の一部であっても、半導体部と電極との間に設けられた構成であってもよい。
【0069】
また、n形のSiCの半導体部と、導電性材料を用いた電極とを接続した半導体装置において、電極とこれに接続されたn形のSiCの半導体部との界面部において、n形のドーパント(N、P及びAsの少なくともいずれか)の面密度が極大値になるようにすることによって、n形のSiCの半導体部と、金属の電極との間で低いコンタクト抵抗が得られる。なお、上記説明したp形のドーパント及びn形のドーパントについては、どのような材料の組合せであってもよい。
【0070】
また、一つ(同じ材料)の電極にて、n形のSiCの半導体部と、p形のSiCの半導体部と、金属との低抵抗コンタクトが可能となる。また、p形のSiCとの接触、及びn形のSiCとの接触では、界面におけるピン止めを用いるため、接触する金属の材料の依存性は極めて小さい。したがって、一般的に用いられている電極の材料(TiN、W、ポリシリコン、Niなど)を用いることが可能になる。
【0071】
さらに、金属とSiCとの界面を通る電流の面内分布が均一化するので、デバイスセル間の電流分布が抑制され、デバイスとしての信頼性が向上する。つまり、局所的に大電流が流れ、破壊するモードが抑制される。
【0072】
すなわち、本実施形態に係る半導体装置110は、導電性材料を用いた電極(例えば、第1電極240)と、この電極に接続され、p形の不純物としてB、Al及びGaのうち少なくとも1つを含有するSiCを有する半導体部(例えば、第4半導体領域220)と、を備える。そして、この半導体部において不純物の面密度が極大となる部分が、電極と半導体部との界面部(界面225から半導体部の深さ1nm程度の範囲(第2界面部))にある。
【0073】
また、本実施形態に係る半導体装置110は、導電性材料を用いた電極(例えば、第1電極240、第2電極262)と、この電極に接続され、n形の不純物としてN、P及びAsのうち少なくとも1つを含有するSiCを有する半導体部(例えば、第3半導体領域230、基板200)と、を備える。そして、この半導体部において不純物の面密度が極大となる部分が、電極と半導体部との界面部(界面225から半導体部の深さ1nm程度)の範囲にある。
【0074】
次に、界面の原子の面密度について考察する。
先ず、下限について、詳細に示す。
4H−SiCの最表面の元素の面密度は、2原子(SiとCのペア層)÷ユニットセルの面積=2÷(格子定数a×格子定数a×√3÷2)=2.4×10
15/cm
2程度である。
【0075】
最表面の元素のうち5%以上のドーパントがパイルアップしていれば、確実にピン止めが起こる。ここで、「ピン止め材」の量の下限は、界面での必要な電圧シフト量で決まる。n形では、0.1V程度(4.3eV以上ある金属の仕事関数を、4.2eVよりも小さな実効仕事関数にするため)であり、p形では、1.7eV程度(5.7eV以下しかない金属の仕事関数を、7.4eVよりも大きな実効仕事関数にするため)である。金属とSiC基板界面で構成される、固定分極量によるシフトX(ボルト)は、
X=(電荷)×(面密度)×(分極の長さ)/誘電率
から計算できる。より詳細に説明すると、
X(ボルト)=(電荷)×(面密度)×(分極の長さ)/誘電率
=(電荷2×1.602×10
−19クーロン)×(面密度cm
−2)×
(分極の長さ×10
−8cm)/(比誘電率ε)/[8.854×10
−12(fard
/m)]
=1.81×10
−14(数面密度cm
−2単位)×(分極の長さÅ単位
)/(比誘電率)
となる。ここでSiC基板中のドーパントの電荷は1、数面密度が10
13cm
−2程度、誘電率10である。下限を考えるので、分極の長さは最大値を採用して、10Å程度とする。よって、
X=1.81×10
−14×1×10
13×10/10=0.18(V)
となる。n形では、0.1V程度にしたいので、0.56×10
13cm
−2以上が必要であり、p形では、1.7V程度にしたいので、9.4×10
13cm
−2以上が必要である。これ以下では、必要なシフト量が得られず、抵抗が大きくなってしまう。
【0076】
次に、上限について詳細に示す。
最表面の元素のうち50%のドーパントのパイルアップすると、モノレイヤがドーパントに代わることになる。実質的には、この段階で、多くのCサイト(Nの場合のみSiサイト)がドーパントになっているので、50%(1.22×10
15/cm
2)で十分である。
【0077】
上記の式から、上限を求める。上限を求めるので、分極の長さは最小値を採用して、2Å程度とする。n形では、界面でのシフト量を1.5V以下(5.7eVの仕事関数を、4.2eVよりも小さな実効仕事関数にするため)で十分なので、4.2×10
14cm
−2以下でよい。p形では、3.1eV以下(4.3eVの仕事関数を、7.4eVよりも大きな実効仕事関数にするため)で十分なので、8.7×10
14cm
−2以下でよい。ここで示した上限は、分極の長さを2Å程度として決めたが、10Å程度にまでしてもよい。よって、1/5程度で十分であるとも言える。可能な限り少ない方が良いので、それぞれ、n形では、8.4×10
13cm
−2以下でよい。p形では、1.7×10
14cm
−2以下で十分である。
【0078】
半導体装置110においては、第3半導体領域230の界面部の不純物の元素(N、P及びAsの少なくとも1つ)の面密度は、0.56×10
13cm
−2以上、1.22×10
15cm
−2以下である。好ましくは、0.56×10
13cm
−2以上、4.2×10
14cm
−2以下である。より好ましくは、0.56×10
13cm
−2以上、8.4×10
13cm
−2以下である。この時、バンド端へのピン止めが起こり、n形SiC半導体と電極との低接触抵抗の構造が得られる。
【0079】
半導体装置110では、第4半導体領域220の界面部の不純物の元素(B、Al及びGaの少なくとも1つ)の面密度は、9.4×10
13cm
−2以上、1.22×10
15cm
−2以下である。好ましくは、9.4×10
13cm
−2以上、8.7×10
14cm
−2以下である。より好ましくは、9.4×10
13cm
−2以上、1.7×10
14cm
−2以下である。この時、バンド端へのピン止めが起こり、p形SiC半導体と電極との低接触抵抗の構造が得られる。
【0080】
次に、半導体装置110の具体例について説明する。
図1に表したように、半導体装置110では、第1半導体領域202の表面上の一部に、複数の第2半導体領域210が互いに間隔を隔て設けられる。第2半導体領域210は、第1半導体領域202の表面から内部の途中の深さまで選択的に形成される。
【0081】
1つの半導体装置110には、2つの第2半導体領域210が第1半導体領域202の一部の領域を挟むように配置される。各第2半導体領域210の表面上の一部には、それぞれ第3半導体領域230が設けられる。第3半導体領域230は、第2半導体領域210の表面から内部の途中の深さまで選択的に形成される。
