(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記補正手段は、前記温度検出手段により前記蓋体の開放中の低下温度を検出し、その低下温度が第1判定温度より大きい場合、前記加熱目標温度を高くすることを特徴とする請求項3乃至請求項5のいずれか1項に記載の保温機器。
前記機器本体外の室内温度を検出する室温検出手段と、前記室温検出手段によって検出した室内温度に基づいて前記加熱目標温度を補正する第2補正手段とを更に備えることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の保温機器。
前記第2加熱制御手段による昇温後に、前記加熱手段を停止した場合より緩やかな下降勾配で降温させる降温制御手段を更に備えることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の保温機器。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、菌の繁殖を確実に抑制しつつ、過剰加熱により食品の美味しさが損なわれることを防止できる保温機器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明の保温機器は、機器本体内の食品を温度検出手段の検出値に基づいて加熱手段によって加熱し、前記食品に応じた保温温度帯に保温する保温機器であって、前記温度検出手段の検出値が前記保温温度帯の下限の温調温度を維持するように前記加熱手段を制御する第1加熱制御手段と、昇温開始時間の経過毎に実行され、前記温度検出手段の検出値が前記保温温度帯の上限側の加熱目標温度まで昇温するように前記加熱手段を制御する第2加熱制御手段と、降温により前記温度検出手段の検出値が前記温調温度より高く前記加熱目標温度以下の基準温度を下回った時から前記昇温開始時間までの低温加熱時間に基づいて、前記加熱目標温度を設定する加熱温度設定手段と、前記第1加熱制御手段により前記温調温度に温調させ、前記昇温開始時間になると、前記第2加熱制御手段により前記加熱温度設定手段が設定した前記加熱目標温度まで昇温させる保温制御手段と、を備える。
【0007】
ここで、基準温度とは、菌の繁殖に大きく影響する臨界温度(例えば70℃)である。食品が米飯の場合、米飯温度が基準温度より低い場合には、黄変の発生を抑制できるが、菌が増殖する可能性が高くなる。逆に、米飯温度が基準温度より高い場合には、黄変が生じる可能性が高くなるが、菌の繁殖を抑制することが可能である。また、加熱温度設定手段は、低温加熱時間と予め記憶したデータテーブルとに基づいて設定する構成、低温加熱時間に基づいて予め設定した基準加熱温度を、減少するように補正する構成、増加するように補正する構成、および、増減するように補正する構成を含む。
【0008】
この保温機器は、設定された昇温開始時間の経過毎に第2加熱制御手段によって昇温を実行するが、菌が繁殖する可能性が高い基準温度未満の低温加熱時間に従って、加熱目標温度を設定する。そのため、菌の殺菌を促進し、増殖を抑制できる。また、食品が過剰に加熱されることを抑制し、味が損なわれることを抑制できる。
【0009】
具体的には、前記加熱温度設定手段は、前記低温加熱時間が短くなるに従って前記加熱目標温度を低くする。このようにすれば、保温容量が少ない場合には基準温度より高い状態(時間)を長くできるとともに、多い場合には基準温度より高い状態を短くできる。よって、容量が多少に拘わらず、食品に加える熱量の均一化を図ることができる。その結果、菌の繁殖を抑制しつつ過剰加熱を抑制し、食品の美味しさが損なわれることを防止できる。
【0010】
また、保温機器は、前記機器本体内を開放可能に閉塞する蓋体と、前記蓋体の開放状態を検出する蓋状態検出手段と、前記蓋状態検出手段により前記蓋体の開放を検出すると、前記加熱温度設定手段により設定した前記加熱目標温度を補正する補正手段と、を更に備えることが好ましい。蓋体を開放すると、空気中の菌が機器本体内に侵入することがある。また、蓋体を開放して調理器具によって食品を取り出すと、調理器具に付着した菌が食品に付着する。そのため、蓋体の開放を検出すると、補正手段により加熱目標温度を補正することにより、侵入した菌を殺菌し、菌の繁殖を抑制できる。
