特許第6018546号(P6018546)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018546
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】ゴム複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 25/08 20060101AFI20161020BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   B32B25/08
   C09D175/04
【請求項の数】8
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2013-111055(P2013-111055)
(22)【出願日】2013年5月27日
(65)【公開番号】特開2014-226908(P2014-226908A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2016年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】原 淳
(72)【発明者】
【氏名】赤間 秀洋
(72)【発明者】
【氏名】石原 健延
(72)【発明者】
【氏名】権藤 亜紀子
【審査官】 相田 元
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−002051(JP,A)
【文献】 特表2009−538768(JP,A)
【文献】 特開2003−238797(JP,A)
【文献】 特開平11−279528(JP,A)
【文献】 特開平10−306210(JP,A)
【文献】 特開平08−134163(JP,A)
【文献】 特開平08−150684(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0103281(US,A1)
【文献】 特表2010−508419(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
C09D 175/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリチオール化合物(A)、イソシアネート基含有化合物(B)、及びラジカル発生剤(C)を配合してなり、該ポリチオール化合物(A)に含まれるチオール基の合計モル数に対する、該イソシアネート基含有化合物(B)に含まれるイソシアネート基の合計モル数の比(イソシアネート基/チオール基)が0.20以上かつ0.80以下である組成物を含むコーティング剤をゴム物品の表面の少なくとも一部に付着させた後、
該コーティング剤に加熱及び光照射の少なくとも一方を施すことによりコーティング体とすることを特徴とする該コーティング体と該ゴム物品とからなるゴム複合体の製造方法。
【請求項2】
ポリチオール化合物(A)、イソシアネート基含有化合物(B)、及びラジカル発生剤(C)を配合してなり、該ポリチオール化合物(A)に含まれるチオール基の合計モル数に対する、該イソシアネート基含有化合物(B)に含まれるイソシアネート基の合計モル数の比(イソシアネート基/チオール基)が0.20以上かつ0.80以下である組成物を含むコーティング剤からなるコーティングシートを形成し、
該コーティングシートをゴム物品の表面の少なくとも一部に付着させた後、
該コーティングシートに加熱及び光照射の少なくとも一方を施すことによりコーティング体とすることを特徴とする該コーティング体と該ゴム物品とからなるゴム複合体の製造方法。
【請求項3】
前記コーティング剤を前記ゴム物品の表面の少なくとも一部に塗布して付着させる、請求項1に記載のゴム複合体の製造方法。
【請求項4】
前記コーティングシートを形成した後、0〜60℃で1分以上空気中で放置し、その後該コーティングシートを前記ゴム物品の表面の少なくとも一部に付着させる、請求項2に記載のゴム複合体の製造方法。
【請求項5】
前記ラジカル発生剤(C)が、光ラジカル発生剤を含み、前記ポリチオール化合物(A)に含まれるチオール基の合計モル数に対する、該光ラジカル発生剤の合計モル数の比(光ラジカル発生剤/チオール基)が0.0005以上である、請求項1〜4のいずれかに記載のゴム複合体の製造方法。
【請求項6】
前記ラジカル発生剤(C)が、熱ラジカル発生剤を含み、前記ポリチオール化合物(A)に含まれるチオール基の合計モル数に対する、該熱ラジカル発生剤の合計モル数の比(熱ラジカル発生剤/チオール基)が0.025以上である、請求項1〜4のいずれかに記載のゴム複合体の製造方法。
【請求項7】
前記ラジカル発生剤(C)が光ラジカル発生剤と熱ラジカル発生剤とを含み、前記ポリチオール化合物(A)に含まれるチオール基の合計モル数に対する、該ラジカル発生剤(C)の合計モル数の比(ラジカル発生剤(C)/チオール基)が0.025以上である、請求項1〜4のいずれかに記載のゴム複合体の製造方法。
【請求項8】
前記ゴム物品が加硫ゴム物品である、請求項1〜7のいずれかに記載のゴム複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム複合体の製造方法及びゴム複合体に関し、詳しくは、ゴム物品の表面に付着させるのに好適な組成物を含むコーティング剤及び該コーティング剤からなるコーティングシートの少なくとも1種を用いる、該コーティング体と該ゴム物品とからなるゴム複合体の製造方法、及び該製造方法を利用して得られるゴム複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、タイヤ等のゴム物品との密着性が良好なコーティング体が求められていたが、十分な密着性を得られる材料がなかった。加硫ゴム物品を密着する方法として、例えば、特許文献1には、加硫ゴム用表面処理剤として、1,2−ポリブタジエン水酸基含有物、液状ポリブタジエンイソシアネート化物及びポリオレフィン樹脂を含む水性分散液を用いることが開示されている。
また、特許文献2には、少なくとも架橋性ポリマーベースと、加硫剤と、特定の界面活性剤とを含む水性エマルジョンから製造したポリマータイヤコーティングが提案されている。
さらに、特許文献3には、紫外線硬化型の熱可塑性エラストマーをタイヤの側面上に塗布し、塗布した紫外線硬化型の熱可塑性エラストマーに紫外線を照射して硬化層を形成する第1層形成工程と、形成した硬化層上に紫外線硬化型の熱可塑性エラストマーを塗布し、塗布した紫外線硬化型の熱可塑性エラストマーに紫外線を照射して硬化層を積層する積層工程と、を含み、タイヤ側面上に複数の硬化層の積層体よりなる装飾を形成することを特徴とする、タイヤ側面の装飾方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−252442号公報
【特許文献2】特開2013−505348号公報
【特許文献3】特開2013−10295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、ポリウレタン系の表面処理剤を用いているため、共有結合によりゴム物品に密着しているものではなく、ゴム物品との密着性は低かった。
また、特許文献2に記載の方法は、特定の界面活性剤を含む水性エマルジョンから製造したポリマータイヤコーティングをタイヤ等のゴム物品に噴霧又はブラシがけするものであるので、ゴム物品の表面の少なくとも一部にコーティング体を形成することには不適であり、加飾性を付与するものではなかった。
そして、特許文献3に記載の方法は、(メタ)アクリロイル基を有するオリゴマー等の紫外線硬化型の熱可塑性エラストマーに紫外線を照射して硬化層を形成する工程を繰り返すのでコーティング体の形成に手間がかかるものであった。
そこで、本発明は、手間をかけずにゴム物品に容易に付着させることができ、かつ強力に密着し得るコーティング剤を用いた、加飾性を付与することのできるコーティング体とゴム物品とからなるゴム複合体の製造方法、及びその方法で得られたゴム複合体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、ポリチオール化合物(A)、イソシアネート基含有化合物(B)、及びラジカル発生剤(C)を特定の割合で配合してなる組成物を含むコーティング剤及び該コーティング剤を用いてなるコーティングシートの少なくとも1種を用い、加熱及び光照射の少なくとも一方を施すことにより、本発明の課題を解決し得ることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0006】
即ち、本発明は、
[1] ポリチオール化合物(A)、イソシアネート基含有化合物(B)、及びラジカル発生剤(C)を配合してなり、該ポリチオール化合物(A)に含まれるチオール基の合計モル数に対する、該イソシアネート基含有化合物(B)に含まれるイソシアネート基の合計モル数の比(イソシアネート基/チオール基)が0.20以上かつ0.80以下である組成物を含むコーティング剤をゴム物品の表面の少なくとも一部に付着させた後、該コーティング剤に加熱及び光照射の少なくとも一方を施すことによりコーティング体とすることを特徴とする該コーティング体と該ゴム物品とからなるゴム複合体の製造方法、