【0082】
そして、各第2半導体領域210の表面上の一部には、第3半導体領域230に隣接して第4半導体領域220がそれぞれ設けられる。このように、複数の第2半導体領域210は、第1半導体領域202の上の少なくとも一部に選択的に形成される。複数の第2半導体領域210は、第3半導体領域230と、第4半導体領域220とに接続する。
【0083】
図1に表した例では、第2半導体領域210の表面上の一部に、互いに隣接した第3半導体領域230と第4半導体領域220とが配置される。そして、1つの半導体装置110においては、2つの第4半導体領域220が、2つの第3半導体領域230を挟むように配置される。
【0084】
言い換えれば、1つの半導体装置110では、第4半導体領域220が、第3半導体領域230の外側に配置される。また、各第2半導体領域210には、それぞれ第3半導体領域230よりも内側に第1半導体領域202と電気的に導通するチャネル領域が形成される。
【0085】
絶縁膜250は、2つの第3半導体領域230のうち一方の表面の一部から他方の表面の一部に跨るように形成される。絶縁膜250には、例えばSiO
2が用いられる。絶縁膜250は、両側の第3半導体領域230の表面の一部、第3半導体領域230及び第4半導体領域220が形成されていない各第2半導体領域210の表面、及び2つの第2半導体領域210の間(チャネル間領域)となる第1半導体領域202の表面に接して形成される。
【0086】
絶縁膜250の上には、制御電極260が形成される。絶縁膜250は、ゲート絶縁膜の一例である。よって、制御電極260は、両側の第3半導体領域230、第3半導体領域230及び第4半導体領域220が形成されていない各第2半導体領域210の部分領域、及び2つの第2半導体領域210の間(チャネル間領域)となる第1半導体領域202に跨るように絶縁膜250を介して形成される。制御電極260はゲート電極である。
【0087】
また、第3半導体領域230表面の他の一部と、第4半導体領域220の表面の上には、第1電極240が形成される。第1電極240はソース電極である。
【0088】
ここで、第4半導体領域220は、B、Al及びGaのうち少なくとも1つの元素(以下、「元素A」と言う。)を含有する。元素Aの面密度が極大となる部分は、第1電極240との界面部に設けられる。第1電極240は、第4半導体領域220にオーミック接続される。第4半導体領域220は、DiMOSFETでは基板200とのコンタクト領域である。
【0089】
第4半導体領域220において、元素Aを界面近傍のCサイトに導入すると、価電子帯の頂上近傍に局在状態が作り込まれる。これを実現するには、界面付近に元素AとSiとを導入し(共注入し)、かつ、金属を接続した後にCサイトに入った元素Aを拡散させること(金属接続後のアニール)、を行う。共注入は、元素AとSiと同時でも良いし、どちらかを先に注入しても良い。本実施形態では、元素Aを注入し、その表面部分のみにSiを後から注入するパターンを基本としている。
【0090】
第4半導体領域220に金属を接続した後では、金属側から、界面局在状態へ電子が移動可能となり、移動により系全体が安定化できるためである。この安定化エネルギーが界面への元素Aのパイルアップの原動力である。
【0091】
ここで、第4半導体領域220に金属が接続されていないと、電子の移動ができない。したがって、元素Aが、表面へ集合することができない。つまり、単に元素Aがあればよいわけではなく、元素Aが局在状態を形成し、かつ、金属と接続しており、かつ、その後に元素Aの拡散アニールを行う。
【0092】
元素Aの拡散のためのアニールは、上記の電子移動による安定化エネルギーがあるので、700℃以下程度の低温プロセスにて行われる。以上から、p形のSiCと電極との界面の低接触抵抗化が実現される。
【0093】
第3半導体領域230は、N、P及びAsのうち少なくとも1つの元素(以下、「元素D」と言う。)を含有する。元素Dの面密度が極大となる部分は、第1電極240との界面部に設けられる。電極240は、第3半導体領域230にオーミック接続される。第3半導体領域230は、DiMOSFETのソース領域である。
【0094】
第3半導体領域230において、元素DがP及びAsの場合には界面近傍のCサイトに元素Dを導入すると、価電子帯の頂上近傍に局在状態が作り込まれる。第3半導体領域230において、元素DがNの場合には界面近傍のSiサイトに元素Dを導入すると、価電子帯の頂上近傍に局在状態が作り込まれる。
【0095】
これを実現するには、元素DがP及びAsの場合には界面付近に元素DとSiとを導入し(共注入し)、元素DがNの場合には界面付近に元素DとCとを導入(共注入)し、かつ、金属を接続した後にCサイトまたはSiサイトに入った元素Dを拡散させること(金属接続後のアニール)、を行う。共注入は、元素DとSi(C)を同時でも良いし、どちらかを先に注入しても良い。本実施形態では、元素Dを注入し、その表面部分のみにSi(C)を後から注入するパターンを基本としている。
【0096】
第3半導体領域230に金属を接続した後では、界面局在状態から、金属側へ電子が移動可能となり、移動により系全体が安定化できるためである。この安定化エネルギーが界面への元素D(N、P、Asなど)のパイルアップの原動力である。
【0097】
ここで、第3半導体領域230に金属が接続されていないと、電子の移動ができない。したがって、元素Dが、表面へ集合することができない。つまり、単に元素Dがあればよいわけではなく、元素Dが局在状態を形成し、かつ、金属と接続しており、かつ、その後に元素Dの拡散アニールを行う。
【0098】
元素Dの拡散のためのアニールは、上記の電子移動による安定化エネルギーがあるので、700℃以下程度の低温プロセスにて行われる。以上から、n形のSiCと電極との界面の低接触抵抗化が実現される。
【0099】
本実施形態では、元素Aは第4半導体領域220にイオン打ち込みにより導入される。また、本実施形態では、元素Dは第3半導体領域230にイオン打ち込みにより導入される。元素AとSiとの共注入、或いは、元素DとSiとの共注入では、ドーパントがCサイトを埋めて、局在状態を形成している。その結果、大量にあった炭素欠陥は埋まることになる。
【0100】
また、元素DとCとの共注入では、導入されたCが炭素欠陥を埋める。これにより、多量にあった炭素欠陥を埋めることができる。炭素欠陥は、ギャップ中に局在状態を形成するので、接触抵抗に大きな面内分布をもたらしている。本実施形態では、炭素欠陥が抑制され、面内分布の問題が解決される。
【0101】