【0011】
具体的には、前記補正手段は、前記蓋体の開放時間を計測し、開放の累積時間が判定時間を超えると、前記加熱目標温度を高くする。この場合、前記補正手段は、前記第2加熱制御手段により昇温を実行すると、前記累積時間をリセットする。このようにすれば、機器本体内の食品の過剰加熱を抑制しつつ、蓋体の開放により侵入した菌を殺菌し、確実に菌の増殖を抑制できる。
【0012】
また、前記補正手段は、前記温度検出手段により前記蓋体の開放中の低下温度を検出し、その低下温度が第1判定温度より大きい場合、前記加熱目標温度を高くする。このようにすれば、機器本体内の食品の過剰加熱を抑制しつつ、蓋体の開放により侵入した菌を殺菌し、確実に菌の増殖を抑制できる。
【0013】
さらに、前記補正手段は、前記温度検出手段により前記蓋体の開放中の温度を検出し、その検出値が前記基準温度以上の第2判定温度より高い場合、前記加熱目標温度を高くしない。蓋体を開放した際に食品が基準温度未満(温調状態)の場合には、外気の侵入による温度低下により侵入した菌の増殖が促進される。逆に、食品が基準温度より高い場合には、菌が侵入しても死滅する。そして、蓋体を開放した際に検出値が第2判定温度より高い場合には、加熱目標温度を高くしない(補正しない)ため、食品に対する過剰加熱を確実に防止し、美味しさが損なわれることを防止できる。
【0014】
前記機器本体外の室内温度を検出する室温検出手段と、前記室温検出手段によって検出した室内温度に基づいて前記加熱目標温度を補正する第2補正手段とを更に備える。室温が低い場合、温度検出手段が外気により冷やされるため、加熱手段で加熱することによる実際の温度に対して、温度検出手段の検出値が低くなる。よって、室内温度が低くなるに従って加熱目標温度を低くすることにより、食品の過剰加熱を防止できる。
【0015】
前記第2加熱制御手段による昇温後に、前記加熱手段を停止した場合より緩やかな下降勾配で降温させる降温制御手段を更に備えることが好ましい。このようにすれば、殺菌可能な温度帯の時間を確保することができるため、菌の増殖を確実に抑制できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の保温機器では、基準温度未満の低温加熱時間に従って加熱目標温度を設定するため、菌の繁殖を抑制できるとともに、食品が過剰に加熱されることを抑制できる。具体的には、低温加熱時間が短くなるに従って加熱目標温度を低くするため、保温容量が少ない場合には基準温度より高い状態を長くでき、容量が多い場合には基準温度より高い状態を短くできる。よって、保温容量に拘わらず、食品に加える熱量を均一化を図ることができる。その結果、菌の繁殖を抑制しつつ過剰加熱を抑制し、食品の美味しさが損なわれることを防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に従って説明する。
【0019】
図1は、本発明に係る実施形態の保温機器の一例である炊飯器を示す。この炊飯器は、誘導加熱される内鍋10を着脱可能に収容する炊飯器本体11と、炊飯器本体11に開閉可能に取り付けた蓋体16とを備える。本実施形態の炊飯器は、保温処理中に実行される昇温(第2加熱制御)工程での加熱目標温度Ttを設定(調整)することにより、食品である米飯の残量に拘わらず、菌の繁殖を防止しつつ過剰加熱を防止して、美味しさが損なわれることを防止する。
【0020】
炊飯器本体11は、内鍋10を収容する収容部12を備える。収容部12の外周面下側には、内鍋10を誘導加熱する第1加熱手段である誘導加熱コイル13が配設されている。また、収容部12の外周面中央には、内鍋10の上方を加熱する第2加熱手段である胴ヒータ14が配設されている。さらに、収容部12には、内鍋10を介して内部の米飯の温度を検出する第1温度検出手段である鍋用温度センサ15が配設されている。
【0021】
蓋体16は、炊飯器本体11に回動可能に取り付けられ、内鍋10の上端開口を開放可能に閉塞する。蓋体16には、内鍋10を臨む内面側に放熱板17が配設され、この放熱板17の上面に第3加熱手段である蓋ヒータ18が配設されている。また、放熱板17の下面には、内鍋10の上端開口を密閉する内蓋19が着脱可能に配設されている。蓋体16の内部には、内鍋10内と外部とを連通する排気通路20が設けられている。また、放熱板17を介して内鍋10内の温度を検出する第2温度検出手段である蓋用温度センサ21が配設されている。