[2] ポリチオール化合物(A)、イソシアネート基含有化合物(B)、及びラジカル発生剤(C)を配合してなり、該ポリチオール化合物(A)に含まれるチオール基の合計モル数に対する、該イソシアネート基含有化合物(B)に含まれるイソシアネート基の合計モル数の比(イソシアネート基/チオール基)が0.20以上かつ0.80以下である組成物を含むコーティング剤からなるコーティングシートを形成し、該コーティングシートをゴム物品の表面の少なくとも一部に付着させた後、該コーティングシートに加熱及び光照射の少なくとも一方を施すことによりコーティング体とすることを特徴とする該コーティング体と該ゴム物品とからなるゴム複合体の製造方法、
[3] 前記コーティング剤を前記ゴム物品の表面の少なくとも一部に塗布して付着させる、上記[1]に記載のゴム複合体の製造方法、
[4] 前記コーティングシートを形成した後、〜60℃で1分以上空気中で放置し、その後該コーティングシートを前記ゴム物品の表面の少なくとも一部に付着させる、上記[2]に記載のゴム複合体の製造方法、
[5] 前記ラジカル発生剤(C)が光ラジカル発生剤を含み、前記ポリチオール化合物(A)に含まれるチオール基の合計モル数に対する、該光ラジカル発生剤の合計モル数の比(光ラジカル発生剤/チオール基)が0.0005以上である、上記[1]〜[4]のいずれかに記載のゴム複合体の製造方法、
[6] 前記ラジカル発生剤(C)が熱ラジカル発生剤を含み、前記ポリチオール化合物(A)に含まれるチオール基の合計モル数に対する、該熱ラジカル発生剤の合計モル数の比(熱ラジカル発生剤/チオール基)が0.025以上である上記[1]〜[4]のいずれかに記載のゴム複合体の製造方法、
[7] 前記ラジカル発生剤(C)が光ラジカル発生剤と熱ラジカル発生剤とを含み、前記ポリチオール化合物(A)に含まれるチオール基の合計モル数に対する、該ラジカル発生剤(C)の合計モル数の比(ラジカル発生剤(C)/チオール基)が0.025以上である上記[1]〜[4]のいずれかに記載のゴム複合体の製造方法、及び
[8] 前記ゴム物品が加硫ゴム物品である、上記[1]〜[7]のいずれかに記載のゴム複合体の製造方法
提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、手間をかけずにゴム物品に容易に付着させることができ、かつ強力に密着し得るコーティング剤を用いた、加飾性を付与することのできるコーティング体とゴム物品とからなるゴム複合体の製造方法、及びその方法で得られたゴム複合体を得ることができる。
本発明は、さらに、透明なコーティング剤を得ることができるので、光照射により効果的にゴム物品との密着性を付与させることができる。また、有機溶剤を用いることなくコーティング剤を調製することができるので、環境負荷がかからないとの効果をも奏し得る。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書において、好ましいとされている規定は任意に採用することができ、好ましいとされている規定の組み合わせは、より好ましいと言える。
「ゴム複合体の製造方法」
本発明の第一の態様は、ポリチオール化合物(A)、イソシアネート基含有化合物(B)、及びラジカル発生剤(C)を配合してなり、該ポリチオール化合物(A)に含まれるチオール基の合計モル数に対する、該イソシアネート基含有化合物(B)に含まれるイソシアネート基の合計モル数の比(イソシアネート基/チオール基)が0.20以上かつ0.80以下である組成物を含むコーティング剤をゴム物品の表面の少なくとも一部に付着させた後、該コーティング剤に加熱及び光照射の少なくとも一方を施すことによりコーティング体とすることを特徴とする該コーティング体と該ゴム物品とからなるゴム複合体の製造方法であり、本発明の第二の態様は、ポリチオール化合物(A)、イソシアネート基含有化合物(B)、及びラジカル発生剤(C)を配合してなり、該ポリチオール化合物(A)に含まれるチオール基の合計モル数に対する、該イソシアネート基含有化合物(B)に含まれるイソシアネート基の合計モル数の比(イソシアネート基/チオール基)が0.20以上かつ0.80以下である組成物(以下、「コーティング組成物」ということがある。)を含むコーティング剤からなるコーティングシートを形成し、該コーティングシートをゴム物品の表面の少なくとも一部に付着させた後、該コーティングシートに加熱及び光照射の少なくとも一方を施すことによりコーティング体とすることを特徴とする該コーティング体と該ゴム物品とからなるゴム複合体の製造方法である。
まず、本発明の製造方法に用いるコーティング組成物及び該コーティング組成物を含むコーティング剤の成分について以下に説明する。
【0009】
[コーティング組成物]
本発明で用いるコーティング組成物は、ポリチオール化合物(A)、イソシアネート基含有化合物(B)、及びラジカル発生剤(C)を配合してなり、配合されるポリチオール化合物(A)に含まれるチオール基の合計モル数に対する、配合されるイソシアネート基含有化合物(B)に含まれるイソシアネート基の合計モル数の比(イソシアネート基/チオール基)が0.20以上かつ0.80以下であることを特徴とする。
当該モル数比(イソシアネート基/チオール基)が0.20以上であれば、コーティング組成物が十分に強固に硬化し、コーティング体の凝集力が大きくなる。また、当該モル数比(イソシアネート基/チオール基)が0.80以下であれば、チオール基が十分な存在量となるために、例えばチオール基とゴム物品の炭素−炭素二重結合との間でのチオール・エン反応が十分に行われて、コーティング組成物をゴム物品に強固に密着させることができるようになり、密着強度が大きい。従って、当該比(イソシアネート基/チオール基)は、好ましくは0.30以上であり、より好ましくは0.70以下であり、更に好ましくは0.40〜0.60である。
ここで、配合されるポリチオール化合物(A)に含まれるチオール基の合計モル数は、配合されるポリチオール化合物(A)のモル数に、ポリチオール化合物(A)の1分子が有するチオール基数を乗じることにより算出することができる。
また、配合されるイソシアネート基含有化合物(B)に含まれるイソシアネート基の合計モル数は、JIS K1603−1:2007 B法により測定することができる。
更に、上記モル数の比(イソシアネート基/チオール基)は、上記のようにして得られる、配合されるイソシアネート基含有化合物(B)に含まれるイソシアネート基の合計モル数を、配合されるポリチオール化合物(A)に含まれるチオール基の合計モル数で除することにより求めることができる。
【0010】
該コーティング組成物によると、未加硫ゴムに限らず、加硫ゴムをも容易に強力に密着することができる。その理由は、次のとおりであると推測される。
ポリチオール化合物(A)の一部とイソシアネート基含有化合物(B)とがウレタン化反応を起こすことにより、コーティング組成物が強固に硬化すると考えられる。また、ポリチオール化合物(A)の他の一部が、ラジカル発生剤(C)と反応してチイルラジカルが生じ、このチイルラジカルが、ゴム中に存在する炭素−炭素二重結合と反応すると考えられる。このようなチオール・エン反応により、コーティング組成物がゴムに化学的に結合することにより、コーティング組成物がゴムに強力に密着すると考えられる。特に、未加硫ゴムのみならず加硫ゴムにも炭素−炭素二重結合が存在するため、本発明に係るコーティング組成物によると、ゴム特に加硫ゴムを強力に密着することができると考えられる。
また、ゴム中に存在する炭素-炭素結合主鎖からの水素引き抜き反応により、ポリチオール化合物(A)のチオール基の硫黄原子と炭素−炭素結合の炭素原子とが化学的に結合すると考えられる。したがって、必ずしもゴム中に炭素-炭素二重結合が存在しなくてもよい。
なお、本明細書において、ポリチオール化合物(A)、イソシアネート基含有化合物(B)、ラジカル発生剤(C)、ウレタン化触媒(D)及び表面調整剤(E)を、それぞれ、成分(A)、成分(B)、成分(C)、成分(D)及び成分(E)ということがある。
【0011】
<ポリチオール化合物(A)>
本発明において、ポリチオール化合物(A)とは、1分子中にチオール基を2つ以上有する化合物のことをいう。
ポリチオール化合物(A)には特に制限はないが、密着性を向上させる観点から、1分子中にチオール基を2〜6個有するものが好ましい。
また、ポリチオール化合物(A)には、第1級、第2級及び第3級のものが含まれるが、密着性を向上させる観点から、第1級がより好ましい。
ポリチオール化合物(A)の分子量は、密着性を向上させる観点から、好ましくは3000以下であり、より好ましくは2000以下であり、更に好ましくは1000以下であり、より更に好ましくは900以下であり、より更に好ましくは800以下である。なお、ポリチオール化合物(A)がポリマーの場合、分子量とは、標準ポリスチレン換算の数平均分子量のことをいう。
【0012】
