特許第6018548号(P6018548)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018548
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】薬剤包装体
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/34 20060101AFI20161020BHJP
   A01N 25/08 20060101ALI20161020BHJP
   A01N 25/00 20060101ALI20161020BHJP
   A01N 31/04 20060101ALI20161020BHJP
   A01N 31/06 20060101ALI20161020BHJP
   A01P 7/04 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   A01N25/34 Z
   A01N25/08
   A01N25/00 102
   A01N31/04
   A01N31/06
   A01P7/04
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-147441(P2013-147441)
(22)【出願日】2013年7月16日
(65)【公開番号】特開2014-40409(P2014-40409A)
(43)【公開日】2014年3月6日
【審査請求日】2016年1月29日
(31)【優先権主張番号】特願2012-164451(P2012-164451)
(32)【優先日】2012年7月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000207584
【氏名又は名称】大日本除蟲菊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(72)【発明者】
【氏名】大本 陽子
(72)【発明者】
【氏名】浅井 洋
(72)【発明者】
【氏名】中山 幸治
【審査官】 鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−063204(JP,A)
【文献】 実開平07−015701(JP,U)
【文献】 特開2009−051832(JP,A)
【文献】 特開2011−195512(JP,A)
【文献】 特開2001−019035(JP,A)
【文献】 特開平08−131315(JP,A)
【文献】 特開2003−189778(JP,A)
【文献】 特開2005−333943(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 25/34
A01N 25/00
A01N 25/08
A01N 31/04
A01N 31/06
A01P 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分を固形担体に保持させた薬剤含浸体を、通気性材料にて成形した袋体に収めた薬剤包装体であって、
前記袋体の上方に、衣類用ハンガーのフックが挿通される吊り下げ穴が穿設されており、前記吊り下げ穴を前記衣類用ハンガーのフックに挿通した状態で、前記袋体が前記衣類用ハンガーの吊り下げ軸に対して傾斜するように構成されており、
前記通気性材料は、JIS L 1096に準拠したカンチレバー法により測定される剛軟度が50〜100mmの不織布である薬剤包装体。
【請求項2】
前記衣類用ハンガーの吊り下げ軸に対する前記袋体の傾斜角が10〜30度に設定されている請求項1記載の薬剤包装体。
【請求項3】
前記通気性材料は、ポリエステル、ポリエチレン、及びポリプロピレンからなる群から選択される繊維を含む熱溶着性を有する不織布である請求項1又は2に記載の薬剤包装体。
【請求項4】
前記不織布に紙が積層されている請求項1〜3の何れか一項に記載の薬剤包装体。
【請求項5】
