特許第6018529号(P6018529)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018529
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】車両の走行安定装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 37/02 20060101AFI20161020BHJP
   B62D 25/16 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   B62D37/02 Z
   B62D25/16 B
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-53958(P2013-53958)
(22)【出願日】2013年3月15日
(65)【公開番号】特開2014-177248(P2014-177248A)
(43)【公開日】2014年9月25日
【審査請求日】2015年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】富士重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076233
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 進
(74)【代理人】
【識別番号】100101661
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100135932
【弁理士】
【氏名又は名称】篠浦 治
(72)【発明者】
【氏名】北山 真司
(72)【発明者】
【氏名】濱岡 伸之
【審査官】 川村 健一
(56)【参考文献】
【文献】 実開平02−091075(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00 − 25/08
B62D 25/14 − 29/04
B62D 37/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の左右側部のフロントフェンダの前部を含む領域にそれぞれ設定され当該領域の外表面形状を空気圧による膨出によって変形可能な左右の伸縮部と、
前記各伸縮部に供給する空気圧を制御する内圧制御手段と、を備え、
前記内圧制御手段は、
車体前部に設けられた風向検出手段で検出した風向きと車速検出手段で検出した車速とに基づき車体前部に作用する回頭モーメントを推定する回頭モーメント推定手段と、
前記回頭モーメントの作用方向に位置する前記伸縮部を前記回頭モーメントに応じた膨出量にて選択的に膨出させるための内圧を設定するための内圧設定手段と、
前記内圧設定手段で設定した前記内圧に基づき前記各伸縮部に空気圧を供給し或いは前記各伸縮部から空気圧を排出させる内圧調整手段と、を備えたことを特徴とする車両の走行安定装置。
【請求項2】
車両前方の障害物との衝突の可能性を判定する車外監視手段を備え、
前記内圧設定手段は、前記車外監視手段が前記障害物との衝突の可能性が高いと判断したとき、左右の前記伸縮部に対する内圧として、予め設定された最大内圧を優先的に設定することを特徴とする請求項1に記載の車両の走行安定装置。
【請求項3】
前記回頭モーメント推定手段は、前記回頭モーメントを段階的な複数のレベルで設定し、
前記内圧設定手段は、前記回頭モーメントのレベルに対応する内圧を段階的な複数のレベルで設定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両の走行安定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横風により発生するヨーモーメントを低減させるようにした車両の走行安定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、車両の走行中において強い横風を受けると、車体の重心廻りにヨーモーメント(車体を回頭させようとする力)が発生し、走行安定性が損なわれる。例えば、車両に対して右側から横風を受けた場合、横風の一部は車体右側のサイドパネルに沿って後方に流れる一方、横風の他の一部は車体左側のフェンダ部等において剥離し走行抵抗となる。その結果、車体には、平面視で反時計回り方向のヨーモーメント(車体前部を左方向へ回頭させようとするヨーモーメント)が発生する。
【0003】