【0022】
炊飯器本体11の正面上部には、ユーザが炊飯条件を入力し、また、現状の動作状態および選択状態の表示する操作パネル部22が設けられている。
図2に示すように、操作パネル部22は、入力手段である複数のスイッチ23と、表示手段である液晶表示板24とを備える。
【0023】
蓋体16の開放状態を検出する蓋状態検出手段として蓋開閉センサ25が配設されている。本実施形態の蓋開閉センサ25は、炊飯器本体11のヒンジ接続部側上部に配設した非接触式センサであるフォトインタラプタからなる。フォトインタラプタは、対向配置された発光部と受光部とを備える。発光部と受光部との間に蓋体16に配設した遮蔽部材が進入すると、受光部への受光が遮断され、その信号が後述するマイコン30に入力されることにより蓋体16の閉塞状態を判断できる。なお、蓋開閉センサ25はフォトインタラプタに限らず、赤外線を照射して反射光を受光することにより対向部の物体の有無を判断可能な測距センサを用いてもよい。また、蓋体16の開放により内鍋10および蓋体16の温度が低下するため、温度センサ15,21を用いることも可能である。
【0024】
炊飯器本体11の正面側には、ホルダー26を介して制御基板27が配設されている。また、ホルダー26には、炊飯器本体11の外部の空気を吸引して制御基板27の電子部品を冷却するファン28が配設され、制御基板27の送風位置に室内温度を検出する室温検出手段である室温センサ29が設けられている。制御基板27には、制御手段であるマイコン30が実装されている。マイコン30には記憶手段であるROM31が内蔵され、このROM31に炊飯処理および保温処理を実行するプログラムが記憶されている。また、マイコン30には、経過時間等を計測する計測タイマ32が内蔵されている。
【0025】
(炊飯処理)
炊飯処理は、周知の炊飯器と同様に、予熱工程、昇温工程、沸騰維持工程およびむらし工程を有し、これらの工程がマイコン30により順番に実行される。予熱工程は、鍋用温度センサ15による検出値Tdが約40℃を維持するように、誘導加熱コイル13および蓋ヒータ18が動作され、飯米に水を吸収させる。昇温工程は、誘導加熱コイル13がフルパワーで動作され、内鍋10内を沸騰直前の温度まで昇温させる。この昇温工程中に蓋用温度センサ21による検出値Tuが第1設定温度Ts1(例えば40℃)から第2設定温度Ts2(例えば60℃)まで昇温した際の温度上昇勾配により、内鍋10内の炊飯容量を判別する。沸騰維持工程は、誘導加熱コイル13、胴ヒータ14および蓋ヒータ18が昇温工程より低い通電率(例えば50%)でオンオフ制御され、内鍋10内を沸騰温度に維持して米飯を炊き上げる。むらし工程は、誘導加熱コイル13、胴ヒータ14および蓋ヒータ18が沸騰維持工程より低い通電率(例えば5%)で動作され、炊き上げた内鍋10内の米飯を蒸らす。
【0026】
(保温処理)
保温処理は、炊飯処理の終了後に引き続いて実行される。または、何ら処理を実行していない待機状態で保温スイッチが操作されると実行される。この保温処理では、マイコン30は、鍋用温度センサ15の検出値Tdに基づいて誘導加熱コイル13、胴ヒータ14および蓋ヒータ18を制御し、米飯を食事可能な保温温度帯(本実施形態では60℃〜80℃)に保温する。マイコン30は、保温温度帯の下限値である温調温度Tk(例えば60℃)、上限側である加熱目標温度Tt(例えば上限値80℃)、および、温調温度Tkより高く加熱目標温度Tt以下の基準温度Tc(例えば70℃)をしきい値として、加熱制御を行う保温制御手段の役割をなす。
【0027】