ポリチオール化合物(A)としては、ヘテロ原子を含んでいてもよい脂肪族ポリチオール及びヘテロ原子を含んでいてもよい芳香族ポリチオールが挙げられ、密着性を向上させる観点から、ヘテロ原子を含んでいてもよい脂肪族ポリチオールが好ましい。
ここで、ヘテロ原子を含んでいてもよい脂肪族ポリチオールとは、1分子中にチオール基を2つ以上有する、ヘテロ原子を含んでもよい脂肪族化合物のことをいう。また、ヘテロ原子を含んでいてもよい芳香族ポリチオールとは、1分子中にチオール基を2つ以上有する、ヘテロ原子を含んでもよい芳香族化合物のことをいう。
ヘテロ原子は、密着力の向上の観点から、好ましくは酸素、窒素、硫黄、リン、ハロゲン原子、ケイ素から選択される少なくとも1種であり、より好ましくは酸素、窒素、硫黄、リン及びハロゲン原子から選択される少なくとも1種であり、更に好ましくは酸素、窒素及び硫黄から選択される少なくとも1種である。
【0013】
ヘテロ原子を含んでいてもよい脂肪族ポリチオールとしては、例えば、炭素数2〜20のアルカンジチオール等のようにチオール基以外の部分が脂肪族炭化水素であるポリチオール、アルコールのハロヒドリン付加物のハロゲン原子をチオール基で置換してなるポリチオール、ポリエポキシド化合物の硫化水素反応生成物からなるポリチオール、分子内に水酸基2〜6個を有する多価アルコールとチオグリコール酸とのエステル化により得られるチオグリコール酸エステル化物、分子内に水酸基2〜6個を有する多価アルコールとメルカプト脂肪酸とのエステル化により得られるメルカプト脂肪酸エステル化物、イソシアヌレート化合物とチオールとを反応させてなるチオールイソシアヌレート化合物、ポリスルフィド基を含有するチオール、チオール基で変性されたシリコーン、チオール基で変性されたシルセスキオキサン等が挙げられる。
なお、上記の分子内に水酸基2〜6個を有する多価アルコール類としては、炭素数2〜20のアルカンジオール、ポリ(オキシアルキレン)グリコール、グリセロール、ジグリセロール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0014】
これらの中で、密着性の向上の観点から、チオール基以外の部分が脂肪族炭化水素であるポリチオール、アルコールのハロヒドリン付加物のハロゲン原子をチオール基で置換してなるポリチオール、ポリエポキシド化合物の硫化水素反応生成物からなるポリチオール、チオグリコール酸エステル化物、メルカプト脂肪酸エステル化物、及びチオールイソシアヌレート化合物がより好ましく、メルカプト脂肪酸エステル化物及びチオールイソシアヌレート化合物が更に好ましく、メルカプト脂肪酸エステル化物がより更に好ましい。同様の観点から、ポリスルフィド基やシロキサン結合を含有しないチオールがより好ましい。
【0015】
(チオール基以外の部分が脂肪族炭化水素であるポリチオール)
チオール基以外の部分が脂肪族炭化水素であるポリチオールの例としては炭素数2〜20のアルカンジチオールがある。
前記炭素数2〜20のアルカンジチオールとしては、1,2−エタンジチオール、1,1−プロパンジチオール、1,2−プロパンジチオール、1,3−プロパンジチオール、2,2−プロパンジチオール、1,4−ブタンジチオール、2,3−ブタンジチオール、1,5−ペンタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,8−オクタンジチオール、1,10−デカンジチオール、1,1−シクロヘキサンジチオール、1,2−シクロヘキサンジチオール等が挙げられる。
【0016】
(チオグリコール酸エステル化物)
チオグリコール酸エステル化物としては、1,4−ブタンジオールビスチオグリコレート、1,6−ヘキサンジオールビスチオグリコレート、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート等が挙げられる。
【0017】
(メルカプト脂肪酸エステル化物)
メルカプト脂肪酸エステル化物としては、密着性の向上の観点から、第1級チオール基を有するメルカプト脂肪酸エステル化物が好ましく、分子内に水酸基2〜6個を有する多価アルコールの、β−メルカプトプロピオン酸エステル化物がより好ましい。また、第1級チオール基を有するメルカプト脂肪酸エステル化物は、密着性の向上の観点から、1分子中におけるチオール基の数が4〜6個であることが好ましく、4個又は5個であることがより好ましく、4個であることが更に好ましい。
【0018】
上記の第1級チオール基を有するβ−メルカプトプロピオン酸エステル化物としては、好ましくは、テトラエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)(EGMP−4)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)(TMMP)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)(PEMP)、及びジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)(DPMP)が挙げられる。これらの中で、PEMP及びDPMPが好ましく、PEMPがより好ましい。
なお、PEMPは[SC有機化学株式会社製、商品名「PEMP」、チオール基4個]として、DPMPは[SC有機化学株式会社製、商品名「DPMP」、チオール基6個]として、入手できる。
【0019】
なお、第2級チオール基を有するβ−メルカプトプロピオン酸エステル化物としては、分子内に水酸基2〜6個を有する多価アルコール類と、β−メルカプトブタン酸とのエステル化物が挙げられ、具体的には、1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)等が挙げられる。
【0020】
(チオールイソシアヌレート化合物)
イソシアヌレート化合物とチオールとを反応させてなるチオールイソシアヌレート化合物としては、密着力の向上の観点から、第1級チオール基を有するチオールイソシアヌレート化合物が好ましい。また、第1級チオール基を有するチオールイソシアヌレート化合物としては、密着性の向上の観点から、1分子中におけるチオール基の数が2〜4個であることが好ましく、3個であることがより好ましい。
上記の第1級チオール基を有するチオールイソシアヌレート化合物としては、トリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート(TEMPIC)が好ましい。
【0021】
(チオール基で変性されたシリコーン)
チオール基で変性されたシリコーンとしては、商品名KF-2001、KF-2004、X-22-167B(信越化学工業)、SMS042、SMS022(Gelest社)、PS849、PS850(UCT社)等が挙げられる。
【0022】
(芳香族ポリチオール)
芳香族ポリチオールとしては、1,2−ジメルカプトベンゼン、1,3−ジメルカプトベンゼン、1,4−ジメルカプトベンゼン、1,2−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,4−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,2−ビス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,3−ビス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,4−ビス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,2,3−トリメルカプトベンゼン、1,2,4−トリメルカプトベンゼン、1,3,5−トリメルカプトベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,2,4−トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3,5−トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,2,4−トリス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,3,5−トリス(メルカプトエチル)ベンゼン、2,5−トルエンジチオール、3,4−トルエンジチオール、1,3−ジ(p−メトキシフェニル)プロパン−2,2−ジチオール、1,3−ジフェニルプロパン−2,2−ジチオール、フェニルメタン−1,1−ジチオール、2,4−ジ(p−メルカプトフェニル)ペンタン等が挙げられる。
【0023】
<イソシアネート基含有化合物(B)>
イソシアネート基含有化合物(B)としては、芳香族、脂肪族、脂環族のジイソシアネート、これらの変性体等が挙げられる。
【0024】