この横風による回頭を防止するための技術として、例えば、特許文献1には、左右リッドやフェンダの上部に、上方へ突出可能なサイドエアスポイラを設け、通常時は収納状態とし、車速が設定車速(80Km/h)を超えたとき上方へ突出させることで走行安定性を実現するようにした技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−305452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1に開示されている技術では、横風を受けるサイドエアスポイラをリヤフェンダに収容する構造であるため、車体の形状、及び構造を大幅に変更しなければならず、構造が複雑となり、製品コストがアップする等の問題がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、簡単な構成で、走行中の横風により発生するヨーモーメントを的確に低減させることができる車両の走行安定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様による車両の走行安定装置は、車体の左右側部のフロントフェンダの前部を含む領域にそれぞれ設定され当該領域の外表面形状を空気圧による膨出によって変形可能な左右の伸縮部と、前記各伸縮部に供給する空気圧を制御する内圧制御手段と、を備え、前記内圧制御手段は、 車体前部に設けられた風向き検出手段で検出した風向きと車速検出手段で検出した車速とに基づき車体前部に作用する回頭モーメントを推定する回頭モーメント推定手段と、前記回頭モーメントの作用方向に位置する前記伸縮部を前記回頭モーメントに応じた膨出量にて選択的に膨出させるための内圧を設定するための内圧設定手段と、前記内圧設定手段で設定した前記内圧に基づき前記各伸縮部に空気圧を供給し或いは前記各伸縮部から空気圧を排出させる内圧調整手段と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の車両の走行安定装置によれば、簡単な構成で、走行中の横風により発生するヨーモーメントを的確に低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】走行安定装置を搭載した車両の側面図
図2】走行安定装置を搭載した車両の正面図
図3】(a)は走行安定装置を動作させた車両の平面図であり(b)は横風により発生するヨーモーメントを示す特性図
図4】(a)は走行安定装置を動作させていない車両の平面図であり(b)は横風により発生するヨーモーメントを示す特性図
図5】車体の前部左右に配置した走行安定装置の要部を示す一部断面平面図
図6】動作部の概略構成図
図7】切換弁の概略構成図
図8】走行安定装置の機能ブロック図
図9】伸縮バッグの内圧制御ルーチンを示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の形態を説明する。図面は本発明の一実施形態に係わり、図1は走行安定装置を搭載した車両の側面図、図2は走行安定装置を搭載した車両の正面図、図3(a)は走行安定装置を動作させた車両の平面図であり(b)は横風により発生するヨーモーメントを示す特性図、図4(a)は走行安定装置を動作させていない車両の平面図であり(b)は横風により発生するヨーモーメントを示す特性図、図5は車体の前部左右に配置した走行安定装置の要部を示す一部断面平面図、図6は動作部の概略構成図、図7は切換弁の概略構成図、図8は走行安定装置の機能ブロック図、図9は伸縮バッグの内圧制御ルーチンを示すフローチャートである。
【0011】
図1乃至図3に示す車両1は、例えば、セダンタイプの車両であり、この車両1の車体前部の下方には、車幅方向に延在するフロントバンパ5が設けられている。フロントバンパ5の左右両端部は、所定の曲率を有して車体側部に湾曲され、フロントフェンダパネル6に形成されたフロントフェンダアーチ7の前部に連設されている。
【0012】
このような車両1の左右の車体側部において、例えば、フロントバンパ5の端部からフロントフェンダパネル6の前部までの領域には表皮11L,11Rが設けられ、これら表皮11L,11Rによって、当該領域の車体の外表面が形成されている。
【0013】
図5に示すように、表皮11L,11Rは、後述する伸縮バッグ12L,12Rとともに伸縮部10L,10Rを構成するものであり、例えば、ゴム等の弾性及び伸縮性を有する材料を素材とするシート状の部材によって構成されている。表皮11L,11Rは、その縁辺部が全周に渡って貼着されることによって車体に固設されている。これにより、表皮11L,11Rは、基本的には、フロントバンパ5及びフロントフェンダパネル6等に略倣った外観形状を呈する。ここで、表皮11L,11Rは、例えば、車体前方の肉厚が後方の肉厚よりも相対的に厚く形成されている。