前記袋体は前記通気性材料を重ね合わせて溶着したシール面を備え、当該シール面に前記吊り下げ穴が穿設されている請求項1〜4の何れか一項に記載の薬剤包装体。
【請求項6】
前記固形担体は、セルロース製ビーズである請求項1〜5の何れか一項に記載の薬剤包装体。
【請求項7】
前記有効成分は、防虫剤、芳香剤、消臭剤、防黴剤、及び抗菌剤からなる群から選択される少なくとも一種である請求項1〜6の何れか一項に記載の薬剤包装体。
【請求項8】
前記有効成分は、防虫剤である請求項7に記載の薬剤包装体。
【請求項9】
前記防虫剤は、防虫活性を有する香料成分を含む請求項8に記載の薬剤包装体。
【請求項10】
前記防虫剤は、p−メンタン−3,8−ジオール、及びテルピネオールからなる群から選択される少なくとも一つである請求項8に記載の薬剤包装体。
【請求項11】
前記防虫剤は、揮散性ピレスロイドである請求項8に記載の薬剤包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣類害虫の防虫剤に用いる薬剤包装体に関し、より詳細には、有効成分を固形担体に保持させた薬剤含浸体を、通気性材料にて成形した袋体に収めた薬剤包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、イガ類、カツオブシムシ類、シミ類等の衣料害虫から繊維製品を保護するため、タンスの引き出し、押入れ、衣類収納箱、クローゼット等で使用する様々な防虫剤が市販されている。この中で洋タンスやクローゼット用の防虫剤としての主流は、液体の防虫剤を吸液させた薬剤含浸体を樹脂製の容器に収納し、これを、洋タンスやクローゼット内のハンガーポールに吊り下げて使用する形態である。この形態の防虫剤は、薬剤含浸体とは別にハンガーポールに吊り下げるためのフックを装備した樹脂製の容器が必要となり、製造コストがかかるという問題がある。一方で、ハンガーポールに吊り下げるのではなく、衣類用ハンガーに、薬剤含浸体を直接設置する方法や、薬剤含浸体を含む容器を設置する方法も考えられている。この形態では衣類の掛けられたハンガーにも薬剤含浸体を設置することが可能であり、さらには衣類カバーや防虫カバーと併用することも可能である。
【0003】
例えば、特許文献1では、「衣類用防虫剤等の掛止具」として、防虫剤等の薬剤保持体を、衣類用ハンガーに対して着脱自在な装着部を用いて衣類用ハンガーに設置する防虫剤が示されている。ただし、この方式では装着部としてクリップ等の固定部材が別途必要となる。
【0004】
特許文献2では、衣類用防虫剤を衣類用ハンガーに設置し、当該衣類用ハンガーに衣類を吊るした後、当該衣類を衣類収納庫内に収納することを特徴とする衣類の防虫方法、および衣類用ハンガーに取付けるための可撓性フックまたは可動式フックを有する収納容器内に、防虫薬剤が収納されてなる衣類用防虫剤が示されている。しかしながら、この場合においても衣類用ハンガーに取付けるための専用の可撓性フックまたは可動式フックが設けられた収納容器が必要なことには変わりない。
【0005】
これに対して、特許文献3では、専用の吊り下げ具を設けるのではなく、衣類用ハンガーの吊り下げフックに通して吊り下げるための穴をあけた薬剤袋体が示されている。この形態では取り扱いが簡便であり、製造コストの省力化も期待できるものの、従来形態の製品に対して、より揮散率を向上させ、薬剤効果を高める工夫にまで及んでいない。
【0006】
また防虫剤ではないが、特許文献4や特許文献5には、ハンガーに吊り下げるタイプの芳香剤や脱臭調湿剤が示されている。しかしながら、これらも簡単な構造でハンガーに取付けできる点以外に、特に薬剤の効果を高める工夫がなされてはいないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平03−53174号公報
【特許文献2】特開2001−226203号公報
【特許文献3】特開2000−63204号公報
【特許文献4】実開昭63−124944号公報