芳香族、脂肪族、脂環族のジイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ナフチレンジイソシアネート(NDI)、フェニレンジイソシアネート(PPDI)、m−テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、メチルシクロへキサンジイソシアネート(水素化TDI)、ジシクロへキシルメタンジイソシアネート(水素化MDI)、シクロへキサンジイソシアネート(水素化PPDI)、ビス(イソシアナトメチル)シクロへキサン(水素化XDI)、ノルボルネンジイソシアネート(NBDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、へキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ブタンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルへキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルへキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0025】
配合されるポリチオール化合物(A)が、メルカプト脂肪酸エステル化物及びチオールイソシアヌレート化合物である場合、配合されるイソシアネート基含有化合物(B)は、へキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、及びジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)の1種又は2種以上が好ましい。また、これらの中では、へキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ビス(イソシアナトメチル)シクロへキサン(水素化XDI)及びトリレンジイソシアネート(TDI)の1種又は2種以上がより好ましい。
【0026】
また、芳香族、脂肪族、脂環族のジイソシアネートの変性体としては、トリメチロールプロパンとイソシアネートとの反応により得られるTMP(トリメチロールプロパン)アダクト型変性体、イソシアネートの3量化により得られるイソシアヌレート型変性体、ウレアとイソシアネートとの反応により得られるビューレット型変性体、ウレタンとイソシアネートとの反応により得られるアロファネート型変性体、ポリオールとの反応で得られるプレポリマー体等が挙げられ、適宜、使用することができる。
【0027】
なお、TMPアダクト型変性体、イソシアヌレート型変性体、ビューレット型変性体、アロファネート型変性体としては、密着性の向上の観点から、次の変性体が好ましい。
すなわち、TMPアダクト型変性体としては、TMPとTDIとの反応により得られるTMPアダクト型変性体、TMPとXDIとの反応により得られるTMPアダクト型変性体、TMPと水添XDIとの反応により得られるTMPアダクト型変性体、TMPとIPDIとの反応により得られるTMPアダクト型変性体、TMPとHDIとの反応により得られるTMPアダクト型変性体、及びTMPとMDIとの反応により得られるTMPアダクト型変性体が好ましい。
また、イソシアヌレート型変性体としては、HDIの3量化により得られるイソシアヌレート型変性体、IPDIの3量化により得られるイソシアヌレート型変性体、TDIの3量化により得られるイソシアヌレート型変性体、及び水添XDIの3量化により得られるイソシアヌレート型変性体、が好ましい。
また、ビューレット型変性体としては、ウレアとHDIとの反応により得られるビューレット型変性体、が好ましい。
また、アロファネート型変性体としては、ウレタンとIPDIとの反応により得られるアロファネート型変性体が好ましい。
【0028】
イソシアネート基含有化合物(B)の具体例としては、HDIビューレット変性型イソシアネート[住友バイエルウレタン(株)製、商品名「デスモジュールN3200」、イソシアネート基2個]、HDIイソシアヌレート変性型イソシアネート[日本ポリウレタン工業(株)製、商品名「コロネートHXLV」、イソシアネート基2個]、IPDIイソシアヌレート変性型イソシアネート[住化バイエルウレタン(株)製、商品名「デスモジュールZ4470BA」、イソシアネート基2個]、IPDIアロファネート変性型イソシアネート[住化バイエルウレタン(株)製、商品名「デスモジュールXP2565」、イソシアネート基2個]、TDI TMPアダクト変性型イソシアネート[住化バイエルウレタン(株)製、商品名「デスモジュールL75(C)」、イソシアネート基2個]、TDIイソシアヌレート変性型イソシアネート[三井化学ポリウレタン(株)製、商品名「D-204」、イソシアネート基2個]、XDI TMPアダクト変性型イソシアネート[三井化学ポリウレタン(株)製、商品名「D-110N」、イソシアネート基2個]、H6XDI TMPアダクト変性型イソシアネート[三井化学ポリウレタン(株)製、商品名「D-120N」、イソシアネート基2個]、H6XDI イソシアヌレート変性型イソシアネート[三井化学ポリウレタン(株)製、商品名「D-127N」、イソシアネート基2個]、IPDI[エボニックデグサジャパン(株)製、商品名「VESTANAT IPDI」、イソシアネート基2個、官能基当量111]等が挙げられる。
【0029】
上記TMPアダクト型変性体、イソシアヌレート型変性体、ビューレット型変性体及びアロファネート型変性体の少なくとも1種と組み合せて使用されるポリチオール化合物(A)としては、好ましくは第1級チオール基を有するβ−メルカプトプロピオン酸エステル化物及び第1級チオール基を有するチオールイソシアヌレート化合物の1種又は2種である。
ここで、第1級チオール基を有するβ−メルカプトプロピオン酸エステル化物としては、好ましくはペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)(PEMP)及びジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)(DPMP)の少なくとも1種である。また、この第1級チオール基を有するチオールイソシアヌレート化合物としては、好ましくは1分子中におけるチオール基の数が3個である第1級チオール基を有するチオールイソシアヌレート化合物であり、より好ましくはトリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート(TEMPIC)[SC有機化学株式会社製、商品名「TEMPIC」、チオール基3個]である。
【0030】
<ラジカル発生剤(C)>
ラジカル発生剤(C)としては、熱ラジカル発生剤及び光ラジカル発生剤の少なくとも1種を用いることができる。これらの中で、コーティング組成物を含むコーティング剤をゴム物品の表面の少なくとも一部に付着させる観点から光ラジカル発生剤が、熱ラジカル発生剤と同様に用いられ得る。また、ゴム物品との密着性をより高める観点からは、熱ラジカル発生剤が好ましく、過酸化物からなる熱ラジカル発生剤がより好ましく、有機過酸化物からなる熱ラジカル発生剤が更に好ましい。
ラジカル発生剤(C)は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0031】
光ラジカル発生剤としては、公知のものを広く用いることができ、特に制限されるものではない。
例えば分子内開裂型の光ラジカル発生剤が挙げられ、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル系光ラジカル発生剤;2,2−ジエトキシアセトフェノン、4'−フェノキシ−2,2−ジクロロアセトフェノン等のアセトフェノン系光ラジカル発生剤;2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、4'−イソプロピル−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、4'−ドデシル−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン等のプロピオフェノン系光ラジカル発生剤;ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン及び2−エチルアントラキノン、2−クロロアントラキノン等のアントラキノン系光ラジカル発生剤;2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド系光ラジカル発生剤等が挙げられる。
【0032】
また、その他水素引き抜き型の光ラジカル発生剤としてベンゾフェノン/アミン系光ラジカル発生剤、ミヒラーケトン/ベンゾフェノン系光ラジカル発生剤、チオキサントン/アミン系光ラジカル発生剤等を挙げることができる。また未反応光ラジカル発生剤のマイグレーションを避けるため非抽出型光ラジカル発生剤を用いることができる。例えばアセトフェノン系ラジカル発生剤を高分子化したもの、ベンゾフェノンにアクリル基の二重結合を付加したものがある。
これらの光ラジカル発生剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0033】