以上のように、n形のSiC領域及びp形のSiC領域のそれぞれについての「界面添加元素」を、電極との界面部に面密度の極大値が設定されるように含有させることで、n形のSiC及びp形のSiCのそれぞれについて電極との低抵抗化を実現することができる。さらに、n形のSiC領域(例えば、第3半導体領域230)及びp形のSiC領域(例えば、第4半導体領域220)の上に、例えば同一の製造工程で同じ材料の金属による電極(例えば、第1電極240)を形成してもよい。
【0102】
第1実施形態では、第1の低抵抗化(n形のSiC領域である第3半導体領域230とソース電極となる第1電極240との接合部の低抵抗化)、第2の低抵抗化(p形のSiC領域である第4半導体領域220とソース電極となる第1電極240との接合部の低抵抗化)、及び第3の低抵抗化(n形のSiC領域である基板200とドレイン電極となる第2電極262との接合部の低抵抗化)、を実現することできる。
【0103】
第1実施形態は、これに限られるものではない。すなわち、第1の低抵抗化、第2の低抵抗化、及び第3の低抵抗化のうち、1つだけ、またはいずれか2つを実現する構成にしてもよい。
【0104】
今後、パターンの微細化が進むと、1つの素子内において、n形SiC領域とp形SiC領域との両方に同じ材料の金属でコンタクトを取る必要が生じる。この場合、パターンの位置合わせ精度の制約やプロセスの簡略化の点から、同時、かつ低抵抗の電極を形成することが望ましい。
【0105】
言い換えれば、1つの電極を形成するだけで、n形SiC領域とp形SiC領域との両方に、低抵抗のコンタクトを得る技術が望ましい。そして、かかる低抵抗化を実現できないと、n形SiC領域では、オン抵抗が大きくなる。一方、p形SiC領域では、実効的に抵抗及びキャパシタが形成され、スイッチング速度の低下を招く。p形SiC領域へのコンタクト抵抗が大きいと、素子駆動時のRC時定数が大きくなるため、動作スピードの遅延を招く。
【0106】
第1実施形態によれば、n形SiC領域とp形SiC領域との両方に同じ材料の金属でコンタクトがとれる。さらに、同時、かつ低抵抗の電極を形成することができる。よって、n形SiC領域では、オン抵抗を小さくできる。一方、p形SiC領域では、スイッチング速度を高速化できる。
【0107】
本実施形態の技術を用いた場合、コンタクトを形成する際に適用されるアニール温度は、700℃以下程度の低温プロセスである。その結果、SiCと絶縁膜との界面を荒らさずにプロセスを進めることができる。この低温プロセス化も、半導体装置の特性改善に大きく寄与する。
【0108】
次に、半導体装置110の製造方法について説明する。
図3は、第1の実施形態に係る半導体装置の製造方法を例示するフローチャートである。
図4(a)〜
図9は、第1の実施形態に係る半導体装置の製造方法を例示する模式的断面図である。
図3に表したように、半導体装置の製造方法は、第1半導体領域の形成(ステップS100)、第2半導体領域の形成(ステップS102)、第3半導体領域の形成(ステップS104)、イオン注入(ステップS106)、第4半導体領域の形成(ステップS108)、イオン注入(ステップS110)、アニール(ステップS112)、絶縁膜の形成(ステップS114)、第1電極の形成(ステップS116)、低温アニール(ステップS118)、制御電極の形成(ステップS120)、第2電極の形成(ステップS122)及び低温アニール(ステップS124)を備える。
【0109】
ステップS100の第1半導体領域の形成では、
図4(a)に表したように、n
+のSiCの基板200の表面上にn
−のSiC半導体層である第1半導体領域202が形成される。
【0110】
基板200としては、例えば固体単結晶SiC基板が用いられる。基板200内の不純物濃度(ドーピング濃度)は、1×10
16原子/cm
3以上1×10
20原子/cm
3未満が好適である。本実施形態では、基板200の不純物濃度は、例えば、6×10
17原子/cm
3である。以後の例でも、特に断らない限り、p形、n形にかかわらず、不純物濃度として6×10
17原子/cm
3を有する基板200が用いられる。基板200としては、(0001)面の六方晶系SiC基板(4H−SiC基板)が好適である。そして、第1半導体領域202は、エピタキシャル気相成長法により基板200の表面上に形成される。
【0111】
エピタキシャル層を形成する際、原料ガスとして例えばSiH
4ガスおよびC
3H
8ガスが用いられる。また、不純物(ドーパント)としては、N、P及びAsのうちの少なくとも1つが用いられる。第1半導体領域202は、半導体装置110の耐圧保持層となる。
【0112】
第1半導体領域202の膜厚としては、例えば、0.5マイクロメートル(μm)以上20μm以下が好適である。本実施形態では、第1半導体領域202の膜厚は、例えば10μmである。
【0113】
また、第1半導体領域202の不純物濃度(ドーピング濃度)は、8×10
14原子/cm
3以上3×10
17原子/cm
3未満が好適である。本実施形態では、第1半導体領域202の不純物濃度は、例えば、5×10
15原子/cm
3である。以後の例でも、特に断らない限り、不純物濃度として5×10
15原子/cm
3を有する第1半導体領域202が用いられる。
【0114】
ステップS102の第2半導体領域の形成では、
図4(b)に表したように、フォトリソグラフィ及びエッチングを用いて形成した酸化膜(図示せず)をマスクとして用い、導電形がp形の不純物を選択的に第1半導体領域202に注入する。これにより、p
−のSiC半導体領域である第2半導体領域210が形成される。
【0115】
第2半導体領域210における不純物濃度は、例えば、1×10
16/cm
3である。以後の例でも、特に断らない限り、不純物濃度として1×10
16原子/cm
3を有する第2半導体領域210が用いられる。
【0116】
p形の不純物となるAlイオンの注入の条件としては、例えば、ドーズ量1×10
15/cm
2、エネルギー80KeVである。本実施形態では、例えば300℃に基板200を加熱してイオン注入を行う。第2半導体領域210における不純物濃度は、1×10
13/cm
3以上5×10
17/cm
3以下が好適である。より好ましくは、第2半導体領域210における不純物濃度は、1×10
15/cm
3以上5×10
16/cm
3以下である。
【0117】
ステップS104の第3半導体領域の形成では、
図5(a)に表したように、フォトリソグラフィ及びエッチングを用いて形成した酸化膜(図示せず)をマスクとして用い、第2半導体領域210表面の一部に、選択的にn形の不純物を注入する。これにより、n
+のSiC半導体領域である第3半導体領域230が形成される。不純物としては、N、P及びAsのうちの少なくとも1つが用いられる。
【0118】
第3半導体領域230における不純物濃度は、例えば、2×10
20原子/cm
3である。n形の不純物となるNイオンの注入の条件としては、例えばドーズ量1×10