例えば炊飯処理の終了後、降温により鍋用温度センサ15による検出値Tdが基準温度Tcを下回ると、その下回った時から次に昇温工程を実行する昇温開始時間thまでの低温加熱時間tlを演算する。そして、低温加熱時間tlに基づいて、予め記憶されたデータテーブルに従って次の昇温工程での加熱目標温度Ttを設定する(加熱温度設定手段)。また、更に降温することにより検出値Tdが温調温度Tkになると、その温調温度Tkを維持するように、誘導加熱コイル13、胴ヒータ14および蓋ヒータ18を制御する(第1加熱制御手段)。この温調制御を実行しながら、計測タイマ32による計測時間tmが設定した昇温開始時間thになると、設定した加熱目標温度Ttまで昇温するように、誘導加熱コイル13および胴ヒータ14を制御する(第2加熱制御手段)。第1加熱制御(温調工程)では、誘導加熱コイル13および胴ヒータ14が15秒間中の1秒間オンされ、温調温度Tkをしきい値としてオンオフ制御される。第2加熱制御(昇温工程)では、誘導加熱コイル13および胴ヒータ14が15秒間中の3秒間オンするようにデューティ制御される。
【0028】
ここで、従来の保温処理および本実施形態の保温処理の違いを
図3(A),(B)を参照して説明する。
【0029】
図3(A),(B)に示すように、保温処理では、炊飯処理が終了して保温処理に移行した後の第1昇温開始時間th1、および、2回目以後に昇温を実行する第2昇温開始時間th2が設定されている。また、非加熱状態で自然降温する米飯温度の下降勾配は、保温容量によって異なり、実線で示す多量(満量)、一点鎖線で示す中量および破線で示す少量の順番で傾きが急になる。
【0030】
図3(A)に示すように、従来の保温処理では、内鍋10内の米飯容量に拘わらず、設定された昇温開始時間thになると昇温を開始するとともに、設定された加熱目標温度Ttまで加熱していた。よって、温調温度Tkに維持される温調時間tk1〜tk3は、満量の温調時間tk1が少量の温調時間tk3より短い。そのため、米飯に加わる熱量Qは、少量より満量の方が多い。
【0031】
図3(B)に示すように、本実施形態の保温処理では基準温度Tcを設定し、降温により基準温度Tcを下回った時から昇温開始時間thまでの低温加熱時間tlに基づいて、昇温工程での加熱目標温度Ttの設定を行う。具体的には、低温加熱時間tl1〜tl3が短くなるに従って、加熱目標温度Tt1〜Tt3を低く設定する。これにより、破線で示す保温容量が少量の場合には基準温度Tcより高い状態(時間)が長くなるとともに、実線で示す保温容量が多量の場合には基準温度Tcより高い状態が短くなる。
【0032】
但し、この制御では、内鍋10内の米飯容量が変化しない場合、実線で示す満量のように、1回目の設定で加熱目標温度Tt1を低くすると、昇温後に基準温度Tcを下回るまでの時間が短くなるため、次(2回目)に昇温する際の加熱目標温度Tt1は高く設定される。逆に、破線で示す少量のように、加熱目標温度Tt3を高く設定すると、昇温後に基準温度Tcを下回るまでの時間が長くなるため、次に昇温する際の加熱目標温度Tt3は低く設定される。しかし、加熱目標温度Ttの高温設定および低温設定を交互に繰り返すことになるため、各量の平均保温温度、即ち米飯に加える熱量は略同一に均一化される。
【0033】
基準温度Tcおよび昇温開始時間thは、過剰加熱により生じる黄変および過小加熱により生じる菌の繁殖を考慮して設定される。基準温度Tcは、菌の繁殖に大きく影響する臨界温度に設定している。この基準温度Tcより米飯の温度が低い場合には、黄変の発生を抑制できるが、菌が増殖する可能性が高くなる。逆に、基準温度Tcより米飯の温度が高い場合には、黄変が生じる可能性が高くなるが、菌を殺菌することが可能である。昇温開始時間thは、菌の増殖が顕著になる臨界時間(例えば70℃未満で6時間)を超えない時間とする。本実施形態では、炊飯終了後に行う1回目の昇温開始時間th1を8時間とし、2回目以後に行う昇温開始時間th2を6時間としている。また、この場合の低温加熱時間tlおよび加熱目標温度Ttの一例を
図4に示す。この例では、低温加熱時間tlが20分短くなるに従って、加熱目標温度Ttを1℃低くする設定としている。
【0034】
(蓋体16の開閉に伴う加熱目標温度Ttの第1補正)
マイコン30は、次に昇温を実行する際の加熱目標温度Ttを補正する補正手段の役割を兼ねる。蓋体16を開放すると、空気中の菌が内鍋10内に侵入することがある。また、蓋体16を開放して調理器具(しゃもじ)によって内鍋10内の米飯を取り出すと、調理器具に付着した菌が内鍋10内の米飯に付着する。そのため、蓋開閉センサ25により蓋体16の開放状態を検出すると、加熱目標温度Ttを高くするように補正し、菌の増殖を抑制する。なお、補正対象は、次に実行される昇温工程だけであり、その後に実行される昇温工程は補正しない。