有機過酸化物からなる熱ラジカル発生剤としては、例えば、t−ブチル−2−エチルペルオキシヘキサノアート、ジラウロイルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノアート、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサノン、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジ(t−ブチル)パーオキサイド、過酸化ベンゾイル1,1'−ジ(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、過酸化ベンゾイル、1,1'−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、ジクミルパーオキサイド等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、t−ブチル−2−エチルペルオキシヘキサノアート、ジラウロイルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノアート、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサノン、ジ−t−ブチルパーオキサイド、及びt−ブチルクミルパーオキサイドの少なくとも1種である。有機過酸化物からなる熱ラジカル発生剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0034】
無機過酸化物からなる熱ラジカル発生剤としては、過酸化水素と鉄(II)塩との組み合わせ、過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムとの組み合わせ、等の酸化剤と還元剤の組み合わせからなるレドックス発生剤が挙げられる。無機化酸化物からなる熱ラジカル発生剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0035】
<任意成分>
本発明に係るコーティング組成物は、更に任意成分が配合されてもよい。任意成分としては、ウレタン化触媒、表面調整剤、溶剤、バインダー、フィラー、顔料分散剤、導電性付与剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、乾燥防止剤、浸透剤、pH調整剤、金属封鎖剤、防菌防かび剤、界面活性剤、可塑剤、ワックス、レベリング剤等が挙げられる。
【0036】
(ウレタン化触媒(D))
ウレタン化触媒(D)としては、任意のウレタン化触媒を用いることができる。該ウレタン化反応用触媒としては、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズチオカルボキシレート、ジブチルスズジマレエート、ジオクチルスズチオカルボキシレート、オクテン酸スズ、モノブチルスズオキシド等の有機スズ化合物;塩化第一スズ等の無機スズ化合物;オクテン酸鉛等の有機鉛化合物;ビス(2−ジメチルアミノエチル)エーテル、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサメチレンジアミン、トリエチレンジアミン(TEDA)、ベンジルジメチルアミン、2,2’-ジモルホリノエチルエーテル、N-メチルモルフォリン等のアミン類;p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、フルオロ硫酸等の有機スルホン酸;硫酸、リン酸、過塩素酸等の無機酸;ナトリウムアルコラート、水酸化リチウム、アルミニウムアルコラート、水酸化ナトリウム等の塩基類;テトラブチルチタネート、テトラエチルチタネート、テトライソプロピルチタネート等のチタン化合物;ビスマス化合物;四級アンモニウム塩等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは上記アミン類であり、より好ましくはトリエチレンジアミン(TEDA)である。これら触媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
コーティング剤中、ウレタン化触媒(D)が0.0001〜0.1質量%含まれることが好ましい。
【0037】
(表面調整剤(E))
表面調整剤(E)としては、任意の表面調整剤を使用することができる。該表面調整剤としては、アクリル系、ビニル系、シリコーン系、フッ素系などが挙げられる。これらの中でも、相溶性と表面張力低下能の観点からシリコーン系が好ましい。
コーティング剤中、表面調整剤(E)が0.001〜10質量%含まれることが好ましい。
【0038】
(溶剤)
溶剤としては、他の配合成分と反応しないものであれば特に制限はなく、芳香族溶媒や脂肪族溶媒が挙げられる。
芳香族溶媒の具体例としては、トルエン、キシレン等が挙げられる。脂肪族溶媒としては、ヘキサン等が挙げられる。
【0039】
<各成分の配合量>
配合されるポリチオール化合物(A)に含まれるチオール基の合計モル数に対する、配合されるラジカル発生剤(C)の合計モル数の比(ラジカル発生剤(C)/チオール基)は、0.025以上であることが好ましい。これにより、密着性が向上する。この観点から、当該比(ラジカル発生剤(C)/チオール基)は、好ましくは0.03以上であり、より好ましくは0.035以上であり、更に好ましくは0.04以上である。また、密着性の向上の観点から、当該比(ラジカル発生剤(C)/チオール基)は、好ましくは0.5以下であり、より好ましくは0.45以下であり、更に好ましくは0.4以下である。
【0040】
前記ラジカル発生剤(C)が、光ラジカル発生剤を含むときは、前記ポリチオール化合物(A)に含まれるチオール基の合計モル数に対する、該光ラジカル発生剤の合計モル数の比(光ラジカル発生剤/チオール基)が0.0005以上であることが好ましい。これにより、密着性が向上する。この観点から、当該比(光ラジカル発生剤/チオール基)は、より好ましくは0.001以上であり、さらに好ましくは0.005以上である。また、過剰の光ラジカル発生剤はコスト高を招くので、経済性の観点から、好ましくは、0.2以下であり、より好ましくは、0.1以下であり、さらに好ましくは、0.05以下である。
【0041】
前記ラジカル発生剤(C)が、熱ラジカル発生剤を含むときは、前記ポリチオール化合物(A)に含まれるチオール基の合計モル数に対する、該熱ラジカル発生剤の合計モル数の比(ラジカル発生剤(C)/チオール基)が0.025以上であることが好ましい。これにより、密着性が向上する。この観点から、当該比(熱ラジカル発生剤/チオール基)は、好ましくは0.03以上であり、より好ましくは0.035以上であり、更に好ましくは0.04以上である。また、密着性の向上の観点から、当該比(熱ラジカル発生剤/チオール基)は、好ましくは0.5以下であり、より好ましくは0.45以下であり、更に好ましくは0.4以下である。
【0042】
前記ラジカル発生剤(C)が光ラジカル発生剤と熱ラジカル発生剤とを含むときは、前記ポリチオール化合物(A)に含まれるチオール基の合計モル数に対する、光ラジカル発生剤及び熱ラジカル発生剤の合計モル数の比{(光ラジカル発生剤及び熱ラジカル発生剤)/チオール基}が0.025以上であることが好ましい。これにより、密着性が向上する。この観点から、当該比{(光ラジカル発生剤及び熱ラジカル発生剤)/チオール基}は、好ましくは0.03以上であり、より好ましくは0.035以上であり、更に好ましくは0.04以上である。また、密着性の向上の観点から、当該比{(光ラジカル発生剤及び熱ラジカル発生剤)/チオール基}は、好ましくは0.5以下であり、より好ましくは0.45以下であり、更に好ましくは0.4以下である。
【0043】
任意成分として、炭素−炭素二重結合を含む化合物を配合してもよい。ただし、この炭素−炭素二重結合を含む化合物の配合量が多くなると、ポリチオール化合物(A)がこの炭素−炭素二重結合を含む化合物と反応してしまう。これにより、ポリチオール化合物(A)とゴム中の炭素−炭素二重結合との間のチオール・エン反応が生じ難くなり、ゴムに対するコーティング組成物の密着力が低下するおそれがある。または、これにより、ゴムの炭素-炭素結合主鎖からの水素引き抜き反応により、ポリチオール化合物(A)のチオール基の硫黄原子と炭素−炭素結合の炭素原子とが化学的に結合する反応が生じ難くなり、ゴムに対するコーティング組成物の密着力が低下するおそれがある。したがって、配合されるポリチオール化合物(A)に含まれるチオール基の合計モル数に対する、配合される炭素−炭素二重結合を含む化合物に含まれる炭素−炭素二重結合の合計モル数の比(炭素−炭素二重結合/チオール基)が、0.4未満であることが好ましく、0.1未満であることが好ましく、0.08以下であることがより好ましく、0.05以下であることが更に好ましく、0.01以下であることがより更に好ましい。
ここで、配合される炭素−炭素二重結合を含む化合物に含まれる炭素−炭素二重結合の合計モル数は、配合される当該化合物のモル数に、当該化合物の1分子が有する炭素−炭素二重結合の数を乗じることにより求めることができる。
また、上記モル数の比(炭素−炭素二重結合/チオール基)は、上記のようにして得られる、炭素−炭素二重結合の合計モル数を、配合されるポリチオール化合物(A)に含まれるチオール基の合計モル数で除することにより求めることができる。