【0014】
また、左右の各表皮11L,11Rの内面側(すなわち、表皮11L,11Rとフロントバンパ5及びフロントフェンダパネル6との間隙)には、空気室を構成する伸縮バッグ12L,12Rが介装されている。伸縮バッグ12L,12Rは、例えば、ゴム等の弾性及び伸縮性を有する材料を素材として構成されている。
【0015】
左右の各伸縮バッグ12L,12Rにはエア通路13L,13Rが形成され、このエア通路13L,13Rを介して、伸縮バッグ12L,12Rは、蓄圧タンク15に連通されている(図6参照)。なお、この蓄圧タンク15には、図示しないコンプレッサ等から常に一定圧の空気が送り込まれて蓄圧されている。
【0016】
さらに、左右の各エア通路13L,13Rの中途には、制御弁である左右の切換弁16L,16Rがそれぞれ介装されている。本実施形態において、各切換弁16L,16Rは、例えば、三方弁で構成され、図7(a)に示すようにエア通路13L(13R)を連通する位置と、同図(b)に示すように伸縮バッグ12L(12R)側のエア通路13L(13R)を排出通路13La(13Ra)と連通する位置と、同図(c)に示すようにエア通路13L(13R)を遮断して伸縮バッグ12L(12R)内に空気圧を保持する位置とを選択的に切り替えることが可能となっている。
【0017】
これら各切換弁16L,16Rの切り替えタイミングは、例えば、図8に示すように、内圧制御手段としての内圧制御部20において演算される。この内圧制御部20は、ROM、RAM等のメモリ及びCPU等を有するマイクロコンピュータで構成されており、ROMには制御プログラムや各種固定データ等が記憶されている。
【0018】
内圧制御部20の入力側には、フロントバンパ5の左右前部に設けられて、左右前方からの風圧を検出する風向検出手段としての左右風圧センサ25L,25R、車速SPを検出する車速検出手段としての車速センサ26、左右伸縮バッグ12L,12Rの近傍の各エア通路13L,13Rの圧力を各伸縮バッグ12L,12Rの内圧として検出する左右内圧センサ27L,27Rと、が接続されている。ここで、左右の風圧センサ25L,25Rは、例えば、図5に示すように、フロントバンパ5の左右両側に形成されたコーナ部にそれぞれ設けられている。
【0019】
また、内圧制御部20の出力側には、左右切換弁16L,16Rを動作させるための各駆動部17L,17Rが接続されている。
【0020】
内圧制御部20は、回頭モーメント推定手段、内圧設定手段、及び、内圧調整手段としての各機能を実現するものであり、入力された各種パラメータに基づいて、左右伸縮バッグ12L,12Rの内圧レベルを設定し、それに応じて切換弁16L,16Rを個別に動作させる。
【0021】
例えば、図4(a)に示すように、走行中の車両1の右側が横風を受けている場合、この横風の一部は、矢印Aで示すように、横風に面している側のサイドパネル(フロントフェンダパネル6等を含む風上側のサイドパネル)に沿い、このサイドパネルをガイド面として後方へ流れる。また、横風の他の一部は、矢印Bで示すようにフロントバンパ5やフロントグリル等の車体前部に沿って流れた後、矢印Cで示すように風上側のサイドパネルとは反対側のサイドパネル(フロントフェンダパネル6等を含む風下側のサイドパネル)へ流れる。この風下のサイドパネル側に流れる風は、一般には、車体前部において風下側のサイドパネルから剥離され、この風下側サイドパネルがガイド面として機能しないため乱流となる。そして、このような左右の気流差によって、車体には、車体前部を左方向(図4(a)中の反時計回り方向)に回頭させようとするヨーモーメント(CYM)が発生する(図4(b)参照)。なお、本実施形態では、図4(b)について、車両1の重心を0として車体前後方向後方をプラス(+)、前方をマイナス(−)とし、且つ、車体前部を左回頭させようとするヨーモーメントCYMをプラス(+)、右回頭させようとするヨーモーメントCYMをマイナス(−)とする。
【0022】
このような横風に対し、左右風圧センサ25L,25Rは、例えば、右前方からの横風を車体が受けると、右風圧センサ25Rは、横風を直接受けるため実値に近い風圧PRを検出する。一方、左風圧センサ25Lは、横風が右方向から車体前部に沿って流れる気流に阻害されるため、実際よりも低い値の風圧PLを検出する。
【0023】