【0035】
具体的には、マイコン30は、蓋開閉センサ25を介して蓋体16の開放を検出すると、その開放時間tcを計測タイマ32により計測する。そして、開放の累積時間ttが設定した判定時間tj(例えば5分)を超えると、加熱目標温度Ttを設定した第1補正値Tr1A(例えば1℃)高くなるように設定する。なお、累積時間ttは、昇温を実行するとリセットされる。
【0036】
また、補正手段としてのマイコン30は、蓋体16の開放を検出すると鍋用温度センサ15によって内鍋温度T0を検出するとともに、蓋体16の閉塞を検出すると鍋用温度センサ15によって内鍋温度T1を検出する。そして、蓋体16を開放した状態での低下温度(T0−T1)が設定した第1判定温度Tj1(例えば5℃)より大きい場合、加熱目標温度Ttを設定した第2補正値Tr1B(例えば1℃)高くなるように設定する。
【0037】
但し、蓋体16を1回開閉した際の第1補正温度Tr1は、累積時間ttによる第1補正値Tr1A、および、低下温度(T0−T1)による第2補正値Tr1Bのうち、多く補正する一方だけを適用する。即ち、第1補正温度Tr1は、第1および第2補正値Tr1A,Tr1Bの両方を加算しない。例えば、累積時間ttが判定時間tjの2倍を超えた場合、第1補正値Tr1Aが2℃に設定される。また、低下温度(T0−T1)が第1判定温度Tj1以上で2倍未満であった場合、第2補正値Tr1Bが1℃に設定される。この場合、第1補正温度Tr1が2℃に設定され、加熱目標温度Ttを2℃高く補正する。
【0038】
また、マイコン30は、例え蓋体16の開放を検出しても、開放中の内鍋温度T0,T1(特に閉塞時の内鍋温度T1)が設定した第2判定温度Tj2より高い場合、加熱目標温度Ttを補正しない。第2判定温度Tj2は、基準温度Tc以上かつ加熱目標温度Ttの上限値未満であり、本実施形態では基準温度Tcと同一(70℃)に設定している。内鍋温度T0,T1が第2判定温度Tj2より高い状態とは昇温状態であり、この状態で蓋体16が開放され、菌が侵入しても直ぐに死滅するためである。
【0039】
例えば、昇温中(内鍋温度が上昇勾配)には、蓋体16を開放した際の内鍋温度T0が第2判定温度Tj2より低く、蓋体16を閉塞した際の内鍋温度T1が第2判定温度Tj2を上回ることがある。この場合、内鍋10内は、蓋体16の閉塞後に更に昇温する状態であり、昇温温度雰囲気で菌を死滅させることが可能である。昇温後(内鍋温度が下降勾配)には、蓋体16を開放した際の内鍋温度T0が第2判定温度Tj2より高く、蓋体16を閉塞した際の内鍋温度T1が第2判定温度Tj2を下回ることがある。この場合、内鍋10内は、蓋体16の閉塞後に更に降温する状態であり、菌の繁殖が促進される可能性があるため、基準温度Tcを下回った時間tcだけを累積時間ttに加算して第1補正値Tr1Aの設定を行うとともに、低下温度T0−T1による第2補正値Tr1Bの設定を行う。
【0040】
蓋体16の開閉に伴う加熱目標温度Ttの補正処理の具体例について、
図5を参照して説明する。
【0041】
図5の蓋開Aに示すように、炊飯処理が終了して保温処理に移行し、基準温度Tcを下回るまでに蓋体16が開閉される。また、基準温度Tcを下回ってから昇温開始時間thまでの低温加熱時間tlAは約4時間30分である。さらに、低温加熱時間tlA中には、蓋体16が開閉されていない。この場合、加熱目標温度Ttが77℃に設定され、第1補正温度Tr1が0℃に設定される。その結果、実際の加熱目標温度TtAは77℃となる。
【0042】
図5の蓋開Bに示すように、基準温度Tcを下回ってから昇温開始時間thまでの低温加熱時間tlBは約4時間30分である。また、低温加熱時間tlB中に蓋体16が開閉され、その累積時間ttが10分以上15分未満であった。さらに、蓋体16の開閉中の低下温度(T0−T1)は7℃であった。この場合、加熱目標温度Ttが77℃に設定され、第1補正温度Tr1が2℃に設定される。その結果、実際の加熱目標温度TtBは79℃となる。
【0043】
図5の蓋開Cに示すように、昇温中の基準温度Tcを上回った状態で蓋体16が開閉される。また、昇温が終了し、基準温度Tcを下回ってから昇温開始時間thまでの低温加熱時間tlCは約4時間である。さらに、低温加熱時間tlC中には、蓋体16が開閉されていない。この場合、加熱目標温度Ttが75℃に設定され、第1補正温度Tr1が0℃に設定される。その結果、実際の加熱目標温度TtCは75℃となる。