【0044】
上記のとおり、本発明に係るコーティング組成物は、必須成分である成分(A)〜(C)の他に、任意成分を含有してもよい。しかし、ゴム物品特に加硫ゴム物品にコーティング剤又はコーティングシートを強力に密着させるという観点から、コーティング組成物中における成分(A)〜(C)の合計含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、更に好ましくは98質量%以上である。
同様の観点から、成分(A)〜(E)の合計含有量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは99質量%以上、更に好ましくは100質量%である。
【0045】
[コーティング剤]
本発明で用いるコーティング剤は、上記のコーティング組成物を含む。このコーティング剤は、本発明の目的を阻害しない範囲内において、上記のコーティング組成物以外の成分を含んでもよい。しかし、本発明の効果を良好に発現させる観点から、コーティング剤中におけるコーティング組成物の含有量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは99質量%以上、更に好ましくは100質量%である。
このコーティング剤をゴム物品の表面の少なくとも一部に塗布して付着させることによりコーティング体とすることができる。
【0046】
[コーティングシート]
本発明では、前記コーティング剤をコーティングシートにしてから用いることもできる。該コーティングシートは、前述したコーティング組成物又は該コーティング組成物を含むコーティング剤を用いてなるものである。
このコーティングシートは、剥離紙や剥離フィルム等の剥離シート上に前記コーティング組成物又は前記コーティング剤を塗布し又は薄膜押出成型した後、シート形状を保持することにより、好適に製造することができる。この保持により、コーティング組成物中のチオール基とイソシアネート基の少なくとも一部がチオールウレタン反応することにより、シート形状になるものと考えられる。
シート形状を保持するために、コーティングシートを形成した後、0〜60℃で1分以上空気中で放置し、その後該コーティングシートを前記ゴム物品の表面の少なくとも一部に付着させることが、コーティングシートの取り扱いを容易にして付着作業性を改善できるので好ましい。放置温度は、5〜40℃がより好ましく、15〜40℃が更に好ましい。放置時間は、ウレタン化触媒の量により調整することができる。シート化形成の作業性及び密着作業時にシート形状を維持し得る程度に保形させる観点から、好ましくは1分以上であり、より好ましくは3分以上である。放置時間に上限はなく、特に制限されないが、保管上の観点から24時間以下が好ましく、10時間以下がより好ましく、5時間以下がさらに好ましい。
また、所望により、コーティングシートを形成した後、ラジカル発生剤によるラジカル反応が開始しない程度に加熱することにより、又は全てのラジカル発生剤によるラジカル反応が完結しない程度に光照射することにより、コーティングシートを製造してもよい。たとえば、コーティングシートに65〜100℃、1〜3分程度の予備加熱をしてからゴム物品の表面の少なくとも一部に付着させてもよい。
【0047】
剥離シートの材料としては特に制限はないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリシクロヘキシレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ナイロン46、変性ナイロン6T、ナイロンMXD6、ポリフタルアミド等のポリアミド系樹脂、ポリフェニレンスルフィド、ポリチオエーテルスルフォン等のケトン系樹脂、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン等のスルフォン系樹脂の他に、ポリエーテルニトリル、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、トリアセチルセルロース、ポリスチレン、ポリビニルクロライド等の有機樹脂を主成分とする透明樹脂基板を好適に用いることができる。
コーティングシート(但し、剥離シートを除いた部位)の厚さは、密着する対象や要求される密着強度等に応じて適宜選択することができるが、例えば、10μm〜10mmであり、好ましくは20μm〜10mmであり、より好ましくは30μm〜10mmである。
言うまでもなく、コーティングシートを用いる際には、剥離シートを剥離してから又は剥離しながら用いる。
【0048】
[ゴム物品]
ゴム物品は、加硫ゴム物品であっても未加硫ゴム物品であってもよい。本発明の密着方法によれば、ゴム物品がたとえ未加硫ゴム物品であっても、被着体と強力に密着させることが可能である。
また、ゴム物品は炭素−炭素二重結合を有することが好ましい。この場合、前記コーティング剤又は前記コーティングシートに接するゴムが有する炭素−炭素二重結合の炭素原子が、前記コーティング剤又は前記コーティングシートが有するポリチオール化合物(A)のチオール基の硫黄原子と炭素−硫黄結合を形成すると推測される。
ただし、ゴム物品が炭素−炭素二重結合を有しなくても、ゴム物品とコーティング体とを密着することができると推測される。この場合、ポリチオール化合物(A)による、ゴム物品中に存在する炭素-炭素結合主鎖からの水素引き抜き反応により、ポリチオール化合物(A)のチオール基の硫黄原子と炭素−炭素結合の炭素原子とが化学的に結合すると推測される。しかし、密着力の向上の観点からは、ゴム層を構成するゴムが、炭素−炭素二重結合を有することが好ましい。
また、ゴム物品の材料は特に限定されないが、天然ゴム、共役ジエン系合成ゴムからなるジエン系ゴムが好ましい。ここで、共役ジエン系合成ゴムとしては、合成ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Cl−IIR、Br−IIR等)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム(EPDM)、エチレン−ブタジエン共重合体ゴム、プロピレン−ブタジエン共重合体ゴム等が挙げられる。また、ゴム物品の材料として用いられるその他のゴムとして、ハイパロンゴム(クロロスルホルン化ポリエチレンゴム)、エチレン−プロピレン共重合体ゴム(EPM)、ポリシロキサンゴムなどの合成ゴムが挙げられる。また、ゴムは二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
(塗布方法)
本発明において、コーティング剤をゴム物品の表面の少なくとも一部に塗布する場合、又は剥離シート等にコーティング剤を塗布してコーティングシートを形成する場合の塗布方法は限定されない。例えば、刷毛塗り、ローラーブラシ塗り、タンポ塗り、へら塗り等の手作業又は機器作業による塗布方法;インクジェット印刷による塗布方法;スプレー塗り、ホットスプレー塗り、エアレススプレー塗り、ホットエアレススプレー塗り等のスプレーコート法;カーテンフロー塗り;流し塗り;ロールコート;グラビアコート;浸漬塗り(ディッピング);転がし塗り;スピンコート;リバースコート;バーコート;スクリーンコート;ブレードコート;エアーナイフコート;ディスペンサーによるディスペンシング;T−ダイ成形法;薄膜押出成型法;等の種々の塗布方法が包含される。
【0050】
コーティング剤をゴム物品の表面の少なくとも一部に塗布して付着させて得られたコーティング体とゴム物品とからなるゴム複合体にプレス圧を加える場合、密着力を向上させると共に積層体からコーティング剤が漏出することを防止又は抑制する観点から、プレス圧は、好ましくは0〜5MPaであり、より好ましくは0〜2.5MPaであり、更に好ましくは0〜1MPaである。また、同様の観点から、プレス時間は、好ましくは5〜120分であり、より好ましくは10〜60分であり、更に好ましくは15〜45分である。
【0051】
コーティングシートを用いる場合において、コーティング体とゴム物品とからなるゴム複合体は、コーティングシート1枚を介して得られたものであってもよいし、コーティングシート2枚以上を介して得られたものであってもよい。コスト及び作業性の観点からは、コーティングシート1枚又は2枚を介していることが好ましい。特に、ゴムとの密着性がより良好なコーティングシートと、被着体との密着性がより良好なコーティングシートを用いることが好ましい場合、コーティングシート2枚を介することが好ましいと言える。
コーティングシートを介したゴムと被着体との重ね合せ体にプレス圧を加える場合、密着力を向上させる観点から、プレス圧は、好ましくは0.1〜5MPaであり、より好ましくは0.4〜4MPaであり、更に好ましくは0.5〜3MPa、より更に好ましくは1.5〜3MPaである。
【0052】