15原子/cm
2、エネルギー40keVである。実施形態では、300℃に基板200を加熱してイオン注入を行う。
【0119】
第3半導体領域230における不純物濃度は、1×10
14原子/cm
3以上5×10
20原子/cm
3以下が好適である。より好ましくは、第3半導体領域230における不純物濃度は、5×10
15原子/cm
3以上3×10
20原子/cm
3以下である。
【0120】
ステップS106のイオン注入では、
図5(b)に表したように、第3半導体領域230の表面近傍にSiまたはCのイオンを注入する。このイオン注入では、第3半導体領域230を形成した際に用いたマスクと同じマスクが利用される。
【0121】
第3半導体領域230の不純物がNの場合には、このイオン注入においてCのイオンが注入される。これにより、第3半導体領域230のNがSiCのSiサイトに導入され、局在状態が形成される。
【0122】
第3半導体領域230の不純物がP及びAsのうち少なくとも1である場合には、このイオン注入においてSiのイオンが注入される。これにより、第3半導体領域230のP及びAsがSiCのCサイトに導入され、局在状態が形成される。
【0123】
ステップS108の第4半導体領域の形成では、
図6(a)に表したように、フォトリソグラフィ及びエッチングを用いて形成した酸化膜(図示せず)をマスクとして用い、第2半導体領域210表面の一部に、選択的にp形の不純物を注入する。p形の不純物は、第3半導体領域230と隣接する位置に注入される。これにより、p
+のSiC半導体領域である第4半導体領域220が形成される。不純物としては、B、Al及びGaのうち少なくとも1つが用いられる。
【0124】
第4半導体領域220における不純物濃度は、例えば2×10
20原子/cm
3である。p形の不純物となるAlイオンの注入の条件としては、例えばドーズ量1×10
15原子/cm
2、エネルギー40keVである。実施形態では、300℃に基板200を加熱してイオン注入を行う。
【0125】
第4半導体領域220における不純物濃度は、1×10
14原子/cm
3以上5×10
20原子/cm
3以下が好適である。より好ましくは、第4半導体領域220における不純物濃度は、5×10
15原子/cm
3以上3×10
20原子/cm
3以下である。
【0126】
ステップS110のイオン注入では、
図6(b)に表したように、第4半導体領域220の表面近傍にSiのイオンを注入する。このイオン注入では、第4半導体領域220を形成した際に用いたマスクと同じマスクが利用される。このイオン注入により、第4半導体領域220の不純物(B、Al及びGaのうち少なくとも1つ)が、SiCのCサイトに導入され、局在状態が形成される。
【0127】
ステップS112のアニールでは、上述したイオン注入工程の後、活性化のためのアニール処理を行なう。この活性化アニール処理としては、たとえばアルゴン(Ar)ガスを雰囲気ガスとして用いて、加熱温度1600℃、加熱時間30分といった条件が用いられる。この時、SiC内部に導入されたドーパントの活性化は実現できるが、殆ど拡散はしない。
【0128】
ステップS114の絶縁膜の形成では、
図7に表したように、第1半導体領域202、第2半導体領域210、第3半導体領域220及び第4半導体領域230の全体に覆うように絶縁膜250を形成する。
【0129】
絶縁膜250の形成方法として、例えばドライ酸化(熱酸化)を行っても良い。例えば、1200℃、加熱時間30分という条件のドライ酸化により、緻密な絶縁膜250が形成される。あるいは、CVDなどにより絶縁膜250としてSiO
2膜を成膜してもよい。
【0130】
次に、
図8(a)に表したように、絶縁膜250上にフォトリソグラフィ法を用いてパターンを有するレジスト膜(図示せず)を形成する。そして、このレジスト膜をマスクとして用いて、第4半導体領域220の表面及び第3半導体領域230表面の一部に位置する絶縁膜250の部分をエッチングにより除去する。これにより、両側の第3半導体領域230の間を跨ぐ絶縁膜250が形成される。
【0131】
ステップS116の第1電極の形成では、
図8(a)に表したように、絶縁膜250の一部の除去によって形成された開口部から露出した第4半導体領域220の表面及び第3半導体領域230の表面の一部に、金属などの導電体膜を形成する。かかる導電体膜が第1電極240になる。その後、レジスト膜を除去することにより、当該レジスト膜上に位置していた導電体膜を除去(リフトオフ)する。また、絶縁膜250の幅をエッチバック等で狭くすれば絶縁膜250と第1電極240とが接触しないように隙間が形成される。
【0132】
ここで、第1電極240となる導電体としては、例えば、ニッケル(Ni)及びは窒化チタン(TiN)が好適である。次の低温アニール処理により、第1電極240の実効仕事関数は、n
+領域では4.2eV程度、p
+領域では7.2eV程度にピン止めされる。したがって、第1電極240の材料としては、安定な導体であれば特に制限されない。よって、例えば、その他の金属、或いは金属以外にも加工性に優れる、タングステン(W)、n形ポリシリコン、n形ポリSiCなどでも良い。
【0133】
ステップS118の低温アニールでは、第1電極240を作成した後に、例えば400℃の熱処理を行う。例えば、Arガス中で加熱時間5分とする。かかる熱処理により、第1電極240とn
+SiC半導体領域である第3半導体領域230との界面にN(或いは、P、As)を、第1電極240とp
+SiC半導体領域である第4半導体領域220との界面にAl(或いは、B、Ga)を、それぞれ集合させる(パイルアップする)。これは、電極との電子のやりとりにより、界面にパイルアップすることで、N及びAlの状態が安定になるからである。低温アニールでは、400℃以下では、拡散が起こり難いので、400℃以上が望ましい。また、700℃を超えると、絶縁膜との界面などに影響が生じやすい。つまり低温アニールの温度としては、400℃以上700℃以下であることが望ましい。低温の方が扱い易いことから、本実施形態では、400℃を標準とした。
【0134】
ここで、ゲート絶縁膜となる絶縁膜250を形成した後に、高温(例えば、1600℃や950℃)のアニールを行うと、絶縁膜250とチャネル領域との界面の劣化が生じやすい。本実施形態では、400℃と大幅に加熱温度を低温化できるので、かかる劣化が抑制される。ステップS118の低温アニールの温度を700℃以下にすれば、界面劣化が抑制される。
【0135】
ステップS120の制御電極の形成では、
図8(b)に表したように、ゲート絶縁膜としての絶縁膜250の上に、制御電極260を形成する。制御電極260としては、例えば、n形ポリシリコンが用いられる。なお、第1電極もn形ポリシリコンとして、第1電極240及び制御電極260ともにn形ポリシリコンにしてもよい。さらに、Ni膜を形成して熱処理をおこなうことで、NiSiのサリサイド膜を制御電極260としてもよい。