【特許文献5】特開2007−330573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点を鑑みてなされたものであり、その目的は、複雑な構造を伴わずに高い揮散効果を実現させ、実使用場面において使い勝手が良く、安定した防虫効果を発揮し得る薬剤包装体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明に係る薬剤包装体の特徴構成は、
有効成分を固形担体に保持させた薬剤含浸体を、通気性材料にて成形した袋体に収めた薬剤包装体であって、
前記袋体の上方に、衣類用ハンガーのフックが挿通される吊り下げ穴が穿設されており、前記吊り下げ穴を前記衣類用ハンガーのフックに挿通した状態で、前記袋体が前記衣類用ハンガーの吊り下げ軸に対して傾斜するように構成されていることにある。
【0010】
本発明は、衣類用ハンガーに吊り下げて使用するための防虫剤として、有効成分を固形担体に保持させた薬剤含浸体を、通気性材料にて成形した袋体に収めて薬剤包装体を構成し、この薬剤包装体の上端付近(すなわち、袋体の上方)に吊り下げ穴を開け、この穴に衣類用ハンガーのフックを通して使用するものを設計しようとしたことから始まる。
本構成の薬剤包装体によれば、袋体の上方の吊り下げ穴を衣類用ハンガーのフックに挿通すると、袋体が衣類用ハンガーの吊り下げ軸に対して傾斜する。この傾斜状態で、衣類用ハンガーに何らかの動きが加われば、薬剤包装体にもその振動が伝わり、吊り下げ穴とフックとの接点を支点として薬剤包装体自身の弾性作用で衣類用ハンガーに吊るされた薬剤包装体に反復運動による揺れが生じ、その結果、薬剤の揮散性が良好なものとなる。また、本構成の薬剤包装体は、構造がシンプルであり、低コストで製造することが可能である。さらに、本構成の薬剤包装体は、衣類用カバーや防虫カバー等の他の物品と組み合わせて使用することができるので、防虫剤としての応用範囲が広く、利便性に優れている。
【0011】
本発明に係る薬剤包装体において、
前記衣類用ハンガーの吊り下げ軸に対する前記袋体の傾斜角が10〜30度に設定されていることが好ましい。
【0012】
本構成の薬剤包装体によれば、衣類用ハンガーの吊り下げ軸に対する袋体の傾斜角を10〜30度に設定しておくと、衣類用ハンガーの動きに伴って薬剤包装体に適度な揺動が発生し、薬剤の揮散性がより向上する。また、上記範囲の傾斜角であれば、衣類用ハンガーが嵩張らないため、クローゼット等にコンパクトに収納することができる。
【0013】
本発明に係る薬剤包装体において、
前記通気性材料は、JIS L 1096に準拠したカンチレバー法により測定される剛軟度が50〜100mmの不織布であることが好ましい。
【0014】
本構成の薬剤包装体によれば、通気性材料として適切な剛軟度を有する不織布を使用しているため、薬剤包装体自身の弾性作用によって薬剤包装体の揺動が促進され、薬剤の揮散性がより向上する。
【0015】
本発明に係る薬剤包装体において、
前記通気性材料は、ポリエステル、ポリエチレン、及びポリプロピレンからなる群から選択される繊維を含む熱溶着性を有する不織布であることが好ましい。
【0016】
本構成の薬剤包装体によれば、通気性材料として適切な繊維で構成された不織布を使用しているため、薬剤の揮散性がより向上する。また、不織布として熱溶着性を有するものを使用することで、袋体への薬剤含浸体の封入加工を確実且つ容易に行うことができる。
【0017】
本発明に係る薬剤包装体において、
前記不織布に紙が積層されていることが好ましい。
【0018】
本構成の薬剤包装体によれば、通気性材料である不織布に紙を積層することにより、薬剤の揮散性がさらに向上する。
【0019】
本発明に係る薬剤包装体において、
前記袋体は前記通気性材料を重ね合わせて溶着したシール面を備え、当該シール面に前記吊り下げ穴が穿設されていることが好ましい。
【0020】