これらに基づき、内圧制御部20では、両風圧センサ25L,25Rで検出した風圧PL,PRの差圧ΔPfから、車両1が受ける横風の強さ、及び風向きを推定する。この場合、フロントバンパ5の前面であって、左右風圧センサ25L,25Rの間に、他の風圧センサを所定間隔設けて1或いは複数配置することで、車両1に対する風向きを各風圧センサの検出値に基づいて良い精密に推定することもできる。
【0024】
そして、内圧制御部20は、差圧ΔPfと車速センサ26で検出した車速SPとに基づいて、車体前部に作用する回頭モーメントのレベル(回頭レベル)を調べ、この回頭レベルに応じて、左右の伸縮部10L,10Rを伸縮させてヨーモーメント(CYM)の発生を低減させる。すなわち、例えば、右側からの横風に対しては、内圧制御部20は、左側の伸縮部10Lのみを膨出させ、風下側のサイドパネルからの風の剥離を抑制し、ヨーモーメントとの発生を低減させる(図3(a),(b)参照)。なお、本実施形態では、図3(b)について、車両1の重心を0として車体前後方向後方をプラス(+)、前方をマイナス(−)とし、且つ、車体前部を左回頭させようとするヨーモーメントCYMをプラス(+)、右回頭させようとするヨーモーメントCYMをマイナス(−)とする。
【0025】
さらに、内圧制御部20の入力側には、車外監視手段としての車外監視装置30が接続されている。車外監視装置30には、例えば、車外前方の対象を異なる視点で撮像するステレオカメラ31と、車速センサ26と、ドライバによる舵角δを検出する舵角センサ32とが接続されている。
【0026】
車外監視装置30は、ステレオカメラ31から画像情報が入力されるとともに車速センサ26から自車速SPが入力される。車外監視装置30は、ステレオカメラ31からの画像情報に基づいて自車両1の前方の立体物データや白線データ等の前方情報を認識し、これら認識情報等に基づいて自車走行路を推定する。さらに、車外監視装置30は、自車走行路上に立体物が存在するか否かを調べ、存在する場合には、直近のものを制御対象として認識する。
【0027】
ここで、車外監視装置30は、ステレオカメラ31からの画像情報の処理を、例えば、以下のように行う、先ず、ステレオカメラ31で自車進行方向を撮像した1組のステレオ画像に対し、対応する位置のずれ量から三角測量の原理によって距離情報を生成する。そして、この距離情報に対して周知のグルーピング処理を行い、グルーピング処理した距離情報を予め設定しておいた三次元的な道路形状データや立体物データ等と比較することにより、白線データ、道路に沿って存在するガードレール、縁石等の側壁データ、車両や歩行者等の立体物データ等を抽出する。さらに、車外監視装置30は、舵角センサ32で検出された舵角δ及び白線データ等に基づいて自車進行路を推定し、自車進行路前方に存在する直近の立体物を制御対象として抽出する。
【0028】
そして、車外監視装置30は、制御対象の障害物を検出した場合には、その制御対象の障害物情報として、自車両1と制御対象との相対距離d、制御対象の移動速度SPf(=(相対距離dの変化の割合)+自車速SP)、制御対象の減速度af(=制御対象の移動速度SPfの微分値)等を演算する。さらに、車外監視装置30は、制御対象に対して衝突するまでの衝突予測時間TTC(Time To Collision:自車両1と制御対象との相対距離dを相対速度で除した値)と予め設定しておいた閾値(例えば、0.8秒)と比較し、衝突予測時間TTCが閾値を下回った場合には障害物との衝突の可能性が高いと判断する。
【0029】
内圧制御部20は、このように車外監視装置30において自車1と前方障害物との衝突の可能性が高いと判断された場合、風向きに関係なく、左右の両伸縮部10L,10Rに対し、予め設定された最大限の内圧を供給し、各伸縮部10L,10Rを最大膨出量まで膨出させる。これにより、内圧制御部20は、障害物が歩行者等である場合には、当該歩行者等の障害値が有効に低減される。なお、各伸縮部10L,10Rに供給される内圧は、障害物との衝突と同時のタイミングで、或いは、衝突の直前のタイミングで解放されることが望ましい。
【0030】
次に、内圧制御部20において実行される伸縮バッグ12L,12Rに対する内圧制御について、図5に示す内圧制御ルーチンのフローチャートに従って説明する。このルーチンは、設定時間毎に繰り返し実行されるものであり、ルーチンがスタートすると、内圧制御部20は、先ず、ステップS101において、各センサ等で検出したパラメータを読み込む。
【0031】
続くステップS102において、内圧制御部20は、車外監視装置30からの情報を参照して、自車1が前方の障害物と衝突する可能性が大きいか否かを調べる。