【0136】
ステップS122の第2電極の形成では、
図9に表したように、基板200の裏面上に第2電極262を形成する。第2電極262の形成では、予め基板200の裏面にSi(或いはC)のイオンを注入しておくようにしてもよい。この場合、第2電極262を形成した後に低温アニールを行う。本実施形態では、ドーパントがP、Asの場合は、Siを表面近傍に共注入し、ドーパントがNの場合にはCを表面近傍に共注入する。
【0137】
第2電極262を形成する工程では、第2電極262を形成する前に、絶縁膜250を形成する際に基板200の裏面に形成された酸化膜を除去しておく。第2電極262の材料として、例えばNiを使用すると、800℃を越える、高温過程が必要になる。
【0138】
先に説明したように、基板200の裏面にC(或いはSi)のイオンを打ち込み、電極形成後に低温アニールすることで、界面へのピン止め材となるN(或いはPやAs)をパイルアップする方法を適用すれば、高温過程を行わずに済む。
【0139】
ステップS124の低温アニールでは、例えば400℃の熱処理を行う。低温アニールでは、例えば、Arガス中で加熱時間5分とする。かかる熱処理により、電極262と基板200との界面に窒素を集合させる(パイルアップする)。この時、界面付近には、薄くNiSiができるが、SiCとの界面にNがパイルアップして、実効仕事関数が4.2eVとなる。これにより、第2電極262は基板200とオーミック接続される。
【0140】
図10(a)及び(b)は、元素の面密度を例示する図である。
図10(a)及び(b)において縦軸は元素の面密度、横軸は深さ方向の位置を表している。
図10(a)には低温アニール前のイオン打ち込みにより打ち込まれたAl及びSiの面密度の分布が表されている。
図10(a)に表したように、Siは、p
+のSiC(第4半導体領域220)と金属(第1電極240)との界面225の近傍に導入されている。SiをSiC中に打ち込むので、Si自体の分布は大きな値を持つが、打ち込まれたSiのみを表すと、
図10(a)に表されるような分布になる。ここに示したように、打ち込むSi(或いはC)は、表面部分だけにすることが特徴となる。
【0141】
図10(b)には、金属電極形成後の低温アニール後のAlの面密度の分布が表されている。低温アニールを行うと、p
+SiCの金属との界面部分220bにAlが集中(パイルアップ)する。Alの面密度が極大となる部分は、p
+SiCと金属との界面225からp
+SiCの深さ1nmの範囲(界面部分220b)に形成される。なお、p
+SiCの深さ方向において、Alの面密度の分布は極大値の他にピーク(極大になる部分)を持つ場合もある。これは、低温アニール前の分布のピークと、低温アニール後の分布の極大値(界面部分220bの極大値)とが形成されるためである。後から打ち込むSi(或いはC)は、電極形成後の低温アニールにより、ドーパントを局在状態に導く。電極との界面部分だけ局在状態を形成し、Si(或いはC)内部には局在状態を作りたくないので、表面部分だけに導入することになる。
【0142】
なお、本実施形態に係る半導体装置110において、SiC領域と電極との界面のAl(界面に打ち込んだ元素がAlの場合)及び界面のP(界面に打ち込んだ元素がPの場合)を精密に測定すると、およそ1nm以下の中にピークをもって分布していることが分かる。界面Alの面密度は、およそ1.5×10
14/cm
2、界面Pの面密度は、およそ0.8×10
14/cm
2である。Al以外のB、Gaでも同様である。P以外のAsやNでも同様である。ただし、Nの場合は、上記Siの代わりにCを共注入する。結果は、どのドーパントを使っても同様に、面内分布のない(つまり炭素欠陥が界面近傍で少ない)、低抵抗の接触構造が得られる。
【0143】
ここで、基板200の第1半導体領域202を形成する面の方位は、例えば(000−1)面など、他の面を主表面とする4H−SiC基板を用いてもよい。つまり、実施形態のように、第1電極240とn
+領域及びp
+領域との界面での元素のパイルアップによるオーミック接続は、その基板方位に関係なく有効だからである。基板200の第1半導体領域202を形成する面の方位は、(11−20)面などでもよい。
【0144】
以上に詳述したように、第1の実施形態では、第1電極240とn
+領域(第3半導体領域230)及びp
+領域(第4半導体領域220)との界面での元素のパイルアップによるオーミック接続を得ている。その結果、次の(1)〜(4)の効果が得られる。
【0145】
(1)第1電極240とn
+領域(第3半導体領域230)との界面でのオン抵抗を小さくすることができる。接触抵抗として、1×10
−7Ωcm
2を実現している。
(2)第1電極240とp
+領域(第4半導体領域220)との界面での接触抵抗を小さくすることができる。接触抵抗として、1×10
−6Ωcm
2を実現している。
(3)本実施形態では、添加物質のパイルアップを目的とした低温アニールを行っている。その結果、チャネル移動度が従来(高温熱工程通過後、ピーク値20cm
2/Vs)の一桁程度大きい値(本実施形態のプロセス通過後、ピーク値200cm
2/Vs)になる。この移動度の向上は、オン抵抗に直接的な影響を与えるので、デバイス特性向上に極めて有効である。
(4)第1電極240の材料として、TiN、ポリシリコン及びWであっても大きな違いは見られなかった。すなわち、本実施形態では電極材料の依存性が低い。
【0146】
以上のように第1の実施形態によれば、p形SiC領域と金属との低抵抗コンタクト及びn形SiC領域と金属との低抵抗コンタクトが、低温にて実現される。また、1つの電極で同時にp形SiC領域とn形SiC領域とに接続することもできる。つまり、互いに隣り合うp形SiC領域とn形SiC領域に、第1電極240をオーミック接続できる。また、基板200の裏面のn形SiC領域に、第2電極262をオーミック接続できる。
【0147】
第1の実施形態によれば、SiC領域にSi(ドーパントがN場合のみC)のイオンをドーパントと共存させることで、SiCと電極との界面近傍に発生していたC欠陥の多くが、ドーパント(ドーパントがNの場合のみC)により埋められる。先に示したように、本実施形態のプロセスを適用しないと、C欠陥量は、2.2×10
16/cm
3以上が形成されている。
【0148】
しかし、本実施形態のプロセスを導入すると、C欠陥量は、1.0×10
13/cm
3程度であり、3桁程度の低下がみられる。その結果として、接触抵抗の面内分布が無視できるようになる。縦型MOSFETをユニットとして、並列に並べたデバイスでは、ユニット間で抵抗にばらつきがあると、デバイスの一部に電流が流れ破壊する恐れもある。本実施形態によれば、その点も大きく改善される。
【0149】