本構成の薬剤包装体によれば、通気性材料を重ね合わせて溶着したシール面に吊り下げ穴が穿設されているため、吊り下げ穴の強度を確保することができる。また、シール面は適度な弾性を有することから、薬剤包装体の揺動が促進され、薬剤の揮散性がさらに向上する。
【0021】
本発明に係る薬剤包装体において、
前記固形担体は、セルロース製ビーズであることが好ましい。
【0022】
本構成の薬剤包装体によれば、固形担体としてセルロース製ビーズを採用することで、薬剤と空気との接触面積が大きくなり、その結果、薬剤の揮散性をより向上させることができる。
【0023】
本発明に係る薬剤包装体において、
前記有効成分は、防虫剤、芳香剤、消臭剤、防黴剤、及び抗菌剤からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0024】
本構成の薬剤包装体によれば、上掲の有効成分を固形担体に保持させて薬剤含浸体を構成することで、薬剤包装体を種々の用途に使用することができる。
【0025】
本発明に係る薬剤包装体において、
前記有効成分は、防虫剤であることが好ましい。
【0026】
本構成の薬剤包装体によれば、薬剤含浸体の揮散能力が優れているため防虫剤との相性が良く、有効成分として防虫剤を使用することにより、揮散性に優れた薬剤包装体を得ることができる。
【0027】
本発明に係る薬剤包装体において、
前記防虫剤は、防虫活性を有する香料成分を含むことが好ましい。
【0028】
本構成の薬剤包装体によれば、特に揮散性の高い防虫活性を有する香料成分を有効成分として含むことにより、薬剤の揮散性に優れた薬剤包装体を得ることができる。
【0029】
本発明に係る薬剤包装体において、
前記防虫剤は、p−メンタン−3,8−ジオール、及びテルピネオールからなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0030】
本構成の薬剤包装体によれば、上掲の防虫剤を採用することにより、防虫効果が高く、薬剤の揮散性に優れた薬剤包装体を得ることができる。
【0031】
本発明に係る薬剤包装体において、
前記防虫剤は、揮散性ピレスロイドであることが好ましい。
【0032】
本構成の薬剤包装体によれば、防虫剤として揮散性ピレスロイドを採用することにより、特に防虫効果が高く、薬剤の揮散性に優れた薬剤包装体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1は、本発明に係る薬剤包装体を例示する正面図である。
図2図2は、図1(A)のa−a線における断面図である。
図3図3は、本発明品を衣類用ハンガーに吊り下げた状態の概略図である。
図4図4は、本発明品を衣類用ハンガーに吊り下げた状態の側面図である。
図5図5は、剛軟度が50mm未満の不織布により作製した薬剤包装体を衣類用ハンガーに吊り下げた状態の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の薬剤包装体を詳細に説明する。図1は、本発明に係る薬剤包装体1の一例である衣類用包装体の正面図である。図2は、図1(A)のa−a線における断面図である。
【0035】
本発明の薬剤包装体1は、有効成分を固形担体に保持させた薬剤含浸体6を、通気性材料にて成形した袋体3に収めた形態とするものである。薬剤包装体1の上端付近(すなわち、袋体3の上部)には、後述する衣類用ハンガー7のフック(吊り下げ鉤)8が挿通される吊り下げ穴2が穿設されており、吊り下げ穴2を衣類用ハンガー7のフック8に挿通した状態で、袋体3が衣類用ハンガー7の吊り下げ軸Xに対して傾斜するように構成されている。ここで、衣類用ハンガー7の吊り下げ軸Xに対する袋体3の傾斜状態は、後述する図4に示すように、吊り下げ軸Xに対する薬剤包装体1の長手方向軸Yの傾斜角αと見なすことができる。本発明の薬剤包装体1において、好適な傾斜角αは、10〜30度の範囲に設定される。この場合、薬剤包装体1は、単純な構造でありながら、薬剤の揮散性の向上が認められるものとなる。
【0036】