本発明において、コーティング剤がラジカル発生剤として光ラジカル発生剤を含んでいる場合、硬化は光照射により行うことが好ましい。光としては、紫外線、可視光線、赤外線、X線などの電磁波;α線、γ線、電子線などの粒子線から選択される少なくとも1種を好ましく用いることができる。これらの中でも、光としては、紫外線が好ましい。密着力の向上及びコスト低減の観点から、光源としては、紫外線ランプを好適に用いることができる。また、同様の観点から、光照射時間は、好ましくは数秒〜数十秒であり、より好ましくは1秒〜40秒、更に好ましくは3秒〜20秒である。
コーティング剤がラジカル発生剤として熱ラジカル発生剤を含んでいる場合、硬化は加熱により行うことが好ましい。加熱温度は熱ラジカル発生剤が効率よくラジカルを発生する温度を適宜選択することができるが、好ましくは熱ラジカル発生剤の1分間半減期温度±30℃付近である。
光照射及び加熱のいずれの操作においても、コーティング剤に光エネルギー及び/又は熱エネルギーが伝達すれば、光照射する部位及び/又は加熱する部位に特に制限はなく、重ね合わせ体のどこへ光照射及び/又は加熱してもよい。つまり、コーティング剤を直接光照射及び/又は加熱してもよいし、ゴム物品を介してコーティング剤が光照射及び/又は加熱されてもよい。ゴム物品が光を透過する場合もあるからである。
なお、加熱によって硬化させた場合にも強力な密着力が得られることは、コーティング剤へ十分な光照射をし難い場合に、加熱する方法を採用できる点で有益であり、かつ、重ね合わせ体のどの部位へ光照射及び/又は加熱をしても強力に密着させられる点で、操作が容易となり好ましい。
光照射及び加熱のいずれの操作においても、コーティングシートに光エネルギー及び/又は熱エネルギーが伝達すれば、光照射する部位及び/又は加熱する部位に特に制限はなく、重ね合わせ体のどこへ光照射及び/又は加熱してもよい。つまり、コーティングシートを直接加熱又は光照射してもよいし、ゴム物品を介してコーティングシートが加熱又は光照射されてもよい。
なお、前述のとおり、加熱によって硬化させた場合にも強力な密着力が得られることは、コーティング剤へ十分な光照射をし難い場合に、加熱する方法を採用できる点で有益であり、かつ、コーティング体のどの部位へ加熱及び/又は光照射をしても強力に密着させられる点で、操作が容易となり好ましい。
【0053】
[ゴム複合体]
本発明のゴム複合体においては、前記コーティング剤又は前記コーティングシートと接するゴム層が有するゴム中の炭素原子が、該コーティング剤又は該コーティングシートが含有するポリチオール化合物(A)のチオール基の硫黄原子と炭素−硫黄結合を形成することによって、強力な密着力を発現しているものと考えられる。
この炭素−硫黄結合は、ポリチオール化合物(A)の他の一部が、ラジカル発生剤(C)と反応してチイルラジカルが生じ、このチイルラジカルが、ゴム中に存在する炭素−炭素二重結合と反応して形成されたものであるか、または、ゴム中に存在する炭素−炭素結合主鎖からの水素引き抜き反応により、ポリチオール化合物(A)のチオール基の硫黄原子と炭素−炭素結合の炭素原子とが化学的に結合して形成されたものと考えられる。
【実施例】
【0054】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0055】
[原料等]
原料等としては、次のものを用いた。
<ポリチオール化合物(A)(成分(A))>
PEMP: ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート):SC有機化学株式会社製、商品名「PEMP」、チオール基4個
DPMP: ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート):SC有機化学株式会社製、商品名「DPMP」、チオール基6個
【化1】
【0056】
<イソシアネート基含有化合物(B)(成分(B))>
N3200: HDIビューレット変性型イソシアネート:住友バイエルウレタン(株)製、商品名「デスモジュールN3200」、イソシアネート基2個、NCO含有率:23.0質量%
Z4470BA: IPDIイソシアヌレート変性型イソシアネート:住化バイエルウレタン(株)製、商品名「デスモジュールZ4470BA」、イソシアネート基2個、NCO含有率:11.9質量%
【0057】
<ラジカル発生剤(C)(成分(C))>
IRGACURE184: 1-ヒドロキシシクロへキシルフェニルケトン:BASF製、商品名「IRGACURE184」
パーブチルO: t−ブチル−2−エチルペルオキシヘキサノアート:日本油脂株式会社製、商品名「パーブチルO」
パーブチルD: ジ−t−ブチルパーオキサイド:日本油脂株式会社製、商品名「パーブチルD」
【0058】
<ウレタン化触媒(D)(成分(D))>
TEDA: トリエチレンジアミン: Air Products社製、商品名「DABCO 33LV catalyst」
【0059】
<表面調整剤(E)(成分(E))>
BYK−307: ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンとポリエーテルの混合物:ビックケミー・ジャパン株式会社製、商品名「BYK−307」、含有量100%
【0060】
[チオール基量の測定]
配合されるポリチオール化合物(A)に含まれるチオール基の合計モル数は、配合量を理論分子量で除し、ポリチオール化合物(A)の1分子が有するチオール基数を乗じることにより算出することにより求めた。
【0061】
[イソシアネート基量の測定]
配合されるイソシアネート基含有化合物(B)に含まれるイソシアネート基の合計モル数は、JIS K1603−1 B法により測定した。
【0062】
[ゴム物品の製造]
下記の表1の配合に従い、ゴム物品(縦100mm×横25mm×厚さ10mm)を製造した。
【0063】
【表1】
【0064】
なお、表1中の各成分の詳細は、次のとおりである。
天然ゴム(NR):RSS#3
ポリブタジエンゴム(BR):JSR社製、商品名「JSR BRO1」
スチレン・ブタジエン共重合体ゴム(SBR):JSR社製、商品名「JSR 1500」
カーボンブラック:旭カーボン株式会社製、商品名「旭#70」
老化防止剤:N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン、大内新興化学工業株式会社製、商品名「ノクラック6C」
加硫促進剤1:1,3−ジフェニルグアニジン、大内新興化学工業株式会社製、商品名「ノクセラーD(D−P)」
加硫促進剤2:ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド、大内新興化学工業株式会社製、商品名「ノクセラーDM−P(DM)」
【0065】
[コーティング剤の塗布から得たコーティング体についての密着力の測定方法]
コーティング剤を、厚さが30μmになるようにゴム物品に塗布し、塗布面を硬化させた。硬化は、光ラジカル発生剤のみを含有するコーティング剤の場合は、200〜400mW/cm2、1000〜4000mJ/cm2の条件で紫外線照射を行った。熱ラジカル発生剤のみを含有するコーティング剤の場合は、温度150℃にて、0.05MPaのプレス圧を加えながら30分保持することにより行った。光ラジカル発生剤と熱ラジカル発生剤を含有するコーティング剤の場合は、200〜400mW/cm2、500〜1000mJ/cm2の条件で紫外線照射を行った後、温度150℃にて、0.05MPaのプレス圧を加えながら30分保持することにより行った。得られたコーティング体とゴム物品とを、JIS K5600−5−6に従い碁盤目試験(クロスカット法)で密着力を測定した。この方法はガイドを用いて塗膜に刃で切り込みを入れ、セロハンテープを貼り付けた後に60℃に近い角度で剥がした際の膜の剥がれを観察する方法である。1つの試験片に付き5×5の25マス×4ヶ所で試験を行い、剥がれずに残ったマス目の数で評価を行った。
<判定基準>
◎:100/100(1マスの剥がれもない)
○:(80/100)〜(99/100)
△:(50/100)〜(79/100)
×:(0/100)〜(49/100)もしくはコーティング体が未硬化のため測定不可である。
[コーティングシートから得たコーティング体についての密着力の測定方法]
もしくは厚さ30μmのコーティングシートを、ゴム物品の表面の一部に付着させた後、コーティングシートを硬化させた。硬化は、コーティング剤の塗布から得たコーティング体の場合と同じである。得られたコーティング体とゴム物品とを、JIS K5600−5−6に従い碁盤目試験(クロスカット法)で密着力を測定した。この方法はガイドを用いて塗膜に刃で切り込みを入れ、セロハンテープを貼り付けた後に60℃に近い角度で剥がした際の膜の剥がれを観察する方法である。1つの試験片に付き5×5の25マス×4ヶ所で試験を行い、剥がれずに残ったマス目の数で評価を行った。
<判定基準>
◎:100/100(1マスの剥がれもない)
○:(80/100)〜(99/100)
△:(50/100)〜(79/100)
×:(0/100)〜(49/100)もしくはコーティング体が未硬化のため測定不可である。
残ったマス目の数が80/100以上の力であれば、ゴム物品の基材から容易に剥離が起きない充分な密着力を有する。好ましくは100/100である。