(第2の実施形態)
図11は、第2の実施形態に係る半導体装置の製造方法を例示するフローチャートである。
図11に表したように、半導体装置の製造方法は、第1半導体領域の形成(ステップS200)、第2半導体領域の形成(ステップS202)、第3半導体領域の形成(ステップS204)、第4半導体領域の形成(ステップS206)、アニール(ステップS208)、絶縁膜の形成(ステップS210)、イオン注入(ステップS212)、第1電極の形成(ステップS214)、低温アニール(ステップS216)、制御電極の形成(ステップS218)、イオン注入(ステップS220)、第2電極の形成(ステップS222)及び低温アニール(ステップS224)を備える。
【0150】
第2の実施形態に係る半導体装置の製造方法は、
図3に表した製造方法に比べ、イオン注入の回数が少ない。
図11に表した第2の実施形態に係る半導体装置の製造方法では、ステップS204に表した第3半導体領域の形成を行った後、及びステップS206に表した第4半導体領域の形成の後にSiのイオン注入を行わない。ステップS208のアニール、ステップS210の絶縁膜の形成を行った後、ステップS212でSiのイオン注入を行う。
【0151】
図12(a)〜
図14は、第2の実施形態に係る半導体装置の製造方法を例示する模式的断面図である。
ステップS200の第1半導体領域の形成では、
図12(a)に表したように、n
+のSiCの基板200の表面上にn
−のSiC半導体層である第1半導体領域202が形成される。
【0152】
ステップS202の第2半導体領域の形成では、
図12(b)に表したように、フォトリソグラフィ及びエッチングを用いて形成した酸化膜(図示せず)をマスクとして用い、導電形がp形の不純物を選択的に第1半導体領域202に注入する。これにより、p
−のSiC半導体領域である第2半導体領域210が形成される。
【0153】
ステップS204の第3半導体領域の形成では、
図13(a)に表したように、フォトリソグラフィ及びエッチングを用いて形成した酸化膜(図示せず)をマスクとして用い、第2半導体領域210表面の一部に、選択的にn形の不純物を注入する。これにより、n
+のSiC半導体領域である第3半導体領域230が形成される。本実施形態において不純物としては、P及びAsのうちの少なくとも1つが用いられる。本実施形態では、Siを共存させるので、Nは不向きである。
【0154】
ステップS206の第4半導体領域の形成では、
図13(b)に表したように、フォトリソグラフィ及びエッチングを用いて形成した酸化膜(図示せず)をマスクとして用い、第2半導体領域210表面の一部に、選択的にp形の不純物を注入する。p形の不純物は、第3半導体領域230と隣接する位置に注入される。これにより、p
+のSiC半導体領域である第4半導体領域220が形成される。不純物としては、B、Al及びGaのうち少なくとも1つが用いられる。
【0155】
その後、ステップS208のアニールでは、上述したイオン注入工程の後、活性化のためのアニール処理を行なう。
【0156】
ステップS210の絶縁膜の形成では、
図14に表したように、第1半導体領域202、第2半導体領域210、第3半導体領域220及び第4半導体領域230の全体に覆うように絶縁膜250を形成する。絶縁膜250の形成方法として、例えばドライ酸化(熱酸化)を行っても良い。例えば、1200℃、加熱時間30分という条件のドライ酸化により、緻密な絶縁膜250が形成される。あるいは、CVDなどにより絶縁膜250としてSiO
2膜を成膜してもよい。
【0157】
ステップS212のイオン注入では、
図14に表したように、絶縁膜250の上から第3半導体領域230及び第4半導体領域220にSiのイオンを注入する。このイオン注入により、第3半導体領域230の不純物及び第4半導体領域220の不純物が、SiCのCサイトに導入され、局在状態が形成される。
【0158】
絶縁膜250を形成した後の工程は、
図3に表した製造方法と同様である。第2の実施形態に係る半導体装置の製造方法では、第3半導体領域230及び第4半導体領域220へのSiのイオン注入を1回の工程で済ませることができ、製造工程の短縮化を達成することができる。
【0159】
なお、ステップS212に表したイオン注入において、基板200の裏面にもSiのイオン注入を行ってもよい。これにより、さらなる製造工程の短縮化を達成することができる。
【0160】
(第3の実施形態)
図15は、第3の実施形態に係る半導体装置を例示する模式的断面図である。
図15に表したように、第3の実施形態に係る半導体装置130は、第1半導体領域202の上に第5半導体領域214を備える点、第2半導体領域212をエピタキシャル成長によって形成する点で第1の実施形態に係る半導体装置110と相違する。
【0161】
第5半導体領域214は、互いに間隔を隔て設けられた複数の第2半導体領域212の間に形成される。第5半導体領域214は、n形(n
+)のSiC半導体領域である。
【0162】
図16は、第3の実施形態に係る半導体装置の製造方法を例示するフローチャートである。
図16に表したように、第3の実施形態に係る半導体装置の製造方法は、第1半導体領域の形成(ステップS300)、第2半導体領域の形成(ステップS302)、第5半導体領域の形成(ステップS304)、第3半導体領域の形成(ステップS306)、イオン注入(ステップS308)、第4半導体領域の形成(ステップS310)、イオン注入(ステップS312)、アニール(ステップS314)及び絶縁膜の形成(ステップS316)を備える。絶縁膜の形成以降の工程は、
図3に表した第1の実施形態に係る半導体装置110の製造方法と同様である。
【0163】
図17(a)〜(c)は、第3の実施形態に係る半導体装置の製造方法を例示する模式的断面図である。
ステップS300の第1半導体領域の形成では、
図17(a)に表したように、n
+のSiCの基板200の表面上にn
−のSiC半導体層である第1半導体領域202が形成される。
【0164】
ステップS302の第2半導体領域の形成では、
図17(a)に表したように、第1半導体領域202の上に、p
−のSiC半導体層である第2半導体領域212をエピタキシャル成長させる。第2半導体領域212は、例えば、0.6μmの膜厚で形成される。
【0165】
第2半導体領域212のうち、基板200側の膜厚0.4μmの領域の不純物濃度は、例えば、4×10
17/cm
3にする。また、第2半導体領域212のうち、基板200とは反対側の膜厚0.2μmの領域の不純物濃度は、例えば、1×10
16/cm
3にする。つまり、基板側の納所を高めに、チャネルになる部分の濃度は低めに設定することが望ましい。p形の不純物には、例えばAlが用いられる。
【0166】
ステップS304の第5半導体領域の形成では、