本発明の薬剤包装体1は、図1(A)のように、2枚の通気性材料を重ね合わせ、外周縁の四方をシールするか、図1(B)のように、1枚の通気性材料を長さ方向の中央から折り重ね合わせ、残りの三方をシールするかにより形成され、シール工程と同時に薬剤含浸体6を充填することができる。また、シール工程により作られる、薬剤含浸体6を収納する袋体3は、図1(A)、(B)のように単独であっても、図1(C)のように複数個設けることも可能である。
【0037】
この通気性材料の素材としては、通気性のあるものであれば限定されないが、不織布が好ましい。不織布を構成する繊維の材質としては、熱溶着性を有するものであれば特に限定されず、例えば、ポリエステルとしてポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリ乳酸、レーヨン等が挙げられる。これらの繊維は、単一種の繊維又は複数種を組み合わせた複合繊維として使用される。さらには、不織布に紙を積層した積層品や、ポリプロピレン/レーヨンのような混紡品を用いても構わない。中でも、前記有効成分を一部吸着してその揮散量を二次的に調節し得る、紙を積層したポリエステル、ポリエチレン、又はポリプロピレンが好ましい。また不織布の形状や構成も適宜決定することができ、例えば、両面を前記材料の通気性不織布で構成してもよいし、あるいは、片面が前記材質の通気性不織布で、他面が小穴を多数有してもよいプラスチックフィルムを張り合わせたものであってもよい。この不織布の張り合わせは、接着剤等を用いるなど各種接着方法を用いることができるが、ヒートシールによる熱溶着による方法が好ましい。後述する所定の剛軟度の不織布が熱溶着により張り合わされることにより、さらに弾性力のある堅さを有するシール面を形成することができる。この場合、吊り下げ穴2は、通気性材料の熱溶着による張り合わせによって形成した袋体3の上方のシール面(上方シール面)5に穿設されることが好ましい。
【0038】
上方シール面5の幅Lは、衣類用ハンガー7に吊り下げた際の弾性作用を発現させるために、他のシール面4よりも大きく確保し、薬剤包装体1の上端から3〜5cm程度の長さであることが好ましい。幅Lが3cmよりも短いと薬剤包装体1に吊り下げ穴2を開けることが難しくなり、幅Lが5cmよりも大きいと袋体3の荷重が吊り下げ穴2の真下に掛かり易くなり、適度な弾性作用が得られ難くなる。
【0039】
図3は、本発明品を衣類用ハンガー7に吊り下げた状態の概略図である。図4は、本発明品を衣類用ハンガー7に吊り下げた状態の側面図である。図5は、剛軟度が50mm未満の不織布により作製した薬剤包装体1を衣類用ハンガー7に吊り下げた状態の側面図である。図5は、図4と比較するための形態であり、剛軟度の異なる不織布により作製した薬剤包装体1を衣類用ハンガー7に吊り下げた状態を表している。
【0040】
本発明に用いる通気性材料は、不織布であることが好ましいが、JIS L 1096に準拠したカンチレバー法により測定される剛軟度が50〜100mmであることが好ましく、60〜80mmであることがより好ましい。ここで、JIS L 1096に準拠したカンチレバー法により測定される剛軟度は、2cm×約15cmの試験片を、カンチレバー形試験装置で一端が45゜の斜面をもつ水平台の上に、短辺をスケールの基線に合わせて置いた後、当該試験片を斜面の方に滑らせて、試験片の一端が斜面と接したときの試験片の押し出された長さで表される。
【0041】
本発明では、通気性材料が前述の範囲の剛軟度である場合、薬剤包装体1の剛性が適度なものとなり、薬剤包装体1を衣類用ハンガー7に吊り下げた時、薬剤包装体1が真下に垂れ下がらず、垂直面に対し所定の傾斜角αをもって開く状態となる。この傾斜状態で、衣類用ハンガー7に何らかの動き、例えば、タンス内に収納された衣類の出し入れを行うために衣類用ハンガー7の架け替えなどを行えば、隣接した衣類用ハンガー7に吊るされた薬剤包装体1にもその振動が伝わり、吊り下げ穴2の周辺を支点として、上方シール面5の弾性作用で、衣類用ハンガー7に吊るされた薬剤包装体1が反復運動をして揺らされ、その結果、薬剤の揮散性が向上することとなる。薬剤包装体1の好適な傾斜角αは、10〜30度の範囲に設定される。この場合、薬剤包装体1は、単純な構造でありながら、薬剤の揮散性の向上が認められるものとなる。図4は、本発明品として、剛軟度が50〜100mmの不織布により作製した薬剤包装体1を衣類用ハンガー7に吊り下げた状態の側面図であり、この例では、傾斜角αを30度に設定したケースを示している。