一方、80/100未満であれば、ゴム物品の基材とコーティング剤の反応が十分でなく界面で剥離をしている。そのような状態ではいずれも密着力は十分とは言えない。
【0066】
[コーティング体の硬化性の測定方法]
コーティング体の表面を指触し、官能的にタック感(粘着感)の有無を評価した。
○:タック感なし
×:タック感あり
【0067】
[コーティング体の加飾性の測定方法]
目視によりコーティング体中に着色粒子(アートパール:根上工業株式会社製)を添加し、加飾性を評価した。
○:コーティング体が均一に加飾されている。
×:コーティング体の加飾状態にムラがある、もしくはコーティング体が未硬化である。
【0068】
[実施例1〜8及び比較例1〜6並びに実施例9〜16及び比較例7〜12]
実施例1〜8及び比較例1〜6(コーティング剤の塗布から得たコーティング体)では、配合されるポリチオール化合物(A)に含まれるチオール基の合計モル数に対する、配合されるイソシアネート基含有化合物(B)に含まれるイソシアネート基の合計モル数の比(イソシアネート基/チオール基)を変えることにより、当該比(イソシアネート基/チオール基)と、ゴム物品との密着力、硬化性及び加飾性との関係を検討した。
また、実施例9〜16及び比較例7〜12(コーティングシートから得たコーティング体)では、上記1〜8及び比較例1〜6(コーティング剤の塗布から得たコーティング体)のコーティング剤をコーティングシートにしたこと以外は同様にして、当該比(イソシアネート基/チオール基)と、ゴム物品との密着力、硬化性及び加飾性との関係を検討した。
次に、これら実施例及び比較例について具体的に説明する。
【0069】
<実施例1〜8及び比較例1〜6(コーティング剤の塗布から得たコーティング体)>
下記表2に示すとおり(各成分の数値は質量部を示す。)に各成分を配合してコーティング組成物を得、当該コーティング組成物をコーティング剤とした。
得られたコーティング剤を、上記のとおりに硬化し、上記のとおりにコーティング剤の硬化体についての密着力を測定した。ゴム物品としてはゴム物品1(NR/BR配合)を用いた。その結果を表5に示す。
なお、表2、3及び4において、チオール官能基濃度とは、コーティング剤の全量中又はコーティングシートの全量中における、チオール基の濃度(mmol/g)のことをいう。また、NCO官能基濃度とは、コーティング剤の全量中又はコーティングシートの全量中における、イソシアネート基の濃度(mmol/g)のことをいう。更に発生剤濃度とは、コーティング剤の全量中又はコーティングシートの全量中における、ラジカル発生剤の濃度(mmol/g)のことをいう。
但し、各構成成分は相互に反応したり分解したりすることがあるため、いずれの値も、各構成成分が反応又は分解する前において算出した値、換言すると、実際に配合する直前の各構成成分の量から算出される理論値とした。
【0070】
<実施例9〜16及び比較例7〜12(コーティングシートから得たコーティング体)>
表2に示すように、実施例9〜16及び比較例7〜12では、それぞれ、実施例1〜8及び比較例1〜6と同様のコーティング剤を用意した。
それぞれのコーティング剤をPETフィルム製剥離シート上に塗布し、室温で30分間保持することにより、縦100mm、横25mm、厚さ30μmのコーティングシートを得た。
得られたコーティングシートを、上記のとおりに硬化し、上記のとおりにコーティングシートの硬化体についての密着力を測定した。ゴム物品としては、実施例1と同様にゴム物品1(NR/BR配合)を用いた。その結果を表5に示す。
【0071】
[実施例17〜24及び比較例13〜18並びに実施例25〜32及び比較例19〜24]
表3に示すように、成分(C)を光ラジカル発生剤{1-ヒドロキシシクロへキシルフェニルケトン(IRGACURE184):BASF製}から熱ラジカル発生剤{t−ブチル−2−エチルペルオキシヘキサノアート(パーブチルO)}に変更した以外は同様にして、合計モル数の比(イソシアネート基/チオール基)と、ゴム物品1(NR/BR配合)との密着力、硬化性及び加飾性との関係を上記の方法で評価した。その結果を表6に示す。
【0072】
[実施例33〜40及び比較例25〜31並びに実施例41〜48及び比較例32〜38]
表4に示すように、成分(C)を光ラジカル発生剤{1-ヒドロキシシクロへキシルフェニルケトン(IRGACURE184):BASF製}及び熱ラジカル発生剤{ジ−t−ブチルパーオキサイド(パーブチルD)}の併用に変更した以外は同様にして、合計モル数の比(イソシアネート基/チオール基)と、ゴム物品1(NR/BR配合)との密着力、硬化性及び加飾性との関係を上記の方法で評価した。その結果を表7に示す。
【0073】
[実施例49〜56及び比較例39〜44並びに実施例57〜64及び比較例45〜50]
実施例1〜8及び比較例1〜6並びに実施例9〜16及び比較例7〜12と同じ組成内容である表2に示す組成内容のコーティング剤及びコーティングシートを用い、合計モル数の比(イソシアネート基/チオール基)と、ゴム物品2(SBR配合)との密着力、硬化性及び加飾性との関係を上記の方法で評価した。その結果を表8に示す。
【0074】
[実施例65〜72及び比較例51〜56並びに実施例73〜80及び比較例57〜62]
実施例17〜24及び比較例13〜18並びに実施例25〜32及び比較例19〜24と同じ組成内容である表3に示す組成内容のコーティング剤及びコーティングシートを用い、合計モル数の比(イソシアネート基/チオール基)と、ゴム物品2(SBR配合)との密着力、硬化性及び加飾性との関係を上記の方法で評価した。その結果を表9に示す。
【0075】
[実施例81〜88及び比較例63〜69並びに実施例89〜96及び比較例70〜76]
実施例33〜40及び比較例25〜31並びに実施例41〜48及び比較例32〜38と同じ組成内容である表4に示す組成内容のコーティング剤及びコーティングシートを用い、合計モル数の比(イソシアネート基/チオール基)と、ゴム物品2(SBR配合)との密着力、硬化性及び加飾性との関係を上記の方法で評価した。その結果を表10に示す。
【0076】
[実施例97〜104及び比較例77〜82並びに実施例105〜112及び比較例83〜88]
実施例1〜8及び比較例1〜6並びに実施例9〜16及び比較例7〜12と同じ組成内容である表2に示す組成内容のコーティング剤及びコーティングシートを用い、合計モル数の比(イソシアネート基/チオール基)と、ゴム物品3(NR配合)との密着力、硬化性及び加飾性との関係を上記の方法で評価した。その結果を表11に示す。
【0077】
[実施例113〜120及び比較例89〜94並びに実施例121〜128及び比較例95〜100]
実施例17〜24及び比較例13〜18並びに実施例25〜32及び比較例19〜24と同じ組成内容である表3に示す組成内容のコーティング剤及びコーティングシートを用い、合計モル数の比(イソシアネート基/チオール基)と、ゴム物品3(NR配合)との密着力、硬化性及び加飾性との関係を上記の方法で評価した。その結果を表12に示す。
【0078】
[実施例129〜136及び比較例101〜107並びに実施例137〜144及び比較例108〜114]
実施例33〜40及び比較例25〜31並びに実施例41〜48及び比較例32〜38と同じ組成内容である表4に示す組成内容のコーティング剤及びコーティングシートを用い、合計モル数の比(イソシアネート基/チオール基)と、ゴム物品3(NR配合)との密着力、硬化性及び加飾性との関係を上記の方法で評価した。その結果を表13に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
【表4】
【0082】
【表5】
【0083】
【表6】
【0084】
【表7】
【0085】
【表8】
【0086】
【表9】
【0087】
【表10】
【0088】
【表11】
【0089】
【表12】
【0090】
【表13】
【0091】
[評価]
表2〜表13に示すとおり、実施例1〜144は、成分(A)〜(C)を含み、かつ成分(A)に含まれるチオール基の合計モル数に対する、成分(B)に含まれるイソシアネート基の合計モル数の比(イソシアネート基/チオール基)が0.2以上かつ0.8以下であるため、密着力、硬化性及び加飾性のいずれも良好であった。
一方、比較例1〜114は、(イソシアネート基/チオール基)が0.2未満であるか、又は0.8より大きいため、密着力が低かった。
このように、本発明の製造方法では、コーティング剤又はコーティングシートと接するゴム層が有するゴム中の炭素原子が、該コーティング剤又は該コーティングシートが含有するポリチオール化合物(A)のチオール基の硫黄原子と炭素−硫黄結合を形成することによって、強力な密着力を発現するために、手間をかけずに容易に強力に密着させてコーティング体を製造できた。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の製造方法は、ゴム物品特に加硫ゴム物品とコーティング体とが好適に密着したゴム複合体、特に、タイヤ、各種工業用ゴム製品、例えば、ゴムホース、防振ゴム、ゴムベルト、ラバーダム、ベルトコンベア、パッキン等の製造に利用することができる。