図17(b)に表したように、第2半導体領域212に選択的にn形の不純物(例えば、N)をイオン注入し、n
+のSiC半導体領域である第5半導体領域214を形成する。
【0167】
具体的には、先ず、第2半導体領域212の上にマスクを形成する。例えば、第2半導体領域212の上にポリシリコン膜を成長させ、所定のレジストマスクプロセスを経た後、ポリシリコン膜のパターニングを行う。その際、ポリシリコンのエッチング条件を異方性の強い条件(例えば、リアクティブイオンエッチング)で形成する。エッチングが異方的であるためマスクは矩形にパターニングされる。
【0168】
そして、このマスクを用いて例えばNをイオン注入し、第2半導体領域212の一部をn形に転換させる。n形に転換する領域は、下地の第1半導体領域202まで達する。n形に転換された領域は、第5半導体領域214である。
【0169】
以降の工程は、第1の実施形態に係る半導体装置110の製造方法と同様である。これにより、
図17(c)に表したように、第3の実施形態に係る半導体装置130が完成する。半導体装置130では、MOSチャネル領域をイオン注入する必要がないため、イオン注入に起因するMOS界面の劣化が抑制される。
【0170】
(第4の実施形態)
図18は、第4の実施形態に係る半導体装置を例示する模式的断面図である。
図18に表したように、第4の実施形態に係る半導体装置140は、SiCを用いたIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)である。半導体装置140では、半導体装置110におけるn形(n
+)のSiCの基板200の代わりに、p形(p
+)のSiCの基板201が用いられる。半導体装置140では、半導体装置110の第1半導体領域202の代わりに、n形半導体層206が用いられる。n形半導体層206は、n
+のSiCであるn
+半導体層203と、n
−のSiCであるn
−半導体層204との積層構造を有する。
【0171】
半導体装置140では、高濃度p形(p
+)のSiCの基板201の上に、高濃度のn形(n
+)のSiCのn
+半導体層203が形成される。そして、n
+半導体層203上に低濃度n形(n
−)のSiCのn
−半導体層204が形成される。n形半導体層206は、半導体装置140の耐圧保持層である。
【0172】
半導体装置140では、基板201の裏面には、導電性材料を含む第2電極262が接続される。第2電極262は、IGBTの例えばコレクタ電極である。基板201の裏面には、Siのイオンが注入されている。基板201においてドーパント(例えば、Al)の面密度が極大となる部分は、基板201と第2電極262との界面部分に設けられる。第2電極262は、基板201の裏面にオーミック接続される。
【0173】
半導体装置140において、第1電極240は、IGBTの例えばエミッタ電極である。上述のように、第2電極240は、n形(n
+)のSiCである第3半導体領域230及びp形(p
+)のSiCである第4半導体領域220とオーミック接続される。
【0174】
半導体装置140では、エミッタ電極である第1電極240及びコレクタ電極である第2電極262のそれぞれのピン止めによって、第1電極240及び第2電極262のそれぞれについて低抵抗化することができる。さらに、第3半導体領域230及び第4半導体領域220の両方に同じ材料の金属でコンタクトをとることができる。
【0175】
第4実施形態では、第4の低抵抗化(n形のSiC領域である第3半導体領域230とエミッタ電極となる第1電極240との接合部の低抵抗化)、第5の低抵抗化(p形のSiC領域である第4半導体領域220とエミッタ電極となる第1電極240との接合部の低抵抗化)、及び第6の低抵抗化(p形のSiC領域である基板201とコレクタ電極となる第2電極262との接合部の低抵抗化)、を実現することできる。
【0176】
第4実施形態は、これに限られるものではない。すなわち、第4の低抵抗化、第5の低抵抗化、及び第6の低抵抗化のうち、1つだけ、またはいずれか2つを実現する構成にしてもよい。
【0177】
図19は、第4の実施形態に係る半導体装置の製造方法を例示するフローチャートである。
図19に表したように、第4の実施形態に係る半導体装置の製造方法は、n
+半導体層の形成(ステップS400)、n
−半導体層の形成(ステップS402)、第2半導体領域の形成(ステップS404)、第3半導体領域の形成(ステップS406)、イオン注入(ステップS408)、第4半導体領域の形成(ステップS410)及びイオン注入(ステップS412)を備える。ステップS412のイオン注入以降の工程は、
図3に表した第1の実施形態に係る半導体装置110の製造方法と同様である。
【0178】
ステップS400のn
+半導体層の形成では、基板201の上に、n
+のSiCであるn
+半導体層203が形成される。n
+半導体層203は、エピタキシャル成長によって形成される。n
+半導体層203に添加される不純物(ドーパント)は、例えばNである。
【0179】
ステップS402のn
−半導体層の形成では、n
+半導体層203の上に、n
−のSiCであるn
−半導体層204が形成される。n
−半導体層204は、エピタキシャル成長によって形成される。n
−半導体層204の膜厚は、例えば0.5μm以上20μm以下である。本実施形態では、n
−半導体層204の膜厚は、例えば10μmである。
【0180】
第2半導体領域の形成(ステップS404)、第3半導体領域の形成(ステップS406)、イオン注入(ステップS408)、第4半導体領域の形成(ステップS410)、イオン注入(ステップS412)、及びステップS412のイオン注入以降の工程は、
図3に表した第1の実施形態に係る半導体装置110の製造方法と同様である。
【0181】
なお、第2電極262を形成する工程では、p
+のSiC半導体基板である基板201の裏面上に、コレクタ電極となる電極262を形成する。この際、基板201の裏面にSiイオンを注入すること、第2電極262を形成すること、アニールをすることは第1の実施形態と同様である。
【0182】
しかし、基板201と第2電極262との界面では、ドーパント(Alなど)のパイルアップが形成される。つまり、半導体装置140では、基板201と第2電極262との界面にドーパント(Alなど)がパイルアップする構造になる。
【0183】
第2電極262を形成した後に行う低温アニールでは、400℃の熱処理が行われる。例えば、Arガス中で加熱時間5分とする。かかる熱処理により、電極262と基板201との界面にドーパントを集合させる(パイルアップする)。この時、界面付近には、薄くNiSiができるが、SiCとの界面に局在状態になったドーパントがパイルアップして、オーミック接続が形成される。通常のドーパントの非局在状態とは違う、局在状態である。
【0184】