【0042】
JIS L 1096に準拠したカンチレバー法により測定される剛軟度が50mm未満であると、上方シール面5の剛性が小さくなり、形状保持性が不足するため、薬剤包装体1が大きく垂れ下がる形となる。図5は、比較例として、剛軟度が50mm未満の不織布により作製した薬剤包装体1を衣類用ハンガー7に吊り下げた状態の側面図である。この場合、傾斜角αは10度未満となる。この程度の傾斜状態では、本発明における薬剤揮散効果の向上につながる弾性作用は十分に発揮されない。なお、上方シール面5の剛性が不十分である場合でも、熱硬化性樹脂又は紫外線硬化性樹脂のエマルジョン処理等の後加工を施した場合は、適当な弾性作用を得ることが可能となることもある。
【0043】
JIS L 1096に準拠したカンチレバー法により測定される剛軟度が100mmを超えると、上方シール面5の剛性が大きくなり、衣類用ハンガー7に設置した際に、薬剤包装体1の垂れ下がりが小さく、傾斜角αは30度より大きくなる。この場合、弾性作用は見られるものの、薬剤包装体1が衣類用ハンガー7から横に大きく突き出す形となり、タンスやクローゼットのハンガーポールに衣類用ハンガー7を掛けた場合、隣の衣類用ハンガー7の衣類と接触することになる。これを避けるためには、ハンガー同士の距離を保つことが必要となり、収納効率が大きく低下する。また、衣類用ハンガー7に防虫カバーを掛けるとき、あるいは防虫カバーが掛けられた衣類用ハンガー7に薬剤包装体1をセットするときの作業性が悪くなり、カバー内での収まりも悪い。
【0044】
薬剤包装体1のサイズについて、衣類用ハンガー7に吊り下げて使用可能な大きさであれば特に限定はしない。横幅については、衣類用の防虫剤として、衣類の掛かった衣類用ハンガー7に設置する場合、コート等の衣類の胸元に邪魔にならないサイズが望ましく、3〜8cm程度が実用的である。長さについては、あまり短いと、袋体3に封入できる薬剤含浸体6の量が限られるため、薬剤効果が期待できない可能性があるが、逆に長過ぎると、本発明における薬剤揮散効果の向上につながる上方シール面5の弾性作用が減少する方向に働くため、10〜18cm程度が実用的である。
【0045】
吊り下げ穴2の大きさは、市販及び使用されている各種通常の衣類用ハンガー7のフック8の根元の径より大きく、挿通できるだけの大きさであればよい。通常の衣類用ハンガー7のフック8の根元の径は、5〜10mm程度なので、吊り下げ穴2の大きさは、13〜16mm程度が好ましい。
【0046】
薬剤包装体1に封入される、薬剤含浸体6となる固形担体としては、パルプ、リンター、レーヨン等の繊維質担体、セルロース製ビーズもしくは発泡体、ケイ酸塩、シリカ、ゼオライト等の無機担体、トリオキサン、アダマンタン等の昇華性固体が挙げられる。中でも平均粒径が2〜6mmで見掛け比重が0.10〜0.35程度のセルロース製ビーズが好ましく、これに炭を配合したものを用いれば消臭効果も付与でき、より好適である。なお、配合する炭の量は、セルロース製ビーズに対して5〜70質量%の範囲で適宜調整すればよい。
【0047】
本発明に用いられる揮散性薬剤としては、常温において有効成分が揮散するものであれば、特に限定されるものではなく、防虫剤、芳香剤、消臭剤、防黴剤、抗菌剤などが挙げられる。
【0048】
ここで、薬剤に防虫剤を使用する場合には、少量で十分な効力を有し、においがなく、人体に対する安全性が高いという点からp−メンタン−3,8−ジオール、防虫活性を有する各種香料成分であるテルピネオール、ピレスロイド系防虫剤を使用することが好ましい。上記の防虫剤は、種類の異なるものを混合して使用することも可能である。