【0032】
そして、内圧制御部20は、ステップS102において、障害物との衝突可能性が小さいと判断した場合にはステップS103に進み、障害物との衝突可能性が大きいと判断した場合にはステップS107に進む。
【0033】
ステップS102からステップS103に進むと、内圧制御部20は、車体右側の風圧PRと車体左側の風圧PLとの差圧ΔPf(=PR−PL)を演算する。
【0034】
続くステップS104において、内圧制御部20は、車速SPと差圧ΔPfとに基づき、車体前部に作用する回頭レベルを、予め設定されている回頭レベルマップを参照して設定する。この場合、車速SPと差圧ΔPfから横風により車体前部に作用する回頭モーメントを直接推定するようにしても良い。
【0035】
この回頭レベルは、ヨーモーメントCYMの大きさを段階的に数値化したものである。表1に回頭レベルマップを例示する。表1に示す回頭レベルマップには、車速SPと差圧ΔPfとに基づき、−3〜3の六段階の回頭レベルが設定されている。すなわち、車速SPが上昇するに従い車両1の直進走行性能は横風の影響を強く受けて不安定化し易い。そのため、内圧制御部20には、車速SPが増加し、且つ差圧ΔPfが大きくなる(小さくなる)に従い、大きな値(マイナス側に小さな値)となる回頭レベルが予め設定され格納されている。なお、表において、プラス(+)は左回頭、マイナス(−)は右回頭を示している。
【表1】
【0036】
このように、本実施形態では、マップを参照して回頭モーメントを段階的なレベルで設定しているので演算が容易となる。
【0037】
次いで、ステップS105に進むと、内圧制御部20は、回頭レベルに基づき、左右の各伸縮部10L,10Rに設けられている各伸縮バッグ12L,12Rの内圧レベルを、予め設定された内圧レベルマップを参照して設定する。
【0038】
内圧レベルマップには、回頭レベルに応じて左右の伸縮部10L,10Rに設けられている各伸縮バッグ12L,12Rを伸縮させるための内圧が段階的に設定されている。表2に内圧レベルマップを示す。
【表2】
【0039】
この内圧レベルマップには、回頭レベルに応じて、左右の伸縮部10L,10Rに設けられている各伸縮バッグ12L,12Rを膨張させるための内圧レベルとして、三段階のレベルL1〜L3が設定されている。
【0040】
その後ステップS106に進むと、内圧制御部20は、左右の切換弁駆動部17L,17Rを通じて、各伸縮バッグ12L,12Rに設定された内圧レベルに対応する各切換弁16L,16Rの動作制御を行った後、ルーチンを抜ける。
【0041】
このステップS106の動作制御において、内圧制御部20は、先ず、内圧センサ27L,27Rで検出した各伸縮バッグ12L,12Rの内圧を読み込む。次いで、内圧制御部20は、各伸縮バッグ12L,12Rに設定されている内圧レベルに応じ、各切換弁駆動部17L、17Rを介して各切換弁16L,16Rを動作させ、各伸縮バッグ12L、12Rの内圧を変化させる。これにより、例えば、例えば、図5に示すように、各伸縮部10L,10Rは、内圧レベルに応じた膨出量にて車幅方向に膨出する。この際、表皮11L,11Rの肉厚が後方よりも前方が相対的に厚く形成されていることにより、膨出時の形状が所定の流線形状に制御される。そして、このように流線形状に制御されることにより、風下側のサイドパネルからの風の剥離が好適に抑制される。すなわち、例えば、走行中の車両1の右側が横風を受けている場合、内圧制御部20は、適宜内圧レベルに応じて左側の伸縮部10Lを膨出させ、左側サイドパネルからの風の剥離を抑制することにより、車体を左回頭させるヨーモーメントCYMの発生を低減させる。
【0042】
一方、ステップS102からステップS107に進むと、内圧制御部20は、左右の各伸縮バッグ12L,12Rに対する内圧レベルを最大値(すなわち、本実施形態においては、L3)に設定する。
【0043】
そして、ステップS108に進むと、内圧制御部20は、左右の切換弁駆動部17L,17Rを通じて、各伸縮バッグ12L,12Rに設定された内圧レベルに対応する各切換弁16L,16Rの動作制御を行う。
【0044】
その後、ステップS109に進むと、内圧制御部20は、自車両1が障害物に対して衝突したか、或いは、障害物に対する衝突が回避されたか否かを調べる。ここで、内圧制御部20は、例えば、車外監視装置30から入力される衝突予測時間TTCが略0となったとき、自車両1が障害物に対して衝突したと判定する。また、内圧制御部20は、例えば、車外監視装置30から入力される衝突予測時間TTCが予め設定された閾値(例えば、2.0秒)以上となったとき、自車両1と障害物との衝突が回避されたと判定する。