第4の実施形態では、高性能のIGBTを得ることができる。IGBTである半導体装置140では、バイポーラ動作になるため、伝導度変調が起こり、オン抵抗が小さくなる。その結果、上述したDiMOSFETに比べて、通電能力を大幅に高めることができる。
【0185】
この時、電子電流のみならず、正孔電流も流れるので、エミッタ電極とp
+領域との接触抵抗を低くすることは、非常に重要である。第4の実施形態により、十分に低い接触抵抗を得ることができるので、今後の微細加工を伴った、IGBT素子作成において、第4の実施形態の技術は極めて効果的である。
【0186】
(第5の実施形態)
図20は、第5の実施形態に係る半導体装置を例示する模式的断面図である。
図20に表したように、第5の実施形態に係る半導体装置150は、第5半導体領域214を備える点、第2半導体領域212をエピタキシャル成長によって形成する点で第4の実施形態に係る半導体装置140と相違する。
【0187】
図21は、第5の実施形態に係る半導体装置の製造方法を例示するフローチャートである。
図21に表したように、第5の実施形態に係る半導体装置の製造方法は、n
+半導体層の形成(ステップS500)、n
−半導体層の形成(ステップS502)、第2半導体領域の形成(ステップS504)、第5半導体領域の形成(ステップS506)、第3半導体領域の形成(ステップS508)、イオン注入(ステップS510)、第4半導体領域の形成(ステップS512)、イオン注入(ステップS514)、アニール(ステップS516)及び絶縁膜の形成(ステップS518)を備える。
【0188】
n
+半導体層の形成(ステップS500)及びn
−半導体層の形成(ステップS502)は、
図19に表したステップS400〜ステップS402と同様である。第3半導体領域の形成(ステップS508)以降の工程は、
図3に表した第1の実施形態に係る半導体装置110の製造方法と同様である。なお、第2電極262を形成する工程は、第4の実施形態と同様である。
【0189】
ステップS504の第2半導体領域の形成では、
図20に表したように、n
−半導体層204の上に、p
−のSiC半導体層である第2半導体領域212をエピタキシャル成長させる。
【0190】
ステップS506の第5半導体領域の形成では、
図20に表したように、第2半導体領域212に選択的にn形の不純物(例えば、N)をイオン注入し、n
+のSiC半導体領域である第5半導体領域214を形成する。
【0191】
第5の実施形態に係る半導体装置150では、第4の実施形態に係る半導体装置140と同様に、高性能のIGBTを得ることができる。また、第5の実施形態に係る半導体装置150では、MOSチャネル領域をイオン注入する必要がないため、イオン注入に起因するMOS界面の劣化が抑制される。
【0192】
(第6の実施形態)
図22(a)〜(C)は、ダイオードを例示する模式的断面図である。
図22(a)には、一般的なダイオード169が表され、
図22(b)及び(c)には、第6の実施形態に係るダイオード161及び162が表されている。
【0193】
図22(c)に表した一般的なダイオード169は、n
−形半導体領域310と、n
−形半導体領域310の一部の上に設けられたp
+形半導体領域320と、n
−形半導体領域310の下面310aに接するカソード電極330と、p
+形半導体領域320及びn
−形半導体領域310の上面310bに接するアノード電極340と、を備える。ダイオード169において、アノード電極340は、p
+形半導体領域320及びn
−形半導体領域310の上面310bとショットキー接合される。
【0194】
図22(b)に表したように、ダイオード161は、ダイオード169と同様に、n
−形半導体領域310と、p
+形半導体領域320と、カソード電極330と、アノード電極340と、を備える。ダイオード161では、p
+形半導体領域320を形成する際に、ドーパントであるAlをイオン打ち込みするだけでなく、表面近傍にSiを共注入させる。そして、アノード電極340を形成した後にアニールを行うことで、p
+形半導体領域320とアノード電極340とがオーミック接触することになる。ダイオード161では、n
−形半導体領域310の上面310bと接触するショットキー電極を適切に選択すればよい。すなわち、ダイオード161では、p
+形半導体領域320とのオーミック接触は電極に関係なく形成される。
【0195】
図22(c)に表したように、ダイオード162は、n
−形半導体領域310と、n
−形半導体領域310の一部の上に設けられたp
+形半導体領域320と、n
−形半導体領域310の一部の上であってp
+形半導体領域320と並置されたn
+半導体領域311と、n
+半導体領域311とn
−形半導体領域310との間に設けられたp
−形半導体領域312と、n
−形半導体領域310の下面310aに接するカソード電極330と、p
+形半導体領域320及びn
+形半導体領域311の上面310bに接するアノード電極340と、を備える。
【0196】
ダイオード162では、p
+半導体領域320を形成する際にAlのみをイオン打ち込みなどで導入するのではなく、表面近傍をSiを共注入する。また、n
+半導体領域311を形成する際にPのみをイオン打ち込みなどで導入するのではなく、表面近傍にSiを共注入する。そして、アノード電極340を形成した後にアニールを行うことで、p
+半導体領域320及びn
+半導体領域311ともにオーミック接触となる。この際、電極の仕事関数に関係なく、オーミック接触になるので、電極材料としては何を用いてもよい。例えば、加工特性に優れた、TiNやWなどを選択することも可能となる。
【0197】
以上説明したように、実施形態に係る半導体装置及びその製造方法によれば、半導体領域と電極との間で低いコンタクト抵抗を得ることができる。
【0198】
以上、具体例を参照しつつ実施形態について説明した。しかし、実施形態はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、実施形態の特徴を備えている限り、実施形態の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
【0199】
また、前述した各実施形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて複合させることができ、これらを組み合わせたものも実施形態の特徴を含む限り実施形態の範囲に包含される。その他、実施形態の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例および修正例に想到し得るものであり、それら変更例および修正例についても実施形態の範囲に属するものと了解される。
【0200】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。