【0049】
防虫活性を有する各種香料成分としては、リナロール、ゲラニオール、ジヒドロミルセノール、オクタン酸アリル、ヘキサン酸アリル、ヘプタン酸アリル、シクロへキシルプロピオン酸アリル、イソアミルオキシ酢酸アリル、シキロヘキシルオキシ酢酸アリルなどが挙げられる。これらの香料成分は、単独又は複数種を組み合わせて使用することができる。
【0050】
ピレスロイド系防虫剤としては、エムペントリン、トランスフルトリン、プロフルトリン、テラレスリン、メトフルトリン等の揮散性ピレスロイドが挙げられる。これらの揮散性ピレスロイドは、単独又は複数種を組み合わせて使用することができる。なお、これらのピレスロイド系防虫剤については、各種の光学異性体または幾何異性体が存在するが、いずれの異性体類も使用することができる。また、各種の添加剤を使用することもできる。
【0051】
芳香剤としては、シトロネラ油、オレンジ油、レモン油、ライム油、ユズ油、ラベンダー油、ペパーミント油、ユーカリ油、ジャスミン油、檜油、緑茶精油、リモネン、α―ピネン、フェニルエチルアルコール、アミルシンナミックアルデヒド、ベンジルアセテートなどが挙げられる。これらの芳香剤は、単独又は複数種を組み合わせて使用することができる。
【0052】
消臭剤としては、植物抽出物である緑茶抽出物や柿抽出物のほか、ヒバ油、ヒノキ油、竹エキス、ヨモギエキス、キリ油やピルビン酸エチル、ピルビン酸フェニルエチル等のピルビン酸エステルなどが挙げられる。これらの消臭剤は、単独又は複数種を組み合わせて使用することができる。また、活性炭、ゼオライト等の多孔性物質からなる消臭剤を使用することも可能であり、さらには、銀、銅、亜鉛等の金属イオン、あるいは酸化チタン光触媒を有する消臭剤を、板状、顆粒状、シート状等に加工して使用することも可能である。
【0053】
防黴剤としては、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、イソプロピルメチルフェノール、オルソフェニールフェノールなどが挙げられる。これらの防黴剤は、単独又は複数種を組み合わせて使用することができる。
【0054】
抗菌剤としては、ヒノキチオール、テトラヒドロリナロール、オイゲノール、シトロネラール、アリルイソチオシアネートなどが挙げられる。これらの抗菌剤は、単独又は複数種を組み合わせて使用することができる。
【0055】
次に具体的な実施例に基づき、本発明の薬剤包装体についてさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0056】
平均粒径が3mmの炭配合セルロース製ビーズ(炭の配合量:50質量%)約2.5gに、防虫成分として、テルピネオールを500mg、その他成分として、緑茶エキスを5mg、及びプロピレングリコールを50mg含有させ、このビーズを、両面が通気性の紙積層ポリエステル不織布(剛軟度:71mm)二つ折りにして三方を熱シール(シール幅、上位4cm、下位1cm、横部0.5cm)して作製した薬剤包装体1(横4cm×縦13cm:シール幅含む)に収納して、上方シール面5の中央部に直径13mmの吊り下げ穴2を穿設して本発明の薬剤包装体1を作製した。この薬剤包装体1の吊り下げ穴2を2本の衣類用ハンガー7のフック8に挿通させ衣類用ハンガー7に吊り下げた。この際、吊り下げ軸Xに対する薬剤包装体1の長手方向軸Yの傾斜角αは15度程度であった。一つの衣類用ハンガー7は紳士用スーツの上着を掛けた状態とし、もう一つは衣類用ハンガー7に衣類を掛けない状態とした。この2本の衣類用ハンガー7を、700Lの洋服ダンス内に衣類の掛かった10本の衣類用ハンガー7の間にランダムに位置するようハンガーポールに吊り下げて設置し、さらに週1回薬剤包装体1を設置した衣類用ハンガー7の位置をランダムに移動し、使用した。使用直後から約3ヶ月にわたり、イガ、コイガ、ヒメカツオブシムシ、ヒメマルカツオブシムシ等の衣類害虫に対してタンス内のすべての衣類は食害を受けることなく、さらに消臭効果も付与されて極めて実用的であった。