【0044】
(室温に伴う加熱目標温度Ttの第2補正)
マイコン30は、室温センサ29によって検出した室内温度Tiに基づいて、次に昇温を実行する際の加熱目標温度Ttを更に補正する第2の補正手段の役割を兼ねる。温度センサ15,21は、室温Tiが低い場合には外気で冷やされるため、誘導加熱コイル13およびヒータ14,18で加熱することによる実際の加熱温度に対して、検出値Td,Tuが低く出力される。よって、設定した基準室温Tci(例えば20℃)と室内温度Tiとの温度差と、第3判定温度Tj3(例えば10℃)とに基づいて、第2補正温度Tr2(例えば3℃)を設定する。具体的には、室内温度Tiが基準温度Tciより第3判定温度Tj3ずつ低くなるに従って、加熱目標温度Ttを第2補正温度Tr2ずつ低くする。逆に、室内温度Tiが基準温度Tciより第3判定温度Tj3ずつ高くなるに従って、加熱目標温度Ttを第2補正温度Tr2ずつ高くする。これにより、米飯の過剰加熱を防止するとともに、加熱不足による菌の繁殖を防止する。
【0045】
(加熱後の降温制御)
マイコン30は、加熱目標温度Ttまで昇温した後に、加熱を停止した自然降温より緩やかな下降勾配で降温させる降温制御手段の役割を兼ねる。具体的には、昇温終了後に、加熱目標温度Ttから基準温度Tcの間の温度帯を制御する第1降温制御と、基準温度Tcから温調温度Tkの間の温度帯を制御する第2降温制御とを行う。第1降温制御の通電率は、第2降温制御の通電率より高く、第2降温制御より緩やかな温度下降勾配となるように設定している。例えば、第1降温制御では30秒間中に1秒間、第2降温制御では60秒間中の1秒間、誘導加熱コイル13および胴ヒータ14をオンするようにデューティ制御する。これにより、基準温度Tc以上の温度帯の時間を長くしている。
【0046】
次に、マイコン30による保温処理について具体的に説明する。
【0047】
保温処理は、炊飯処理の終了後または操作パネル部22のスイッチ操作により開始され、操作パネル部22のスイッチ操作により停止されるまで実行される。保温処理では、
図6に示す加熱処理と、
図7A,Bに示す加熱目標温度第1補正処理とが、繰り返し並行処理される。また、温度センサ15,21によって検出値Td,Tuが例えば25ms毎に検出される。
【0048】
(加熱処理)
図6に示すように、加熱処理では、マイコン30は、ステップS1で昇温開始時間thを読み込み、ステップS2で昇温開始時間thを計測するための計測タイマ32をリセットしてスタートさせる。
【0049】
ついで、ステップS3で緩やかな下降勾配で降温させる第1降温制御工程を実行する。この第1降温制御工程は、ステップS4で鍋用温度センサ15の検出値Tdが基準温度Tc未満になるまで実行される。検出値Tdが基準温度Tcを下回ると第1降温制御工程を停止し、ステップS5で昇温開始時間thまでの低温加熱時間tlに基づいて、加熱目標温度Tt0を設定する。
【0050】
その後、ステップS6で第1降温制御より急な下降勾配で降温させる第2降温制御工程を実行する。この第2降温制御工程は、ステップS7で検出値Tdが温調温度Tkになるまで実行される。検出値Tdが温調温度Tkになると第2降温制御工程を停止し、ステップS8で温調温度Tkを維持させる第1加熱制御(温調)工程を実行する。この第1加熱制御工程は、ステップS9で昇温開始時間thが経過するまで実行される。
【0051】
加熱開始時間thが経過すると、第1加熱制御工程を停止し、ステップS10で後で詳細に説明する加熱目標温度Ttの補正工程を実行する。その後、ステップS11で内鍋10を介して米飯を昇温させる第2加熱制御(昇温)工程を実行する。この第2加熱制御工程は、検出値Tdが加熱目標温度Ttになるまで実行される。検出値dが加熱目標温度Ttになると第2加熱制御工程を停止し、ステップS1に戻る。
【0052】
このように、本実施形態の保温(加熱)処理では、菌が繁殖する可能性が高い基準温度Tc未満の低温加熱時間tlに従って、加熱目標温度Ttを設定する。そのため、菌の殺菌を促進し、増殖を抑制できる。また、食品が過剰に加熱されることを抑制し、味が損なわれることを抑制できる。しかも、本実施形態では、炊飯終了後または昇温終了後に、緩やかな下降勾配で降温させるため、菌の繁殖を抑制可能な温度帯の時間を長く確保できる。よって、菌の増殖を確実に抑制できる。