【0045】
そして、ステップS109において、自車両1が障害物に対して衝突しておらず、且つ、障害物に対する衝突の可能性が未だ回避されていないと判定した場合、各伸縮部10L,10Rの膨出状態を保持したまま待機する。
【0046】
一方、ステップ、S109において、自車両1が障害物に対して衝突したと判定した場合、或いは、障害物に対する衝突が回避されたと判定した場合、内圧制御部20は、ステップS110に進み、左右の切換弁駆動部17L,17Rを通じて、各伸縮バッグ12L,12Rの内圧を徐々に排圧するための各切換弁16L,16Rの動作制御を行った後、ルーチンを抜ける。
【0047】
これにより、万が一、歩行者等の障害物に対して車両1が側突やオフセット衝突等をした場合にも、伸縮部10L、或いは、伸縮部10Rが、エアバッグとして機能し、歩行者等に対する障害値が低減される。
【0048】
このような実施形態によれば、車体の左右側部のフロントフェンダ6の前部を含む領域にそれぞれ設定され、当該領域の外表面形状を空気圧による膨出によって変形可能な伸縮部10L,10Rを設け、内圧制御部20において、横風に起因して車体に作用する回頭モーメントを推定するとともに、回頭モーメントの作用方向に位置する伸縮部10L(或いは、10R)を、当該回頭モーメントに応じた膨出量にて選択的に膨出させるための内圧を設定し、設定した内圧に基づいて伸縮部10L,10Rに空気圧を供給し、或いは、各伸縮部10L,10Rから空気圧を排出させることにより、簡単な構成で、走行中の横風により発生するヨーモーメントを的確に低減することができる。この場合において、伸縮部10L,10Rは、車体に作用するヨーモーメントの発生自体を抑制するためのものであるため、車体に発生するヨーモーメントを相殺する構成等に比べ、良好な走行安定性を実現することができる。
【0049】
また、車外監視装置30において車両1前方の障害物との衝突の可能性を判定し、障害物との衝突の可能性が高いと判断したとき、内圧制御部20が、両伸縮部10L、10Rに対する内圧として、予め設定された最大内圧を優先的に設定することにより、万が一、歩行者等の障害物に対して車両1が側突やオフセット衝突等をした場合にも、歩行者に対する障害値を好適に低減することができる。この場合、特に、各伸縮部10L,10Rは、空気圧によって膨出する構成であるため、高い剛性の構造物等を用いることなく、好適な歩行者保護を実現することができる。また、障害物との衝突のタイミング等に各伸縮部10L,10Rの内圧の排圧を開始すれば、伸縮部10L,10Rにおける反発による歩行者等の二次被害を的確に防止することができる。
【0050】
なお、本発明は、以上説明した各実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明の技術的範囲内である。例えば、回頭レベルマップ、及び内圧レベルマップは、各レベルをより細密に設定してもよく、或いは、連続的に変化する値であっても良い。さらに、本実施形態では、圧力供給源として蓄圧タンクを例示したが、コンプレッサ等の駆動源から空気圧を直接供給するようにしても良い。さらに、走行時に発生する風圧を供給するようにしても良い。
【0051】
また、本実施形態による伸縮部10L,10Rは、表皮11L,11Rと伸縮バッグ12L,12Rとの二重構造をなしているが、左右の表皮11L,11Rを直接伸縮させるようにしても良い。
【0052】
また、本実施形態では、車外監視手段として、例えば、ステレオカメラ31を用いた車外監視装置30を適用した一例について説明したが、例えば、単眼カメラを用いた構成、或いは、ミリ波レーダやレーザレーダ等を用いた構成であっても良いことは勿論である。
【符号の説明】
【0053】
1 … 車両(自車両)
5 … フロントバンパ
6 … フロントフェンダパネル(フロントフェンダ)
7 … フロントフェンダアーチ
10L,10R … 伸縮部
11L,11R … 表皮
12L,12R … 伸縮バッグ
13L,13R … エア通路
15 … 蓄圧タンク
16L,16R … 切換弁
17L,17R … 切換弁駆動部
20 … 内圧制御部(回頭モーメント推定手段、内圧設定手段、内圧調整手段)
25L,25R … 風圧センサ
26 … 車速センサ
27L,27R … 内圧センサ
30 … 車外監視装置(車外監視手段)
31 … ステレオカメラ
32 … 舵角センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9