【0057】
(不織布の剛軟度の影響)
平均粒径が3mmの炭配合セルロース製ビーズ(炭の配合量:50質量%)約2.5gに、防虫成分として、p−メンタン−3,8−ジオールを300mg、その他成分として、緑茶エキスを5mg、及びプロピレングリコールを50mg含有させ、このビーズを、表記載の剛軟度の異なる4種類の不織布(両面が通気性の紙積層ポリエステル不織布)を二つ折りにして三方を熱シール(シール幅:上方4cm、下方1cm、横方0.5cm)して作製した長さ(縦全長)の異なる4種の薬剤包装体(横4cmに対して縦9、13、16、20cm:縦横いずれもシール部含む)に収納した後、上方シール面5の中央部に直径13mmの吊り下げ穴2を穿設して本発明の薬剤包装体1を作製した。
【0058】
各薬剤包装体1について、以下の揮散試験を実施した。表1に示した各種薬剤包装体1を衣類用ハンガー7にセットしたものを2セット準備し、同型の2個のクローゼット(容量約2400L:180cm×60cm×220cm)に1セットずつ分けてハンガーポールに掛けて設置した。一方のクローゼットは、試験終了までクローゼットの扉を開けずに静置させ、もう一方のクローゼットについては、サンプルをランダムに設置し、一日2回、クローゼットの扉を開けハンガーポールに掛けられたすべての衣類用ハンガー7の位置を2個ずつ交互に入れ代える作業を実施し、衣類用ハンガー7に設置した本発明の薬剤包装体1に振動を与えた。5日間経過後に、薬剤包装体1に残存する防虫成分を分析して、1日あたりの揮散量を求めた。評価は、揮散量について、一日に2回動きを与えたサンプルBの揮散量を測定し、静置させたサンプルAの揮散量に対する割合が100〜115%となったものを△、115〜130%となったものを○、130%以上となったものを◎として評価した。また取扱い性については、サンプルBについて、サンプル移動の際に、横の衣類用ハンガー7やサンプルに接触するなどして設置に手間が掛かったものを△とした。結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
静止サンプルAに比べて、Bの振動を与えたサンプルにおいて揮散率が向上する傾向が見られた。ただし、剛軟度が40mmの不織布の袋体の場合、薬剤包装体1はほとんど真下に垂れ下がる状態であり、傾斜角αは実質的にゼロの状態となり、振動による薬剤の揮散性の向上効果はほとんど見られなかった。一方、剛軟度が大きい132mmの不織布の薬剤包装体1の場合、傾斜角αは30度より大きくなるものの、剛軟度が大きくなり過ぎて逆に弾性力が弱まり、振動が揮散に影響しなかったと思われる。また、薬剤包装体1の傾斜角αが大きくなることから、サンプル移動の際に、横の衣類用ハンガー7やサンプルに接触し易く、設置に手間が掛かり、実使用の点で操作性が悪いと判断された。
【0061】
剛軟度が50〜100mmの範囲にある、71mm及び90mmの場合、傾斜角αが適度な範囲である10〜30度となって振動の効果が発揮され、薬剤の揮散性は静止時に対して約17〜32%の向上が認められた。このとき、縦全長が13〜16cmのサンプルの揮散性が優れる傾向が見られた。
【0062】
以上の試験より、特定の剛軟度を有する通気性不織布を用いて作製した薬剤包装体1に吊り下げ穴2を開け、衣類用ハンガー7に吊り下げて使用した場合、薬剤包装体1は衣類用ハンガー7に対して適切な傾斜角αで開き、振動を与えることにより薬剤の揮散性の向上効果が発揮されることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、衣料用防虫剤だけでなく、芳香剤、消臭剤、防黴剤、抗菌剤等においても広く利用可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 薬剤包装体
2 吊り下げ穴
3 袋体
4 シール面
5 上方シール面
6 薬剤含浸体
7 衣類用ハンガー
8 フック
図1
図2
図3
図4
図5