【0053】
(第1補正処理)
図7Aに示すように、蓋体16の開閉に伴う加熱目標温度Ttの第1補正処理では、マイコン30は、ステップS20で蓋開閉センサ25を介して蓋体16が開放されたことを検出するまで待機する。蓋体16の開放を検出すると、ステップS21で内鍋温度T0を読み込み、ステップS22で内鍋温度T0が第2判定温度Tj2(基準温度Tc)未満であるか否かを判断する。そして、T0<Tj2でない場合にはステップS23に進み、T0<Tj2である場合にはステップS26に進む。
【0054】
ステップS23では、蓋体16が閉塞されたか否かを判断する。そして、蓋体16が閉塞された場合にはステップS20に戻る。また、蓋体16が閉塞されない場合には、ステップS24で内鍋温度Tを読み込み、ステップS25で内鍋温度Tが第2判定温度Tj2未満であるか否かを判断する。そして、T<Tj2でない場合にはステップS23に戻り、T<Tj2である場合にはステップS26に進む。即ち、内鍋温度T0が第2判定温度Tj2以上である場合、蓋体16の開放中に内鍋温度Tが第2判定温度Tj2を下回るとステップS26に進み、内鍋温度Tが第2判定温度Tj2を下回ることなく蓋体16が閉塞されるとステップS20に戻る。
【0055】
ステップS26では、蓋体16の開放時間tcを計測する計測タイマ32をリセットしてスタートさせた後、ステップS27で蓋体16の閉塞を検出するまで待機する。そして、蓋体16が閉塞されると、ステップS28で開放時間tcの計測タイマ32を停止する。その後、ステップS29で内鍋温度T1を読み込み、ステップS30で内鍋温度T1が第2判定温度Tj2未満であるか否かを判断する。そして、閉塞時の内鍋温度T1が第2判定温度Tj2以上の場合、即ち、昇温中の場合にはステップS20に戻る。また、内鍋温度T1が第2判定温度Tj2未満の場合には、
図7Bに示すステップS31,S36に進む。
【0056】
図7Bに示すように、閉塞時の内鍋温度T1が第2判定温度Tj2未満の場合には、ステップS31〜S35の第1補正設定と、ステップS36〜S38の第2補正設定とを並行処理する。
【0057】
第1補正設定では、ステップS31で累積時間ttに計測した開放時間tcを加算した後、ステップS32で累積時間ttが判定時間tjを超えたか否かを判断する。そして、tt>tjの場合、ステップS33で第1補正値Tr1Aを設定した後、ステップS34で累積時間ttから判定時間tjを減算して累積時間ttを調整する。また、tt>tjでない場合には、ステップS35で第1補正値Tr1Aを0分に設定する。
【0058】
第2補正設定では、ステップS36で、蓋体16の開放時の内鍋温度T0から蓋体16の閉塞時の内鍋温度T1を減算した低下温度が、第1判定温度Tj1より大きいか否かを判断する。そして、(T0−T1)>Tj1の場合、ステップS37で第2補正値Tr1Bを設定する。また、(T0−T1)>Tj1でない場合には、ステップS38で第2補正値Tr1Bを0分に設定する。
【0059】
第1および第2補正設定が終了すると、ステップS39で第1補正値Tr1Aが第2補正値Tr1B以上であるか否かを判断する。そして、Tr1A≧Tr1Bである場合には、ステップS40で、第1補正温度Tr1に第1補正値Tr1Aを加算してステップS20に戻る。また、Tr1A≧Tr1Bでない場合には、ステップS41で、第1補正温度Tr1に第2補正値Tr1Bを加算してステップS20に戻る。
【0060】
このように、蓋体16の開放を検出すると、累積時間tt、および、低下温度(T0−T1)に基づいて第1補正温度Tr1を設定する。そして、加熱処理での加熱目標温度Ttが高くなるように補正するため、侵入した菌の増殖を抑制し、菌の殺菌を促進することができる。しかも、閉塞時の温度T1が第2判定温度Tj2より高い場合には、昇温中であると判断し、昇温開始時間thを短縮しないため、米飯に対する過剰加熱を確実に防止し、美味しさが損なわれることを確実に防止できる。
【0061】
次に、加熱処理のステップS10の補正工程について説明する。
【0062】
図8に示すように、加熱目標温度Ttの補正工程では、ステップS10−1で第1補正処理により設定した第1補正温度Tr1を読み込んだ後、ステップS10−2で、第1補正処理で設定している第1補正温度Tr1および計測している累積時間ttをリセットする。
【0063】
ついで、ステップS10−3で室温センサ29によって室内温度Tiを読み込んだ後、ステップS10−4で基準室温Tciとの温度差および第3判定温度Tj3に基づいて第2補正温度Tr2を設定する。
【0064】
その後、ステップS10−5で、低温加熱時間tlに基づいて設定した加熱目標温度Tt0に、第1補正処理で設定した第1補正温度Tr1を加算するとともに、ステップS10−4で設定した第2補正温度Tr2を加減算し、その値を加熱目標温度Ttとする。なお、補正後の加熱目標温度Ttは、保温温度帯の上限値(80℃)を超えて補正できるようにしてもよいし、補正できないようにしてもよい。
【0065】
このように、加熱目標温度Ttを蓋体16の開閉により設定した第1補正温度Tr1で補正し、更に室温Tiにより設定した第2補正温度Tr2で補正する。そのため、温度センサ15,21が室温Tiの影響を受けて、米飯を過剰加熱することを防止できるとともに、加熱不足により菌が繁殖することを防止できる。
【0066】
なお、本発明は、前記実施形態の構成に限定されず、種々の変更が可能である。
【0067】
例えば、前記実施形態では、低温加熱時間tlと予め記憶したデータテーブルとに基づいて、最初の加熱目標温度Ttを設定する構成としたが、基準加熱目標温度Tctを設定し、低温加熱時間tlに基づいて、減少するように補正する構成、増加するように補正する構成、および、増減するように補正する構成としてもよい。
【0068】
また、前記実施形態では、温調温度Tkから加熱目標温度Ttへ昇温する際に、一定の通電率でデューティ制御する構成としたが、温調温度Tkから基準温度Tcまでの第1温度帯と、基準温度Tcから加熱目標温度Ttまでの第2温度帯の通電率を異なる設定としてもよい。具体的には、第1温度帯の第1昇温制御工程では、誘導加熱コイル13および胴ヒータ14を15秒間中3秒間オンするようにデューティ制御する。また、第2温度帯の第2昇温制御工程では、誘導加熱コイル13および胴ヒータ14を15秒間中2秒間オンするようにデューティ制御する。このようにして菌を殺菌可能な温度帯の時間を長く確保し、菌の増殖を確実に抑制する構成とする。
【0069】
さらに、前記実施形態では、操作パネル部22のスイッチ操作により保温処理を実行した場合、その時の内鍋温度Tdに従って、第1降温制御工程、第2降温制御工程および第1加熱制御工程のいずれかを実行するが、スイッチ操作時の内鍋温度Tdに基づいて昇温(第2加熱制御工程)を実行する開始時間を変更してもよい。具体的には、内鍋温度Tdが温調温度Tkより低い場合には、直ぐに昇温を実行する。また、内鍋温度Tdが温調温度Tkより高く基準温度Tcより低い場合には、昇温開始時間thの半分の時間(1/2th)が経過した後に昇温を実行する。または、保温処理が終了される直前に実行した昇温時刻を記憶しておき、その時刻から昇温開始時間thが経過した後(既に経過している場合には直ぐ)に昇温を実行する。さらに、内鍋温度Tdが基準温度Tcより高い場合には、昇温開始時間thが経過した後に昇温を実行する。
【0070】
さらにまた、保温処理中に停電し復帰した場合、その停電時間に基づいて昇温を実行する開始時間を変更してもよい。具体的には、停電時間が短い(例えば3分程度)場合には昇温開始時間thを短縮せず、停電時間が長い(例えば10分以上)場合には昇温開始時間thを短縮する。
【0071】
そして、前記実施形態では、内鍋10の内圧を大気圧より高い圧力には昇圧不可能な非圧力方式の炊飯器を例に挙げて説明したが、大気圧より高い圧力に昇圧可能な圧力式の炊飯器にも適用可能であり、同様の作用および効果を得ることができる。また、炊飯器に限らず、保温機能だけを搭載した保温機器としても、同様の作用および効果を得ることができる。この場合、保温対象物は米飯に限らず、おかずなどの調理物であっても、同様の作用および効果を得ることができる。勿論、調理物に限らず、所定温度に保温する必要がある食品であれば同様の作用および効果を得ることができる。